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報告書&レポート

2025年12月17日 ロンドン 事務所 ボネット佳林
25-22

Vision 2035:英国重要鉱物戦略

<ロンドン事務所 ボネット佳林 報告>

はじめに

英国ではグリーン移行の加速に伴い重要鉱物の需要が急増し、供給網の脆弱性が課題となっている。本稿では、英国政府が発表した「重要鉱物戦略 – ビジョン2035」の概要と、その背景、政策目標、実施計画について整理する。

1.概要

英国政府は2025年11月22日、2035年までに重要鉱物の安定性と持続可能性のある供給を確保することを目的とした重要鉱物戦略を発表した。英国では、グリーン移行が進む中、2035年までに銅の年間需要がほぼ倍増し、リチウムの需要は千%以上増加すると予想されているが、多くの重要鉱物の採掘、加工における供給網の偏りや、自然環境の変化や地政学的な影響を受けるなどその脆弱性が問題視されている。このような背景から、英国政府は、重要鉱物産業の重要性と成長可能性を認識し、供給網の多様化を図るとともに、当産業の強靭性を高めることを目指し、「重要鉱物戦略 – ビジョン2035」を発表した。

本戦略は、重要鉱物の確保に関する英国の長期的な目標と、リサイクルおよび中流工程(採掘またはリサイクルされた材料を、製造に適した精製または高度化された形態に変換する工程)における競争優位性の活用を定めている。英国は自国の利用可能な鉱物資源と能力を戦略的に活用するとともに、EUのような英国と同様の純輸入国や、カナダ・豪州のような主要生産国を含む国際パートナーと連携し、より強靱で多様化されたサプライチェーンを構築する。同国が保有する世界トップクラスの研究開発、中流加工・リサイクル能力、活発な資本市場などの強みを活かし、産業戦略の8つの成長牽引分野に向けた重要鉱物の強靱かつ持続可能な供給を確保する。政府全体の取り組みに焦点を当て、産業界との協力を支援するため、2つの主要な政策目標を設定する。

  • 国内生産の最適化
  • 英国および世界の供給ネットワークの強靱化

これを実現するため、国家資産基金(NWF)や英国輸出金融公社(UKEF)を含む強力な公的金融支援を通じて英国企業を支援する。対象企業にはエネルギー価格支援を提供し、新たな英国産業競争力スキーム(BICS)を導入。また、2025年度歳出見直し後、ビジネス・貿易省(DBT)は英国の重要鉱物プロジェクトに対し最大50m£の資金支援を提供する。

2.Vision 2035

ビジョン2035の実現に向け、産業界と政府が連携して明確な進展を遂げるため、成功目標を以下のように定義している:

  • 2035年までに、英国の重要鉱物の年間総需要の少なくとも10%を国内生産(一次採掘、加工、精製)で賄う
    これに伴い、2035年までに少なくとも50千tのリチウム(または炭酸リチウム換算)を国内で生産する
  • 2035年までに、重要鉱物の年間総需要量の20%を、製品のリサイクルによる重要鉱物回収で賄う
  • 供給源を多様化し、2035年までに重要鉱物の年間総需要量の60%以上を単一の国に依存しない

これらの目標の達成には持続的な取り組みが必要であり、民間投資と重要鉱物生産者・取引業者・利用者の行動・選択によって実現される。政府は本戦略の措置を通じ、民間セクター活動を促進・支援することで成功の条件を整える。

3.成長鉱物

上記2つの主要政策目標を支援するため、既存の重要鉱物リストに加え、英国初の成長鉱物リストを導入する。これは、産業戦略の成長牽引分野における鉱物の将来需要を予測することで、重要鉱物情報センターによる英国2024重要度評価を補完するものである。将来の重要性及び成長性評価を計画するにあたり、進化するグローバルサプライチェーンの動向の中で英国経済の需要増大を反映するため、対象範囲に追加すべき鉱物・材料を評価している。

図.重要鉱物及び成長鉱物の全体像

図.重要鉱物及び成長鉱物の全体像

3.1. 重要鉱物と成長鉱物への支援

これらの鉱物に対する支援スキームとして、英国ビジネス銀行(BBB)、先端製造業への投資を増やすための資金提供プログラム(DRIVE35)、NWF、UKEF、環境庁(EA)による重要鉱物と成長鉱物への既存支援の拡大、最大50m£の重要鉱物専用支援を含む将来支援が検討されている。

表1.支援対象の重要鉱物及び成長鉱物
アルミニウム アンチモン コバルト ガリウム ゲルマニウム
黒鉛(天然) ハフニウム ヘリウム マンガン ニッケル
白金族※ 希土類元素 レニウム シリコン タンタル
チタン タングステン リチウム  

※イリジウム、ロジウム、ルテニウム(パラジウムとオスミウムを除く)

3.2. 重要鉱物のみの支援

これらの重要鉱物に対する支援には、重要鉱物バリューチェーンにおける企業のNWF資金適格性、輸出に関連するUKEF国内重要鉱物支援、英国輸出向けの海外重要鉱物支援、EAの優先追跡サービスによる初期開発プロジェクトの許認可支援 、BBBによるDRIVE35(適格プロジェクト向け)が含まれる。

表2.支援対象の重要鉱物
ビスマス ホウ酸塩 インジウム マグネサイト
マグネシウム ニオブ リン ナトリウム化合物 テルル
バナジウム 亜鉛      

3.3. 成長鉱物のみの支援

これらの重要鉱物に対する支援には、重要鉱物バリューチェーンにおける企業のNWF資金適格性及びEAの優先追跡サービスによる初期開発プロジェクトの許認可支援が含まれる。また将来的に、UKEFの権限を拡大し、英国産業向けの海外成長鉱物プロジェクトを支援することが検討されている。

表3.支援対象の成長鉱物
ベリリウム クロム ウラン 黒鉛
(天然および合成)

4.実施計画

英国の強みと産業界との緊密な連携協力を活用し、中流工程とリサイクルにおける競争優位性を生かして、成長牽引分野に必要な英国の重要鉱物供給を確保するというビジョンを実現するものである。重要鉱物戦略の実施は年次で見直され、産業界や重要鉱物専門委員会(CMEC)などの機関から適切な意見を得ることになる。

  • 国際協力 – 国内の重要鉱物の安全保障を実現し、国際的なパートナーシップや多国間フォーラムを通じて世界的な強靱性に貢献する
  • 重要鉱物の安全保障構築 – 国内生産とリサイクルの支援、新たな重要鉱物基金の創設、防衛供給網の強靱性構築、分権政府との協力など、英国の安全保障に不可欠な重要鉱物の供給を確保するための取組
  • 資金調達の拡大 –新しいツールの開発や既存ツールを活用し、重要鉱物関連企業やプロジェクトによる資金調達の方法を拡大する
  • 重要鉱物インテリジェンス – 重要鉱物情報センターによる継続的な研究開発や、重要鉱物専門委員会による助言に基づく政策立案を可能にする

重要鉱物産業は、急速に発展しており、複雑かつ動的な地政学的状況下に置かれている。そのため、英国政府は、市場の変化や世界的ネットワークにおける国家介入に対応するため、迅速に対応する必要があり、重要鉱物戦略の目標を達成するため、必要に応じて中期・長期にわたり追加の具体的な取り組みを検討・策定し、進捗報告を行う。また、産業戦略とその成長分野の計画の実施を通じて、ビジョン2035を現実にするため、政府全体で取り組みを継続する。

おわりに

重要鉱物は、英国の経済成長とエネルギー転換に不可欠な要素であり、ビジョン2035の達成には、政府と産業界の協力、国際的なパートナーシップ、そして持続的な投資が求められる。本戦略は、供給網の強靱化と多様化を通じて、英国が世界的な競争力を維持し、グリーン移行を成功させるための重要な指針となる見込みで、今後、戦略の進捗を定期的に検証し、必要に応じて迅速かつ柔軟な対策を取ることが重要である。

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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