報告書&レポート
サウジアラビア王国鉱業概論
(英:Introduction to Mining Sector in the Kingdom of Saudi Arabia) 2/3
5.サウジラビアの鉱業
有史以前から金を中心とした非鉄金属鉱業で栄えていたサウジアラビアであるが、断続的な鉱業活動をはさみつつ、近代的な設備での鉱業生産は20世紀後半になって“再開”された。再開されたサウジアラビアの金属鉱業であったが、初期の時点ではその経済規模はかなり限定的なものであった。1968年に小規模鉄鋼プラント向けの鉄鉱石採掘(Wadi Sawawin鉱床およびWadi Fatima*3鉱床)[88-90]と、肥料製造用のリン鉱石の採掘(Turaif鉱山等)[91-92]の操業が極小規模に始まったとされ[93]、それ以前にも石膏および石灰採掘については小規模に行われていたようである[88-90]。また、1973年の資料でも、クロム、銅、鉛、食塩、リン鉱石、硫黄、亜鉛、鉄鉱石および石炭のいずれにおいても生産量は0tと報告されている[94]。この時代になっても、アラブ世界における鉱物資源生産の中心は、チュニジア共和国(Republic of Tunisia)、アルジェリア民主人民共和国(People’s Democratic Republic of Algeria)およびモロッコ王国(Kingdom of Morocco)といった地中海に面したいわゆるマグレブ地域(Maghreb Region)であった。サウジアラビアが石油以外の鉱産物資源開発に対して本格的に注力し始めた転換点は、1973年3月にサウジアラビア鉱物資源総局(The Saudi Arabian Directorate General of Mineral Resources)が1975年から1980年までの5年間を対象とした鉱物資源探査に関する新5ヵ年計画の草案を提示して以降と思われる。この計画は、当時見つかっていたJabal Sayid鉱床以外に、経済性を有する金属鉱床および非金属鉱床を発見するため、それまでの不調な結果を直視したうえで調査地域をアラビアンシールド以外にも拡大し、基礎的な調査・研究にも注力することを盛り込んだものであった[88-90]。以来、同国は陰に日向に、石油以外の鉱物資源開発を推進してきた。なお、金属鉱物資源産業に先んじて発展してきた石油資源産業については、サウジアラビアの国営企業であるSaudi Arabian Oil Co.(Tadāwul*4:ARAMCO)[95]により、同国Hasa地域およびRub al Khali地域を対象とした石油の探鉱が開始されたのが1933年9月、経済性のある油田の発見が1938年3月[96]、生産開始は同年同月である[97-98]。
2024年現在、サウジアラビアでは、アルミニウム(ボーキサイト)、マグネシウム、リン、金、銅といった鉱産物の国内生産が行われている。ボーキサイト鉱床として、サウジアラビア北部の都市Zabirah近郊にAz Zabirahボーキサイト鉱床およびAl Ba’ithaボーキサイト鉱床が開発されている。北西部の都市Al Ghazalah近郊では、同名の高品位(Measured + Indicated + Inferred資源量5.67百万t@43.51% MgO、3.94% CaO、2.21% SiO2およびProved + Probable埋蔵量0.2百万t@47.12% MgO、0.96%CaO、0.54% SiO2)Al Ghazalahマグネサイト鉱床が発見されている[24,99]。前述の2か所のボーキサイト鉱床について、Az Zabirah鉱床の鉱石については低品位(工業用ボーキサイトのMeasured + Indicated + Inferred資源量164.40百万t@52.38% Al2O3、15.12% SiO2およびProved + Probable埋蔵量15.25百万t@53.83% Al2O3、15.78% SiO2、ならびに製錬用ボーキサイトのMeasured + Indicated + Inferred資源量126.20百万t@53.73% Al2O3、15.33% SiO2)[18-19]のため、現状ではアルミナ原料には使用されず、Ma’aden[99]の完全子会社で2009年に設立されたMa’aden Industrial Minerals Companyによってセメント原料として国内のセメント企業に供給されている。Al Ba’itha鉱床の鉱石は相対的に高品位(Measured + Indicated + Inferred資源量で211.73百万t@57.57% Al2O3、8.50% SiO2、およびProved + Probable埋蔵量192百万t@56.44% Al2O3、9.58% SiO2)であることから、アルミニウム製錬用途に供給されている。2009年に設立されたMa’aden(74.9%)と米Alcoa Corporation社(New York証券取引所(NYSE):AA、25.1%)[100]のアルミニウム生産複合施設合弁事業の一環としてMa’aden Bauxite and Alumina Company(以降「MBAC」と称する。)がAl Ba’itha鉱床の採鉱オペレーションを担っており、鉱石はサウジアラビア東部のペルシャ湾沿岸都市Ras Al Khairに建設されたMBACのアルミナ製造工場まで鉄道輸送により送られて、現地でアルミナが製造されている。製造されたアルミナは、最終的に同都市のアルミニウム製錬工場でアルミニウムに還元される。
日系企業のサウジアラビア鉱業界への進出事例としては、東邦チタニウム株式会社(TYO:5727)[101]による西部の紅海沿岸都市Yanbuでの製造工場建設を含むスポンジチタン関連の一連の合弁事業(東邦チタニウム株式会社35%、Advanced Metal Industries Cluster Company Ltd. 65%)[102]や、蝶理株式会社(TYO:8014)が前述のAl Ghazalah鉱山由来のマグネシウム鉱石の処理プラントを西部の紅海沿岸都市Madinahに保有している事例が挙げられる[103]。
![Fig. 7 サウジアラビアにおける鉱業セクター施設および鉱山の一覧地図[99]。 Map of mining sector plants and mines in the Kingdom of Saudi Arabia[99].](https://mric.jogmec.go.jp/wp-content/uploads/2024/08/mr24_01zu07.jpg)
Fig. 7 サウジアラビアにおける鉱業セクター施設および鉱山の一覧地図[99]。
Map of mining sector plants and mines in the Kingdom of Saudi Arabia[99].
6.本邦政府関連機関との資源外交
近年の本邦政府関連機関と、サウジアラビアの鉱工業パートナーシップ事例としては以下のようなものがある。
2023年12月24日、本邦の経済産業省(英:Ministry of Economy, Trade and Industry、以降「METI」と称する。)は齋藤健経済産業大臣(英:Mr. Ken Saito, Minister of Economy, Trade and Industry)のサウジアラビア訪問に際し、同国の産業鉱物資源省(英:Ministry of Industry and Mineral Resources)との間で鉱物資源分野における情報交換、人材育成、第三国協調投資などの協力関係の枠組みを定める協力覚書(英:Memorandum of Cooperation、以降「MOC」と称する。)を締結した[105-106]。
METI傘下の独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC:Japan Organization for Metals and Energy Security)は2022年10月20日に、ARAMCOと「水素・アンモニア分野における包括協力協定」を締結した[107]。2023年5月31日には、一般財団法人中東協力センター(英:Japan Cooperation Center for the Middle East、以降「JCCME」と称する。)[108]と共催で、同国のファハド・アルナイーム投資省投資開発担当副大臣(英:Mr. Fahad Alnaeem, Deputy Minister of Sector Investment Development)およびトルキー・アルバブテイン産業鉱物資源省鉱業開発担当副大臣(英:Mr. Turki Albabtain, Deputy Minister for Mining Development)を日本に招聘し、日本企業や関係機関を交えた鉱業投資ラウンドテーブルを開催した[109-111]。その後JOGMECはMOCに基づき、2023年12月24日にMa’aden(51%)とPIF(49%)[112]の合弁企業Manara[113]との第三国への鉱業分野における協調投資を行うことを目的に、包括協力協定に署名した[114]。続けてJOGMECは2024年1月10日に、サウジアラビアで開催された2024年の第3回サウジアラビア国際鉱物資源フォーラム(英:Future Minerals Forum、以降「FMF」と称する。)[115]に参加し、前述のMOCに基づき、産業鉱物資源省との間で政府間の覚書の実行に向けた協力事項に係る協力覚書を締結した[116]。なお、2022年から首都Riyadhで毎年開催されているFMFであるが、公式発表によると2024年1月の第三回FMFでは、145以上の国々から13,000人以上の参加があったとのことである[115]。その後もJOGMECはサウジアラビアとの交流の機会を絶えず開催しており、2024年3月14日にも、東京本部においてManaraとの共催で、同社のタルモ・ハーンセン最高投資責任者(英:Mr.Tarmo Haehnsen, Chief Investment Officer)[113]を招いてのサウジアラビアを対象とした鉱業投資ラウンドテーブルを再度開催し、本邦の鉱業関連民間企業も多数これに参加した[117]。また、JOGMECでは石油セクターにおいても従来通りサウジアラビアとは良好な関係を継続している[118等]。
同じく、METI傘下の独立行政法人日本貿易振興機構(英:Japan External Trade Organization、以降「JETRO」と称する。)[119]も近年サウジアラビアに注力している。2022年12月26日には、METI、JCCME、サウジアラビア投資省(英:Ministry of Investmet、以降「MISA」と称する。)と4者共催でサウジ・ビジョン2030ビジネスフォーラム(英:Saudi-Japan Vision 2030 Business Forum in Riyadh)を開催し、様々な分野を対象に両国間で15件の協力覚書を締結した[120-121]。2023年12月25日にはMETI、JCCMEおよびMISAとの4者共催で日本・サウジアラビア投資フォーラム(英:Saudi – Japan Investment Forum)を開催し、両国間でエネルギー関連などの分野で14件のMOUが締結された[122-125]。このように政府関連機関同士の交流にも、近年力が注がれている。
7.サウジアラビアの非鉄金属鉱業プロジェクト
近年注目されているサウジアラビア国内の非鉄金属鉱山のプロジェクトとして、Barrick Gold Corp.(NYSE:GOLD)[126]とMa’aden[99]との対等合弁会社であるMa’aden Barrick Copper Companyにより操業されているJabal Sayid鉱山プロジェクトと、Ma’aden単独で操業しているMahd Ad Dhahab鉱山プロジェクトが挙げられる(Fig. 8)。
![Fig. 8 Jabal Sayid鉱床およびMahd Ad Dhahab鉱床の位置関係と周辺地質図
The location of Jabal Sayid deposit and Mahd Ad Dhahab deposit and the regional geological map. Geo-coordinate system of [72] converted to WGS 84 UTM Zone 37N and edited.](https://mric.jogmec.go.jp/wp-content/uploads/2024/08/mr24_01zu8.png)
Fig. 8 Jabal Sayid鉱床およびMahd Ad Dhahab鉱床の位置関係と周辺地質図
The location of Jabal Sayid deposit and Mahd Ad Dhahab deposit and the regional geological map. Geo-coordinate system of [72] converted to WGS 84 UTM Zone 37N and edited.
[72]の図を著者が座標系:WGS 84 UTM zone 37Nに変換し、一部を編集
(1)Jabal Sayid鉱山プロジェクト
Jabal Sayid鉱床はサウジアラビア第二の都市Jeddahより北東に350kmの地点に位置する。「Jabal Sayid」とはアラビア語で「狩人(Sayid)の山(Jabal)」を意味し、その名の通り砂塵の中に顔を出した連なる丘陵地の中に発見された。同鉱山でも、考古学的な鉱業活動が認められており、近代的な最初の探鉱調査も1954年に行われた考古遺物としての廃滓の分析および廃滓地跡を対象とした試掘[127]に始まっている[31]。Jabal Sayid鉱床を対象とした本格的な調査は、現在の産業鉱物資源省の前身である1960年に設立された石油鉱物資源省傘下の鉱物資源局(英: Directorate General of Mineral Resources:DMR)と、米のU.S. Geological Survey(以降「USGS」と称する。)[128]、フランスのBureau de Recherches Géologiques et Minières(以降「BRGM」と称する。)[129]等の地質調査所によって実施され、その結果、現在開発中の鉱床の発見に至っている。当時の鉱物資源局では1963年以降、日本の工業技術院地質調査所(現在の国立研究開発法人産業技術総合研究所の前身組織の1つ)[130]、USGS米地質調査所(USGS)、フランス地質・鉱山研究所(BRGM)等の地質調査所から調査団を招聘し、実際の調査業務の大部分をこれらの機関が行ったとされる。特に米国USGSとフランスBRGMはサウジ政府と国家間の委託契約が締結されており積極的な調査が実施された[11-13,39-46,88-92,132等]。こうした背景の中、フランスはアラビアンシールドを中心とした主要な鉱床分布地域の地質調査および鉱床調査を受け持ち、いくつかの有望鉱床を発見したが、その中でも鉱床規模および品質において最も優れており、当時から有望視された鉱床がJabal Sayid鉱床であった[129-134]。
1965年に、Jabal Sayid鉱床のNo. 1鉱体(英:No. 1 Load、No.1 Deposit、Load 1、Ore Body No.1等と呼称。)の地表のゴッサン(英:Gossan)鉱体が発見された。続いて1966年から1974年にかけてBRGMが物理探査、地質調査およびダイヤモンド試錐を実施し、一連の探査の中で、1970年にNo. 2鉱体およびNo. 3鉱体が、1972年にNo.4鉱体が発見されている[11-13,39-46,131-137等]。次いで、1974年から1979年の間に、BRGM傘下のSociété d’Études de Recherches et d’Explorations Minières(以降「SEREM」と称する。)とUnited States Steel Corporationが最初の探鉱権を取得し、試錐、地質調査および物理探査による鉱床の精査を行った[39-46,131-137]。続いて1977年から1979年にかけて、現在のRio Tinto Group(ASX、LSE、NYSE:RIO)[138]の前身のうちの1社であるRio Tinto-Zinc Corporationの子会社であるRio Tinto Finance & Exploration Ltd.(Riofinex)によってJabal Sayid鉱床周辺の地質調査およびデータ収集が実施された[134-138]。その後、1980年から1984年にかけて、DGMRとBRGMにより、経済性評価の一部を構成する地下探査が実施された。1989年には、現在のTeck Resources社(NYSE:TECK)[139]の前身となるTeck CorporationとCominco Ltd.によってデータレビューが行われ、その結果大規模な投資に先立って、予備的経済性調査の再実施が推奨された。次に1997年に米鉱業投資アドバイザーBehre Dolbear & Company Inc.によってもデータレビューが実施され、前出のTeck CorporationとCominco Ltd.によるデータレビューの再実施について、同意する結果となった[137,139]。2001年にMa’adenが探鉱権を付与され、RC試錐とデータ収集が実施された。
2005年の鉱業投資法改正により、民間企業にも探鉱ライセンスが解放されたことで、翌2006年にはサウジアラビアの民間鉱業企業であるCentral Mining Company Investments Ltd.(以降「CMCI」と称する。)に探鉱権を付与された[75,135,137]。同年CMCIはVertex GroupとJabal Sayid鉱床を対象とした探鉱事業のために両社の合弁会社としてBariq Mining Ltd.を形成し[73,135,137]、登記変更により探鉱ライセンスは同社に継承された[73,137]。2007年にADV Group Ltd.とバーレーンのVertex Groupが合併し、Citadel Resource Group Ltd.が成立した[140]。CMCIと、Citadel Resource Group Ltd.の子会社となったVertex Groupとの合弁子会社として、Bariq Mining Ltd.が存在する構造となる[137]。2010年5月に、Citadel Resource Group Ltd.の子会社Bariq Mining Ltd.に対して事業ストラクチャーの組成変更後も探鉱権の継承が認められた[137]。同年10月にEquinox Minerals Ltd.(TSX:EQN、2011年上場廃止)がCitadel Resource Group Ltd.を買収した[137]。その後Equinox Minerals Ltd.は、2011年4月に中国五鉱集団公司China Minmetals Corp.)からの買収提案の拒絶[142]を経て、同年同月Barrick Gold Corp.による買収提案を受け入れて被買収を完了し、その後しばらくはBarrick Gold Corp.単独権益の探鉱アセットという状態が続いた。
再度状況が動いたのは2014年7月で、Barrick Gold Corp.とMa’adenはJabal Sayid鉱山の開山操業に向けて合弁子会社であるMa’aden Barrick Copper Companyを設立し[126]、同年12月にはJabal Sayid鉱床の権益の買収を完了して[99]、Barrick Gold Corp.の権益比率50%とMa’adenの権益比率50%という現在に至るまでの大枠のJabal Sayid鉱山の事業ストラクチャーが完成した。2014年末に生産開始は2016年上旬からと発表され、実際に2016年6月より商業生産が開始された[99]。
Jabal Sayid鉱床は、玄武岩質~安山岩質溶岩、角礫岩、凝灰岩、珪長質縞状凝灰岩、火砕岩および火山砕屑石英ケラトファイア、チャート、石灰岩、砂岩ならびに礫からなる原生代後期Arj層群[143]のSayid層(Fig. 9)に胚胎される層準規制型VMS鉱床、および関連熱水系による鉱脈鉱床からなる複合鉱床とされる。概略的には、地表露出部でVMS鉱体が酸化溶脱されて形成されたゴッサン鉱体、その下部の層準規制型VMS、およびVMS鉱体周辺のストックワーク状の石英脈鉱体から構成される。地表下の鉱体は、Sayid層凝灰岩および火砕岩および火山砕屑石英ケラトファイアの下盤と、細粒~粗粒の流紋岩質岩と石英粒を含む流紋泥サイト質火砕岩の上盤との間に挟在して胚胎される(Fig. 10)[39-46,59,78]。各鉱体の特徴として、No. 1鉱体およびNo. 2鉱体は鉱体の一部が地表に露出しており、地表での風化によりゴッサン鉱体が形成されている。No. 3鉱体およびNo. 4鉱体は地表下に埋没しており、地表でゴッサン鉱体は確認できない[39-46](Fig. 11)。全4鉱体の内、No. 3鉱体も地化学的異常、地球物理的異常が認められていたものの、後の調査で経済的な規模の鉱化が認められなかったため、近年の資料ではNo. 1鉱体、No. 2鉱体、No. 4鉱体の三鉱体のみが経済性を有する鉱床として扱われている[75,78等]。Jabal Sayid鉱床における特徴的な鉱物として、一般に高温で形成された鉱床に伴われるキューバ鉱の産出が認められている[67]。この点を考慮すれば、浅熱水鉱床というよりも、より深部で高温の熱水により形成されたオロジェニック型等の中温熱水鉱床と考えた方が妥当と思われる。また、浅熱水鉱床としては石英を主体とする鉱脈型鉱石におけるコロフォーム組織が不明瞭である点もこの考えを支持する。なお、銅鉱化は塊状またはブーディン状で、石英の成す不明瞭なコロフォーム組織を切るか、またはオーバーラップするように生じており、金鉱化を伴う石英を主体とした鉱脈鉱化と調和的でないことから、銅鉱化に関しては金鉱化よりも後期に生じた可能性が考えられる。
No. 1鉱体、No. 2鉱体およびNo. 4鉱体を合わせた資源量(Measured + Indicated + Inferred)として33.40百万t@0.39ppm Au、2.38% Cuおよび0.35% Znが、埋蔵量(Proved + Probable)として26.28百万t@2.26ppm Au、2.27% Cuおよび0.37% Znが計上されている[18-19,99]。
なお、当該鉱床から南方数kmの地域に、資料によっては名前の混同が見られるペグマタイト型希土類鉱床であるJabal Sa’id[84-87]鉱床も存在していることには注意が必要である。
![Fig. 9 アラビアンシールドにおける原生代から古生代までの一般的な地質層序図[143] Generalized column of the Proterozoic to Paleozoic geology of the Arabian Shield[143].](https://mric.jogmec.go.jp/wp-content/uploads/2024/08/mr24_01zu09-e1722994145238.jpg)
Fig. 9 アラビアンシールドにおける原生代から古生代までの一般的な地質層序図[143]
Generalized column of the Proterozoic to Paleozoic geology of the Arabian Shield[143].
![Fig. 10 Jabal Sayid鉱床周辺の地質図[144] Geological map around Jabal Sayid deposit[144].](https://mric.jogmec.go.jp/wp-content/uploads/2024/08/mr24_01zu10.png)
Fig. 10 Jabal Sayid鉱床周辺の地質図[144]
Geological map around Jabal Sayid deposit[144].
![Fig. 11 Jabal Sayid鉱床の立体(左)および平面分布図(右)[78]
3D (Left) and plane (Right) images for Jabal Sayid deposit[78].](https://mric.jogmec.go.jp/wp-content/uploads/2024/08/mr24_01zu11.png)
Fig. 11 Jabal Sayid鉱床の立体(左)および平面分布図(右)[78]
3D (Left) and plane (Right) images for Jabal Sayid deposit[78].
![Fig. 12 Jabal Sa'id鉱床周辺の地質図
Geological map around Jabal Sa'id Deposit revised from [77], after[145] and [146].Geo-coordinate system of [77] converted to WGS 84 UTM Zone 37N.](https://mric.jogmec.go.jp/wp-content/uploads/2024/08/mr24_01zu12.png)
Fig. 12 Jabal Sa’id鉱床周辺の地質図
Geological map around Jabal Sa’id Deposit revised from [77], after[145] and [146].Geo-coordinate system of [77] converted to WGS 84 UTM Zone 37N.
[145]および[146]から[77]が作成
座標系については、[77]の図を著者が座標系:WGS 84 UTM zone 37Nに変換
(2)Mahd Ad Dhahab鉱山プロジェクト
アラビア語で「黄金(Dhahab)のゆりかご(Mahd)」の名を冠する「Mahd Ad Dhahab」鉱床はサウジアラビア第二の都市Jeddahより北東に380kmに位置する。同鉱山の歴史は古く、紀元前961年から紀元前922年には最初期の鉱業生産が行われていたとされ、サウジアラビアにおける最古の産金鉱山とされる[26、37、88-90]。この鉱山は当時、イスラエル王国のソロモン王の支配下にあり、王の治世下において主要な産金鉱山であったとされる[26,37,88-90]。次いで同鉱山が歴史に登場するのは紀元後に入ってからのアッバース朝カリフ時代の治世下、西暦750~1250年の間である。この当時は地表付近の酸性風化帯を採掘し、ハンマーと玄武岩性の砥石車を用いた原始的な方法で鉱石を処理し、簡易的な炉で還元製錬を行っていたとされる。近代的な鉱業活動の開始は20世紀に入ってからであり、同鉱山は初代サウジアラビア国王であるアブドゥルアズィーズ・イブン=サウード国王(英:King AbdulAziz bin AbdulRahman bin Faisal Al Saud)[147-147]の招聘に応じて水資源探査の目的で来国していた、米国出身の鉱山技師Karl Saben Twitchell氏によって1932年に再発見されている[22,149-150]。その後、サウジアラビア政府と米国の製錬会社の合弁からなるサウジアラビアン鉱業シンジケート(英:The Saudi Arabian Mining Syndicate)によって、主に古代の尾鉱を再処理するビジネスモデルでの近代的な鉱業生産が1939年に始まった。現在の同鉱山の採掘対象となっている鉱体群は当時のサウジアラビア鉱物資源総局によって行われた1970年代初頭の探鉱活動の結果発見された鉱床群であり、この時発見された鉱床が1983年の経済性評価完成を経て、1988年に近代的な技術を導入しての本格的な鉱業生産が“再開”された[26-27,150]。
Mahd Ad Dhahab鉱床の地球化学的な鉱床タイプ分類としては、鉱化部の緑泥石の化学組成に基づく鉱床形成温度の推定[32]、流体包有物の均質化温度の測定結果[27]、顕著なテルル硫塩鉱物の産出等の観点から浅熱水鉱床とされている。鉱床地質学的な特徴としては比較的単純であり、後期原生代Mahd層群の緑色岩相まで変成を被った礫岩類や凝灰岩類[151-152]に流紋岩質ポーフィリーや、より後期に貫入した一部アルカリ岩組成を示すRamram花崗岩やHufayriyah花崗岩等の花崗岩類が貫入しこれらが一連の鉱化をもたらしたとされる。近年の研究により、この流紋岩質ポーフィリーは黄鉄鉱の鉱染を伴うも、649Ma頃の銅・金等の鉱化[33]を伴う石英脈に切られていることから、当地の鉱化は、前者の流紋岩ポーフィリーではなく、後者Ramram花崗岩やHufayriyah花崗岩等のアルカリ花崗岩類に関連した熱水によってもたらされたとされるようになった[32]。前述のように鉱体はMahd層群のみならず、一部流紋岩質ポーフィリー内部にも生じている[32](Fig. 13、14)。採掘権については、2024年3月現在、Ma’adenが権益を100%有している[19]。古くは地表に露出した鉱石を対象とした採掘が主として行われ、近代に入ってからは露天掘り採掘および坑内掘り採掘が主として行われた。現在は坑内掘りが主であるが、再度露天掘りに対しても経済性評価(英:Feasibility Study、FS)を実施中のようである[19]。品位、資源量・埋蔵量情報については前出の(Table. 1)に示したとおりであり、坑内掘り採掘分と露天掘り採掘分を併せて、資源量(Measured + Indicated + Inferred)として61.65百万t@2.40ppm Au、0.26% Cu、0.67% Znが、埋蔵量(Proved + Probable)として26.28百万t@2.26ppm Au、0.25% Cu、0.69% Znが計上されている[19]。
![Fig. 13 異なる岩石ユニットの分布および鉱化部の情報を示したMahd Ad Dhahab鉱床地域周辺の地質図
Geological map of the Mahd Ad Dhahab deposit area showing the various lithostratigraphic units and mineralized zones revised from [29] after [153], and [32] after [153] and [154]. Geo-coordinate system is converted to WGS 84 Zone 37N.](https://mric.jogmec.go.jp/wp-content/uploads/2024/08/mr24_01zu13.png)
Fig. 13 異なる岩石ユニットの分布および鉱化部の情報を示したMahd Ad Dhahab鉱床地域周辺の地質図
Geological map of the Mahd Ad Dhahab deposit area showing the various lithostratigraphic units and mineralized zones revised from [29] after [153], and [32] after [153] and [154]. Geo-coordinate system is converted to WGS 84 Zone 37N.
[153]から作成された[29]、ならびに[153]および[154]から作成された
[32]より著者が作成し、著者が座標系:WGS 84 UTM zone 37Nに変換
![Fig. 14 Fig. 13のMahd Ad Dhahab鉱床北部鉱化帯および南部鉱化帯を切るA-A'の南北断面図[29]
North-south cross section A-A' on Fig. 13 through the Northern and Southern Mineralized Zones of Mahd Ad Dhahab[29].](https://mric.jogmec.go.jp/wp-content/uploads/2024/08/mr24_01zu14.png)
Fig. 14 Fig. 13のMahd Ad Dhahab鉱床北部鉱化帯および南部鉱化帯を切るA-Aの南北断面図[29]
North-south cross section A-A’ on Fig. 13 through the Northern and Southern Mineralized Zones of Mahd Ad Dhahab[29].
おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。


