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報告書&レポート

2021年9月14日 金属企画部
21_04_vol.51

2021年上半期の電動車、車載用リチウムイオン電池及び ニッケルの情勢について

<金属企画部調査課 牧野真弘 報告>

はじめに

昨今、産業界は脱炭素化を急速に求められており、世界各国では本取組みに関する政策を相次いで発表している。その中でも、自動車の電動化は脱炭素化の切り札として各自動車メーカーによる開発が進展しており、ここ数年で電動車(本稿では、「電気自動車(EV)及びプラグインハイブリッド車(PHEV)」を「電動車」として定義する。)の販売台数が加速度的に増加している。それに伴い、車載用リチウムイオン電池(LIB)の生産量も増加の一途を辿っており、正極材の主原料であるリチウム、コバルト、ニッケルについては争奪戦の様相を呈してきている。

そこで本レポートでは、2021年上半期の電動車及び車載用LIBのほか、ニッケルの情勢について振り返るとともに、今後の見通しについても触れていきたい。

1.2021年上半期の世界における電動車の販売動向

2021年上半期の世界における電動車の販売台数は約254万台となり、2020年の累計販売台数である約312万台と比べても、急増していることが分かる。車種別では、表1に示すとおり、1位は米Tesla社のModel 3、2位は中上汽通用五菱汽車(SGMW)社のWuling HongGuang Mini EV、3位は米Tesla社のModel Yが占めた。またメーカー別では、表2に示すとおり、1位は米Tesla社、2位は中SGMW社、3位は独Volkswagen社が占め、これら3社で全販売台数の約3割弱を占める結果となった。

表1.世界における電動車の販売台数上位20(車種別)               単位:台
順位 車種名 国籍 種類 2021年
1~6月
2020年
累計
2020年
順位
1 Tesla Model 3 米国 EV 243,753 365,240 1
2 Wuling HongGuang Mini EV 中国 EV 181,810 119,255 2
3 Tesla Model Y 米国 EV 138,401 79,734 4
4 BYD Han EV 中国 EV 38,667
5 Volkswagen ID.4 ドイツ EV 38,499
6 Great Wall ORA R1 / Black Cat 中国 EV 32,013 46,796 10
7 Renault Zoe フランス EV 31,426 100,431 3
8 Hyundai Kona EV 韓国 EV 31,233 65,075 5
9 Volkswagen ID.3 ドイツ EV 31,079 56,937 6
10 GAC Aion S 中国 EV 30,456 45,626 11
11 Li Xiang One EREV 中国 PHEV 30,154 33,186 20
12 Nissan Leaf 日本 EV 29,372 55,724 7
13 Changan Benni EV 中国 EV 29,178
14 Kia Niro EV 韓国 EV 27,395 37,676 18
15 Chery eQ 中国 EV 27,136 38,215 17
16 Volvo XC40 スウェーデン PHEV 26,839
17 Audi e-Tron ドイツ EV 25,758 47,928 8
18 Toyota RAV4 PHEV 日本 PHEV 25,279
19 BMW 530e ドイツ PHEV 24,985 40,515 16
20 Ford Escape/Kuga PHEV 米国 PHEV 24,763
その他 1,478,572 1,992,455
合計 2,546,768 3,124,793

出典:Clean Technicaより著者作成

表2.世界における電動車の販売台数上位20(メーカー別)           単位:台
順位 メーカー名 国籍 2021年
1~6月
2020年
累計
2020年
順位
1 Tesla 米国 386,080 499,535 1
2 SGMW 中国 191,477 170,825 4
3 Volkswagen ドイツ 153,815 220,220 2
4 BYD 中国 151,156 179,211 3
5 BMW ドイツ 130,734 163,521 5
6 Mercedes ドイツ 103,508 145,865 6
7 SAIC 中国 92,242 101,385 10
8 Volvo スウェーデン 91,479 112,993 8
9 Audi ドイツ 77,891 108,367 9
10 Renault フランス 64,775 124,451 7
11 Kia 韓国 62,164 88,325 12
12 Peugeot フランス 61,000 67,705 13
13 トヨタ自動車 日本 58,736 55,624 17
14 Hyundai 韓国 55,901 96,456 11
15 Great Wall 中国 53,075 57,452 16
16 Ford 米国 48,777
17 GAC 中国 43,786 61,830 15
18 NIO 中国 42,934 43,728 20
19 Skoda チェコ 36,325
20 Changan 中国 34,723
その他 606,190 827,300
合計 2,546,768 3,124,793

出典:Clean Technicaより著者作成

米Tesla社はEV専業メーカーとして、早くからEVに特化した車を製造してきた。その斬新なデザインやコンセプトが世界の富裕層に評価され、車種別、メーカー別ともに不動の1位を維持している。

中SGMW社は2020年以降、中国内農村地域におけるWuling HongGuang Mini EVの爆発的な売れ行きにより、2020年には車種別で2位に位置付けられていたが、メーカー別としても2位に浮上するなど中国内マーケットにおける躍進が目立つ。Wuling HongGuang Mini EVの特徴は、1回の充電走行距離が120kmと他メーカーのEVと比較すると劣後するものの、約45万円という価格競争力が奏功し、交通網の発達していない中国の農村地域では人々の足として活躍している。

独Volkswagen社は2015年にディーゼルエンジンの排出規制の不正が発覚し、その後は脱炭素化の対策としてディーゼルエンジンからEVに舵を切った。その結果、メーカー別では3位に位置付けられるポジションまでシェアを拡大しつつある。

2021年上半期の世界における電動車の販売台数約254万台のうち、中国での販売台数は約108万台(シェア43%)、欧州での販売台数は約103万台(シェア41%)、その他地域での販売台数は約42万台(シェア17%)となり、中国及び欧州でのシェアが非常に大きい。これらの国・地域では、その車種構成において特色を有することから、次項では本特色に着目してみたい。

2.2021年上半期の中国及び欧州における電動車販売動向

2.1.中国

表3に示す通り、2021年上半期の中国における電動車の販売台数は約108万台となり、2020年の累計販売台数の約127万台と比較すると、半期で前年における販売台数の85%に達する結果となった。車種別では1位は中SGMW社のWuling HongGuang Mini EV、2位は米Tesla社のModel 3、3位は米Tesla社のModel Yが占めた。

表3.中国における電動車の販売台数上位20(車種別)
順位 車種名 国籍 種類 2021年1~6月
販売台数(台)
1 Wuling HongGuang Mini EV 中国 EV 181,810
2 Tesla Model 3 米国 EV 84,844
3 Tesla Model Y 米国 EV 46,180
4 BYD Han EV 中国 EV 38,665
5 Great Wall ORA R1 / Black Cat 中国 EV 31,994
6 GAC Aion S 中国 EV 30,452
7 Li Xiang One EREV 中国 PHEV 30,154
8 Changan Benni EV 中国 EV 29,147
9 Chery eQ 中国 EV 27,136
10 BYD Qin Plus 中国 PHEV 21,376
11 SAIC Roewe Clever EV 中国 EV 20,639
12 Xpeng P7 中国 EV 19,496
13 NIO ES6 中国 EV 18,151
14 Hozon Neta V EV 中国 EV 18,072
15 NIO EC6 中国 EV 15,309
16 Leap Motor T03 中国 EV 14,667
17 BYD Han 中国 PHEV 13,552
18 Weltmeister EX5 中国 EV 13,173
19 SAIC Roewe eRX5 中国 PHEV 13,040
20 BYD e2 中国 EV 12,685
その他 408,073
合計 1,088,615

出典:Clean Technicaより著者作成

上位20車種のうち、米Tesla社を除いて、その他はすべて中国メーカーが生産した電動車であることが特徴の1つである。1位のWuling HongGuang Mini EVは、前述の通り低価格と1回の充電走行距離の短さが特徴的であるが、それ以外は高級車ないしは大衆車であることも中国における車種構成の特色であると言える。

中国で電動車の販売台数が急激に伸びている主な理由としては、中国政府による政策が挙げられる。国務院は2020年11月に「新エネルギー自動車産業発展計画(2021~2035年)」を公布した。ここでは、2025年までに新車販売台数に占める新エネルギー車(NEV(EV、PHEV及び燃料電池車(FCV)))の割合を現行の約5%から約20%に引き上げ、2035年までにEVを新車販売の主役とする目標を設定した。また中国では、車を購入する際にナンバープレートを購入しなければならないが、北京、上海、深圳、広州、天津、杭州の6都市では、NEVを本購入規制の対象外としている。このため大都市におけるNEVの購入意欲が根強いことも、中国で電動車の販売台数が急激に伸びている理由の1つとして挙げられる。

2.2.欧州

表4に示す通り、2021年上半期の欧州における電動車の販売台数は約103万台となり、2020年の累計販売台数の約136万台と比較すると、半期で前年における販売台数の76%に達する結果となった。車種別では1位は米Tesla社のModel 3、2位は独Volkswagen社のID.3、3位は仏Renault社のZoeが占めた。

表4.欧州における電動車の販売台数上位20(車種別)
順位 車種名 国籍 種類 2021年1~6月
販売台数(台)
1 Tesla Model 3 米国 EV 67,480
2 Volkswagen ID.3 ドイツ EV 31,030
3 Renault Zoe フランス EV 30,752
4 Volvo XC40 PHEV スウェーデン PHEV 24,897
5 Volkswagen ID.4 ドイツ EV 24,886
6 Ford Kuga PHEV 米国 PHEV 24,478
7 Hyundai Kona EV 韓国 EV 22,294
8 Peugeot 3008 PHEV フランス PHEV 21,095
9 BMW 330e ドイツ PHEV 20,861
10 Kia Niro EV 韓国 EV 20,753
11 Peugeot e-208 フランス EV 20,502
12 Fiat 500e イタリア EV 19,229
13 Volkswagen e-Up! ドイツ EV 18,013
14 Volvo XC60 PHEV スウェーデン PHEV 17,254
15 Renault Captur PHEV フランス PHEV 16,951
16 Mercedes GLC300e/de ドイツ PHEV 16,436
17 Nissan Leaf 日本 EV 16,365
18 Audi e-Tron ドイツ EV 15,999
19 Volkswagen Golf PHEV ドイツ PHEV 15,907
20 BMW X1 PHEV ドイツ PHEV 15,796
その他 572,351
合計 1,033,329

出典:Clean Technicaより著者作成

上位20車種のうち、欧州メーカーが生産した電動車は15車種にのぼる。また上位20車種のうち、EVは11車種、PHEVは9車種という特色を有する。これは欧州では長距離走行が一般的である一方、依然としてEV充電設備が十分に発達していないことに起因しており、中国と比較すると相対的にPHEVの需要が多い。

欧州において電動車の販売台数が急激に伸びている主な理由としては、欧州政府による政策が挙げられる。欧州では、欧州委員会が2019年12月に脱炭素と経済成長戦略を合わせた「欧州グリーン・ディール」を発表し、2050年までのカーボンニュートラルを目標としている。そのため加盟国は、電動車の購入に対して手厚い補助金を与えてきた。さらに同委員会は2021年7月、域内での温室効果ガスを削減するための包括的な政策パッケージ「Fit For 55」を発表した。本政策では、2030年には温室効果ガスを1990年のレベルと比べて55%削減するほか、2035年には新車の平均排ガス量を現在の量の100%減にするために、同年以降はハイブリッド車(HEV)やPHEVを含む内燃機関を積んだ車を実質販売禁止とする目標が掲げられている。

これに対する欧州の自動車業界の反応は真っ二つであり、例えば独Volkswagen社のCEOであるHerbert Diess氏は「準備万端だ」として、前向きな姿勢を示している。同社は、欧州委員会の発表の直前に公表した2030年に向けた電動化戦略の中で、EVの収益性改善について見通しを示すとともに、エンジン車とEVの収益性は今後2~3年で同等になると言及した。

一方、業界団体は懸念を表明している。ドイツ自動車工業会(VDA)は、エンジン車とHEVを終わらせることはイノベーションの阻害であると訴えている。また欧州自動車工業会(ACEA)は、会員企業は2050年にカーボンニュートラルを達成する目標を支持し、実際にこれら企業による投資が進んでいるとしているものの、エンジン車とHEVを禁止することは現時点では合理的な方法ではない旨に言及している。

3.今後の電動車の販売見通し

表5に、自動車メーカー各社によるゼロエミッション車の投入計画を示す。世界各国の環境規制強化により、各社とも電動車生産比率を上げることを宣言しており、電動車の販売台数は今後も飛躍的に伸びていくことが予想される。

表5.世界の自動車メーカー各社によるゼロエミッション車投入計画
自動車メーカー 全販売台数における電動車の割合 種類
Volvo Cars 50% BEV 2025
100% BEV 2030
Volkswagen 70%以上 BEV 2030
Porsche 100% BEV,PHEV 2035
Audi 100% HEV 2030
100% BEV 2035
General Motors 100% BEV 2035
Jaguar Land Rover 100% BEV,PHEV 2030
Jaguar 100% BEV,PHEV 2025
Ford 100% BEV,PHEV 2026
100% BEV 2030
Stellantis 70% BEV,PHEV 2030
BMW 50%以上 BEV 2030
Mini 100% BEV 2030
日産 100% BEV,PHEV,HEV 2030
Renault Group
(Renault Brand)
65% ZEV,PHEV,HEV 2025
90% ZEV,PHEV,HEV 2030
Daimler 25%まで BEV 2025
ホンダ 100% BEV,PHEV,HEV 2040
トヨタ BEVの販売台数1百万台 BEV 2030

出典:欧州委員会資料より著者作成

また富士総研社では、2035年におけるHEV、PHEV、EVの世界市場に関して表6にて示す販売台数を予測している。本予測では、2020年の世界のHEV、PHEV、EVの販売台数はそれぞれ269万台、96万台、220万台の合計585万台であったところ、2035年には、それぞれ1,359万台、1,142万台、2,418万台の合計4,919万台にまで伸びるとの見通しを立てており、ICE等全販売台数に対するHEV、PHEV、EVの世界シェアは、2020年にはわずか7.5%だったが、2035年には38%まで上昇するとしている。

表6.HEV、PHEV、EVの世界市場(乗用車・新車販売台数)
2020年 全販売台数における割合 2019年比 2035年予測 全販売台数における割合 2020年比
HEV 269万台 3.5% 105.9% 1,359万台 10.6% 5.1倍
PHEV 96万台 1.2% 165.5% 1,142万台 8.9% 11.9倍
EV 220万台 2.8% 131.7% 2,418万台 18.8% 11.0倍
合計 585万台 7.5% 122.1% 4,919万台 38.3% 8.4倍
全販売台数 7,792万台 100.0% 80.1% 12,845万台 100.0% 1.6倍

出典:富士総研社による調査報告書及びWood Mackenzie社より著者作成

4.2021年上半期の世界における車載用LIBの搭載容量動向及び生産見通し

世界における電動車の販売台数の急増に伴い、車載用LIBの搭載容量も増加している中、日本、韓国、中国の車載用LIBメーカーは熾烈なシェア争いを行っている。

図1に、車載用LIBメーカーごとの搭載容量に関するシェア割合を示す。2021年上半期の世界における車載用LIBの搭載容量は114.1GWhとなり、2020年の累計搭載容量142.8GWhと比べても、急速にその容量が増えていることが分かる。1位は中寧徳時代新能源科技(CATL)社の34.1GWh、2位は韓LG Energy Solution社の28.0GWh、3位はパナソニック社の17.1GWhとなり、上位6社のうち、中国及び韓国メーカーのシェアはそれぞれ36.7%及び34.9%と拮抗している中、日本メーカーのシェア合計は15.0%と約半分のシェアにとどまっている。

図1.2021年上半期の世界における車載用LIBメーカー別搭載容量のシェア

図1.2021年上半期の世界における車載用LIBメーカー別搭載容量のシェア

出典:SNEリサーチより著者作成

各国のシェア拡大競争が続く中、車載用LIBメーカー各社は相次いで増産計画を発表している。特に欧州では、欧州委員会が2020年12月に車載用LIBに関する規制の大規模改正となる規則案を発表し、車載用LIBの開発と生産を産業戦略上の重要政策として官民一体で取り組んでいること等を背景として、表7に示すとおり工場建設計画が目白押しである。

本規則案では、車載用LIBのみならず、各種バッテリーの製品設計から生産プロセス、再利用、リサイクルに至るライフサイクル全体に関して、表8のとおり規定している。いずれも、欧州委員会が委任立法により詳細を決定することとして、閣僚理事会と欧州議会で審議されることになるとしているが、今後車載用LIBの生産にあたっては、カーボン・フットプリントやリサイクルの概念に基づく原料調達やサプライチェーンの構築が求められることになる。

表7.欧州における主な車載用LIB工場建設リスト
会社名 国籍 建設
予定年
建設地 生産能力 概要
Tesla 米国 2021年
以降
ドイツ 100GWh
(目標)
世界最大のEVメーカー。車載用LIB内製化に動く。米国企業。
Northvolt スウェーデン 2021年 スウェーデン 16GWh
(3年後に40GWh)
スウェーデンの新興企業。独Volkswagen社やBMW社などが出資。
CATL
(寧徳時代新能源科技)
中国 2022年 ドイツ 14GWh 急成長する世界最大の車載用LIBメーカー。中国企業。
SVOLT
(蜂巣能源科技)
中国 2022年 ドイツ 24GWh 長城汽車からスピンアウトして誕生、中国企業。
Farasis Energy
(孚能科技)
中国 2022年 ドイツ 6GWh
(後に10GWh)
独Mercedes-Benz社が約3%出資。中国企業。
LG化学 韓国 2022年 ポーランド 65GWh
(35GWh超の増産)
車載用LIB大手。米国ではGeneral Motors社と合弁で車載用LIB生産計画。韓国企業。
Samsung SDI 韓国 未定 ハンガリー 40GWh台後半(10GWh超の増産) 増産のための資金調達を2021年2月に発表。すでに30GWh規模が稼働。韓国企業。
Northvolt、
Volkswagen
スウェーデンドイツ 2023~2024年 ドイツ 16GWh
(後に24GWh)
2社の合弁でドイツに車載用LIB工場を建設
FREYR ノルウェー 2023年 ノルウェー 34GWh ノルウェーの新興企業。日本人がCTOを務める。
Britishvolt 英国 2023年 英国 30GWh 英国の新興企業。独Siemens社などと技術提携。
Automotive Cell
Company
フランス 2023年 フランス
ドイツ
24GWh
(2030年までに48GWh)
仏石油会社Totalの子会社Saftと仏PSAとの合弁。
Verkor フランス 2023年 フランス 16GWh
(後に50GWh)
欧州イノベーション・技術機構創設のEIT InnoEnergyが支援。
SK Innovation 韓国 2028年 ハンガリー 30GWh ハンガリーで別途2023年までに2工場が稼働予定(約20GWh分)。韓国企業。
生産能力最大合計 509GWh

出典:各社発表内容等より著者作成

表8.欧州におけるバッテリー規制の改正案に関する骨子
項目 規制開始の
時期(予定)
規制内容
EVバッテリー及び産業用充電池を対象とした製品設計における規制 2024年7月1日 製造者や製造工場の情報、バッテリーとそのライフサイクルの各段階での二酸化炭素(CO2)総排出量、独立した第三者検証機関の証明書などを含む、カーボン・フットプリントの申告。
2026年1月1日 ライフサイクル全体でのCO2排出量の大小の識別を容易にするための性能分類(performance class)の表示。
2027年7月1日 ライフサイクル全体でのカーボン・フットプリントの上限値の導入。
コバルトや鉛、リチウム、ニッケルを含むEVバッテリー、産業用バッテリー、自動車蓄電池に関する規制 2027年1月1日 再利用された原材料の使用量の開示。
2030年1月1日 再利用された同原材料のそれぞれの使用割合の最低値の導入。

出典:JETRO資料より著者作成

5.車載用LIBの正極材動向

車載用LIBの正極材は、NCM(ニッケル・コバルト・マンガン)を主成分とするものがメインであるが、2018年のコバルト価格高騰以降、コバルトレス化が進んでいる。MarkLines社によると、Cセグメント(カローラ、プリウス、リーフ級)のEVの生産コストは1台当たり194万円で、うちバッテリーコストは90万円と試算されている。つまりEVの生産コストに占めるバッテリーコストは約5割を占めることから、各社ではバッテリーコストを下げる努力をしている。このような状況の中、NCMの高ニッケル化とLFP(リン酸鉄リチウム)のどちらかを使用するという二極化現象が起きている。

EVの高級車に対しては、高ニッケルのNCMが使われ始めている。これは、ニッケルの容量が大きくなればなるほどバッテリーセル内で多くのリチウムイオンを流すことが可能となることから、結果的に高容量のニッケルをEVに搭載することで航速距離が長くなるほか、搭載する電池の体積を小さくできることが背景としてある。加えて、ニッケルを高容量化にすることで、価格変動性が大きく高価であるコバルトの容量を減らすことができ、価格競争力も上がる。但し、高容量のニッケルは良いことずくめではない。ニッケルは容量が大きくなればなるほど、負極に移動するリチウムイオンの量が増えるが、それだけ不安定になり問題が発生しやすくなる。

一方、低価格のEVに対しては安価なLFPが使用されている。中SGMW社のWuling HongGuang Mini EVが45万円という低価格を実現できた理由の1つは、LFPを採用したことによるものである。米Tesla社もModel 3の廉価版にはLFPを搭載している。LFPの特許は2022年までであるため、現在はほぼ中国でしか生産されていないが、今後、低価格のEVの販売台数が増えることが予想されることから、LFPのマーケットシェアも増えてくるものと予想する。

6.中国及び韓国における車載用LIBメーカー及び部材メーカーの主原料調達動向

車載用LIBの需要急増に伴い、メーカー各社は主原料であるリチウム、コバルト、ニッケルの確保が急務となっている。特に中国及び韓国の車載用LIBメーカーや部材メーカーは、積極的に権益確保に努めており、日本メーカーにとっては脅威となっている。

以下に、各社における足元の動向を示す。

6.1.中CATL社

2018年にインドネシアQMB New Energy Materials社に出資した。出資比率は、格林美股份有限公司(GEM)が36%、CATL社が25%、青山控股集団有限公司関連会社(以下、「青山集団」という。)が21%、Morowali工業団地所有会社(青山集団及びPT Bintangdelapanの合弁会社)が10%、阪和興業社が8%。生産能力はニッケル純分で50千t/年、コバルト純分で4千t/年であり、2022年から操業開始予定である。またCATL社は、中Legend社とともにインドネシアでHPAL工場を建設予定であり、2026年から操業開始予定である。さらに2021年4月にはChina Molybdenum子会社のKFM Holding Ltd.の株式25%を取得している。なおKFM Holding Ltd.は、DRコンゴのKisanfu銅・コバルト鉱床プロジェクトの95%を所有している。

6.2.中比亜迪股份有限公司(BYD社)

青海省の現地企業と炭酸リチウムを製造する会社を2016年に立ち上げ、2018年には青海省西寧市で車載用LIBの新工場の操業を開始した。原料の安定的な供給元の確保が狙いであり、BYD社はリチウム資源が豊富な青海省を車載用LIB製造の中核拠点に位置付けている。

6.3.中浙江華友鈷業股分有限公司(Huayou Cobalt社)

2021年に、インドネシアPT Huayu Nickel Cobaltに出資した。出資比率は、Huayou Cobalt社が20%、EVE Energy社が17%、Yongrui Holdings社(青山集団傘下会社)が31%、Glaucous International社が30%、Lindo Investment社が2%で、生産能力はニッケル純分で120千t/年、コバルト純分で15千t/年を有する。インドネシアのCentral Sulawesi州Weda Bay工業団地でラテライトニッケルの湿式製錬プロジェクトを開発しているが、操業開始時期は未定である。

6.4.中江西贛鋒鋰業股份有限公司(Ganfeng Lithium社)

2021年1月に、ラテライトニッケル生産事業者のインドネシアSilkroad Nickel Ltd.と将来の原材料の引き取りに関する独占契約を締結した。また2021年2月にはメキシコSonoraリチウムプロジェクトに関し、英Bacanora Lithium社と新たな合弁契約を交わし、保有権益を増加させるオプションを行使すると発表した。さらに2021年7月にはアルゼンチンSalta州政府からMarianaリチウムプロジェクトのプラント建設に関する環境影響報告書の承認を受けた。

6.5.韓LGグループ

中Huayou Cobalt社と共同で前駆体・陽極材の生産法人を設立し、コバルトの安定需給先を確保した。さらに韓国・高麗亜鉛の子会社KEMCOの株10%を確保し、ニッケルの供給先を確保した。

6.6.韓Poscoグループ

リチウムについては、アルゼンチンのSalar del Hombre Muerto(オンブレ・ムエルト塩湖)の採掘権を2018年に買収した。またニッケルについては、加First Quantum Minerals社が保有する豪Ravensthorpeニッケル・コバルト鉱山の権益30%を取得する契約を2021年に締結し、2024年からニッケル純分で7,500t/年を確保した。

7.2021年上半期の世界におけるニッケル需給動向

次に、車載用LIBの主原料の1つであるニッケルの2021年上半期の世界における需給動向について触れたい。

表9に、国際ニッケル研究会(INSG)がまとめた2020年及び2021年上半期におけるニッケル需給の実績を示す。2021年上半期の世界のニッケル生産量は1.295百万t、ニッケル消費量は1.382百万tとなり、86.7千tの供給不足となったが、その主要因は複数の生産者の予定外の生産減によるものである。

表9.世界のニッケル需給               単位:千t
2020年 2021年上半期
ニッケル生産量 2,489.3 1,295.3
ニッケル消費量 2,385.4 1,382.0
需給バランス 103.9 -86.7

出典:INSG発表内容より著者作成

ロシアのNornickel社では、2021年3月末にOktyabrsky鉱山及びTaimyrsky鉱山にて洪水が発生したほか、濃縮工場の崩壊により大きな損失を被ったことで、同国における2021年上半期のニッケル生産量は48.9千tとなり、前年同期比31.3%の減となった。

ニューカレドニアでは、Prony Resources HPAL工場(Ex-Goro/VNC)の売却に反対した抗議者により、2021年4月まで工場が閉鎖された。また、Eramet社では2021年上半期は天候や保護封鎖による鉱石不足が影響し、フェロニッケル工場の生産量は減少した。その他、GlencoreもKoniamboフェロニッケル事業での業績不振により、生産量が減少した。その結果、同国における2021年上半期のニッケル生産量は25.3千tとなり、前年同期比38.3%減となった。

8.今後の世界におけるニッケル需給動向

図2に、Wood Mackenzie社による用途別のニッケル需要の見通しを示す。同社の見立てによると、2021年の世界のニッケル需要のうち約72%はステンレス向けであり、電池向けは約8%でしかない。しかし、EVの需要増に伴うニッケルの需要増により、2040年の世界のニッケル需要のうち電池向けは約31%を占めると予想されている。

図2.用途別世界のニッケル需要

図2.用途別世界のニッケル需要

出典:Wood Mackenzie社より著者作成

本需要見通しに対して、ニッケル供給のカギを握るのはインドネシアである。

表10及び表11に、中国企業によるインドネシアでの新規HPALプロジェクト及び新規ニッケルマットプロジェクトの一覧をそれぞれ示す。インドネシアでは、ニッケルの未加工鉱石の輸出が禁止されていることや正極材向け原料である硫酸ニッケルの需要増加に伴い、硫酸ニッケルの原料であるMSP/MHPを製造する新規のHPALプロジェクトや、同じく硫酸ニッケルの原料となるニッケルマットプロジェクトが目白押しである。

表10.中国企業によるインドネシアでの主な新規HPALプロジェクト
プロジェクト名 出資会社 製品 投資額
(bUS$)
生産能力
(千t-Ni/年)
操業状況
Obi HPAL Lygend MSP,NiSO4 0.7-0.9 35 2021年後半に試運転を予定。
Huayue Huayou MHP 1.28 60 2021年末までに操業開始予定。
QMB GEM MHP 0.7 50 2022年に試運転を予定。

出典:安泰科より著者作成

特に青山集団は、インドネシアにおけるニッケル生産を積極的に進めている。同社は2020年7月からニッケルマットの試作を開始してニッケル純分75%以上のニッケルマットの生産に成功した。2021年3月には中Huayou Cobalt社及びCNGR New Energy (CNGR)社とニッケルマットに関する供給契約を締結し、2021年10月以降、中Huayou Cobalt社に対して60千t、CNGR社に対して40千tのニッケルマットを供給する予定である。

安泰科によると、インドネシアのニッケル生産量は2021年には980千t、2022年には1.48百万t、2023年には1.78百万tと予想され、同国における各社のニッケルプロジェクトが予定通り進めば、2022年には中国のニッケル需要を満たすほか、2023年には中国に加えてインドネシアのニッケル需要も満たすとされている。

表11.中国企業によるインドネシアでの主な新規ニッケルマットプロジェクト
プロジェクト名 製品 投資額
(bUS$)
生産能力
(千t-Ni/年)
操業状況
Youshan Nickel NPI/Matte 0.407 34 2021年から4炉で操業開始。
現在は主にNPIを生産。
Huake Nickel Matte 0.52 45 2022年に試運転を予定。
青山集団 Matte 75 2021年10月からマットの供給を開始予定。
Cenergy Matte 0.243 30 2021年に契約締結し、第1段階では10千t-Niの生産を予定。

出典:安泰科より著者作成

おわりに

世界的な脱炭素化の動きを受け、電動車や車載用LIBの需要は今後も加速度的に高まる見通しが立てられている一方で、車載用LIBについては全固体電池等の新しい技術も出てくることが予想されることから、主原料であるリチウム、コバルト、ニッケルの需要にも影響が出てくるものと考えられる。また、これら主原料の需給バランスを埋めるにあたっては、車載用LIBのリサイクルの位置付けが大きなカギを握っていると言える。

現状ではあまり注目されていないが、車載用LIBの製造設備の供給体制も今後の電動車の市場拡大を左右する主要な要素になると考えられる。特に高グレードの車載用LIB生産では、日本製の製造設備が採用されていると言われているが、生産能力を急激に大きくすることは容易ではないと思われる。

このように、電動車や車載用LIBを取り巻く情勢は今後も目まぐるしく変化していくと予想される状況の中、引き続きこれらの動向については注視をして参りたい。

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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