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報告書&レポート

2024年8月20日 金属企画部 調査課
24_02_vol.54

2024年世界の探鉱動向

―PDAC Special Edition―

<JOGMEC 金属企画部調査課>

2024年3月

2024年世界の探鉱動向_表紙
S&P Global


世界の探鉱動向

2023年の『世界の探鉱動向』で、我々は、2022年後半から2023年前半にかけて観測された市場の変化について懸念を述べた。残念ながら、2023年から2024年の前半まで金属価格の低迷と厳しい資金調達状況が続いているため、この懸念が正しかったことが証明された。ほとんどの地域でインフレが大幅に緩和し、景気後退への懸念はほぼ薄れた一方で、地政学的な混乱は悪化しており、依然として経済に悪影響を及ぼしている。これらの要因は金属価格にも大きく影響し、銅は2023年1月の9,000US$/t超から、10月上旬には7,800US$/tを若干上回るまで下落した。ほとんどの金属価格は回復したものの、時価総額は2023年1月末の2.34tUS$から、10月には1.89tUS$に落ち込み、2.18tUS$で1年を終えたことからも、鉱業への影響は顕著である。

2023年に業界全体に広がった低迷は、資本市場と資金調達活動にも影響を与えた。ジュニアと中堅企業を合わせた2023年の資金調達額は11.62bUS$で、2022年の12.07bUS$から減少した。これは、2021年の21.65bUS$に遠く及ばない額だ。報告された試すい実績から算出されたプロジェクト活動は、資金調達額の落ち込みよりもさらに低迷した。試すい実績は、2022年の70,008孔、2021年の69,000孔弱から減少し、2023年の報告は53,582孔だった。

探鉱予算にも、資金調達と活動レベルの低下が反映されている。我々のCorporate Exploration Strategies(CES)による調査では、鉱山予算が2022年の13.10bUS$から、2023年には12.76bUS$と3%減少した。2024年の経済成長率は2023年と同様になる見込みで、成長率は上昇よりも下降する可能性の方が高いと予想される。多くのコモディティで、需要の伸びが供給の伸びを下回ると予測されているため、この事実は多くの金属価格に重くのしかかることになるだろう。

長年のインフレによって操業コストが上昇したことと、近年に比べ収益が減少したことで、生産者のマージンが圧迫されている。このような状況下では、通常、探鉱予算が最初に削られる項目となる。

このような事態が発生する可能性は高いものの、クリティカルミネラル(重要鉱物)を取り巻く状況はこうしたコモディティへの投資を引き続き後押しするため、削減の大部分はこの分類以外のコモディティに対して行われるだろう。

年内の金属価格の見通しが期待外れであったことも資金調達条件に悪影響を与えたが、これが今後数か月で改善する見込みはなさそうだ。2023年末には資金調達の動きが活発化したものの、2024年初頭までこの動きが続くとは考えにくく、2024年のプログラムに必要な資金を調達する探鉱業者にとって、あまり良い兆候とは言えない。メジャー企業とジュニアにおけるこうした点を考慮すると、2024年の探鉱予算は5%程度減少すると予想される。現在のところ、この予想には大きな不確定要素がある。2023年に見られたように、クリティカルミネラルへの関心が一部のコモディティの予算を押し上げる可能性がある。あるいは、地政学的緊張と世界マクロ経済悪化の可能性が鉱業活動に影響を及ぼすが、金の活動は後押しされる可能性もある。

もうひとつの要因は、現在進行中の大規模かつ高額なFSの一部が完了する時期だろう。2024年前半に終了することがあれば、支出計画はさらに大幅に減少する可能性がある。

一般的に、2024年の予算が5%減少すると予想される場合、下振れリスクはより顕著になると我々は感じている。

図1.世界の非鉄金属探鉱予算総額の推移

図1.世界の非鉄金属探鉱予算総額の推移

出典:S&P Global Market Intelligence(2023年10月24日時点)

厳しい市場環境が根強く残る

2022年の金属市場の様相は、上半期と下半期でまったく違ったものとなった。上半期の金属価格は比較的堅調で、銅は最高値を更新した。しかし下半期に入ると、一過性であると期待されていたインフレが実は一過性ではないことが判明し、根強い高インフレと利上げが相まって、景気後退が懸念されるようになった。あらゆる種類のコモディティに対する世界需要が低迷したことで金属市場が影響を受け、コモディティ価格は下半期を通じて下落したが、年末にかけては、中国によるパンデミック関連の規制緩和をめぐる楽観論によって持ち直した。

半期に始まった景気低迷が大部分のコモディティで続いたため、2023年の価格は変動が激しく、最終的に価格は緩やかに下降した。ほとんどの国のインフレ率は正常な水準に近づいたものの、需要は引き続きインフレの影響を引きずり、米ドルの貿易加重指数の上昇が物価をさらに圧迫した。2023年が終わると、利下げの可能性から米ドルは全般的に値下がりした。2023年12月期の小幅な回復が1年分の価値破壊分を巻き返すことはできなかったものの、多くの金属価格に波及効果をもたらした。数少ない例外は金で、2023年の取引開始時点である1,800US$/ozを大きく上回り、2,000US$/ozを超えて取引を終えた。

今後の見通しについては、一部のコモディティで価格が改善する可能性はあるものの、多くのコモディティで2024年も2023年と同様の経過をたどることになりそうだ。

図2.主要鉱物コモディティ価格予測(2022年1月以降)

図2.主要鉱物コモディティ価格予測(2022年1月以降)

出典:S&P Global Market Intelligence(2024年1月23日時点)

コモディティの見通し

2023年第4四半期の金の価格はほぼ安定していた。米連邦準備制度理事会(FRB)のハト派的なコメントとイスラエル・ハマス間の紛争勃発に触発され、12月にはそれまでの高値を更新した。本稿執筆時点で、FRBは3会合連続で金利を据え置き、経済成長の抑制を目指している。これは通常、金価格にとって好ましくない環境だ。地政学的緊張が引き続き価格上昇の原動力と予想される一方、中央銀行の力強い買い入れが需要サイドの支えとなるだろう。上昇と下降を繰り返す不安定な市場が予想され、価格は歴史的な高値水準で取引されるものと思われる。

銅相場は両極端な展開だ。中国の再生可能エネルギー、すなわち太陽光発電による精製銅への需要は引き続き堅調に推移するとみられる。これが製錬所の安定的な拡大を促し市場が供給過多となり、価格を下押ししている。その一方で、たとえば加First Quantum社のCobre Panamá銅鉱山の閉鎖が長期化すると予想されることから、2024年には精鉱需要が供給を一気に上回り、精鉱市場が逼迫する。これにより、製錬手数料(TC/RC)が下がる可能性がある。

その他の分野では、エネルギー転換が銅需要の主な原動力であることに変わりはないが、米国と欧州が景気後退の逆風から回復する中、この需要が顕在化する時期が中期的なものに移っていると我々は判断している。

2023年のニッケル市場は、弱気な景況感がいまだ解消していないことが重しとなり、ファンダメンタルズから最も乖離した。インドネシアと中国での急成長により、市場はかなり供給過剰になっているが、その度合いは今後も増すだろう。そのため、価格は世界的な生産コストに比べ大きく下落し、鉱山供給の抑制が市場を直撃する可能性が高まっている。一部の鉱山はオールイン維持コストで赤字となり、操業停止となっている。さらに、LME(London金属取引所)におけるニッケルのショートポジションは数年来の高水準にある。ニッケル価格は11月に2年半ぶりの低水準に落ち込んだばかりで、こうした要因が2024年の価格に重くのしかかりそうだ。

亜鉛は、ニッケルと同様に、2023年後半に価格が下落したことで鉱山の採算が悪化したことにより、鉱山会社は操業を一時的に停止した。これは、価格にいくらかの上昇圧力をもたらす可能性があるものの、世界の精製亜鉛の需要は中国の不動産業界と密接に結びついており、この業界はまだ勢いを取り戻していない。さらに、米国と欧州の消費が低迷しているため、LMEには亜鉛在庫が積み上がっており、投資家の心理は盛り上がらない。精製亜鉛の余剰が拡大し、価格が2023年より下落するという我々の予想は、需要の不確実性によって大きく裏付けられている。

鉄鉱石市場は、中国経済の先行きをめぐる楽観論に足並みを揃えている。2023年の回復は遅れているが、多くの景気刺激策が発表されており、こうした景気刺激策は今後数か月で本格的に展開されることになるだろう。中国の需要は予想以上に力強く、2023年第4四半期には既に価格を押し上げた。国内の鉄鋼生産が旺盛で、港湾在庫が減ったため輸入を後押している。そのため、海上供給の伸びが鈍化すると予想されていることもあり、2024年の価格は2023年と同様の水準で下支えされるだろう。

リチウムとコバルトといったバッテリーメタル市場は、乗用車用プラグイン電気自動車(PEV)市場と密接に結びついている。2023年にはインフレと金利の上昇により販売台数が減少したが、2024年にはPEVの販売が復活する可能性がある。特に米国では、購買者がディーラーで連邦税額控除を割引として適用できるようになるため、価格の低下と共に、消費者のインセンティブとなる可能性がある。2024年には販売台数が増加し、世界的な普及率も上昇すると予想される。しかし、販売台数は、基礎となる2023年の台数が前年より落ち込んだので、そこからの回復となる。

需要の低迷に加え、リチウム化学品市場と精製コバルト市場の余剰が拡大し、2023年にはすでに数年来の安値を打った価格に、下降圧力がさらにかかるだろう。

リチウムの生産は2023年に大幅に拡大した。また、停滞していたプロジェクトが開始されたため、2024年の価格上昇が妥当とは言えない。対象となる貴金属以外の中では、コバルトが2024年のアウトパフォーマーになるかもしれない。予想される唯一の価格上昇要因は、供給統制によってもたらされる可能性が高い。

2023年の資金調達額は再び減少、2024年の見通しは不透明

世界の探鉱予算は、2022年に9年ぶりの高水準を記録した後、2023年には3%減少した。

金属価格は高値から下落し、探鉱資金を資本市場に依存している企業は厳しい資金調達環境に直面するなど、マクロ経済に対する逆風と地政学的緊張が2023年における世界の探鉱に打撃を与えた。すべてのコモディティが下落したわけではなく、銅、リチウム、ニッケル、レアアース、はてはウランにまで代表されるクリティカルミネラルは伸びを見せた。2021年と2022年の成長を牽引した金と銀の予算削減は、探鉱の重しになっている。経済環境はそれほど理想的ではないにしても、世界的なエネルギー転換は依然としてクリティカルメタルの成長を促しており、減少を緩和する重要な要因となっている。

Industry Monitorの月次レポートに記録されているように、ジュニア・中堅企業による2mUS$以上の大型資金調達は、2023年には前年比6%減の10.53bUS$となった。2mUS$未満の融資を含む2023年の資金調達総額は11.62bUS$で前年比4%減となった。2年連続の資金調達額減少とはなったものの、2023年の4%減は、2022年の44%減に比べればはるかに少ない。2023年1~9月の月平均資金調達額は885mUS$であったが、2023年第4四半期には平均1.22bUS$/月となり、より高い資金調達額が報告された。

金の資金調達額は2年連続で減少し、取引件数は3%増加したが、2023年には17%減の4.44bUS$となった。早ければ2024年第1四半期にも米国が利下げを行うだろうと市場が予想しているため、金は2023年末までに2,100US$/ozの新高値を記録するまで一定の相場で推移したものの、2023年の金相場は高値圏での値動きを見せた。

2023年は高額な金の取引が少なく、100mUS$を超える取引は、2022年の7件に対し4件のみであった。

ベースメタル・その他金属の資金調達額は7%減の3.98bUS$で、ニッケルが35%減、亜鉛が75%減となったことが重しとなった。2022年にはこの金属グループの資金調達額が45%減少したことから、2023年の減少傾向が緩和された。2023年のグループ内の他のコモディティにおける減少を相殺するほどの増加とはならなかったが、銅の資金調達額は5%増の2.4bUS$、銀は83%増の509mUS$となった。

2023年に増加したのはスペシャリティコモディティグループのみだった。同グループの資金調達額は31%増の3.2bUS$となり、59%減少した2022年からやや回復を見せた。2023年には、高額私募やIPO(新規株式公開)が相次ぎ、リチウムの資金調達額がほぼ倍増した。

Toronto証券取引所(TSX)の探鉱業者グループは、2023年に4.87bUS$を調達し、全取引所グループの中で首位を維持した。この調達額は2022年からほぼ横ばいの額であるが、2021年の8.61bUS$には遠く及ばない。豪州証券取引所(ASX)の資金調達額は前年比7%減の3.91bUS$で、2021年の資金調達額7.76bUS$の半分に過ぎない。New York証券取引所(NYSE)は9%増、London証券取引所(LSEG)の資金調達額は倍増した。

2024年の資金調達の見通しを述べることは、現時点ではやや難しい。2023年第4四半期には経済活動が活発化したものの、カナダをはじめとする一部の地域ではインフレ率が予想を上回っており、利下げが望めない状況となっている。さらに、2,000US$/ozを超える金相場がこのまま続けば、金に対するリスクを持つ企業の資金調達が促進される可能性がある。

図3.GDPの推移予測(2023年以降)

図3.GDPの推移予測(2023年以降)

*年度は3月まで
出典:S&P Global Market Intelligence;
S&P Global Ratings(2023年11月29日時点)

図4.金、銅の価格指数と米ドル貿易加重通貨指数の推移

図4.金、銅の価格指数と米ドル貿易加重通貨指数の推移

出典:米国労働統計局(US Bureau of Labor Statistic), 英国家統計局(Office for National Statistics (UK))、中国国家統計局(National Bureau of Statistics of China)、独連邦統計局(Federal Statistical Office (Destatis) – Germany)、日本国総務省統計局、印統計・計画実行省(The National Statistical Office, Ministry of Statistics and Programme Implementation – India)、スイス連邦統計局(Federal Statistical Office – Switzerland)(2024年1月15日時点)

リチウム探鉱の急増により世界的な落ち込みが緩和

2023年は、金の探鉱予算が世界の探鉱の足を引っ張った。金の探鉱予算は前年比16%減(1.09bUS$減)の5.91bUS$となったが、これは資金調達が不調に終わったためである。そのため、ジュニアのキャンペーンを支援することが困難になった。世界の資産配分における金のシェアは50%を割り込み、8年ぶりの低水準に落ち込んだにもかかわらず、金は依然として最も探鉱が行われたコモディティである。

エネルギー部門を化石燃料ベースのシステムから転換する取り組みにより、リチウム、銅、ニッケルの探査への関心は依然高く、この3つのコモディティの探鉱活動は2023年に比べUS$ベースで最大の増加を記録した。リチウムの探査は77%増の830mUS$と過去最高を記録し、全体で3番目に探査されたコモディティとなった。短期的な価格は低迷しているが、中期的なリチウム価格の見通しが良好なことから、資本依存型のジュニアに予算が集まり、探鉱予算は2倍の677mUS$になった。ニッケルの探鉱予算は、主要セクターがカナダの鉱山での活動を活発化させたため、11年ぶりの高水準となる732mUS$に達した。銅の探鉱予算は、ラテンアメリカの主要生産者が増加したことで2013年以来初めて3bUS$を超えた。ニッケルも銅も、探鉱予算の50%以上はメジャー探鉱会社によるものである。

リチウム、ニッケル、銅の価格が2024年に極端に上がることはないと予想されるが、クリティカルミネラル、特にバッテリーメタルへの関心の高まりにより大幅な下落は回避できるだろう。また、他の大方の金属より上昇する可能性も高い。一方、ジュニアは何よりも金の探鉱を好むため、金にとっては再び厳しい年になりそうだ。

2024年も資金調達が厳しい年になりそうだ。決め手はウランかもしれない。ウランの価格は2023年後半から2024年前半にかけて急騰した。2023年の総額は248mUS$だったが、世界全体から見れば、上昇したとしても比較的緩やかなものになるだろう。

図5.ジュニア企業規模別探鉱予算割合(2023年)

図5.ジュニア企業規模別探鉱予算割合(2023年)

図6.地域別探鉱予算(2023年)

図6.地域別探鉱予算(2023年)

出典:S&P Global Market Intelligence(2023年10月24日時点)

図7.企業規模別大規模探鉱の資金調達額

図7.企業規模別大規模探鉱の資金調達額

出典:S&P Global Market Intelligence(2024年1月9日時点)

図8.ジュニア企業規模別探鉱費用

図8.ジュニア企業規模別探鉱費用

出典:S&P Global Market Intelligence(2023年10月24日時点)

グラスルーツ探鉱が10%減少、レイトステージが僅差でマインサイトを上回る

世界の非鉄探鉱予算の減少は、すべての開発段階で一様に見られたわけではない。グラスルーツ探鉱は10%、マインサイト探鉱は4%減少したが、レイトステージ探鉱は4%増加し、マインサイト探鉱を抜いて2023年の合計を僅差でリードした。2023年のレイトステージ探鉱の総額は4.89bUS$で、このステージでは2013年以降最高となる。

マインサイト探鉱は4.88bUS$となり僅差で2位、グラスルーツ探鉱が2.99bUS$でこれに続く。グラスルーツ探鉱が平均より大幅に減少したことで、2023年総額にグラスルーツが占める割合はわずか23%となり、我々の記録では過去最低となった。これは、2000年代初頭から始まったグラスルーツ探鉱の全体的な減少傾向が依然続いていることを示している。これは、時間の経過によるアセットの自然な成熟によるものであるが、それ以上に、2012年以降の投資環境の変化により、多くの企業が、利益は少ないかもしれないが通常は新規探鉱よりもリスクの低い、既知鉱床での資源量拡大にさらに重点を置くようになったからである。

金とクリティカルメタルの銅、ニッケル、リチウムの探鉱予算の変化が2023年のトレンドに大きく影響している。金の予算減少とクリティカルメタルの予算増加がステージごとの予算にさまざまな影響を及ぼしている。例えば、レイトステージでは、金の予算が減少したにもかかわらず銅とリチウムの探鉱予算は増加したため、ステージの合計が押し上げられた。しかし、マインサイト探鉱は異なる。銅、ニッケル、リチウムへの割り当てが増加したことで、金の予算減少が緩和されたに過ぎないからだ。2023年のグラスルーツ予算が減少した主な要因は、豪州とカナダにおける金の活動の減少であった。一般的に、銅、ニッケル、リチウムの2023年の予算はすべて伸びを見せたが、銅の焦点は近年、レイトステージとマインサイトの間で揺れ動いている。ニッケル探鉱はこれまで以上に鉱山サイトに向けられるようになり、リチウムはほとんどがレイトステージのプロジェクトに集中している。

ジュニアは2000年以降、ほぼ毎年レイトステージの探鉱を優先してきたが、メジャー企業は1990年代後半に記録が始まって以来、概して既存の鉱山サイトに重点を置いてきた。2023年には、ジュニアのマインサイトの予算は最も大幅な減少を見せ、メジャーはグラスルーツプロジェクトの予算を最も多く減らした。しかし、両グループともレイトステージへの配分は増加させた。

ジェネレイティブ探鉱に対する関心は一般的に低いため、今後数年間、多くのコモディティで予想されている供給不足がさらに悪化するだろう。金、銅、ニッケルなどの主要金属の発見率がまだ回復していないため、将来の需要を満たす鉱床を見つけるためには、グリーンフィールド探鉱に重点を置く必要がある。

2024年は、低調な金属価格環境と資金調達活動レベルが予想されているため、グラスルーツ探鉱を取り巻く状況が急速に好転するとは考えづらい。そのため、多くの企業は、手持ち資金を既存のアドバンスステージに費やす選択をすると予想される。

図9.各コモディティの探鉱予算増減額(2021/2020年比)

図9.各コモディティの探鉱予算増減額(2021/2020年比)

出典:S&P Global Market Intelligence(2023年10月24日時点)
「Other(その他)」には、カリウム、PGM(白金族)、コバルト、ランタノイド、その他CESがカバーしているが項目建てしていない鉱種を含む。

図10.探鉱予算(2010~2023年)

図10.探鉱予算(2010~2023年)

出典:S&P Global Market Intelligence(2023年10月24日時点)

カナダと豪州の停滞が好調なラテンアメリカに影を落とす

前述したように、中央銀行による金融引き締めが新規資本の流入を抑制している。これは、探鉱プログラムの資金調達を増資に大きく依存しているジュニアに直接的な影響を及ぼしている。その結果、カナダや豪州のようなジュニアの活動が活発な地域の探鉱予算は減少し、中南米や米国のようなメジャーのウェイトが高い地域の探鉱予算は良好な結果となった。

カナダ、豪州、米国は、鉱業界におけるその規模と重要性、ならびに常に世界の探鉱予算の約半分を占めるという事実から、我々はこれらを国としてだけでなく地域としても定義している。

中南米

CESの調査が始まって以来、常に世界の探鉱予算の最大のシェアを占めている。同地域の予算は、前年比2%増の3.38bUS$となった。チリ、アルゼンチン、コロンビア、ガイアナが同地域の業績に最も寄与したが、ペルー、エクアドル、ニカラグアが減少したことでその効果はわずかに弱まった。この地域の銅生産の優位性を考えれば、銅探鉱が前年比上昇の大半を牽引したのは当然である。金探鉱予算の減少と相まって、銅は現在、同地域で最も探鉱が行われている金属に位置付けられている。リチウム探鉱もこの地域の年間ベースの探鉱予算に大きく寄与し、2022年から102mUS$(86%)増加した。

カナダ

2023年にカナダは世界平均を下回り、予算は前年比9%減の2.44bUS$にとどまった。しかし、2023年までの2年間に平均を上回る成長が続いたおかげで、カナダは依然として国別ランキングで1位、地域別ランキングで2位をキープしている。カナダはジュニアの数が最も多いため、同国の総額が最も大きな影響を受けた。

この落ち込みは、前年比9%増を記録したメジャーによる予算の好調な伸びによっていくらか緩和された。

金の探鉱は、前年に比べ23%減少したにもかかわらず、国内探鉱の最大のターゲットシェア56%を引き続き占めている。QC州のいくつかのジュニアが予算を削減したり、大規模なドリルプログラムを終了したりしたためである。

リチウムは120%、ニッケルは38%と大幅な増加を記録したため、リチウムとニッケルの予算が2023年の明るい話題となっている。

豪州

豪州は、引き続き3番目に探鉱が望まれる地域となった。2023年の予算は2.2bUS$で5%減となり、世界平均の減少幅をわずかに上回った。豪州では(メジャーのおかげで)グラスルーツ探鉱が減少し、ジュニアおよび中堅企業が国内の探鉱予算を削減したため、マインサイト予算も減少した。豪州でのターゲット探鉱は、カナダや世界的な傾向と同様に、金の探鉱予算が大幅に減少(21%)した。銅とニッケルは増加(1.3%と10%)、リチウムは急増(88%)した。

米国

米国の2023年の探鉱予算は1%増の1.62bUS$となった。世界的な傾向とは逆に、米国のメジャー(Freeport McMoRan、BHP、Antofagasta社、Hudbay Minerals社)が同国での計画支出を削減したため、探鉱予算は若干減少した。一方、ジュニアの探鉱予算は増加した。金探鉱の減少が5%と最小限に留まったため、ベースメタル探鉱とリチウム探鉱の増加が予算全体を押し上げた。

その他の地域

その他の地域の探鉱予算は、前年比3%減の1.49bUS$となった。これは、主にロシア・ウクライナ紛争とそれに関連する制裁措置が原因となった2022年の15%減を踏まえた結果である。2023年のロシアの探鉱予算は2022年より73mUS$減少したが、依然として高いレベルにある。減少に拍車をかけたのは、中国の予算が減少し続けているためである。また、スウェーデンの予算減少がBoliden社の削減のみに起因している点は驚きである。その他地域の減少幅は、パキスタン、スペイン、トルコの堅調な増加により、2022年より大幅に縮小した。特に予算が減少したのは、サウジアラビア、セルビア、トルコである。

アフリカ

アフリカ地域の2023年予算は3.4%減の1.27bUS$となり、世界平均をわずかに上回った。最も減少幅が大きかったのはマリで、同国の予算は前年比で71mUS$(46%)減少した。ブルキナファソとタンザニアの予算も大きく減少を見せた。

最も好調な伸びを見せたのはギニアの40mUS$(83%)とザンビアの37mUS$(89%)であった。

アジア太平洋地域

アジア太平洋地域は予算配分が最も少ない地域だが、予算は370mUS$増(9%増)で、全地域で最大の増加率である。主にインドネシアでのニッケル・銅探鉱と、フィジーでの金探鉱が増加した。

図11.ステージ別探鉱予算の推移(2010~2023年、bUS$)

図11.ステージ別探鉱予算の推移(2010~2023年、bUS$)

出典:S&P Global Market Intelligence(2023年10月24日時点)

図12.ステージ別探鉱予算の割合推移(1997~2023年)

図12.ステージ別探鉱予算の割合推移(1997~2023年)

出典:S&P Global Market Intelligence(2023年10月24日時点)

図13.地域別探鉱予算(2023年、mUS$)

図13.地域別探鉱予算(2023年、mUS$)

図14.地域別探鉱予算割合の2014年と2023年比較

図14.地域別探鉱予算割合の2014年と2023年比較

出典:S&P Global Market Intelligence(2023年10月24日時点)

図15.鉱種別探鉱予算割合(2022~2023年)(bUS$)

図15.鉱種別探鉱予算割合(2022~2023年)(bUS$)

出典:S&P Global Market Intelligence(2022年10月7日時点)
「Other(その他)」には、レアアース、ウラン、ダイヤモンド、カリウム、
PGM(白金族)、コバルト、モリブデン、その他鉱種を含む

スペシャリティメタル探鉱による後押しにもかかわらず、試すい調査は減少傾向

試すい調査は、2022年に9年ぶりの高水準を記録した後、2023年には世界の探鉱予算が減少し、低迷した。1,515件のプロジェクト(13%減)で合計53,582孔(23%減)が報告された。年初は2022年末とほぼ同水準でスタートしたが、年間を通じて試すい量が低下し、12月期は581件のプロジェクトで12,496孔の掘削に留まった。2022年の12月期は796件プロジェクトで16,871孔が掘削された。

報告されたプロジェクトのうち、主要な金のプロジェクトが引き続き大半を占めており、2023年全体の半分強となっている。しかし、これはプロジェクト全体に占める金の割合が減少して3年目となることを示している。金プロジェクトの総試すい孔数は急激に落ち込み、2022年の47,121孔から30,345孔へと36%も減少した。これにより、試すい孔数における金のシェアは過去最低の57%まで低下した。

スペシャリティコモディティの試すい活動は、主に主要なリチウムプロジェクトの活動が急増したことで引き続き上昇傾向にある。2023年に掘削されたリチウムプロジェクトは、89件から75%増の156件と過去最高を記録し、試すい孔数は2022年の2,420孔から2倍以上の5,202孔となった。スペシャリティコモディティ全体では、報告されたプロジェクトが265件(47%増)、試すい孔数が8,200孔(50%増)と、それぞれ増加した。ベースメタルプロジェクトでは、ニッケルが131件、マイナーベースメタルが56件と、いずれも過去最高を記録した。銅プロジェクトは23%減の228件、鉛亜鉛は10%減の107件、白金族金属は55%減の10件、銀は34%減の83件となった。

試すい孔数で見ると、報告プロジェクトの減少にもかかわらず鉛・亜鉛は3,099孔と過去最高を記録した。マイナーベースメタルは2022年比で6%増の809孔となった。ニッケルプロジェクトは2023年にピークを迎え、試すい孔数は17%減の2,363孔であった。銅は16%減の5,025件、銀は16%減の3,316件、PGM(白金族)は60%減の425件となった。

試すい実績(推定カットオフ品位を満たすもの)は前年比で12%減少し、金の24%減、銅の23%減、銀の40%減、PGMの59%減が足を引っ張った。スペシャリティメタルが77%、マイナーベースメタルが39%、鉛亜鉛が3%増加していなければ、実績をあげたプロジェクト件数は激減していただろう。マインサイトプロジェクトは18%減、初期段階探鉱は12%減少、レイトステージ探鉱は11%減少した。

結果報告のあったプロジェクト総数の観点では、上位4か国が引き続き順位をキープしている。プロジェクト総数486件の豪州は552件から12%減少したものの、国別で1位となった。豪州はカナダが最後に1位となった2017年以後、その座を守っている。2位はカナダで10%減の426件、3位は米国で9%減の179件、メキシコは29%減の52件となったが4位を維持している。豪州は、金の試すい件数の急減により29%減の18,196孔となったものの、依然として他国を圧倒している。

カナダの試すい孔数は20%減の10,275孔となったが、これも金の試すい件数の減少によるものである。

2023年の探鉱資金調達額は前年比10%減の5.38bUS$で、業界は厳しい金融環境の中、引き続き困難な局面に直面している。今後については、財政見通しが依然不透明であることから、2024年も試すい活動は停滞の年になると予想される。

図16.世界の試すい実施動向(2017~2023年)

図16.世界の試すい実施動向(2017~2023年)

出典:S&P Global Market Intelligence(2024年1月19日時点)

図17.金、ベースメタル、その他金属の試すい結果および資金調達額の推移(2012~2022年)

図17.金、ベースメタル、その他金属の試すい結果および資金調達額の推移(2012~2022年)

出典:S&P Global Market Intelligence(2024年1月19日時点)


本資料は、S&P Global Market Intelligence社が発表した「WORLD EXPLORATION TRENDS」を、同社の許可を得てJOGMECにおいて翻訳したものです。著作権は全てS&P Global Market Intelligence社に属します。


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