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報告書&レポート

2025年3月5日 バンクーバー 事務所 五十畑樹里
25-08

AME Roundup2025参加報告

<バンクーバー事務所 五十畑樹里 報告>

はじめに

2025年1月20~23日、Association of Mineral Exploration(AME)が主催する鉱業カンファレンスAME Roundupが、加BC州Vancouverにて開催された。本カンファレンスは毎年Vancouverで開催され、世界中から6,000人以上の鉱業関係者(政府、鉱山企業、先住民団体)が集まり、プレゼンテーションやブース展示、パネルディスカッションが行われる。

今回、2024年に開設したBC州の鉱山・重要鉱物省(Ministry of Mining and Critical Minerals)の今後の政策動向に注目し、同省の大臣が登壇した講演およびパネルディスカッションを聴講した。また、昨今世界的に関心が高いバッテリーメタルについて、Wood Mackenzie社のバッテリーメタルの市場動向に関するプレゼンテーションを聴講した。本レポートでは、以上3件について内容を報告する。

1.Jagrup Brar BC州鉱山・重要鉱物大臣

2024年にBC州内で投じられた探鉱費が、過去4番目に高い5.5bC$となったことを紹介。同州内において鉱業分野への投資が堅調に推移していることを強調した。また、現在BC州政府が探鉱許認可に係る承認日数の短縮に取り組んでいることも紹介。BC州の探鉱協会であるAMEとの定期的な意見交換により、さらなる日数の短縮に努めるとした。

今後の課題としては、現行のBC州の鉱業権申請を定めるThe Mineral Tenure Act(以下MTA)において、鉱区申請時に先住民団体との協議が義務付けられていないことを挙げ、まずは、2025年3月26日までに鉱区申請システム(Mineral Titles Online、以下MTO)を改修するとした。

背景としては、BC州の先住民団体であるGitxaala族とEhattesaht族が、BC州政府を相手取り、鉱区登録前に協議が行われなかったとして訴訟を起こしたことがある(カナダ憲法35条とBC州のDeclaration on the Rights of Indigenous Peoples Actに基づく協議義務違反を主張)。本件については、2023年に同州最高裁判所がBC州政府に対し、現行の制度は先住民の権利を侵害しているとの判決を下していた。

2.パネルディスカッション

Jagrup Brar BC州鉱山・重要鉱物大臣
Caitlin Cleveland NT準州産業・観光・投資大臣
John Streicker YT準州 鉱山資源大臣

BC州、NT準州、YT準州の各鉱山関連大臣が登壇し、鉱業部門と各州経済との関係や米Trump政権となった米国およびカナダ国内の他州との連携の重要性について議論が行われた。

米国がカナダに関税25%を課す件について対応方針を問われたBrar大臣は、BC州としては連邦政府や他州と連携しつつ抵抗するとした上で、重要鉱物に関する影響という点では、約800mC$相当のアルミニウムが米国に輸出されていることを紹介し、鉱物分野で米国がカナダに大きく依存している事を指摘した。なお、米国政府は、アルミ・鉄鋼の輸入については、一律で2024年3月12日より25%の追加関税を課すことを既に公表している。その他の品目については、カナダに対しては、2025年2月1日から関税を課す予定とされていたが、同月4日に、カナダへの関税は1か月延期となった。3月以降の課税については、両政府の交渉次第という状況である。

一方、YT準州のStreicker大臣は、加Fireweed Metals社のMactungタングステンプロジェクトについて、米国防総省(Department of Defence:DOD)とカナダ連邦政府が合計35mC$を投資したことを例に挙げ、北米内での鉱物資源確保においてカナダと米国は協力関係にあるとして、商業化への期待を述べた。また、鉱業におけるインフラ整備の重要性について、YT準州の送電網をBC州と接続するプロジェクトが進行中である事を例に挙げ、大規模鉱業プロジェクトを後押しするものと紹介した。

NT準州のCleveland大臣は、産業投資を呼び込むためにはグリーンエネルギー開発が不可欠であるとし、同州のTulsan水力発電の拡張計画を紹介した。この拡張で州内の70%の電力が賄えると述べ、今後は州北部のMackenzie Valley highwayの道路整備により、州内外のアクセスを向上させるとした。道路インフラは、地域への投資を活性化させるだけでなく、北極圏地域の政治的、経済的孤立を防ぎ、住民の生活を保護するものであると強調した。

3.Rowena Alavi-Gunn WoodMackenzie社シニアアナリスト

Trump政権への移行を契機に、米国内での電気自動車(EV)の販売はさらなる鈍化が予想される。一方、Wood Mackenzie社の試算によると、2035年までの米国EV販売台数は、世界市場のうち14%以下と予測され、EV世界市場への影響は限定的とみている。

2024年のバッテリーメタル(ここではリチウム、ニッケル、コバルトを指す)価格は低迷し、世界需要も弱かったが、今後世界の需給バランスは、2030年代に供給不足に陥ると予想。リチウムの2025~2035年における需要量は大きく伸びるとして、世界需要の年平均成長率を9.4%と予測した。また、Wood Mackenzie社が試算したデータに基づくと、リチウムは年間で約6.0bUS$の開発投資が必要とみている。

ニッケルは、中国の投資によってインドネシアの生産量が増加し、足元では世界的に供給過剰であるが、リチウム同様2030年には供給不足に陥ると予想。欧米諸国は、供給源多角化のため、フィリピンなどラテライトニッケル鉱床地域との関係強化を図る必要がある。

コバルトについては、同じく2030年代に供給不足に陥るが、いくつかの現在進行中のプロジェクトが稼働することで、供給不足を解消できる見通しである。ただし、リサイクルなど二次原料からの生産も多く、価格が低迷すると供給量が減少し将来の供給見通しに影響が及ぶ可能性がある。

グラファイトの需要は堅調であり、日本、韓国、米国で人造黒鉛に対する投資を増やす必要がある。天然黒鉛については、中国での純化・球状化行程が必要であるため、人造黒鉛の方が供給源を多角化できる可能性が高い。しかし、人造黒鉛の生産拡張には大規模設備投資が必要で、生産までに時間を要することが課題である。

資源メジャーは、カーボンニュートラルと分散投資の観点から、鉄鉱石及び石炭から銅、ニッケル、リチウム等のコモディティへの投資を増加させるとみている。

また、将来、バッテリーメタルの市場規模が成長することを見越し、価格が安価な現在のうちに投資を行うことは、企業成長の機会であると、資源メジャーをはじめとした鉱山企業関係者に呼びかけた。

おわりに

2025年のAME Roundupのメインテーマは、“Securing our future”で、各講演において、重要鉱物産業支援、先住民、市場経済の観点から、鉱業界の将来を発展させるため、何をすべきかが議論された。重要鉱物の上流開発投資を促進するため、官民双方の試行錯誤が続く。

2025年1月8日にBC州政府は、MTO改修のための新たなフレームワークMineral Claims Consultation Framework(MCCF)の案を公表した。同年3月26日に向けて、現在、専門家や関係者から意見を募っている。案によると、事業者が鉱区を申請後、州政府が先住民団体に対し、協議申請(Consultation packages)を提出する。州政府が、先住民団体と事業者の仲介役を果たすことで、先住民団体の事前許可なしに、事業者が鉱区に立ち入ることを防ぐ目的がある。BC州のEby首相は、同AME Roundup内において、探鉱事業者の負担を軽減するため、先住民団体との協議は州政府が管理すべきだと述べ、「先住民が鉱山の権益パートナーとなることで、利害が一致し、より許認可のスピードを上げることができる」とコメントした。

しかし、報道によると、一部の探鉱事業者は、新システムを複雑であると指摘しており、そのうちの多くの探鉱企業がBC州での探鉱中止を検討している。

なお、既にNT準州では、2019年に同州の鉱業規則Mineral Resources Actにおいて、鉱区申請時、先住民団体に探鉱予定を通知することを定めている。NT準州は、人口のうち49.6%が先住民であり、その存在を無視することはできない。鉱業における先住民との関係構築は、カナダにとって最重要事項と言っても過言ではない。

BC州政府は、2019年にカナダ国内で最初に「先住民族の権利に関する国際連合宣言(UNDRIP)」に批准している。鉱業においても、先住民の権利保護に一層積極的となれるか、BC州政府の今後の動向が注目される。

参考

  1. 2023年10月3日付 ニュース・フラッシュ:BC州最高裁、同州の鉱区申請制度は先住民族の権利を侵害しているとの判決
  2. Gitxaała Mineral Tenure Case to be Heard at BC Court of Appeal – Gitxaala Nation
  3. Supreme Court of British Columbia finds that Province has a duty to consult on mineral tenure claims – Osler, Hoskin & Harcourt LLP
  4. Mineral Claims Consultation Framework (MCCF) in B.C. – Province of British Columbia
  5. Mineral Titles Online – Province of British Columbia
  6. Modernizing the Mineral Titles Online (MTO) registry project – Province of British Columbia
  7. Proposed BC rules threaten exploration: prospectors – The Northern Miner
  8. https://www.northernminer.com/news/ame-roundup-bcs-eby-unveils-a-3-pronged-approach-to-bizarre-u-s-tariffs-threat/1003875054/
  9. Prospectors, industry analysts in B.C. concerned as deadline to implement reformed mineral claim system draws closer – Canadian Mining Journal
  10. What is Mineral Tenure Act reform? – Mineral Tenure Act Reform
  11. An Overview of Policy Intentions That Will Guide the Drafting of Regulations for the NWT Mineral Resources Act
  12. 2019年10月30日付 ニュース・フラッシュ:BC州、「先住民族の権利に関する国際連合宣言(UNDRIP)」の方針に沿った法案を提出
  13. Focus on Geography Series, 2021 Census – Northwest Territories

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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