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報告書&レポート

2024年11月26日 シドニー 事務所 ワットモア康子
24-26

Critical Minerals Conference 2024参加報告

<シドニー事務所 ワットモア康子 報告>

はじめに

世界的な脱炭素化に向けたエネルギートランジションに伴い、脱炭素化社会に必要とされる再生可能エネルギー施設や蓄電池などの材料に使用される重要鉱物への注目が増している。このような状況のなか、豪州では、重要鉱物が多鉱種にわたり豊富に賦存することや米国を始め各国で重要鉱物の供給先を多角化する動きがあることなどを背景に、重要鉱物の供給、特に下流のサプライチェーン構築の事業機会に対する期待が、事業者や政府の間で高まっている。

2024年8月26~28日にQLD州BrisbaneのConvention and Exhibition Centreで行われた「Critical Minerals Conference 2024」では、重要鉱物に関して選鉱・処理・精製、ESG(環境・社会・ガバナンス) とサーキュラー エコノミー、資金調達、探査など、広域な分野における講演及びパネルディスカッションが行われた。本カンファレンスの登壇者は開催期間を通して100人以上と非常に多く、重要鉱物に対する注目度の高さが窺えた。

本稿では、特に印象深かった講演やパネルディスカッションの内容を、主な分野ごとに纏めて報告する。

写真1.講演の様子

写真1.講演の様子

出典:AusIMM

1.選鉱・処理・精製などの下流工程

1.1. An introduction to clay-hosted REE deposits in Australia(Dr Yongjun Lu, PrincipalGeoscientist, RSC Consulting)

豪州におけるレアアース鉱床のうち、イオン吸着型鉱床の鉱物資源量は145百万t、TREO品位は969ppmとされており、本講演はこれらの鉱床からリーチングで商業的なレアアース回収を行う可能性と課題を調査するプロジェクトについて述べる。

地質コンサルティング企業RSC Consulting社とWA州鉱物資源研究所(MRIWA)が2023年6月に実施したプロジェクトでは、豪州のジュニア探鉱企業が豪州各地で行うレアアースプロジェクト8件で採取した岩石サンプル80個の地質学的及び鉱物学的な特性を走査型電子顕微鏡(SEM)、X線回折(XRD)、及び地球科学分析を用いて調査し、これらのサンプルからレアアースを次の4通りの方法で浸出し回収率を比較した:

  1. ionic leaching(イオン交換を利用した浸出)
  2. weak acid digestion(弱酸と反応させる浸出法)
  3. four acid digestion(4種類の強力な酸を使用するもので、これらの酸の種類は講演では言及されなかったが、一般的には硝酸、過塩素酸、フッ酸、塩酸とされる)
  4. flux fusion analysisの4通りの方法で浸出し、回収率を比較した。

分析の結果、リーチングによるレアアース回収率は全サンプルで0~33%となり、平均値は2.4%、中間値は0.9%と、中国での回収率40~60%と比較して非常に低いことが判明した。世界におけるイオン吸着型鉱床は、レアアース鉱床全体の5%程度と非常に僅かであるが、中国南部のイオン吸着鉱床で生産されるレアアースはハイテク製造産業で需要が高い重希土類の世界供給量の80%以上を占める。

また、weak acid digestionによるレアアース回収率はionic leachingによる回収率とは相関がないという結果が得られ、同一の鉱床におけるweak acid digestionの回収結果がionic leachingの指標とはならないことが判明した。これらの結果から、豪州においてレアアース鉱床の生産を行う際には、採掘や回収において「What proportion of rare earth are ionically bound to clays?」、「What are the refractory mineral phases?」、「What is the dominant mineralogy?」、「Extraction strategies (ioninc sokusion vs. HCI/H2SO4 vis organic acids?)」などの課題に取り組む必要性がある。

1.2. Pyrite re-processing of critical-metal bearing waste for environmental gain(Helen S. Degeling, AusIMM, Cobalt Blue社)

最新の統計によると、世界の鉱山の廃滓生産量は、尾鉱も含め年間13億tに達している。一方、鉱山で採掘される鉱石の品位は、一般的に年々低下している。そのためエネルギートランジション、電動化、人口増加などに伴い急増する金属需要を賄うには採掘量の更なる増加が必要となっており、今後廃滓は更に増える恐れが生じている。廃滓に含有される硫化鉱物が濃縮されると、これらの鉱物が空気、水、細菌と反応して酸を形成し、酸性坑廃水(Acid Mine Drainage:AMD)が生じるリスクがある。

豪Cobalt Blue社はこのリスクを踏まえ、鉱山の廃滓に濃縮される黄鉄鉱からコバルトやニッケルなどの重要鉱物を回収し、黄鉄鉱またはその他の硫化鉱物を環境への害がより少なくかつ有価物ともなる硫黄及び赤鉄鉱に変換するという、処理フローを開発した。本講演では、黄鉄鉱の処理に焦点を絞るが、その手順は以下の通りである。

  1. 黄鉄鉱に加圧酸化処理を行い、磁硫鉄鉱(pyrrhotite)を生成する。
  2. 磁硫鉄鉱からコバルト、ニッケル、銀などの金属を浸出方式で抽出し、副産物として、排ガスとして生じる硫黄ガスを濃縮した高純度の硫黄や赤鉄鉱を生成。

Cobalt Blue社はQLD州地質調査所(GSQ)およびQueensland大学Sustainable Minerals Institute(SMI)と共同で、QLD州Osborne銅・金鉱山跡で同フローのテストを2022年から2年間掛けて実施した。同テストにおいて、通常の浮選→加圧酸化というフローとCobalt Blue社の熱分解→加圧酸化というフローを比較したところ、前者はコバルト46%、銅98%の回収率、後者はコバルト90%、銅90%の回収率となり、Cobalt Blue社のフローはコバルト回収率が非常に高いという結果が得られた。

1.3. The New Vanadium Hydrometallurgical Processes Yet To Be Commercialised(Damian Connelly氏, Principal Consulting Engineer, METS Engineering Group)

バナジウムの一般的な選鉱方法としては磁選を組み入れた塩化焙焼であるが、いずれの方法においても精鉱の質が重要となる。風化した鉱石から生産される精鉱は磁選の回収率が低い。塩化焙焼においては精鉱のシリカ含有率が高いと、シリカがキルン内でNaを消費して難溶性バナジウムを含む結晶質ケイ酸塩を形成し、次段階での水浸出作業の回収率が低下するため、シリカ含有率は4%以下である必要がある。また、キルンのCAPEXが非常に大きいという課題もある。

一方、触媒化学を利用した湿式製錬プロセスでは、バナジウムをチタンや鉄と共に回収できるというメリットがある。このプロセスは、講演者がDr Denis Yani、Dr Sai Wei lamと共同で2012年に開発し、特許を取得した。同プロセスは現在、豪TIVAN社が「TIVAN+プロセス」として特許権を持つ。同技術のバナジウム、チタン、鉄の回収率は高く、五酸化バナジウム、チタン顔料、酸化鉄の材料となる。

講演者は2017年にカナダのMcGill大学との共同で新たな湿式フローを開発した。このフローは、豪Neometals社の子会社Alphamet Management社が特許を取得して「Neometプロセス」とされたが、現在は中国企業によって買収されている。

図1.Neometプロセス

図1.Neometプロセス

出典:METS Engineering

さらに2023年、講演者は豪Surefire Resources社と共同で、新たな湿式フローを開発した。このフローはバナジウム、チタン、鉄を抽出するものであり、結晶構造に閉じ込められているバナジウムを触媒によって抽出するもので、高温のキルンを使用する必要がないという点では温室効果ガス(GHG)低排出であり、エネルギー節減ともなる。同フローは現在、Surefire Resources社が仮特許を取得している。

塩化焙焼フローは、バナジウムのみが抽出可能であることや、キルンのCAPEXや電力コストが高いことなどから、今後、利用が劇的に伸びることはないと考えられる。一方、湿式フローは、現在は稼働するプラントなどはないが、小規模なところから成長していくと予測されている。

2.ESGとサーキュラーエコノミー

2.1. Evaluating Circular Economy Solutions for Critical Minerals Supply(Bernadette Currie氏, Business and Project Development Manager, Metals, Sedgman)

既存または新規の施設において廃滓から重要鉱物を回収する試みは過去にも行われていたが、廃滓は既存の処理フローでは回収対象外であるため新たな処理フローの開発が必要となること、新たなフローで回収しても回収率は僅かとなり採算が取れないなどの理由で、その多くが失敗に終わっていた。また、廃棄の量がかえって増加すること、土地の取得やパイロット実験が必要となることなども課題であった。従って、二次回収で成功を収めるためには、ロジスティクス、技術、環境、経済などの面での評価を事前に行うことが重要となる。

二次回収において生じる更なる廃棄物には、レアアースなど重要鉱物が微量ではあるが含有されていることがある。これらの含有の検知には、online elemental stream analyzerの活用などが有効である。

廃滓からの二次回収プロジェクトにおいては、「廃滓総量(t)×サンプル調査で決定された品位(g/t)×二次回収で生産される商品の予測価格」という評価方法が用いられていたが、これに加えて、当該廃滓の回収価値に見合うような回収方法を調査することが、プロジェクトの可否を決める鍵となる。二次回収の方法としては、鉱種別に以下の方法が可用とされる。

 鉱種  回収方法
アルミナ 従来のスライム除去
白金族 重力選鉱
ジルコン 磁選または重液選別
ベースメタル、ニッケル、銅、亜鉛、ヒ素、アンチモン、ビスマス 凝集(flocculation)、再浮選
スカンジウム、テルル、セレニウム、ウラン、コバルト 常圧/高圧リーチング、バイオリーチング

2.2. What is the investment community seeking from climate-related financial disclosures under ASRS and ISSB?(Joel Hextal氏, Energetics)

豪連邦議会は、2024年8月22日、金融市場構造などに関する財務法の修正法案「Treasury Laws Amendment (Financial Market Infrastructure and Other Measures) Bill 2024」を上院で可決し、同年9月17日に承認した。同修正法案では、企業の財務報告に気候変動に関する要素を盛り込むことを2025年1月1日~2027年7月1日の導入期間において段階的に義務付けるという規則を定めており、導入期間が完了する時期には対象企業は6,000社以上となると予測されている。同規則の適用基準は主に当該企業の年間利益、資産、従業員数からなり、同規則の適用開始時期も下表のように区別されている。

表1.豪州で気候変動要素を含めた企業財務報告の提出が義務化される時期
規則適用開始日 グループごとで以下3項目のうち
2項目以上が該当する企業
NGER登録企業* 資産保有者
総利益 総資産 従業員数
グループ1
2025年1月1日
500mA$~ 1bA$~ 500人~ NGER報告書を義務付けられる企業
グループ2
2026年7月1日
200mA$~ 500mA$~ 250人~ NGER報告書を作成する企業 5bA$~
グループ3
2027年7月1日
50mA$~ 25mA$~ 100人~

*豪州連邦法の温室効果ガス(GHG)エネルギー報告法「National Greenhouse and Energy Reporting(NGER)」に基づき、GHG排出量やエネルギー消費に関する報告書を同政府に提出する企業

同規則は、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が策定するサステナビリティ基準に整合するものである。ISSBが2021年に発足して以来、G7やG20などを含む40か国/地域の財務大臣や中央銀行は、同審議会の(財務関連のサステナビリティ基準の策定などにおける)作業を支援しており、ISSBに整合する財務開示を企業に義務付けるようになっている。

同規則において当該企業は、自社のScope1、Scope2、Scope3のGHG排出量、エネルギー移行計画、気候変動対応を、2030年、2040年、2050年と各年における削減目標値と共に監査可能な方法で財務報告書において開示することが義務付けられる。同規則は、財務報告でGHG削減目標値を数値化することのみではなく、当該企業が実際に削減を行い2050年には排出量実質ゼロを達成することを目的とする。

3.探査

Resourcing Australia’s Prosperity: Unlocking Our Future Critical Mineral Potential
(Dr Andrew Heap, Chief of the Minerals, Energy and Groundwater Division Geoscience Australia)

豪州地質調査所(Geoscience Australia、GA)は豪連邦政府の機関である。同政府は2024年7月1日、今後35年間に3.4bA$を投じ、GAを通して大型探査イニシアティブ「Resourcing Australia Prosperity(RAP)」を開始した。このイニシアティブは、世界において2050年までのネットゼロ達成に向けたエネルギー移行に必要とされる重要鉱物サプライチェーンの確保において、豪州には重要鉱物が多く賦存する点をチャンスと捉え、今後、長期間にわたり重要鉱物、エネルギー移行に必要とされる戦略的物質1などの発見を促進していくものである。

GAはRAPにおいて、豪州陸域の少なくとも12地域で、豪連邦政府が重要鉱物に指定する31鉱種及び戦略的物質に指定する5鉱種の賦存場所や地下水源の地図を作成する。また、海域においては、これまでに収集されたデータを活用して、海底でのCO2貯蔵の可能性、洋上風力の候補地などに関する調査を行っていく。

図2.豪州における重要鉱物有望地の地図

図2.豪州における重要鉱物有望地の地図

出典:豪州地質調査所

おわりに

脱炭素化の動きは重要鉱物需要増加に伴って世界各地で数多くの鉱業投資機会を生じており、豪州においても重要鉱物のプロジェクトやこれらのプロジェクトを対象とする政府の助成制度が増加している。その一方で本カンファレンスでも多く議論されたように、鉱業は脱炭素化に向けて、鉱山や下流工程におけるGHG排出の削減を政府規制のみならず、投資家や顧客からも厳しく求められるようになっている。例えば、インドネシアのニッケル企業はここ数年、高圧酸浸出(HPAL)施設で安価な国産炭による火力発電を利用した低コストの製錬を行うことでニッケル販売価格を低く抑え、市場での強い競争力を得ているが、HPAL施設での生産増加に伴いGHG排出量も大量に増えたため、競争力を維持するためには電力源を再生可能エネルギーに切り替えるなど何らかの対策を講じる必要性が生じている。

今後、豪州で重要鉱物のサプライチェーンが構築されるにあたっては、脱炭素化に貢献するはずの重要鉱物事業がGHG排出量をかえって増加させることがないよう、鉱山や下流工程でのGHG排出削減という課題への取り組みが重要と考えられる。そしてこれらの取り組みにおいては、サプライチェーン全体で鉱業以外の産業も巻き込んだ相互協力の体制、国内外の政府による資金支援制度や共同イニシアティブが不可欠であることを、本カンファレンスへの参加を通して改めて認識した。


  1. 1. 豪連邦政府がGHG排出実質ゼロへの移行に重要なテクノロジーと定める、リチウムイオン電池(LIB)やレアアース永久磁石、水素製造の電解装置などの材料となると定義する物質であり、アルミニウム、銅、ニッケル、リン、錫、亜鉛の6鉱種。

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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