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報告書&レポート

2025年3月31日 バンクーバー 事務所 五十畑樹里
25-10

PDAC2025参加報告

カナダにおける鉱業概況について

<バンクーバー事務所 五十畑樹里 報告>

はじめに

2025年3月2~5日、加ON州Torontoにおいて探鉱者・開発者協会年次総会(Prospectors & Developers Association of Canada Convention、以下PDAC)が開催された。PDACは世界最大級の非鉄金属鉱業大会で、毎年1,100のブース展示があり、世界各国、地域から約27千人の鉱業関係者が一堂に会する。

本報告では、カナダ全体と近年鉱業分野の成長が著しいON州、QC州の鉱業概況について紹介するとともに、本大会内で議論された内容を報告する。

1.カナダ

カナダの鉱物生産額は約75bC$で、このうち同国の重要鉱物としては、銅、ニッケル、カリウム、鉄(重要鉱物は高品位鉄)が生産額の上位を占めている。1

加連邦政府は、2022年から重要鉱物戦略として連邦予算のうち4.0bC$を割り当て、重要鉱物の国内生産を15%増加させることを目指している。また、過去2年間で重要鉱物戦略のもと、既に700mC$以上の投資を行った。2024年のカナダにおける探鉱関連費は、4.1bC$で、そのうちON州は1,067.3Cm$(2023年:975.4mC$)と他州と比較して大きく成長した。2025年はQC州がON州を抜いて1,144.9mC$(2024年:800.1mC$)に達する見込みである。

Wilkinson連邦エネルギー・天然資源大臣は、PDAC内でカナダ国内の重要鉱物の開発を支援するため新たに2件の支援策を表明した。

  1. 1)フロースルー株式*の投資家に対する15%の鉱物探鉱税額控除(Mineral Exploration Tax Credit:METC)の期限を2年間延長。
    * Flow Through Share:FTS、カナダ国内で行われている探鉱プロジェクトに関する資金調達に際し、株式の対価額相当まで探鉱・開発費用を投じることができるという合意のもと探鉱企業が発行する株式。
  2. 2)最大50mC$を提供しプロジェクト32件を新たに支援。

同大臣は「PDACでこの声明を発表することは、重要鉱物分野におけるカナダのグローバルリーダーとしての立ち位置を示すものだ。世界は、今後さらに重要鉱物の需要が増加し、我々の経済と国家安全は、カナダの資源と効果的な市場アクセスの確保にかかっている」とコメントした。

しかし、現在カナダは最大の貿易相手国である米国との関係が懸念されている。PDAC会期中の3月4日、米Trump政権によってカナダ産のエネルギー資源に10%の関税(その他加製品は25%関税)の発動が公表され、カナダのエネルギー産業界からは失望や憤りの声が上がっていた。(本件については、6日に米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に適合した輸入品について、4月2日まで追加関税を保留することが発表された。)

カナダ政府は対抗措置として、同じく3月4日より、米国から輸入される30bC$相当の製品に25%の関税を公表した。2023年の米加間の鉱物貿易額は146.0bC$(前年比5%増)で、カナダは米国に84.0bC$の鉱物を輸出した。2

Marc Serréエネルギー・天然資源大臣政務官は、PDACオープニングセレモニー内で、米国を「最も近しく強力な関係を持つ国の1つ」とした上で、北米の繁栄と安全保障のため、互いに関税をかけるのではなく、共に発展するチャンスをつかむべきだと強調した。

2.ON州

2025年1月28日時点では、36件の鉱山プロジェクトが存在し、ON州の鉱業部門の生産額は、同州のGDPの約3割(23.8bC$)に相当する。重要鉱物の生産については、9件の鉱山と10件の製錬所があり3、これら19件の合計生産額は6.4bC$である。重要鉱物の中でもニッケルは、伯Vale社がSudbury市に複数鉱山(Coleman、Copper Cliff Complex、Creighton、Garton、Totten)を所有している。

ON州の鉱業部門に対する投資は堅調で、2024年の探鉱費は、前述のとおりカナダ国内で最大であった。2023年時点で探鉱費は既に1.0bC$近くとなっており、同国の総探鉱費の23%をON州の探鉱費が占めていた。近年では、ON州のRing of Fire地域が、ニッケル、コバルト、銅などの重要鉱物のポテンシャルを持つ未開発大規模鉱床群として注目されている。

また、2024年は、ON州において5.2bC$以上の資本支出があったが、オンタリオ鉱業協会(Ontario Mining Association、OMA)のPriya Tandon会長は、「インドネシアや中国と比較してまだ十分ではない」と主張。更なる投資が必要であり、そのために、全ての関係省庁が戦略的に鉱山プロジェクトを把握し、許認可効率化を含め課題を明確にして協力する必要があると述べた。

また、2023年のON州の鉱物輸出額は64.0bC$と好調で、そのうち42.0bC$が米国に輸出されている。4重要鉱物に限ると、57%が米国向けで輸出額は5.7bC$であった。なお、米国が2022年に輸入したニッケル130千tのうち7割が、Vale社のSudbury鉱山のものである。Priya氏は、ON州と米国との貿易状況を踏まえ、「今回の米国による関税は、これらの貿易関係と北米のサプライチェーンの安全を脅かすものである」と述べた。

3.QC州

2023年のQC州の鉱物生産額は20.9bC$5で、カナダの鉄鉱石生産量のうち50%、ニッケル生産量のうち40%がQC州産である。昨今ではリチウムプロジェクトの開発も活発であり、現在8件のプロジェクトが進行中で、カナダで開発中のリチウムプロジェクトのうち50%以上をQC州が占めている。さらにグラファイトについては、100%がQC州産である。

現在、QC州では、Nouveau Monde Graphite(NMG)社が、鱗片状黒鉛のプレ商業生産と負極材料のパイロットプラントの試験操業を行っている。鱗片状黒鉛の生産量は100千t/年で、30か月間の建設期間とプロジェクト・ファイナンスを経て、正式に商業化される。2024年12月には、QC州政府とCanada Growth Fund(CGF)から合計50mUS$の投資を受けた。

NMG社のEric Desaulniers社長兼最高経営責任者は、プロジェクトについて、生産面で負極材プラントは低エネルギーコストで運営が可能であり、市場面では米加両国にアクセスしやすい立地であることが強みであると説明した。また、多くの投資を呼び込んだ要因を問われた際には、ESG(環境・社会・ガバナンス)遵守とカーボンニュートラルな生産であることを強調した。具体的には、水力発電の使用と先住民Manawan族との10年越しの交渉の成果によって、協定を結んだことを紹介した。

QC州全体としても、水力発電の生産は世界上位5位に入るとされており、持続可能な鉱業の実施と米国、欧州、アジア市場へのアクセスの良さをアピールしている。ESG遵守という点で、生産コスト高になることが懸念されるが、QC州は、重要鉱物の供給源の多角化の点も踏まえ、コストよりもESG面を重視し信頼に足る鉱産物の生産に重点を置いている。QC州のMaïté天然資源・森林大臣は、「QC州は、重要鉱物生産においてリーダーとなり、今後も世界のエネルギー転換に誇りをもって貢献したい」と述べた。

おわりに

バンクーバー事務所では、本PDACに毎年ブースを展示しており、今年は約150社のジュニア企業、コンサルタント会社、投資会社、各国政府関係者等がブースを訪れた。特に探鉱案件についての問い合わせが多く、銅やバッテリーメタルなどの重要鉱物を中心に様々な案件交渉が行われた。

資源国ならではの活発な議論の傍ら、カナダは最大の貿易相手国である米国との関係性が懸念される現在、北米だけでなく、世界の鉱物サプライチェーンの中での価値が問われていると感じる。同国は鉱業部門において高いESG基準と政治的安定性が評価されている一方で、鉱山運営コストの高さ、先住民との関係構築の複雑さ、許認可プロセスの遅延など課題も多い。また現状、カナダで最も活発に探鉱及び生産されている鉱種は金であり、バッテリーメタルをはじめとする重要鉱物開発については、未だ発展途上である側面もある。

カナダは、世界の鉱物サプライチェーンの供給源多角化のため、他国と協働しつつも、豪州や南米等の資源国と差別化を図る必要がある。カナダ産の鉱物にいかにコスト競争力を持たせるかが今後のカナダ鉱業にとって重要な点であり、世界的なESG投資基準の高まりはカナダ鉱業にとって追い風となる可能性がある。

参考

  1. Advancing Canada’s Critical Minerals Strategy to Strengthen Supply Chains and Global Competitiveness at PDAC 2025 – Canada.ca
  2. Investing to Make Canada a Global Critical Minerals Superpower – Canada.ca
  3. Quebec’s Mining Excellence in the Spotlight in Toronto – A Fruitful Convention that Showcased Quebec’s Mining Sector and its Responsible Development Government of Quebec
  4. The Atikamekw First Nation of Manawan and NMG Sign an Impact Benefit Agreement for the Matawinie Mining Project
  5. NMG » Bécancour Battery Material Plant

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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