報告書&レポート
2030年にかけてのリチウムの需要と供給(チリ銅委員会)
まえがき
本レポートは、チリ銅委員会(COCHILCO)が2020年8月に発行した“Oferta y demanda de litio hacia el 2030”「2030年にかけてのリチウムの需要と供給」をJOGMECサンティアゴ事務所にて翻訳し、チリ銅委員会の許可を得て全文を金属資源レポートに掲載するものである。西語の原文については、以下のサイトからダウンロード可能となっているので、興味のある方は参照されたい。
https://www.cochilco.cl/Paginas/Estudios/Mercados%20de%20metales%20e%20insumos%20estrat%C3%A9gicos/Litio.aspx
第1章 概要
1.1リチウムの需要と供給
リチウムの需要は、2016年に炭酸リチウム換算(以下、LCE)で204千tであったのが2019年には323千tに達したように大幅に増加しており、16%の年平均成長率を記録する。この背景として、主に電気自動車(以下、EV)部門などにおいて充電式リチウムイオン電池(以下、LIB)のためにリチウムが用いられているという事情があり、世界では化石燃料に替わる低汚染の交通手段が求められているため、この状況は今後長期的に続くと予想される。EVにおけるリチウム消費は、2016年に総リチウム消費量のうち18%を占めていたのが2019年には32%となり、過去に市場がこの産業の成長スピードを過大評価する傾向があったことを考慮したとしても、2030年までに約80%に達することが予想される。
近年の需要の伸びに応えるため、供給も増加を強いられることとなった。総生産量は2016年の209千t LCEから2019年の381千t LCEへと増加し、年平均成長率22%を記録した。これは主要生産国である豪州やチリでの操業が増加したことに起因しており、2019年にはそれぞれ全体の48%と29%のシェアを占めた。そして2020年代末にかけて、この両国の生産量は2倍以上に増加すると予想されているが、他国での新規プロジェクトが開発されるにつれて世界全体のシェアは徐々に減少していくとも予想される。
その結果、2016~2017年の間には2大リチウム化合物である炭酸リチウム(2019年の総需要の71%)及び水酸化リチウム(24%)の価格が徐々に上昇し、当該期間中のアジアにおける平均見積価格はそれぞれ167%、97%上昇した。その後、供給の増加やEVの売上見通しに陰りが出るにしたがい徐々に供給過剰となり、2018年以降は価格に下落傾向が見られた。
1.2新型コロナウイルス感染症拡大の影響
新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の拡大により、20世紀の世界大戦以来となる世界的不況が到来した。そのためEVの売上は大幅に減少し、当然価格も下がることとなる。並行して、供給側では現行の操業における生産量低下は確実であるのに加え、新規プロジェクトの開始延期が数多く発表されるに至った。短期的に見ると、この影響は供給よりも需要に大きく見られ、それが価格下落の一因となっている。
これは、不測の事態において経済危機の影響がどれだけ短期間に感じられるかという経済学的議論に関する問いである。状況は引き続き非常に不安定であるが、長期的に見ると需要に対する影響はそれほど大きくはならないのに対し、供給側では現在のようなプロジェクト開発の中断といったように比較的早く影響が現れる可能性がある。そしてリチウム市場は2020年代末にかけて余剰から不足に転じた結果、価格が上昇し、新規プロジェクトの参入を促すこととなる。
第2章 需要
2.1.リチウムの用途
現在そして将来のリチウム消費について言及する前に、その需要を支える原動力となるリチウムの主な用途を簡単に確認しておく。表1に示すように、EV、電気製品、エネルギー貯蔵システムなどの製造に幅広く使用されるLIBの分野と、ガラスや陶磁器、グリースや潤滑剤、空調システム、医薬品などのリチウムの従来の用途という大きく2つのカテゴリーに分類できる。
充電式電池 | 従来の用途 |
---|---|
エレクトロ・モビリティ 軽自動車、大型自動車、EV、スクーター |
ガラスや陶磁器 (リチウムを使用することで、熱膨張率を抑える、融点を下げる、強度を増すなどの効果が得られる) |
電気製品 タブレット端末、パソコン、電話、機械 |
グリースや潤滑剤 (様々な温度や条件下での使用が可能となる) |
エネルギー貯蔵システム (バッテリーと機械学習システムを組み合わせることで、未来へのエネルギー貯蓄が可能となる) |
その他 空調機器、医薬品、プラスチック、ポリマーなど |
出典:COCHILCO
以下に示すように、EV用の充電式バッテリーが圧倒的に需要を支えており、環境汚染のより少ない代替交通手段が求められてきているため、時間の経過とともに更なる伸びが予想される。つまり、リチウム需要に関する議論はすべて、何よりもまず近年世界レベルで見られるエレクトロ・モビリティのブームに基づいている1。
2.2.化合物別に見るリチウム消費
一般的に、製品としてのリチウムはその化学組成に従い、炭酸リチウムや水酸化リチウム、さらにリチウム濃縮物、ブチルリチウム、臭化リチウム、金属リチウムといった化合物に分類することができる。図1(a)に示すように、現在炭酸リチウムが約71%と工業分野で最も多く利用されており、次に24%の水酸化リチウムが続く。
同様に、水酸化リチウムと炭酸リチウムではその組成物の純度によって、テクニカルグレードとバッテリーグレードに分類することができる。炭酸リチウムの場合、テクニカルグレードは通常99.0%の純度を必要とし、バッテリーグレードは少なくとも99.5%が必要となる。図1(b)に示すように、一般的にバッテリーグレードが好まれる傾向にある。

図1.炭酸リチウムと水酸化リチウムの(a)種類別(b)グレード別需要(2019年)
出典:Benchmark Mineral Intellignce (BMI)及びRoskillの推計に基づきCOCHILCOが作成
2.3.国別に見る消費
図2に見られるように、中国がリチウム消費の中心となっているのは明らかであり、消費の総計では全体の39%を占め、バッテリー製造のためのリチウム使用では半分を占めている。消費において中国の存在感が高まっているのは一時的なことではなく、中国のリチウム消費は主に自動車や電子機器部門の急成長により、21世紀初頭から年率10%近く増加している。
同様に、自動車や電子機器産業が高度に発展した日本、韓国、欧州などの地域においても、特にバッテリー開発において消費量が大きいことがわかる。実際、バッテリー部門では前述のアジア3か国が消費全体の93%を占めている。この分野の重要性が今後高まることを考慮すると、全体的な需要の伸びは引き続きアジア諸国の産業や技術開発に大きく依存することになる。

図2.地域別リチウム消費量 (a)総計 (b)バッテリー部門(2019年)
出典:BMI及びRoskillのデータをもとにCOCHILOが作成
2.4.2030年までのリチウムの需要予測
a.EVに関するリチウム需要の予測
上述のように、近年リチウムの主な需要源は運輸部門であり、特に小型自動車や乗用車の需要と関連が深い。内燃機関車がより低汚染の代替手段に徐々に取って代わり始めているため、この傾向は次第に拡大していくと予想される。
この点を考慮すると、リチウム需要に関する予測は主にエレクトロ・モビリティ部門の成長見通しに依存することとなり、結果としてリチウム需要を的確に予測するには、まずは的確なEVの売上予測が必要となる。
ここでのエレクトロ・モビリティに関するリチウム需要の予測は、以下に記す4つの手順で構築される。
手順1:EVの需要予測を作成
- 3つのカテゴリーに分類の上考察する:ピュアEV(BEV)、ハイブリッド車(PHEV)、その他(バス、トラック、大型車両を含む)。
- この3つのカテゴリーの2030年までの年間予測については、HSBCやRho Motionなどの市場の様々な情報源から推定値を使用し、現在の状況に応じて調整を加えた2。
- BEV及びPHEVの今後の需要については、特に高い不確実性が存在するため、基本シナリオに対してネガティブシナリオとポジティブシナリオをモデル化する。いずれの場合も、一年目(2020年)の元の予測に対して少なくとも2%の変動を想定し、終盤に変動が大きくなることを反映するために、年ごとに指数関数的に増加するとみなす。
手順2:EVに使用するLIBのエネルギー需要を作成
- はじめに、EVの3つの各カテゴリーに関して、LIBの平均容量(1台あたりのkWh)、すなわち各年の技術で標準仕様のバッテリーが何kWhを供給するのかを調べる。この予測では、BEVとPHEVの場合はHSBCの推定値を、他の車両の場合はRhoMotionの推定値を採用した。
- 次に、各カテゴリーの容量(kWh/台)に、手順1で計算された各カテゴリーのEVの予測値を掛ける。これにより、2030年までのLIBの年間総エネルギー需要の予測を得ることができる。
手順3:LIBに必要なリチウムの量を計算
- まず、LIBの種類ごとにそのカソードに平均でどれだけのリチウムが含まれているかを確認する。表2に示すように、この値は情報源により異なる。
表2.カソードの種類別リチウム金属使用量(kg/kWh)
出典:BMI、HSBC
- 次に、エレクトロ・モビリティ分野における各種類のバッテリーの普及率の予測を行う。 これには表3に示すBMIの数値を採用する。
表3.車載用LIBの普及率
注:色が濃くなるほど高い普及率を表す。
出典:BMI
- 次に、この2つの推定値をもとに各年の電池普及率ベクトルに電池あたりのリチウム含有量ベクトルを掛けて、平均的なLIBのエネルギーあたりのリチウム含有量(kg Li/kWh)を求める。
手順4:EVにおけるリチウム需要の予測
手順2と手順3で示した予測3を乗算することで、EVにおけるリチウムの年間総需要量を見積もることができる。これをネガティブシナリオとポジティブシナリオとともに図3に示す。

図3.(a)EVの種類別リチウム需要量
(b)基本、最大、最小のシナリオにおけるリチウム需要量(千t LCE)
出典:COCHILCO
予測の結果として、基本シナリオでは、エレクトロ・モビリティに関するリチウム需要は2030年までに1,416千t LCEに達する。車種別に分類すると、BEVの売上が引き続きこの分野における需要を押し上げることが予想され、実際に基本シナリオを見ると2019年には全体の62%であるのが、2030年までには88%に達することになる。
同時に、EV売上のあらゆる予測にはかなりのリスクが内在することに注意する必要があり、最大のシナリオではリチウムの需要は2030年までに約1,700千t LCEに及ぶが、一方最小のシナリオでは1,150千t LCEに留まることが示されている。
b.その他の用途に関するリチウム需要の予測
その他のリチウム消費からの需要を予測するために、HSBC、Roskill、及びその他の市場の情報源からの数値を用いて考察する。そこで、単純に3つのカテゴリー、すなわち電気製品(タブレット、コンピューター、電話、電子機器のバッテリーなど)、エネルギー貯蔵システム及びその他のバッテリー(e-バイク用のバッテリーなど)、その他(セラミック、ポリマーなどバッテリーに関連しない用途)に分類し、これらの各カテゴリーの予測を図4に示す。
一般的に、携帯電話やノートパソコン(「電気製品」のカテゴリーに分類)、リチウムの伝統的な用途(「その他」のカテゴリーに分類)などは成熟市場と見なされていることに注意しなければならない。そのため、この成長予測は理論上、EVの場合よりも変動が少なくなる。しかし、電動自転車やe-バイク用のLIBやエネルギー貯蔵システムなどは成長の可能性を秘めており、より大きな変動が期待されるため、上記の図からも分かるように、このカテゴリーの成長が最も大きくなると予想される。

図4.EV関連以外のリチウム需要(千t LCE)
出典:HSBC、Roskill、その他の市場のデータを基にCOCHILCOが作成
C.リチウムの総需要予測
リチウムの用途別に分けて予測することで、最終的に総需要の予測が可能になる。これをEVとそれ以外に分けて下記の図5に示す。

図5.リチウムの総需要(千t LCE)
出典:COCHILCO
上述した通り、リチウム需要の成長はエレクトロ・モビリティの成長に強く依存している。実際、リチウム消費に対するEVの割合は、2019年の32%から2030年には79%になることが見込まれる。
d.化合物別に見るリチウム需要の予測
本章の第2項で説明したとおり、リチウム消費は化合物別に大きく炭酸リチウムと水酸化リチウムに分けることができる。図6は、2030年にかけての化合物別リチウム需要の見通しを示したものであるが、2019年の水酸化リチウムが全体の24%であるのに対し、炭酸リチウムが71%であることからも分かるように、現時点では炭酸リチウムの方がより需要が多い。しかし、2030年には炭酸リチウムの42%を抜き水酸化リチウムが57%を占め、将来的には水酸化リチウムが需要を押し上げると予想される。これは主に、NCMタイプ(ニッケル-リチウム、コバルト、マンガン)のバッテリーの製造が増加傾向にあることが原因であり、このタイプでは炭酸リチウムに代わって水酸化リチウムの使用が増えると予想される。

図6.化合物別リチウム需要(千t)
出典:BMIの推計に基づきCOCHILCOが作成
2.5.リチウムの需要増大に関するリスク
エレクトロ・モビリティの成長がリチウム需要に大きく影響を与えるため、この業界が直面し得るリスクを明白にしておく必要がある。実際に過去のEVの売上が市場の予測を下回っていたことからも分かるように、リチウム需要に関する予測に疑念が残るのは当然であり、リスク分析は特に重要な課題であるといえる。
表4に示すように、一般的にリスクは、短期、中期、長期という期間毎にグループ分けできる。当然、短期の事象が時間の経過とともに大きな影響をもたらす可能性もあるため、ここでの期間はあくまでも目安にすぎないことを言及しておく。その上で、コロナ感染拡大による2020年の経済危機は、長期的に見れば世界成長に重大な影響を与えるかもしれないが、短期のリスクとして分類したことを明記しておかなければならない。
中期に記したリスクは、一般的にEVと内燃機関車との相対的なコストに関連しているため、これらはまとめて考察することができる点に注意しておきたい。一方、長期のリスクでよく論議に上がるものは代替品の可能性であり、その中でも水素燃料電池車の存在は注目に値する。(実際に、市場では事業統合を求める業界が既に現れ始めている。)この両方の点については、「第5章 付録」で詳しく説明する。
期間 | リスク |
---|---|
短期 |
|
中期 |
|
長期 |
|
出典:COCHILCO
第3章 供給
3.1.リチウム資源
一般的に、世界で採掘されるリチウム資源は3つに区分できる。鉱石やペグマタイト(通常スポジュメン/リシア輝石の形で回収)、かん水(通常大陸内の水源から回収)、及び堆積岩である。表5に、この3種類を鉱床タイプ、全世界における割合、自然界で見られる産状に応じて簡単に分類する。
タイプ | 鉱床タイプ | 割合 | 産状 | 主要鉱床の産地 |
---|---|---|---|---|
ペグマタイト | リシア輝石、葉長石、リシア雲母、アンブリゴナイト、ユークリプタイト | 26% | (地表下の結晶化したマグマからの)硬い岩石 | 豪州、米国、DRコンゴ、カナダ |
かん水 | 大陸(塩湖)、地熱、石油 | 66% | かん水(砂、水、無機塩類) | リチウム三角地帯 (チリ、アルゼンチン、ボリビア) |
堆積岩 | 粘土鉱石、凝灰岩、湖の蒸発岩 | 8% | スメクタイト鉱石(粘土鉱物)、ジャダライト(湖面蒸発) | 米国、メキシコ、セルビア(Jadar)、ペルー(Falchani) |
出典:市場の複数のデータを基にCOCHILCOが作成

図7.リチウム埋蔵量の国別分布
出典:USGS(2019年)
上記からも分かるように、世界単位で見るとかん水の埋蔵量が最も多いが、リシア輝石などのペグマタイト鉱床は世界中に広く分布しているという利点がある。現在、リチウムの生産はこの2つの手段でのみ行われている4。
図7は米国地質調査所(USGS)のデータをもとに、国別にリチウム埋蔵量を示したものである。上記で見たように、かん水中の埋蔵量はチリの北東、アルゼンチンの北西、ボリビアの南5に位置するいわゆるリチウム三角地帯に集中しており、チリにおいては世界のかん水産リチウムの3分の2以上、及びリチウム埋蔵量の半分(51%)を有している。一方、豪州も多くの埋蔵量を誇るが(16%)、そのほぼ全てがペグマタイト型である。
3.2.鉱床タイプ別の生産
表6では、実際に採掘が行われている2つの方法からのリチウムの生産をまとめている。このデータによると、コストがかさむにもかかわらずペグマタイトからの生産が全体の55%を占めており、供給の主流となっていることがわかる。
これには2つの大きな理由がある。リシア輝石からの生産にかかる平均時間はかん水に比べ大幅に短く、また、リシア輝石の場合かん水からの生産6のように炭酸リチウムへの変換を必要とせず直接水酸化リチウムの生産が可能であることに由来する。「第2章 需要」で前述のとおり、炭酸リチウムは依然として水酸化リチウムよりも需要があるが、近年において水酸化リチウムはバッテリー生産者の間で定着してきており、消費が拡大しつつある。
一方、かん水からのリチウム処理の利点はインプットが少なく済むことである。ペグマタイトの基本的な採掘処理(抽出、粉砕、浮選、加熱、硫酸による浸出など)とは異なり、かん水からの処理(蒸発及び沈殿)はより化学的性質を利用している。結果として、一部蒸発率や塩湖内のマグネシウム及びその他の不純物元素比率によるものの、かん水からのリチウム処理の方がより安価になる傾向がある。
タイプ | 割合 (%) |
抽出方法 | 標準的コスト*(kUS$/t) | 平均時間 | 生産に伴う主な副産物 | |
---|---|---|---|---|---|---|
炭酸 リチウム |
水酸化 リチウム |
|||||
ペグマタイト | 55 | 坑内採掘または露天採掘 | 8.3-9.0 | 6.0-9.0 | 1~2か月 | 錫、タンタル、ニオブ |
かん水 | 45 | 蒸発及び沈殿 | 4.1-5.8 | 5.2-6.8 | 18~24か月 | カリウム、ホウ素 |
*ロイヤルティ及び税金を含む
出典:市場の複数のデータをもとにCOCHILCOが作成
2019年の時点で、豪州はペグマタイト鉱床からの生産のほぼ全てを賄っていた(2019年の同カテゴリー中86%)。一方、かん水からの生産は主にチリ(2019年の同カテゴリー中65%)及びアルゼンチン(同21%)が担っており、これらの国は現在この方法でしかリチウムを生産していない(ただし、アルゼンチンにはリシア輝石鉱床があり、現在探査の初期段階にある)。
3.3.市場シェア
a.国別
リチウムの総供給を見ると、図8にもあるように豪州が世界最大の生産国であり、世界の供給量の半分(48%)を占めていることが分かる。それに続くのはチリ(29%)、アルゼンチン(9%)、中国(9%)である。
その他の国では割合は比較的少ないが、ブラジル、米国、ジンバブエ、カナダが合計で総供給の5%を占める。

図8.国別リチウム原料生産量(2019年)
出典:BMIのデータを基にCOCHILCOが作成
b.企業別
リチウム市場を企業別に見る際、2つに分けて考えることができる。1つは特定の事業を行う企業、つまり生産会社で、もう1つは生産会社に対して権益を持つ持株会社である。例えば、世界最大のリチウム鉱山であるGreenbushes鉱山は、中Tianqi Lithium社(51%)と米Albemarle社(49%)が所有する豪Talison Lithium社により運営されている。生産と権益を考慮することで各社の生産量を見積もることができ、そのシェアを図9に分けて示す。
同図のとおり、市場は非常に集中しており、2019年には5社が総生産の3分の2を占め、その中でも米Albemarle社とチリSQM社は合計で全体の5分の2に相当する。この状況は、例えば銅市場とは非常に対照的であり、世界最大の銅生産企業であるCODELCOでさえ同年の総生産量の10%を超えることはなく、総生産の3分の2に達するには20以上の企業をカウントしなければならないことになる。
また、米Albemarle社がかなりの勢いでリードしていることもわかる。Greenbushes鉱山における中Tianqi Lithium社の株を購入するという意思表明(2020年、Reuters)からも、短期的に見てさらに拡大する可能性が見込め、これが実現すれば当然集中に拍車がかかる。ただし、現在世界中で新規プロジェクトが開発されており、中長期的には徐々に分散していくことが予想される。

図9.生産会社別及び持株会社別のリチウム生産量(2019年) a.生産会社 b.持株会社
出典:COCHILCO
3.4.化合物別に見る生産
a.炭酸リチウムと水酸化リチウム
図10のとおり、2019年にはリチウム化合物の全供給量の71%が炭酸リチウムであり、大きく差をつけ水酸化リチウムが22%と続いた。
「第2章 需要」でも述べたように、水酸化リチウムの生産は時間とともに割合が増えてきており、この傾向は今後も続くと予想される。そのため、後ほど説明するが、水酸化リチウムは結果的に炭酸リチウムの生産量を抜くことが期待される。

図10,化合物別の生産量(2019年)
出典:BMIのデータを基にCOCHILCOが作成
図8と図10の比較から、リチウム化合物の総生産量(2019年の336千t LCE)は原料の産出量(2019年の381千t LCE)よりも少ないことがわかるが、これは主に在庫保管や処理能力不足のために精製されていない精鉱が存在するためである。特に2017年と2018年にはWodgina鉱山(豪Mineral Resources社)やPilgangoora鉱山(豪Pilbara Minerals社)などの豪州の操業において、Direct Shipping Ore(DSO)と呼ばれる初期の粉砕以外の処理を施さないリチウム鉱石の商業化が行われ、このタイプの精鉱は通常中国で処理するため中国企業により購入されていたが、精製のキャパシティ不足のため生産分の一部は未だ処理されておらず、その結果、中Tianqi Lithium社や他の企業は豪州で自社工場への投資を始めたのである。
また、Roskill(2019年)の報告によると、かん水からリチウムを処理する際には12%近くの生産損失があるため、原料より化合物の生産量が低くなる。ただしこの損失は、チリなどの既に確立されている操業では実質的に無視できる範囲である。
b.リチウムの二次生産
リチウムの二次生産に関しては、状況は今後供給側にとってますます有利となり、既にこの業界ではかなり重要な処理方法が開発されてきている。実際にRoskill(2019年)のデータによると、2018年の時点でLIBのリサイクルセンターは計52か所存在し、そのうち24か所は中国にあった。欧州や米国において、大部分のリサイクルセンターは個別事業となっているが、アジアでは比較的統合されており、特に中国ではバッテリーメーカーとEVメーカーが連携している。
何れにせよ、電子機器やEVの使用が増えることでリサイクルに回すLIBの可用性が高まるため、この業界の見通しは明るくなるであろう。
その結果、再生リチウムの使用量は、2018年の10千t LCE未満から2028年にかけて100千t LCE以上にまで増加すると予想される。つまり、再生リチウムが2018年の総需要の3%だったのが10年後には7%以上になることを意味している。ただし、他の金属の場合と同様に、価格や処理コストの変動といった要因が時間の経過とともにリサイクルの伸びに影響を与える可能性があることに注意する必要がある。
3.5.生産コスト
a.コストの推定範囲
表6及び図11でも示されているように、炭酸リチウムと水酸化リチウムの両方において、一般的にかん水からの生産はその工程の性質上、労働力や資本投入をそれほど必要としないため、製造コストはより低くなる傾向がある。
2016年には、チリにおいてチリ産業開発公社(CORFO)と米Albemarle社間で、また、2018年にCORFOとチリSQM社との間でそれぞれ合意されたロイヤルティにより、かん水産の生産コストは近年増加していることに注意したい。また、2018年にアルゼンチンはリチウムの輸出に対し適応期限を2020年12月までとする税制を導入しており、本来は一時的なものではあるが、現在の不測の事態を考慮すればこの税制も延長される可能性は高い。

図11.推定コスト(US$/t)
出典:Roskill(2019年)
b.コストの内訳
各生産方法の性質の違いから、コスト構造は操業のタイプにより大きく異なる。本章の「3.2.鉱床タイプ別の生産」で述べたように、かん水ではリチウムを無機塩類から分離するために非常に化学的なプロセスを必要とする一方で、鉱石からの採取では抽出、粉砕、浮選、加熱、硫酸による浸出などの従来の採掘ラインに従うため、その投資、時間、コストは大きく変わってくる。
図12にかん水からの生産事業をいくつか選定し(チリMaricunga塩湖におけるMinera Salar Blancoプロジェクトとは区別して)、炭酸リチウムの生産コストを示した。同様に、鉱石産の事業における水酸化リチウムの生産コストの内訳も並べて示してある。図から分かるように、かん水からの操業では化学薬剤のコストが大部分を占めており7、鉱石からは抽出及び鉱石処理にかかるコストが大きい(Pilbara Minerals、2017)。
また、一般的なかん水の操業とMaricunga塩湖のプロジェクトの間にはエネルギーコストの点で大きな違いが存在することが分かるが、それは前者にエネルギーコストが特に大きい中国の操業をいくつか含めていることが原因であり、一方チリとアルゼンチンを拠点とする操業のエネルギーコストはMaricunga塩湖のプロジェクトで算出されたものと類似している。

図12.各操業及びSalar Blancoプロジェクトの平均コスト内訳
出典:S&P Global Market Intelligence(2020)及びLithium Power International(2019)を基にCOCHILCOが作成
c.かん水の操業
推定コスト及び生産量に基づき、リチウムの操業を整理する。今回は、鉱石産の操業に関するデータが不十分なため、かん水産の操業のみいくつか選定して炭酸リチウムの生産について考察する。
図13にコストの見積もりを示す。一般的に、アルゼンチン、チリ、米国の主要事業のコストは比較的類似しているが、中国の事業のコストはそれを大幅に上回っている。これは主にエネルギー消費量が多いことに起因しており、蒸発の条件が好ましくないことや、塩湖内の不純物比率が高いことなどが原因として考えられる。(この点に関する詳細については、「第5章 付録」の「5.2.c.比較優位」参照)

図13.かん水の操業における炭酸リチウムの推定生産コスト
出典:S&P Global Market Intelligenceの見積もりを基にCOCHILCOが作成
ここで、チリやアルゼンチンでの導入をきっかけにメディアを騒がすこととなった、ロイヤルティや税金のコストは、上記に示した2つの図には含まれていないことを強調しておく必要がある。注目すべき点として、このロイヤルティは販売価格や輸出価格に対し課されているため、生産者側は最終利益を増やすために可能な限り操業コストを抑えたいという強いインセンティブがあるが、2019年半ば以降の苛性ソーダの国際価格の下落傾向に支えられ、チリ及びアルゼンチンの生産事業者はうまく対処できている。
3.6.2030年にかけてのリチウム原料の生産予測
a.国別に見る生産
リチウム原料の生産量を国毎に見積もるために、現在稼働中または今後数年間に稼働する可能性のあるリチウムの各事業に関するBMIの予測を利用する。チリにおける事業の生産量に関しては、同国の生産業者であるチリSQM社と米Albemarle社の過去の動向及び新規プロジェクトの予想生産量に基づき予測する。
その予測結果を図14に示す。

図14.リチウム原料の生産量(千t LCE)
出典:BMIのデータを基にCOCHILCOが作成
上記の図から、上位4か国は確実に生産を伸ばすことがわかる。しかし、相対的に見ると豪州とチリは生産の上位2か国を維持するが、シェアは縮小する。豪州のシェアは2019年の48%から2030年には31%に減少し、チリも同様に29%から17%へと減少する。その原因として、米国、カナダ、ジンバブエなど、現在特にリチウム生産であまり注目されていない国々が徐々に生産を拡大するからであり、これらの国では少なくとも現在の10倍もの生産増が見込まれる。
b.化合物別に見る生産
炭酸リチウムは、これまでLIBの製造に最も必要とされるリチウム化合物であった。しかし、徐々にニッケル使用の製造方法が好まれる8ようになり、炭酸リチウムは次第に水酸化リチウムに取って代わられつつある。実際、2019年の炭酸リチウムの生産量は水酸化リチウムの3倍であったが、10年後には炭酸リチウムの48%に対し水酸化リチウムは全体の49%となり、生産量が最大になると予想される。
両化合物の生産及び消費は今後も大幅に増加し続けるが、徐々に水酸化リチウムによる製造が増加傾向にあるため、かん水産リチウムの生産が減少し鉱石産リチウムの事業が比較的好まれるようになるという点に注意したい。そのため、チリSQM社など、かん水産のリチウム製造者の中には炭酸リチウムから水酸化リチウムへの変換技術への投資に力を入れたり、新規の管轄区域での鉱石産のプロジェクトに直接投資をするケースもある。

図15.化合物別のリチウム生産量(単位:千t)
出典:BMIのデータを基にCOCHILCOが作成
c.主要プロジェクト
リチウム原料生産の成長をより詳細に分析すると、一連の新規プロジェクトや拡張事業が急速な成長を支えていることがわかる。しかし、拡張や新規プロジェクトの実現は基本的にリチウム精鉱処理のための設備技術などの市況や、当然のことだが価格にも依存することを考慮に入れる必要がある。
2018年以降価格は下落傾向にあり、中長期単位の新規生産の参入に向けた投資決定に遅れが見られている。さらに、コロナ感染拡大の状況を考慮すると、2020年は特に深刻である。現在の操業停止の状況は短期的に見るとかなりの損失があり(Roskillは当初予定の年間生産量に対し110千t LCEの減少があると推定)、プロジェクトや拡張事業の中断・遅延は中期的あるいは恐らく長期的にも影響を及ぼし得る。価格の下落や財政難の高まりを背景に、多くの企業が直近のプロジェクトの開始延期の決断を下している9。
過去のリチウムの供給(及び需要)の伸びが時間の経過とともに過大に予測されていることが分かっているため、特に注意深く見る必要がある。このことに配慮しながら、以下に国別の主要プロジェクトをまとめる。
・豪州
豪州の事業の中では、WA州のリシア輝石鉱床に位置するPilgangoora鉱山(豪Pilbara Minerals社)とPilgangoora Lithiumプロジェクト(豪Altura Mining社)が特に大きく、両プロジェクトは合計で2018年に8千t LCEを記録した後、2019年には 35千t LCEまで増加し、2020年代半ばまでに100千t LCE以上に成長すると予想されている。また、特筆すべきはGreenbushes鉱山(中・米Talison Lithium社)であり、この世界最大のリチウム鉱山は過去4年間で徐々に生産量を増やしており、2019年の約90千t LCEから2020年代半ばまでに約150千t LCEまで増加すると予想される。
一方で、今後3年以内に生産開始予定の新規プロジェクトも存在する。中でも特に重要なものがFinnis(ASX:豪州証券取引所所有)、Wodgina(米Albemarle社及び豪Mineral Resources社、生産を開始していたが、価格下落のため2019年10月末に中断)、Mount Holland(チリSQM社及び豪Westfarmers社、コスト削減の為プロジェクト設計の改善が検討され、投資決定が2021年第1四半期まで延期)の各プロジェクトである。この3つのプロジェクトは合計で2020年代半ばまでに約75千t LCEの生産が見込まれている。
また、Mount Cattlin鉱山(豪Galaxy Resources社)やMount Marion鉱山(豪Mineral Resources社)のように統合事業も存在し、これらは現存のレベル維持または緩やかな増加が予想される。
そして、豪州の事業の多くは、コロナ感染拡大による経済打撃を特に受けていることに触れておかなければならない。Roskillの推定によると、豪州では2020年の当初の計画に対し、約58千t LCEの生産損失(つまり、2020年の世界全体の生産損失110千tの53%に相当)があり、主にPilgangooraプロジェクトの豪Pilbara Minerals社及びMt. Cattlin鉱山の豪Galaxy Resources社における減産に起因している。
・アルゼンチン
アルゼンチンには現在、Hombre Muerto塩湖(米Livent社)及びOlaroz塩湖(豪Orocobre社)というかん水をベースにした2つの生産拠点があるが、現在の不測の事態により両者は既に減産を記録している。将来的にはこれらの操業でも今後数年間は生産増が見込まれるが、Caucharí/Olaroz(加Lithium Americas社)、Centenario Ratones(仏Eramet社)、Sal de Vida (豪Galaxy Resources社)等の新規プロジェクトで主に生産増加が予想される。この3つのプロジェクトを合計すると、2020年の半ばから終わりにかけて約50千t LCEが産出される見込みである。
ただし、現存事業の拡大計画や新規のプロジェクトが比較的進んだ段階にあったとしても、世界的な経済危機を考えると極めて高い不確実性を伴うことに注意する必要がある。2020年2~4月に限っても、今後のアルゼンチンの供給を大幅に滞らせかねない発表がいくつも為されており、米Livent社はHombre Muerto塩湖における拡張事業を当初の計画より遅らせると発表し、豪Orocobre社はOlaroz塩湖における拡張事業の段階的中断(2020年4月末より部分的に再開)を、豪Galaxy Resources社はSal de Vida塩湖開発における必須事項以外の全ての作業中断を決定し、仏Eramet社はCentenario-Ratoneプロジェクトを無期限停止とした。
・ブラジル
現在ブラジルにおける操業ではMibra鉱山(蘭AMG社)があり、2019年には6千t LCEを産出したが、2020年代半ばには生産量はその4倍に達することが予想されている。同様に、Xuxaプロジェクト(加Sigma Lithium社)は間もなく稼働を開始し、2020年代半ばまでに25千t LCE以上の生産量が見込まれる。この2大事業やその他の比較的小規模なプロジェクトにより、ブラジルは今後数年間でリチウム生産大国になる可能性が高い。
・カナダ
現時点においてカナダでは大規模なリチウム生産は行われていないが、その埋蔵量やプロジェクトの進捗状況を考えると、この状況は今後数年間で大きく変化する可能性が高い。特に、Abitibi鉱山(加North American Lithium社)及びWhabouchiプロジェクト(加Nemaska Lithium社)はQC州の主要事業であり、生産量は合計で2020年末までに40千t LCEを上回ると言われている。
恐らくブラジルよりは少し先になるが、カナダも同様に今後数年間で生産大国になる可能性が高い。しかし、これらのプロジェクトの具体化の時期に関してはかなりの不確実性が残る。加Nemaska Lithium社は2020年1月末、資金調達不足によりWhabouchiプロジェクトの建設が当初の計画以上に遅延する可能性があると発表しており、また2018~2019年に一時期生産していたAbitibi地域では、操業を行う加North American Lithium社が財政的制約により2019年以降活動を停止している。
・チリ
チリでは、言うまでもなく世界最大の水圏リチウム鉱床であるAtacama塩湖における2大事業が傑出しており、Carmen塩湖(チリSQM社)及びLa Negra塩湖(米Albemarle社)は合計で2019年に約100千t LCEの生産量を記録し、予定されている拡張を含めると2025年以降はその2倍に達することが予想されている。また、チリCODELCO及びチリMinera Salar Blanco社が現在調査中のMaricunga塩湖におけるリチウム開発も今後数年間のうちに開始される可能性が高い。
他の地域と同様に、チリでも拡張などのプロジェクトが不測の事態により経済的影響を受けている。例えば、2020年4月には米Albemarle社が機器の輸入遅れにより炭酸リチウムの自社工場であるLa Negra III及びIVの拡張を一部延期させると発表し、2018年末に公表されたLa Negra V及びVIにおける調査延期に引き続いての見合わせとなった(当初は水酸化リチウムよりも炭酸リチウムの需要増が見込まれており、炭酸リチウム工場の拡張が検討されていた)。対照的に、チリSQM社に関しては少なくとも2020年4月まではパンデミックの影響による生産の変更は報告されていない。同社による変更に関する公式発表として、2020年の支出計画を330mUS$下方修正する可能性が発表されたが、これは同社のリチウムプロジェクト進行に影響があり得る。
・中国
中国は既にかん水と鉱石の両方から多数のリチウム生産事業を行っており、2019年には合計で約34千t LCEの生産があった。しかし、生産量の面で他に比べて優れていると言える事業は今のところない。将来的には、Qarhan塩湖の事業(中Qinghai Salt Lakesyaと中BYD社のJV)が注目される可能性があり、2020年の終盤には25千t LCEの生産が見込まれている。同様に、様々な新規プロジェクトが現在各々異なる進行段階にあり、これらを合わせると供給が格段に伸びることになる。その結果、中国の生産量は2020年代末までに100千t LCEを超え、現在の生産量の3倍にまで達するであろう。
・その他
メキシコには、Sonoraプロジェクト(英Bacanora Minerals社)という同国北西部のSonora州における事業があり、現在は生産前の段階にあるが、2020年代半ばまでに約35千t LCEの生産が見込まれている。
また、セルビアにあるJadar鉱床(英・豪Río Tinto社)についても述べておく必要がある。ジャダライト鉱石の採取は前例がないが、2020年代末までに100千t LCEが生産される可能性がある。ただし、このプロジェクトの開発はまだ初期段階であるため、その具体化やタイミングに関しては未定部分が多い。ジンバブエのArcadia鉱山(豪Prospect Resources社)やKamativi鉱山(ジンバブエZim Lithium社、ジンバブエJimbata社)についても同様のケースが考えられ、2020年代末までに50千t LCE以上を生産するポテンシャルはあるが、依然として高い不確実性を伴う。
第4章 需給バランスと価格
4.1.2016~2030年におけるリチウム化合物の需給バランス
表7は2016年以降の過去の市場バランスと、この過去の実績で見たリチウム化合物の需要と供給の予測に基づき推計した2030年までの市場バランスを示している。表のとおり、2016~2017年、市場はマイナスであったが、エレクトロ・モビリティ部門が指数関数的に成長していくという期待が加わり、この時期に価格が押し上げられた。現在は新規プロジェクトの操業開始などの要因やエレクトロ・モビリティが予想ほど推進されなかったため、2018年には約17千t LCE、2019年には約2千t LCEのわずかな供給余剰があった。
2020年には、世界的なコロナ感染症拡大による経済危機に関連して、上記で見たようにEVの売上にも影響があり、再度余剰が予想される。現在のところ、この影響は長期化しないと見込んでおり、当該部門の売上高、ひいてはリチウムの総需要は2021年中に回復すると考えられる。そうなった場合、市場はわずかにマイナスとなる可能性がある。
さらに進んで2023~2026年には、新規プロジェクトや拡張事業が実施されるにつれて、余剰が増えると予想される。しかし、2020年代後半、総供給量は需要よりも低速で成長し、市場では両方の主要化合物(炭酸リチウム、水酸化リチウム)が不足の状態に陥ることになる。このような状況を考えると、価格は上昇傾向となり、それが新規プロジェクトの操業開始のきっかけにもなると予想される。
表7.2016~2030年にかけてのリチウム化合物の需給バランス
注:備蓄分は含まれない
出典:COCHILCO
4.2.リチウム価格の最近の動向
図16に示すように、2016~2017年の間に需要が急増し大きく期待が寄せられた後、リチウム価格は炭酸リチウムと水酸化リチウムの両方で近年下落傾向が続いている。S&P Global Market Intelligence社により算出されたアジアにおける取引データによると、2015年12月~2017年12月にかけて炭酸リチウムと水酸化リチウムの平均価格はそれぞれ167%と97%上昇したが、2017年12月~2019年12月にかけてはそれぞれ55%と38%下落している。
2016~2017年の間に記録された大きな価格上昇は、主にEVの売上増加に期待が高まったことにより説明されるが、その後の下落要因は様々な市場の経済指標に起因する。以下に主な要因を挙げる。
- 特に豪州において、生産量の多いプロジェクトの開始や拡張事業により供給余剰が生じている。
- 世界最大級のリチウム消費及び生産国である中国が減速傾向にあるため、EVの売上に対する期待が下がりつつある。
- 中国のEVに対する補助金削減をきっかけに販売数が伸び悩み、結果としてリチウムの需要減少に繋がった。

図16.アジアにおけるリチウム平均価格(kUS$/t)
出典:S&P Global Market Intelligence社のデータを基にCOCHILCOが作成
2020年初期において、コロナ発生後、経済的影響はまず中国において、後にこのように世界中に広まり、その結果価格の下落傾向はさらに強まった。上記でも述べたように、この状況はEVや電気製品全般の需要成長の期待を下げ、自然と世界全体のリチウム消費量を減少へと導く。
実際のところ、この初期の衝撃は原料品や工業製品のあらゆる部門に影響があったが、リチウムへの影響はさらに大きかった。その例として、この危機の結果石油の需要が徐々に減少し、これに対しサウジアラビアは価格を適正レベルに保つために生産を減らすようOPECに提案したが、ロシアがこれを拒否し価格が急落したことが挙げられる。前述のとおり石油価格が下がると短期的には生産コストが下がるが(表4参照)、長期的には内燃機関車と比較してEVを使用する相対コストが上がり、それが長期化するとリチウムの価格がさらに下がる可能性がある。石油危機は短期的に見ると経済不安を増大させるとともに、新興国の鉱業投資を押し下げ、さらにリチウム価格に下落圧力がかかる。
このように、コロナ感染拡大の直接的影響によりエレクトロ・モビリティの成長に対する期待が大幅に低下したことで、リチウム化合物の価格は2020年の最初の数か月で大きく下落した。
商業や経済に関して依然として高いボラティリティが存在し続ける中で、この危機の中長期的な影響を予測するのは困難である。しかし、他の市場に関する我々の予測や、2020年第1四半期に経済打撃を受けたあと比較的急速な回復を見せた中国の動向に従うと、一般的にリチウムの総需要は2021年以降回復が予想されるが、当然これは世界的なパンデミックの進展10やこの危機に対する世界的な財政力に依る。
第5章 付録
5.1.エレクトロ・モビリティの台頭
自動車がもたらす環境汚染の影響11の大きさを考慮し、世界の主要経済国は化石燃料に基づく内燃車に取って代わりつつある無公害車や低排出ガス車12の導入にますます力を入れている。
低排出ガス車の可能性は幅広いが、成長スピードの点で最も注目されているのはEVである。これは、電池をベースに作動するバッテリー式電動自動車(BEV)、及びバッテリーと内燃機関を組み合わせたプラグインハイブリッド自動車(PHEV)という大きく2つのカテゴリーに分類できる。
消費者・製造業者向けの補助金、また製造業者への販売目標や税制上の優遇措置などの国家レベルでの政策導入により、これらの車種の人気は急上昇している。同時に、バッテリーの自動制御機能の発達や段階的なコスト削減により生産技術が向上し、生産の限界費用を抑えることにも繋がっている。
結果として、2019年のEVの販売台数は220万台に及び、総販売台数の2.5%に達した。この割合は数字上低く見えるが、2016年には1%にも及ばなかったことを考慮すると徐々に増加してきていることがわかる。しかし、以下に示すように市場への浸透度は国により大きな差がある。
a.主要国
世界の主要経済国の中には、温室効果ガスの排出を制限する公共政策を打ち出している国も多い。これらの制限は期間、法的拘束力、適用範囲などの点で様々だが、無公害車の使用を推進する補助金や充電インフラの整備などと連携して機能している。
しかし政府が無公害車の使用を推進しているのは、経済発展に貢献しうる自動車産業を持ちたいという主要経済国の思惑であることも間違いない。この傾向はEVや新エネルギー生産・消費の促進を目指した国家によるインセンティブが進んでいる中国において特に強く見られる。
その結果として、無公害車または低排出ガス車の使用はその国の政策及び自動車産業の発展度合により国家間で大きく異なる。表8を見ると、世界の主要経済国間でEVの市場浸透に大きく差があることがわかる。
表8.各国におけるEVの市場浸透率(%)(2016~2019年)
出典:InsideEV、CleanTechnica、Reuters等のデータを基にCOCHILCOが作成
以下に米国、EU、中国の3大経済圏で行われている政策について簡単に説明する。
・米国
米国には連邦または国レベルでの排出削減計画は無い13が、多くの州がそれぞれの削減計画を打ち出している。その中でもCA州は他州に先駆け1990年に初の規制を設け、近年では他に少なくとも10州がCA州のプログラムを採用しており、実質米国の自動車市場の3分の1以上を占める。
一般的に、このプログラムは各自動車メーカーが遵守すべき最低限のクレジットを制度化しており、排出する汚染物質の程度に応じて車両販売数の一定割合に基づき付与されるが、これは毎年増加しており、違反した場合は罰金が科せられる。それによりCA州は2040年までに内燃機関車の販売を終了するという目標を定めている。
・中国
2017年、中国は小型自動車に対し新エネルギー車(New-Energy Vehicle、以下NEV)に関するプログラムを開始した。CA州のものとある程度類似しているが、このプログラムでは無公害車の販売に基づき年間のクレジット取得の比率を目標として定めている。クレジットは基準をクリアしている企業から目標に達していない他の企業へ売却でき、目標を達成できない場合は政府により生産・販売の制限がかけられることになる。
同時に、2016年に中国はNEV製造のため5年間の補助金プログラムにも意欲的に取り組み始めたが、2019年の半ばには削減が行われたため、その年の下半期には販売数が減少した。しかし依然として中国ではEVの売上数が伸びており、国内の自動車売上高の5.5%のシェアに達している。2020年には中国当局により、このプログラムは少なくとも2022年まで年間を通じて継続することが発表された。
・EU
2019年に欧州議会は、2021年以降の新車の乗用車及び小型商用車の販売に関するCO2排出量削減のための新たな規則を制定した。これにより、2030年までに小型自動車のメーカーはCO2排出量を対2021年比で平均37.5%削減する義務を負うため、無公害車や低排出ガス車の販売を促進している。
一方、国単位で見るとEVの利用増加を狙った税制上の優遇措置や、内燃機関車の販売抑制のために罰則を採用する国も多い。また、充電インフラへの投資状況は国により大きく異なり、結果としてEU内のEVの市場浸透率にも大きな差が見られる。ポーランドでは0.2%であるのに対し、ノルウェーでは55%に上り、一方経済大国のドイツ、英国、フランスでは約3%である。

図17.EV販売の割合(2019年)
出典:CleanTechnicaのデータを基にCOCHILCOが作成
b.EVメーカー
図17に示すように、現時点でEVの販売は17%で米Tesla社がリードしており(そのうち82%は世界で最も売れているEV Tesla Model 3の販売)、中BYD社が10%でそれに続く。あとは様々な企業が名を連ねるが、そのほとんどは中国の企業である。
2018~2019年にアジアや欧米では、EV市場への全面的参入に向けてほぼ全ての自動車メーカーが、ハイブリッドか完全EVかは問わず少なくとも1つのEVモデルを2020年から2025年にかけて作ると発表した。加えて、Volkswagen GroupとToyota Motorの2大企業は自動車用電気システムの研究開発に数mUS$の投資を行うことを宣言し、この5年内に市場に投入される新型電気接続システムなどのバッテリー購入契約をアジア圏のメーカーと締結した(Roskill、2019)。
c.EVと内燃機関車の製造コスト比較
現在の純EVの生産コストは同等サイズの内燃機関車よりも平均して約50〜70%高くなっているが、自動車メーカーや部品メーカーによるCO2削減への取り組みが進んでいるため、そのコストは今後時間の経過とともに対等に近づくと予想される。
ここで、コストが同等になり始めるタイミングが議論のポイントとなる。2020年代の末頃と推測するものもあれば、一部の国で内燃機関車の製造に対し高額な罰金が課せられることを考慮し、Roskill(2020)などは2023年までには均衡する可能性があると指摘する。
ただしこの推測は、内燃機関車製造に対する課税やEVの製造・消費への補助金の規模など、数多くの変数に依存する。
d.エレクトロ・モビリティの代替品
排出量削減計画を立てる国は多く存在するが、これらはEVの普及促進に直接フォーカスしているのではなく、内燃機関車の使用販売の制限に力を入れていることに注意する必要がある。つまり、この違いは環境にやさしい他の輸送手段に対しても無数の可能性をひらくという点で重要なポイントである。
例えば、カリウムイオン電池が当てはまる。設計はLIBと似ているが、リチウムに比べ可用性の高いカリウムなどの物質が含まれるため、製造がより単純且つ安価になる可能性がある。
同時に、水素燃料電池(fuel-cell)にも言及すべきであろう。この電池は既に市場で利用されているため長期的には代替の脅威となりうるが、中短期的に見るとそれほど心配は無い。実際に、Toyota社、Honda社、Hyundai社、Daimler社などのメーカーは、既に水素燃料のモデルを商業化している。
しかし、ここ数か月の間で市場は水素燃料電池から手を引きつつあることに注目したい。2020年4月のコロナの大流行に際し、ドイツのDaimler社(Mercedes Benzのメーカー)は水素燃料の乗用車の開発に30年間取り組んだのち、この種の車両の製造コストはEVの約2倍となり経費がかかりすぎることを理由に計画中止のコメントを出した。その結果、2013年にFord社及びNissan社と共同で開発した(両者とも自社のモデルは出してない)唯一のモデルであるGLC-F-Cellの生産の段階的停止を発表した。
Daimler社が下した決断は、ドイツの自動車業界では目新しいことではない。2020年3月にはVolkswagen社は水素自動車とEVの比較グラフを発表し、「すべてにおいてEVが優れており、事実上水素が勝るものは何もない」という結論を出した(Volkswagen、2020)。
ドイツ以外では2019年11月にHonda社が水素自動車の開発計画を一時停止とした一方で、BMW社、Hyundai社、Toyota社などの他のメーカーはこの種の車両開発をまだ行っている。さらに、Daimler社は水素燃料による乗用車の製造は断念したが、大型車両の計画は今もなお続行しており、最近ではVolvo社との協力を発表し開発を進めている。これは、燃料電池の重量に耐えうる十分なスペースや容量を備えた大型車両にとっては水素燃料がより好都合という考えに基づいている(Electrek、2020)。
他の欠点として、水素燃料の車両は直接的に汚染物質を排出しないが、現在ほとんどの水素の生成には天然ガスを利用しており、その過程でCO2を排出することに注意したい。ただし、再生可能エネルギーをベースにした製造法もあり、それが今後推進されていく可能性も高い。
5.2.チリのリチウム産業の位置づけ
a.世界におけるチリのリチウム生産の重要性
図18に示すように、近年チリ国内の原料産出量は増加傾向にある一方で総供給のシェアは減少しており、2016~2019年の生産量は30%増加しているにもかかわらず、同期間のシェアは37%から29%に落ち込んだ。また、2020年代末にかけて生産量は現在の2倍以上になるにもかかわらず、シェアは17%にまで低下することが予想されている。
このシェア減少の主な原因として、近年他国で新規生産事業が相次いで参入しており(特に豪州の案件が大きい)、また将来に向けた生産も計画されていることなどが挙げられる。しかし、チリはリチウム生産業界において引き続き重要な役割を果たすとみられる。チリは生産の統合化が進んでおり業界の中でも長い歴史を持つことから、適切な生産拡大を計画する上で参考にされている。

図18.チリの原料生産量と世界におけるシェア
出典:COCHILCO
b.チリ国内におけるリチウム生産の重要性
・リチウム化合物の輸出
図19に示すようにリチウム化合物の輸出額は2015年~2018年にかけて大幅に伸びたが、これは輸出量の増加や製品の純度向上、また国際取引価格の上昇に起因している。
2015年第4四半期~2018年第4四半期にかけての炭酸リチウムと水酸化リチウムの平均輸出価格はそれぞれ152%と124%という歴史的な上昇を記録し、これにより2015~2018年の輸出額は4倍、すなわち1bUS$以上にまで押し上げられた。

図19.リチウムの輸出額(mUS$ FOB)
出典:Thomson Reutersのデータを基にCOCHILCOが作成
図20は、2010~2019年の輸出価格と輸出量の増加を示したもので、当該期間後半にかけて価格が高騰していることが分かる14。

図20.2010~2019年のリチウム化合物の輸出価格(折れ線)と輸出量(棒)
出典:Thomson Reutersのデータを基にCOCHILCOが作成
しかし2018年末以降の市況の下落に伴い、平均輸出価格は2019年を通して徐々に落ち込んだ。2018年第4四半期~2019年第4四半期にかけて炭酸リチウムと水酸化リチウムの平均価格がそれぞれ31%と25%下落したため、2018年に比べ2019年は輸出の際のFOB価格も低くなった。
・他の輸出製品と比較したリチウム輸出
チリの対外貿易における他の輸出製品と比較することで、リチウムの重要性を位置付けることができる。図21では、2010年と2019年のリチウム化合物の輸出額を、ワイン、鮭、食肉及び金・銀・鉄・モリブデン等の鉱業製品15といった貿易収支において一般的に重要性の高い他の製品と比較した。

図21.2010年と2019年におけるチリの主要製品の輸出額(mUS$ FOB)
出典:チリ税関庁及びチリ中央銀行のデータを基にCOCHILCOが作成
上記の図から、この10年間でリチウムの輸出量は約3.7倍増加(+267%)していることがわかるが、前述のように国際市場での価格上昇や輸出製品の品質向上(その結果より高値での販売が可能となる)、さらに既存事業の生産拡大などの事柄に起因している。
・相手国別に見るリチウム輸出
図22は、2019年における炭酸リチウムと水酸化リチウムの主な輸出相手国を示しており、韓国、日本、中国がチリ産リチウム製品の最大の輸入国であり、合計で全体の約4分の3を占めていることがわかる。
LIBのメーカーは主に北東アジアに拠点を置いていることを考えると、この地域の国々が主要輸入国になるのは当然である。

図22.相手国別に見る炭酸リチウムと水酸化リチウムの輸出(2019年)
出典:Servicio Nacional de Aduanasのデータを基にCOCHILCOが作成
c.比較優位
チリ北部にはおよそ60にも及ぶ塩類平原があり(Sernageomin(チリ鉱山局)、2014)、その多くがリチウム生産の可能性を秘めている。Sernageomin(2013)によると、少なくとも6か所16の塩原(Atacama、Aguas Calientes Centro、Pajonales、La Isla、Pedernales、Maricunga)が特に有望であり、その他に4か所(Tara、Loyoques/Quisquiero、Aguilar、Parinas)で、ある程度のポテンシャルが見込まれる。
これらのうち、Antofagasta州のアンデス山脈丘陵地帯に位置するAtacama塩湖だけが現在操業を行っており17、図23にもあるように、この塩湖はチリ国内外の他の塩原に対し比較優位性を持っていることが分かる。約1,400km2の面積を誇る世界最大級の水圏鉱床であり、同時にリチウム濃度が比較的高くマグネシウムのレベルが中程度であるため処理が容易である。
広大な面積、高濃度のリチウム、マグネシウム含有率の低さに加え、更なる利点は蒸発率が高いことである(表9)。かん水からのリチウム抽出のプロセスは蒸発に依存するため、蒸発が速いほどより短時間で効率的な処理が可能となる。

図23.主な水圏鉱床におけるリチウム及びマグネシウムの含有量
出典:Roskill及び各国の地質学的レポートを基にCOCHILCOが作成
表9.各塩湖の蒸発率(mm/a)
出典:Roskill及び各国の地質学的レポートを
基にCOCHILCOが作成
一方、Pedernales、La Isla、Maricungaといった国内の他の塩湖はAtacamaほど魅力的ではないが、現在操業中の他国の水圏鉱床と比較すると大きな利用可能性が期待できる。
d.CORFOとチリSQM社・米Albemarle社間の協定
CORFOはAtacama塩湖における権益の大部分を所有しており、塩湖中のリチウム及びその他の物質を採掘している米Albemarle社(前独Rockwood社、米Foote Minerals社)及びチリSQM社とリース契約を結んでいる18。しかし、この合意はこれまで様々な論争や改訂を引き起こしてきた。
1985年に交わされたCORFOと米Albermarle社間の契約では、所有する資源権益を米Albermarle社に譲渡した一方で、CORFOが出資し原子力委員会により承認を受けたリチウム資源の開発権は継続するとした。
CORFOは米Albermarle社へ既に出資していたため、この契約ではリチウム開発のためのリース収入は確立されず、また開発権の消費に必要なものを除いた他の事柄に関する有効期限は定められなかった。
CORFOとチリSQM社間の契約は、1987年(当時のチリMinsal社)に結ばれたリース契約及びプロジェクト契約に始まるが、Aylwin大統領(当時)及びFrei大統領(当時)政権下で修正され、両者とも2030年までが期限となった。ここでは売上の6.8%がリース収入として定められたが、その後コストや経費の削減により約1%引き下げられた。
CORFO(2018)によると、これらの契約はどれも情報アクセス、環境モニタリング、規制順守などの点で不十分かつ時代遅れな条項や規制を有していた。以上を要約すると、論争の主なポイントは以下のとおりまとめられる。
プロビジョニング | 米Albemarle社 | チリSQM社 |
---|---|---|
契約期限 | なし | 2030年 |
リチウム売上に係るコミッション | なし | 5.8%、CORFO側が不十分であると非難 |
契約終了後の競争入札の可否 | なし | 資産及び権利の管理に問題 |
情報へのアクセス、管理、監査 | なし | なし |
研究開発への出資 | なし | なし |
チリにおける付加価値へのインセンティブ | なし | なし |
出典:CORFO(2018)
上記に関連して、チリSQM社による契約不履行に対し、2013年に政府は法的措置を開始した。2014年にCORFOは裁判所に対し契約の早期終了と塩湖の返還を求め訴訟を提起した。これにより2015年には国防評議会に上げられ、2016年にCORFOはプロジェクト契約違反でチリSQM社を訴え、塩湖の利用許可に関する環境評価決議の違反で環境管理局に告発した。
法的措置に続き行われた交渉の結果、2018年にCORFOとチリSQM社は2030年まで塩湖のリース契約を維持し、採掘の割当をリチウム金属18千t(そのうち64,816tが残った)から414,369t(約2.20百万t LCEに相当、平均約18千t/年)へ3倍に増やすことと引き換えに、いくつかの協定に合意した19。その2年前となる2016年に、CORFOは既に米Albemarle社との契約を改訂しており、契約終了を2043年とし、262,132tのリチウム金属の生産割当を追加した。
チリSQM社及び米Albemarle社との協定は複数に亘るものであったが、両社に共通するものが2点あるため、以下に簡単に紹介する。
- 米Albemarle社のリチウム販売に関する手数料やロイヤルティの設定、及びチリSQM社のその支払いに関する新たな条件は、CORFO内で特に論争の的となった。度重なる交渉の末、CORFOは最終的に両社との契約で輸出のFOB価格の関数として累進的に課していくことを取り決めた。炭酸リチウムと水酸化リチウムの価格帯及び合意された金利を表11に示す。
- リチウム製品に関して理論上総生産量の最大4分の1まで(15%から始まり25%になるまで年間2.5%増)を優遇価格(直近6か月間の輸出価格の20%割引)で、チリ国内で操業を行う特定の生産者に対して販売する義務。これは、リチウム産業の国内バリューチェーンを発展させることを目的としている(本章「g.チリにおけるリチウムバリューチェーンの創出」参照)。
表11.炭酸リチウムと水酸化リチウムの価格に対するロイヤルティ
出典:CORFO(2018)
e.プロジェクト
契約改訂に従い、チリSQM社と米Albemarle社は生産拡大に向けたプロジェクトを立ち上げた。チリSQM社は現在、Carmen塩湖において炭酸リチウムの自社工場の生産能力を180千t/年に増やす拡張プロジェクトを行っており、一方、米Albemarle社では炭酸リチウムの年産88千t増を目指した自社工場の拡張プロジェクトがフェーズ3の段階にあるが、最近では遅延や停止に見舞われている。
Atacama州のMaricunga塩湖には、チリMinera Salar Blanco社(豪Lithium Power International Ltd.51%、チリMinera Salar Blanco SpA 30.98%、加Bearing Lithium Corp.18.02%のコンソーシアムが所有)によるBlancoプロジェクト及びチリSimco社によるProducción de Sales Maricungaプロジェクトの2つが存在する。2019年8月にCODELCOは、子会社でありリチウム採掘のための「リチウム事業に関する特別契約」の申請資格を有するチリSalar de Maricunga SpA社及びチリMinera Salar Blanco社を通して塩湖利用に関する覚書に署名した(これら2社は当塩湖において最大の権益を所有している)。
表12はオペレーター、ロケーション、各化合物の生産可能量、進捗状況、許認可、推定総投資額に応じて前述のプロジェクトをまとめたものである。
プロジェクト名 | オペレーター | 位置 | 年産量(千t/年) | ステージ | 環境許可 (承認年) |
推定投資額 (mUS$) |
|
---|---|---|---|---|---|---|---|
炭酸塩 | 水酸化物 | ||||||
Salar del Carmen拡張 | SQM | Salar de Atacama |
ェーズ1:+58 フェーズ2:+70 |
フェーズ1:+16 フェーズ2:+24 (新規プラント1) フェーズ3:+36 (新規プラント2) |
運用中 | DIA (2017) |
180 |
炭酸塩 プラント拡張 180千t |
SQM | Salar del Carmen, Antofagasta | フェーズ1:+110 フェーズ2(炭酸塩プラント3):+180 |
– | 建設待ち | DIA (2019) |
450 |
炭酸塩 プラント拡張La Negra フェーズ3 |
Albemarle | La Negra, Antofagasta | +88 | – | 拡張 工事中 |
DIA (2017) |
300 |
Blanco | Salar Blanco | Salar de Maricunga | 20 | – | 建設待ち | EIA (2020) |
563 |
Sales Maricunga | SIMCO | Salar de Maricunga | 5.7 | 9.1 | FS完了 | EIA (2020) |
350 |
出典:環境評価局(Servicio de Evaluación Ambiental)及び各社のレポートに基づきCOCHILCOが作成
f.生産における課題
今日のAtacama塩湖におけるリチウム採掘による影響を、自然生態系への影響とコミュニティへの影響という2つに大まかに区分して見てみる。この両点に関しては大きな論争を招く様々な見解が存在するが、今回は両ポイントの基本的な議論と概要に限定して述べる。
・生態系への影響
チリに存在する塩湖は複雑で他に類を見ない生態系を有しており、アンデスフラミンゴなどの象徴種やマイクロバイオライトのような科学的価値の高い珍しい生物が生息している。塩湖の内陸流域中心部にはLos Flamencos国立保護区があり、湖や塩原や火山、またアンデス高原特有の野生動植物や先スペイン時代の遺跡や建造物などの重要文化財が存在する。同様に、Atacama塩湖の流域内にはPujsa塩湖やTara塩湖、Soncor水文システム、Atacama塩湖に隣接したAguas Calientes VI塩湖のようなラムサール条約登録地もいくつか存在する(OCMAL、2018)。
・地元コミュニティへの影響
チリ北部という地理的条件を考慮すると、塩湖は極端な乾燥地帯において水源貯水池となり、地域社会の生活にとって欠かせないものとなっている。Atacama塩湖の場合はAtacameño族(別名Lickanantay)が生活しており、塩湖沿いの地域では現在Peine村(約600人が居住)やToconao村(約800人が居住)、他にもCamar村、Socaire村、Talabre村などの小さな共同体が存在する。
これらのコミュニティでは水の供給は常に問題となっており、原因として内陸流域や周辺の小川での水利用の許可の濫発による資源の過剰搾取に問題がある20とされたため、2016年に水資源総局はSan Pedro川とVilama川の枯渇を発表し、水資源の乱費を防ぐため許可に制限を設けた(OCMAL、2018)。
上記の事柄や、他の様々な問題21により、地元のコミュニティは塩湖でのリチウム採掘に関連してこれまで数多くの損害を被ってきた。そのたびに先住民及び種族民の権利に関するILO条約第169号などの国際条約が引き合いに出され、企業の社会的責任や共通価値に関する企業戦略の下リチウム採掘がソーシャルライセンスやコミュニティに向かうことを目的として、Atacameño族に権利を譲渡する特定の契約に基づき事業を継続するための交渉がコミュニティと企業間で行われてきた(OCMAL、2018)。
その結果、2012年には独Rockwood社(現米Albemarle社)は塩湖でのリチウム事業を開始するためPeineコミュニティとの合意に署名した。その後、2016年にはかん水からの採掘増量のためのCORFOとの合意の枠組みの中で、San Pedro de Atacama市やAtacameños人民評議会(CPA)の18のAtacameño族コミュニティとの協定に署名し、同社は収益の3%をコミュニティに、0.5%をAtacameños人民評議会に対し研究開発活動費として譲渡することを取り決め、それと同時に塩湖の水位を共同で監視するシステムを確立した。
チリSQM社と地元コミュニティ間の関係はそれとは少し異なり、2007年には許可されていない井戸からの大量取水や塩湖沿岸の鉱業キャンプからの排水による汚染の問題からToconao村と対立した。このキャンプはJere谷に位置しており、地元住民は水の利用が制限される中で農業を営んでいる(OCMAL、2018)。CORFOとチリSQM社が塩湖でのリチウム増産に係る交渉を進めていた2018年には、地域社会の持続可能な経済発展のための年間10~15mUS$の寄付や地方自治体及び地域プロジェクトへの資金提供が制定されたが、この合意は再びコミュニティ内で議論を生むこととなる(CORFO、2018)。
また、2019年末に第一環境裁判所は認可量を超える塩湖かん水を汲み上げているとされた塩湖において、リチウム採掘のためチリSQM社により環境監督庁に提出された順守プログラムに関し、承認に反対するAtacameños原住民コミュニティの訴えを受け入れた。その後、この判決は環境監督庁により控訴されたが、2020年半ばに取り下げられたため、順守プログラムは再度審査され最終的に同社は制裁プロセスに入ることになる。しかし、同社は被害を受けたいくつかのAtacameñosコミュニティとすでに法廷外協定を結ぶに至っている。
g.チリにおけるリチウムバリューチェーンの創出
チリはカソードやその他の電池部品の生産者を国内に誘致することを目指し、リチウム産業のバリューチェーンの開発に力を入れている。それゆえCORFO・米Albemarle社間(2016年)及びその後のチリSQM社(2018年)との間で締結された契約では、全生産量のうち4分の1をチリ国内に設立された特定の生産業者に対し優遇価格で売る義務が規定されている。
そして米Albemarle社からリチウムを購入する生産者を選定するため、2018年にはCORFOにより最初の公募が行われた。この中から韓Posco社-韓Samsung社、中Sichuan Fulin Transportation Group社、チリMolymet社の3つのコンソーシアムが選ばれたが、結果としてこの3社すべてが申請を撤回したため、CORFOは2019年4月に発表したチリSQM社のための入札に加えて米Albemarle社に関しても新たに公募を行うことを発表した。
最初に選出されたコンソーシアムが後に撤回したことからもわかるように、リチウムの下流産業開発のための国内バリューチェーンの創出が弱みとなっていることは明らかである。その原因を探るため、実現に不利となっているポイントを4つにまとめる。
- バッテリー生産業者の拠点:北東アジアには生産チェーンが既に確立されているため、アジアのメーカーが完全または一部チリに進出すれば、その生産チェーンが地理的に断絶されることとなり、その結果コストや時間がかかってしまう。
- 消費者の拠点:中国などの北半球にある国々が最大の経済圏となっているため、チリに製造拠点を設けた場合、最終製品や半製品の輸送時間が長くなる。
- リチウムの種類:メーカーは炭酸リチウムよりも水酸化リチウムを好む傾向にあるのに対し、チリの製造タイプは前者が主流である。
- 製造コスト:一般的に、LIBの総コストに対しリチウムのコストは10%以下である。図24は標準的なLIBのコストの内訳を示しており、このうちカソードの価格は総コストの31%、リチウムの価格は8%に相当する。

図24.LIBのコスト内訳(%)
出典:Roskill(2018)の推計データを基にCOCHILCOが作成
最終製品であるEVで見ると、その割合は当然さらに低くなる。参考までにRoskill(2018)の試算によれば、炭酸リチウム価格が1,000US$/t下がった場合、1製品(50kWhのバッテリー搭載のTeslaモデル 3)あたり50US$の削減にしかならない。
参考文献
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https://www.usgs.gov/centers/nmic/lithium-statistics-and-information
Dirección de Estudios y Políticas Públicasにより作成
Salathiel Andrés González Eyzaguirre
Analista de Estrategia y Políticas Públicas
Jorge Cantallopts Araya
Director de Estudios y Políticas Públicas
2020年8月
- この点に関する詳細は、付録1を参照。
- 特にこの2つの情報源は、2020年内にEV及び自動車全般の売上が拡大すると推定していたが、コロナによる世界経済への影響を考慮し、この売上拡大は可能性が低いと考えた上で、WoodMackenzieの予測(2020年にはEVの売上が2019年比43%減と推定)及びIHS Markitの予測(自動車全般の売上が22%減と推定)に従い下方修正した。
- 原文では「手順3と4で示した予測」との記載である。
- 現在、加American Lithium社や加Noram Ventures社などの企業が、米NV州で粘土鉱物からのリチウム採取を研究している。
- ただし、ボリビアの資源には比較的高濃度のマグネシウムが含まれており、処理が困難なため採取可能と見なされず、USGSはそれを埋蔵量として含めていない。
- かん水の抽出液を汲み上げた後、塩化リチウム、マグネシウム、ホウ素を含む濃縮水溶液が残るまで、蒸発池の水を徐々に蒸発させる。この溶液を炭酸ナトリウムで処理して炭酸リチウムを沈殿させ、それを濾過して乾燥させる。
- チリMaricunga塩湖のSalar Blancoプロジェクトに関するLithium Power Internationalの試算によると、1tの炭酸リチウムを生産するのに約2.3tの苛性ソーダを要し、薬剤のコストの90%以上が苛性ソーダに相当することになる(Lithium Power International、2019)。
- 訳者補足:水酸化リチウムは正極活物質がハイニッケルやLFPの場合に用いられる。
- 同様に、財政負担軽減のために資産売却に乗り出す企業もある。中Tianqi社の場合も、チリSQM社の株式を41bUS$で購入した後、中信銀行への多額の債務により苦境に陥っており、現在、豪Greenbushes社やチリSQM社の権益売却を検討している。
- 効果的な治療法や予防ワクチンがいつ確立するのか、また感染の波が今後複数訪れ、この危機を長引かせるのかどうかはまだ明らかではない。
- 米国環境保護庁(2019)によると、世界の温室効果ガス排出量の14%は運輸部門に起因している。その排出量の大部分はCO2であり、この部門における実質的に全て(95%)の消費エネルギーは、主にガソリンやディーゼルなどの化石燃料による。
- このタイプの車両には呼び名がいくつか存在し、米国ではZero Emission Vehicles(ZEV)という表現が一般的だが、中国では新エネルギー車(New Energy VehiclesまたはNEV)と呼ばれる。
- 実際、Donald Trump前大統領は、排出量が多いにもかかわらず国内の内燃機関車産業の強化に繰り返し賛成していた。
- チリの平均輸出価格の上昇は本質的に国際市況の好転によるものだが、輸出用リチウム化合物の品質向上にも起因することを述べておく必要がある。
- 銅単体で国の輸出額の約半分を占め比較が困難になるため、意図的に銅を除外している。参考までに、2019年の銅の輸出額はリチウムの約35倍であった。
- 原文では「7つ」との記載である。
- この塩湖が注目され始めたのは、CORFOと米Foote Minerals社が探査を開始した1974年に遡る。1980年にはいわゆる「基本合意」を通じて、技術貢献した米Foote社(55%)とその一部の所有権を得たCORFO(45%)の間でチリSociedad Chilena del Litio(SCL)社が結成された。その結果1984年にはチリ初となる5千tにも及ぶ炭酸リチウムの生産が始まり、その後1989年にCORFOはチリSCL社の権益を米Foote社(当時の米Cyprus Foote社)へ売却したが、2012年には独Rockwood Lithium社に買収され、最終的に米Albemarle社に買収された。また1986年にはいわゆる「Atacama塩湖プロジェクト契約」を通じて、CORFO(25%)、米Amax社(63.75%)、チリMolymet社(11.25%)の出資でチリSociedad Mineral Salar de Atacama(Minsal)社を結成した。チリMinsal社は後にチリSQM社の一部となり、現在チリ最大のリチウム生産者となっている。
- チリSQM社は、リースされた28.054 OMA所有権(1,400km2に相当)のうち16.384(819.2km2)を利用する権利を有しており、米Albemarle社はリースされた4.714OMA所有権(236km2)内の3.344を利用する権利を有している。
- 訳者注:数値に関して不明点があるが、原文ママとした。
- OCMAL(2019)によると、リチウム1tに対し約2百万Lの淡水が蒸発により失われる。Atacameños人民評議会によれば、銅及びリチウムの採掘活動のために塩湖の水や塩湖に流れ込む淡水が約5千L/秒利用されており、これは塩湖に流入する水量の5倍に相当する。
- 環境被害に加え、現地の人々はこれまでこの2社による人種差別や権威主義的関係などの被害を受けてきた、とOCMAL(2018)は報告している。
おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
