閉じる

報告書&レポート

2023年5月19日 シドニー 事務所 片山弘行
23_03_vol.53

脱炭素の潮流の中での豪州鉄鉱石と磁鉄鉱プロジェクト

<シドニー事務所 片山弘行 報告>

はじめに

世界の温室効果ガス(GHG)排出量のうち、鉄鉱石鉱業を含む鉄鋼業が占める割合は約7.2%と推定されており[1]、産業分野でのGHG排出量削減に、製鉄プロセスにおける排出削減を進めることは効果的な方法の一つとされる。直接還元鉄をフィードとするグリーン製鉄はその解決策の一つとして考えられているが、鉄鉱石の一大産地である豪州Pilbara地域が生産する鉄鉱石は、ごくわずかしか直接還元鉄が要求する品質に合致しないと言われている。その中で、選鉱を経た上で高品位/低不純物化される磁鉄鉱プロジェクトは直接還元鉄向けフィードとして再び注目が高まっている。

本稿では、鉄鋼業界で脱炭素に向けた取り組みが進む中、豪州鉄鉱石の現状と磁鉄鉱プロジェクトについて概観する。

1.脱炭素潮流における豪州鉄鉱石の現状

現在世界的な製鉄プロセスは高炉法が主流であり、IEAによると、2021年の世界の鉄鋼生産の72%は高炉-転炉法から、8%は直接還元鉄をフィードとする電炉から、20%はスクラップをフィードとする電炉法からの生産となっている[2]。世界鉄鋼協会は、高炉-転炉法におけるCO2排出量は、鉄鋼1t当たり2.32t、フィードすべてをスクラップ原料とする電炉で鉄鋼を生産した場合の排出量は0.67t、直接還元鉄またはホットブリケットアイアン(Hot Briquette Iron; HBI)をフィードとする電炉では1.65tと報告している[3]。以上のことから、製鉄業の排出削減を進めるためには、①現在主流の高炉-転炉法を電炉法主体に転換する、②高炉法での排出を劇的に削減するための技術開発を進める、③排出されたGHGをCC(U)Sにて処理することがカギとなる。

特に水素を利用した直接還元鉄をフィードとする電炉法によるいわゆるグリーン製鉄は、その解決策の一つと考えられている。豪州でも、2021年10月にBlueScope社がRio TintoとPilbara地域の鉄鉱石とグリーン水素を利用した直接還元鉄によるグリーン製鉄に関する協業を図るMOUを締結[4]するなど、積極的な研究開発が展開されている。しかし、このグリーン製鉄の要である電炉法では、そのプロセスの性質上、不純物除去の困難さから原料として求める鉄鉱石の品質が高炉法で求める品質よりも高品位、低不純物であることが求められる。DRIペレットプラント技術を有するMidrex Technologies社は、DRI用フィード向けの好ましい品位として、品位:Fe 66%以上、SiO2+Al2O3 3.5%以下、P2O5 0.03%以下を示している(表1)[5]

表1.DRIフィード用酸化鉄品位
  実用 推奨
Fe 66.0% min 67.0% min
SiO2 + Al2O3 3.5% max 2.0% max
CaO 2.5% max  
MgO 1.0% max  
P2O5 0.03% max 0.015% max
S 0.025% max 0.015% max
Cu 0.03% max 0.01% max
TiO2 0.35% max 0.15% max

出典:Direct from Midrex, 4th Quarter 2019[5]

近年、赤鉄鉱(Fe2O3)を主体とするPilbara地域の直接船積鉱石(Direct Shipping Ore; DSO)では品位の低下が進んでいる。Citiグループは2023年3月にPerthで開催されたIron Ore & Steel Forecast Conference 2023において、Pilbara地域から生産されるシンターフィードの鉄は1998年には品位:63.9%であったが2019年には61.9%まで低下しており、また不純物であるSiO2+Al2O3は品位:SiO2+Al2O3 5.5%から7.1%、リンは品位:P 0.048%から0.067%まで増加していると報告している。またBHPは、同社の2022年Annual Reportにおいて、Pilbara地域における鉱石埋蔵量の現在の不純物品位は品位:SiO2 3.2~5.4%、品位:Al2O3 1.6~2.3%、品位:P 0.05~0.13%、また平均鉄品位はチャンネル鉱床ピソライト鉱石で57.0%、ブロックマン鉱石で62.1%と報告しており [6]、ここ20年近くの埋蔵量ベースの推移を見ても鉄品位の減少傾向、不純物品位の上昇傾向が見て取れる(図1 )。さらにBHPはPilbara地域で産出される鉄鉱石のわずか3%のみしか直接還元鉄に合致する品質を有していないとも指摘している[7]。このように今後、直接還元鉄/HBIを利用した電炉での生産が拡大する場合、直接還元鉄向け鉄鉱石の需要が急増することとなり、DSO主体のPilbara地域の世界の鉄鉱石市場に対する位置づけも変わってくることが予想される。

図1.BHP社Pilbara地域の鉄鉱石埋蔵量品位の推移

図1.BHP社Pilbara地域の鉄鉱石埋蔵量品位の推移

(左:Fe品位、右:P品位) (BKM:ブロックマン鉱石、MM:マラマンバ鉱石、CID:チャンネル型(ピソライト)鉱石)
出典:BHP社Annual Report

この高品位/低不純物鉄鉱石の供給源としてPilbara地域及びその他豪州各地域で再び注目されているのが磁鉄鉱(Fe2O3・FeO)を主体とするプロジェクトである。従来、Pilbara地域ではDSOが価格競争力の点から主力であり、磁鉄鉱プロジェクトはDSOの赤鉄鉱より理論品位は高いものの(品位:赤鉄鉱 69.9%、磁鉄鉱 72.4%)富化作用を受けていないことから不純物が多く、そのままでは出荷できないために選鉱の必要があり、DSOに比して経済性で劣後していた。しかし、今後、DSOも直接還元鉄向けに高品位、低不純物の仕様に改善するためには選鉱する必要が生じ、直接還元鉄向けフィードにおいては磁鉄鉱プロジェクトも十分に経済性を有することになると思われることから再び注目を集めている。

2.DSOの活用に向けた技術開発

磁鉄鉱プロジェクトの開発には選鉱施設などの必要性からDSOよりも多額の初期投資を要し、また水や尾鉱ダムなど環境許認可の点においても困難さは増すことから、当面、鉄鉱石資源としてのDSOの重要性は変わらない。そこでPilbara地域のDSOをグリーン製鉄の原料として使用可能とするための技術開発も並行して精力的に行われている。

Rio Tintoは原料炭に代わる還元剤としてのバイオマスと高周波電磁エネルギーを利用して鉄鉱石を金属鉄に転換する「BioIron」と称する技術のパイロット試験をPilbara地域の鉄鉱石を用いてドイツで実施した[8]。また、同じくRio Tintoは豪製鉄大手BlueScope社と水素を利用した直接還元鉄による製鉄に関する協業を実施しており[4]、Pilbara地域の鉄鉱石から製造される直接還元鉄に含まれる不純物を除去するため、直接還元炉の後段に電気製銑炉(Electric Smelter)による不純物除去の溶解プロセスを設けることで、転炉もしくは電炉双方での製鋼を可能とするための技術開発を行っている。

BHPは、JFEと高炉法や直接還元鉄製造に関して、豪州産の鉄鉱石を活用した共同研究を実施することを2021年2月に発表している[9]。また従来のDSOを高品位化するため、豪Jimblebar鉱山での選鉱工程の可能性について検討を行っている。

3.豪州の磁鉄鉱ポテンシャル

従来、豪州ではDSOに適した赤鉄鉱-針鉄鉱を中心とした二次富化鉱床が採掘対象となっており、その中心はWA州Pilbara地域である。しかし磁鉄鉱資源も豊富に存在しており、豪州各州にポテンシャルが認められる。

3.1.WA州

PilbaraクラトンやYilgarnクラトンでの縞状鉄鉱層(Banded Iron Formation; BIF)で風化等による二次富化作用の影響を受けていない初生の鉄鉱石鉱床が磁鉄鉱資源として認識される。前述のとおり、磁鉄鉱鉱床はこれらの地域で以前から認められていたものの、DSOプロジェクトに比して経済性の観点から重要視されていなかったが、最近急速に開発の機運が高まってきており、現在磁鉄鉱プロジェクトの多くがこれらの地域に存在する。

また、Yilgarnクラトン地域では、含バナジウム・チタン磁鉄鉱鉱床から含バナジウム磁鉄鉱精鉱の生産を計画するプロジェクト(例えば、豪Australian Vanadium社のAustralian Vanadiumプロジェクト)もあり、新たな鉄資源として期待される。

3.2.SA州

SA州では1800年代後半から鉄鉱石の採掘が行われているが、磁鉄鉱鉱石が新たな価値ある資源として再認識されたのは2000年代中盤であり、2021年現在、SA州の鉄鉱石生産量は9.6百万t、うち磁鉄鉱のDSOは1.7百万t、磁鉄鉱精鉱は0.7百万tであり、全生産量の1/4が磁鉄鉱となっている[10]

SA州政府はNorth Gawler、South Gawler、Braemarの3地域を有望な磁鉄鉱鉱床地域とし、これら3地域の潜在的な磁鉄鉱資源量を16.1十億tと算出している[11]。これらの地域はいずれも縞状鉄鉱層が認められており、WA州に次いで磁鉄鉱を含む鉄鉱石資源の豊富な地域である。

図2.SA州の磁鉄鉱プロジェクト・鉱徴地

図2.SA州の磁鉄鉱プロジェクト・鉱徴地

出典:SA州エネルギー・鉱業省[12]

3.3.TAS州

同州では19世紀末に小規模に鉄鉱石が採掘されていたが、本格的に磁鉄鉱が採掘されたのは1965年の豪Savage River鉱山の操業開始からである。同州の磁鉄鉱プロジェクトの多くは同島北西部の北海岸から西海岸にかけて長さ100kmにわたってNE-SW方向に認められるArthur Lineamentと称されるリニアメント構造に胚胎している[13]。Savage River鉱山はKiruna型のIOCG鉱床と示唆されているが、詳細な調査が必要とされている[14]。また同州北西部にはKara鉱床などスカルン鉱化作用に伴う錫-タングステン鉱床に付随する磁鉄鉱も認められている。

図3.TAS州の磁鉄鉱含む産業用鉱物鉱徴地

図3.TAS州の磁鉄鉱含む産業用鉱物鉱徴地

出典:The industrial Mineral Deposits of Tasmania, Mineral Resources Tasmania, June 2008[14]

3.4.NSW州

同州の磁鉄鉱のポテンシャル地域として中央部のLachlan造山帯及び北東部のNew England造山帯の複数の磁鉄鉱鉱床地域が認められている。Lachlan造山帯では、オルドビス期からシルル~デボン紀の塩基性プルトンによるスカルン化作用で生成した磁鉄鉱鉱床が認められ、最近まで豪Tallawang磁鉄鉱鉱山や豪Broula磁鉄鉱鉱山において主に選炭用途に供するための小規模な採掘が行われていた。またSA州からNSW州Broken Hillまで続くBraemer Iron Formationに胚胎する磁鉄鉱鉱床は規模が期待されるとともに、特にその軟質な性状がエネルギー的に採掘、選鉱時に有利として注目されている[15]

 図4.NSW州の鉄鉱石プロジェクト・鉱徴地

図4.NSW州の鉄鉱石プロジェクト・鉱徴地

出典:Iron, Opportunities in New South Wales, Australia, February 2015[15]

3.5.NT準州

同準州で鉄鉱石が賦存する地域としては、Darwinから南東にかけてのPine Creek造山帯、その南東延長のMcArthur Basin、準州中央部のArunta地域に大別され、このうちPine Creek造山帯やMcArthur Basinでは浅海性の堆積鉱床及びその二次富化した鉱床を採掘対象としているが磁鉄鉱には乏しい。Arunta地域には含バナジウム・チタン磁鉄鉱鉱床が賦存しており、Mount Peakeプロジェクトはその代表的なプロジェクトである。またTennant Creek周辺地域では過去にIOCG型鉱床から銅、金を採掘しており、その尾鉱には未回収の磁鉄鉱が多く含まれていることから、それらを回収するプロジェクトも存在している[16] [17]

図5.NT準州の鉄鉱石プロジェクト・鉱徴地

図5.NT準州の鉄鉱石プロジェクト・鉱徴地

出典:Resourcing Territory, Iron Ore; NT Geological Survey[17]

4.磁鉄鉱に対する政府戦略・支援

SA州では、州内の磁鉄鉱資源の活用を目指し、磁鉄鉱を対象とした戦略「Magnetite Strategy」を2017年12月に策定した。SA州内の鉄鉱石資源の90%以上が磁鉄鉱であり、現在同州では2.3百万tの磁鉄鉱が生産され、国内供給及び海外に輸出されていることから、本戦略では2030年までに年産50百万トンの生産を達成し、世界の磁鉄鉱供給リーダーとなることを目的に、2022年までに磁鉄鉱資源への10bA$の投資誘致を目指すこととしている[12]

WA州では磁鉄鉱を対象とした戦略は特に策定されていないが、DSOに対しては7.5%となっているロイヤルティ比率を磁鉄鉱精鉱には5%とすることを2013年に明言している[18]。磁鉄鉱プロジェクトの開発に先立ち、精鉱は5%としている規則の適用を明確化したものであるが、これは当時開発機運が高まっていた磁鉄鉱プロジェクトの促進を図ったものである。

5.代表的な磁鉄鉱鉱山/プロジェクト

5.1.Sino Iron鉱山

中国CITIC Group社傘下のCITIC Pacific Mining社が保有、2013年に生産を開始した鉱山でWA州Pilbara地域、Karrathaの西南西約70kmに位置する。Hamersleyベースンの初生の縞状鉄鉱層を採掘対象とし、生産能力は年24百万t、インピットでの一次破砕ののち、AGミル、一次磁選、ボールミル、二次磁選にて選鉱し、スラリー状態で約26kmのパイプラインにてCape Preston港へと輸送、同港から輸出している。2022年度(2022年4月~2023年3月)の磁鉄鉱精鉱の輸出量は21.41百万tと報告されている[19]。選鉱工程で使用する水はCape Prestonの海水淡水化プラントから供給している。

5.2.Karara鉱山

中国Anshan Iron and Steel Group Corporation(Ansteel)が52.16%、豪Gindalbie Metals社が47.84%を保有するJV会社Karara Mining社により操業されているWA州Midwest地域に所在する鉱山で、WA州西部Geraldtonの南東約200kmに位置する。なお、Gindalbie社に2019年にAnsteelに買収されている。

2011年に生産を開始し、現在の生産能力は年8百万t、一次破砕、二次破砕ののち、HPGR、一次磁選、ボールミル、二次磁選、タワーミル、浮選を経て品位:Fe 65~66%の磁鉄鉱精鉱を生産、鉄道にてGeraldton港へと輸送される。なお、鉄道は鉱山から共有鉄道までの支線80kmを建設している。また選鉱工程で使用する水については鉱山の西約120kmに位置する井戸から採水するライセンス(5GL/年)を得ており、140kmのパイプラインにて供給している。

拡張計画としてStage 2からStage 5まで予定しており、最終的には年37.6百万tまで生産能力を高めるとしている。

5.3.Savage River鉱山

TAS州北部Bernie市の南西約100kmに所在し豪Grange Resources社が操業する鉱山。前述のとおり、Kiruna型IOCG鉱床と考えられている。Central PitとNorth Pitの2か所のピットから磁鉄鉱を採掘、ASミル、ボールミル、磁選を経て磁鉄鉱精鉱を生産している。同じくBurnie市の北西70kmには年2.2百万t の生産能力を有するPort Lattaペレットプラントを有しており、山元から同設備までスラリーにてパイプライン輸送してペレットを生産、Port Latta港から輸出している。選鉱工程で使用する水は地域の地下水を採水するとともにスラリーからの再生水を可能な限り利用している。2022年は2,625千tの精鉱を生産し、精鉱1t当たりのC1コストはA$120.64、またペレットは2,518千tの生産量を報告している[20]。一時、日本の商社、製鉄各社が権益を保有し、日本にペレットが輸出されていた実績を有する。

表2.Savage River鉱山の埋蔵量(Reserves)及び資源量(Resources)
鉱石埋蔵量 量(百万t) DTR % Fe % DTC Ni % DTC TiO2 % DTC MgO % DTC P % DTC V % DTC S % DTC
確定 69.0 49.3 68.1 0.03 0.81 1.71 0.006 0.38 0.06
推定 27.7 40.1 67.5 0.04 0.71 1.78 0.009 0.36 0.10
合計 96.7 46.7 67.9 0.04 0.78 1.73 0.007 0.38 0.08
鉱石埋蔵量 量(百万t) DTR % Fe % DTC Ni % DTC TiO2 % DTC MgO % DTC P % DTC V % DTC S % DTC
精測 173.0 51.5 67.9 0.04 0.82 1.82 0.006 0.36 0.07
概測 172.6 41.8 67.1 0.05 0.68 1.36 0.007 0.35 0.11
予測 139.4 37.4 68.8 0.03 0.64 1.15 0.007 0.35 0.08
合計 485.0 44.5 68.3 0.04 0.72 1.46 0.007 0.35 0.09

DTR: Davis Tube Recovery
DTC: Davis Tube Concentrate

出典:ASX Announcement, 31 March 2023; Grange Resources社[21]

5.4.Middleback Range鉱山

SA州Eyre半島付け根の町Whyallaの西約60kmに位置する豪SIMEC社が保有、操業する鉱山。Gawlerクラトン西縁の縞状鉄鉱層Lower Middleback Iron Formationに胚胎し、南からSouth Middleback Range、Iron Baron、Iron Knobの3鉱山からなる複合鉱山である。赤鉄鉱と磁鉄鉱の両方を採掘するが、磁鉄鉱は主にSouth Middleback Range鉱山で産出される。生産能力は年10百万t。採掘された磁鉄鉱はHigh Pressure Grinding Rolls (HPGR)による磨鉱、一次磁選、ボールミルによる磨鉱、二次磁選を経て精鉱となり、スラリーとしてパイプラインにてWhyallaへと輸送、同地のペレットプラントにてペレットに加工され、同社Whyallaの高炉へのフィードもしくは豪州内高炉向けに出荷または輸出している。選鉱工程で使用される水は、SA州水道局からの供給に加え、ペレットプラントはじめとする各処理工程からの再生水で賄っている。

South Middleback Range鉱山からの2021年の磁鉄鉱精鉱輸出量は2,145千tと報告されている[22]

2021年からは乾式の低強度磁選機(Dry Low Intensity Magnetic Separator; DLIMS)を試験的に導入し、本プロセスで生産された磁鉄鉱精鉱をフィードとしたペレットをグリーンスチール向けとしてアピールしている[23]。なお、採掘した鉱石のうち赤鉄鉱は鉄道にてWhyallaに輸送され、高品位鉱はDSOとして、低品位赤鉄鉱は同地のOre Beneficiation Plant (OBP)にて高品位化して出荷される。

5.5.Iron bridge鉱山

WA州Port Hedlandの南145kmに位置し、豪Fortescue Metals Group社が69%、台湾Formosa Steel社が31%を保有する開発中プロジェクト。年22百万tの生産能力で品位:Fe 67%の磁鉄鉱精鉱の生産を目指している。North Star鉱体とGlacier Valley鉱体からなり、採掘された鉱石は乾式の破砕、High Pressure Grinding Rolls (HPGR)による磨鉱、数段の湿式の低強度磁選機(LIMS)を経て、スラリーにしてパイプラインにてPort Hedlandへ輸送する。選鉱工程で使用する水は可能な限りリサイクルするも、必要量はCanningベースンの井戸から採水し、190kmのパイプラインにて送水するとしている。FMG社がグリーン化を推進していることもあり、電力は太陽光-ガスハイブリッド発電及び蓄電池により供給するなどグリーン化を念頭においた開発を行っている。

プロジェクトの初期投資額は3.9bUS$とし、当初予定では2023年3月の操業開始としていたが工事が遅延し、2023年5月1日に磁鉄鉱精鉱の初生産となった[24]

表3.Iron Bridge鉱山の埋蔵量(Reserves)及び資源量(Resources)
鉱石埋蔵量 量(百万t) DTR % 精鉱 Fe % 精鉱 SiO2 精鉱 Al2O3
確定
推定 844 29.6 67.3 5.35 0.27
合計 844 29.6 67.3 5.35 0.27
鉱物資源量 量(百万t) DTR % In-situ Fe % In-situ SiO2 In-situ Al2O3
精測 314 25.3 31.9 41.0 2.64
概測 1,037 24.4 31.0 40.8 2.44
予測 4,833 22.2 30.4 41.4 2.41
合計 6,184 22.7 30.6 41.3 2.43

出典:Full Year 2022 Annual Report and 4E; Fortescue Metals Group社 [25]

5.6.Pekoリハビリプロジェクト

NT準州中央部Tennant Creek近傍に位置し、1970年代に操業された旧Peko銅・金鉱山の尾鉱から磁鉄鉱精鉱を生産するプロジェクトで豪Elmore社が実施。本地域一帯はIOCG型鉱床が胚胎しており、旧Peko鉱山の尾鉱には磁鉄鉱の他に銅、コバルト、金が含有されている。375万tの尾鉱の処理について許可を得ており、生産された磁鉄鉱精鉱はトラックでDarwin港まで輸送され、同港からオフテイク契約先の香港Royal Advance社に販売される。尾鉱であるため破砕、粉砕は不要であり、サイクロン等で分級の後、3段の磁選にて磁鉄鉱精鉱とする。選鉱工程で使用する水は最寄りのTennant Creekからパイプラインで供給される。生産能力は年350千tで、2022年4~6月期に平均品:Fe 66%の磁鉄鉱精鉱の生産を開始、同年10月にDarwin港から初めて精鉱が出荷、2023年1~3月期には28千tの精鉱を出荷している[26]

将来的には磁鉄鉱に加え銅、コバルト、金も回収する予定であり、2023年4~6月期から建設開始を見込む。

表4.Pekoプロジェクトから最初に出荷された磁鉄鉱精鉱の品質
Fe S P Ti SiO2 Al2O3 +106um
64.2% 0.357% 0.016% 0.02% 6.87% 0.87% 1.23%

出典:Elmore社Shareholder Presentation, November 2022[27]

5.7.その他プロジェクト

現在、豪州には多数の開発中の磁鉄鉱プロジェクトが存在している。その一部を以下に取りまとめる。なお、下表以外にも多数の磁鉄鉱プロジェクトが探鉱中である。

表5.主な磁鉄鉱プロジェクト一覧
案件名 権益保有企業 備考
Southdown Grange Resources社 WA Albanyの北東約90kmに所在。2012年にDFSが完成、その後CAPEXの低減を目的に生産量を年5百万tに半減させた計画にてプレFSを作成、2022年2月に完成し、この年5百万tの計画に基づくDFSを進めることを決定。双日が67%、神戸製鋼が33%を保有するSRT Australia社が本プロジェクトの権益30%を保有していたが2022年12月にGrange Resources社が買い戻すことで合意。確定+推定鉱石埋蔵量387.7百万t(品位:Fe 35.6%(DTR),SiO2 1.25%,Al2O3 1.32%,P 0.002%,S 0.50%、概測+精測+予測資源量1.26十億t(品位:Fe 33.7%(DTR),Fe  69.5%(DTC),SiO2 1.34%(DTC),Al2O3  1.26%(DTC),P 0.003%(DTC))[28]
Ridley Atlas Iron社(Hancock Prospecting子会社) WA Port Hedlandから60kmに所在。当初は年3百万tの生産能力、Stage 2として年16.5百万tにまで増強。2022年3月FS開始、2023年前半完成、2023年末までにStage 1のFID予定
Mt Bevan Legacy Iron Ore社(42%)、Hawthorn Resources社(28%)、Hancock Prospecting社(30%) WA Kalgoorlieの北250kmに所在。Hancock社が2021年に参入、9mA$で30%の権益取得。現在PFS作成中。概測+予測資源量1.178十億t(品位:Fe 34.9%)
Jack Hills Expansion Sinosteel Midwest社 WA 2012年までDSOを生産していたJack Hills鉱山の延長部の磁鉄鉱を採掘対象。磁鉄鉱資源量として3.8十億tを推定[29]。2022年1月、Sinosteelは本地域の磁鉄鉱資源及び関連インフラの評価についてFortescueとMOUを締結[30]
Razorback Iron Ore Magnetite Mines社 SA アデレードの北東240kmに所在。Braemar Iron Formationに胚胎するRazorback鉱床及びIronback Hill鉱床を開発対象。2021年7月プレFS完成、推定埋蔵量472.7百万t(品位:Fe 14.5%(DTR)、精測+概測+予測資源量3十億t(品位:Fe 18.2%,SiO2 48.1%,Al2O3 8.1%, P 0.18%)、初期投資額572mA$、税引後NPV(割引率8%)296mA$、税引後IRR 14%[31]
Central Eyre Iron Iron Road社 SA Eyre半島中央部に所在。2014年にDFS完成。確定+推定鉱石埋蔵量2.1十億t(品位:Fe 15.5%)、精測+概測+予測資源量3.7十億t(品位:Fe 16%,SiO2 53%, Al2O3 12%,P 0.08%)。シンターフィード向けに粗粒の精鉱を生産予定。Cape Hardy港まで鉄道輸送。CAPEXは3.98bUS$。NPVは2.69bUS$[32]。同港でのグリーン水素を用いたペレットプラントについても検討
Warrego tailings Northern Iron社 NT Tennant Creekの北東50kmに所在。IOCG型のWarrengo, Geko, Orland旧鉱山の尾鉱から磁鉄鉱を回収。9.11百万tの尾鉱からは品位:Fe 67%以上の磁鉄鉱精鉱19.1百万tの生産を予定。マインライフ3~6年、2023年第3四半期の生産開始を見込む[33]
Hawsons Iron Hawsons Iron社 NSW Broken Hillの南西60kmに所在。推定埋蔵量755百万t(品位:Fe 14.7%(DTR))、精測+概測+予測資源量3.9十億t(品位:Fe 12%(DTR))。2017年PFS完成、2022年に年20百万tの生産能力にてBFS作成開始。Hawsons Supergradeと称する品位:Fe 約70%の高品位磁鉄鉱精鉱の生産を見込む。三菱商事RtMは2016年3月にSupergradeの年1百万tのオフテイクの関心表明[34]、三井物産は2018年2月にBFSへの5.4mA$のファイナンス及び年2百万tのSupergradeのオフテイクを締結[35]

出典:各社ホームページ

 図6.豪州の主要な磁鉄鉱鉱山/プロジェクト

図6.豪州の主要な磁鉄鉱鉱山/プロジェクト

各社プロジェクト情報から筆者作成

おわりに

世界的には鉄鉱石資源としての磁鉄鉱の重要性は従来から高かったものの、膨大な量の高品質なDSOの存在により、特にPilbara地域では注目度がなかなか高まらなかった磁鉄鉱プロジェクトであるが、近年の脱炭素の潮流を受けて耳目を集めつつある。水や尾鉱ダムに係る環境許認可やインフラ、そもそものコスト構造などに難しさは残るが、脱炭素の流れを受けて今後はこれらの磁鉄鉱プロジェクトの多くが開発に移行することが期待される。

参考文献

  1. Our World in Data. Emissions by sector. (オンライン) https://ourworldindata.org/emissions-by-sector.
  2. International Energy Agency. Iron and Steel. (オンライン) https://www.iea.org/reports/iron-and-steel.
  3. World Steel Association. Sustainability Indicators 2022 report. (オンライン) https://worldsteel.org/wp-content/uploads/Sustainability-Indicators-2022-report.pdf.
  4. Rio Tinto. Rio Tinto and BlueScope to explore low carbon-steelmaking pathways. (オンライン) 2021年10月29日. https://www.riotinto.com/news/releases/2021/Rio-Tinto-and-BlueScope-to-explore-low-carbon-steelmaking-pathways.
  5. Midrex Technologies, Inc. Direct from Midrex, 4th Quarter 2019. (オンライン) https://www.midrex.com/wp-content/uploads/Midrex-2019-DFM4QTR-Final.pdf.
  6. BHP. Annual Report 2022. (オンライン) https://www.bhp.com/-/media/documents/investors/annual-reports/2022/220906_bhpannualreport2022.pdf.
  7. —. Steel and iron ore market outlook / Steel debarbonisation pathways. (オンライン) 2022年10月3日. https://www.bhp.com/-/media/documents/media/reports-and-presentations/2022/221003_marketingspeeches.pdf.
  8. Rio Tinto. Rio Tinto’s BioIron™ proves successful for low-carbon iron-making. (オンライン) 2022年11月23日. https://www.riotinto.com/en/news/releases/2022/rio-tintos-bioiron-proves-successful-for-low-carbon-iron-making.
  9. BHP. BHP partners with JFE to address decarbonisation in the steel industry. (オンライン) 2021年2月10日. https://www.bhp.com/news/media-centre/releases/2021/02/bhp-partners-with-jfe-to-address-decarbonisation-in-the-steel-industry.
  10. Government of South Australia. South Australian mineral resource production statistics for the six month ended 31 December 2022. (オンライン) https://sarigbasis.pir.sa.gov.au/WebtopEw/ws/samref/sarig1/image/DDD/RB202300034.pdf.
  11. Geological Survey of South Australia. Magnetite: South Australia’s resource potential. (オンライン) 2018年. https://sarigbasis.pir.sa.gov.au/WebtopEw/ws/samref/sarig1/image/DDD/MESAJ086030-044.pdf.
  12. Government of South Australia. Magnetite Strategy. (オンライン) https://www.energymining.sa.gov.au/home/events-and-initiatives/initiatives/magnetite_strategy.
  13. Mineral Resources Tasmania. The Geology and Mineral Deposits of Tasmania: a summary, Tasmanian Geological Survey, Bulletin 72. (オンライン) 2006年2月. https://www.stategrowth.tas.gov.au/__data/assets/pdf_file/0007/229633/GSB_72.pdf.
  14. —. The industrial Mineral Deposits of Tasmani. (オンライン) 2008年6月. https://www.stategrowth.tas.gov.au/__data/assets/pdf_file/0003/229638/GSMR13.pdf.
  15. Government of New South Wales. Iron, Opportunities in New South Wales, Australia. (オンライン) 2015年2月. https://meg.resourcesregulator.nsw.gov.au/sites/default/files/2022-11/iron.pdf.
  16. Northern Territory Geological Survey. Iron ore, manganese and bauxite deposits of the Northern Territory. (オンライン) 2001年12月. https://geoscience.nt.gov.au/gemis/ntgsjspui/bitstream/1/81549/3/NTGSRep13.pdf.
  17. —. Resourcing the Terrotory, Iron Ore. (オンライン) 2023年2月. https://resourcingtheterritory.nt.gov.au/__data/assets/pdf_file/0003/756552/RTT_IronOre_Feb2023.pdf.
  18. Government of Western Australia. Media Statements, Royalty incentive for magnetite producers. (オンライン) 2013年4月9日. https://www.mediastatements.wa.gov.au/Pages/Barnett/2013/04/Royalty-incentive-for-magnetite-producers.aspx.
  19. CITIC Group Corporation. Annual Report 2022. (オンライン) 2023年4月20日. https://www.citic.com/uploadfile/2023/0420/20230420541838.pdf.
  20. strong>Grange Resources Limited. Annual Report 2022. (オンライン) 2023年4月11日. https://grange.blob.core.windows.net/public/2327e5a5-7a9e-453a-9fcd-89a142dc7e76.pdf.
  21. —. Update to Savage River Mineral Resources and Ore Reserves. (オンライン) 2023年3月31日. https://grange.blob.core.windows.net/public/e63858fa-8b6c-40d6-b77f-ee41d4339a1f.pdf.
  22. SIMEC Group. 2021 South Middleback Range Mining Area Annual Compliance Report. (オンライン) 2022年9月. https://sarigbasis.pir.sa.gov.au/WebtopEw/ws/samref/sarig1/image/DDD/MCR5607268.pdf.
  23. GFG Alliance. First GREENSTEEL-Ready Pellets Made In Whyalla From Local Magnetite. (オンライン) 2022年8月23日. https://www.gfgalliance.com/media-release/first-greensteel-ready-pellets-made-in-whyalla-from-local-magnetite/.
  24. Fortescue Metals Group Ltd. Iron Bridge First Production. (オンライン) 2023年5月1日. https://www.fmgl.com.au/docs/default-source/announcements/iron-bridge-first-production.pdf.
  25. —. Full Year 2022 Annual Report and 4E. (オンライン) 2022年8月29日. https://www.fmgl.com.au/docs/default-source/announcements/full-year-2022-annual-report-and-4e.pdf.
  26. Elmore Ltd. FY23 March Quarter Update. (オンライン) 2023年4月28日. https://cdn-api.markitdigital.com/apiman-gateway/ASX/asx-research/1.0/file/2924-02659140-6A1147174?access_token=83ff96335c2d45a094df02a206a39ff4.
  27. —. Shareholder Presentation. (オンライン) 2022年11月30日. https://cdn-api.markitdigital.com/apiman-gateway/ASX/asx-research/1.0/file/2924-02659140-6A1147174?access_token=83ff96335c2d45a094df02a206a39ff4.
  28. Grange Resources Limited. Southdown Magnetite Project Prefeasibility Study. (オンライン) 2022年3月22日. https://grange.blob.core.windows.net/public/ceacaf2d-627e-4b8d-aff1-050298c93517.pdf.
  29. Sinosteel Midwest Group. Projects. (オンライン) https://smcl.com.au/projects/.
  30. Fortescue Metals Group Ltd. Fortescue and Sinosteel to commence assessment of Sinosteel’s midwest Magnetite and Infrastructure Project. (オンライン) 2022年1月21日. https://www.fmgl.com.au/in-the-news/media-releases/2022/01/21/fortescue-and-sinosteel-to-commence-assessment-of-sinosteel’s-midwest-magnetite-and-infrastructure-project.
  31. Magnetite Mines Limited. Positive PFS Results for Razorback Iron Ore Project. (オンライン) 2021年7月5日. https://www.investi.com.au/api/announcements/mgt/7f7042ab-ff0.pdf.
  32. Iron Road Limited. DFS – Announcement. (オンライン) 2014年2月26日. https://www.ironroadlimited.com.au/~ironroadlimitedc/index.php/central-eyre-iron-project/definitive-feasibility/dfs-asx-announcement.
  33. Government of Northern Territory. Resourcing the Territory, Developing Projects. (オンライン) https://resourcingtheterritory.nt.gov.au/minerals/mines-and-projects/developing-projects.
  34. Carpentaria Exploration Ltd. Mitsubishi Corporation RtM Japan signs LOI for Hawsons Supergrade offtake. (オンライン) 2016年3月14日. https://carpentariares.wpengine.com/wp-content/uploads/2018/03/14579094241535406.pdf.
  35. Carpentaria Resources Limited. Japan’s Mitsui & Co., Ltd. secures Hawsons off-take providing financial support for BFS. (オンライン) 2018年8月6日. https://carpentariares.wpengine.com/wp-content/uploads/2018/08/Mitsy-deal.pdf.

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

ページトップへ