報告書&レポート
EXPOMINA PERÚ 2024注目講演概要
はじめに
2024年9月11~13日Lima市内で鉱業フェアEXPOMINA PERÚ 2024が開催された。展示・商談会と並行してカンファレンス会場で行われた様々な講演の中から、1.主要プロジェクト進捗、2.政府機関動向、3.違法鉱業に関する、JOGMECリマ事務所が注目した講演の概要を以下に紹介する。
(筆者撮影)
1.主要プロジェクト進捗
(1)Zafranal銅プロジェクト:Minera Zafranal社Lombardi臨時GM
Zafranal銅プロジェクト(Arequipa州)では、2024年9月に詳細エンジニアリングを開始し、今後プロジェクトの全体コストの更新を行う予定である。また様々な許認可の取得手続きを進めており、特に重要なものとして鉱物処理権の承認が挙げられる。2025年には投資家による承認を得て2029年の生産開始を目指す。同プロジェクトの総投資額は1,263mUS$で、ZafranalピットとVictoriaピットの合計の確定・推定埋蔵量は441百万t、マインライフは19年間を見込む。Matarani港からの精鉱出荷を予定しており、港湾オペレーターTisur社と貯蔵や輸出等に係る契約締結に向けた調整を進めている。
(2)La Granja銅プロジェクト:加First Quantum Minerals社Lewisプロジェクト開発部長
2023年にRio TintoからLa Granja銅プロジェクト(Cajamarca州)の権益55%を取得し、オペレーターとして546mUS$の初期投資を実施する義務を負う。試錐プログラムは順調に進んでおり現在35%の進捗状況で2025年後半に結果が得られる見通し、FSは2028年に完了予定である。プロジェクト全体の投資額は2.4bUS$、マインライフは40年、最大500千t/年の銅生産を見込む大規模案件であり、今後も地域コミュニティとの関係構築や環境許認可の取得、資金調達等多くの課題に取り組まなければならない。
(3)Tantahuatay硫化鉱プロジェクト:Buenaventura社Garcia GM
Tantahuatay硫化鉱プロジェクトは、Minera Coimolache社(Buenaventura社40.095%)が操業するTantahuatay金・銀鉱山(Cajamarca州)の下方に位置する銅鉱床である。これまでの探鉱結果は非常に良好であり、金・銀鉱山自体の採鉱は2028年までの予定だが、硫化鉱開発により操業期間は少なくとも20年間延長する見通しである。大規模な鉱床であり、現在採鉱方法や開発期間等を検討中で、投資額は600~700mUS$となる見込みである。最初の15年間ほどは坑内掘りで、その間に必要となる地表権の買取りを進め、17年目頃から露天掘りへの移行を想定している。
2.政府機関動向:地質鉱業冶金研究所(INGEMMET)Chira鉱物・エネルギー資源担当ディレクター
様々な地質学的調査により、ペルー山岳地帯の東方のJunin州、Pasco州、Huanuco州の5つのエリアで、ニッケル、クロム、コバルトが高濃度に存在することを把握し、そこでは第2フェーズの調査が行われる。また、より南方のJunin州、Puno州、Cusco州においてもこれら鉱物が存在する。リチウムについてはペルー全国でサンプリングが実施され、最も高濃度の箇所はペルー南東部に位置する。
エネルギー鉱山省のインベントリーには298の尾鉱ダムがあるが、そのうち202は責任者が存在しない。国が責任を持って管理する必要があるが、私たちはそれらを調査し、亜鉛などいくつかの元素で興味深い金属濃度を認めている。
3.違法鉱業:ペルー鉱業技師協会(IIMP)Zegarra会長、De Vinatea GM、Yarabamba社O’Brien GM、
Southern Copper社Vidalon広報監督、内閣府Garcia違法鉱業担当高官ほか
(背景)近年ペルーでは違法鉱業が拡大し、合法鉱山への襲撃やそれによる死者発生等の被害が深刻化している。様々な要因の1つとして、インフォーマル鉱業従事者の合法化制度の不備や失敗が挙げられている。本件に関する上記登壇者らの見解・意見は以下のとおり:
- 現在、違法鉱業の20%が既存鉱区や重要プロジェクトエリアで活動しており、新規プロジェクトのほぼ全てで近傍に違法鉱業が存在すると推測される。違法鉱業は非常に暴力的で危険な行為である。「貧困層の鉱業」との主張が更なる悪化を招いている。
- 違法鉱業がこれだけ拡大した背景にはそれを支える市場の存在がある。また国家の分断、汚職、犯罪不処罰等の様々な要因が違法鉱業を野放しにしている。犯罪組織は政府機関にも入り込んでいる。
- ペルー社会は元来違法性に対する許容性が高く、その解決は容易ではない。本件は鉱業の枠組みを超える、国の存続を賭けた問題だと言っても過言ではない。
- 現在、複数の政府機関が合法化プロセスを担っており、実施責任を全面的に担う管轄機関が存在しない。単一機関への権限集中によって違法鉱業撲滅の政治的決断を示すべきだ。政治的決断無しに現状の進展は望めない。
おわりに
初日の9月11日午前にはAPEC公式イベントの一つである鉱業ハイレベル対話(High-Level Dialogue on Mining)がEXPOMINA会場内で開催され、日本を含むAPECエコノミー(国・地域)の代表が出席し、エネルギー転換に向けた持続的な鉱業投資の促進策等について意見交換が行われた(2024年のAPECはペルーで開催されている)。
続いて同日午後に行われたEXPOMINA開会式には、APECエコノミー代表も臨席し、大きな賑わいを見せていた。政府・業界関係者が一丸となりペルー鉱業を盛り立てていこうとする気運が伝わってきた一方で、違法鉱業の拡大や治安悪化の不安が影を落としている。今後もペルー鉱業を巡る状況について注視・報告していきたい。
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