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報告書&レポート

2022年1月31日 サンティアゴ 事務所 椛島太郎、岸蒼代香
22_02_vol.51

モリブデン、鉄、鉄鋼、金、銀:2021‐2022年の見通し (チリ銅委員会)

<サンティアゴ事務所 椛島太郎、岸蒼代香 報告>

まえがき

本レポートは、チリ銅委員会(Comisión Chilena del Cobre 、以下、「Cochilco」という。)が2020年12月に発行した“INFORME DEL MERCADO DE MINERALES Perspectivas 2021-2022”「鉱物市場レポート 2021-2022年の見通し」をJOGMECサンティアゴ事務所にて翻訳し、Cochilcoの許可を得て全文を金属資源レポートに掲載するものである。西語の原文については、以下のサイトからダウンロード可能となっているので、興味のある方は参照されたい。

https://www.cochilco.cl/Mercado%20de%20Metales/29%2012%202020%20Informe%20Mercado%20de%20Minerales%20molibdeno.pdf

1.モリブデン市場

1.1 価格推移

2020年の酸化モリブデン(Fe含有量62%)の平均価格は対前年比23.3%の下落となったが(11.4US$/lbから8.7US$/lbへ下落)、2020年第4四半期、中国による精鉱の輸入が大幅に増加したため価格は回復した。2020年1~10月の焙焼鉱および非焙焼鉱の輸入総重量は76,400tであり、対前年同期比475%の増加となった。試算では2020年の中国の生産量は10%減となるため、この輸入量の増加はそれを部分的に補う形となる。一方で、中国における今年の見掛け需要は1.1%の縮小を示しているため、在庫量の増加につながる。世界レベルでの需要減とチリや米国での供給増により生じたモリブデンの余剰を、中国がかなりの割合で消費しているという実情がある。

図1.1は、2018~2020年における酸化モリブデンの月次価格と、2010年以降の年間価格の推移を示している。なお、2020年名目平均価格は10.8US$/lbとなる。

図1.1 酸化モリブデンの価格推

図1.1 酸化モリブデンの価格推

出典:Refinitiv

欧米での供給不足を背景に、中国によるフェロモリブデンの大量購入が2020年7月以降のモリブデン価格を押し上げた。鉱山供給の停滞や需要の回復により、モリブデン市場は2021年内に不足となる可能性が高く、引き続き価格に上昇圧力がかかることになる。

World Bureau of Metal Statistics(WBMS)発表の最新の統計によると、2020年10月までの世界生産量は対前年同期比6.9%増となる15,700tの増加があった。一方、中国の生産量は世界全体の33%を占めているが、7%の減少を記録した。チリ、米国、ペルーでは生産が増加したにも拘わらず、2020年を通して世界の生産量はおよそ1.7%減少するとみられている。

現時点での情報によると、世界のモリブデン需要は2020年には6%の減少があるとされるが、2021年には5.1%の回復が予想されている。世界のモリブデンの市場バランスは、2020年の約15,000tの余剰から2021年には2,000tの不足へと急速にシフトし、価格を下支えする。市場バランス悪化の原因は主に、モリブデンの大幅な世界的供給減であると考えられるが、価格の予測にはリスクが伴い、中国側の大量の備蓄量のほか、10%下落した2020年以降の生産の回復速度などが不確定要素となっている。

1.2 モリブデンの供給

2020年、世界のモリブデン生産量は対前年比1.7%減1の計273tとなる。その原因は、主に中国・黒竜江省のYichun Luming(伊春鹿鳴)モリブデン鉱山2が尾鉱ダムの決壊により閉鎖され、生産が10%落ちたことにある。しかし操業は2020年9月中に再開され、2020年10月にはフル稼働に戻っている。中国以外では、チリと米国を中心に3.3%生産が増加した。

中国では、新型コロナウイルス感染症(以下、「コロナ」という。)の拡大と環境規制の影響が相まって生産コストの高い一部の鉱山操業が停止に追い込まれたが、これも2020年に中国のモリブデン供給が急減した一因である。中国でのモリブデンの生産は、ほぼ完全にプライマリー鉱山からであり、一般的に(銅採掘の副産物としての)バイプロ生産に比べてコストが高くなる。供給が大幅に減少し対前年比シェア4%減を記録したものの、中国は依然として35%のシェアで世界の主要産出国であり続けている。

2020年10月現在の数値によると、銅の副産物としてのバイプロによる供給は、世界生産量の3分の2に達する(2015年時点では57%)。銅価格の高騰やモリブデンの品位向上が生産を押し上げ、そのおかげでペルーでは2020年前半のコロナによる危機を乗り越えることができた。対照的に、プライマリー鉱山からの供給は、中国Yichun Luming鉱山の長期操業停止や中国のJinduicheng Molybdenum Co.(JDC:金堆城モリブデン業业股份有限公司)の事業が洪水に見舞われたことにより減少した。

2021年のモリブデン供給の伸びは、中国の主要事業にかかっている。2020年のような大規模な混乱が起こる可能性は考えにくいが、コロナの拡大により2021年生産開始予定であったモリブデンを副産する銅鉱山が一部操業延期を余儀なくされている。

2021~2022年における世界のモリブデン生産は、ほぼ横ばいで推移することが予測されている。Rio TintoのKennecott銅・モリブデン鉱山で、特に高品位な産出があった2020年と比較して品位低下による予想生産量の減少などが背景にある。

図1.2は主要生産国のシェアと、2015~2020年の供給量の推移を示している。

図1.2 世界のモリブデン鉱山供給量

図1.2 世界のモリブデン鉱山供給量

出典:WBMSを基にCochilco作成

生産企業からの情報に基づきCochilcoが作成したチリ国内の生産統計によると、2020年10月時点でのモリブデン精鉱の生産量は計50,000t近くに及び、対前年同期比8.9%増の4,000t増加となった。

企業別に見ると、国内のモリブデン生産の48%を占めるチリ銅公社(CODELCO)は31.4%の増加を記録し、生産量は約24,000tに達した。Los Pelambres銅鉱山がそれに続き、18%の増加で8,600tとなる。2018年にモリブデン生産を開始したCentinela銅鉱山は、対前年同期比332%増で約1,400tに達した。

チリでのモリブデン生産は全てバイプロ、つまり銅採掘の副産物である。それゆえ生産計画はモリブデンではなく主産物(銅)の生産拡大の度合いに依拠するため、モリブデンの生産量は非常に変動しやすくなる。

図1.3は、2019年と2020年のそれぞれ10月までにおけるチリのモリブデン生産の累計を企業別にまとめたものである。

図1.3 2019年および2020年の各10月までの国内モリブデン生産

図1.3 2019年および2020年の各10月までの国内モリブデン生産

出典:各企業の情報を基にCochilco作成

1.3 モリブデンの需要

モリブデン需要を牽引するのは、ステンレス鋼や建設用鋼材の製造である。コロナ拡大の影響により、2020年にはおそらく世界のステンレス鋼の生産量は2008年以来最低となるであろう。2020年10~12月の3か月で、中国とインドネシアのステンレス鋼生産量は大幅に回復している一方で、他地域の生産量は2019年には2.3%増加したものが、2020年には約5.6%の減少に転じると予想されている。現在ステンレス鋼の生産は中国とインドネシアが独占状態にあり、合計で世界生産量の67%を占める。中国では2020年初頭のコロナパンデミックの後、2020年第4四半期には経済成長が最大に達し回復を見せているように、世界的な需要減少は最小限に抑えられたが、2020年の世界需要は3.8%の減少が予想されている。

図1.4は、2020年と2021年における世界のモリブデン需要の予測を示している。2020年には世界のモリブデン需要は6%の減少となり、その中でも合計で世界需要の35%を占める石油・ガス部門(10.9%減)、自動車部門(16.5%減)、建設部門(2.6%減)3で大きく低下している。同図にあるように、2020年にはあらゆる部門でモリブデン需要は激減した。しかし、これはコロナ拡大だけが原因ではなく、低下率は小さいものの同様の現象が2019年にも記録されている。

2021年および2022年は、コロナパンデミックが緩やかに収束していく中で、モリブデン需要国では経済成長率の回復が予想され、このシナリオでは自動車部門や建築構造用鋼の成長により、世界のモリブデン需要は、それぞれ5.1%および2.2%の増加が予測される。

図1.4 産業部門別の世界のモリブデン需要

図1.4 産業部門別の世界のモリブデン需要

出典:MacquarieおよびCRUの情報を基にCochilco作成

図1.5は、モリブデンの主要用途および産業部門の相対需要の割合に関して、2020年の見込みを示したものである。

石油・ガス部門は、モリブデン需要の16%を占めている。2020年の石油価格の下落は世界的な産業投資の鈍化を招き、製鋼向けの需要成長率が低下した結果、10.9%の縮小に見られるようにモリブデン需要には不利な状況をもたらした。一方、先進国や新興国の間でコロナ拡大の抑え込みとして数か月続いたロックダウンは自動車の生産・販売を大きく落ち込ませ、結果としてモリブデン消費は16.5%減少した。2020年で唯一モリブデン消費が増加となったのは、電気機器部門および医療部門であった(0.7%増)。その理由としては、世界中で外出自粛となった結果家電製品の需要が高まったことや、医薬品のニーズ増大による医療機器の需要拡大などが挙げられる。

図1.5 モリブデンの用途別・産業部門別の需要構造(2020年見込み)

図1.5 モリブデンの用途別・産業部門別の需要構造(2020年見込み)

出典:CRUの情報を基にCochilco作成

1.4 モリブデン市場の予測

表1.1は、2015年以降の統計および2020~2022年のモリブデン市場の需給とそのバランスの予測をまとめたものである。2020年、世界のモリブデン消費量は6%の減少が予想されており、需要は中国で1.1%、その他の国々では9.8%の減少となる。2021年には国際通貨基金(IMF)が経済成長率を5.2%と予測したように、世界的な経済成長に後押しされ、需要の大幅な回復が見込まれる。GDPは中国で8%、米国で3.1%、ユーロ圏では5.2%の成長が期待され、このシナリオではモリブデン需要は中国で6%、その他の国々で4.4%増加となり、全体で5.1%の伸びが予想される。このように需要は回復するが、2020~2022年の平均需要量(269千t/年)は2015~2019年の平均(281千t/年)を4.3%下回る。需要量の点から見れば、市場は停滞を示している。

2020年の世界のモリブデン鉱山供給量は1.7%減となり、生産量は中国で10%減、その他の国々では3.3%増となる。2021年の生産量は中国で14.9%増となるにも拘わらず、その他の国々では9.8%減で、全体として供給量は1.3%減となる。

つまり、世界のモリブデンの市場バランスは、2020年の14.8千tの余剰から2021年には2千tの不足になると予測される。限定的ではあるが価格は上昇傾向となり、酸化モリブデン価格は2020年の8.7US$/lbから2021年の9.0US$/lbへと高まるが、2019年の平均価格(11.4US$/lb)よりは低くなる。

表1.1 2020~2022年のモリブデン需要の予測(千t)
2015 2016 2017 2018 2019 2020e 2021e 2022e
供給
中国
 
137
 
129
 
117
 
99
 
104
 
94
 
108
 
110
中国以外 161 154 175 175 173 179 161 168
297 284 292 274 277 273 269 278
需要
中国
 
96
 
100
 
112
 
118
 
118
 
117
 
124
 
129
中国以外 199 172 176 160 156 141 147 148
295 272 288 278 274 258 271 277
バランス 2.1 11.5 4.9 -3.5 3.0 14.8 -2.0 1.0
三酸化モリブデン価格(US$/lb)     8.2 11.9 11.4 8.7 9.0 9.4

出典:WBMS、Macquarie Research、CRUの情報を基にCochilco作成

2.鉄市場

2.1 鉄価格の推移

2020年12月第3週目までの鉄鉱石(Fe含有量62%)の平均価格は、106US$/tで対前年比14.2%の上昇であった。2020年12月、月平均価格が大幅に上がり、対前月比31%上昇となる146US$/tに達したが、その理由は需要超過というよりも、入港量の減少による港湾在庫のレベル低下が原因である。

2020年末にかけて、製鉄所の鉄鉱石購入量は価格上昇のため穏やかなペースで増加している。製鉄所の在庫補充は継続的に行う必要があり、2021年には供給量の減少が予想されているため、鉄鉱石価格は引き続き上昇する可能性が高い。2020年と2021年の両年において、海上輸送の鉄鉱石の市場バランスは世界的に不足となるため、現在のような価格傾向が見られる。

図2.1は、中国市場における鉄鉱石価格の推移を示している。2020年12月末の時点で鉄鉱石価格は152US$/tに達し、2012年以来の高水準となった。

図2.1 中国市場における鉄価格の推移(Fe含有量62%、US$/t)

図2.1 中国市場における鉄価格の推移(Fe含有量62%、US$/t)

出典:Metal Refinitiv

伯Valeの生産量は、少なくとも2022年までは2019年のレベルを下回ると予測されており、市場の需要を満たすにはその他高コストの供給に頼らざるを得なくなる。2020年の市場は最終的に5,5百万tの不足となるため、比較的割高な、従来のプロバイダー以外からの供給がより必要となる。大手企業以外の海上輸送によるプロバイダーは数多く存在するが概して高コストであり、その数は2013年に最大レベルに達したのちに減衰の一途を辿り、今では市場の需要増加に即座に対応できる力はほとんど残されていない。一方、豪FMG(Fortescue Metals Group)社の豪Eliwana鉄鉱石鉱山や、BHPの豪South Flank鉄鉱石鉱山などの操業は2021年開始予定だが、他鉱床での供給不足を補う程度で、世界の正味生産量を増加させるとは考えられていない。鉄鉱石価格の高騰は中国でのリサイクルを促進させ、結果として海上輸送による鉄鉱石需要の減少につながる。

鉄鉱石消費を部分的に補う鉄鋼リサイクル市場は中国で急速に発展しており、国を挙げて鉄鋼破砕技術の向上に取り組んでいる。それには垂直統合が進むことで生まれる経済効果の狙いもあり、実際に北京では現地の原材料供給を垂直統合し、これまで国内のリサイクル事業を妨げてきた制限(小規模投資、再生鉄鋼の品質低下など)に対し取り組む鉄鋼メーカーの参入を強く支持している。

2021年第1四半期の鉄需要の高まりは、パンデミックの影響を受けた鉄鉱石生産国で生産の停止が起こりうる時期に重なる。2021年後半以降、中国の国内消費刺激策が徐々に緩和され始めていく頃には、中期的には鉄鋼需要および鉄需要は低下していくと思われるが、短期的視点では鉄鉱石の価格上昇は避けられない。

2.2 中国の鉄鉱石輸入

中国は、海上輸送による鉄鉱石輸入量で世界全体の80%強を占めている。2020年11月までに輸入量は10億7,300万tとなり、対前年同期比10.8%増加した4。2020年の月平均輸入量は1億740万t/月で、前年の月平均を20%以上上回っている。コロナ蔓延防止策として国内の大部分が封鎖されたため第1四半期には輸入は0.8%増と低水準になったにも拘わらず、このような結果となった。

2020年における中国の粗鋼生産量は10億5,500万t/年に達し、対前年比5.8%増で歴史的記録となるだろう。これはインフラおよび建設部門での需要増加に起因する。

図2.2 中国の鉄輸入

図2.2 中国の鉄輸入

出典:Refinitiv

2.3 鉄鉱石生産

図2.3は、2013~2020年の鉄鉱石生産量と、2020年の主要生産国における供給のシェアを示している。世界の鉄鉱石生産量は2020年に29億6,800万tに達し、前年比1.8%増となる5,200万tの増加と予想される。しかし同図にあるように、中国における高コスト事業の閉鎖やその後のブラジルでのValeの事故により、世界の鉄鉱石生産は2018年以降急激に減少している。

図2.3 鉄鉱山生産量(千t)

図2.3 鉄鉱山生産量(千t)

出典:Refinitiv

図2.4は、主要生産国における2020~2022年の鉄鉱石供給の成長予測および年間平均成長率を示している。同図に見られるように、2020~2022年にかけて鉄鉱石の供給量はほぼ一定となるが、2022年にわずかに減少する。当該期間中の平均年間成長率は0.4%のマイナス成長となり、世界の鉄生産量は2020年の29億6,700万tから2022年には29億4,300万tとなる。つまり市場はマイナスの状態が続き、その結果価格も上昇傾向を維持する。

4大主要生産国の中で中国は平均9.4%の減少を記録するが、輸入の拡大や金属くずリサイクルの増加がこれを相殺することになろう。その他豪州、ブラジル、インドではそれぞれ3.8%、6.4%、2.6%の平均年間成長率を記録する。

 図2.4 2020~2022年の鉄鉱石生産予測

図2.4 2020~2022年の鉄鉱石生産予測

出典:Refinitiv

2.4 市場バランス(海上輸送による需給)

表2.1は、価格の決定要因となる世界の鉄市場のバランス予測を示したものである。これによると、世界の海上輸送による需要の約80%を中国が占めており、消費が突出して多いことが分かる。また、海上輸送による供給は主要生産企業毎に分けて示している。

2020~2022年の海上輸送による需要の年間予想平均成長率は、2015~2019年の1.8%に比べ増加し、4%に達すると見られる。この拡大の原因として、中国の消費が2015~2019年に年間平均成長率1.5%であったのに対し、2020~2022年には2.3%が予測されていることが挙げられる。

海上輸送による供給に関しては、Valeおよび大手以外の高コストのサプライヤーの大幅な回復により年間平均6%の成長が見込まれる。2015~2019年の年間平均マイナス0.6%と比較してもわかるように、この数字は好調と言える。

また注目したいのは、中国以外でも日本、インドネシア、インド、そしてわずかだが欧州や米国を中心に海上輸送による需要は大幅に拡大する点である。2015~2019年に年平均で0.9%減少した後、2020~2022年には平均9.4%の拡大が予測されている。

表2.1に示すように、市場バランスは2020年と2021年に約5,500万tのマイナスとなり、2022年には500万tのわずかな余剰へと転じる。

表2.1. 鉄鉱石市場のバランス予測(海上輸送による需給)
2015 2016 2017 2018 2019 2020e 2021e 2022e
海上輸送による需要
中国
  消費
  輸入
  在庫量の変動
他国の海上輸送による需要


1,225
1,001
‐10
415


1,160
1,080
21
402


1,184
1,129
70
406


1,222
1,099
-5
422


1,298
1,123
-15
400


1,410
1,230
-10
357


1,452
1,275
0
404


1,476
1,290
0
427
世界の海上輸送による需要総計 1,416 1,482 1,535 1,521 1,523 1,587 1,679 1,717
海上輸送による供給
  Rio Tinto
  BHPB
  Fortescue(FMG)
  Vale
  その他

319
256
162
291
479

328
257
272
313
296

330
268
169
331
427

338
274
168
350
420

323
273
178
285
411

329
287
178
285
453

335
283
179
295
532

340
285
179
324
594
海上輸送による供給総計 1,507 1,466 1,525 1,550 1,470 1,532 1,624 1,722
市場バランス 91 -16 -10 29 -53 -55 -55 5
価格(Fe含有量62%)US$/t 56 58 71 69 93 106 110 90

出典:Macquarie(2020年12月)

その他、2021年と2022年のFe含有量62%の鉄鉱石価格はそれぞれ110US$/tと90US$/tになると予測されている。一方2020年の価格は106US$/tである。Macquarieは長期的なベンチマークとして61US$/tと見積もっている。

図2.5は、市場バランスと価格の直接的な相関関係を示している。

図2.5. 鉄鉱石の市場バランス

図2.5. 鉄鉱石の市場バランス

出典:Macquarieの情報を基にCochilco作成(2020年12月)

3.鉄鋼市場

3.1 中国市場におけるHRC鋼の価格推移

2020年12月にHRC鋼の価格は中国市場で上昇を続け、同月24日には最大639US$/tに達した。当月は需要が価格を押し上げ続けたが、インフラ計画を牽引した経済刺激政策が緩和され始めたため、需要の成長は今後数年間で徐々に穏やかになると予想される。また2021年1月以降、不動産開発業者への融資が厳しくなると、住宅建設部門の成長率が低下する可能性がある。その他鉄鋼を最終用途とする主要部門に関しては、2020年のペントアップ需要は2021年まで持ち越され、自動車市場の回復を促進すると予想される。一方、鉄鋼の最終財の在庫量は低下しているため、今後数か月は産業が活性化するとみられる。

図3.1 三大市場におけるHRC鋼価格の推移

図3.1 三大市場におけるHRC鋼価格の推移

出典:LME(ロンドン金属取引所)

図3.1は、米国、欧州、中国の三大市場におけるHRC鋼価格の推移を示している。

中国以外の市場では、パンデミックの蔓延防止措置の結果として2020年前半に鉄鋼の生産が落ち込み、鉄鋼在庫の減少をもたらした。

2020年に入り、鉄鋼(HRC)価格は市場により異なる動きが見られた。米国市場では2018年1月2日に660US$/tを記録し、6月には920US$/tと年間最高値に達した後、12月の3週目には753US$/tまで下落した。つまり、年始と年末の価格比較では14%の上昇が見られた。それとは対照に中国市場では価格の下落傾向が続き、2018年には年間15.5%の下落を記録した5

中国市場における鉄鋼(HRC)の価格上昇の動きは様々な要因により説明されるが、その中でも主に以下が挙げられる。

  • 世界の鉄鋼の見掛け需要でほぼ半分を占めている中国経済成長の加速。
  • 2021年の予測では中国国内で鉄鋼需要の計60%を占める住宅市場、自動車市場、機械製造市場において鉄鋼需要は回復するとされる。同様の状況は米国、欧州、日本でも起こり得る。
  • 鉄鋼消費の約39%に及ぶ中国の不動産市場は地方政府による柔軟な信用政策に支えられ拡大サイクルの中にあるが、2021年も引き続き緩やかに成長していくとみられる。
  • 2020年に中国では市場バランスにおいて飛躍的な伸び(1億900万t)を記録するが、2021~2022年は不足が続くと見られる。

3.2 粗鋼生産

2020年の粗鋼生産量は18億4,200万tに達し、対前年比1.4%の減少となる。総生産量のうち57%を占める中国では5.8%の増加を記録するが、他国では欧州、日本、米国を筆頭に9.8%下落するとみられる。

図3.2 世界の粗鋼生産量の推移(2020~2022年予測)

図3.2 世界の粗鋼生産量の推移(2020~2022年予測)

出典:Macquarie(2020年12月)

2021年の粗鋼生産量は6.9%増加するとみられるが、主に日本、インドネシアおよび一部の欧州諸国など中国以外の国での生産量が増加(11.4%)することによる。この増加傾向はより緩やかなペースで2022年も続くであろう。

3.3 粗鋼需要

Macquarieが発表した見掛けの鉄鋼需要量予測によると、2020年に世界の粗鋼需要は7.5%の減少を記録した。全体の51%を占める中国では3.9%落ち込み、世界の他の国々では11.1%減少した。中国の鉄鋼需要の落ち込みは主に、自動車部門、建設部門、工具鋼部門で生じた。

図3.3 2020~2022年の中国における粗鋼需要予測

図3.3 2020~2022年の中国における粗鋼需要予測

出典:Macquarie(2020年12月)

鉄鋼市場は米国、欧州、中国間の緊張の中にあり、また多くの新興経済国では業界団体が規制当局に対し、反競争的慣行を理由に中国からの輸入品への関税賦課を要求しているため、世界の鉄鋼需要の動向予測にはある程度の不確実性が伴う。2021年には13.9%もの増加が見込まれているが、比較基準となる2020年の値が低いことに拠るもので、2021年の増加はより緩やかで3.9%と予測される。

3.4 粗鋼の市場バランス予測

Macquarieの試算に基づくと、前述の三大市場でのHRC鋼の年間平均価格は2020年に顕著な上昇傾向を示し、2021年および2022年には下落基調となることが予想される。

中国市場において価格は2020年に12.4%上昇するが、2021年および2022年には、それぞれ7%および12.6%の下落となることが予想される。これは2020年に大幅な余剰が発生し、その後数年間で在庫量が増加することによるものであり、その結果市場は不足傾向を辿るにも拘わらず、価格は下落する。

表3.1は、粗鋼の生産と需要の予測および三大市場におけるHRC鋼の推定価格をまとめたものである。

表3.1 世界の鉄鋼市場バランスと推定価格
2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022
中国
見掛けの消費量

788

767

833

869

931

895

1,042

1,073
  不動産 272 283 293 314 339 352 364 364
  インフラ 103 107 107 107 107 107 107 107
  機械 98 100 104 108 116 128 138 146
  自動車 58 62 66 65 65 61 63 69
  その他 257 215 263 275 304 247 370 387
正味輸出量 105 105 96 62 62 57 64 55
粗鋼生産量 901 870 894 949 997 1,055 1,093 1,125
銑鉄生産量 789 782 765 789 838 911 932 941
世界全体-中国
  見掛けの消費量
  粗鋼生産量
  銑鉄生産量

887
816
466

908
820
462

919
858
469

953
883
480

943
871
473

838
787
433

932
877
477

978
923
500
粗鋼のバランス 42 15 0 10 -6 109 -4 -3
HRC価格(US$/t)
  米国
  中国
  欧州
506
310
431
574
356
454
679
488
644
680
489
529
630
493
519
770
554
609
725
515
585
660
450
540

出典:Macquarie(2020年12月)

4.金市場

4.1 金価格の推移

金価格と米国の実質金利の間の相関関係は広く知られている。現在のような長期金利が低い局面では、金価格は上昇傾向を維持する。これは、金が信用リスクのないゼロクーポン永久債と同様の動きをすると考えられているため、投資家は主に、他の無リスク資産のパフォーマンスに対して金を保有する機会費用により決定を行う。米国債金利は、この機会費用の指標の役割を果たす。

現在米国経済は実質マイナス金利に支えられ、短期的な後退期から脱しつつあるため、金価格は上昇サイクルにある。インフレ率は年間目標範囲の2%にとどまるが、米国連邦準備制度理事会(FRB)は経済成長と雇用を優先し、金利を現在の水準で維持すると公表している。このシナリオでは、金価格は2,000US$/ozのレベルを優に超えると想定するのが妥当であったが、2020年10月以降、イールドカーブの長期金利が上向き、金価格は上昇傾向を弱めた。

一度米国経済が回復し始めると、実質金利がそれ以上下げられる可能性は低い。2020年第4四半期のGDP成長率は、今後数か月で米国債の長期金利引き上げのタイミングを決定する鍵となる。このシナリオでは金価格は下落基調となる可能性が非常に高いが、下落速度には不確実性が残る。また一般的に、金価格とドルは短期的に見ると逆相関性が強いものの、この関係は常に当てはまるわけではないため、金価格の動向を確定し得る指標とはならないことを明記しておく必要がある。

大統領選挙および議会選挙の結果、金融市場では権力バランスが適切に保たれるという感覚が生まれ、リスクのある資産の価格が上昇した一方で金相場の勢いは弱まった。選挙結果が確定すると金の投資家は利益確定に転じ、結果価格下落が生じた。最近の金価格下落の根本的な理由としては、パンデミックに対抗する数種類のワクチン生産に成功したことや、民主党Biden候補が大統領選で勝利したこと、また同氏により財務長官にJanet Yellen氏が任命されたことなどがある。

Yellen財務長官の発表は株式資産にとってプラスとなるが、皮肉なことに長期にわたり金利が下がる可能性が高まるため、金にとってもプラスとなるであろう。

図4.1は、2010~2020年における金価格の推移および金価格と10年国債の金利との因果関係を示している。

図4.1 金価格の推移(US$/oz)

図4.1 金価格の推移(US$/oz)

出典:LME、Refinitiv

4.2 金鉱山の供給

2020年10月時点(WBMSの最新データ)で世界の金生産量は5.3%減で計2,558tとなり、おそらく2020年末までこの水準を維持するであろう。主要生産国である中国、米国、メキシコはそれぞれ5.3%、5.4%、10%の生産減を記録した。

 図4.2 2020年10月時点での金鉱山生産量(t)

図4.2 2020年10月時点での金鉱山生産量(t)

出典:WBMS(2018年11月)

4.3 金の需要

金の需要は基本的に宝飾品、産業用、そしてその価値保存機能による投資・ヘッジ用の3つに分けられる。Macquarieによると、2020年におけるこの3つのカテゴリーの総需要は3,868tとなり、大幅な価格上昇による需要減が不利となり対前年比12.4%減となった。

図4.3は、2020年の金需要予測を用途別にまとめたものである。

図4.3 用途別に見る金需要(t)

図4.3 用途別に見る金需要(t)

出典:Macquarie『Compendium』(2020年12月)

4.4 金市場のバランス予測

表4.1は、世界の金市場のバランスをまとめたものである。表中「バランス」の行は、厳密にはその他の金投資や投資家による金の現物保有、または金価格上昇の結果生じた在庫保管量などに対応している。

2020年以降バランス(その他投資)は増加を示しており、金価格および金利動向の決定要因に関連している。2020年と2021年において金市場のバランスでは余剰が拡大していくと見られ、無リスク資産に関して金を保有する機会費用が増加する(金利の上昇)ことになる。

このシナリオでは2021年と2022年に金価格はそれぞれ5.9%と10%低下し、それぞれ1,660US$/ozと1,549 US$/ozとなることが予想される。

表4.1 金市場のバランス(t)
2016 2017 2018 2019 2020e 2021e 2022e
需要 4,300 4,268 4,480 4,416 3,868 3,122 3,396
  宝飾品
  産業用
  投資・ヘッジ
1,953
264
2,083
2,215
277
1,776
2,283
268
1,929
2,134
263
2,019
1,387
244
2,237
1,734
254
1,134
1,925
262
1,209
供給 4,692 4,675 4,842 4,867 4,707 4,852 4,890
  金鉱石生産
  スクラップ
  中央銀行の金売却
3,460
1,264
-32
3,494
1,140
41
3,556
1,160
126
3,551
1,296
20
3,372
1,335
0
3,490
1,362
0
3,542
1,348
0
バランス(その他投資を含む) 392 407 362 451 839 1,730 1,494
金価格(US$/oz) 1,248 1,257 1,269 1,391 1,765 1,660 1,549

出典:Macquarie(2020年12月)

5.銀市場

5.1 銀価格と銀需要

2020年の銀価格は21US$/ozで、対前年比26.2%上昇した。しかし同年最後の2か月で金価格が下落し、2021年と2022年に上昇傾向の鈍化が伺われるように、銀の価格見通しにも明らかな影響を及ぼしている。銀は工業用貴金属であるため、2021年前半に全世界で工業生産の加速が期待されていることを考えると、工業目的の需要は堅調となるだろう。しかし価格上昇は限定的となり、収益性の減少が投資家離れを引き起こす可能性がある。

図5.1 銀価格の推移

図5.1 銀価格の推移

出典:Refinitiv

5.2 銀需要の動向

前述のとおり、10年国債の利上げを考慮すると、2021年には50百万oz相当のETF6からの流出が見込まれる。銀は小口投資の割合が大きいためこれまでこの動きは金よりも安定的ではあったが、ETFの収益は2021年に減少とされているため、流出は増加するであろう。

2020年に70百万oz(正味)相当となる39.8%に及ぶ拡大を記録した銀貨の需要は、2021年には約50百万ozに縮小するとみられる。同様に宝飾品用の銀需要は2020年9%減少した後、2021年には6%の増加が見込まれているが、これもまた価格が伸び悩んでいる一因である。

 図5.2 銀の需要

図5.2 銀の需要

電気・電子部品製造、溶接、写真、太陽電池などの工業用需要は需要全体の42%を占めている。2020年には2.9%の減少を記録したが、2021年には工業生産の回復により6%の拡大が予想されている。

5.3 銀供給の動向

銀の供給源は鉱山生産(84%)とスクラップ(16%)がある。2020年に鉱山生産量は合計786百万ozとなり6%減を記録した。生産の減少は主にメキシコ(8%減)、ペルー(25%減)、ボリビア(45%減)、豪州(46%)で起こり、これらは全てパンデミックによる操業停止に関連していた。しかし対照的にチリでは約16%伸び、米国も同程度の成長とみられる。

図5.3 銀の供給

図5.3 銀の供給

出典:Macquarie(2020年12月)

2021年と2022年には採掘事業の正常化が見込まれており、2021年は前年比5%で増加した後2022年の成長率は1.5%まで下がるとみられるが、いずれにせよ2022年の鉱山生産量は2019年のレベルを上回ることはないだろう。

5.4 銀の市場バランス

銀市場は2020~2022年にかけて不足が続き、特に2021年には価格の上昇が見られるだろう。しかし2022年以降、米国経済は拡大サイクルの終焉を迎え、それを反映して米国債の金利は上昇し、コモディティETFの投資信託からの流出が起きるため価格に下方圧力がかかる。その結果、2022年には市場は不足が拡大するにも拘わらず、価格は7%の下落が予想されている。

表5.1 銀市場のバランス(10百万oz)
2016 2017 2018 2019 2020 2021e 2022e
供給 1,038 1,034 995 1,012 942 992 1,001
  鉱山生産
  スクラップ
  正味生産者ヘッジ
893
157
-12
877
159
-2
848
156
-9
837
160
16
786
155
0
826
166
0
838
163
0
需要 1,086 1,007 1,006 1,096 1,345 996 1,105
  宝飾品
  硬貨・メタル
  ヘッジ
  工業用途
    電気・電子
    溶接
    写真
    太陽電池
    その他
  銀ETF購入(正味)
  公的機関による購入(正味)
198
209
52
578
234
55
38
94
157
50
-1
205
150
58
593
243
58
35
102
155
2
-1
213
181
61
572
235
58
34
93
152
-20
-1
201
176
60
577
230
59
34
99
155
83
-1
183
246
56
560
219
56
32
106
147
300
0
194
197
58
597
229
59
33
121
155
-50
0
200
207
60
603
237
61
32
113
160
35
0
バランス -48 27 -11 -84 -404 -4 -104
銀価格(US$/oz)   17.1 15.7 16.2 20.4 21.0 19.5

出典:Macquarie(2020年12月)


 

Dirección de Estudios y Políticas Públicasにより作成

 

Víctor Garay Lucero
Coordinador de mercados mineros

 

Jorge Cantallopts Araya
Director de Estudios y Políticas Públicas

 

2020年12月


  1. 原文は1.7%となっているが、図1.2から「マイナス1.7%」に修正した。
  2. 原文は「Lumining鉱山」となっているが、Luming鉱山に修正した。
  3. 原文は10.8%減となっているが、図1.4中の2.6%減に修正した。
  4. この数字には近隣諸国から陸路で輸送される鉄鉱石も少量含まれている。
  5. このセクションの内容は図3.1から読み取れないが原文のままとした。
  6. ETFとは、特定の地域や国の動向、業種別指数、株式指数、債券、コモディティなどの指標への連動を目指すパッシブ運用の投資信託である。

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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