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報告書&レポート

2021年11月8日 金属企画部 調査課 小口朋恵
21_05_vol.51

2020年の鉛需給動向

<金属企画部調査課 小口朋恵 報告>

はじめに

世界は新型コロナウイルス(以下、「コロナ」という。)感染症に見舞われており、話題はこのコロナ一色と言っても過言ではないほど、産業界、経済界、また個々の私生活においても甚大な影響が現れている。世界の鉛業界においても例外ではないが、鉛の需給動向が世界および日本においてどのようなものであったか、コロナ の影響を念頭に置きつつ見ていくことにしたい。また、鉛は廃バッテリーのリサイクル原料比率が高い鉱種であり、鉛の需給を語る上でこの廃バッテリー原料が欠かせないところ、我が国や世界の一次原料と二次原料の比率について着目したい。本観点については、我が国が2018年以降、これまで大量に廃バッテリーを輸出していた韓国への輸出が止まったことも、廃バッテリーのサプライチェーンに少なからず影響を与えたことから、この点についても言及することといたしたい。

1.世界の需給動向概況

以下に、国際鉛亜鉛研究会(International Lead and Zinc Study Group。以下、「ILZSG」という。)が発表した2020年の鉛の需給動向に関する概況をまとめる1

(1)鉱石生産量

ILZSGによると、2020年の世界の鉛鉱石生産量は4,482千tとなり、2019年の4,720千tと比較し5%減となった。減少の原因は、コロナによる厳しい操業制限が敷かれた影響が大きく、アルゼンチン、ボリビア、メキシコ、ペルー、南ア、カザフスタン、スウェーデン、カナダといった多くの国で生産量が減少した。特に、カナダで2020年第1四半期にSilvertip銀・鉛・亜鉛鉱山およびCaribou亜鉛・鉛鉱山が操業停止したことが影響した。一方で、ギリシャ、ナミビア、米国と対前年比で生産量が増加した国もあった。

中国の生産量が1,969千tで世界全体の44%を占め、世界の鉱石生産において2位の豪州および欧州(10%)を離し、一国では圧倒的な生産量を誇る(図1)。2019年の中国の割合は42%であったことから2ポイント増加したが、2020年はコロナという例年には無い要素が影響したことを考慮すべきであり、中国の鉱石生産量は右肩下がりの傾向にあるほか、世界に占める割合も2011~2013年は50%を超えたが、以後下落傾向が続いている(図2)。

(2)地金生産量

ILZSGによると、2020年の世界の鉛地金生産量は11,750千tで、2019年の12,186千tと比較し3.6%減となった。豪州の生産量は増加したが、その他のベルギー、フランス、インド、韓国、メキシコ、米国の生産量は軒並み減少した。カナダの減少も大きく、2019年12月のGlencoreのBelledune製錬所閉鎖が影響した。中国および日本の地金生産量は概ね横ばいであった。

2020年、生産量第1位の中国は全体の42%を占め>た(図1)。2019年は41%であり1ポイント増加したことになるが、2017年の40%以降緩やかに増加傾向でありつつも、過去10年は40~43%の中で推移し概ね横ばいである(図2)。

また、鉛はバッテリーのリサイクルが進み、鉱石由来の一次原料のみならず、リサイクル由来の二次原料の比率も他のメタルと比較して高いことで知られている。この世界の鉛地金生産における一次(鉱石)原料と二次(リサイクル)原料の、それぞれ由来の生産量から求めた比率は、10年前の2010年で一次原料は41%、二次原料は59%と、概ね「4:6」の比率であった(図3)。2012~2013年もその比率はそれぞれ44%、56%とほぼ変化がなかったが、以後鉱石の割合は減り、2018~2019年には一次原料は35%、二次原料は65%と、その比率は「3.5:6.5」になりつつある。なお、2020年はそれぞれ37%、63%であり、一次原料の割合が2ポイント増えたが、恐らくコロナによりリサイクルの回収が減少したこと等の影響で、一時的な増加ではないかと考えられる。鉛地金生産量が概ね増加傾向にある中、一次原料由来の鉛地金生産量が2013年の5,018千tをピークに減少傾向にある(2020年は4,300千t台)ため、二次原料であるリサイクル由来の鉛地金生産量が増加傾向にあることがわかる。

(3)地金消費量

ILZSGによると、2020年の世界の鉛地金消費量は11,527千tで、2019年の12,167千tと比較し5.3%減となった。特に欧州(対前年比12%減)および米国(同7.8%減)の減少が全体に影響した。これらの国・地域では、自動車業界がコロナの影響を受け、新車販売台数が落ち込んだほか、自動車利用の減少でバッテリーの取り換え需要も落ち込み、主要な自動車組立工場の操業一時停止等が要因となった。その他、豪州、ブラジル、日本、韓国、メキシコ、タイでも地金消費量は減少したが、中国は対前年比0.4%の上昇であった。

2020年の世界地金消費における中国の割合は44%で、2019年の41%から3ポイント伸びた。地金消費も、地金生産とほぼ同様に、2017年の40%以降増加傾向でありつつも、過去10年は40~43%の中で推移し概ね横ばいである(図2)。

図1.世界の鉛鉱石・地金生産量、地金消費量

図1.世界の鉛鉱石・地金生産量、地金消費量

出典:ILZSG

図2.世界の鉛鉱石・地金生産量、地金消費量と中国比率の推移

図2.世界の鉛鉱石・地金生産量、地金消費量と中国比率の推移

出典:ILZSG

図3.世界の鉛地金生産における一次原料、二次原料比率の推移

図3.世界の鉛地金生産における一次原料、二次原料比率の推移

出典:ILZSG

(4)需給バランス

図4のとおり、2020年における鉛地金の需給バランスは、223千tの供給過剰であった。2017年に149千tの大幅な供給不足を記録して以後、翌2018年は不足幅が46千tにまで減少し、2019年には25千tの供給過剰に転じていた。2020年は、コロナ蔓延により3~5月に鉱山の操業一時停止等の措置が取られ、短期的に生産量が減少したが、年間計では生産量は大きな落ち込みには至らなかった。一方で、コロナによる景気減速の影響で、供給量の減少をはるかに上回る量で需要量が落ち込んだことで、過剰幅の拡大につながったものと考えられる。過去、2011年に168千tという大幅な供給過剰を記録しているが、200千t超の大きな供給過剰は2000年からの過去20年間においては記録されていない。

ILZSGの春季大会では、2021年は96千tの供給過剰との予測で、2020年に続いて過剰ではあるがその幅は縮小する見込みであった。しかしその後、トヨタ自動車が2021年8月と9月の2度に亘り、2021年9~10月の世界生産を減らす計画であると発表した。東南アジアでのコロナ感染拡大による部品や半導体の供給不足が理由とされているが、この自動車減産により鉛蓄電池、ひいては鉛の需要が減少し、2021年全体のバランスにも影響が出る可能性がある。なお、2021年10月上旬に開催されたILZSGの秋季大会では、2021年を27千tの供給過剰と、春の予測より過剰幅を縮小した。また2022年を24千tとし、この2年間はほぼバランスが続くとの予想である。

図4.鉛地金の需給バランスの推移

図4.鉛地金の需給バランスの推移

出典:ILZSG

(5)市況動向

図5.鉛のLME指標価格とLME在庫・SHFE在庫の推移

図5.鉛のLME指標価格とLME在庫・SHFE在庫の推移

出典:LME、SHFE(上海期貨交易所)

1,904US$/tでスタートした2020年は、中国・湖南省武漢市を発端とするコロナの影響で、中国国内の需要が減退、やがてコロナが世界的に蔓延し始め、景気および経済活動減退懸念とともに2~3月は各国鉱山で操業一時停止が相次いだことから急落し、3月に一時、2016年1月以来4年2か月ぶりとなる1,600US$/tを割った。その後値を戻す動きにより、一旦は1,700US$/t台に回復するも再び下落し、5月14日に2020年最安値の1,577US$/tをつけた。しかしこれを底に、各国に先駆けていち早くコロナ不況から脱し経済が持ち直し始めた中国が需要を牽引する形となり、5月下旬からは上昇基調となった。その後、7月中旬以降、LME在庫がそれまでの倍以上に急増し、需給の緩みが意識されたことで10月再び下落したが、冬期の鉛蓄電池需要に伴い例年秋以降は上昇基調になるところ、当年も価格を持ち直し、1,972US$/tで越年した。

2,024US$/tでスタートした2021年は、コロナ感染再拡大等で3月に一時1,900US$/t近くまで下落したが、その後は概ね上昇基調となった。5月10日に銅が史上最高値の10,725US$/tをつけ、それにつられるような形で鉛は2,200US$/t台の高値をつけた。更に、7月中旬には欧州で大洪水が発生、独Berzelius Stolberg社の欧州最大の鉛製錬所であるStolberg製錬所が不可抗力宣言を発動したほか、8月には加BC州でTeck社のTrail製錬所が山火事の影響で稼働を一時中断するなど、2021年は気象条件悪化等による自然災害による操業停止が発生し、高値が継続している。8月15日に2,504US$/tの年初来高値をつけた後、現在は下落基調となっている。

なお、2021年に入り、LME在庫は3月に一時上昇の後減少しているが、それに反して中国のSHFE(上海期貨交易所)在庫が大幅に上昇している。いずれは市場に出る在庫のため、これが一気に放出された際の市場バランスの乱れや値崩れといった影響が懸念される。

2.日本

(1)供給

ILZSGによる、我が国の鉛地金生産量を図6に示す。2020年の鉛地金生産量は237tで、2019年と横ばいであった。この10年では2012年の258千tがピークで、その後減少しているが、概ね240千t前後の横ばいで推移している。我が国における鉛地金生産において、2020年のコロナの影響は一時的にはあったとみられるが、結果的にはほぼ無かったと言える。

日本の鉛地金生産における二次原料比率は65%前後と、概ね他の先進国並みで、緩やかにではあるが増加基調にある2。鉛は「リサイクルの優等生」と言われるとおり、二次原料比率が他のベースメタルと比べても高い鉱種であり、今後も緩やかにかもしれないが、二次原料比率は高まっていく、もしくは高める努力がなされていくものと考えられる。

図6.日本の鉛地金生産量の推移

図6.日本の鉛地金生産量の推移

出典:ILZSG

(2)需要

日本の2020年の鉛需要量は285.6純分千tであり、対前年比11%減少した(図7)。鉛需要の85%が鉛蓄電池であるところ、2020年の鉛蓄電池の生産量は27.9千t(鉛量)で、対前年比8%減少であった(図8)。このデータによると、鉛蓄電池のうち80%近くが車載用であるところ、自動車生産台数も、2015年以降の5年間は900万台を維持、特に2017~2019年の3年間は950万台を超えていたが、2020年はコロナの影響で800万台と対前年比84%まで減少した(図9)。この自動車生産台数の減少が鉛需要量の減少の要因になっていると考えられるが、鉛需要の減少幅は自動車生産台数のそれほど大きくないのは、鉛蓄電池は新車搭載用のみならず、市中の自動車の取り換え需要、また定置用蓄電池もある点を考慮せねばならない。

図7.日本の鉛需要量の推移

図7.日本の鉛需要量の推移

出典:経済産業省「鉄鋼・非鉄金属・金属製品統計」、日本鉱業協会「鉱山」

図8.日本の鉛蓄電池生産量の推移

図8.日本の鉛蓄電池生産量の推移

出典:経済産業省生産動態統計年報 機械統計編

図9.日本の自動車生産台数の推移

図9.日本の自動車生産台数の推移

出典:日本自動車工業会

(3)輸入

ア.鉛鉱石

財務省貿易統計によると、我が国の2020年鉛鉱石輸入量は119.9千tであり、2019年の131.8千tから9.0%(11.9千t)減少した。輸入国は、1位が米国(32%)、2位が豪州(31%)、3位がボリビア(13%)、4位がメキシコ(9%)、5位がロシア(7%)、6位がペルー(6%)、7位がブラジル(2%)である。また、過去5年の推移を見てみると、2016年の鉛鉱石輸入量140千tから、2017年に123.4千tと急減したのち、2019年にかけて回復傾向にあったが、2020年は再び減少し120千tを割る結果となった(図10)。

図10.日本の鉛鉱石輸入元の割合および輸入量の推移

図10.日本の鉛鉱石輸入元の割合および輸入量の推移

出典:財務省貿易統計

イ.鉛地金

財務省貿易統計によると、我が国の2020年鉛地金輸入量は30.9千tで、2019年の37.8千tから18.3%(6.9千t)減少した。地金は、1位が豪州(45%)、2位が台湾(26%)、3位が韓国(24%)で、この3か国で全体の95%を占めている。また、過去5年間の推移を見てみると、2016年以降輸入量は増加し、2018年は45千t近くに達したが、翌2019年から減少に転じ、2020年はさらに減少した。国別でみると、2019年と比較して2020年は、米国、豪州、ペルーといずれも減少したが、一方でメキシコやロシア等、対前年比で輸入量が増えた国もある(図11)。日本国内で鉛地金は生産されており、国内生産では足りない分を輸入していると考えられるところ、2020年の減少は、コロナによる日本国内の需要減少の影響により輸入で補う分が減ったと考えられる。

鉛のみならずベースメタルの特徴といえるかもしれないが、鉛鉱石および地金の世界最大の生産国は中国であるにも関わらず、我が国は中国からどちらも全く輸入していない3。レアメタルにおいては、中国が世界最大の生産国の場合、当然我が国も中国からの供給にある程度依存しているのが実態であるが、我が国の鉛のサプライチェーンは、中国以外のところで確立されている点が大きな特徴といえる。

図11.日本の鉛地金輸入元の割合および輸入量の推移

図11.日本の鉛地金輸入元の割合および輸入量の推移

出典:財務省貿易統計

(4)輸出

ア.鉛地金

財務省貿易統計によると、2020年の日本の鉛地金輸出量は20.8千tと、2019年の5.1千tから4倍以上に増加した。向け地は、タイが4割近くと最多で、インド、台湾、インドネシア等と、アジア向けが中心となっている(図12)。

図12.日本の鉛地金輸出先の割合および輸出量の推移

図12.日本の鉛地金輸出先の割合および輸出量の推移

出典:財務省貿易統計

イ.粗鉛4

財務省貿易統計によると、2020年の日本の粗鉛輸出量は32.7純分千tで、2019年の17.6純分千tからほぼ倍増した。向け地は、鉛地金同様にベトナム、韓国、台湾、タイ、インド、とアジア向けが中心だが、わずかに米国や南米も含まれている(図13)。

図13.日本の粗鉛輸出量の推移

図13.日本の粗鉛輸出量の推移

出典:財務省貿易統計

ウ.廃バッテリー

財務省貿易統計によると、日本の使用済み一次電池・蓄電池(廃バッテリー)輸出量は、直近6年間では2017年が56.5純分千tと最大であったが、2018年以降減少し、2020年は0.8純分千tと激減した。この内訳は、韓国が0.1純分千t、その他(中国、香港、マレーシア、フィリピン、カンボジア)が0.7純分千tで、韓国向けはほぼゼロになったと言えるほどに激減した(図14)。なお、この統計は鉛蓄電池のみならず、様々なタイプの一次電池・蓄電池を含んだ使用済み電池の輸出量である。

図14.日本の使用済み一次電池・蓄電池輸出量の推移

図14.日本の使用済み一次電池・蓄電池輸出量の推移

出典:財務省貿易統計

こうした鉛地金、粗鉛、廃バッテリーの輸出動向の背景には、2017年6月に規定された「特定有害廃棄物の輸出承認について」の省令改正がある。2016年、韓国の複数の鉛二次精錬所で、精製過程で発生する鉱滓(スラグ)を不法投棄する事件が発生、日本から輸出された廃バッテリーが他国で環境問題を引き起こしている事態を重く見た対応であり、これにより、OECD加盟国であっても廃バッテリーの輸出に事前の輸出承認(環境保全対策を含む)が必要となったことから、韓国への廃バッテリー輸出量が減少、2020年にはほぼゼロ近くまで減ることとなった。

一方で、韓国は日本から廃バッテリーを輸入できなくなった代わりに、粗鉛の日本からの輸入量を増やしている。韓国の日本からの粗鉛輸入量は、2017年時点で0.9純分千t程度だったが、2018年以降は廃バッテリーの輸入減少分を補うかのように増加し、2020年は7.9純分千tであった。

また、日本からの鉛地金輸出量が増えているのも、原料、資源である廃バッテリーのけ輸出が事実上ほぼゼロとなったことで、輸出品目が鉛地金に取って代わられたことの表れといえる。また、2020年は国内需要が減少した分輸出に回った可能性もある。

3.中国

(1)生産、消費

最大の生産国である中国における月別の鉱石・地金生産量、地金消費量を、図15のとおり示す。このグラフから読み取れるのが、毎年1~2月頃に生産量および消費量が減少し、3月には回復するが、その後12月の年末にかけて徐々に増えていく傾向にある。2月に生産量および消費量が減少する理由は、中国の鉛製錬所が寒冷地である北部に比較的集中しているという気候的要因の他、大型連休である春節で、多くの鉱山や製錬所、また中国という国全体が休みに入ることが挙げられる。なお、10月にも国慶節があるが、同月は年間生産計画の追い込みの時期に入っているため、むしろ毎年増加傾向となっている。

なお、2020年は中国もコロナの影響があったためある程度例外的な年であり、2月の減少幅は2019年や2021年のそれよりも拡大した。しかし、2020年の鉱石生産量は1,969千tで対前年比98%と微減ではあったものの、地金生産量は4,966千tと対前年比100%で極微増の横ばいとなり、生産量を維持した格好であった。また、地金消費量も4,996千tと対前年比100%と極微増の横ばいであった。世界全体では鉛の鉱石生産量、地金生産量、地金消費量全てが減少となったが、中国は前年並みを維持している。世界全体の減少分は中国を除く世界の減少であり、2020年は中国がいち早くコロナ不況から脱し、主要国の中で唯一経済成長を遂げたとされているが、この鉛の需給においてもこのことが現れていると言えそうである5

図15.中国の月別鉱石・地金生産量、地金消費量の推移

図15.中国の月別鉱石・地金生産量、地金消費量の推移

出典:ILZSG

(2)二次原料比率

図2および図16で示したとおり、世界の鉛地金生産における一次原料と二次原料の比率は、二次原料の割合が徐々に増えている状況にあり、中国も例外ではない。中国の鉛地金生産における一次原料と二次原料の割合は、2012年の「一次:二次=70:30」以後、二次原料の割合が増えており、2020年は「一次:二次=56:44」であった。中国は、様々な鉱種において、自国の資源を温存させるため他国からの鉱石輸入を増やしている。鉛においてもこの基本的な考え方は同様だと思われるが、鉛は亜鉛の副産物であるいう特徴から、亜鉛鉱石を採掘すると鉛も随伴し、鉛鉱石のみで鉱石採掘量を減らすことができないというのが実態かと考えられる。このことは中国に限らず世界全体にいえることであり、鉛鉱石を減らすには亜鉛の鉱石採掘量等が鍵となってくる。いずれにしろ、鉛地金の二次原料比率を先進国並みの70%程度に引き上げたいとする政策は今後も推進していくものと考えられる。

この鉛の二次原料比率を引き上げるための施策のひとつが、2021年7月7日に中国国家発展改革委員会が発表した「循環経済の発展に関する第14次5ヵ年(2021~2025年)計画」である。本計画の中に、廃バッテリー等を解体・利用する企業に対する監督管理を強化することが盛り込まれている。現状、中国で車載電池の廃棄が問題となっているが、あまり確立されていない廃バッテリーの回収ルートの整備、回収率の向上により一層力を入れていくものと思われる。

また、表2に示す2020年の新規製錬所を見ても、中国において一次製錬の新規プロジェクトは無く、二次製錬のプロジェクトばかりが多数立ち上がっていることからも、この方向性を読み取ることができる。ただ、中国の2020年時点の既存製錬所能力は9,636千t、新規追加能力は1,340千tで、2020年単年で既存の1割以上の生産能力を追加したことになる。更に、世界の地金生産量は12,000千t弱であるところ、単純に考えると中国一国で世界需要をほぼ全て賄えてしまうくらいの生産能力を保持することになり、この数値が正しいとすると、中国の鉛需要がこれほどまでに増加する予想なのか、疑問が残る。

なお、中国も電気自動車(EV)化の波は他国同様で、2020年11月には中国自動車エンジニア学会が、2035年までに新エネルギー車の比率を50%とする指針を公表している。中国における今後の鉛地金需要も、このEV化やリチウムイオン電池(LIB)の普及具合の影響を少なからず受けることとなろう。

図16.中国の鉛地金生産量の推移

図16.中国の鉛地金生産量の推移

出典:ILZSG

(3)地金の輸出

上記「2.日本 (3)輸入」において、我が国が中国から鉛地金を全く輸入していない、と述べた。事実、中国は鉛地金を多少周辺国に輸出しているようだが、ほとんど輸出されていない6。その理由として、巨大な中国市場でほぼ全量を自国内消費していることが考えられるが、対日輸入については国産品との品質の差等も考えられる。

4.韓国

(1)生産

韓国には、Korea Zinc(高麗亜鉛)社に代表される巨大鉛・亜鉛メーカーがあり、図1のとおり、世界第4位の鉛地金生産国となっており、その生産規模は日本の3.5倍程度である。ILZSGによると、図17のとおり、2020年の韓国の鉛地金生産量は709千tで、対前年比89%と1割以上落ち込んだ。しかし、この生産量から見た一次原料と二次原料をそれぞれ見ると、一次原料は2019年の400千tから2020年は435千tと増えている。一方、二次原料は2019年の400千tから274千tと31.5%も減少した。

図17.韓国の鉛地金生産量の推移

図17.韓国の鉛地金生産量の推移

出典:ILZSG

(2)二次原料調達

「2.日本」に記載のとおり、我が国の輸入地金の多くが韓国からの輸入に依るところであり、またそのリサイクル原料となる廃バッテリーは、これまで日本から韓国に輸出され、韓国で鉛地金や鉛蓄電池に加工して日本に逆輸入する形となっていた。これが2018年以降、日本からの廃バッテリー輸出に事前承認が導入されたことで、韓国の廃バッテリー調達状況がどのように変化したのか着目したい。

韓国におけるバッテリー輸入量を図18に示す。これを見ると、日本からの輸入は2018年に前年より縮小し、2019年にはほぼ完全に無くなっている。一方で、この2019年は輸入量が前年よりも伸びており、日本の減少分を補うかのように、主に米国からの輸入量が倍近く伸びている。

GTAによると、韓国は世界50か国以上から一次電池・蓄電池を輸入している。一方、日本の2020年の一次電池・蓄電池の輸入国は、台湾、シンガポール、中国、米国、タイ、モンゴル、豪州の7か国であり、その量も韓国の何十分の1とはるかに少ない。韓国は、米国、アラブ首長国連邦を筆頭に、米州、中東、アフリカ等世界のあらゆる地域に廃バッテリーの回収ネットワークを持っていることが伺える。

なお、韓国も2020年の使用済み一次電池・蓄電池輸入量は対前年比84%と2割近く減少した。これは勿論コロナの影響でバッテリーの回収が例年ほどできなかったことが理由だと考えられるが、図17で示したとおり、韓国の鉛地金生産における二次原料比率が2019年の50%から2020年は39%と11ポイントも下がっている。これは、このバッテリー回収量が減少したことで、鉛地金の生産量を維持するため一時的に一次原料比率が増えたのではないかと考えられる。

図18.韓国の使用済み一次電池・蓄電池輸入量の推移

図18.韓国の使用済み一次電池・蓄電池輸入量の推移

出典:GTA

5.新規プロジェクト、終了プロジェクト

(1)2020年の新規プロジェクト

ILZSGが公表した、2020年に操業開始・規模拡張を行った鉱山および製錬所の一覧を、それぞれ表1および表2に示す。

鉱山プロジェクトは計9件で、うち新規開山した鉱山は4件であり、既存鉱山の再開や拡張プロジェクトが多い。新規開山した鉱山も鉛をターゲットとしたものではなく、金や銀といった貴金属や亜鉛等のベースメタルが主産物で、鉛は副産物として生産されるものが大半とみられる。全体的には、印Hindustan Zinc社の生産能力拡張が全体の4分の1を占め、大型新規プロジェクトとして一角を担っている。

他方、製錬所プロジェクトは、全て二次製錬所、つまり回収された廃バッテリーから鉛を抽出する製錬所であり、拠点としては中国が大宗を占める。

表1.2020年に操業開始・規模拡張を行った鉱山一覧
国名 企業名 鉱山名 新規生産能力(t) 備考
豪州 Aurelia Metals Peak 12,000 新規
カナダ Alexco Resource Corp Keno Hill Silver District 4,000 2013年9月に閉山、再開
中国 Hunan Baoshan Non-ferrous Metals & Min Co Ltd Baoshan 5,000 生産能力拡張
中国 Qianjinda Mining Co. Qianjinda 12,000 新規
中国 Rongbang Mining Rongbang & Ruineng 8,000 新規
インド Hindustan Zinc Rampura Agucha 25,000 露天掘りから坑内掘りへ移行、生産能力拡張
インド Hindustan Zinc Rajpura Dariba 10,000 生産能力拡張
メキシコ Fresnillo, MAG Silver Juanicipio 18,000 新規
メキシコ Industrias Peñoles Capela
(Rey de Plata)
8,000 2001年に閉山、再開
102,000

出典:ILZSG

表2.2020年に操業開始・規模拡張を行った製錬所一覧
国名 企業名 製錬所名 新規処理 
能力(t)
備考
中国 Anhui Tianchang Metal Materials Anhui Tianchang Smelter 180,000 二次、新規
中国 Camel Group Anhui Renewable
Resources
Anhui Smelter 200,000 二次、新規
中国 Chaowei Environmental Protection Technology Anhui Chaowei Smelter 200,000 二次、新規
中国 Dahua Energy Technology co. Ltd Dahua Smelter 150,000 二次、新規
中国 Ganluo Tianyi Renewable
Resources Co. Ltd
Ganluo Smelter 80,000 二次、新規
中国 Jiangxi Fengri Metallurgy
Technology Co. Ltd
Jiangxi Smelter 60,000 二次、新規
中国 Jiangxi Qijin Material Co. Ltd Jiangxi Smelter 150,000 二次、新規
中国 Liaoning Teli Environmental
Protection Technology
Liaoning Teli Smelter 100,000 二次、新規
中国 Linxi Senrun Regenerative Metal
Products Co. Ltd
Linxi Smelter 10,000 二次、新規
中国 Luoyang Yongning Gold Lead
Smelting Co. Ltd
Luoyang 90,000 二次、新規
中国 Taihe Aoneng Metal Co.Ltd Taihe Aoneng Smelter 20,000 二次、新規
中国 Xinzi Renewable Resources Xinzi Pb Smelter 100,000 二次、拡張
スペイン Metalurgica de Medina Medina del Campo Plant 50,000 二次、拡張
1,390,000

出典:ILZSG

(2)終了プロジェクト

2020年に閉山もしくは生産停止した鉱山および製錬所の一覧を、それぞれ表3および表4に示す。

豪州、カナダ、メキシコでメンテナンスに入った鉱山は、全てではないが、その時期が2020年2~3月に集中していることから、資源価格の低迷やコロナ拡大をきっかけとした生産停止とみられる。このうち、加Trevali Mining社のCaribou鉱山は2021年1月、生産停止時からおよそ10か月ぶりとなる2021年2月に従業員を減らした形での生産再開の見通しを発表した。また豪Heron Resources社のWoodlawn鉱山は、2020年3月にコロナによる連邦政府・州政府からの移動制限に応じ操業停止したところ、借入金の返済が厳しくなったため、財務立て直し計画の策定を行っている。コロナ新規鉱山の追加生産能力との差はマイナス13千tとなり、全体として鉱石生産能力は減少したことになる。

一方で、製錬所は中国での動きが大半で、全体として追加された生産能力は1,130千tであった。

表3.2020年に閉山・生産停止した鉱山一覧
国名 企業名 鉱山名 生産能力(t) 備考
豪州 Heron Resources Woodlawn -10,000 メンテナンス
カナダ Coeur Mining Silvertip -15,000 生産停止
カナダ Trevali Mining Caribou -14,000 メンテナンス
中国 Baoji Bafangshan Lead & Zinc
Mine Inc
Bafangshan -2,000 資源枯渇により閉山
メキシコ First Majestic Silver Corp La Parrilla -5,000 メンテナンス
メキシコ Grupo Mexico Santa Eulalia -5,000 閉山
メキシコ Industrias Peñoles Bismark -2,000 資源枯渇により閉山
メキシコ Industrias Peñoles Francisco Madero -12,000 メンテナンス
ナミビア North River Resources Namib -3,000 メンテナンス
ペルー Compania Minera Raura Raura -25,000 メンテナンス
ポーランド Zaklady Górniczo-Hutnicze
"Boleslaw"
Olkusz-Pomorzany -20,000 閉山
-113,000

出典:ILZSG

表4.2020年に生産停止した製錬所一覧
国名 企業名 製錬所名 生産能力(t)
中国 Anyang Yubei Gold & Lead Group Pb Primary Smelter -160,000
中国 Hunan Huaxin Metals Technologies Chenzhou Smelter -100,000
-260,000

出典:ILZSG

(3)近年予定されている新規プロジェクト

表5および表6に、近年操業開始あるいは規模拡張が予定されている鉱山および製錬所を示す。これらプロジェクトの中には、2020年にメンテナンスとなった加Silvertip、Caribou両鉱山が含まれている。

表5.近年操業開始・規模拡張が予定されている鉱山一覧
国名 企業名 プロジェクト名 新規生産 
能力(t)
開始予定時期、
備考
豪州 Galena Mining Abra 95,000 新規、2022年前半
カザフスタン JSC Zhairem GOK
(Kazzinc – Glencore)
Zhairem (Dalnezapadny deposit) 60,000<
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商業生産2021年中開始
カナダ Norzinc Prairie Creek 48,000 新規、2023年
ペルー Bear Creek Mining Corani 45,000 新規、インフラ建設中
カナダ Trevali Mining Caribou 40,000 2021年2~3月再開
カザフスタン Tau-Ken Samruk, Esan
Eczacibasi
Alaigyr 35,000 新規、2022年
ロシア First Ore-Mining Company
(Rosatom)
Pavlovskoye 35,000 新規
ブラジル Nexa Resources, Karmin
Exploration
Aripuana 25,000 新規、2022年前半
アルジェリア W. Mediterranean Zinc Spa
(Terramin, ENOF, ORGM)
Tala Hamza 15,000 新規、2021年
カナダ Coeur Mining Silvertip 15,000 2021年Q4~2022年Q1再開
中国 Guojiagou Lead and Zinc Mining Guojiagou 15,000 拡張、2024年
中国 Yunnan Jinding Zinc Co. Ltd. Lanping 15,000 拡張、2023年
ロシア Ural Mining and Metallurgical Co (UMMC) Korbalikhinsky 15,000 拡張、2025年
中国 Xietongmoin Co. Narusondo 12,000 拡張、2022年
中国 Huayu Mining Keyue lead polymetallic 10,000 新規、2022年
イラン IMIDRO, Mobin Mining Mehdiabad Phase I 10,000 試操業からフル生産へ
中国 Zijin Mining Group Co. Ltd. Wuqia (Wulagen) 9,000 拡張、2021年
ペルー Sierra Metals Yauricocha 9,000 拡張、2021年Q2
カナダ ScoZinc Mining ScoZinc (Scotia) 8,000 再開
ペルー Mines & Metals Trading (Peru) Nueva Recuperada 6,000 2021年商業生産開始
セルビア Mineco Bosilegrad 5,000 2021年商業生産開始
中国 Chifeng Baiyinnuoer Lead and
Zinc Mine
Daihuanggou 3,000 新規、2021年
中国 Rongda Mining Jiawula 3,000 拡張、2022年
メキシコ Telson Mining Tahuehueto 3,000 新規
ペルー Korea Zinc Pachapaqui 2,000 再開、2022年

出典:ILZSG

表6.近年操業開始が予定されている製錬所一覧
国名 企業名 プロジェクト名 生産能力(t) 開始時期
豪州 Chunxing Corporation Pty Latrobe Valley Pb Smelter 28,000 2021年
中国 Shandong Zhongqing Zhongqing Pb Smelter 100,000 2021年
米国 Exide Technologies Exide US Pb Smelters (不明)

出典:ILZSG

おわりに

2020年はどの産業においてもコロナの影響が著しく、例外的な年であった。鉛の生産においても鉱山のメンテナンス、つまり一時停止や、年間生産量の減少などでその影響は多少みられたが、我が国の地金生産量が例年水準の横ばいであったこと等から推察すると、さほど大きな影響ではなかったと言えそうである。一方で、需要は自動車生産台数の落ち込みや経済全体の停滞の影響を全面的に受けた格好となり、世界の需給バランスもこの20年で最大規模の過剰幅となった。日常生活においては未だコロナの影響が収束しないが、経済活動は回復傾向にある状況に鑑みると、2021年は2020年に失われた需要をある程度取り戻すことが期待される。しかし、自動車生産においては東南アジアにおいてデルタ株が大流行し、2020年11月頃から言われていた半導体不足が当初の想定以上に長引き、自動車生産台数は低迷している。この影響で、トヨタ自動車は2021年8月および9月に相次いで減産計画を発表するなど、その度合いはむしろ拡大傾向にあり、鉛需要の低迷にも繋がる要素となっている。ILZSGは2021年春の段階で、同年の鉛の需給バランスの過剰幅は前年より縮小する予想としたが、これが当初の想定ほど縮まらない可能性もある。

EV化が言われ始めて久しく、各国が具体的なEV普及に係る政策を打ち出しているが、果たして鉛蓄電池はもはや過去の産物なのだろうか。今後生産される自動車に搭載される鉛蓄電池は、車体の軽量化の観点から徐々にLIBへの代替が進むものと考えられるが、老朽化した蓄電池の取り換え需要は、新興国のみならず先進国においてもしばらくは継続するものと推測される。また太陽光発電や風力発電といった、環境にやさしいとされる発電に使用される定置用蓄電池等、重量が制限要因にならない蓄電池には引き続き鉛が使用されるであろう。その他、従来デメリットとされた重量を軽減する等の技術開発や、鉛の特性を活かした良質な蓄電池としての再認識、LIBの危険性への懸念に対する安全確保といった観点から、鉛蓄電池にある程度回帰していくかもしれない。また、リサイクル原料比率が高いことも鉛の大きな特徴であり、中国という一大鉛生産・消費国でもリサイクル原料比率が現状よりも高まれば、更に環境にやさしい原料としての鉛が見直される可能性もある。鉛のリサイクル原料比率向上には、プライマリーである亜鉛等他鉱種の鉱石生産量や廃バッテリーの回収量が影響してくるが、二次原料比率を高める努力は、今後世界的に一層なされていくものと期待される。

本稿執筆にあたっては、多くの業界関係者の方から多大なる助言を得た。ここに厚くお礼申し上げる。


  1. ILZSGの2021年2月25日付プレスリリースを参照した。
  2. ILZSGによると、米国は二次製錬所しか無く、欧州の一次原料と二次原料の比率は概ね2:8である。
  3. 財務省貿易統計によると、鉛地金はわずかに中国から輸入している年もあるが、2019~2020年の輸入量はゼロである。
  4. 粗鉛(ブリオン)は、廃バッテリーを解体し抽出した巣鉛を製錬したインゴットで、鉛蓄電池に使用される鉛地金の中間原料である。純分換算率95%で計算した。
  5. 2020年の経済成長率は、中国2.3%、米国-3.5%、日本-4.5%、EU-6.2%であった。
  6. GTAによると、年により量にばらつきがあるものの、概ね10千t/未満の量が、韓国、バングラデシュ、ベトナム等、東南アジアをはじめとする周辺国等に輸出されている。

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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