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報告書&レポート

2025年2月26日 ロンドン 事務所 阿部香織
25-07

2024年 LMEウィークを振り返る

<ロンドン事務所 阿部香織 報告>

はじめに

2024年9月30日の週にベースメタルとバッテリーメタルの市場関係者、生産者、オフテイカー(需要家)らが、セミナーやレセプションに参加し、商談やネットワーキングを行うLME Weekが開催された。ロンドン金属取引所(LME:London Metal Exchange)が主催するLME Metals Seminarは毎年約800人が参加する大規模なセミナーであり、金属市場の見通しや世界経済動向が各社から発表され、ロンドン事務所はLME Metals Seminarと鉱業・エネルギー業界のコンサルティング企業が開催する複数のセミナーに参加した。本稿では特にLME Metals Seminar(9月30日)、英CRU社主催のCRU Breakfast(10月1日)と英Benchmark Mineral Intelligence社主催のBenchmark World Tour 2024 London(10月2日)で議論された中長期的な金属動向についてまとめる。

1.LME Metals Seminar

LME主催のLME Metals Seminarは2024年9月30日(月)に開催された。午前中はマクロの世界経済見通し及び金属価格動向(銅、亜鉛、鉛、ニッケル)、午後はバリューチェーン、リサイクル、投資動向などについての発表が行われた。以下、専門家による金属需給の見通し(銅、亜鉛、鉛、ニッケル)、責任ある調達とリサイクルの将来についての講演内容をまとめる。

1.1 金属需給見通し

銅市場の見通しを発表したMorgan Stanley社のAmy Gower氏は、銅価格は一時的な変動を伴いながら、今後10年間を通じて高値を維持すると予測した。その理由としては主に(a)中国の銅需要は報じられているほど減少していない、(b)世界的な送電網、EV、再生可能エネルギー、データセンター建設に伴う需要増、(c)2015~2017年のCAPEX低迷や、インフレーションなどによる新規銅山開発投資不足が将来供給不足を引き起こすことが挙げられた。2024年と2025年については、銅市場は依然として供給不足であり、9月末に発表された中国の景気刺激策と関連政策が価格を押し上げる要因であるとし、上振れ(最高価格12,000US$/t)や下振れ(最低価格7,600US$/t)の余地はあるが、銅価格は9,500US$/t付近で推移すると予想した。

亜鉛市場の見通しを発表した米StoneX社のNatalie Scott Gray氏は、鉱石生産量の減少と、2023年から続く価格低迷のため、2024年の亜鉛市場の余剰は2023年の予測である300千tを大幅に下回り、約50千tになると予測した。2024年の亜鉛の供給はタイトなものだったが、亜鉛は業績不調の建設市場に対して50%以上のエクスポージャーがあるため需要が弱く、価格は大半を通して他の金属を大きく下回っていた。2025年については、露Ozernoye鉱山の操業開始や世界最高品位の亜鉛鉱山であるDRコンゴKipushi鉱山での増産により、鉱山生産量が前年比4.5%で増加すると予測し、全体として、130千tの供給過剰になるとした。価格については、中国等での需要増が見込まれているが、供給量が追いつくのには時間がかかるため、前年比で小幅な上昇が見込まれる。ただし、同氏は米選挙の結果と中国経済(特に不動産市場)の情勢によって、予測が外れる可能性があると指摘した。

続けて同氏は鉛市場について報告し、2024年の鉛の供給余剰は縮小し、2023年の116千tから44千tになるとし、需要低迷による価格低下は鉱山生産量及び精鉱生産量の抑制を促し、スポットTC(Treatment Charge:溶錬費)を記録的な低水準なものにしていると語った。2025年は米国、欧州、中国での主要プロジェクトが活発化し、銅、亜鉛、銀採鉱の増加が副産物である鉛の生産に貢献することから、鉛の鉱山生産量は増加し、スクラップ量が最高水準にあることもあり、精錬生産量も回復すると分析した。2025年の需要は前年比約2.2%増であるとし、LME鉛平均価格は2024年のレンジ(1,900~2,300US$/t)よりもわずかに上昇すると予測した。

ニッケルについては、豪Macquarie BankのJim Lennon氏は、2024年のClass 1ニッケル(ブリケット、カソード、パウダー等の地金)市場は減産が予想されるものの、依然として供給過剰が続くとの見解を示した。供給過剰の影響で、インドネシア国内のプロジェクトが延期され始めており、BHPも豪州での主要ニッケル事業の停止を発表する等、減産が進んでいる。需要サイドでは、ニッケル市場の主力であるステンレス鋼市場には減速が見られるものの、バッテリー向けの需要は引き続き市場の重要な原動力であり続ける。さらに、Class 2ニッケル(フェロニッケル、ニッケル銑鉄)の生産設備がClass 1ニッケル向けに転用されていることや、生産能力の減少によりClass 2市場でわずかな供給不足が生じており、Class 2ニッケルの価格は横ばいで推移する可能性が高いという見解を示した。2025年にはニッケル供給量が前年比7.7%増加する一方、需要(一次ニッケル消費量)は5.2%増にとどまる見込みであり、約146千tの供給過剰になると予想した。

表1.Macquarie Bank社による2023~2025年 ニッケル市場の供給・需要動向
ステンレス鋼およびニッケル 2023年 2024年測 2025年予測
総ステンレス鋼生産量(千t) 60,075 63,139 64,930
増減率(%) 5.3 5.1 2.8
一次ニッケル消費量(千t) 3,236 3,478 3,659
増減率(%) 7.6 7.5 5.2
ニッケル供給量(千t) 3,417 3,533 3,805
増減率(%) 8.9 3.4 7.7
そのうちニッケル銑鉄(NPI)の供給量(千t) 1,775 1,816 2,000
世界市場の需給バランス(千t) 181 54 146

出典:Macquarie Bank講演資料より

1.2 バリューチェーンの未来(The future of the metals value chain)についてのパネル概要

パネルには、Anglo AmericanのRichard Morgan氏、仏ケーブル・光ファイバー企業Nexans社のChristophe Allain氏、独トレーサビリティ・プラットフォーム運営企業Minespider社のElla Cullen氏が登壇し、LMEが推進する責任ある調達の最新動向について議論を行った。

Anglo AmericanのRichard Morgan氏は、COVIDの時期と露によるウクライナ侵略開始時に比べると地政学的な要因がビジネスに与える影響は現在はそれほど大きくなく、スコープ3などの基準や規制等の社会的な要因がビジネスに与える影響の方が大きいと語った。同氏はAnglo Americanは採取産業透明性イニシアチブ(EITI:Extractive Industries Transparency Initiative)の理事会に加わり、また、責任ある鉱業保証のためのイニシアチブ(IRMA:Initiative for Responsible Mining Assurance)にも任意で参加し、監査も受けており、商業や契約上の守秘義務とサプライチェーンの透明性確保との間でバランスをとってきたと強調し、鉱業界がOECD加盟国で説明責任を果たし、統一された基準を適用し、各国民への利益を示すことができれば、鉱業に対する悪印象を払拭することが可能であると述べた。

Nexans社のChristophe Allain氏もまた、過去10年間ESG(環境・社会・ガバナンス)基準の方が地政学的な要素よりも、サプライチェーンへの影響が大きかったと語った。同氏によると、川下の大手鉱業企業はトレーサビリティ向上のための予算があるが、川下の小規模な企業は予算面での制約が大きく、EUの規制も大企業向けのものになりがちで、川下の透明性の向上がより困難である。顧客がスクラップからの製品を避ける傾向はないが、リサイクル製品の透明性は低く、「[調達元について]不明である」と答えるしかない場合があり、顧客のESG認証、倫理、企業の社会的責任(CSR:Corporate Social Responsibility)、CO2排出量削減への期待値が高くなっている一方、サプライチェーンの透明性を高めるための精確なデータは十分ではない。EUの炭素国境調整メカニズム(CBAM:Carbon Border Adjustment Mechanism)や企業持続可能性デュー・ディリジェンス指令(CS3D:Corporate Sustainability Due Diligence Directive)等がどのようにグローバルに影響していくか注視しているが、バリューチェーンの上流だけではなく、中・下流にも焦点を当てたEUの規制の必要性が強調された。

Minespider社のElla Cullen氏は、同社は5年前からペルーMinsur社に協力しており、2023年はMinsur社の錫の世界規模でのトレーサビリティ向上に貢献したと述べ、ブロックチェーン、AIなどのツールがサプライチェーンの可視化を可能にし、状況に応じた異なるツールを使用することの重要性を強調した。例えばEUのバッテリー規制では、加工・流通過程の管理(chain of custody)が必要だが、ブロックチェーンのデータを要求していないため、AIを使ったデータ抽出による対応が可能である。また、特定の管理者がいない不変のデータを共有するブロックチェーンの技術は川下の鉱業関連企業間のように信頼関係が成立していない異なる組織間でのデータ共有に有用であるとした。データが大量にありすぎるという問題については、AIは必要なデータを適切なタイミングで抽出するのに役立ち、企業はデータを準備するために社内AIを導入する必要があるという提案がなされた。

1.3 金属リサイクルの将来についての炉辺談話(Fireside Chat)

2024年のLME Metals Seminarでは基調講演でRio Tinto CEOのJakob Stausholm氏が各地域に根ざしたスクラップの収集と処理について言及するなど、金属リサイクル産業の重要性が強調された。さらに、世界最大のリサイクル産業界貿易連盟である国際再生資源連盟(BIR:Bureau of International Recycling)と英国金属リサイクル協会(BRMA:The British Metals Recycling Association)のSusie Burrage氏が、BIRの活動や最新のリサイクル業界の動向について炉辺談話(Fireside Chat)に登壇し、(a)BIRの役割や、(b)リサイクル業界の課題、(c)今後の金属の一次・二次生産について語った。以下に、同氏の談話概要をまとめる。

(a)BIRの役割

BIRはリサイクル業界の代弁者として新規関連法案が作られる際にそれが事業にどのような影響を与えるのか、貿易障壁となるのかどうか等の調査を行っている。BIRは世界中のリサイクル企業を代表する組織で、現在約30,000社の会員で構成され、国連、OECD、WTOなどの国際組織とも協議を行っている。欧州では、欧州リサイクル産業連盟(EuRIC:European Recycling Industries’ Confederation)が欧州のリサイクル業者を代表し、欧州委員会(EC)に対して提言を行っている。米国の再生資源協会(ISRI:Institute of Scrap Recycling Industries)1、インド金属リサイクル協会(MRAI:Metal Recycling Association of India)、中東リサイクル協会(BMR:Bureau of Middle East Recycling)等、その他の地域団体もBIRの会員である。

(b)リサイクル業界の課題

最大の課題は、法律上の「廃棄物(waste)」の定義が国ごとに異なり、リサイクル可能な資材に関する統一された分類基準が存在しないことである。EUや英国では、たとえ処理が完了し、炉に投入可能な状態のリサイクル資材であったとしても「廃棄物」として分類される。このため、リサイクル資材を海外に輸送する際に、法的な障壁が生じることがある。多くの人々が、EUは、この問題に対処するために「廃棄物の終了基準(end-of-waste criteria)」2を設けたが、その適用範囲は非常に限定的で、企業がこの基準を満たすための要件は非常に厳しい。通常、国内だけではリサイクル資材の需要が十分に存在しないため、輸出の選択肢が限られることは、業界にとって深刻な問題である。

企業はリサイクル金属を販売する場がなければ事業を停止に追い込まれるため、輸出取引の制限も大きな懸念事項である。英ビジネス・エネルギー・産業戦略省(The Department for Business, Energy & Industrial Strategy)が英Warwick大学に委託した調査によると、英国では11.3百万t/年の鉄鋼がリサイクルされているが、現在国内消費量は2.6百万tに過ぎない。新規電気アーク炉(Electric Arc Furnace)が稼動すれば、国内消費量は6.1百万tに達するが、それでも約5百万tの余剰があり、リサイクルの持続可能性のためには、国際市場への継続的なアクセスの確保が不可欠である3
また、企業が推し進める垂直統合が過度に行われるとリサイクル業界に負の影響を与える可能性がある。現在フィーダー・ヤード(feeder yard)が回収されたスクラップをシュレッダー工場に供給し、シュレッダーが鉄鋼工場に材料提供を行っており、シュレッダー工場では鉄鋼以外にも非鉄金属やタイヤのゴムやバッテリー等も処理している。鉄鋼工場が鉄鋼供給の確保のためにシュレッダーを垂直統合すると、その他の回収物がシュレッダー工場で扱われなくなるという問題がある。

(c)今後の金属の一次・二次生産

世界的に金属の二次生産量を増やす必要があることはわかっているが、二次生産は一次生産なしには成り立たないので、両者のバランスが必要であり、時間をかけて二次生産が一次生産を上回るのが理想的である。例えば鉛については、二次生産がすでに一次生産を上回っており、銅等の他の金属も同じ方向に進むことを期待している。リサイクル素材の需要を増加させることが重要で、製造業者は、製品にリサイクル素材を組み込むインセンティブを与えられる必要がある。例えば、現在の携帯電話は、小型で複雑に作られており、個々の部品の取り出しと原材料のリサイクルが難しい。シュレッダー技術やAI技術の進歩により、将来的には分別や分離が可能となるかもしれないが、現在のところ、それを行うにはまだ難しい材料もある。リサイクル材料の品質を保つため、材料を製品内でできるだけ分別しておく必要があり、製造プロセスの設計段階で、製品のライフサイクル全体の考慮が、最終的には規制によって義務付けられるべきだと考える。

2.CRU社による2024~2028年の金属見通し

2024年10月1日(火)に開催されたCRU社主催のCRU Breakfast 2024では、気候変動、脱炭素化、サプライチェーンや国際関係、政策、新技術がもたらす不確実性やリスクに焦点が当てられ、2024年から2028年にかけての金属需給動向についての予測が示された。以下、CRU社によるアルミニウム、銅、亜鉛、ニッケル、コバルトについての見通しをまとめる。

CRU社Ross Strachan氏によるとアルミニウムは、近年の建設セクターの低迷による需要減退と、それに伴う大幅な供給過剰に直面しており、2024年は500千tを超える供給過剰が見込まれる。しかし、2025年以降はインフレ圧力の緩和や金利低下による、需要回復が期待されている。電気自動車(EV)生産や車両軽量化のためにアルミニウムが必要なため、輸送セクターが牽引する形で需要は増加する。2026年頃には現在の供給過剰状態から供給不足に転じると予測するが、今後数年間の欧米でのプロジェクトの再稼働による供給増や、インドネシア等の地域での新規生産能力の確保だけでは、供給不足の拡大に対処するには不十分である。その結果、アルミニウム価格は予測期間中徐々に上昇し、約2,600~約3,000US$/tに達すると予測された。

CRU社Erik Heimlich氏は銅については、需要サイドは運輸・インフラ業界のEVや再生可能エネルギーへのシフトにより引き続き堅調であるが、中国からの需要は建設業界の停滞により、2024年がピークであるという見解を示した。供給サイドについては、採掘条件の複雑化やプロジェクトコストの増大等により、生産が伸び悩んでおり、DRコンゴ等で新規プロジェクトが進んでいるにもかかわらず、供給は逼迫した状態が続き、潜在的な供給不足の状態は、2028年までの価格上昇を支えると予測した。

続いて同氏は、亜鉛については、需要は主に建設業界で利用される亜鉛メッキに関連するものであるが、建設業界の年率成長は2028年まで2.5%にとどまり、亜鉛の最大消費国である中国の需要も低迷を続けるため、需要サイドの成長軌道は緩やかなものになると予想した。供給サイドについては、特に豪州とペルーでの鉱山閉鎖のため、2028年に向けて市場が引き締まる可能性があるが、亜鉛の供給過剰は継続し、価格は当面の間低水準にとどまるとした。しかし2026年には2,500$/t前後で底を打ち、需要増加よりも供給量の制限により、価格はその後徐々に回復していき2028年には約3,500US$/tに上昇すると予測を行った。

CRU社Angela Durant氏は、ニッケル市場については複雑であり、短期的には弱気傾向にあるが、ポジティブな要因もあるとした。2024~2028年にかけての年間ニッケル需要は6.7%の健全な伸びが予想されるが、これは主に中国のステンレス鋼生産に牽引されるものであり、インドのステンレス鋼需要増も期待されるが、その他の地域の需要は伸び悩みが見られると分析した。電池関連では、最近のEV販売見通しの下方修正により、電池用ニッケルの需要見通しが弱まっている。供給サイドについては予測期間中、年間6.5%のペースで増加すると予想されるが、これは主にインドネシアと中国のプロジェクトによるもので、新規供給の約80%を占めるようになるが、その他の地域の生産量は1996年以来の水準まで減少すると予測。このような供給の増加と在庫水準の上昇により、大幅な価格上昇は考えにくいため、予測期間中、価格は16,000~18,000US$/tの間で安定的に推移するとした。

同氏はコバルトについては、価格低迷にもかかわらず、銅とニッケル採掘の副産物であるため、供給量は増加し続けると分析した。特に中国が支援するDRコンゴとインドネシアにおけるプロジェクトが、予測期間中の供給拡大を牽引すると予想した。コバルト市場では、鉱石生産量と精錬所からの供給量との間に乖離が生じており、一部の電池用化学物質の精錬業者は集中型メンテナンス(conductive central maintenance)に移行することで、実質的に生産を縮小させており、これにより市場の安定化が進んでいる。ニッケル市場と同様、コバルトも今後数年間の供給過剰が続くと予想されるが、市場は現在が底値だと思われ、供給過剰が徐々に縮小する中で、価格は2030年に向けて改善すると予測した。

3.Benchmark社による2030年までの金属見通し

2024年10月2日(水)に開催されたBenchmark社主催のBenchmark World Tour Londonでは、バッテリーのサプライチェーンにおける持続可能性、E-Mobilityセクターにおける銅の役割、鉱業企業による事業紹介等の報告が行われ、最後にBenchmark社のアナリストによるバッテリーメタル(ニッケル、コバルト、リチウム)の将来の課題と機会についての分析が発表された。以下に、同社Adam Webb氏による「短期的な痛み、長期的な利益:バッテリーメタル市場の見通し(Short-Term Pain, Long-Term Gain: The Outlook for Battery Metals)」と題された報告の概要をまとめる。

バッテリーメタル市場は短期的には大幅な価格下落を経験しているが、依然として長期的な成長可能性がある。2023年1月~2024年10月までの間に、硫酸ニッケルの価格は33%、コバルトは37%、炭酸リチウムの価格は85%下落した。市場心理は弱気だが、バッテリーメタルの主要な需要要因であるLIB(リチウムイオン電池)産業、特にEV市場の成長は続いている。世界最大のEV市場である中国では、2024年8月のEV販売が前年比32%増加し、欧米での低成長を相殺している。中国では、プラグインハイブリッド車(PHEV)の市場シェアが過去1年間で32%から44%に拡大している。PHEVは純電気自動車(BEV)に比べて小型のLIBを使用するため、需要をやや抑える可能性があるが、全体としてLIBの需要は2024年と比較して2030年には21%成長すると予測されている。この堅調な需要見通しにより、現在の価格低迷にも関わらず、バッテリーメタルの相場は、長期的には強気である。

ニッケル価格は、需要に加えて、使用される電池の種類にも大きく左右される。ニッケルを必要としないリン酸鉄リチウム(LFP)電池は特に中国で大きく普及しており、市場シェアは2020年の20%から現在では約50%にまで拡大し、ニッケル需要を減少させている。一方、ニッケルを多く含むNCM(ニッケル・コバルト・マンガン)電池は、依然として市場で約40%のシェアを維持しており、今後も拡大が予想されている。ステンレス鋼製造は、ニッケル需要の主な推進力であり続ける。供給サイドでは、インドネシアが2024年に精製ニッケル供給の60%を占める主要生産国となっており、2015年にはほとんど供給がなかった状況から劇的にシェアを拡大したが、資源の枯渇という問題に直面しつつある。インドネシアのサプロライト鉱床の埋蔵量は、新たな発見やアップグレードがなければ2038年までに枯渇すると予測されている。インドネシア政府は新規ロータリーキルン電気炉(RKEF)製錬所の建設停止や採掘割当の厳格化といった対策を検討し、国内供給の減少を補うため、フィリピンからのニッケル鉱石の輸入を増加させている。短期・中期的には、ニッケル市場は供給過剰に直面しており、価格は18,000US$/tを超えることはないと予測する。この低価格の環境で、一部の豪州の生産者は操業を停止しており、需給ギャップが発生して価格が回復するまでは再稼働はしない可能性が高い。

コバルトについては、2023年から2030年にかけて、主にLIB需要による年平均10%の需要成長率が見込まれている。コバルト需要はEV市場に依存しており、その傾向は今後も続く。供給サイドでは、近年の生産は中CMOC社(洛阳栾川钼业集团股份有限公司)が所有する2023年に稼働したDRコンゴKisanfu鉱山により牽引されている。2024年だけでも、コバルト供給は33千t増加すると予測されているが、そのうち23千tはKisanfu鉱床からのものである。さらに、同じくCMOC社が所有するDRコンゴTenke Fungurume鉱山から8千tの供給があり、CMOC社が2024年の供給増加のほぼ全体を担っていると言える。今後については、Kisanfu鉱山に匹敵する規模のプロジェクトがないため、コバルト供給の成長ペースは鈍化すると予想される。市場バランスと価格に関しては、コバルトはニッケルと似た動きをすると思われ、短・中期的には供給過剰が価格を抑制し、2024年の平均年間コバルト価格は26,000US$/tと予測し、実質的には2015年以来の低水準となると思われる。しかし、供給量の減少と需要拡大の継続により、2028年までに供給不足に転じ、2030年代には価格は40,000US$/tを超える可能性が高い。

リチウム市場は最も弱気なものだが、需要サイドでは、リチウムはバッテリーメタルの中では最も強気である。現在から2030年にかけてのリチウム市場の年平均成長率(CAGR)は17%に達すると予想され、これは主にEVとエネルギー貯蔵システム(ESS)セクターによって牽引される。こうした長期的な需要にもかかわらず、供給サイドはプレッシャーを感じ始めており、現在スポジュメン精鉱の価格は800US$/t前後で、価格がこの水準にとどまると採算がとれず、鉱山閉鎖の危機にさらされる。これが、豪州や中国南部ですでに鉱山の閉鎖が見られる理由のひとつである。価格低迷が続くと、生産抑制に動き、それが価格を下支えする。リチウム価格は底値に近づいている可能性が高く、今後は他の金属と同じく短期的には供給過剰が予想され、価格上昇は限定的である。2025年までには、平均価格は10,000US$/t前後で推移し、2027年から2028年にかけては、市場が供給不足に転じることが予想され、価格を上昇させると予測する。

全体として、現在の様々な課題があるにも関わらず、バッテリーメタルに対する長期的な需要は強く、短期的には供給過剰だが、長期的には供給不足になる可能性が高い。鉱山の開発と生産開始には数年かかることから、新規生産能力への投資が近い将来に必要とされていると分析する。

おわりに

2024年のLMEウィークでは、2023年に引き続きエネルギー転換に必要な銅が最も注目を集めていた。LME Week直前に発表された米国連邦準備制度理事会(FRB:Federal Reserve Board)による政策金利の誘導目標の引き下げや、中国の最新の景気刺激策(金利引き下げ、銀行への資金供給、株式への流動性支援、住宅購入規制の緩和など)のニュースなどにより、欧米の需要が低迷していた2023年に比べて、参加者心理はやや改善したものになっていたという4

複数の異なるパネルや報告で、登壇者たちが市場動向を語る際には不確実性(uncertainty)という言葉を度々使用しており、短期的な市場予測が困難な現状が伺え、各コンサルティング企業のアナリストたちも2025年の価格予測をするのではなく、中長期的な見通しを示す報告を行っていた。

不確実性の要因としては、主に中国の経済成長とEV市場の成長鈍化、不安定な国際情勢によるサプライチェーンの混乱(例:米中対立、露によるウクライナ侵略、中東情勢等)、生産コスト増大、急速な技術進歩による特定鉱物の代替可能性(例:LIBに代わりナトリウムイオンバッテリーの開発が進む可能性)等が挙げられた。

全体として、中国の需給に市場が左右された時期を過ぎて、より多くの要因が市場に変化を与えるようになり、脱グローバル化(deglobalization)が進む中で各国・地域ごとに異なるエネルギー転換を実行し、サプライチェーンの強化をしなければならないという認識が共有されていた。


  1. 1. ISRIはRecycled Materials Association (ReMA)と2024年4月に名称を変更している。
    https://www.argusmedia.com/en/news-and-insights/latest-market-news/2559494-isri-rebrands-to-rema-drops-scrap-from-name
  2. 2. ある廃棄物がリサイクル等の処理を受け、特定の条件を満たした場合、廃棄物として扱われず、製品または資源として扱われるための基準。EUでは、この条件が「廃棄物枠組み指令」によって規定されている。
    https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/02/ae6739a6a5e4f4e3.html
  3. 3. https://warwick.ac.uk/fac/sci/wmg/research/scip/reports/defra_scrap_recycling_report_wmgfinal.pdf
  4. 4. https://www.reuters.com/markets/commodities/lme-week-consensus-is-bright-future-short-term-pain-2023-10-17/

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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