報告書&レポート
2022年世界の探鉱動向
―PDAC Special Edition―
2022年4月
本資料は、S&P Global Market Intelligence社が発表した「WORLD EXPLORATION TRENDS」を、同社の許可を得てJOGMECにおいて翻訳したものです。著作権は全てS&P Global Market Intelligence社に属します。
世界の探鉱動向
2020年初頭、世界と鉱業界は新型コロナウイルス(以下、コロナ)のパンデミックに見舞われた。その結果、公衆衛生対策により行動が制限され、個人や企業を支援するため各国政府が莫大な資金を支出し、サプライチェーンは深刻な影響を受け、世界経済は大混乱に陥った。2021年は、このパンデミックによる困難な状況が続いたものの、鉱業界にとっては利益を上げる年となった。大半のコモディティの価格は2020年下半期から上昇を続け、中には史上最高値に達したものもあった。強気な資本市場センチメントが大勢を占め、2021年のジュニア企業と中堅企業による資金調達額は21.55bUS$に上昇し、その額は2020年の調達額12.13bUS$の2倍近くとなった。これにより、探鉱活動も対前年比で増加し、ボーリング件数は68,880件が報告され、2020年の41,026件と比べ70%近く増加した。
その結果、これらの要因はパイプライン活動指数(PAI)に反映され、2021年3月には、2012年3月に記録した最高値152をわずかに下回る149の高水準に達した。PAI平均値は、2020年が98だったのに対し2021年は137であった。資金調達額とサイト活動の増加は2021年の企業の探鉱予算にも反映され、S&P Global Market Intelligence社のCorporate Exploration Strategies(CES)によると、2020年の8.35bUS$から35%増の11.24bUS$となった。
将来に目を向けると、コロナのパンデミックに影響を受けた人たちや景気回復を支援するための政府の支出増は高インフレを招き、これに労働力不足やエネルギー価格の上昇も加わって鉱業界のコストは増加している。コスト増は探鉱よりも採鉱の方が深刻である。しかし短期的にコモディティ価格は上昇を続け、依然としてマージンはパンデミック前の水準を大きく上回るはずである。
パンデミックに関連するさらなる操業停止のリスクが減少し、大半の国の経済は引き続き完全回復へと向かっている。2022年のジュニア企業の資金調達状況は、1月には対前月比で減少したものの、引き続き堅調であると思われ、活動しているジュニア企業の数は過去12か月間で大幅に増加している。その結果2022年のジュニア企業の予算は増加し、一方で資金の豊富なメジャー企業は、新規鉱床の探鉱が可能となり、進行中のプロジェクトを進めるであろう。このため2022年の世界の探鉱予算は対前年比5~15%増加すると予測されるが、2月下旬に始まったロシアによるウクライナ侵攻によりコモディティ市場と世界経済全体に不確実性が生じており、これはしばらく続くと予想される。
2021年までは、世界経済の堅調な回復に対する高い期待が金属市場を支えていた。主要国ではコロナワクチン接種が始まり、公衆衛生に関する制限は緩和された。製造活動が再開し、工業用金属やバッテリー用金属に対する需要が高まったことから、すでに上昇していたコモディティ価格が一層高騰した。金融刺激策や救済策に促されて個人消費も回復した。S&P Global Economicsによると、世界のGDPは、2020年に対前年比3.3%減少したが、その後2021年には対前年比5.7%増加した。しかし2022年に入ると、経済に対する懸念は、パンデミックからロシア・ウクライナ間の緊張の高まりへと移った。2022年2月24日、ロシアはウクライナを侵攻し、世界の金属市場を混乱に陥れた。
出典:S&P Global Market Intelligence(2022年2月3日時点)
インフレ、中国経済の失速、ロシア・ウクライナ紛争により抑えられた世界経済の回復
2021年もパンデミックは引き続き景気回復に影響を与えた。1年を通じてワクチン接種率は着実に上昇したが、感染力の強いデルタ株やオミクロン株という変異種の出現で、年末にかけて新たな制限やロックダウンが施行され、脆弱なサプライチェーンを脅かした。それでも2021年の米国や欧州の購買担当者景気指数(PMI)は拡大領域で依然として堅調に推移したが、一方で中国の各種指数は50%の閾値周辺で停滞しており、景気回復が後退していることを示している。中国では、厳格なゼロコロナ政策によって各地で都市単位のロックダウンが施行されており、多くの部門で産業活動が停止している。2021年は時間が経つにつれて、急速に回復している主要国経済で労働力が不足し、原材料が入手しづらい状況から、世界全体の景気回復をさらに妨げた。
2021年のエネルギー部門は、経済成長を促すと同時に妨げにもなった。多くの国で、グリーン・エネルギーへの移行が進み、再生可能エネルギー・ポートフォリオや電気自動車(EV)市場の拡大に向けた目標が設定された。前者では銀や銅の需要が増加し、後者ではバッテリー用金属であるニッケル、コバルト、リチウムの需要が増加した。一方で、欧州や中国でのエネルギー価格の上昇により、多くの(特に亜鉛の)製/精錬所が操業を停止し、また下半期には中国で脱炭素目標の達成に向けて電力使用量が抑制されたため、鉄鋼生産量が大幅に削減された。中国では、石炭在庫が減少したため輸入量が増加して第4四半期の国内供給量が上昇し、冬季に備えて在庫が補充された。
鉄鉱石価格は2021年5月、最高値の233.10US$/tとなり、この2021年第2四半期には中国での生産量が最大となった。(同月に財新PMIは52.0とその年の最高値になり、国家統計局PMIも第2四半期は平均51.0であった。)その後、鉄鉱石価格は第2四半期中に急落し2021年11月には過去18か月間で最低となった。これは、中国恒大集団の債務不履行を受けて中国の不動産部門が崩壊したことにより、同国の製鋼産業が休止したためである。
同時期に、欧州と中国での電力価格上昇を受けて、多くの亜鉛生産者が自社のエネルギー集約型製錬所の稼働を停止し始めた。これにより亜鉛価格は回復し、ロンドン金属取引所(LME)では2021年10月にその年の最高値である3,815US$/tとなった。その後、価格はわずかに後退したものの、ロシアとウクライナの対立が激化して欧州へのエネルギー供給が脅かされると、歴史的な水準を上回って推移し、2022年3月8日には過去15年間で最高値となる4,136US$/tを記録した。
自動車市場全体とは対照的に、2021年のEV市場は活気にあふれ、世界のPHEV(プラグインハイブリッド)乗用車の売上高は対前年比106.8%に上昇した。バッテリー製造者が生産能力を増強し、ニッケル需要は高まり、それに追随して価格も上昇した。変動はあったものの、2021年全体のLMEニッケル価格は21%上昇した。第4四半期の価格急騰はLMEの在庫減少にも支えられた。2022年にはロシア・ウクライナ戦争がニッケル精鉱とニッケル地金の供給途絶に対する不安を煽ったため、価格は上昇し、3月8日にはLME価格を100,000US$/t以上に押し上げ、取引所での金属取引は中止された。取引再開後、ニッケル価格は3月末に33,350US$/tに後退した。
出典:S&P Global Economics(2022年3月18日時点)
出典:S&P Global; IHS Markit(2022年4月14日時点)
銅はグリーン・エネルギーへの移行に関係する鉱種である。EV、送電網、広範な電化設備での用途の需要の高まりを受けて、銅価格は2021年に22%上昇し、5月には10,000US$/tを突破、10月には11,000US$/tを一時的に上回った。精製銅の生産はエネルギー価格の上昇による影響をさほど受けなかったが、中南米での政治的要因により社会不安が生じ、精鉱の供給に影響を及ぼした。さらに、進行中の銅プロジェクト不足が長期にわたり安定供給を侵害し、現在の高値が続く可能性がある。また銅価格は、中央銀行の金融政策による米ドルの為替変動という2021年の経済的背景にも影響を受けた。
2021年全体にわたり、電子チップの不足によって自動車生産は大きな制約を受けた。半導体と触媒コンバータに使用するパラジウムと白金は、ロシアが主要生産者であるため、供給崩壊のリスクがあり、解消のめどは立っていない。パラジウムは2021年で最も生産量が落ち込んだ金属であったが、2022年2月以降価格は急騰し、供給制限への不安から3月8日には過去最高値の3,180.29US$/ozに達した。
金価格は2021年に1,950US$/oz弱となり、依然として2020年から「安全な避難先」という機運に乗っている。しかし個人消費の高まり、前例のないレベルの金融刺激策、賃金上昇により、2021年はインフレに対する格好の材料が生まれた。下半期には、主要な中央銀行がインフレ率の上昇に直面してタカ派的な姿勢を一層強め、刺激策縮小と金利引き上げの計画を示唆した。このマクロ経済的な背景に加えて、コロナの変異種が出現して市場ボラティリティを誘発したことから、金価格はパンデミックの進展から大きな影響を受けた。金価格は、11月に大幅に下落した後、米連邦準備銀行が2022年の金利引き上げを発表したことを受け、2022年にかけて上昇した。ロシア・ウクライナ戦争に誘発されて市場ボラティリティが再発する中、金価格は3月10日に2,000US$/ozを突破した。
出典:S&P Global; IHS Markit(2022年4月14日時点)
需要の回復、都市封鎖の解除で探鉱予算は上昇
世界の探鉱予算は、予想よりも早い世界経済の回復、堅調な金属価格、パンデミックによるロックダウンの緩和に後押しされて、2021年大幅に回復した。2020年の世界の探鉱予算は、年前半に大半の金属価格が低迷し、パンデミックにより生じた不確実性が原因で資金調達活動が鈍化したことにより、対前年比10%減少した。その後の市場活動の活発化により、金属価格は急速に回復したが、2020年の探鉱予算編成には間に合わなかった。しかし探鉱活動は2020年9月四半期に再開し、企業はその年に予算額を上回る額を支出することが可能となったが、実際は2019年の予算額を下回っていた。
コモディティ市場は2020年下半期に上げ相場となり、これは2021年も続いた。多くの金属価格は、供給不足や、コバルトなど一部のコモディティを世界市場に送る際のサプライチェーンの問題が後押しして、史上最高値またはそれに近い価格となった。市場は、過去約10年間で最高額となる資金調達活動に反応した。強気のマージンと探鉱資本へのアクセスのしやすさから、2021年の世界の非鉄金属の探鉱予算は35%増の11.24bUS$に上昇した。これは過去8年間の最高額である。操業した探鉱業社数は対前年比10%増の1,948社であり、4年連続で増加したが、2011年と2012年に探鉱活動を行っていた企業は2,500社弱であった。予算額の拡大により、探鉱予算の平均値と中央値はそれぞれ5.8mUS$と1.4mUS$に増加した。
出典:S&P Global Market Intelligence(2022年2月3日時点)
出典:S&P Global Market Intelligence(2022年1月7日時点)
出典:S&P Global Market Intelligence(2022年2月3日時点)
Industry Monitor月次レポートのとおり、ジュニア・中堅企業による大規模な資金調達額(2mUS$以上の資金調達)は2021年には89%増の20.53bUS$に、あるいは2mUS$未満のものを含めると21.55bUS$に跳ね上がった。小規模な資金調達を含む調達総額に占める金の割合は2020年の51%から36%に急落し、ベースメタルや他の金属の占める割合とほぼ同等となった。銅の資金調達額が対前年比でほぼ4倍増となったためである。レアメタルの占める割合は、主にリチウムやレアアースに対して新たな関心が生まれたことから2020年の18%から28%へとさらに増加し、リチウム価格は最高値となり、主要国はレアアースの供給確保に努めた。しかし、これらのコモディティに対して調達された資金の過半は探鉱ではなく開発に向けられている。Toronto証券取引所(TSX)では、2021年に対前年比49%増の総額8.61bUS$が調達され、これはすべての取引の中で最も多い金額である。一方、豪州証券取引所(ASX)では対前年比75%増の7.76bUS$が調達された。2020年のASXでの調達額はTSXの額を23%下回っていたが、2021年はわずか10%下回る額であった。
金の予算がパンデミック後の探鉱の回復をけん引
CESが網羅する大半のコモディティの予算は、2020年にパンデミックで落ち込んだが、その後2021年に大幅に増加した。2020年初めにパンデミックが発生すると、大半の工業用コモディティ価格は急落した。最終的に価格の下落は非常に短期間で終わったが、それにより企業はその年の自社の探鉱計画を再評価せざるを得ず、その結果、金と銀を除くすべてのCESコモディティの予算は減少した。金価格の回復によって、探鉱予算は2021年に対前年比42%増にあたる1.84bUS$増となった。
金価格は2020年を通して急速に上昇し、同年8月にLBMA(London Bullion Market Association)の金塊価格は史上最高値の2,050US$/ozに達した。それ以降は下落したものの、2021年の平均価格は1,800US$/ozであり、2019年の平均価格1,400US$/ozを30%近く上回った。金探鉱予算はすべての地域で増加したが、その中でもカナダ、米国、豪州が最も増加し、それぞれ85%、48%、47%の伸び率となった。依然としてコロナは全世界の脅威であったが、これら3地域はアジアと中南米の大半の国と比べると、比較的オープンな経済を維持し、またワクチン接種を迅速に進めたことも功を奏した。
銅の探鉱予算は対前年比31%増加したが、世界の平均増加率35%を下回った。銅価格は、2020年3月に市場が急激に衰退して底をついた後、着実に上昇した。2021年10月には、一時的に2011年の過去最高価格を上回る史上最高の11,300US$/tに達した。この価格上昇は、銅生産パイプラインへの過去10年間にわたる投資不足に起因する供給不安に刺激され、エネルギー移行や長引くパンデミックによる需要の高まりという一般的な傾向によって増幅されたものだった。
価格が上昇したにもかかわらず銅の予算が平均を下回る伸び率だったのは、大半の銅探鉱が実施されている中南米でのパンデミックによる採鉱の制限に起因する。中南米の銅予算は、過去5年間で全世界の40%以上を占める。2021年に中南米の銅予算はわずか21%の増加だったが、カナダ、豪州、米国の平均増加率は84%であった。
2020年のニッケル価格は主要ベースメタルの中で最も影響を受けず、5%しか下落しなかった。2021年にニッケル予算は世界平均を下回る27%増加した。2021年のニッケル予算の3分の1以上が豪州での探鉱に帰属し、そのほとんどが豪州企業によるものだった。豪州企業の事業年度の大半は6月に終了しており、その後の2021年下半期にニッケル価格が高騰した。輸送網の電化に使用するバッテリー需要の増加が予想されることや中国のステンレス鋼生産が堅調なことから、ニッケル価格の見通しは依然として明るい。
2022年3月、LMEのニッケル3か月先物価格は記録的な高さとなり、第1四半期終了時には32,000US$/tを超える水準まで戻った。この価格急騰は、すでに供給が逼迫していたことに加え、ロシアのウクライナ侵攻による供給の混乱が原因である。ロシアは世界第4位のニッケル生産国であり、米国や他のNATO加盟国による大規模な経済・貿易制裁を受けている。金属輸出に対する制裁はまだ課されていないが、依然としてそのリスクは大きい。
出典:S&P Global Market Intelligence(2022年2月3日時点)
2021年のリチウムとコバルトの予算はそれぞれ25%と27%増加したが、この2つのバッテリー用金属の価格は対前年比2倍以上に上昇したにもかかわらず、パンデミック前の水準にとどまった。2021年末までに、炭酸リチウムのCIFアジア価格は対前年比164%増の21,000US$/tに高騰した。この大半は2021年9~12月に増加したものであり、これにより予算額の増加が平均を下回ったことの説明がつく。主要なバッテリー構成要素としてのリチウムに対する需要は急増しているが、パンデミックに関連する混乱により供給の増加が遅れることから、短中期的に需給逼迫が続くと予想される。政府と企業の脱炭素目標により、プロジェクト・パイプラインとともに、バッテリー用金属の需要は当面続くであろう。
コバルト価格は依然として上昇しているが、2018年の最高値を下回っている。LMEのコバルト3か月先物価格は、需給逼迫と南アの物流上の問題により2021年に対前年比119%増加して70,500US$/tとなった。南アの港湾問題が解決することにより2022年には価格後退が予想されるが、それでも2020年の水準を上回るであろう。従来ジュニア企業の独占コモディティであったリチウムとコバルトに関心を示すメジャー企業が増加しており、これらの探鉱へのシフトが見られる。コバルト探鉱に占めるメジャー企業の割合は2018年の8%、2020年の18%から2021年には34%に増加した。リチウムについてメジャー企業が占める割合は2017~2020年の平均9%から2021年には24%に増加した。
グラスルーツ探鉱は回復し、依然としてマインサイト探鉱に注力
2021年のグラスルーツ探鉱予算は対前年比45%増の2.91bUS$となった。これは2011年以降最高の増加率である。探鉱業者と生産者は過去10年間にプロジェクト開発の新規ステージに予算を増やし、コモディティ価格の低下により資本市場が逼迫したため全体的にリスク回避の雰囲気が生じた。2020年下半期におけるロックダウン後の初期段階の大規模プログラム再燃により2021年のグラスルーツ予算は上昇した。ジュニア企業は、金属価格の上昇により資本市場が強気に転じたのを受けて、グラスルーツ予算を対前年比85%増加させた。
グラスルーツ予算は大半のコモディティ・タイプで急増し、金、銀、白金族はそれぞれ52%、129%、355%増加したが、白金族の探鉱は比較的低ドル水準にとどまった。ベースメタルの銅とニッケルはそれぞれ31%、84%増加した。豪州とカナダ全体では、グラスルーツ予算の増加分の約3分の2を占めており、両国の合計予算は2020年比で556mUS$増加した。
非常に喜ばしい話ではあるが、2021年にグラスルーツ探鉱が平均を上回って増加したことが新しい傾向なのかどうかや、企業が引き続きレイトステージのニアマインのアセットにさらに注力するのかどうかに言及するのは時期尚早である。世界の探鉱予算に占めるグラスルーツの割合は、2007年の41%から徐々に減少した後、2020年には24%まで落ち込み、そこから26%へと微増した。グラスルーツの増加は、マインサイト探鉱という代償を払って存在するものであり、依然として3年連続して最大の増加率を誇るものの、わずか25%しか成長していない。これは世界の平均増加率の35%を大きく下回る。それでもニアマイン予算は、過去9年間で最高の4.32bUS$、世界予算の38%に達し、2020年に記録した史上最高の41%にわずかに及ばなかった。メジャー生産者は、ニアマイン増加分の3分の2以上を占めた。
出典:S&P Global Market Intelligence(2022年2月3日時点)
出典:S&P Global Market Intelligence(2022年2月28日時点)
出典:S&P Global Market Intelligence(2022年2月28日時点)
グラスルーツの回復は、2020年の55件から65件と18%増加した新規鉱床報告数に反映されている。報告された金と銅の量も増加しており、合計量は銅で1.5倍の14百万t、金は2倍以上の86百万ozとなった。報告数は増加したが、グラスルーツ探鉱が世界予算の約3分の1を占めた2012年の報告数175件には遠く及ばない。2017~2021年の新規鉱床報告数は年平均67件であり、2012~2016年の平均78件を下回っている。さらに金と銅の大規模鉱床発見率も引き続き低下傾向にあり、大量発見された1990年代後半や2000年代前半と比較して、過去10年間で大幅に低下した。
ここ数年、政府と業界の専門家の間では、将来の供給パイプラインを守るため、グリーンフィールド探鉱への投資が必要だとの認識が高まっている。金属価格は2012年をピークに低下傾向にあり、2016年に底をついた。価格低下は金属資本市場を枯渇させ、企業は、より安全だが利益の少ないニアマイン操業に注力を強いられた。その結果、新規鉱床の発見が減少したため、銅やニッケルなどのバッテリー用金属の需要が急激に増加すれば、供給パイプラインに対する重大な脅威が高まった。
潮がさせばすべての船が浮かぶはずだったが、一部の地域にだけ有利に働いた
世界はパンデミックによる制限や混乱から次第に抜け出しており、先進国や先進地域の回復が最も進んでいる。探鉱業者と生産者は、何とか経済の開放に努め、国民に迅速なワクチン接種を進めているカナダ、豪州、米国、中国、その他の地域で多くの探鉱活動に注力している。この調査では、カナダ、豪州、米国は、国であるだけではなく、鉱業界におけるその規模と重要性がゆえに、我々の調査では地域としても分類されている。世界の探鉱予算の半分近くはこれらの地域をターゲットとしている。
カナダの探鉱予算は対前年比62%、799mUS$増加し、過去9年間で最高の2.09bUS$となった。これは、金額でも増加率でも地域として最大の増加である。豪州と米国の予算増加率も、世界の平均増加率を上回り、それぞれ39%、37%だった。地域別探鉱ハブのトップである中南米は29%、591mUS$増加して2.66bUS$となったが、主にパンデミックによるロックダウンと制限の影響が長引いたことから、世界平均を下回った。アフリカと太平洋・東南アジア地域の探鉱予算はいずれも2021年に12%の増加にとどまった。
カナダ全体はその予算増加により、トップ地域の中南米に次ぐ第2の探鉱最恵地域となった。予算増加の大半は、主に金探鉱に資金を調達するため好況な資本市場を最大限に利用したジュニア企業によるものである。ジュニア企業のカナダの探鉱予算は対前年比約2倍の1.23bUS$となり、この地域の合計探鉱予算に占める割合は2020年の50%から59%に上昇し、3年連続の低下に終止符を打った。メジャー企業のカナダの探鉱予算は41%増加して755mUS$となったが、全体に占める割合は2020年の41%から36%に低下した。ジュニア企業は主にカナダの金探鉱に注力し、金探鉱予算は対前年比2倍以上となる901mUS$となった。これはジュニア企業のカナダの探鉱予算全体の約3四半期分に相当する。
出典:S&P Global Market Intelligence(2022年2月3日時点)
加BC州の探鉱予算額は、州として最も高い対前年比増加率を示し、124%増の493mUS$となり、3位の州であった。加QC州の探鉱予算額は567mUS$となり、常に1位であった加ON州の551mUS$を抜いてトップの座についた。カナダ全体の探鉱予算額の増加は、英・豪Rio Tintoによるダイヤモンド関連予算の削減により29%減少して135mUS$となった加SK州、およびわずかに減少して41mUS$となった加NW準州の減少分を補うに足りた。
豪州の探鉱予算は、対前年比39%、531mUS$増加して合計1.90bUS$となり3位の地域の座を守った。この地域の世界予算に占める割合は微増の17%となり、2014年の12%から上昇傾向が続いている。ジュニア企業の豪州探鉱予算は3分の2増加の854mUS$となり、34%増加して787mUS$となったメジャー企業からトップの座を奪取した。豪州の探鉱予算の約65%は金に対するもので、その予算額は47%増の1.23bUS$であった。銅探鉱予算も回復し64%増加して297mUS$となり、2020年の対前年比3分の1の減少分を相殺した。
豪WA州の予算は50%増加して合計1.35bUS$となり、同州の全体に占める割合は2020年の65%から71%に上昇した。注目となるのは、豪NT準州の予算が35%減の78mUS$、豪TAS州の予算が27%減の7mUS$になったことである。
米国の予算は37%増の1.28bUS$となり、20年以上6位の地域であったがアフリカを抜いて5位となった。米国の予算は、金、リチウム、銀の予算が増加して銅予算の減少を相殺したため、パンデミック中であっても2020年に回復してわずか1%の微減だった。金と銅の予算はいずれも2021年に大幅に増加し、金は48%増の699mUS$、銅は41%増の357mUS$となった。米国では依然としてメジャー企業が最も多くの予算を使用しており、その割合は54%であるが、ジュニア企業の予算の割合は2020年の37%から42%に上昇しており、メジャー企業の予算が3分の1増えたのに対してジュニア企業は2分の1以上増えている。米NV州の予算は40%増の505mUS$となり、米国全体の3分の1以上を占めた。米AZ州は2020年比44%増の286mUS$であり、1位と大差ではあるが2位となった。
中南米は、増加率が平均を下回る29%であったものの、世界の予算に占める割合は24%の2.66bUS$であり依然としてトップの座を守った。メジャー企業の予算は1.49bUS$、この地域の予算に占める割合は56%で、ピークだった2017年の71%よりも減少している。中南米のジュニア企業の予算は対前年比43%増加し、この地域の合計に占める割合は2017年の15%から29%に上昇した。金と銅が主要なターゲットであり、金は25%増加して、この地域の合計に占める割合は40%、銅は21%増加して、割合は34%だった。
出典:S&P Global Market Intelligence(2022年2月3日時点)
メキシコは2014年にトップの座から陥落していたが、中南米のトップ探鉱地域に返り咲いた。同国の予算は対前年比38%増の619mUS$となり、2020年にトップだったチリが548mUS$でこれに続いた。その他の上位国はペルー、ブラジル、アルゼンチン、エクアドル、コロンビアであり、これら7か国の予算は合計2.45bUS$で、この地域合計の92%を占めた。
「その他世界」(欧州とアジア大陸部の大半)の予算は34%増の1.86bUS$となり、2020年の2位から4位に後退した。金と銅が再び最大の予算を得たが、これら2つの金属の増加率は世界平均を下回る31%と20%だった。ニッケルとリチウムが大幅に増加し、その予算はいずれも2020年よりも約50%増加した。
ロシアの予算は24%増の535mUS$で「その他世界」でトップの座を守り、2位の中国は59%増の495mUS$でその差を縮めた。中国では、金、銅、ニッケル、モリブデンの予算が増加分の大半に寄与した。ロシアでは銅の探鉱予算のみが大幅に増加したが、金とダイヤモンドの増加が平均以下だったことでその効果は弱まった。
ロシアと中国の合計予算は1bUS$を突破し、2014年以降で最高額である。この地域のその他の国の中では、サウジアラビアの予算は2019年と2020年には地域10位であったが、2021年は155%増の85mUS$となり4位に上昇した。同国では、国営企業Ma’adenが、石油から脱却して経済を多角化するためにより多くの鉱山に投資し、ここ数年探鉱予算の消費を加速している。
アフリカと太平洋・東南アジア地域の予算は停滞しており、いずれの地域も2020年比12%しか増加しなかった。アフリカで最も増加したのは金探鉱だったが、その増加率はわずか18%だった。同地域で銅、ダイヤモンド、亜鉛・鉛、リチウムの予算は減少した。DRコンゴの予算は7%減の130mUS$であったが、依然としてトップであった。コートジボワールは2020年に2位だったが、2021年は18%減の88mUS$となり5位に後退した。DRコンゴとコートジボワールの減少分は、それぞれ126mUS$と129mUS$増加したブルキナファソとマリの予算増加により相殺された。この隣接する西アフリカの両国では金探鉱が30%近く増加した。
太平洋諸島諸国と東南アジア諸国を含む太平洋・東南アジア地域では、金探鉱が17%増で最も増加した。ベースメタルでは、銅とニッケルがそれぞれ6%と28%増加した。インドネシアの予算は13%増加して129mUS$となって2019年のレベルにほぼ戻り、依然としてこの地域のトップであった。PNGは6%減で58mUS$となったが2位の座を守り、3位はフィリピンで、その予算は11%増加して32mUS$となった。
出典:S&P Global Market Intelligence(2022年1月14日時点)
出典:S&P Global Market Intelligence(2022年1月14日時点)
ボーリング件数は、2020年下半期と2021年を通して業界による探鉱予算が堅調に増加したことにより2021年は増加した。2020年初めにパンデミックにより鉱山操業が失速して不確実性が生じたが、その後ボーリングは同年9月四半期に次第に回復し、その年のボーリング孔数は1,098件のプロジェクトで合計41,026孔という堅調な結果になった。2021年には、件数、孔数とも大幅に伸び、1,611件のプロジェクトで68,982孔のボーリングが報告され、それぞれ対前年比47%と68%増加した。これは2014年初めに世界のボーリング件数を追跡し始めて以来の最高件数であり、それまでの最高であった2018年の49,061孔を大幅に超えるものだった。
歴史的な傾向が続く中、2021年に最も報告件数が多かったのは金であり、その件数は2020年の757件から38%増の1,046件となった。ただし、報告されたすべてのプロジェクトに占める金の割合は対前年比で17%減少した。2021年にはすべてのコモディティのボーリング件数が大幅に増加した。金のボーリング孔数は55%増加し49,858孔となったが、これはすべてのコモディティの中で最低の増加率だった。他のすべてのコモディティのボーリング件数増加率はこれよりも高く、鉛・亜鉛は63%増の2,466孔、マイナー・ベースメタルは75%増の599孔、スペシャリティ・メタルは93%増の3,630孔、銅は118%増の4,710孔、銀は137%増の4,250孔、ニッケルは166%増の2,231孔、白金族は296%増の1,238孔にそれぞれ増加した。
金のボーリング孔数合計に占める割合は2020年の78%から72%に減少したが、依然として2014年の63%を大きく上回った。2021年には他のコモディティに対する金のボーリング孔数の割合が次第に減少し、これによりボーリング・ターゲットが多様化しているのがわかる。これは、この年の他のコモディティについての資金調達額の増加と合致しており、工業用金属の銅、ニッケル、コバルト、リチウムの価格上昇、ならびに多くの国によるレアアースの独自供給力開発への関心の高まりに刺激されたものだった。
ボーリング実績(推定カットオフ品位を満たすもの)は対前年比41%増加した。金が33%増と主導する一方、他のコモディティは合計で22%増加し、中でも銀の88%増、銅の53%増が注目される。ボーリング実績の増加はすべてのステージで見られ、グラスルーツ・ボーリングは48%、マインサイトは40%、レイトステージは35%増加した。
コロナの脅威がなかなか消えない中、ボーリング・プロジェクトは大半の地域、特にパンデミックによる採掘の混乱を最小限にとどめることができた地域で増加した。
上位4か国の順位は変わらず、プロジェクト件数は大幅に増加した。1位の豪州は36%増の479件、2位のカナダは52%増の443件、3位の米国は57%増の176件、4位のメキシコは50%増の81件だった。ボーリング孔数は豪州が引き続き首位を占めて対前年比65%増の27,143孔で、12,078孔で同84%増加した2位のカナダの2倍以上となった。
ジュニア企業・中堅企業の資金調達額は2021年に大幅に増加し、対前年比78%増の21.5bUS$となった。このうち4.1bUS$は主に探鉱予算だった。この点を念頭に置き、2022年は、3月四半期が2021年12月四半期をわずかではあるが上回ったことから、探鉱ボーリングの上昇傾向が続くと楽観的に見ている。
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