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報告書&レポート

2024年11月18日 バンクーバー 事務所 五十畑樹里、金属企画部調査課 小田翔太
24-25

Rare Earth Mines, Magnets & Motors 2024参加報告

<バンクーバー事務所 五十畑樹里、金属企画部調査課 小田翔太 報告>

はじめに

2024年9月26~27日に、カナダON州Torontoで米Adamas Intelligence社主催のカンファレンス「Rare Earth Mines, Magnets & Motors 2024」が開催された。タイトルのとおり、レアアースの上流から下流までのサプライチェーンの現状と課題をテーマに、将来の需要に対するレアアースの必要性が、業界関係者のパネルディスカッションやプレゼンテーションなどを通じて議論・発表された。

ON州は、過去4年間で44bC$の電気自動車(EV)投資を獲得した。2024年2月にBloombergが発表した“Global Lithium-Ion Battery Supply Chain Ranking”によると、30か国中で信頼性が高く、持続可能なリチウムイオン電池のサプライチェーンを構築する可能性がある国として、カナダが1位となった。カナダの豊かな資源、米国自動車市場へのアクセスの容易さ、政策コミットメントを背景に世界市場をリードする国とされている。

一方、レアアースの採掘、分離・精製、金属化、磁石製造過程は、世界で中国が7割ほどを占めており、商業生産を行っている企業は、米国のMP Materials社やEnergy Fuels社、カナダのSaskatchewan Research Council(SRC)等の数社に限られ、特に分離・精製から磁石製造までの投資、技術力不足が課題である。本カンファレンスにも上流より下流の欧米自動車業界等の関係者が多く参加し議論していた。

本レポートでは、カンファレスの各トピックスで議論された内容から、欧米におけるレアアースの採掘からEVなどの最終製品までのサプライチェーンの現状と課題を概説する。なお、カンファレンスではチャタムハウスルールが敷かれていたため、発言者名は記載不可である旨、また写真撮影等も固く禁じられていた旨、付言する。

1.Overview of Mines, Magnets and Motors

豪州などで大規模なレアアース採掘が始まったのは今から約125年前、希土類酸化物などの大規模な商業生産が普及し始めたのは約50年前である。磁石の歴史については、さらに最近であるが、1950年代にフェライト永久磁石が登場し、小型機器用モーターに使用された。1960年代には、サマリウムコバルトの発見と商業生産によって、モーターへの永久磁石の使用がさらに拡大した。しかし、1980年代にサマリウムコバルトは、より強力な磁性材料であるネオジム磁石の発明によって代替された。それ以来、ネオジム磁石は、EVから風力発電、携帯電話の振動モーターに至るまで、幅広い用途で使用されている。

2015~2023年のネオジム磁石の世界消費量の年間成長率は9.1%、2020~2023年はEV需要に支えられ、年間11.7%増加したと推定される。2024年は、前年比でさらに11.8%増加し、その後、2040年までの年間成長率は8.7%になると予想される。EV、次世代ロボット、エアモビリティによって、ネオジム磁石の2040年の需要は2024年の約4倍に増加するとみられる。

ネオジム磁石は2025年頃から供給不足傾向になると見られているが、北米としては、米国の自動車市場に対する原材料供給という点で、中国以外の供給先及びサプライチェーンの確立が重要であるとの見方が強い。カナダと米国は官民両方において結びつきが強く、カナダとしては米国とのパートナーシップにおいて米国への安定供給をミッションとしている企業も存在する。

また、今後高い環境・社会・ガバナンス(ESG)基準を持った北米産自動車の市場と、安価な中国産自動車の市場の2分化が進むことも想定され、北米の自動車がコスト面で負けないよう、米国政府やカナダ政府と北米の民間企業はともに対応しなければならない。

従来の自動車業界では、サプライヤーを選ぶ際に、適切な部品を作ってくれるか、どれだけコストが安価かを重要視していたが、現在は上中流のすべてのサプライヤーと長期的な関係を築き、投資や合弁事業も視野に入れている。サプライチェーンの中流にあたる分離・精製工程事業の部分を整備することで、探鉱・採鉱事業等の上流にインセンティブを与えることができる。

サプライチェーンの確実性と安定性のため、例えば株式取得やJV、供給契約を通じた取引等の企業同士の関係構築が重要である。

2.Magnetic Momentum is Rising Outside China

上流の資源確保から中流、下流への統合的な参入は企業戦略としても優位性を持つ。ほとんどの磁石工場は、金属や合金を原料としており、金属化の工程まで完全に統合することは、その後の磁石製造やリサイクルなどの機会も広げることになる。

一方、金属化など中流の開発スピードは、アジア勢に遅れをとっていると感じる。企業として、中流への投資は明らかに利益率が低く、欧米ではESG要件から設備投資も高くなる。そのため、上流から下流まで完全に統合し、顧客との適切な関係や契約があれば収益性を確保できる。酸化物の生産を拡大する一方で、酸化物で対応できる顧客や地域を拡大するために、金属化の生産能力を如何に確保すればよいかを考える必要がある。

北米における中流の調達資金は少額に留まっているが、酸化物生産への投資は比較的多い。上述のとおり中流は収益率が低いため、独立した事業体として存在することが難しいが、まずは既存の生産能力を維持し、増強することが基本である。しかし、将来的には、多くのサプライチェーンが整備されることで、積極的な中流投資が行われると期待されている。また、酸化物などの原料を様々な調達先から調達することも重要だが、政府の助成金や資金提供があれば、中流事業を内製化することも現実的となる。

中国の原料や磁石製造技術の輸出制限については、北米企業の主要な工程のほとんどのベンダーは北米か欧州の企業であり、直接の影響は懸念されないが、輸出規制は、単に個々のプロジェクトや個々の企業への影響だけでなく、グローバル・サプライチェーンに不均衡を生み出す可能性がある。これは業界の課題であり、例えば2040年までを見据えたときの足かせになる。サプライチェーンリスク軽減のため、独自に製造技術を改良・開発した企業も存在する。中国を除いた原料調達先の確保という点でも、北米の自動車Original Equipment Manufacturers(OEM)や一次サプライヤー(Tier1)の動向は変化しており、様々なビジネスチャンスを生み出している。懸念しているのは、酸化物よりも、フッ化物や炉・合金製造工程に必要なその他の主要原料の一部であり、これらも徐々に欧米から調達できるように供給源を多様化しようとしている。

ただし、中国も産業やサプライチェーンを発展・変容させていることを忘れてはならない。中国を排除するのではなく、中国と中国を除いた両方のサプライチェーンの選択肢を持つことも戦略の1つである。

3.Financing Across the Value

現在、レアアース価格は軟調に推移しており、投資のチャンスと考えることもできる。レアアース業界関係者としては、レアアースは多くの国の重要鉱物リストに含まれており、備蓄などに向けた資金調達も検討することの1つである。日々の価格のボラティリティに左右されず、長期的な視点で市場参入のタイミングを見計らうべきである。その中で、上流の生産者は、最終製品までのサプライチェーンを把握し、顧客が磁石材料を消費しているのか、あるいはもっと下流の最終製品を消費しているのか、仮に磁石製品を販売する場合、販売先の電化製品の生産能力は十分かなどを確認する必要がある。

中流への投資については、金融機関からの資金調達にあたって、レアアースを金属から合金、磁石へ加工する技術やプロセスが中国に寡占されていることを強調するのみでは不十分である。これらに加えて、北米の中流が、製品の仕様や質といった観点から、下流に必要な製品を適切に供給できる、信頼性の高い業界と金融機関に認識してもらうことが重要である。しかし、レアアース業界の実態として、各国の規制や対中関係によってイレギュラーな事態が起こりやすいことが課題である。

また、上中流の人材と労働力不足が北米の課題であり、大手半導体メーカーやバッテリー製造など、より安定した他産業と競合することになり、重要鉱物や部素材を扱う企業にとっては、人材を確保することが非常に難しいという実態がある。

4.Innovations in Magnetic Materials and Motors

近年、EVとプラグインハイブリッド車(PHEV)の世界販売台数は、それぞれ同程度の年平均成長率で増加していたが、2023年には世界のEV販売台数の伸び率はPHEVの伸び率を下回り、この差は2024年になってから拡大している。世界のEV市場を主要地域別にみると、PHEVへのシフトは、現在までのところ主に中国市場で発生しており、北米や欧州では始まったばかりであるが、世界のEV市場における中国のシェアは大きく、中国で見られるPHEVの販売台数の伸びは、世界レベルで影響が及んでいる。

バッテリー電気自動車(BEV)からPHEVへとシフトするにつれて、バッテリーとバッテリー原材料の需要が大幅に抑制される。しかし、モーターの場合、両者の平均出力の差はバッテリーと比較すると、はるかに小さい。また、モーターの平均磁石使用量が出力に比例することは重要な点である。2023年に販売されたPHEVの平均モーター出力は156kWで、BEVは179kWであった。また、平均モーター出力は、いずれのタイプのEVにおいても、すべての地域で経年的に増加しており、ネオジム磁石の需要に寄与している。

近年、中国で販売台数が伸びている航続距離延長型EV(REEV:Range-Extended Electric Vehicle)は、平均的なEVよりもモーター出力が圧倒的に高い。このタイプのEVは従来のPHEVとは異なり、搭載された内燃機関が推進力に使用されず、走行中のバッテリーの充電のみに使用されるため、車両に電気エンジン用の電気モーターを搭載しなければならない。また、強力な永久磁石発電機も搭載しており、磁石の使用量をさらに引き上げていることが考えられる。

中国におけるPHEVへのシフトは、自動車メーカー、電池メーカー、電池原料サプライヤーにとって、短期的にはネガティブな影響を及ぼす可能性が高いが、磁石やレアアース業界にとってはプラスに働く。また、北米や欧州市場でも、同様のトレンドになる可能性があると見ている。さらに先の2040年を見据えても、あらゆるタイプのハイブリッド車(HEV)が世界自動車販売台数の30%程度を占め、ネオジム磁石のEV需要の4分の1程度を占めると予想している。なお、2040年に販売されるEVのうち、永久磁石を使用するのは2023年の97%から4分の3程度に減少するとみている。

磁石中のネオジムやジジムを、セリウムに(部分的に)代替する動きも一部企業では見られる。セリウムは、他の元素と比較して安価であるという利点があり、ネオジム酸化物やプラセオジム酸化物が60US$/kg付近で推移している現在でも、セリウム酸化物は1.5US$/kg付近で推移している。セリウムはレアアースの中で最も豊富なものの1つであり、コストを削減し続けながら同程度のパフォーマンスを引き出すことが磁石には必要とされている。

Tesla社が、レアアースフリーの駆動用モーターを開発したニュースもあったが、磁石の各素材には使用される理由があり、必ずしもすべてが置き換わったり、代用したりできるわけではないと考えられ、当面はネオジム磁石が使用される見込みである。

5.Fireside Chats with Featured Guests

北米でレアアースの上流の事業利益を獲得するには、備蓄や税控除のために民間の金融支援環境を整備し、多くの企業がサプライチェーンを構築して成功できるような仕組みを政府が作る必要がある。

サプライチェーンが1国に集中することを避けるため、各国が重要鉱物に係る関税及び投資政策を検討する動きが活発化しているが、ビジネスにおいては、顧客が中国を含めた全世界であることを踏まえてサプライチェーンを検討しなければならない。また、自動車OEM側も地政学リスクをカバーしながら、サプライヤーと協力しているのが昨今の状況である。

今後レアアース市場に如何なる影響があるかを理解するには、市場の観点から永久磁石の需要が如何に変化するかを予測する必要がある。斯様な予測は困難であるが、自動車OEMが大規模な方向転換をしない限り、永久磁石から重希土類を排除する圧力は高まり続けると思われる。かかる状況下で、レアアースの優位性を維持するための最善の方法は、磁石の改良と費用対効果の高いリサイクルであるという意見もある。

モーターについては、効率的で柔軟性が高い永久磁石モーターが主流になると思われる。従来、自動車OEMが内燃機関を自社で設計・製造してコントロールすることを企図してきたように、EVメーカーも最終的にはすべて独自のモーターを生産することになると考えられる。内燃機関を製造することを考えれば、電気モーターを製造するのは比較的平易であり、斯様な意味でも市場構造は変化していると言える。

レアアース価格が低迷していることから欧米の生産者にとって数年は厳しい状況が続くと考えられるが、レアアース業界全体が落ち込んでいるということではないため、長期的な視点で持続可能な事業を目指すことが重要である。

6.Beyond the Headlines: Geopolitics of Supply Chains

米国の重要鉱物政策について、同国内で唯一一致しているのは、対中国の意識である。同国のとある上院議員からは、「政策を売り込みたいなら、その政策の前面に対中国を据えればよい」との意見もあった。次の大統領がTrump候補かHarris候補かで対中国に対する厳しい姿勢が劇的に変わるとは考え難く、少なくとも現状維持の見込みであり、より厳しくなるか否かは不明である。

長期的には、政府主導で何らかのプレミアムによって持続可能性・市場透明性に配慮するような方策を立てるのが有効と考えられるが、民間企業が関心を持つか否かは別問題であり、持続不可能な資源に対してペナルティを科すことも1つの手段である。短期的には、レアアース含め中国産品に対して高関税を付与したところで、原材料不足によって自国産業を傷つけることにも繋がるので悪手であり、自国産業を活性化していかなれば意味がない。また、レアアースの場合、In-situ leaching(ISL)法による採掘や放射性物質の管理等の問題もあるが、Not In My Back Yard(NIMBY)の観点から中国の恩恵を多分に受けてしまっているのも事実である。

7.Checking In: Pulse on Capital Markets

中国のレアアース業界は、政府から無償の土地や電力、返済不要の融資を受け、マイナスの初期コストで運営されており、前提からして西側諸国のサプライチェーンは大きく不利な立場に置かれている。中国はレアアース関連政策について5年、10年、20年という長期的な視野を持って取り組んでおり、これに対抗するためには、西側諸国も斯様な視野と(マイナスではないにせよ)非常に低い初期コストを組み合わせる必要があるものの、関税の付与等の北米の政策は、競争環境をほとんど勘案していないように見受けられ、効果的とは言い難い。プレミアムの付与等の政策も、その実効性を検討する一方で、技術革新や中流産業の形成(大規模な競争性のある企業の育成)も同時に推進しなければ不十分である。

今後、中国以外の国々におけるレアアース業界の成長に伴い、中国が設定するレアアースのベンチマーク価格を参照し続けることに意義があるのか否か、また如何に中国以外の市場の基本的な状況を反映させ、より透明性が高い異なる価格設定メカニズムを採用することができるのかも、検討しなければならない。例えば、上限価格と下限価格を公平に設定し、サプライヤーが操業不可能なレベル、若しくは業界が利益を上げられないレベルを下回らないようにする方法や、一定期間オフテイカーと合意した固定価格を設定し、それ以降には上限価格や下限価格を設定する方法などが考えられる。以上のような価格設定によって、長期に亘る持続可能な産業の創造を促進できれば、供給停止のリスクを回避することにも繋がる。

レアアース含め業界全体として、対中関係のみならず、中国が特定の分野で優位に立っている理由を正しく理解することに対して、今後さらに注力する必要がある。欧州はバッテリー規則を2023年8月に施行し、域内における原材料調達・製造やリサイクルについて規制したが、一方でカナダはEVやEV用バッテリーのサプライチェーン構築へ50bC$を投資することを発表しつつも、域内における原材料の調達を義務付けるような条件は課しておらず、市場競争性の強化には不十分であったと考えられる。

8.Midstream and More: Processing, Metallization & Recycling

現下の不安定なレアアース価格と不透明な価格設定メカニズムが続く限りにおいては、投資家は業界の発展に資するような投資に消極的であり、金属化工程に必要な希土類酸化物の安定供給のためには、政府が介入して備蓄を含めた戦略的サプライチェーンを構築することが一案として考えられる。一方で、技術面においても安全性と効率性を追求するための研究への投資は必要で、原料の安定供給が確保され、需要に見合った増産を継続できるような生産体制を整備することが重要である。

近年、レアアース含め金属リサイクル業界の発展は顕著で、最終製品が混合希土酸化物であっても磁石であっても、中国以外の市場の形成及び効率的なサプライチェーンの構築が模索されている。リサイクル工程は二酸化炭素排出量や環境負荷が少ないことや、中国以外におけるESGへ配慮したリサイクル等のトレンドが追い風となっており、欧州重要原材料法におけるリサイクル目標や、カナダ持続可能開発技術機構(Sustainable Development Technology Canada:SDTC)による資金提供等、政府による関与は対中国の観点では有効打となり得る。サプライチェーン全体を中国以外で充足するには西側諸国の産業界の発展が追い付いていないものの、採掘や分離・精製に比べてリサイクルのFSを実施するコストは低く、また今後プレミアム付与等の議論がなされることによって、さらなる成長可能性があると言える。

9.Road to Net Zero: First Nations’ Perspectives

ライフサイクルアセスメント(LCA)は、製品やサービスの原材料の取得から廃棄までのライフサイクル全体に亘る環境への影響を包括的かつ定量的に評価する手法である。LCAの実施のためには自社製品の環境への影響を評価するための明確且つ一貫したガイドラインが必要であるが、その際に役立つのが商品種別算定基準(PCR)であり、国際希土類工業協会(REIA)も2024年初めにレアアース精鉱、酸化物、金属、磁石に係るPCRを発行している。

レアアース化合物に対してLCAを実施すると、使用される塩酸、硫酸、硝酸、シュウ酸等の溶剤について、どの酸を如何に製造するか、若しくはどの酸をどの程度使用するかによって、気候変動への影響について異なる結果が得られる。硝酸の場合、その製造工程で発熱反応があり、発熱反応に伴うエネルギー及び窒素酸化物の発生へ対処することによって、環境負荷を低減させることができるが、特に中国による硝酸製造においては考慮されていない。なお、シュウ酸製造にも前駆体として硝酸を要するという点には留意しなければならない。

レアアース価格が高騰しているときにLCAなどについて検討し、そのプロセスを最適化しておけば、価格が低迷しているときには上流・中流・下流にかかわらず顧客に対してマーケティングを行う上で競合他社よりも優位に立つことが可能である。

10.OEM Perspectives

米国防総省がカナダの鉱山プロジェクトや中下流工程へ戦略的な投資を実施することは、中国に依存することなく重希土類を入手することへの根本的解決策にはならないが、レアアース価格が下落傾向にあっても中間部材の供給契約量の増加には一定程度の寄与が見込まれる。

下流の自動車業界では現在、自動車OEMが価格のみならずESG等の要素を重要視して部素材を購入するようになっていることや、不安定な原料価格の影響による生産延期等が発生し得ることには、自動車OEMと長期販売契約を結ぶ立場である磁石やドライブユニット等の自動車部品サプライヤーも留意する必要がある。

自動車のみならず、ロボットやエアモビリティはネオジム磁石需要の拡大に寄与する新分野である。ロボットにおけるネオジム磁石の需要は、2040年までにEVのそれを上回ると予測されているが、これは労働力不足の問題に起因する、産業用(製造、接客、運輸、物流)及びサービス用(接客、介護、農業、医療)の人型ロボットの急速な進化と普及が見込まれるためである。世界的なロボット販売台数は主に産業用よりもサービス用が牽引している一方で、ネオジム磁石の消費量は産業用ロボットの方が多い。2040年までには宇宙探査のような用途における人型ロボットの生産増加を主な要因として、産業用が販売台数と磁石需要の両面で大宗を占めるようになるものと予想される。

一方のエアモビリティについても、現状は商業用ドローンがネオジム磁石の需要を牽引しているものの、輸送・配送部門向けの電動垂直離着陸航空機(eVTOL)の生産が急速に拡大し、より出力が高いモーター製造のため、2040年までに需要の牽引役の1つに成長すると予想される。eVTOL飛行のための許認可プロセスが相対的に短い中国が、やはりこの分野でも先駆者ではあるものの、技術面においては欧米諸国と大差ないと見込まれる。

おわりに

本カンファレンスを通じて、上中流の人材不足や中流産業の形成、中国のベンチマーク価格以外の価格設定メカニズムの必要性、欧米諸国によるESGへ配慮したレアアースの流通等が、産業界の共通的な関心事項となっていることが見て取れた。また、レアアースという切り口のみならず、地政学的観点での議論や、下流の自動車やeVTOLやロボット等の製造に焦点を当てた発表も多く存在した。

欧米諸国の関税政策や投資促進政策に対しては厳しい意見が散見された一方で、レアアース業界はじめ世界経済や地政学的に不安定な情勢の短期的見通しについてはやや楽観的な意見も多く寄せられた。

インフレ抑制法(IRA)をはじめ、北米のEVサプライチェーンの構築が世界的にも注目されているところ、レアアース産業についても、欧州や米国の需要の成長と市場成熟化を注視するとともに、如何に中流技術と人材投資が官民で展開されていくか注視していく必要がある。

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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