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報告書&レポート

2025年3月6日 リマ リマ事務所 村井裕子、初谷和則
25-09

ペルー鉱業技師協会主催「鉱山労働者の日」記念講演会概要

<リマ事務所 村井裕子、初谷和則 報告>

はじめに

ペルーでは12月5日に「鉱山労働者の日(Día del Minero)」と呼ばれる記念日がある。2024年のこの日にペルー鉱業技師協会(IIMP)が開催した「鉱山労働者の日」記念講演会では、エネルギー鉱山省(MINEM)幹部の講演のほか、パネルディスカッションで鉱業関係者による率直な意見交換が行われた1。以下にその概要を報告する。

1.「2024年の成果と2025年の展望」 MINEM Martha Vasquez鉱業管理課長講演

1-1.MINEMの「2024年鉱業投資見通し」2、「2024年探鉱プロジェクト見通し」3記載プロジェクト進捗状況

  • 2024年はAntamina銅鉱山拡張プロジェクト(Ancash州)の環境影響詳細調査修正書(MEIA)が承認され、鉱物処理権拡張が申請された。またTantahuatay金鉱山拡張プロジェクト(Cajamarca州)のMEIA、Yumpag銀プロジェクト(Lima州)の採鉱許可等が承認され、開発投資が実行中である。7月に再開したTia Maria銅プロジェクト(Arequipa州)では技術根拠報告書(ITS、環境許認可の一部変更)が承認され、Tapadaピット採鉱許可が申請された。また、Raura銅・鉛・亜鉛鉱山拡張プロジェクト(Lima州)のMEIAや鉱物処理権の許認可が承認された。
  • 2025年はZafranal銅プロジェクト(Arequipa州、1,263mUS$)、 Pampa de Pongo鉄鉱石プロジェクト(1,781mUS$)の開発・投資実行が期待される。
  • MINEMは、Las Bambas銅鉱山Chalcobamba 鉱床開発プロジェクト(Apurimac州)、Corani銀プロジェクト(Puno州)、Tia Maria銅プロジェクト(Arequipa州)、Yanacocha硫化鉱開発プロジェクト(Cajamarca州)の開発実現に特に注力している。
  • 探鉱プロジェクトに関しては2024年11月時点で9件の環境許認可、5件の探鉱活動開始許可を承認し、先住民事前協議を8件完了した。

1-2.鉱業関連手続き簡素化・規則改善

  • 探鉱関連:環境許認可と水関連許可の一括申請が可能となった4。また環境調査票(FTA)の簡易版が導入された5
  • 操業関連:鉱物処理施設の操業許可手続き改正(自主検査や申告制の導入)6、鉱業安全衛生規則改正7、鉱物処理量上限引き上げ8等が実現した。
  • 休廃止鉱山鉱害(PAM)法の一部改正9により、責任者不在のPAM対策を担うMINEMや業者が、環境評価監査庁(OEFA)の監査・処罰の対象外となった。なお、これまではMINEMがPAM対策資金をOEFAに罰金として支払う事態が発生していた。
  • 鉱業関連手続きのワンストップサービスを目指すデジタル単一窓口(VUD)は、本システムに参加する政府機関10件の内部規則見直しを進行中のほか、世界銀行による支援が開始され2025年4月の投資前調査と技術文書の枠組み・要件完成、技術文書作成開始を目指す。

1-3.MINEMの2024年の成果

  • 鉱業セクター全体で合計172件の環境許認可審査を完了した。
  • 探鉱プロジェクト50件(投資総額208.6mUS$)の環境許認可を承認した。
  • FTA審査は、法定審査期限の履行率100%を達成し、品質認証ISO20015を再取得した。ITSについても同様の認証取得手続きを進行中である。
  • MMG Las Bambas社(431.7mUS$)、加Hudbay社(2,170mUS$)との税安定契約付帯書を締結した。探鉱における売上税還付契約を新規3件、付帯書3件を締結した
  • 134件の詳細エンジニアリング技術文書(3,805mUS$)を承認した。
  • 加Barrick Gold社、加Globe Trotter Resources社等に対する国境50km内エリアでの探鉱活動を許可した。その他複数企業の国境エリアの活動申請についても許可手続きを進行中である。
  • 2050年に向けた鉱業政策の策定のための多セクター作業グループを設置した。

2.パネルディスカッション

MINEM講演後のパネルディスカッション参加者と、テーマごとの発言は次のとおり:

Buenaventura社Juan Carlos Ortiz操業担当副社長(JCO)、MINEM総合社会対策室Fernando Castillo顧問(FC)、Minera Poderosa社Gustavo Ramirezシニア弁護士(GR)、CIEMAM社Homar Lozano GM(HL)、Minera Antamina 社Yajaira Mosqueiraシニア技師(YM)、MINEM Mirtha Vasquez課長(MV)。

2-1.許認可手続き

(JCO)制度改善の取組は認められるが依然手続きは煩雑だ。鉱山では雨量増加等によりコンベアを2m移動したり、貯水槽を設置したりするのにも当局の承認が必要である。まるで自宅の壁の絵を少し動かすのに役所手続(技術文書作成、提出、審査、承認、事後監査)が求められるようなものだ。選鉱量上限引き上げの制度改正は、選鉱量増加の前提である増産も併せて可能な改正とすることが望ましい。既存の低品位鉱石の処理による増産には限界があり、現場で真に有効な規則改正が重要だ。

(FC)煩雑な手続きと社会争議はペルー鉱業の長年の課題である。Fraser Institute社は企業アンケートの回収を開始したが、ペルーの投資魅力指数下落が6年連続とならないことを祈る。近隣諸国が投資誘致のため制度改善に取り組む中、ペルーでは違法鉱業が増加し、合法鉱業には多数の省庁が関与する過剰な手続きが存続する。

(GR)重要なのは鉱業投資見通しリストのプロジェクトが開発に至ることである。依然些末な事項に不均衡な煩雑な手続きが存在する。環境影響調査はあくまで事業前の調査手続きであり、操業中の条件の変化に対応できる柔軟性が必要である。水資源庁(ANA)等からも論文並みの情報・文書作成が求められており、簡素化の余地は大きい。

(MV)軽微の変更等に関して、環境関連機関で適用されている(審査・承認プロセスを経ない)「通知」制度をMINEM手続きに適用することは検討可能と考える。

2-2.非合法鉱業問題

(JCO)多くの重要プロジェクトで非合法鉱業の存在や侵入が起きているが、制度上の空白で排除等の対応ができず探鉱や開発の実現が不透明な状況となっている。許認可が軽減されても違法鉱業の占拠で鉱山建設ができなければ、開発は不可能だ。

(FC)2022~23年以降、鉱業関連の社会争議が大幅に減少したのは、単に反対派が違法鉱業に活動転向したからだ。鉱業に限らずインフォーマルセクターは国の経済活動の8割を占める。Tambo Grande、Conga、Cerro Corona、Las Bambas銅鉱山Sulfobamba鉱床等の鉱業エリアには数千人規模の違法マイナーが存在し、金属価格高騰や大統領選の接近により2025年は状況悪化が予想される。

国会は合法化登録制度(REINFO)を半年間延長したが、恐らく半年後に違法マイナーは再度デモを行い再延長を獲得するだろう。違法経済活動の主流は、かつての麻薬取引から違法鉱業に移行した。なお麻薬取引は25~30年の実刑対象だが、(合法化制度等を利用した)違法鉱業は実質無罰則だ。市場規模は違法鉱業10bUS$、人身売買2.8mUS$、麻薬2.3mUS$とされる。政治的決断なくこれだけ巨大化した違法鉱業の解決は不可能だ。インフォーマル業者の合法化は支援すべきだが、合法化する意図のない違法鉱業は撲滅しなければならない。

(GR)違法鉱業問題は鉱業投資を阻む要因の1つにもなっている。Minera Poderosa社が活動するLa Libertad州Pataz郡も違法鉱業関連の犯罪組織による恐喝、殺人、組織間抗争が繰り広げられ非常に困難な状況である。これら犯罪組織や被害は他地域にも拡大しつつあり、我々は目をそらすべきではない。かつてのテロの時代のように、この国が違法鉱業や犯罪集団に支配されるのを見たくはない。

(鉱区取得等の法的手続きを踏まない操業を容認する)REINFOは既存の鉱業権と重複・並行する制度であり、本来の鉱業権制度の回復が必要である。法制度の不機能は投資減退を招く。既存制度REINFOに替わる小規模・零細鉱業(MAPE)法は非常に重要であり、政治的介入を極力阻止し技術・法的な観点から整備しなければならない。

違法鉱業撲滅には爆薬、精製プラント、輸送車両、生産量、最終目的地等の生産チェーン全体をカバーする制度が必要である。プラント総数は300件程度で管理不可能な規模ではないが、政治的決断が必要である。

(HL)正規鉱山では閉山保証金の納付が義務だが、MAPE法で保証金は規定されるのだろうか。また違法鉱山操業後のPAMはいずれ国が閉鎖を担うことになる。さらに違法鉱業は閉鎖対策済みの坑口等を開いて活動し、責任が鉱業権者に転嫁されることを考えれば、合法経済活動は国を挙げて保護されるべきだ。30%の合法経済が損害を被る傍ら、インフォーマルが受益するようなことがあってはならない。

(MV)大臣は本問題に正面から取り組んでおり、MAPE法制成立を目指している。

2-3.閉山/PAM

(HL)閉山は新たな事業チャンスになりうる。ペルーでは3千件のPAMが未管理状態の一方、歴史的な鉱山跡がありながら他国のような再開発(博物館、スタジアム建設等)の成功例が存在しない。PAM関連法の更新が準備されているのはポジティブなことであり、また廃滓回収事業を後押しするインセンティブ、制度更新も必要だ。

(YM)前職加Barrick Gold社のPierina金鉱山では、ペルーではベンチマークとなる大規模鉱山の閉山例が少なく制度上の空白もある中、国外の専門家の助言等も得ながら閉山・修復・安定化にあたった。

おわりに

MINEM幹部による主に2024年の成果を示すプレゼンの後、企業関係者が手続き簡素化は道半ばであることや非合法鉱業に関する多大な懸念について率直に意見し、現場での日々の苦労を嚙み砕くように説明していたのが印象的であった。近年の鉱業争議の低減の背景として、反対派が違法マイナーに転向したという指摘は新たな視点であり、今後も関連情報をウォッチして参りたい。


  1. 1  講演会はYouTube IIMPチャンネル“Celebración y Reflexión en el día del Minero – Jueves Minero IIMP”で視聴可。概要はIIMPニュース“En el 2024, se otorgaron certificaciones ambientales a 50 proyectos de exploración por US$ 208.6 millones”“IIMP REALIZÓ JUEVES MINERO ESPECIAL POR EL DÍA DEL TRABAJADOR MINERO”に掲載。
  2. 2 MINEM“CARTERA DE PROYECTOS DE INVERSIÓN MINERA 2024
  3. 3 MINEM“CARTERA DE PROYECTOS DE EXPLORACIÓN MINERA 2024
  4. 4 環境省(MINAM)“Decreto Supremo N.° 028-2023-EM
  5. 5 MINEM“Resolución Ministerial N.° 237-2024-MINEM/DM
  6. 6 MINEM“Decreto Supremo N.° 002-2024-EM
  7. 7 MINEM“Decreto Supremo N.° 034-2023-EM
  8. 8 MINEM“Decreto Supremo N.° 011-2024-EM
  9. 9 官報El Peruano“DECRETO LEGISLATIVO Nº 1670

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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