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2025年メキシコの鉱業税率改定について
はじめに
メキシコでは鉱業ロイヤルティに相当する鉱業税(derecho)が連邦税法(Ley Federal de Derechos)により定められている。2025年度連邦予算の一部として同法の改正が2024年12月19日付け官報にて公布1、2025年1月1日より施行されたことで、鉱業特別税および貴金属鉱業特別税が引き上げられることとなった。両税は2014年に導入されたもので、税率の改定は今回が初となる。本稿では、新税率および改正の背景について紹介する。
1.改正後の税率
鉱業税については以下表中の二種類が連邦税法第268条および第270条で定められており、課税対象と税率は以下のとおりとなっている。
課税対象 | 旧税率 | 新税率 | |
---|---|---|---|
鉱業特別税(第268条) | 鉱物の売却により生じた純利益 | 7.5% | 8.5% |
貴金属鉱業特別税(第270条) | 貴金属(金、銀及びプラチナ)の売却により生じた純利益 | 0.5% | 1% |
2.税率が見直された背景
メキシコでは、Andrés Manuel López Obrador(AMLO)前政権下で進められた大規模インフラ投資や社会保障費用増加等により財政赤字が悪化し、その立て直しが急務とされている。一方、2024年10月に就任したClaudia Sheinbaum大統領は、新税制の導入は計画していないと公言していたことからも、既存税率が引き上げられることは必然的だったといえる。
鉱業特別税および貴金属鉱業特別税が見直しの対象となった理由としては、連邦税法改正原案の中で、金属価格が記録的高値となっていることに加え、鉱業部門を外部の経済ショックに対して抵抗力があるとみなし、COVID-19パンデミックを例に、2020年のGDPが8.6%落ち込んだ一方で、鉱業部門は3.4%の成長を見せたことであると説明された。さらに、鉱物の活用を最大限化することは国家の優先事項であり、採掘活動から得られた利益が直接国家に反映されるよう、公正な報酬が支払われることが極めて重要であると強調された2。
3.業界の反応
鉱業税は2014年に導入されて以来、今回の改正まで税率の見直しが大々的に検討されたことが無く、かつ今回の改正に際し業界や関係団体への事前ヒアリングが無かったことから、鉱業界にとっては青天の霹靂とも言える改正であった。
メキシコ鉱業会議所(CAMIMEX)は今回の税率引き上げに対し、近年新規鉱業権の発給が停止していることに加え、過剰な規制や鉱業法改正等の影響を受けてすでに投資が減少傾向にあると指摘し、これらに加えさらに税率が引き上げられることで、今後2年間で見込まれている約6,900mUS$の新規プロジェクトに対する投資が危険に晒されると警告している3。また、州によってはさらに採掘活動等に対し環境税を課している州もあり、2017年に初めて環境税を導入したZacatecas州に続いて、2023年はDurango州で施行、2024年にはSan Luís Potosí州でも導入が承認された4ほか、México州およびNuevo León州でも環境税の導入が検討されている。CAMIMEXは、地方税の導入が国の競争力と鉱業部門における雇用創出に影響を与えると警告し、州政府と連邦政府との対話の必要性を指摘している。
おわりに
AMLO前大統領は自身の任期全体を通して厳しい鉱業政策を貫き、新規鉱業権付与の凍結、露天採掘の事実上の禁止、鉱業法改正による更なる規制強化等を実施してきた。Sheinbaum新政権発足直後に行われた鉱業税見直しはAMLO前政権による政策の余波とも捉えられ、鉱業界に対する風向きは引き続き厳しいものとなっている。しかしながら、現政権は発足してから3か月弱であり(本稿執筆時点)、Sheinbaum大統領の鉱業部門に対する明確な姿勢は未だ示されていない。現在メキシコは自国の新政権始動に加え、米国Trump大統領の就任と、2つの大きな転換局面にあるといえる。今後の鉱業を含めた国内政策は米国の動向に左右される可能性が高く、引き続き注視していく必要がある。
- 1. Secretaría de Gobernación. “DECRETO por el que se reforman, adicionan y derogan diversas disposiciones de la Ley Federal de Derechos.”. Diario Oficial de la Federación. 2024-12-19.
- 2. Cámara de Diputados. “Iniciativa del Ejecutivo federal Que reforma, adiciona y deroga diversas disposiciones de la Ley Federal de Derechos”. Gaceta Parlamentaria. 2024-11-15.
- 3. Sharay Angulo Casique. “Cámara minera de México alerta que mayor carga fiscal amenaza casi US$7.000mn en inversiones”. BNamericas. 2024-11-22.
- 4. 2024年の州税制法改正により環境税設立が承認されたものの、施行は延期され、2025年6月に予定されている地方選挙以降に導入される見通し。
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