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報告書&レポート

2025年1月27日 金属企画部 企画課 北良行
25-03

資源メジャー並びに中国企業による世界の銅権益参入をめぐる動き(後編)

―中国企業の銅資源権益確保の歴史と最近の動き―

(中国企業の金属市場参入と西側諸国の供給網対策での駆け引き)

<金属企画部企画課 北良行 報告>

はじめに

2024年初め、加First Quantum Minerals社のパナマCobre Panamá銅鉱山の操業中止を引き金に、銅鉱石の不足感が顕在化し、TC/RC(Treatment and Refining Charges、溶錬精錬費)が急落した。銅鉱山業界ではこの10年余り、新規エリアに充てられる探鉱予算シェアが激減し、新鉱山の発見は減少、代わりに銅生産企業の買収活動が盛んとなってきた。その例として2024年4月に報道のあった豪BHPの英Anglo American買収の動きがある。しかし、その動きは不成立に終わった。この交渉の再開には英国で6か月間の差し止め期間があり、それが2024年11月に終わることから、今後のM&Aの動きに注目が集まっている。

今回は、前編でBHP、英・豪Rio Tintoなどの資源メジャーほか、米Newmont社や加Barrick Gold社などの金鉱山企業による動きを、後編では、21世紀に入ってからの中国企業による銅資源業界参入の歴史、並びに現在最も活発に活動している紫金鉱業集団股分有限公司(Zijin Mining Group、以下、紫金鉱業)の動きを紹介する。

1.中国によるグリーン金属市場の混乱

中国は自国の経済発展に不可欠である鉱産物の一部、とくにグリーン移行に不可欠な金属を、必ずしも自国内から十分に供給することができなかった。このため中国は、資源を求めて海外に進出することとなった。中国が必要とする鉱産物の量は、これまでの世界市場に大きな影響を与えるほど大きく、また中国からの投資は巨額であったため、瞬く間に市場を席巻、ニッケル、リチウム、コバルトなど比較的市場規模が小さい金属市場に供給過剰をもたらし、混乱を招くことになった。

この動きとしては、例えばニッケルではTsingshan Holding Group(青山控股集団)を中心としたインドネシア進出を挙げることができる。また、リチウムではTianqi Lithium社(天斉鋰業股份有限公司)による豪Greenbushesリチウム鉱山への参入や智SQM社の株式取得、また中Ganfeng Lithium社(贛峰鋰業股份有限公司)の動きがある。さらに、コバルトではChina Molybdenum社(洛陽欒川鉬業集団股分有限公司、以下、CMOC)による米Freeport-McMoRan所有のDRコンゴTenke Fungurume銅・コバルト鉱山権益買収をはじめとするDRコンゴへの進出などを例示できる。

銅は上記の金属とは異なり、市場規模が比較的大きく、今なお資源メジャーが既存の鉱山や比較的進んだプロジェクトを抑えている。このため、後発部隊である中国は良好な鉱床の確保が容易でなく、中国の参入による市場の混乱問題発生には未だ至っていない。世界の10大銅鉱石生産企業の2022年と2023年の生産量を図1に示すが、10位以内に入る中国企業は紫金鉱業のみである。この表にノミネートしていない中国企業ではMMG社(230千t/年)、江西銅業有限公司(Jiangxi Copper社、以下、江西銅業)(200千t/年)、CHINALCO社(Aluminum Corporation of China、中国鋁業集団有限公司)(20万t/年)などがあるが、いずれも権益相当分は200千t/年規模である。前編で取り上げたように新規開発には多くの困難があり、銅鉱石は今現在も市場の要求に対応できる供給体制とはなっておらず、銅鉱山企業は生産増に奔走している状態で中国企業も例外ではない。

図1.世界の10大銅鉱石生産企業の2022年と2023年生産量(単位:銅純分千t)

図1.世界の10大銅鉱石生産企業の2022年と2023年生産量(単位:銅純分千t)

出典:2024年4月26日付Reuters社 “BHP bids $39 bln for Anglo American as miners chase copper”
https://www.reuters.com/markets/deals/bhp-considering-potential-buyout-offer-anglo-american-bloomberg-reports-2024-04-24/

2.中国の銅鉱石確保とその歴史

資源メジャーが銅資源の大半を抑えているものの、その多くは中国の巨大製錬企業向けの原料となっている。中国の銅鉱石輸入の推移を図2に示す。鉱石の状態では多くはペルーとチリが中国に供給していることがわかる。

中国には世界に誇る銅製錬企業が多数ある。特に銅陵有色金属集団公司(Tongling Nonferrous Metals社)と江西銅業は精錬銅生産量が1百万t/年を超える。中国全体の銅製錬能力は世界の精錬銅生産量の半分を超えている。

多くの中国製錬企業は自らが海外に進出するのではなく、主に中国五鉱集団公司(China Minmetals社、以下、五鉱集団)、CHINALCO社などを介して、海外から原料を調達している。一方、銅製錬企業でも自ら資源調達を試みる中国企業があり、その中で最も活発な企業として紫金鉱業を挙げることができる。

図2.中国の銅鉱石輸入の推移

図2.中国の銅鉱石輸入の推移

出典:Trade Map(International Trade CentreよりJOGMEC作成)

銅原料の増産は既存の資源メジャーが対応する一方、中国の銅原料調達は、権益の確保や企業の買収・投資を介して行われることになった。銅に関しては、古くは1998年の中国有色金属工業総公司によるザンビアChambishiコバルト・銅鉱山の獲得から始まり、CHINALCO社によるペルーToromocho銅鉱山、DRコンゴへの進出など、数多くを挙げることができる。既述のように、特に中央政府に属する国営企業であるCHINALCO社と五鉱集団が中心となった。21世紀に入っての中国による企業買収等の歴史を簡単に紹介すると次の様になる。

中国は、21世紀に入ると、政府の後押しもあり海外投資が急速に伸び始めた。鉱業関連の多国籍企業への動きでは、世界金融危機が起きた2008年に取引された、CHINALCO社による英・豪Rio Tintoへの出資が注目を浴びた。Rio Tintoは世界最大のBHPに次ぐ規模の資源メジャーである。

五鉱集団は2009年に豪OZ Mineral社(現MMG社)を買収した。中MMG社はペルーLas Bambas銅鉱山、DRコンゴKinsevere銅鉱山、豪Rosebery亜鉛・銅・鉛鉱山の権益を所有していたが、さらに2012年に加Anvil Mining社の買収を行った。加Anvil Mining社はDRコンゴにDikulushi銅・銀鉱山、Kinsevere銅鉱山、Mutoshi銅鉱山の各銅・コバルトプロジェクトを所有していた。

金川集団股份有限公司(Jinchuan Group)は、2013年の南アMetorex社買収でDRコンゴKinsenda銅鉱山、Ruashi銅・コバルト鉱山、ザンビアChibuluma銅鉱山の各プロジェクトを手に入れた。2014年には紫金鉱業による加Pretium社の9.9%株式権益取得が続いた。その後、紫金鉱業はDRコンゴKamoa-Kakula銅鉱山に参画、CMOC社はFreeport-McMoRanから2016年にDRコンゴTenke Fungurume銅・コバルト鉱山を、2020年には同じくDRコンゴKisanfu銅・コバルト鉱山も手に入れた。

さらに2019年には、江西銅業が加PIM Cupric Holdings Limited(PCH)社の100%株式権益を買収した。加PCH社は、ザンビア、パナマ等8か国で9件の銅鉱山開発プロジェクトを持つ加First Quantum Minerals社の18%の株式権益を保有している。パナマの資産にはCobre Panamá銅鉱山が含まれる。

このように多くの中国企業が海外展開をしているが、最近、特に積極的に活動しているのが紫金鉱業である。

3.紫金鉱業

中国で最も買収に積極的な金属会社の1つである紫金鉱業は、前述のように、カナダやアフリカを含む世界中の銅鉱山や金鉱山を買収してきた歴史がある。また、リチウムにも進出し、電池材料市場で重要なプレーヤーになることを目指している。同社の金属・鉱業関連の支出は、2023年の中国の一帯一路構想(BRI: Belt and Road Initiative)の支出全体の11%を占めたという。

同社は2025年までにすべての金属の生産量を増加させる計画を持っている。銅については、DRコンゴKamoa-Kakula銅鉱山、Kolwezi銅鉱山、セルビアDoo Bor銅鉱山、Timok金・銅鉱山並びにペルーRio Blanco銅・モリブデン鉱山などの権益を保有している。中国国内でもJulong銅プロジェクト(巨龍銅鉱)の拡張で、単一の銅鉱山としては中国最大を目指している。

2024年11月には加Pan American Silver社が所有するペルーLa Arena銅・金プロジェクトの株式100%を取得する意向を発表した。

紫金鉱業は2024年上半期には前年同期比5.3%増の518千t/年を生産したところ、2025年には1.22百万t/年に、2028年までにさらに1.5~1.6百万t/年に増やす計画で、智CODELCOと肩を並べることになる。この生産増の遂行には既所有プロジェクトでの生産量だけでなく、大規模鉱山または鉱山会社の買収をも視野に入れているという。

Chen会長は、DRコンゴKamoa-Kakula銅鉱山を1百万t/年規模の世界最大の銅鉱山に仕立て上げたいと語っている。これはチリにあるBHPのEscondida銅鉱山に規模で挑戦することを意味する。同鉱山は、現在、世界第3位の銅鉱山である。

同社は加Ivanhoe Mines社とともに同鉱山の39.6%を保有し、DRコンゴ政府が残りの20%の株式を保有している。なお、紫金鉱業は加Ivanhoe Mines社の株式10%以上も所有している。

4.その他中国企業の最近の動き

CHINALCO社はギニアからペルーまでさまざまな鉱山に投資している。2018年に発表されたペルーToromocho銅鉱山の拡張プロジェクトは、公的な許可の遅れとCOVID-19の大流行によって開発にブレーキをかけられていたが、2023年6月着工のめどがついたと報道があった。2024年にはフィリピンTampakan銅・金鉱山関連の株式約2bUS$相当を取得する可能性があると報じられた。同プロジェクトは30年前に発見されて以来、何年も停滞しているが、開始されればフィリピン最大の鉱山となる。

CMOC社は、今後4年間で主力のDRコンゴのTenke Fungurume銅・コバルト鉱山ならびにKisanfu銅・コバルト鉱山での生産を拡大し、2028年までに銅の年生産量を800千t/年から1百万t/年に増やすことを目指しているという。同社は2023年に約420千t/年の銅を生産、2024年は生産量を約570千t/年に増やすと予想されている。これらの鉱山ではコバルトが副産物として生産されるためコバルト市場に混乱をもたらしている。

五鉱集団の一部門であるMMG Africa Ventures社はVancouverに本拠を置く加Cuprous Capital社からボツワナKhoemacau銅・銀鉱山を1.7bC$で購入した。130千t/年以上の銅生産量が予測されている。

中国冶金集団(MCC: Metallurgical Corporation of China)と契約しているアフガニスタンMes Aynak銅鉱山プロジェクトは16年以上の遅延を経て2024年10月ようやく着工したという。アフガニスタン政府は、2.5百万t/年の銅が採掘され、300~400mUS$の収益が見込まれるとしている。

江西銅業は加First Quantum Minerals社への出資比率を18.3%から引き上げ2024年3月時点で18.5%とした。

5.中国企業の鉱物資源進出に対する欧米の反応

以上のように、すでに金属市場を席捲する中国の企業の動きは今もって活発で、しばしば欧米諸国との軋轢を引き起こしている。米国、EU、およびその同盟国は中国が管理する供給網への依存を減らす取り組みを強化している。このことは、特に中国企業の鉱業参入のハードルを高め、中国企業の事業拡大計画を制限している。紫金鉱業は、一部の鉱産物で中国支配に対抗する米国主導の取り組みで標的にされており、地政学的緊張がプロジェクト評価額の上昇と共に、M&Aへの道で脅威が増大していると指摘している。

米国は輸入関税やインフレ抑制法(IRA)で中国企業を排除しようとしている。IRAはBiden大統領の代表的な政策の1つであるが、Trump次期大統領はその全面的撤回はためらうとみられる。またEUでは、2030年までにリチウムや銅などの鉱物の採掘、リサイクル、加工を地域内で行うというEUの目標を定める重要原材料法を2024年5月に発効した。またEUの炭素関税は、中国に重工業部門の脱炭素化を加速させるよう圧力をかけている。

カナダの事例として次の様な事があげられる。カナダ政府は2024年3月、カナダ投資法(ICA: Investment Canada Act)の改正の一部として、海外投資に対するより厳格な安全審査を導入した。同年7月には、外国によるカナダ鉱山会社の買収は例外的な状況のみ承認するという指令を出した。

カナダでの外国による鉱山会社の買収は、18年前にニッケル鉱山会社の加Inco社やアルミニウム製造会社の加Alcan社など、国内最大手企業の一部が買収されて以来、機微な話題となり、中国企業の最近のいくつかの試みを阻止している。一方でAlberta大学中国研究所のデータによると、中国の投資家はカナダの鉱業界で最も積極的に活動しており、1993~2023年の間に21bC$を投資している。

紫金鉱業は2024年初め、カナダの銅鉱山会社であるSolaris Resources社の株式15%を取得する計画となったが、カナダの外国投資基準を満たす見込みがないとの懸念から計画を撤回した。同社は、カナダ政府が同国の鉱業部門への外国企業の関与を制限する措置を講じても挫けず、カナダの鉱業会社、特にジュニア探査企業への投資を絶対に続けるとしている。また、世界的な足跡を拡大する一方で、中国とその友好的な近隣諸国での資源配置を強化する決意で、特にアフリカでの活動は要となり、その筆頭にはDRコンゴKamoa-Kakula銅鉱山を挙げることができる。

おわりに

米国をはじめとする西側諸国は中国依存を減らすべく、自らの資源供給網の構築を志している。しかし現状、新規投資の多くは中国に期待せざるを得ない状況である。また、すでに中国が構築した供給網を西側諸国が活用しないとした場合、そのコスト負担は増大するといわれている。CRU社によると、既存鉱山からの生産量も今後数年間で急激に減少する見通しで、鉱山企業が業界の供給ニーズを満たすためには、2025~2032年までに150bUS$以上を費やす必要があるという。米国でTrump氏が政権に返り咲くと、米中の対決姿勢は激化するとみられる。このような背景で、今後鉱業界は中国とどのような接し方をするのかを問われている。

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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