報告書&レポート
サウジアラビア王国鉱業概論
(英:Introduction to Mining Sector in the Kingdom of Saudi Arabia) 3/3
8.鉱業関連政府機関/企業
現在のサウジアラビアは、1902年に第三次サウード王国を復興し、1932年にサウジアラビアの建国を宣言した初代国王であるアブドゥルアズィーズ・イブン=サウード国王の一族である、サウード家の子孫を国王兼首相として戴く絶対君主制を採用している。サウジアラビアでは、同国の統治基本法(英:The Basic Law of Saudi Arabia)[155]に基づき、通常時は国王が首相を兼ねることになっているが、現在は同法に基づく国王勅令A/61号により、ムハンマド・ビン・サルマーン王太子(英:His Royal Highness Prince Mohammed bin Salman bin Abdulaziz Al-Saud, Crown Prince)が首相(英:Prime Minister)を務めている[157]。2024年5月現在、最上位に閣僚評議会の構成員たる国務大臣(英:Minister)を戴く行政組織は計24省(Table. 2)設置されているが、現在のサルマン皇太子は改革派とされており、同国の成長戦略であるSaudi Vision 2030[156]に則り省庁改革を進めていることから、近年では省庁の数は統廃合に因り流動的となっている。これらの省庁のうち鉱業分野を直接的に所管するのは、投資窓口および包括的な関与としての役割を持つ投資省(英:Ministry of Investment)[168]と、専門分野としての役割を持つ産業・鉱物資源省(英:Ministry of Industry and Mineral Resources)[173]となっている。
| 閣僚職名(和) | 閣僚職名(英) | 管轄省庁名(和) | 管轄省庁名(英) | |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 首相 | Prime Minister | ー | ー |
| 2 | 副首相 | Deputy Prime Minister | ー | ー |
| 3 | 国防相 | Minister of Defense | 国防省 | Ministry of Defense |
| 4 | 国家警備隊相 | Minister of National Guard | 国家警備隊 | Ministry of National Guard |
| 5 | 内務相 | Minister of Interior | 内務省 | Ministry of Interior |
| 6 | 教育相 | Minister of Education | 教育省 | Ministry of Education |
| 7 | 都市村落・住宅相 | Minister of Municipal and Rural Affairs and Housing | 都市村落・住宅省 | Ministry of Municipal and Rural Affairs and Housing |
| 8 | 外務相 | Minister of Foreign Affairs | 外務省 | Ministry of Foreign Affairs |
| 9 | 環境・水・農業相 | Minister of Environment, Water and Agriculture | 環境・水・農業省 | Ministry of Environment, Water and Agriculture |
| 10 | 財務相 | Minister of Finance | 財務省 | Ministry of Finance |
| 11 | 保健相 | Minister of Health | 保健省 | Ministry of Health |
| 12 | 商務相 | Minister of Commerce | 商務省 | Ministry of Commerce |
| 13 | 投資相 | Minister of Investment | 投資省 | Ministry of Investment |
| 14 | 文化相 | Minister of Culture | 文化省 | Ministry of Culture |
| 15 | イスラム問題・寄進・宣教・善導相 | Minister of Islamic Affairs, Dawah and Guidance | イスラム問題・寄進・宣教・善導省 | Ministry of Islamic Affairs, Dawah and Guidance |
| 16 | 司法相 | Minister of Justice | 司法省 | Ministry of Justice |
| 17 | エネルギー相 | Minister of Energy | エネルギー省 | Ministry of Energy |
| 18 | 産業・鉱物資源相 | Minister of Industry and Mineral Resources | 産業・鉱物資源省 | Ministry of Industry and Mineral Resources |
| 19 | 巡礼・ウムラ相 | Minister of Hajj and Umra | 巡礼・ウムラ※省 | Ministry of Hajj and Umra |
| 20 | 経済・計画相 | Minister of Economy and Planning | 経済・計画省 | Ministry of Economy and Planning |
| 21 | 通信・IT 相 | Minister of Communications and Information Technology | 通信・IT 省 | Ministry of Communications and Information Technology |
| 22 | 運輸・物流サービス相 | Minister of Transport and Logistic Services | 運輸・物流サービス省 | Ministry of Transport and Logistics Service |
| 23 | 人材・社会発展省 | Minister of Human Resources & Social Development | 人材・社会発展省 | Ministry of Human Resources & Social Development |
| 24 | スポーツ相 | Minister of Sports | スポーツ省 | Ministry of Sports |
| 25 | 観光相 | Minister of Tourism | 観光省 | Ministry of Tourism |
| 26 | メディア相 | Minister of Media | メディア省 | Ministry of Media |
| 27 | 国務相 | Ministers of State | ー | ー |
※ウムラ(UmraまたはUmrah)とはイスラム教における巡礼形式の一形態
9.PIFとMa’aden
PIFは1971年に国王勅令第M/24号に基づき設立された、サウジアラビア政府が100%出資するソブリン・ウェルス・ファンド(英:Sovereign Wealth Fund)である。2015年3月王国閣僚理事会決議第270号の発効により、ムハンマド・ビン・サルマーン王太子によって設立された経済開発評議会(英:Council of Economic and Development Affairs、CEDA)の指揮下に移行し、これをもってPIFは“生まれ変わった”と表現されている[112]。公式サイトによると総資産9,25b$[112]を有する世界最大級の政府系ファンドの1つであり、同国政府の代わりに資金を投資する目的で設立された。前述の王国閣僚理事会決議第270号に基づき、サウジアラビア国内外において、13の戦略分野での長期投資を実施し、同国の経済変革および経済多角化を主導している。2021年には、Saudi Vision 2030に則って投資戦略およびVision Realization Programs(VRP)を設定した。
Ma’adenは1997年に国王勅令第M/17号に基づき、サウジアラビアの鉱物資源分野を発展させ、石油産業および石油化学産業に加えた第三の柱として成長させることを目的に設立された。当初はサウジアラビア政府が100%の権益を有していたが、2008年にTadāwulにて株式の半分をIPO(英:Initial Public Offering)により市場放出した[19]。その後はPIFによる市場を介しての株式取得が再び試みられ、2018年6月時点でPIFの株式持ち分が65.44%に達するに至り、再度サウジアラビア政府が実質的な筆頭株主となっている。現在はサウジアラビア国内17の鉱山・事業所を運営している。金、銀、銅、亜鉛、鉛を生産している。
2023年1月11日、Ma’adenとPIFは首都Riyadhでの第2回Future Minerals Forum(以降「FMF」と称する。)にて、Ma’aden(51%)とPIF(49%)の合弁企業の設立を発表したが、この合弁企業が後にお披露目となるManaraである[113]。Manaraの目的は外国鉱山投資と強靭なグローバルサプライチェーン発展支援であるとしている[113]。同サイトによると、同社の投資戦略として以下の8項目を掲げている。
- パートナーシップ:出資企業またはアセット権益について少数株主の地位として、世界的な鉱山操業者らと長期のパートナーシップを企図して長期資本提供する。
- 構造:株式投資によって案件の成長機会に参入する。
- オフテイク:世界市場に流入する同社の投資において、オフテイクの獲得を重要視する。
- コモディティ:現状では銅、リチウム、ニッケルおよび鉄鉱石に焦点を当てている。
- 国際的:投資任務は世界規模であり、中東におけるバリューチェーンに接続しうるアフリカおよびアジアの投資機会を見定めている。
- ライフサイクル:バランスの取れたポートフォリオを維持しつつ、アセットのライフサイクル全体を通して投資を行う。
- 産業の活性化:事業パートナーたちとともにサウジアラビアの中流産業の発展を支援し、地域的な成長市場へのアクセス提供を目指す。
- ESG(環境・社会・ガバナンス)の原則を最優先に位置付ける。
近年、鉱業界から最も注目を浴びたPIFとMa’adenの経営判断は、2023年7月に同社の子会社Manaraを通じて、伯Vale S.A. Groupの子会社である伯Vale Base Metals Ltd.の10%分株式を約26BUS$程度で取得した出来事[182]であると思われる。
以降で、世に複数ある金属鉱山企業の中で、なぜMa’adenが伯Vale Base Metalsを取得したのかについて考察したいと思うが、その前提としてVale S.A. Groupの歴史を遡ってみたいと思う。
非鉄メジャーとしてのVale S.A. Groupの源流は、ブラジルのEspírito Santo州とMinas Gerais州に跨る鉄道の発展史と、Minas Gerais州のItabira 鉄鉱山群[183-184]の権益を巡る問題に密接に関連している。1904年、ブラジルのRio Doce渓谷周辺とEspírito Santo州間のコーヒー豆と旅客輸送を目的として、Companhia Estrada de Ferro Vitória a Minas(以降「CEFVM」と称する。)というブラジルの鉄道会社が設立された[183,185]。1908年にCEFVMは、Itabira 鉄鉱山群より、鉄鉱石輸送の商業化について持ち掛けられたことを契機に、主たる輸送対象を現在も続く鉄鉱石に大きく転向することとし、軌道はその後、西はItabira鉄鉱山群を抱えるMinas Gerais州Itabira市から、東はEspírito Santo州Vitória市のTubarão港まで沿線されることとなった[183,185]。
一方、ブラジル鉱業界では、1909年にItabira鉄鉱山群一帯での鉱山開発を目的として、国内最初の鉱山会社Brazilian Hematite Syndicateが設立され、近代的で体系的な鉄鉱石の生産がCauê Peak鉱山で開始された[184]。1910年、Brazilian Hematite Syndicateの権益を取得するため、Itabira Iron Ore Company Ltd.(以降「IIOC」と称する。)が新たに設立された[186-187]。当時のブラジル合衆国(英:Republic of the United States of Brazil)では、米国やグレートブリテンおよびアイルランド連合王国(英:United Kingdom of Great Britain and Ireland、以降「旧英国」と称する。)等のいくつかの国々が実業家グループをそれぞれ構成して事業を進めていた。旧英国の実業家グループとしては、銀行Baring Brothers & Co. Ltd.、政治家Cecil John Rhodes、実業家Sir Ernest Joseph CasselおよびNathaniel Charles Rothschildによって組成された実業家グループが活動しており、これがIIOCを設立した。IIOCは、本社を英国Londonに置き、ブラジルには代理店を置くという体制を採ることで、ブラジル合衆国政府から操業許可を取得した[183]。1930年以降、Getúlio Dornelles Vargas大統領政権時代になると、一転1939年にIIOCの鉱業権にかかる契約失効が宣言され、連邦としてのブラジル合衆国およびMinas Gerais州における鉱業権は失効したものの、当時の鉱業法に基づき、Itabira鉄鉱山群とそれに関係する土地の権利については依然IIOCの所有という権益のねじれた状態となった[183]。その後、1939年8月、当時のIIOCの保有者であった米国の実業家Percival Farquharと、ブラジル人実業家6名が連名でCompanhia Brasileira de Mineração e Siderurgia S.A(以降、「CBMS」と称する。)を設立し、CEFVMの営業認可と合併許可を取得した[183]。1941年、次にPercival Farquharと彼の事業関係者らは、IIOCの保有するItabira鉄鉱山群での探鉱を目的として、新たにCompanhia Itabira de Mineração S.A.(以降「CIM」と称する。)を設立した[183]。
米国とブラジル合衆国による第二次世界大戦に関連した1941年からの協議がまとまったことで諸権利についての問題は解決をみることとなる。1942年に発効したワシントン協定(英:Washington Accords)に基づき、当時の旧英国政府はIIOCに帰属するItabira鉄鉱山群の所有権を取得し、ブラジル合衆国政府に譲渡した[183]。その後、同年6月のブラジル合衆国政令法No. 4352により、CBMSおよびCIMの事業と権益を継承する企業として、Companhia Vale do Rio Doce S.A.(以降「CVRD」と称する。)が設立された[183]。なお、この政令法に基づいてVale S.A. Groupが現在もCEFVMの鉄道権益を保有している[183]。
株式上場については、Vale S.A. Group は1956年に一部株式をRio de Janeiro証券取引所(英:Rio de Janeiro Stock Exchange、BVRJ)に上場し、その後1999年に現在のサンパウロ証券・商品・先物取引所(英:Bolsa de Valores, Mercadorias & Futuros de São Paulo、BVMFまたはB3 S.A.)に上場市場を変更した[188]。なお、現在はニューヨーク証券取引所(英:New York Stock Exchange、NYSE)でもティッカーシンボル(VALE)として、ADR(英:American Depositary Receipt、米国預託証券)*5の形態でこちらも株式同様売買の対象となっている。
CVRDはその後も事業範囲を拡大させ、2001年には伯Sossego鉱山に参入して銅事業に[189]、2005年にはカナダのCanico Resource Corp.を買収し、伯Onça-Pumaラテライトニッケル事業に参入した[190]。CVRDは2007年に、グループ名称をVale S.A.に変更し、現在に至る[183]。
Vale S.A. Groupは上述のように、国営の鉄道業と鉄鉱業にその源流を持ち、足掛け1世紀以上にわたる鉱業分野における事業展開についての経験の蓄積がある。今後、Manaraおよびその親会社のMa’adenは、Vale S.A. Groupが辿ってきた発展の道筋をなぞろうとしているのではないだろうか。すなわち、まずはマーケットが大きく、非鉄金属事業としては比較的安定的な収益が見込める鉄、ニッケル、銅事業を軸に成長し、その後サウジアラビア国内産業の成長に合わせてマイナーメタル事業への参画を検討していくといった事業拡大方針を採ろうとしている可能性がある。ManaraおよびMa’adenが、将来的なベースメタル事業からマイナーメタル事業への事業拡大を念頭に置いたとき、実際に同様な事業発展をすでに経験しているVale Base Metals Ltd.の買収は、今買収先として適任だったのではないかと思われる。
現在、サウジアラビアには製鉄所はあるものの、銅製錬所については未建造であり、その設立を同国も望んでいる。こうした状況も踏まえ、今後ManaraおよびMa’adenとの協業を企図したアプローチを採る場合、資金に関しては潤沢なサウジアラビアであるので、例えば銅製錬所の設立に関する人的援助、銅製錬に関する技術援助、国内インフラの発展段階で必要となるベースメタルの生産物引取権(オフテイク権)等を提供する代わりに、対価としては先進産業において必要となる、Az Zabirahボーキサイト鉱床やAl Ba’ithaボーキサイト鉱床に期待されるガリウム(Gallium)およびゲルマニウム(Germanium)や、Mahd Ad Dhahab鉱床に由来するテルル(Tellurium)といったマイナーメタルの生産物引取権や、同国で盛んな産金鉱業アセットの取得を目指して交渉するといったオプションが考えられる。そして、サウジアラビアの先進産業が成熟した暁には、必要に応じて、逆にマイナーメタルの生産物引取権を提供し、ベースメタルの生産物引取権の取得を目指すといった交渉方針が双方に益をもたらすように思われる。
10.鉱業関連法
1970年以降、サウジアラビアにおける鉱業関連法の大きな改正は3度あり、ヒジュラ暦1392年5月20日(西暦1972年7月2日公布)の国王勅令第M/21号に基づいて公布された鉱業法[191-192](英:Mining CodeまたはMining Law)(西暦1972年7月2日公布、1973年1月1日発効)、ヒジュラ暦1425年8月20日(西暦2004年10月4日発布)の国王勅令第M/47号に基づいて公布された鉱業投資法[193](西暦2004年10月4日発布、2005年1月1日発効)、ヒジュラ暦1441年10月19日(西暦2020年6月11日公布)の国王勅令第M/140号に基づいて公布された鉱業投資法[194](英:Mining Investment CodeまたはMining Investment Law)(西暦2020年6月11日公布、2021年1月1日発効)の3つの法律が存在する。2004年公布の鉱業投資法以降は、同名の法令名での改正が行われている。なお、原典はアラビア語である。
改正前の法律との整理について、2004年公布の鉱業投資法は1972年公布の鉱業法に、2020年公布の鉱業投資法は2004年公布の鉱業投資法に、優越するとの条文が、それぞれ2004年公布の鉱業投資法および2020年公布の鉱業投資法の条項に存在することから、細部に関しては1972年の鉱業法に遡って確認する必要があると思われる。なお、改正前後の両鉱業投資法において互いに矛盾抵触する条項については、改正前の条項を廃止するとの条文が2020年公布の鉱業投資法第61条に定められている。
最新の2020年公布の鉱業投資法では、第1条にて、金属鉱物、貴石および半貴石、並びに原料からの加工工程と濃縮工程を必要とされる鉱石がClass(A)鉱産物、非金属混合物、工業用途の鉱物および原料鉱物がClass(B)鉱産物、建築資材用途の原料がClass(C)鉱産物と定められている。また、第14条には、鉱業ライセンスの種類について以下のように定められている[194]。
(1)本法の下で認められる鉱業ライセンスは、
- 予備調査ライセンス(英:Reconnaissance License)
管轄省庁が、有効期限が2年以下の予備調査ライセンスを交付する。1回に限り、2年以下の期間で延長または更新できる(第38条)。 - 探鉱ライセンス(英:Exploration License)
管轄省庁が交付し、Class(A)鉱産物については、ライセンス期間は5年以下、ライセンスサイトの面積は100平方キロメートル以内とし、ライセンスは複数回更新可能であるが、それぞれの追加するライセンス期間は5年以下とし、合計で15年を超えないものとする(第40条)。 - 開発ライセンス(英:Exploitation License)である。
探鉱ライセンスの有効期間中に、探鉱ライセンス保有者が探鉱ライセンスサイト内の区域を対象とした開発ライセンスを取得する権利について独占的権利を認める。開発ライセンスを申請する決定がなされる前に探鉱ライセンスの有効期限が切れる場合、探鉱ライセンスは開発ライセンスの申請の決定がなされるまで自動的に延長される(第41条)。
(2)開発ライセンスには以下を含める、
- 採掘権ライセンス(英:Mining License)
採掘ライセンスは管轄省により交付され、Class(A)鉱産物については、有効期間は30年以下とし、追加する期間の合計が30年を超えない範囲でライセンスを更新または延長することができる。ただし、初回期間、更新期間および延長期間の合計が60年を超えないこと、ライセンスサイトの総面積は50平方キロメートル以内であること、ライセンスサイトについてそれぞれの鉱区ブロックが接続した管轄省が容認する形状をしていることを条件とする(第42条)。 - 小規模鉱山ライセンス(英:Small Mine License)
小規模鉱山ライセンスは、管轄省により交付され、Class(A)鉱産物については、有効期間は20年以下とし、追加する期間の合計が20年を超えない範囲でライセンスを更新または延長することができる。ただし、初回期間、更新期間および延長期間の合計が40年を超えないこと、ライセンスサイトについてそれぞれの鉱区ブロックが接続した管轄省が容認する形状をしていることを条件とする(第43条)。 - 建築資材砕石ライセンス(英:Building Materials Quarry License)
Class(C)鉱産物にのみ適用される。管轄省により交付され、有効期間は10年以下とする。ライセンスは、追加するそれぞれの期間が5年を超えない範囲で更新または延長することができる。ただし、ライセンスサイトの総面積は1平方キロメートル以内であること、ライセンスサイトについてそれぞれの鉱区ブロックが接続した管轄省が容認する形状をしていることを条件とする(第44条)。 - 一般目的ライセンス*6[195](英:License for General Purposes)
特に一般目的ライセンスに関しては細部の情報が乏しいため、私見として、状況に応じて現地法律事務所や所管省庁からの追加情報を求める必要があると思われる。
鉱業ライセンスに関して目立つ改正点としては、2004年公布の鉱業投資法に定められていた、非商用ライセンスの内の(旧)物質採集ライセンス(英:Material Collection License)が、商用ライセンスの内の(旧)原料採石ライセンス(英:Quarry Raw Material License)の区分が削除されている点である。鉱業法の詳細については、正確を期すために原典と、現地の法律事務所の判断に因る必要がある。
11.イスラム金融(英:Islamic Banking and Finance)
非イスラム圏の企業がサウジアラビアで事業参画するにあたり考慮しなければならない項目の1つに、イスラム金融が挙げられる。日本企業を含め海外の企業がサウジアラビアを含めたイスラム圏の国々において社債起債・売買、保険の設計、Tadāwulでの株式上場等を企図する場合には、非イスラム圏の金融、いわゆる伝統的金融(Conventional Finance)ではなく、イスラム金融、あるいはシャリーア適格金融(英:Sharia-compliant finance)と呼ばれる金融概念に則ることになる。
一般にイスラム教徒は、イスラム教の聖典であるコーランと預言者ムハンマドの言行であるスンナを主要な法源とするシャリーア(英:Sharia)に即した振る舞いを求められるが、イスラム圏では金融システムに関しても例外ではなく、イスラム圏の法学者、経済学者らは、このシャリーアに則った金融システムを構築している。ただし、イスラム教にはいくつも宗派があることに由来して、国や地域ごとに法学者らによる大小の協議解釈が異なる場合が多く、読者諸君に置かれては、本稿で紹介する内容はあくまでイスラム金融の基本的な概念の紹介ととらえていただきたい。
銀行と金融に関するシャリーアに基づく主要原則としては、次のものがある[196-197]。
- お金は如何なる本質的な価値を持たず、単に交換の媒体や、商品、サービス、および資産の価値を維持し、評価するための道具として使用される。
- 実体経済における活動や損失と利益の分配に重点を置く。
- アルコール飲料の取引や賭け、ギャンブルなどの反社会的活動は禁止する。
- 利子(英:Riba)は禁止する。
- 不明瞭で危険な取引(英:Gharar)は禁止する。
こうした伝統的金融と、イスラム金融と基本原則の開きを埋めるために、以下のような特徴的なスキームがいくつか考案されている。
(1)ムラバハ(英:Murabaha)
実物資産のローン購入に際し、利子の授受に関する諸問題を回避するスキームとして、「ムラバハ」というスキームが利用されている。ムラバハは、金融機関が顧客の商品購入を代行し、手数料等マージンを商品代金に上乗せして、顧客に一括払い、または分割払いでの転売とするストラクチャーを採用することで金融機関の利子受け取りを回避するスキームであり、イスラム金融では最も基本的なスキームである。当該スキームは契約時点での実物資産の存在が前提となっており、債券発行の際にも応用されている[198]。鉱業分野では、鉱山関連施設や鉱産物加工プラント等の高額物品の調達、現地社債の発行および売買時等に際して考慮が必要となる可能性がある。
(2)イスティスナ(英:Istisna)
「イスティスナ」は前述のムラバハに似ており、こちらも利子の授受に関する諸問題を回避するスキームであるが、異なる点としては契約成立時点で購入対象の物品が存在していない点である[199]。一方、前述のムラバハは契約時点で実物資産が存在していることが前提である。イスティスナのスキーム対象となる購入対象商品の具体例を挙げると、契約時点で実物資産の存在がない建設予定の建築物等が該当する。鉱業分野では特に高額な操業設備の導入が多いことから、鉱山関連施設や鉱産物加工プラントの整備時等に際して、高い頻度で考慮が必要となる可能性がある。
(3)イジャラ(英:Ijara/Ijarah)
「イジャラ」は細部に差異はあるものの伝統的金融におけるリース契約とほぼ同じスキームである[199]。物品等の賃借に際して発生する金利の授受に関する諸問題を回避するスキームとして利用される。金融機関等の貸主は賃借契約の対象となる物品を購入、所有し、借主にリースする。貸主は物品の購入代金に手数料を上乗せしたリース料を設定し、借主からリース料のみを受け取る。リース契約と類似するが、イジャラでは支払い遅延が生じた時に罰則金利を課す事が出来ない等の細部に制約がある[199]。鉱業分野では、重機リースや用地リース等の際に考慮が必要となる可能性がある。
(4)ムダラバ(英:Mudaraba/Mudarabah)
「ムダラバ」は、信託金融の形で事業融資等の際に発生する金利の授受に関する諸問題を回避するスキームとして利用される。このスキームでの出資者を指すラッブ・アル=マール(英:Rab al-mal)と、出資の受け手を指すムダーリブ(英:Mudarib)とで、事業収益を予め定められた割合で分け合うというスキームである。事業収益を事前に確定する事は出来ない為、ラッブ・アル=マールは投資収益額を事前に確定的に期待する事が出来ない(貸倒れのリスクがある)。また、ラッブ・アル=マールには収益の一定割合が配当として還元される一方、事業に損失が生じた場合には原則的に出資額の範囲内で負担となる[199]。なお、ムダラバのスキームにおいてはラッブ・アル=マールは出資をするのみで、事業に関与出来ないという特徴がある[199]。鉱業分野では、事業そのものを対象とした現地での融資に近いスキームによる資金調達等の際に考慮が必要となる可能性がある。
(5)ムシャラカ(英:Musharaka/Musharakah)
「ムシャラカ」は伝統的金融のJV事業の概念とほぼ同じスキームである。ムダラバと類似するが、大きな相違点はムダラバと異なり、出資者自身も事業に参画ないし関与ができる点である[199]。言い換えれば出資者含めたすべての事業参画者が事業経営に参画する権利を有する。鉱業分野では、現地の中小規模企業とのJV事業組成時等に際して考慮が必要となる可能性がある。
本稿では、[196-199]を参考としてのイスラム金融の紹介に留めるが、そのほかにも多数の細則やサウジアラビア国内の対象法規制も存在しているので、現地の金融機関、法律事務所にて最新情報の確認を強く推奨する。
12.文献紹介
最後に、これまでにサウジアラビアの非鉄金属鉱業に関連してJOGMECならびに前身の金属鉱物探鉱促進事業団(英:Metalic Minerals Exploration Agency of Japan)および金属鉱業事業団(英:Metal Mining Agency of Japan、MMAJ)が作成した短報および報告書を列挙する。
海外鉱業情報(金属鉱物探鉱促進事業団 資料センター)
- 昭和46年(1971年)12月 No.8 P7 サウジアラビアの鉱物資源開発について[200]
海外地質構造調査報告書(金属鉱業事業団)
- 昭和48年(1973年)度 海外地質構造調査報告書 サウジアラビア中部地域[11]
- 昭和49年(1974年)度 海外地質構造調査報告書 サウジアラビア中部地域[12]
- 昭和50年(1975年)度 海外地質構造調査報告書 サウジアラビア中部地域(総括)[13]
海外鉱業事情調査報告書(金属鉱業事業団 資料センター)
- 昭和49年(1975年)度 海外鉱業事情調査報告書 サウジアラビア,トルコ,イラン[201]
ぼなんざ(金属鉱業事業団)
- 昭和51年(1976年)1月 ボナンザ3巻 P2 一地質家の目でみた中東及びアフリカの情勢[202] 著:小村幸二郎
- 昭和51年(1976年)1月 ボナンザ3巻 P24 プレートテクトニクスから見た古テーチス海地域の鉱化作用[203] 著:高島清
- 昭和51年(1976年)2月 ボナンザ4巻 P9 中東3国を旅して[204] 著:小村幸二郎
- 昭和53年(1978年)9月 ボナンザ35巻 P26 サウジアラビアの鉱物資源[205] 著:中ノ森哲宏
地質解析委員会報告書(金属鉱業事業団 資源情報センター)
- 昭和60年度(1985年) -世界の鉛・亜鉛鉱床-[206]
海外鉱業情報(金属鉱業事業団 資源情報センター)
- 平成9年(1997年)9月 Vol. 27 No.3 通巻第302号 P39 サウディ・アラビア王国の鉱業と現況[207] 著:宮内東洋
資源開発協力基礎調査報告書(国際協力事業団&金属鉱業事業団)
- 1999年 サウディ・アラビア王国 ウム・アダマール地域資源開発協力基礎調査報告書 第1年次[39]
- 2000年 サウディ・アラビア王国 ウム・アダマール地域資源開発協力基礎調査報告書 第2年次[40]
- 2001年 サウディ・アラビア王国 ウム・アダマール地域資源開発協力基礎調査報告書 第3年次[41]
- 2001年 サウディ・アラビア王国 ウム・アダマール地域資源開発協力基礎調査報告書(総括報告書)[42]
Report on the cooperative mineral exploration(Japan International Cooperation Agency & Metal Mining Agency of Japan)
- 1999 Report on the cooperative mineral exploration in the Umm ad Damar area the Kingdom of Saudi Arabia Phase 1[43]
- 2000 Report on the cooperative mineral exploration in the Umm ad Damar area the Kingdom of Saudi Arabia Phase 2[44]
- 2001 Report on the cooperative mineral exploration in the Umm ad Damar area the Kingdom of Saudi Arabia Phase 3[45]
- 2001 Report on the cooperative mineral exploration in the Umm ad Damar area, the Kingdom of Saudi Arabia consolidated report[46]
資源開発環境調査(JOGMEC)
- 2005年 サウジアラビア王国 Mamlaka al Arabiya as Sa’udiya (The Kingdom of Saudi Arabia)[208]
戦略的鉱物資源確保事業報告書(JOGMEC)
- 平成21年(2011年)度 サウジアラビア王国の投資環境調査 2009年[209]
金属資源レポート(JOGMEC)
- 平成21年(2011年)度 戦略的資源確保事業〔投資環境調査〕(47)サウジアラビア王国の投資環境調査[210] 著:金属企画調査部
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