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報告書&レポート

2023年4月28日 シドニー 事務所 片山弘行
23_02_vol.53

豪州リチウム鉱業の現状

<シドニー事務所 片山弘行 報告>

はじめに

近年の脱炭素社会実現に向けた世界的な潮流は豪州鉱業にも大きな影響を与えており、その中で最も恩恵を受けている鉱種がリチウムである。2010年頃のリチウムブーム以降豪州は着実にその生産量を伸ばしており、現在は世界のリチウム生産量の約半分を占めるまでになっている。しかし、生産された精鉱はほぼ全量が中国に輸出、加工されており、世界的なバッテリーサプライチェーン上のリスクとして認識されている。本稿では、これからの脱炭素社会を支えるバッテリーの重要な一要素であるリチウムに着目して、豪州のリチウム鉱業の現状についてまとめる。

1.リチウム生産

豪州での本格的なリチウム生産は、ペグマタイト脈から錫-タンタルを採掘していたWA州Greenbushes鉱山において、1983年にスポジュメン精鉱が生産されたのが最初とされる。以降、長らく豪州のリチウム生産はGreenbushes鉱山のみで行われており、生産量は年間100千t前後を推移していた。しかし、2010年前後からの電気自動車(EV)ブームに乗じて、2017年初頭にはWA州のMt Cattlin鉱山及びMt Marion鉱山からのスポジュメン精鉱の初出荷、Wodgina鉱山からの直接船積鉱石(Direct Shipping Ore; DSO)の出荷などで急伸し、直近では年間2百万t規模でスポジュメン精鉱を生産している。生産高においては、特に2021/2022年度はEV普及に伴う電池需要から価格が高騰し、前年度比545%増の約6.8bA$と大幅に増加している(図1)。

図1.西豪州におけるスポジュメン精鉱生産量及び生産高推移(豪州会計年度)

図1.西豪州におけるスポジュメン精鉱生産量及び生産高推移(豪州会計年度)

出典:Statistics Digest; Department of Mines, Industry Regulation and Safety; Government of Western Australia

豪州は、世界的にも90年代からチリに次いで2番目に生産の多い国であったが、2017年からはチリを抜いて世界生産の半分を占めるほどにまでリチウム鉱業が発展した。チリやアルゼンチンではかん水からのリチウム回収が主体であるが、豪州では鉱石としてスポジュメン(リシア輝石、Li2O・Al2O3・4SiO2)を採掘する一般的な硬岩採掘鉱業であり、採掘・処理において確立された技術を用いるため比較的早期に操業立ち上げが可能であったことが豪州リチウム鉱業の急激な生産増加につながっている。最近はNT準州でも操業を開始する鉱山が出てきているが、ほとんどの鉱山はWA州に位置しており、WA州が世界的な一大リチウム生産地となっている(図2)。

図2.世界のリチウム生産量(純分)及び世界生産量に占める豪州の割合の推移(暦年)

図2.世界のリチウム生産量(純分)及び世界生産量に占める豪州の割合の推移(暦年)

出典:Mineral Commodity Summaries; US Geological Survey

2.リチウム輸出

表1に2021/2022年度におけるスポジュメン精鉱の輸出相手国別輸出量及び輸出金額を示す。なお、2021年1月から豪州統計局はHSコード準拠のAHECCコードにおいて新たにリチウム精鉱(スポジュメン精鉱)に対して「25309011」を割り当てており、リチウム精鉱輸出の詳細が明らかになっている。統計によると2021/2022年度の豪州のスポジュメン精鉱輸出量の96.1%が中国向けであり、ベルギー向けが2.23%、次いで韓国向けが0.84%、米国向けが0.68%となっている。基本的には輸出金額も同様であり、中国向け輸出額が96.44%を占める(図3)。中国への平均FOB(Free On Board)価格は、2021/2022年度平均で2,115A$/t―精鉱と計算される。酸化リチウムもしくは水酸化リチウム(AHECCコード:28252000)、炭酸リチウム(AHECCコード:28369100)は、ごく少量がスポット的に輸出されているに過ぎない。スポジュメン精鉱の形でほぼ全量が中国に輸出されていることはサプライチェーン上のリスクとみなされており、豪州政府としてもこのリスクの低減や、国内雇用の確保などの点から国内での下流の加工工程を誘致すべく支援を打ち出している。

表1.2021/2022年度スポジュメン精鉱輸出相手国
中国 ベルギー 韓国 米国 スペイン 日本 台湾 メキシコ タイ インドネシア
輸出量(t) 2,234,090 51,824 19,418 15,840 1,198 829.1 547.2 529.5 304.9 142.5
金額
(kA$)
4,725,090 84,628 46,227 36,852 1,660 1,267 1,187 879.9 590.8 247.5
PNG 英国 インド エクアドル ニュージーランド 南ア カナダ カンボジア ガーナ
輸出量(t) 42.44 24.00 20.36 15.62 15.04 0.850 0.468 0.307 0.195
金額
(kA$)
74.22 247.0 29.04 236.5 41.66 14.95 3.124 17.40 15.48
図3.豪州からのスポジュメン精鉱輸出量割合(2021/2022年度)

図3.豪州からのスポジュメン精鉱輸出量割合(2021/2022年度)

出典 :Overseas exports by commodity (8-digit AHECC) and country of destination, Queensland and other states and territories,
2011–12 to 2021–22; Queensland Government

3.豪州政府によるリチウム産業支援

現時点では、リチウムのみを対象とした連邦/州政府の特別な支援策は提供されていないが、今後の脱炭素社会で重要となるバッテリーに不可欠となる鉱物及びその処理の観点から、特に国内でのサプライチェーン構築に重点を置く支援策が展開されている。

3.1.Modern Manufacturing Initiative

連邦政府は国内製造業の発展に係る戦略「Modern Manufacturing Strategy」を元に合計1.3bA$の支援プログラム「Modern Manufacturing Initiative」を設置し、特に重要鉱物のサプライチェーン構築に資するプロジェクトに対して、助成金交付による支援策を実施している。リチウムに関して、水酸化リチウムプラント等下流工程の開発検討について米Albemarle社と豪Core Lithium社のプロジェクト2件に助成金が交付されている(表2)。

本助成金プログラムについては2022年5月の連邦政府の労働党政権への交代を機に見直しがなされており、その後の再開の見通しは明らかでない。

表2.Modern Manufacturing Initiativeに採択されたリチウム関係プロジェクト
採択企業 助成金額 総投資額 プロジェクト概要
Albemarle社 4,901,488$ 10,632,654$ Lithium Aluminosilicate (LAS) Aggregate Plant for Battery Minerals Residue WA州
Core Lithium社 6,000,000 12,897,314$ Middle Arm Lithium Manufacturing Project (MALM) NT州

3.2.Critical Minerals Accelerator Initiative

改定版重要鉱物戦略に基づき、2022年3月、連邦政府は5年間にわたって計200mA$を拠出する助成金プログラム「Critical Minerals Accelerator Initiative」を設けることとした。労働党への政権交代により助成金交付が危ぶまれていたが、労働党政権は2022年9月に6つのプロジェクトに合計で約50mA$の支援を行うことを発表した。本支援では、リチウムプロジェクトへの直接的な支援はないが、Greenbushes鉱山の選鉱設備の付帯設備として豪Global Advanced Metals社による錫・タンタル回収プラントに4mA$の助成金が交付されることとなっている。ただし同プログラムが、前自由党政権が発表した通り5年間継続するかどうかは不透明である。

3.3.Critical Minerals Development Program

政権交代後の労働党政権が2022年12月に発表した支援プログラムで、「Critical Minerals Strategy」に掲げられた重要鉱物の生産を意図するプロジェクトに対して、プロジェクト資金の最大50%を1~30mA$の範囲で助成するものである。3年間で計48.9mA$を予定しており、2023年2月に公募が締め切られた。

4.リチウムに係るロイヤルティ

4.1.WA州

中間製品に係るロイヤルティについてその扱いを明確化した。以前は、あらゆる種類のリチウム鉱物の販売価格に対して5%のロイヤルティが課されていた。そのため州内でスポジュメン精鉱を生産する事業者がそのスポジュメン精鉱を原料に州内で水酸化リチウムを製造して販売する場合、ロイヤルティとして水酸化リチウムの販売価格の5%が課されることとなり高額となっていた。変更後は、水酸化リチウムのフィードとなるスポジュメン精鉱に対して5%のロイヤルティが課されることとなった。これによりWA州内で高付加価値の水酸化リチウムを製造することに対するインセンティブが働くこととなった。

2021/2022年度のWA州のリチウムロイヤルティは総額150.43mA$となっており、リチウム価格高騰の影響により前年度比247%増と大幅に増加している(図4)。

図4.WA州のリチウムロイヤルティ収入推移

図4.WA州のリチウムロイヤルティ収入推移

出典:2021-22 Economic indicators resources data; Department of Mines, Industry Regulation and Safety; Government of WA

4.2.NT準州

リチウムをはじめ鉱産物に対するロイヤルティは、利益に対する20%もしくは売り上げに対する1~2.5%のうち、大きい方の金額が課される。すなわち利益が生じない場合や少額の場合には売り上げに対して1~2.5%、利益が大きい場合は利益に対して20%が課されるハイブリッド型となっている。

5.豪州のリチウム鉱山/プロジェクト

豪州のリチウム鉱山/プロジェクトの多くは、WA州南西部のYilgarnクラトンまたは北部のPilbaraクラトン中のLCT(Lithium-Cesium-Tantalum)型と称される花崗岩質ペグマタイト脈中のスポジュメンを対象としている。リチウム資源として回収可能となるのはおよそ品位:Li2O 1%以上のものであり、一般的にはタンタル、錫、セシウム、ルビジウムなどとともに産し、場合によりこれらの鉱種も副産物として回収される。

現在、豪州では塩湖由来のリチウムは生産されておらず、また探査プロジェクトも確認されないが、豪州連邦政府機関Geoscience Australiaは2013年に豪州国内の塩湖の評価を実施している。本調査では、米州の塩湖に比して豪州塩湖におけるリチウムの有望性は低いとしながらも、WA州Yilgarnクラトン北東部及びSA州Gawlerクラトンの塩湖にリチウムのポテンシャルが期待されることに言及している (1) 。

5.1.Greenbushes鉱山

WA州の南西部でPerthの約240km南に位置し、1800年代の末から錫鉱山として採掘されていた鉱山である。1983年からスポジュメン精鉱としてリチウムを採掘している、硬岩型リチウム鉱床としては世界最大である。現在は中Tianqi Lithium社(天斉リチウム)51%、豪IGO社49%で構成されるJV会社であるTianqi Lithium Energy Australia(TLEA)社が同鉱山の権益の51%を、米Albemarle社が49%を所有している(図5)。

図5.Greenbushes鉱山権益構造

図5.Greenbushes鉱山権益構造

出典:IGO社Paydirt Battery Minerals Conferenceプレゼンテーション資料より筆者作成

一般的な露天採掘で鉱石を採掘、比重選鉱、浮選、磁選などで選鉱の後、スポジュメン精鉱として主に中国に出荷している。ガラスあるいはセラミックス用途向けであるテクニカルグレードのスポジュメン精鉱を生産するプラントの処理能力は150千tpa、バッテリー用途向けであるケミカルグレードのプラントは第1トレインで年600千t、第2トレインで年520千tとなっている。2025年には年520千tの能力を有する第3トレインの操業開始を予定しており、さらに2027年操業開始を目途として年520千tの能力の第4トレインについても検討している。

生産されたスポジュメン精鉱の50%はAlbemarle社が同社の中国・四川省眉山、江西省新余のプラントでバッテリーグレードの水酸化リチウムに転換し、残り50%はTLEA社引き取り分となっている。TLEA社引き取り分のうち半分は中Tianqi社が中国のプラントにて水酸化リチウムに、半分はKwinanaのTLEA社の水酸化リチウムプラントにて加工することとなっている。

2021年8月末時点での鉱石埋蔵量(推定+確定)は179.6Mt(品位:Li2O 2%)、鉱物資源量(精測+概則+予測)は360.2百万t(品位:Li2O 1.5%)(表3)、直近四半期である2022年10~12月期の報告では精鉱1t当たりのロイヤルティを除く売上原価は263A$と十分な競争力を有しており、2022年の生産量は精鉱量で1,349千tである(表4)。

表3.Greenbushes鉱山埋蔵量(Reserves)及び資源量(Resources)
種類 量(百万t) Li2O(%)
鉱石埋蔵量 確定 0.5 3.2
推定 179.1 2.0
合計 179.6 2.0
鉱物資源量(カットオフ品位:Li2O 0.5~0.7%) 精測 0.5 3.2
概則 249.4 1.8
予測 110.3 1.0
合計 360.2 1.5

出典:Annual Report 2022; IGO社

表4.Greenbushes鉱山四半期精鉱生産量及び生産コスト
2021年 2022年
7-9月 10-12月 1-3月 4-6月 7-9月 10-12月
平均鉱石品位:Li2O(%) 2.45 2.42 2.22 2.53 2.48 2.69
精鉱生産量(千dmt) 268 259 270 338 361 379
売上原価勘定(A$/t) 219 242 235 254 253 263
売上原価勘定 + ロイヤルティ(A$/t) 310 388 476 618 660 757
FOB売り上げ収益(mA$) 240.3 222.4 546.2 868.2 1,839.8 2,321.7

(IGO社が権益取得した2021年6月30日以降、詳細なデータが開示)
出典: Quarterly Activities Report; IGO社

5.2.Mt Marion鉱山

WA州Kalgoorieの南西約40km、Goldfield地区に位置し、近傍には多数のリチウムプロジェクトが位置する。豪Mineral Resources社が50%、中Jiangxi Ganfeng Lithium社(Ganfeng社)が50%の権益を保有する鉱山で、2017年3月に操業を開始した。豪Mineral Resources社は同鉱山から生産されるスポジュメン精鉱の51%のオフテイクを有しているが、同社はパートナー企業であるGanfeng社と委託製錬契約を締結しており、Ganfeng社の中国に所在するプラントで水酸化リチウムに転換している。なお、本委託製錬契約は2023年末まで効力を有する。

2022年6月現在の鉱石埋蔵量(確定+推定)は17.2百万t(品位:Li2O 0.56%)、鉱物資源量(概則+予測)は51.4百万t (品位:Li2O 1.45%)と算出されている(表5)。

2022年の生産量は精鉱量で461千t、2022年4月に生産能力を450千tpaから600千tpaへと増強する計画を発表しており、さらに2023年初頭までに900千tpaまで増強させることが可能となるようサイトのアップグレードを実施した。2022年7月~12月期の精鉱1t当たりのロイヤルティを除くFOB費用は725A$となっている(表6)。

表5.Mt Marion鉱山埋蔵量(Reserves)及び資源量(Resources)
種類 量(百万t) Li2O(%) Fe(%) MgO(%)
鉱石埋蔵量 確定 0.8 1.19
推定 16.4 1.57
合計 17.2 1.56
鉱物資源量
(カットオフ品位:Li2O 0.5%)
概則 21.4 1.54 0.74 0.31
予測 30.0 1.38 0.80 0.36
合計 51.4 1.45 0.77 0.34

出典:Mineral Resources社2022年10月7日付ASX Announcement

表6.Mt Marion鉱山四半期精鉱生産量及び生産コスト
2020年 2021年 2022年
1-3月 4-6月 7-9月 10-12月 1-3月 4-6月 7-9月 10-12月 1-3月 4-6月 7-9月 10-12月
精鉱生産量(千dmt) 89 116 133 129 109 114 101 98 104 128 108 121
FOB費用(A$/dmt) NA 396.5 425.7 551.8 444.8 725
輸送費用(A$/dmt) NA 33.1 47.9 83.9 90.1 52
ロイヤルティ費用
(A$/dmt)
NA 27.7 39.9 96.8 240.4 366
合計(A$/dmt) 560.1 457.4 540.5 732.4 775.4 1,142
収益(A$/dmt) 552.5 458.8 590.5 1,384.7 3,339.7 5,550

出典:(〜2022年6月)historical physical and financial data since FY15; Mineral Resources社、
(2022年7月〜) FY23 Half Year Results; Mineral Resources社

5.3.Pilgangoora鉱山

豪Pilbara Minerals社が100%権益を保有し、WA州北部Pilbara地域に位置する鉱山で、2019年4月に操業を開始した。Pilbara Minerals社は市況が低迷していた2019年9月に、中CATL社(寧徳時代新能源科技股份有限公司)より戦略的協力関係を構築するために投資を受け入れ、以降CATL社は同社株式約8%前後保有する最大株主の一つとなっていたが、2023年3月1日に約5%分の株式を売却しCATL社との資本関係は後退している。

ピットで採掘された鉱石は360~380千tpaの処理能力を有するPilganプラントで比重選鉱または浮遊選鉱等を経て、スポジュメン精鉱としてPort Hedland港から出荷される。また、Pilbara Minerals社は2020年に隣接の同名鉱山であるPilgangooraプロジェクトを保有する豪Morella社(2021年12月にAltura Mining社から社名変更)を買収し、同鉱山および200千tpaの生産能力を有する選鉱施設Ngungajuプラントも有することとなった。現在、PilganプラントとNgungajuプラントを合わせた処理能力を580千tpaから640~680千tpaに高めるP680拡張プロジェクトを実施しており、このP680拡張プロジェクトにはEFAやNAIFから計250mA$の融資枠による支援が実施されている。さらに将来的に1000千tpaにまで増強するP1000プロジェクトも、2023年3月にFIDを行っている。

2022年6月現在の鉱石埋蔵量(確定+推定)は159百万t(品位:Li2O 1.2%、Ta2O5 101ppm)、鉱物資源量(精測+概則+予測)は305百万t(品位:Li2O 1.1%, Ta2O5 105ppm)と算出されており(表7 )、2022年の生産量は平均品位:Li2O 5~6%の範囲のスポジュメン精鉱量で518千tであった。直近四半期である2022年10~12月期の報告では精鉱1t当たりのロイヤルティを除くFOB費用は380US$(約579A$)となっている(表8)。

スポジュメン精鉱のオフテイクは、Ganfeng社が年160千tを10年間、中General Lithium社が年140千t、中Great Wall Motor Company社が20千tを6年間、中Yibin Tianyi Lithium Industry社が年115千tを取得している。また韓POSCO社とは戦略的提携の一環で年240千t、さらに25mA$の資金拠出で計315千tのオフテイクを付与するとともに、下流工程としてPilbara Minerals社18%、POSCO社82%の権益比率によるPOSCO Pilbara Lithium Solutions JVとして韓国・光陽市に生産能力43千tpaの水酸化リチウムプラントを建設しており、2023年10~12月期に第1トレインでの生産開始を予定している。

Pilbara Minerals社は、スポジュメン精鉱のオンライン取引所Battery Material Exchange(BMX)を開設し、オフテイク契約分以外のスポジュメン精鉱のオークションを実施している。直近の2022年12月に行われたオークションではSC5.5グレードのスポジュメン精鉱10,000tの平均価格が7,552US$/dmt(Port Hedland港渡しFOB)と報告されている。

表7.Pilgangoora鉱山埋蔵量(Reserves)及び資源量(Resources)
種類 量(百万t) Li2O(%) Ta2O5(ppm) Fe2O3(%)
鉱石埋蔵量 確定 17 1.3 129 1.1
推定 141 1.2 97 1.0
合計 159 1.2 101 1.0
鉱物資源量
(カットオフ品位:Li2O 0.2%)
精測 19 1.4 138 0.5
概則 187 1.2 100 0.6
予測 99 1.1 110 0.7
合計 305 1.1 105 0.6

出典:2022 Annual Report; Pilbara Minerals社

表8.Pilgangoora鉱山四半期精鉱生産量及び生産コスト
2020年 2021年 2022年
1-3月 4-6月 7-9月 10-12月 1-3月 4-6月 7-9月 10-12月 1-3月 4-6月 7-9月 10-12月
精鉱生産量 (千dmt) 20 34 62 64 78 77 86 83 81 127 147 162
オペレーティングコスト(Port Hedland港渡しFOB、ロイヤルティを除く)(US$/dmt) NA NA NA NA NA NA 328 420 458 462 434 380
オペレーティングコスト(中国CIF)(US$/dmt) NA NA 355 351 383 441 445 587 687 780 767 768
中国CIF平均販売価格(US$/dmt)(SC5.4 basis) NA NA NA NA NA NA NA NA NA 3,911 4,266 5,668

出典:Annual Report; Pilbara Minerals社

5.4.Wodgina鉱山

WA州北部Port Hedlandの南約120km、Pilbara地域に位置する鉱山である。豪Mineral Resources社が40%、米Albemarle社が60%を保有する非法人JVにより操業され、マインライフは30年以上が見積もられている。それぞれ250千tpaの処理能力を有する3つのトレインにより計750千tpaのスポジュメン精鉱の処理能力を有している。

2017年4月に操業を開始しDSOを出荷したものの、市況の低迷により2019年11月から操業を中断した後、2022年5月に操業再開しており2022年の生産量は精鉱量で176千tである。Mineral Resources社引き取り分についてはAlbemarle社がオフテイクを有している。2022年10月現在の鉱石埋蔵量(確定+推定)は152.0百万t(品位:Li2O 1.2%)、鉱物資源量(概則+予測)は259.19百万t(品位:Li2O 1.17%)と算出されている(表9)。2022年7月~12月期の精鉱1t当たりのロイヤルティを除くFOB費用は1,111A$となっている(表10)。

表9.Wodgina鉱山埋蔵量(Reserves)及び資源量(Resources)
種類 量(百万t) Li2O(%) Fe(%) Al2O3(%) SiO2(%) Ta2O5(%)
鉱石埋蔵量 確定 0.5 1.53
推定 146.5 1.20
合計 147.0 1.20
鉱物資源量
(カットオフ品位:Li2O 0.5%)
概則 196.9 1.17 1.95 15.51 71.50 0.02
予測 62.3 1.16 1.82 15.47 72.08 0.01
合計 259.2 1.17 1.92 15.50 71.64 0.02

出典:Mineral Resources社2022年10月7日付ASX Announcement

表10 .Wodgina鉱山四半期精鉱生産量及び生産コスト
2022年
1-3月 4-6月 7-9月 10-12月
精鉱生産量(千dmt) 20 64 92
FOB 費用(A$/dmt) 549.9 1,111
輸送費用(A$/dmt) 70.9 107
ロイヤルティ費用(A$/dmt) 156.7 308
合計(A$/dmt) 777.5 1,526
スポット売り上げ(A$/dmt) 3,063 8,112

出典:(〜2022年6月)historical physical and financial data since FY15; Mineral Resources社、
(2022年7月〜) FY23 Half Year Results; Mineral Resources社

5.5.Mt Cattlin鉱山

豪Allkem社が100%を保有する、WA州南部Esperanceの西約250km、Ravensthorpeの北2kmに位置する鉱山で、2010年11月に操業を開始した。元は豪Galaxy Resources社が保有していた鉱山であったが、2021年8月に豪Orocobre社に買収された(Orocobre社は後にAllkem社に改称)。

2022年6月現在の推定鉱石埋蔵量は5.8百万t(品位:Li2O 0.98%)、鉱物資源量(精測+概則+予測)は13.3百万t(品位:Li2O 1.2%)(表11)、195~210千tpaのスポジュメン生産能力を有するとされ、2022年の生産量は平均品位:Li2O 5.6%のスポジュメン精鉱量で107千t、2022年10月~12月期のロイヤルティを除くFOB費用は精鉱1t当たり1,016US$となっている(表12)。

生産物に関しては、中Sichuan Chengtun Lithium社と年60千t、中Yahua International and Development社と年120千tのオフテイク契約を締結している。

表11.Mt Cattlin鉱山埋蔵量(Reserves)及び資源量(Resources)
種類 量(百万t) Li2O(%) Ta2O5(ppm)
鉱石埋蔵量 確定
推定 3.3 1.12 105
予測 2.4 0.80 122
合計 5.8 0.98 113
鉱物資源量
(カットオフ品位:Li2O 0.4%)
概則(In-situ) 4.5 1.3 135
概則(Stockpiles) 2.4 0.8 122
予測 6.4 1.3 131
合計 13.3 1.2 131

出典:Annual Report 2022; Allkem社

表12.Mt Cattlin鉱山四半期精鉱生産量及び生産コスト
2020年 2021年 2022年
1-3月 4-6月 7-9月 10-12月 1-3月 4-6月 7-9月 10-12月 1-3月 4-6月 7-9月 10-12月
精鉱生産量(千dmt) 14 31 30 33 47 63 68 52 49 25 18 16
FOB現物費用(US$/dmt) 592 412 406 452 384 328 351 324 349 803 796 1,016
中国CIF平均売買価格(US$/dmt) NA NA NA NA 386 560 796 1,620 2,178 4,992 5,028 5,284

出典:(〜2021年6月) Annual Report; Galaxy Resources社、
(2021年7月〜) Annual Report; Allkem社/Orocobre社

5.6.Finniss鉱山

現在豪州国内で操業中のリチウム鉱山のうち唯一NT準州に位置する鉱山で、豪Core Lithium社が100%保有する。Darwinの南約25kmに位置しており、2022年12月には最初のDSOを出荷し、2023年2月に最初のスポジュメン精鉱が生産された。

2022年7月時点での鉱石埋蔵量(確定+推定)は10.6百万t(品位:Li2O 1.3%)、鉱物資源量(精測+概則+予測)は18.86百万t(品位:Li2O 1.32%)(表13)、操業開始前のDFS(2021年7月26日付同社ASX Announcement)ではマインライフ8年、初期投資額として89mA$、C1コストとして精鉱1t当たり364US$と算出されている。またスポジュメン精鉱の生産能力は、環境影響評価書では225千tpaとされている。

オフテイクはGanfeng社と年75千tを4年間、中Sichuan Yahua Industrial Group(四川雅化実業集団)と年75千tを4年間供給する契約を締結しており、またスイスTransamine Trading社と年50千tを5年間供給する非拘束の覚書を締結している。米Tesla社とは、110千tを4年間供給することを検討する非拘束の覚書を2022年3月に締結していたが成約には至らず、2022年10月に解消された。

NT準州政府は、Finniss鉱山の北の対岸に位置するMiddle Arm地区を水素やLNGなどエネルギー産業や重要鉱物産業の集積地として指定しており、Core Lithium社は将来的には本工業団地において水酸化リチウム等の下流工程のプラント建設についても検討を行っている。連邦政府も国内製造業支援のための助成金プログラムModern Manufacturing Initiativeにて6mA$の助成金交付を行うなど、Middle Arm地区でのバッテリー関連産業構築に向けて積極的に支援を行っている。

表13.Finniss鉱山埋蔵量(Reserves)及び資源量(Resources)
種類 量(百万t) Li2O(%)
鉱石埋蔵量 確定 5.5 1.4
推定 5.1 1.3
合計 10.6 1.3
鉱物資源量(カットオフ品位:Li2O 0.5%) 精測 5.60 1.46
概則 7.69 1.35
予測 5.57 1.12
合計 18.86 1.32

出典:Annual Report 2022; Core Lithium社

5.7.Mt Hollandプロジェクト

チリSQM社が50%、豪Wesfarmers社が50%のJV会社であるCovalent Lithium社が100%保有するプロジェクトであり、後述のKwinanaの水酸化リチウムプラントと合わせてEarl Greyプロジェクトと称される。2016年に豪Kidman Resources社が発見、2017年12月にチリSQM社が同案件の50%の権益を総額110mUS$にて取得、その後2019年9月にKidman Resources社を豪Wesfarmers社が買収している。2021年2月、Wesfarmers社とSQM社はFIDを行い、開発に移行した。2022年4月の技術レポートでは、Mt Holland鉱山の選鉱施設(生産能力383千tpa)でスポジュメン精鉱を生産し、その後、Kwinanaプラントで水酸化リチウムまでを生産するコストとして、水酸化リチウム1t当たり4,989US$と算出している。

2022年4月時点の鉱石埋蔵量(確定+推定)は83.9百万t(品位:Li2O 1.57%)、鉱物資源量(精測+概則+予測)は186百万t(Li2O 1.58%)と算出されている(表14)。

表14.Mt Hollandプロジェクト埋蔵量(Reserves)及び資源量(Resources)
種類 量(百万t) Li2O(%) Ta(ppm) Fe2O3(%)
鉱石埋蔵量 確定 21.5 1.48 1.36
推定 62.4 1.60 1.19
合計 83.9 1.57 1.24
鉱物資源量
(カットオフ品位:Li2O 0.5%)
精測 71.0 1.57 56 1.17
概則 107.0 1.51 45 1.02
予測 8.0 1.44 47 1.30
合計 186.0 1.53 49 1.09

出典:Technical Report Summary, Mt Holland Lithium Project; April 2022; SQM

5.8.Bald Hillプロジェクト

豪Alita Resources社が保有する、Goldfield地区に位置するプロジェクトである。155千tpaの生産能力を有し、2018年3月に最初のスポジュメン精鉱が出荷開始されるも、2019年8月にデフォルトにより操業が中断され、現在管財人による管理下にある。2020年に中国との関係が示唆される米Austroid社が債権を買い取り、Bald Hillプロジェクトの取得を図っているが、本買収に関してはAlita Resources社が上場していたASX及びシンガポール証券取引所、さらには豪州外国投資審議会(FIRB)の承認が必要となっており、現時点ではまだ承認がなされていない。

2022年3月、中Yihe Cleantech Material社と同鉱山再開に向けた契約を締結、この中で30mUS$の融資とオフテイクを取り決め、本契約に基づき採掘作業を再開した。コロナ禍による労働者不足の影響もあり小規模の採掘に留まっているが、2022年4月と7月には推定品位:Li 5%のスポジュメン精鉱がYihe社に向けて出荷されている。

2018年時点での鉱石埋蔵量(推定)は11.3百万t(品位:Li2O 1.01%)、鉱物資源量(概則+予測)は26.5百万t(品位:Li2O 0.96%)と報告されている(表15 )。デフォルト直前の2019年4〜6月期の操業では、平均品位: Li2O 6.2%のスポジュメン精鉱を38,717wmt生産、ロイヤルティを除くキャッシュコストはスポジュメン精鉱1t当たり774A$と報告されている。

表15.Bald Hillプロジェクト埋蔵量(Reserves)及び資源量(Resources)
種類 量(百万t) Li2O(%) Ta2O5(ppm)
鉱石埋蔵量 確定
推定 11.3 1.01 160
合計 11.3 1.01 160
鉱物資源量
(カットオフ品位:Li2O 0.3%)
概則 14.4 1.02 168
予測 12.1 0.90 123
合計 26.5 0.96 149

出典:Tawana Resources社/Alliance Mineral Assets社2018年6月6日付ASX Announcement

5.9.Kathleen Valleyプロジェクト

Perthの北東約680kmに位置し、豪Liontown Resources社が100%保有するプロジェクトである。周辺にはBHPのNickel West鉱山をはじめとする多数のニッケル鉱山が位置しており、Yilgarnクラトン中のグリーンストーン帯のペグマタイト脈が鉱体となっている。坑内採掘を予定しており、製品の出荷港としてGeraldton港の利用を想定している。

2021年11月時点での鉱石埋蔵量(確定+推定)は68.5百万t(Li2O 1.34%、Ta2O5 120ppm)、2021年4月時点での鉱物資源量(精測+概則+予測)は156百万t(Li2O 1.4%、Ta2O5 130ppm)と算出されている(表16)。

2022年6月にFID、10月に建設工事を開始し、2024年中頃を予定している最初のスポジュメン精鉱の出荷に向け建設を進めている。プラント設計変更後の初期投資額は予備費含め895mA$としている。2021年11月のDFSでは、当初期間は2.5百万tpaの鉱石処理能力を有するプラント、操業6年目には4百万tpaに拡張する計画(SC6.0グレードスポジュメン精鉱生産能力511~658千tpa)としていたが、2023年1月に計画を変更し当初期間のプラント処理能力を2.5百万tpaから3百万tpaに増強することとした。

生産したスポジュメン精鉱は、韓LG Energy Solution社に初年度100千t、以降年150千tpaを4年間供給する他、Tesla社に初年度100千t、以降年150千tpaを4年間、米Ford社に150千tpaを5年間供給する。

表16.Kathleen Valleyプロジェクト埋蔵量(Reserves)及び資源量(Resources)
種類 量(百万t) Li2O(%) Ta2O5(ppm)
鉱石埋蔵量 UG 確定
推定 65.4 1.34 119
小計 65.4 1.34 119
OP 確定 2.7 1.30 141
推定 0.5 0.93 148
小計 3.2 1.21 142
合計 68.5 1.34 120
鉱物資源量
(カットオフ品位:Li2O 0.55%)
精測 20 1.3 145
概則 109 1.4 130
予測 27 1.3 113
合計 156 1.4 130

出典:Mineral Resources, Reserves and CP Statements; Liontown Resources;

Liontown社は将来の成長戦略の一環として、同プロジェクトからのスポジュメン精鉱を処理してバッテリーグレードの水酸化リチウムを生産するプラントの、山元での建設についてスコーピングスタディを実施している。本スタディによると、3トレイン合計約86千tpaの水酸化リチウム製造能力を有するプラントを含むKathleen Valleyプロジェクト全体の初期投資額として、予備費含めて2.0bA$、税引後NPV(割引率8%)が9.6bA$、IRRは56%、年平均EBITDAは2.6bA$との結果を報告している。

なおLiontown社に対しては、Albemarle社が2023年3月末に5.5bA$の買収提案を行っている。

5.10.Mannaプロジェクト

豪Global Lithium Resources社が100%保有するプロジェクトで、WA州Kalgoorlieの東約100kmに位置する。2018年に豪Breaker Resources社が発見し、Global Lithium社とJV契約を締結して調査を継続した。2022年10月には、Breaker社が残り権益全てをGlobal Lithium社に売却したことにより、Global Lithium社100%の案件となった。Global Lithium社は、中Suzhou TA&A Ultra Clean Technology社が9.66%、豪Mineral Resources社が9.64%出資するなど協力関係にある。

2023年2月にスコーピングスタディが完成、同スタディによると鉱物資源量(概則+予測)は32.7百万t(品位:Li2O 1.00%)(表17)、マインライフは10年でSC5.5グレードのスポジュメン精鉱の生産能力として221千tpa、初期投資額は419.4mA$、操業に係るFOBコストはSC5.5グレードのスポジュメン精鉱1t当たり688US$、税引前NPV(割引率8%)が2.8bA$、IRRが103%となっている。2023年10~12月期にFSが完成見込であり、2024年中にFIDを見込んでいる。

オフテイクは、Suzhou TA&A社が10年間で後述のMarble Barプロジェクトと合わせて30%の生産物を引き取ることとしている。

表17.Mannaプロジェクト資源量(Resources)
種類 量(百万t) Li2O(%) Ta2O5(ppm)
概則鉱物資源量 18.5 1.03 45
予測鉱物資源量 14.2 0.97 43
合計 32.7 1.00 44

(cut-off grade: 0.6% Li2O)
出典:Global Lithium Resources社2023年3月10日付ASX Announcement

5.11.Marble Barプロジェクト

WA州北部Port Hedlandの南東約150km、Pilbara地域に位置する豪Global Lithium Resources社が100%保有するプロジェクトである。精力的な探鉱を重ねており、2023年3月現在の鉱物資源量(概則+予測)は18百万t(品位:Li2O 1.0%)となっている(表18)。上述のMannaプロジェクトと合わせて、中Suzhou TA&A社が10年間で30%の生産物を引き取るオフテイクを締結している。

表18.Marble Barプロジェクト資源量(Resources)
種類 量(百万t) Li2O(%) Ta2O5(ppm)
概則鉱物資源量 3.8 0.97 53
予測鉱物資源量 14.2 1.01 50
合計 18.0 1.00 51

(cut-off grade: 0.45% Li2O)
出典:Global Lithium Resources社2023年3月10日付ASX Announcement

5.12.Buldaniaプロジェクト

豪Liontown Resources社が100%保有するプロジェクトで、Perthの東約600kmのGoldfield地区に位置し、近傍にはMt Marionリチウム鉱山やBald Hillリチウムプロジェクトが所在する。南200kmにはEsperance港が位置しており、製品の出荷は同港からを予定している。

2021年4月時点での鉱物資源量(概則+予測)は、15百万t(品位:Li2O 1.0%、Ta2O5 44ppm)と算出されている(表19 )。

表19.Buldaniaプロジェクト資源量(Resources)
種類 量(百万t) Li2O(%) Ta2O5(ppm)
概則鉱物資源量 9.1 1.0 45
予測鉱物資源量 5.9 1.0 42
合計 15.0 1.0 44

(カットオフ品位: Li2O 0.5%)
出典:Mineral Resources, Reserves and CP Statements; Liontown Resources;

5.13.Pioneer Domeプロジェクト

豪Essential Metals社が100%保有するプロジェクトで、Mt Marion鉱山、Bald Hillプロジェクト、Buldaniaプロジェクトが位置するGoldfield地区に位置する。

2020年12月時点の資源量は、North Dome鉱体のみであるが11.2百万t(品位:Li2O 1.16%、Ta2O5 57ppm)と算出されている(表20)。本資源量に基づき2023年2月に公表されたスコーピングスタディでは、マインライフ7.3年、精鉱品位5.7%のスポジュメン精鉱の生産能力194千tpaとして、予備費含む初期投資額が293mA$、スポジュメン精鉱1t当たりのキャッシュコスト(ロイヤルティを含む)は1,030A$、税引後NPV(割引率10%)は367mA$、IRRは40%と算出されている。未だ具体的な生産開始のターゲットは正式には発表されていないが、スコーピングスタディでは2026年1月が最初の製品出荷とされている。

2023年1月、Essential Metals社は中Tianqi社とIGO社とのJV会社であるTLEA社からの買収提案を受諾した。これにより本プロジェクトはTLEA社の所有となった。

表20.Pioneer DomeプロジェクトのうちNorth Dome鉱床の資源量(Resources)
種類 量(百万t) Li2O(%) Ta2O5(ppm) Fe2O3(%)
概則鉱物資源量 8.6 1.23 55 0.46
予測鉱物資源量 2.6 0.92 62 0.55
合計 11.2 1.16 57 0.48

(カットオフ品位: Li2O 0.3%)
出典:Essential Metals社2022年12月20日付ASX Announcement

5.14.Mt Idaプロジェクト

Perthの北東約550km、Kalgoorieの北西約200kmに位置し、豪Red Dirt Metals社が2021年9月に豪Ora Banda Mining社から取得したプロジェクトである。現在資源量を拡大するための試錐調査が精力的に実施されており、2022年10月時点での鉱物資源量(概則+予測)は、12.7 百万t(Li2O 1.2%)と報告されている(表21)。将来的にはスポジュメン精鉱の生産を計画しているが、早期の立ち上げやキャッシュの創出を目指して最初の段階ではDSOの操業を計画している。

2022年12月には越VinES Energy Solutions社と非拘束のMOUを締結し、45千tpaのスポジュメン精鉱の供給について協議することとしている。

表21.Mt Idaプロジェクト資源量(Resources)
種類 量(百万t) Li2O(%) Ta2O5(ppm)
概則 3.3 1.4 246
予測 9.3 1.1 193
合計 12.7 1.2 207

(カットオフ品位: Li2O 0.55%)
出典:December Quarterly Activities Report; January 2023; Red Dirt Metals社

5.15.その他探鉱案件

リチウムブームも相まって、多数のいわゆる探鉱ジュニア企業がリチウム探鉱に参画しており、資源量が未だ算出されていないグリーンフィールドの案件も多く存在している。ほとんどがスポジュメンを胚胎するペグマタイト脈を対象とする案件であるが、リシア雲母や地熱かん水のプロジェクトも見受けられる(表22)。

表22.豪州国内の主要リチウム探鉱案件
案件名 参画企業(権益(%) 概要
Pilbara地域(Pilgangoora鉱山近傍)
Pilbara JV (Mallina, Tabba Tabba East, West Wodgina, Strelley West, Mac Well, Strelley) Sayona Mining (49) / Morella (51) 金の探鉱鉱区群の一部がリチウムを対象として調査。Mid-West JVと合わせ豪Morella社が1.5mA$の探鉱費拠出で51%権益取得するJV契約締結。2022年12月で参入完了。Mallina鉱区に注力方針。4.6m~16.4m(品位:Li2O 1.24%)
Pilbara (Wodgina East, Tambourah, Upper Five Mile Creek) Riversgold (100) 試錐調査実施。4m~17m(品位:Li2O 0.9%)
Yarrie Askari Metals (100) 中Zhejiang Kanglongda Special Protection Technology社と戦略的パートナーシップ提携。概査、ターゲット抽出
Hillside Askari Metals (100) 中Zhejiang Kanglongda Special Protection Technology社と戦略的パートナーシップ提携。データコンパイル、ターゲット抽出
Trigg Hill Eastern Resources (100) 1960年代と1980年代初期にタンタル・錫を採掘していた旧鉱山。2022年12月に2,310mの試錐調査終了、3m~54m(品位:Li2O 1.01%)。Yahua International Investment and Development社と戦略的提携、Eastern社に約10%出資
Tambourah North Trek Metals (100) 岩石サンプリングによりポテンシャル確認
Myrnas Hill Askari Metals (100) 中Zhejiang Kanglongda Special Protection Technology社と戦略的パートナーシップ提携。概査実施、ターゲット抽出
Talga East Askari Metals (100) 中Zhejiang Kanglongda Special Protection Technology社と戦略的パートナーシップ提携。2022年10月、Mining Equities社から取得
Talga Octava Minerals (80) / First Au (20) 一部鉱区はOctava社が100%保有。残りはOctava社が参入。岩石サンプルによりリチウム異常抽出
Pilbara JV (Dom’s Hill, Pear Creek, Marble Bar) Kalamazoo (100) SQMが4年12mA$で70%権益取得できるJV契約締結。4,028mのRC試錐調査完了
Mt Fransisco Pilbara Minerals (70) / Atlas Iron (30) 2018年に地質精査、地化学探査、RC試錐実施。試錐調査でペグマタイト脈確認。リチウム鉱物はリシア雲母(zinnwaldite, lepidolite)
Mount Dove Flynn Gold (100) 金・リチウムプロジェクト。リチウムはペグマタイト脈。既往データ解析、土壌サンプリング
Yarrie Flynn Gold (100) 金・リチウムプロジェクト。2022年8月鉱区取得
Tambourah South, Hillside, Panorama Infinity Mining (100) VTEM実施。Tambourah South鉱区では21本1,812mのRC試錐調査実施
Kimberley地域
Taylor Lookout Eastern Resources (100) 過去に錫を採掘。概査実施
West Kimberly Gibb River Diamonds (100) 広域データ解析で抽出して取得した鉱区
Mid-West地域
Mid-West JV (Mt Edon) Sayona Mining (49) / Morella (51) Pilbara JVと合わせMorella社が1.5mA$の探鉱費拠出で51%権益取得するJV契約締結。2022年12月で参入完了
Waratha Well Zenith Minerals (100) EV Metals Group社とのJV、同社最大60%取得に向け算入中。ペタライトが主。14m(品位:Li2O 1.0%)
Kingia Trek Metals (100) Strike Energy社のMid-West地熱発電プロジェクトの地熱かん水からのリチウム回収
Lindville St George Mining (100) 2023年3月取得
Carnamah St George Mining (100) 2023年3月取得
Mukinbudin Gibb River Diamonds (100) 広域データ解析で抽出して取得した鉱区
Gascoyne地域
Yinnetharra Red Dirt Metals (100) 2022年9月にElectrostate社からRed Dirt Metals社が取得。
0~26m(Li2O 0.95%)など
Mt James / Dragon Burely Minerals (100) ターゲット抽出段階
Southwest Yilgarn地域(Greenbushes鉱山周辺地域)
Greenbushes South (+Kirup, Donnelly) Galan Lithium (100) 土壌サンプリング、空中/地上物理探査実施
Rocky Hill Tempest Minerals (100) 概査、土壌サンプリング完了
Southern Yilgarn地域(Mt Holland, Mt Cattlin, Mt Marion鉱山周辺地域)
Mt Edwards (Faraday) Widgie Nickel (100) 2021年にNeometals社からスピンオフ。Faraday鉱徴地にて89本3,234mのRC試錐、4本116mのダイアモンド試錐終了、10m~15m (品位:Li2O 1.04%)。481千t(品位:Li2O 0.59%)の資源量(概則+予測)を2023年3月末に算出
Forrestania Lithium (Gem, Bounty East) Forrestania Resources (100) Phase 1のRC試錐2,198m、Phase 2のRC試錐3,983m完了、複数のペグマタイト脈捕捉
Forrestania Flynn Gold (100) リチウム・金・ニッケルプロジェクト。鉱区申請中。既往データ解析
Koolyanobbing Flynn Gold (100) 金・リチウムプロジェクト
Windarling Tempest Minerals (100) 既往データ調査、鉱区申請中
Lake Johnston (Mt Day, Medcalf) Charger Metals (70) / Lithium Australia (30) 40本の試錐調査中。Charger社がLithium Australia社の権益買取予定
Split Rocks Zenith Minerals (100) EV Metals Group社とのJV、同社最大60%取得に向け算入中
Southern Cross-Marvel Loch – Mt Holland Riversgold (100) 土壌地化学探査実施
Split Rock St George Mining (100) 2023年3月取得
Hayes Hill Zenith Minerals (100) リチウム・ニッケルプロジェクト。既往探鉱データコンパイル。土壌地化探予定
Kangaroo Hills Future Battery Minerals (80) / Lodestar Resources (20) 3,440mの試錐調査、29m~38m(品位:Li2O 1.36%)
West Spargoville Marquee Resources オーガー試錐、123本18,776mのRC試錐完了
Mt Deans Aruma Resources (100) 29本2,565mのRC試錐完了。リシア雲母のペグマタイト脈。8m~26m(品位:Li2O 1.1%)
Gecko North Lithgold (100) 2022年11月、SensOre社がAI技術により抽出。4年2.5mA$で51%、BFSで追加29%の権益取得できるJV締結
Woolgangie St George Mining (100) 2023年2月取得
Buningonia St George Mining (100) 2023年3月取得
Buningonia North St George Mining (100) 2023年3月取得
Ten Mile West St George Mining (100) 2023年3月取得
Caranning Tempest Minerals (100) 既往データ調査、鉱区申請中
Ravensthorpe Bulletin Resources (100) 岩石サンプリングにてリチウム胚胎のペグマタイト脈確認。試錐調査に向けた環境認可手続き
Myuna Rocks St George Mining (100) 2023年3月取得
Goldfield地域(Kathleen Valleyプロジェクト, Mt Idaプロジェクト周辺)
Montague Gateway Mining (100) 2023年1月、SensOre社が4.5年4.5mA$で80%取得するJV契約締結。SensOreはAI技術で当該鉱区を有望と抽出
Denchi Oar Resources (100) 2022年11月取得。岩石サンプリング
Mt Alexander St George Mining (75) / IGO (25) 20,000mのRC試錐実施中。121mのペグマタイト脈捕捉
Mulline, Mulwarrie Olympio Metals (100) 2023年4月にLiontown社が参入。1年400kA$で51%、3年1mA$で追加39%。Liontown社による土壌サンプリング完了
北部準州北部Cox半島地域(Finniss鉱山周辺)
Shoobridge Core Lithium (100) 2022年4月取得
Bynoe Lithium Plus Minerals (100) Core Lithium社鉱区西隣。試錐調査。Lei鉱区において28.3m @ 1.60% Li2O from 265m
Bynoe Charger Metals (100) Core Lithium社鉱区の中。土壌サンプリングとRAB試錐による地化学探査実施
NT Lithium (Litchfield, Daly River) Ragusa Minerals (90) / May Drilling (10) 概査実施、ターゲット抽出。RC試錐実施
NT準州南部Arunta地域
Arunta Lithium Plus Minerals (100) 概査実施、ターゲット抽出
Barrow Creek Askari Metals (100) 中Zhejiang Kanglongda Special Protection Technology社と戦略的パートナーシップ提携。概査、ターゲット抽出
Anningie & Barrow Creek Core Lithium (100) 概査実施、ターゲット抽出
NSW/VIC州境
Jingellic, Tallangatta Kalamazoo (100) 概査実施
Dorchap Dart Mining (100) 2022年7月、SQMと6年12mA$で70%獲得するJV締結。2023年3月に3,000mの試錐調査開始
NSW州Broken Hill地域
Trident Stelar Metals (100) 過去、錫・タンタルを採掘していたペグマタイト脈
QLD北部
Buchanan Creek Strategic Metals Australia (95) / Artemis (5) 2016年の試錐調査にてスペインSan Jose鉱床と同様の交代性リシア雲母の鉱化作用確認。2020年、QLD州政府から鉱物研究及び新鉱床評価に係る助成金獲得
Mt Surprise Metalicity (100) 銅・コバルトプロジェクトの一部。既往データからリチウムポテンシャル抽出。概査にてLepidolite確認
Georgetown Gold ActivEX (100) 土壌・岩石サンプリング
Gilberton ActivEX (100) 土壌・岩石サンプリング

出典:各社ホームページ

6.下流工程

鉱山で採掘された精鉱以降の工程については、未だ豪州国内では発展途上にある。豪州のコンサルタントFuture Smart Strategies社によると、リチウムイオン電池(LIB)サプライチェーンにおいて、最上流の鉱山での精鉱生産では、豪州の2017年の生産額は約1.13bA$規模に対して、その他の国での生産総額は740mA$と豪州の3分の2程度の規模にとどまっている。しかし最下流の電池システムでは、豪州国内での生産は存在しないのに対して、豪州以外では156A$であり、豪州は海外が享受している高付加価値産業の恩恵を逸している(2) 。加えて、LIBのサプライチェーンにおける中国への過度な依存を脱却する観点もあり、豪州政府はこの精鉱生産以降の下流工程の産業育成を図っている。最近は、生産されたスポジュメン精鉱を水酸化リチウムに加工するプラントの稼働も始まるなど、徐々に下流工程への進出が図られている。

6.1.Kwinana水酸化リチウムプラント(TLEA社)

中Tianqi社と豪IGO社によるJVであるTLEA社がWA州Kwinanaに建設した水酸化リチウムプラントであり、2022年11月30日に24千tpaの生産能力を有する第1トレインによる商業生産が開始した。現在、同じく24千tpaの生産能力の第2トレインが建設中で、2024年に生産開始予定である。

基本的な処理工程は、スポジュメン精鉱を900度以上に煆焼してα-スポジュメンからβ-スポジュメンに相転移させた後、硫酸焙焼、水浸出ののち不純物除去を経て、硫酸リチウムを苛性ソーダにて水酸化リチウムに転換する。処理工程で排出される硫酸ナトリウム、ケイ酸アルミニウムや石膏または石灰については副産物として販売する。なお、1トレイン(24千tpa LiOH)当たりのそれぞれの排出量は、硫酸ナトリウムが44千tpa、ケイ酸アルミニウム(脱リチウムβ-スポジュメン)が170千tpa、石膏/石灰が24tpaとのことである(3) 。

2022年5月の初生産以降、同年末までに868tの水酸化リチウムが生産されている。中Tianqi社によると試験生産時の生産コストは、水酸化リチウム1t当たり9,910US$とされている(4) 。

6.2.Kemerton水酸化リチウムプラント(Albemarle社/Mineral Resources社)

豪Mineral Resources社が15%、米Albemarle社が85%を保有し、Perthの南約150km、Bunbury近郊で操業開始した水酸化リチウムプラントである。Albemarle社がオペレータで、基本的にはWodgina鉱山からのスポジュメン精鉱を処理し、生産された水酸化リチウムは全量Albemarle社が販売する。それぞれ25千tpaの処理能力を有する2トレインのうち、第1トレインが2021年11月に技術的完工を迎え、Albemarle社のGreenbushes鉱山のオフテイク分のスポジュメン精鉱を給鉱して生産されたバッテリーグレードの水酸化リチウムが2022年7月に初出荷されている。また第2トレインは2023/2024年度に完成する予定である。プロセスは基本的には他プラントと同じで煆焼後、硫酸焙焼、水浸出、苛性化を経て水酸化リチウムに転換する。

年間1.1百万t発生する尾鉱について、Mineral Resources社は同社Koolyanobbing鉄鉱石鉱山に廃棄する許可をWA州鉱山・産業規則・保安省から取得している。Albemarle社も同社年次報告書の中でその他のサイトの選定に努めているとしているが、600km程度離れたKoolyanobbing鉄鉱石鉱山まで尾鉱をトラック輸送することに反対する沿線住民の反対活動も見られている。

6.3.Kwinana水酸化リチウムプラント(Covalent社)

チリSQM社が50%、豪Wesfarmers社が50%のJV会社であるCovalent社により、Kwinanaの工業団地内で2021年9月から建設しているプラントである。建設が遅延しており、最初の製品は2025年上期になることが見込まれている。水酸化リチウムの製造能力は50千tpaで、Covalent社のMt Holland鉱山からのスポジュメン精鉱を年380千t処理する予定である。

プロセスは基本的には他プラントと同じで煆焼後、硫酸焙焼、水浸出、苛性化を経て水酸化リチウムに転換する。プラント処理能力である397.8千tpaのスポジュメン精鉱を処理した場合、水酸化リチウムは45.9千tpa、二次生成物(硫酸ナトリウム、脱リチウムβ-スポジュメン等)は合計631千tpa生成されるとしている。これら排出される尾鉱等の二次利用についてFBICRCをパートナーに検討しており (5)、二次利用が可能となるまではMt Holland鉱山の尾鉱管理施設へと輸送することとしている。

6.4.Port Hedland硫酸リチウムプラント(Alkemy社)

英Alkemy Capital Investment社が英Teessideに建設するTees Valley水酸化リチウムプラントへ供給するため、豪州のリチウム鉱山からのスポジュメン精鉱を硫酸リチウムに転換するプラントである。WA州北部Port Hedlandに建設を予定しており、1トレイン当たり40千tpaの硫酸リチウム製造能力を見込む。さらに将来的には4トレインとし、合計製造能力を120千tpaとする計画を有している。Alkemy社は世界的な金属トレーダーであるTraxys Groupの一員であるTraxys North America社と2022年7月に供給契約を締結し、同社が本プラントへ豪州産のスポジュメン精鉱を供給する。

おわりに

リチウムブームの影響も相まって豪州のリチウム生産、輸出は飛躍的に増加している。また近年では国内での水酸化リチウムの製造も開始され、サプライチェーンの一翼を担う存在になりつつある。豪州でのリチウム生産の隆盛及び下流工程の発展には、欧米、中国、韓国などのバッテリーメーカーや自動車メーカーなどサプライチェーンの最下流に位置する製造業が、最上流の鉱山業に関与しオフテイクを取りに行く積極的な姿勢に負うところが大きい。特にプロジェクトの早期の段階で早々とオフテイクを締結する中韓勢の積極投資には目を見張るものがある。その影響もあって詳細な経済性が明らかとなっていない案件においても中韓勢によるオフテイクが締結され事業者の資金調達が可能となり、鉱山開発が進捗するなど好循環を生み出しているが、あまりに案件獲得が激化するなどバブル状態を呈している。この流れは世界のEV化の流れに呼応したものでもあり、今しばらくは同じ状況が続くものと思われる。

今後、FID、開発、生産の段階へと進む案件は、バブルの恩恵で資金が得られる案件が多くなってくることが予想される。すなわち本来的には経済的に困難さの残る案件であり、このような案件はリチウム価格が下落局面となった時に淘汰される可能性が高い。事実、リチウム価格が下落した2020年前後は操業停止の憂き目にあった豪州国内のリチウム案件が多く、これからはそのような案件が多くなると予想される。

下流工程については、水酸化リチウムプラントは徐々に軌道に乗ってきており、この傾向は続くであろう。ただし、豪州がバッテリーサプライチェーンのさらに下流へと進むには人件費やエネルギー、環境対策コストの高さもあり、そう容易ではなく時間を要すると思われる。しかし、豪州にはニッケル、コバルト、マンガンの生産もあり、現時点では生産鉱山はないもののグラファイトのプロジェクトもあることから、大きな生産を占めるリチウムと合わせてバッテリーメタルの供給及びそのサプライチェーンにおいて引き続き重要な位置を占めることは間違いない。今後の豪州におけるリチウムをはじめとするバッテリーメタルの動向には注視が必要である。

表23.主要リチウム鉱山/プロジェクト一覧
プロジェクト 権益保有企業 生産量
(暦年)
スポジュメン
精鉱生産能力
オフテイク 埋蔵量(Reserves)/
資源量(Resources)
Greenbushes TLEA (51)
Albemarle(49)
1,348千t(2022) 1,200千tpa 権益見合い 179.6百万t(品位:Li2O 2%、確定+推定)
360.2百万t(品位:Li2O 1.5%、精測+概則+予測)
Mt Marion Mineral Resources(50)
Ganfeng Lithium(50)
422千t(2021)
461千t(2022)
450-600千tpa
→900千tpa
MinResオフテイクは51%(Ganfeng社に委託製錬) 17.2百万t(品位:Li2O 1.56%、確定+推定)
51.4百万t(品位:Li2O 1.45%、概則+予測)
Pilgangoora Pilbara Minerals(100) 324千t(2021)
518千t(2022)
330千tpa
→580千tpa
→680千tpa
→1,000千tpa
Ganfeng社:10年間160 千tpa (Stage 1)
General社:140 千tpa(Stage 1)
Great Wall Motor社:5年間75千tpa→ 5年間追加75千tpa (Stage 2) -> 6年間20千tpa
Yibin Tianyi社:5年間75 千tpa→追加40千tpa
POSCO社:80千tpa -> 240千tpa -> 315千tpa subject to 25m$
159百万t(品位:Li2O 1.2%、確定+推定)
305百万t(品位:Li2O 1.1%、精測+概則+予測)
Wodgina Albemarle(60)
Mineral Resources(40)
176千t(2022) 750千tpa MinRes分はAlbemarle社がオフテイク 147.0百万t(品位:Li2O 1.20%、確定+推定)
259.2百万t(品位:Li2O 1.17%、概則+予測)
Mt Cattlin Allkem(100) 230千t(2021)
107千t(2022)
195-210千tpa Sichuan Chengtun社:3年間60千tpa
Yahua社:5年間120千tpa
5.8百万t(品位:Li2O 0.98%、推定)
13.3百万t(品位:Li2O 1.2%、概則+予測)
Finniss Core Lithium(100) DSO:15千dmt (2022) 225千tpa Ganfeng社:4年間75千tpa
Sichuan Yahua社:4年間75千tpa
Transamine社:5年間50千tpa(non-binding)
10.6百万t(品位:Li2O 1.3%、確定+推定)
18.86百万t(品位:Li2O 1.32%、精測+概則+予測)
Bald Hill Alita Resources (100) 少量(2022) 155千tpa Yihe Cleantech Material社:数量不明 11.3百万t(品位:Li2O 1.01%、推定)
26.5百万t(品位:Li2O 0.96%、概則+予測)
Kathleen Valley Liontown Resources(100)   500千tpa
→700千tpa
LG Energy社:初年度100千t,以降4年間150千tpa
Tesla社:初年度100千t,以降4年間150千tpa
Ford社:5年間150千tpa
68.5百万t(品位:Li2O 1.34%、確定+推定)
156百万t(品位:Li2O 1.4%、精測+概則+予測)
Mt Holland
(Earl Grey)
Wesfarmers(50)
SQM (50)
  340千tpa 権益見合い 83.9百万t(品位:Li2O 1.57%、確定+推定)
186百万t(品位:Li2O 1.53%、精測+概則+予測)
Marble Bar Global Lithium (100)   Suzhou TA&A社:10年間生産物30% 18百万t(品位:Li2O 1.0%、予測鉱物資源量)
Manna Global Lithium (100)   221千tpa 32.7百万t(品位:Li2O 1.0%、概則+予測鉱物資源量)
Mt Ida Red Dirt Metals (100)   VinES Energy Solutions社:45千tpa 12.7百万t(品位:Li2O 1.2%、概則+予測鉱物資源量)


図6.豪州におけるリチウム鉱山/プロジェクト位置

図6.豪州におけるリチウム鉱山/プロジェクト位置

出典:各社ホームページ、各州鉱区情報から筆者作成

参考文献

  1. Geoscience Australia. A Review of Australian Salt Lakes and Assessment of their Potential for Strategic Resources. (オンライン)2013年. http://www.ga.gov.au/corporate_data/76454/Rec2013_039.pdf.
  2. Future Smart Strategies. A lithium industry in Australia – A value chain analysis for downstreaming Australia’s lithium resources. (オンライン)2018年1月30日. http://futuresmart.com.au/news/2018/lithium-industry-in-australia.
  3. IGO Ltd. Kwinana Lithium Hydroxide Refinery, Site Visit Presentation. (オンライン)2022年7月30日. https://www.igo.com.au/site/pdf/5689dd29-0fec-480d-8bc1-3cab878469ea/Kwinana-Site-Visit-Presentation.pdf.
  4. Tianqi Lithium Corporation. Global Offering. (オンライン)2020年6月30日. https://minedocs.com/22/Tianqi-Lithium-Global-Offering-Prospectus-06302022.pdf.
  5. Covalent Lithium Pty Ltd. Covalent Lithium Refinery Environmental Referral Supporting Report. (オンライン)2020年11月. https://www.epa.wa.gov.au/sites/default/files/Referral_Documentation/Referral%20Supporting%20Document_2.pdf.

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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