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報告書&レポート

2022年2月7日 金属企画部 調査課 五十畑樹里
21_03_vol.51

世界のニッケル需給と今後の動向2021

<金属企画部調査課 五十畑樹里 報告>

はじめに

2020年は、世界的な新型コロナウイルスの感染拡大により世界経済が低迷したが、同年第2四半期以降は、中国が他国より先んじて国内経済を回復させた。これに伴い、2020年上旬に低迷していた非鉄金属価格は、徐々にコロナ禍以前の価格水準へと回帰した。

ポストコロナ時代を見据え、新たに「カーボンニュートラル」や「脱炭素化」に向けた金属需要が堅調である。ニッケルについては、2020年7月に米Tesla社のElon Musk CEOがリチウムイオン電池(以下、「LIB」という。)向けのニッケルの増産を求める発言をしたことは記憶に新しい。また、2021年1月のBiden米大統領の就任以降、同国が気候変動対策として脱炭素化の動きを本格化させている動きに鑑みると、「ニューノーマル」へのシフトは益々加速化の様相を呈しているように見受けられる。

2021年4月に開催された気候変動サミットで、米国は二酸化炭素(CO2)排出量を2005年比で50~52%削減すると公表した。これは、以前2025年までに26~28%削減するとしてきた目標を、2倍近くに引き上げたことになる。将来的に自動車の電動化の進展は確実視されており、LIB正極材に用いられるニッケルの需要は一層増加することが見込まれている。

上記のように、脱炭素社会への移行に不可欠とされるニッケルの需給動向について、本稿では、主に2020~2021年現在に至るまでの各国・各企業の動きをベースとして、その背景や需給に影響を与えた要素に関して、以下の項目に則して整理する。

  1. ニッケルの生産フロー
  2. LMEニッケル価格・在庫動向
  3. ニッケル生産動向
  4. ニッケル生産企業動向
  5. インドネシア関連動向
  6. カーボンニュートラル関連動
  7. まとめ

1.ニッケルの生産フロー

各論に入る前に、ニッケルの生産フローと各ニッケル製品の関係について、図1に基づき整理をしたい。ニッケル鉱石は、硫化鉱と酸化鉱の2種類に分かれる。硫化鉱は、ロシアや豪州などで生産され、ブリケット、カソード、パウダー等のClass1ニッケルに精錬される。一方、酸化鉱はインドネシアやフィリピンを中心に生産され、フェロニッケルやニッケル銑鉄(NPI)といったClass2ニッケルの原料として用いられる。Class1ニッケルはマット、MHP(ニッケル・コバルト混合水酸化物)、ミックスサルファイド(MS、ニッケル・コバルト混合硫化物)といった中間原料を通して生産される。

製精錬所における生産物であるプライマリーニッケルは、図1のようにClass1ニッケル、Class2ニッケル、Chemicalsに分類される。昨今の電気自動車(以下、「EV」という。)のLIB向け需要として注目が高まっているのは、Class1ニッケル中の硫酸ニッケルである。この硫酸ニッケルは従来、同じClass1ニッケルに区分されるブリケット等を硫酸で溶かして製造するフローが主流とされてきたが、2021年3月に中国ステンレス大手の青山集団(Tsingshan)が、Class2ニッケルのニッケル銑鉄(以下、「NPI」という。)から中間製品であるニッケルマットを製造し、LIB向けの原料として中Huayou社(華友)及び中CNGR Advanced Materials社に提供するとの報道があった。硫酸ニッケルの原料として、ニッケルマットがサプライチェーンにおける新たな要素となる可能性が着目されているところであるが、技術的には問題ないとされている一方で、コスト面では最終的にはニッケルの価格に左右される製造方法であるとされている。なお、この生産技術は2021年12月に同社が成功させたことが報道されている。

図1.ニッケルの生産フロー図

図1.ニッケルの生産フロー図

出典:金属資源レポート19_07_vol.49 「世界のニッケル需給と今後の動向」に筆者加筆

2.LMEニッケル価格・在庫動向

2-1.LME価格

2020年1月~2021年12月末までのニッケル価格及びLME在庫の推移を図2に示す。

2020年年初に14,000US$/tだったニッケル価格は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で下落傾向に転じ、同年3月11日にはWHO(世界保健機関)が世界的な感染拡大を「パンデミック」と認めたことで、価格の押し下げ要因として大きく働いた。その後、同月23日には11,055.0US$/tまで落ち込んだが、4月以降は中国をはじめ、世界各地で都市封鎖措置が緩和され徐々に経済活動が回復し始めたことで価格も上昇傾向に転じ、2020年12月には同年最高値として17,650US$/tを記録した。

2020年下半期の急激な価格上昇は、世界中で温室効果ガス削減のための自動車電動化に向けて各国政府の目標が掲げられたことを受け、LIBの正極材に使われるニッケル需要の期待感が高まり買いが先行したことが要因の一つとして挙げられる。また、同年12月には伯Valeがニューカレドニアにて権益を保有するVale Nouvelle Calédonie(VNC)のニッケル事業売却に関して、多国籍コンソーシアムProny Resources社と法的拘束力をもつ売却オプション契約を締結したことを発端として、かねてより同国内企業への売却を望む現地の独立活動家らが抗議デモを行って一部が暴動化し、供給懸念が高まったことなども価格を押し上げる要因になったと考えられる。

更に2021年2月は、中国における2021年1月のEV販売台数が前年比239%増加したこと等から、同国の景気回復に伴う需要拡大が予想され、同月22日には19,689US$/tとなったが、同年3月には、前述のとおり青山集団がインドネシアでNPIからニッケルマット製造し、中Huayou社(華友)に60千t/年、中CNGR Advanced Materials社に40千t/年を2021年10月から長期的に供給する計画を公表したことにより、価格が急落した。その後、5月ごろまでは供給過剰予測が続いたが、脱炭素化に向けたLIB向けニッケルの需要拡大に対する期待感が強まる中で、6月には加Sudbury鉱山においてストライキが勃発し、鉱山と製錬所が一時操業停止に追い込まれたことが需給タイト感を喚起させ、再び上昇基調となった。また、7月にはニッケル鉱石の最大生産国であるインドネシアで新型コロナウイルスの変異株「デルタ株」が拡大したことも供給懸念となり、価格を下支えした。更に、10月にはインドネシアJoko大統領が同国の全ての原材料の輸出に規制をかけることを検討していると発言したことが影響し、同月21日に20,530US$/tまで上昇したほか、11月にはフィリピンも未加工鉱物の輸出制限を検討している旨を公表し、同月24日には21,135US$/tまで上昇した。なお、LMEにおける在庫の減少も顕著であり、2021年12月31日時点では102千tと低水準であった。

図2.ニッケルのLME現物価格とLME在庫推移(2020年1月2日~2021年12月31日)

図2.ニッケルのLME現物価格とLME在庫推移(2020年1月2日~2021年12月31日)

ニッケル需要のおよそ7割はステンレス向けであり、価格は中国をはじめとした世界の粗鋼生産状況にも左右される。世界鉄鋼協会(WSA)によると、2020年は新型コロナウイルスのパンデミックの影響により、世界における粗鋼生産量は前年比0.9%減の18億6,400万tと5年ぶりの前年割れとなった。一方、最大生産国である中国における同生産量は前年比5.2%増の10億5,300万tと、新型コロナウイルス感染拡大による経済打撃からいち早く脱却傾向を示したことで、インフラ向けの需要回復と呼応して同年3月以降には急回復した。

図3に、2020年1月~2021年9月における世界及び中国における粗鋼生産量の推移を示す。月毎に減少しているところが散見されるが、2020年3~12月は中国の粗鋼生産量が堅調であったことも、2020年3月~2021年7月までの価格の下支え要因となった。なお、中国の粗鋼生産量は、2021年5月に9,945万tと過去最高を記録したが、その後は同国政府の脱炭素政策における環境対策として、火力発電の制限による電力不足を背景に需要が減退しており、生産量も減少傾向に転じている。

図3.世界及び中国における月間粗鋼生産量の推移(2020年1月~2021年9月)	単位:千t

図3.世界及び中国における月間粗鋼生産量の推移(2020年1月~2021年9月) 単位:千t

出典:一般社団法人 日本鉄鋼連盟データをもとに筆者作成

3.ニッケル生産動向

3-1.鉱石生産量

図4に、国別のニッケル鉱石生産量の推移を示す。国際ニッケル研究会(INSG)によると、2020年の世界のニッケル鉱石生産量は、前年比4%減の2,437.5千tであった。インドネシアの鉱石生産量が前年比で約10%減少した一方、フィリピンは同比3.3%増、ロシアは同比6.3%増、豪州は同比6.7%増となった。インドネシアの鉱石生産量の減少は、2020年1月から鉱石の輸出禁止措置を図ったことが主な要因と考えられるが、2014年に同国が鉱石輸出禁止を行った時のような大幅な減少とはならなかった。近年インドネシアでは、政府による高付加価値化政策の推進によって、NPIやフェロニッケル製錬所、高圧硫酸浸出(以下、「HPAL」という。)プロジェクトが次々と立ち上がっており、各地域におけるプロジェクトの進展が、同国における今後の鉱石生産量に影響を及ぼすと考えられる。

ニッケルの最大消費国である中国では、これまで鉱石の主要な供給源をインドネシアに求めてきたところであるが、前述した鉱石の輸出禁止措置を受けて、昨今では鉱石生産量世界第2位のフィリピンからの輸入割合が高まっている。同国では従来、露天掘りの禁止等の環境規制により新規プロジェクトの立ち上げが制限されるとみられていたが、新型コロナウイルスからの経済回復を目的として、2021年4月には2012年から禁止されていた新規鉱業取引が解除されたことから、今後の同国の生産動向にも注視する必要がある。

図4.国別ニッケル鉱石生産量推移

図4.国別ニッケル鉱石生産量推移

出典:INSG

豪州については、ニッケルの埋蔵量がインドネシアに次いで多く、LIB関連の鉱物やクリティカルミネラルを中心に、近年積極的に投資を呼び込む働きかけを行っている。図5に示す通り、同国における2020年のニッケルの探鉱費用は、56.6mUS$と前年比166%増と大幅な増加となった。

図5.豪州におけるニッケル探鉱費用推移

図5.豪州におけるニッケル探鉱費用推移

出典:S&P

また豪州では、複数の開発・生産プロジェクトが立ち上がっており、2021年3月にはMincor社がWA州Kambalda地域のCassiniニッケル鉱山の操業を開始し、2022年4~6月期に生産物が出荷されることが公表されている。なお、選鉱はBHP傘下のNickel West社の施設で行われる。他にも、2021年10月にはWestern Areas社がOdysseus鉱山で生産を開始し、選鉱設備の操業が開始される2022年10~12月までは貯鉱することが報道されたほか、加First Quantum社によるRavensthorpe鉱山の拡張や、Panoramic社によるSavannah鉱山の操業が再開なされるなど、増産に向けた動きが加速している。

豪州のほかには、ザンビアのEnterpriseプロジェクトや加Eagle’s Nestプロジェクトといった大規模な硫化鉱プロジェクトが注目されている。Enterpriseプロジェクトでは、操業企業である加First Quantum社が、鉱石処理能力として年間4百万tまで引き上げる計画を打ち出しており、Wood Mackenzie社では、年間の鉱石生産量が45千t/年に達すると予測している。また、加Eagle’s Nestプロジェクトでは、現在権益を保有するNoront Resources社の買収を巡って動きがあるが(詳細は「4.ニッケル生産企業動向 4-4.BHP(豪・英)」参照)、150~250千t/年のニッケル精鉱の生産が期待されている。

3-2.プライマリーニッケル生産量

図6に世界のプライマリーニッケル生産量、図7に消費量を示す。2020年は、インドネシアにおけるプライマリーニッケル生産量が前年比63.6%増と大幅に増加した。前述のとおり、同国では未加工鉱物の高付加価値化政策推進によって、NPIやフェロニッケル製錬所、LIB材料等の工場の建設が相次いでおり、うちフェロニッケルについては、インドネシアから最大消費国である中国への輸出量が堅調に増加していることが明らかである(図8参照のこと)。一方、2020年12月にニューカレドニアで発生したVale New Caledonia(VNC)売却を巡る地元活動家の暴動によって、Société Le Nickel(SLN)のDoniambo製錬所におけるフェロニッケル生産に使用する鉱石の調達に一時支障が出たこと等から、2020年のニューカレドニアにおけるフェロニッケル等Class2ニッケル生産量は、前年比17.6%減のおよそ73千tとなった。

近年の中国のプライマリーニッケル生産量は、2018年以降増加傾向に転じていたが、2020年はインドネシアのニッケル鉱石輸出禁止を背景に、前年比6.9%減少した。また、露Nornickel社のレポートによると、中国のNPI生産については前年比12%減と、インドネシアの鉱石輸出禁止に伴うフィリピンからの鉱石の輸入により減少したとみられている(図9参照のこと)。

従来、インドネシアの鉱石をプライマリーニッケル生産の原料としてきた中国は、青山集団をはじめ、インドネシアの国内高付加価値化政策に則して、製錬所プロジェクトへの投資を促進している結果、同国でのプライマリーニッケル生産が増加しているといえるだろう(表3参照のこと)。

また、プライマリーニッケル消費量については、インドネシアは前年比およそ30%増となった。同国では、脱炭素社会に向けて上流から下流まで一貫して生産できるよう、国内EV関連産業の発展を促進していることも、増加要因の1つと考えられる。

図6.プライマリーニッケル生産量推移      図7.プライマリーニッケル消費量推移

図6.プライマリーニッケル生産量推移      図7.プライマリーニッケル消費量推移

図6出典: INSG、※日本はPeriod期間、その他の国はyear
図7出典:2019までINSG、2020はWBMS Yearbook2021

図8.中国におけるインドネシアからのフェロニッケル輸入量推移

図8.中国におけるインドネシアからのフェロニッケル輸入量推移

出典:INSG

図9.インドネシアと中国のNPI生産量推移

図9.インドネシアと中国のNPI生産量推移

出典:Nornickei社アニュアルレポート

3-3.プライマリーニッケル需給バランス

プライマリーニッケルの需給バランスは、2020年は新型コロナウイルスの影響で、余剰気味で推移した。INSGによる2021年8月の発表によれば、2020年の世界におけるプライマリーニッケルの需給バランスは、103.9千tの供給過剰であった。

またCRU社によると、2021年前半は中国、欧米からの旺盛なEV需要のため、LIB材料として使用される硫酸ニッケル製造用のブリケットを中心に在庫が減少したこと等から、供給不足気味になっていたが、次第にインドネシアからの供給増加によって、2021年後半から徐々に供給過剰傾向に転じるとされており、露Nornickel社も、2022年は100千tの供給過剰になると予測している(図10参照のこと)。

図10.Nornickel社発表の世界のニッケル需給バランス推移および予測

図10.Nornickel社発表の世界のニッケル需給バランス推移および予測

出典:Nornickel社 公開資料より筆者作成

インドネシアにおけるプロジェクトの進捗状況が、プライマリーニッケルの需給バランスに影響を及ぼすことは前述したとおりだが、2021年に入り注視すべき出来事があった。同国のフェロニッケルやNPIの製錬所建設の増加を受け、インドネシア政府は2021年6月にニッケル埋蔵量不足の懸念や、さらなる高付加価値化推進のため、フェロニッケルやNPIの新規プロジェクトと輸出に制限をかける計画を検討していることを公表した。この件については、まだ政策決定には至っていないとされているが、同国のニッケル鉱業協会も方針を支持する意向を示している。前述のとおり、インドネシア政府は将来のEV需要を見越して、より高品位なニッケル製品の増産を目指しており、フェロニッケルやNPIに制限をかけ、最終的には硫酸ニッケル等のLIB向けニッケル原料の生産やステンレス鋼までの最終製品の生産、輸出を目指している。

現時点では、最終製品までの製造や輸出はほとんど実現していないが、今後の政策やプロジェクトの動向によっては、プライマリーニッケルの供給に影響が出る可能性がある。

4.ニッケル生産企業動向

本章では、主要ニッケル生産企業各社における2020~2021年の動向について整理する。表1に、各社の2020年の年間生産量と2020年及び2021年上半期の生産量のほか、2021年の予定生産量を示す。

表1.主要ニッケル生産企業各社の生産量       単位:千t
2020年
年間生産量
2020年
上半期生産量
2021年
上半期生産量
2021年
予定生産量
Norilsk Nickel※1 236 108 79 190~200
Glencore 110 55.2 47.7 100~110
Vale 183.7※2 102.2 89.9
BHP※3 80 35 46 85~95
Eramet※4 23.5(FeNi) 1,300 7,000
3,400
(鉱石/グロス量)
PTVI※5
(PTValeIndonesia)

72.2
30 64

※1 Nkomati鉱山を除く
※2 VNC社を除く
※3 BHPの決算期は7月~翌年6月であるため、2020年年間生産量は2019年7月~2020年6月の数字、2021年予定生産量は予定生産量ではなく2020年7月~2021年6月の実績。
※4 インドネシアWeda Bay Nickel生産量(鉱石/グロス量)
※5 ニッケルマット生産量

出典:各社HP、アニュアルレポートを基に筆者作成

4-1.Norilsk Nickel社(露)

2021年上半期の生産量が前年同期比で26%減であったほか、2021年の予定生産量が2020年の年間生産量を下回っているが、これは2021年2月にOktyabrsky鉱山及びTaimyrsky鉱山において、坑内での地下水浸水事故が発生したことにより、一時的に操業停止を行ったことが要因とされており、上半期における生産量減少の主要因となった。Oktyabrsky鉱山では2021年5月中旬に生産が再開されたが、Taimyrsky鉱山では復旧が遅れている。7月の同社のプレスリリースによれば、環境や安全を最優先し、坑内の安全性を強化するため抜水後に支保を補強する対応を行っている。6月初旬に操業を再開して以来、すでに80%の能力まで回復しており、2021年12月にはフル稼働になる見込みである。なお、本事故によって30千tのニッケル生産量の減少が見込まれている。

また同社は、EV市場に対応するため、2020年3月にフィンランドFortum社、独BASF社、Nornickel社と、新たなバッテリーリサイクルのための施設を建設することに合意した。リサイクルによって、ニッケルをはじめとするバッテリーメタルの供給におけるCO2の排出量を削減し、環境への影響を軽減することを目的としている。この施設は、フィンランドHarjavalta製錬所の隣接地での建設が予定されており、完成すればHarjavalta製錬所は世界で最も持続可能性が高い製錬所の1つになると同製錬所の最高責任者であるJoni Hautojärvi氏は述べている。

その他、同社は環境対策に注力しており、2021年7月には露Kola地区でカーボンニュートラルニッケル(ニッケルカソード)の生産を開始したことを公表している。水力発電への転換などにより、同社は2019~2020年で47千tのCO2排出量を削減した。7月に生産した最初のカーボンニュートラルニッケルは5千tであり、Kola地区から2021年には合計で10千tのカーボンニュートラルニッケルの生産が予定されている。各社のカーボンニュートラル関連動向については、「6. カーボンニュートラル関連動向」で後述することとする。

4-2.Vale(本社:ブラジル)

新型コロナウイルスによって、加Voisey’s Bay鉱山におけるメンテナンスが2020年上半期から同7月まで延長されたことなどにより、2020年の生産量(183.7千t)は2019年(208千t)と比較して減少した一方、伯Onça Puma鉱山では2020年は堅調な生産状況だったことが生産量を下支えした要因の1つと考えられる。同鉱山では、2017年9月及び2019年6月に先住民コミュニティへの影響が懸念されるとの理由により裁判所から操業停止命令を受けていたが、2020年の生産量は、前年比37.9%増の16千tまで回復した。但し、2021年10月に伯Pará州環境・持続可能性事務局(SEMAS)によって、操業許可条件を遵守しなかったとして操業ライセンスを一時停止された後、州裁判所が同鉱山の操業許可の停止を決定したことで、再び操業停止となっている。上記の生産量には含まれていないが、ニューカレドニアVNC社では、2020年Q4に地元の独立活動家のデモによって、50日間鉱山と製錬所へのアクセスが不可となったことなども同社の操業の障害となった。

また加Sudbury鉱山では、2021年6月に勃発した労働組合によるストライキを背景として、同年8月上旬まで操業停止となったことによって、2021年Q2の同鉱山の生産量が前年同期比で約33%減となったこと等も2021年の予定生産量に影響を及ぼした。

その他、インドネシアPT Vale Indonesia(PTVI)については、新型コロナウイルスにより2020年に予定されていた炉の改修メンテナンスが2021年に延期されたものの、特段大きな生産量の減少には至らなかったものと見られる。なお、住友金属鉱山株式会社と共同で開発予定の「Pomalaaプロジェクト」については、2026年に製錬所が完成する予定であり、40千t/年のニッケル生産を見込んでいる。

4-3.Glencore(スイス)

新型コロナウイルスの影響により、ニューカレドニアKoniambo鉱山及び製錬所における生産ライン2基のうち、1基がメンテナンス状態になったことが影響し、2020年ニッケル生産量は前年比9%減の110.0千tとなった。また、同鉱山及び製錬所では、2021年7月に地元部族らによる妨害活動によって再び操業停止の措置が図られた結果、2021年上半期の生産量は6.6千t(前年同期比31%減)にとどまった。また、豪Murrin Murrin鉱山についても、2021年5~6月にメンテナンスを実施したため、2021年上半期の生産量は13.1千t(前年同期比26%減)となった。

4-4.BHP(豪・英)

BHPは、将来のEV需要やカーボンニュートラル社会への移行に伴い、今後ニッケル及び銅は需要が増加するとして、上流の開発から製錬過程までの広い分野に亘って生産能力の強化を図っている。2021年8月には、豪WA州Mt Keith鉱山の選鉱施設の拡張を公表し、現在の10.5百万t/年から最終的には15百万t/年の生産量を目指している。同年10月には、同州のKwinana製錬所で豪州初となる硫酸ニッケルの製造を開始し、フル稼働すれば100千t/年の硫酸ニッケルの製造が可能となる。また、同月にはEVに使用されるLIBのサプライチェーンに関するMOUを、豊田通商株式会社及びプライム プラネット エナジー&ソリューションズ株式会社(PPES)の2社と締結した。BHPはこのMOUに基づき、先のWA州Kwinanaの工場で製造する硫酸ニッケルをPPESに供給するほか、温室効果ガス(GHG)排出削減や、LIB原料のトレーサビリティ、リサイクル、倫理的な調達の方法、人権に関する報告などについて両社と検討を行っていく。

一方上流の権益確保については、加ON州のEagle Nestニッケル・銅・PGM鉱山を保有する加Noront Resources社の買収をめぐって、豪Wyloo Metals社と競合している。なお同社は、2021年10月時点では、Wyloo Metals社が提案した1株あたり0.70C$をさらに上回る、1株あたり0.75C$を提案したとされているが、Wyloo Metals社がさらに1株あたり1.10C$で提案を行ったため、この件についてはWyloo Metals社とNoront Resources社が協議契約を締結した。

なお、2020年10月に既に報道されていた、BHP傘下のNickel West社と米Tesla社のパートナーシップ協定については、2021年7月にNickel West社が操業するWA州の鉱山から、Tesla社にニッケルを供給する契約を締結した。開始時期や供給量などは明らかにされていない。

4-5.Eramet社(フランス)

Eramet社は、ニューカレドニアでニッケルを生産する事業会社SLN社の権益56%及びインドネシアPT Weda Bayの権益を38.7%保有している。2020年のSLN社の生産は、新型コロナウイルスの影響や12月の独立活動家の暴動による操業停止があったにもかかわらず、5.4百万wmtと前年比で16%増となった。インドネシアの操業では、2020年は3.4百万wmtの鉱石生産量となり、PT Weda Bayにおけるニッケル合金鉄の生産は、2020年8月に公称生産能力(年間35千t)を達成し、2020年の生産量は23.5千tとなった。

5.インドネシア関連動向

「3-2.プライマリーニッケル生産量」で述べたように、インドネシアでプライマリーニッケルの生産が増加している背景には、2009年1月12日に施行された同国の新鉱業法を発端に、鉱物の高付加価値化政策が推進されていることがある。これにより、2014年からニッケルを含めた未加工鉱物輸出が禁止となったが、コモディティ価格の下落等で減収となった同国内の鉱業企業に対するいわば救済措置として、インドネシア政府は2017~2022年の5年間は低品位のニッケルなど一部の鉱石輸出の緩和を行っていた。しかし、2019年8月にニッケル鉱石の輸出禁止を2020年に前倒しすることを公表し、2021年現在も輸出禁止は継続されている。

従来、インドネシアのニッケル製錬所プロジェクトについては、同国が最初に鉱石輸出禁止措置を図った2014年以降、中国のステンレス需要を背景に、青山集団をはじめとする同国企業からの投資が活発である。現在インドネシアで推進されている高付加価値化の流れによって、同国のニッケル製錬については、ステンレス需要のClass2やバッテリー需要のClass1ニッケル生産におけるサプライチェーンの構築が行われている。Joko Widodo大統領は、昨今の世界的な脱炭素化の動きを踏まえ、従来の鉱物輸出に依存する体制から、鉱石生産~製錬~LIB・EVの製造までを一貫して国内にて完結させることで、東南アジア地域のEVハブとなることを目指している。

米国地質調査研究所のデータによると、インドネシアのニッケル鉱石埋蔵量は、2020年時点で21百万tとされており、世界の23%を占めている。同国の埋蔵量は世界1位であり、エネルギー鉱物資源省によれば、72百万tに達するとの報道もある。ロイター通信によると、豊富なニッケル資源を中心に、2020~2033年までに中国からインドネシアに対して35bUS$の投資が見込まれている。

また2014年以降、中国企業によるプロジェクトへの参画が加速している。表2に、既に稼働しているニッケルプロジェクトを示す。

表2.主な中国企業が投資するインドネシアにおけるプロジェクト
稼働年 企業 中国企業 生産物 生産能力
2015 PT Sulawesi Mining Investment 中国青山集団 NPI 300千t/年
2016 PT Fajar Bhakti Lintas Nusantara 振石持株集団 NPI 120千t/年
2017 PT Virtue Dragon Industry 江蘇徳龍鎳業有限公司 NPI 600千t/年
2017 PT Megah Surya Pertiwi 新興鋳管股份有限公司 FeNi 200千t/年
2019 PT Huadi Nickel Alloy 華迪鋼業集団 NPI 50~60千t/年
2019 PT Wanatiara Persada 金川集団 FeNi 162千t/年
2019 PT Bintang Smelter Indonesia 氾華集団 NPI 80千t/年
2020 PT Weda Bay Nickel(IWIP) 中国青山集団 NPI 30千t/年
2020 PT Yashi Indonesia Investment(IWIP) 中国青山集団/振石控股集団/華郡集団 FeNi 300千t/年
2020 PT Youshan Nickel Indonesia(IWIP) 中国青山集団/華友集団 NPI 300千t/年
2021 PT Halmahera Persada Lygend 寧波力勤資源科技開発社 MHP 365千t/年

出典:報道情報、IWIP HP、ニュースフラッシュ等を基に筆者作成

2021年6月にはインドネシアで初の商業生産のHPALプロジェクトとなるPT Halmahera Persada Lygendが稼働を開始した。本プロジェクトでは、最終的には硫酸ニッケルと硫酸コバルトを製造する予定である。なお、同社は2022年稼働予定で2基目となるHPALプロジェクトも計画している(表3を参照)。

中国企業が投資するニッケル製錬所の多くは、Class2ニッケルの生産を対象としているが、EVバッテリーに必要な硫酸ニッケルをはじめとするClass1ニッケルの生産に向けて、HPALプロジェクトも立ち上がっている。表3に、主なHPALプロジェクト稼働予定の一覧を示す。

北Maluku州の南Halmahera県Obi島に位置するPT Halmahera Persada Lygend(HPL)は、2021年6月から商業運転を開始した。現在はMHP(ニッケル・コバルト混合水酸化物)の生産のみであるが、将来は硫酸ニッケルと硫酸コバルトも生産される予定である。また、PT Aquila Cobalt Nickelは、スイスに拠点を置くSolway Investment Groupの子会社であり、中部Sulawesi州Morowali工業団地で上記のHPALプロジェクトを開発しているほか、NPI製錬所も開発している。本一覧にて整理したHPALプロジェクトでは、MHPもしくはMSP(ニッケル・コバルト混合硫化物)が生産されるが、現在インドネシアでは2023年までにHPALプロジェクトを含めてニッケル製錬所が29件完成予定であり、これらの製錬所が完成すれば、インドネシア国内のニッケル鉱石処理能力は年間で60百万tにのぼると見込まれている。

表3.主なHPALプロジェクト稼働予定
企業 生産規模 稼働予定年 権益保有企業
PT Huayu Nickel Cobalt Ni 120千t/年
Co 15千t/年
未定 Huayou、EVE、Yongrui
PT QMB New Energy Materials Ni 50千t/年
Co 4千t/年
2022年7月
(当初2020年5月予定)
GEM、中国青山集団、CATL、阪和興業
PT Huayue Nickel&Cobalt Ni 60千t/年
Co 7~8千t/年
2021末~2022年 中国青山集団、Huayou、China Molybdenum
Pomalaa Ni 40千t/年
(MSP)
未定
(2026年に建設完了予定)
PTVI、住友金属鉱山株式会社
PT Halmahera Persada Lygend※ Ni 37千t/年
Co 4.6千t/年
2022年7月 Ninbo Lygend、Harita
PT Smelter Nikel Indonesia (パイロット工場でMHP 90MT生産) 2022年
(2021年に完成)
PT Smelter Nikel Indonesia
PT Adhikara Cipta Mulia 76.5千t/年(MHP) 2021~2023年 PT Adhikara Cipta Mulia
PT Aquila Cobalt Nickel Ni 50千t/年 2023~2024年 Solway Investment Group
PT Ceria Kobalt Indotam Ni 40千t/年
Co 4千t/年
2024年 PT Ceria Nugraha Indotama

※表2記載のHPALに続く2基目。
出典:報道情報、PT Halmahera Persada Lygend HP、ニュースフラッシュ等を基に筆者作成

その他、表4に示すとおり、2022年には複数のニッケル製錬所にて操業開始が予定されているものの、一部の開発中のニッケル製錬所では資金問題が発生しており、プロジェクトの進行が妨げられている。影響が出ているニッケル製錬所は、Bintang Smelter Indonesia、Macika Mineral Industri、Ang Fang Brothers、Teka Mining Resources、Mahkota Konaweeha、Arta Bumi Sentra Industri、Sinar Deli Bantaeng、Smelter Nikel Indonesiaの8件で、Smelter Nikel Indonesiaについては、2021年中の稼働が予定されていた。製錬所の建設自体は完了している模様だが、資金不足により操業を停止している状況だという。なお、Smelter Nikel Indonesiaに関しては、2022年1月に同年第1四半期の稼働予定が報道された。

表4.2022年操業開始予定のNi製錬所(HPAL除く)
企業
東南Sulawesi PT Sungai Raya Nikel Alloy
同上 PT Bintang Smelter Indonesia
同上 PT Andi Nurhadi Mandiri(Tiran Group)
中央Sulawesi PT Metal Smeltindo Selaras
同上 PT Macrolink Omega Adiperkasa
同上 PT Anugerah Tambang Industry
同上 PT Wanxiang Nickel Indonesia

出典:ニュースフラッシュを基に筆者作成

資金不足の他にも電力不足なども問題となっており、国営電力会社PT PLNは2015年から「35GWプログラム」を進めている。現在これらのニッケル製錬所等への電力供給に向けて、新たな発電所を建設中としている。また、インドネシア国内の電力は、石炭火力による発電が最も多いことも、昨今の脱炭素推進の動きから、特に自動車企業などの下流産業からはリスクとしてみられる。

同国は、2060年のカーボンニュートラル達成に向けて、2022年から石炭火力発電所などを対象に、CO2排出量に比例して「炭素税」を課す。一方、石炭火力発電については、「段階的な廃止」を提示しているものの、完全に廃止する目途は現時点では立っていない。現在も石炭火力発電所の建設が計画されており、ニッケル製錬所が多く存在している中央Sulawesi州のMorowali工業団地(IMIP)では、総発電量3,000MWの発電所の新設が予定されている。

図11に示す通り、同国における2020年の電力構成として、およそ4割が石炭由来とされる。一方で、再生可能エネルギーが全体に占める割合は11.2%に過ぎないが、同国政府は2024年にはその割合を倍増させ、24%とする目標を掲げている(図11参照のこと)。なお、再生可能エネルギーのうち、水力発電やバイオマス発電が大きな割合を占めているが、太陽光発電も今後供給の増加が見込まれており、2050年には再生可能エネルギーの中で最大の供給元となるとされている(図12参照のこと)。

図11.2020年インドネシアの電力構成と2024年再生可能エネルギー割合目標

図11.2020年インドネシアの電力構成と2024年再生可能エネルギー割合目標

出典:JOGMECジャカルタ事務所地熱月報2021年4月、JETROレポートを基に筆者作成

図12.再生可能エネルギーの供給見通し

図12.再生可能エネルギーの供給見通し

注:RK…低炭素シナリオ、PB…持続可能シナリオ、BAU…従来通り(Business as usual)のシナリオ
出典:エネルギー鉱物資源省(content-indonesia-energy-outlook-2019-english-version)

このようなESG関連の課題については、HPALプロジェクトの廃棄物処理を挙げることができる。本処理方法をめぐっては、海洋投棄が海洋環境へ悪影響を及ぼす懸念があるとして、今後インドネシア国内では認可しない方針であることが同国政府から示されており、事実2020年10月には、Harita GroupとPT QMB New Energy Materialsが、海洋投棄申請を取り下げている。他方、海洋投棄を行わず陸上にて廃棄物を管理するためには廃滓ダムの建設に多額の費用を要する。すでにHPALプロジェクトを稼働しているPT Halmahera Lygendでは、廃棄物のうち一部を建設資材に再利用しているが、年間で約1.5百万tの排出量となるため、その多くは鉱山跡地の施設に積み上げている状態にあるとされている。現時点では、同国において廃滓処理の方針は定まっていないため、各企業は環境とコストの両立を図るための難しい選択を迫られている。

LIB工場としては、2021年9月15日に韓Hyundai Motor Group(現代自動車グループ)とLG Energy Solution(LGES)社が、1.1bUS$規模の初の合弁によるEV用バッテリーセル生産工場をKarawang工業団地で着工したほか、中CATL社(寧徳時代新能源科技)が、PT Antam(PT Aneka Tambang)とインドネシア国内でのリチウムイオン電池工場(LIB)建設に5bUS$を投資し2024年に稼働させる予定としている。

インドネシアでは、EV生産のため上流から下流まで全てのサプライチェーンを完結させるべく、上記のようなLIB工場などの投資については、中韓のEV関連企業を中心に投資が行われているが、これらの海外企業からの投資動向については、EV製造側の立場からみると地産地消を望む面もあると考えられ、同国がASEANや東南アジア地域を中心としたEVハブとしての役割を果たすため、まずはEVがインドネシア国内で普及するかということも考慮する必要があると考えられる。日本企業は、トヨタ自動車、ホンダ、三菱自動車、スズキがインドネシア国内での生産能力の拡大を計画しているが、一部報道によると、東南アジア地域におけるEV普及は先とみて、現在は欧州と中国市場を優先する動きがある。また、日本の自動車メーカーは、HV(ハイブリッド車)やPHV(プラグインハイブリッド車)の分野で高い競争力を持ち、東南アジア地域でも各社量産を行っており、当面はHVやPHVに重きを置いたビジネスを展開していくとみられる。

インドネシア国内におけるニッケル資源の高付加価値化の推進のみならず、同国が世界でEVハブとして存在感を高めるためには、前述したESG関連の課題やまずは国内市場全体の成長が不可欠である。

2021年9月には、ニッケル資源を同国国内のEV関連産業に最大限に活用するため、ニッケル含有率70%未満のニッケル製品の輸出禁止を検討していることも報道されたが、これにはステンレス用途のフェロニッケルやNPIの他にも、HPALプロジェクトから生産されるMHPも含まれており、これらの製品をインドネシア国内でLIBやEV製造につなげることができるかが、同国政府による戦略の成否を左右する鍵であるといえる。

6.カーボンニュートラル関連動向

現在、世界における気候変動対策としては、「脱炭素」、「カーボンニュートラル」、「ネットゼロ」などがキーワードとなっている。二酸化炭素排出による地球温暖化や気候変動は喫緊の課題として世界各国で対応が求められているが、その一環として、各国政府が将来的なガソリン車の販売中止とEV普及を推進する中、ニッケル・コバルト・アルミニウム酸リチウム(NCA)やニッケル・コバルト・マンガン酸リチウム(NCM、三元系)などのLIBの正極材として、ニッケルは欠かせない資源である。また、カーボンニュートラルを達成するため、EV化だけでなくEVを製造、販売する前のニッケル資源を生産、製錬する工程でも、各生産企業で二酸化炭素の排出を削減する動き活発化している。

本章では、主なニッケル生産企業におけるカーボンニュートラルに関する取組みについて紹介したい。表5に、気候変動対策やカーボンニュートラル目標を掲げている主なニッケル生産企業の目標を示す。

表5.主なニッケル生産企業のカーボンニュートラル目標
企業 目標
Norilsk Nickel
  • 生産量が約30~40%増加する中で、Scope1とScope2 GHG排出量を引き続き10百万t CO2e(二酸化炭素換算量)以下に維持する。
    ※ニッケル換算生産量で2017年比。
  • 低炭素エネルギーの利用を拡大する。
  • Norilsk工業団地とMurmansk地域におけるレジリエンス戦略の構築とコニュニティ支援によって、気候変動リスクを管理する。
  • 研究開発を活用して新しいソリューションの開発を支援し、業界を超えた気候に関する対話に参加することで、低炭素社会への移行を促進する。
Vale
  • カーボンフットプリントを2030年までに33%削減(2017年比)。
  • バリューチェーン上の二酸化炭素の排出量を2035年までに15%削減(2018年比)。
  • パリ協定に基づき、2030年までに9.5百万tCO2e(二酸化炭素換算量)まで削減する。
Glencore
  • 短期的には2026年までに15%の二酸化炭素排出削減を目標とし、中期的には2035年までに2019年比で50%の総排出量(スコープ1、2、3)の削減を目標とする。
  • 2035年以降は、支援的な政策環境のもと、2050年までに総排出量を正味ゼロにすることを目指す。
BHP
  • 2022年まで、事業活動における排出量を2017年レベル以下に維持しながら、事業成長を継続させる。
  • 操業時に排出されるGHG排出量を2020年比で2030年までに最低30%削減。

出典:各社HP、アニュアルレポートを基に筆者作成

表5にて示した企業は、いずれも2015年に作られたパリ協定にて掲げられた長期的な目標(世界の平均気温上昇を2.0℃未満もしくは1.5℃未満に収める)を念頭に置いた目標設定がなされている。

Norilsk Nickel社は、2020年時点で電力消費量のうち、再生可能エネルギー由来が46%とされており、「4.ニッケル生産企業動向」で紹介したフィンランドのリサイクル施設についても、リサイクルプロセスにおける再生可能エネルギーの使用が検討されている。

Valeは、2030年までに使用電力の100%を再生可能エネルギーにすることを目標としているほか、最低6bUS$をカーボンニュートラル事業に投資することを公表している。高品質のニッケルを供給し続けることで世界のEV化(脱炭素化)に貢献するとして、PTVI(PT Vale Indonesia)のPomalaaニッケルプロジェクトの投資等により、積極的にニッケル事業を推進するとしている。なお同社によれば、Valeが保有しているニッケル鉱山は、世界のClass1ニッケルのうち、約60%の埋蔵量に匹敵するとされている。また、PTVIでは、Larona、Balambano、Karebbeの3か所に水力発電ダムを所有しており、Sorowakoのニッケル製錬所に電力を供給している。

Glencoreは、2017年から加Ontario州OnapingのCraig鉱山坑内での深部採掘プロジェクト「Onaping Depth project」を開発しており、このプロジェクトの実現によって、2035年以降も高品位ニッケルの重要な供給元を確保することができるとしている。また、カーボンニュートラル対策として、鉱山機械にはバッテリー駆動の電気自動車(EV)が採用され、ディーゼルエンジンからの排気ガスや騒音などを排除する方針であり、すでに2019年に4台のEV車両の導入・運用が図られている。現在、2台のバッテリーフラットデッキが稼働しており、1台はランプメンテナンス用の給水車として活躍している。また、プロジェクト関係者が鉱山内を移動するためのユーティリティービークル2台も稼働中とされている。

また、加Raglanニッケル鉱山においては、2014年及び2018年に風力発電機が設置されており、現在、鉱山における電力の約10%を発電し、毎年4百万L以上のディーゼル燃料を節約し、12千tの二酸化炭素の排出量を削減している。この同鉱山における再生可能エネルギーの活用について、2021年3月には、カナダ政府がさらに2基の風力発電機を設置するため7.1mC$を追加で投資することを公表している。

BHPは、2021年8月に株式会社小松製作所のGHG Allianceの創設メンバーとなり、両社は、運搬トラックの脱炭素化に向け、協力することが決定した。すでに、Nickel West事業では、LEV(Light Electric Vehicle)の使用を開始しており、この件については、2021年1月にトヨタ自動車の子会社Toyota Australia社とパートナーシップ協定を締結している。また、TransAlta社とは、Nickel WestのMt KeithとLeinsterの操業において、2件の太陽光発電所と蓄電池システムを建設する計画を公表した。再生可能エネルギーの使用については、他にもNickel WestのKwinana精錬所で必要な電力のうち、50%をMerredin Solar Farm社から購入する再生可能電力購入契約(PPA)を締結している。

ニッケル事業において、最も二酸化炭素が排出されるのは、Scope1の主に一次抽出過程であることがニッケル協会の報告書で示されている。鉱石からの製錬過程において、いかに二酸化炭素の排出量を削減できるかが、各企業の課題となっているが、上記のように再生可能エネルギーや鉱山重機の電動化等、上流過程において脱炭素化を推進することで、サプライチェーン全体で2050年にはカーボンゼロとなるよう、各社努めている状況である。

7.まとめ

2021年は、2020年の新型コロナウイルスのパンデミックの影響から、徐々に経済活動の回復の兆しが見えてきたことから、ニッケルの需要も堅調に推移した。

供給面について、ニッケル鉱石や中間製品等の主要な生産国であるインドネシアでは、中国企業を中心に投資が活発化し、高付加価値化を背景としたプライマリーニッケルの増産が行われており、2022年以降は供給過剰に転じるものと予測されている。現在インドネシアにて開発・生産が予定されているプロジェクトが予定通り稼働すれば、ニッケルが供給不足に陥る可能性は低いものと考えられる。また、青山集団のNPIからのニッケルマットの製造も、LIB向け需要を補う新たな供給元としての可能性を有している。但し、中長期的な視点でみれば、LIB需要が拡大することで、2020年第後半には世界でニッケルが不足するという懸念もある。Nornickel社の分析によると、ニッケル需要の年平均成長率(CAGR)は、2020~2030年で7%である一方、供給のCAGRは同期間、6%であるとされている。加えて、現在も新型コロナウイルスの影響は継続しているほか、すでに資金不足の問題などから稼働できていないプロジェクトも存在する。2021年はLME在庫の減少傾向も顕著であり、通年で供給不足が予測されているが、2022年にはインドネシアにて計画されているプロジェクトの立ち上がりにより、どの程度の供給量の増加が認められるか、引き続き各社の動向に注視したい。

一方、需要面に目を転じてみると、2021年上半期の世界のEV販売台数は2019年同期比で140%増となり、2021年の同販売台数は560万台に達するものと推計されている中、将来的なEV普及を見込んだLIB向けのニッケル需要は、当面は増加傾向が継続するほか、ニッケル需要全体に占めるポジション高まってゆくものと推測される。このような状況下、インドネシアでは資源の高付加価値化のため、同国政府はEV産業の発展を推進し、海外からの投資を積極的に呼び込む姿勢を示している。現在、CATL社とLGES社の2社が投資を牽引しているが、ニッケル製錬分野と比較すると、特に中国企業からの投資状況はいまだ活発化している状況とはいえず、東南アジア地域のEVハブとなる前に、まずは同地域にてEVがどの程度普及するかのみならず、現在EV市場を牽引している中国や欧州市場の今後の発展と普及見通しといったマクロな視点での需要面のほか、中国や欧米諸国と比較した際のインドネシアのコスト競争力といった供給面での立ち位置によって、同国におけるEV産業の発展は左右されるといえる。また、今後のLIB技術動向の発展によっては、必要とされる使用量原単位も低減が進むといった不確定要素も内在している。

2020~2021年にかけて、世界中が社会の脱炭素化に向けて本格的に舵を切り始めたが、ニッケルのサプライチェーンにおいても、カーボンニュートラルは重要な課題と位置付けられている。本レポートでは具体的には言及しなかったが、今後は上流や下流といった分野を問わず、リサイクルプロセスを含めたより生産的かつ効率的な生産方法を開発することが必要とされている。カーボンニュートラルの実現に必要とされる電動化や再生可能エネルギーの普及においては、これらを構成する金属鉱物資源の開発や生産といったプロセスにおいてもカーボンニュートラルの位置付けが益々高まり、各企業、ひいては各国の経済力や競争力と結びつく大きなテーマになりつつある中、関連産業の動向や各国の政策を含めたより広い視野で今後の動向を注視する必要があるといえる。

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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