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報告書&レポート

2025年1月30日 サンティアゴ 事務所 兵土大輔
25_03_vol.54

チリの鉱業に関連する排出ガス規制について

<サンティアゴ事務所 兵土大輔 報告>

はじめに

銅はカーボンニュートラル(CN)に欠かすことのできない資源であり、チリは世界第1位の銅生産量を誇る。一方で、COCHILCO(チリ銅委員会)によれば、チリの産業における温室効果ガス(GHG)排出量のうち銅鉱業に関するScope 1が5%、Scope 2が10%、合計15%を占めている1。チリ政府は2040年までに鉱業におけるCNを、2050年には国全体のCNを達成する目標を発表しており、鉱業のGHG排出量を削減することが1つの課題となっている2

チリの鉱業に関連する排出ガス規制は、1994年4月に重量物車両(本稿では「大型車両」に統一する)に適用される排出ガス基準(Decreto 553)が公布されたことに始まり、2004年1月(Decreto 584)及び2012年5月に同基準の一部が改訂されている(Decreto 45)。さらに、ディーゼル燃料を使用する大型車両からの大気汚染物質の排出を規制する必要性に基づき、2024年7月に同基準を一部改正する省令(CVE 25142856)が官報に掲載され、2026年1月5日から規則が施行される。このように、CNに向けた取り組みは少なからず鉱業にも波及しており、将来的に鉱山で利用される重機、大型車両等に影響を与える可能性がある。本稿では、チリの鉱業に関連する排出ガス規制についてまとめた。

1.チリの鉱業に関連するCNへの取り組み

1990~2020年のチリのGHG排出量を図1に示す。チリのGHG排出量は右肩上がりに上昇している。冒頭で述べたとおり、チリ全体のGHG排出量のうち銅関連が占める割合は15%であり、内訳としてScope 1が5%、Scope 2が10%と産業の主要なGHG排出源となっている(図2)。銅を生産する場合、操業現場では銅鉱石輸送のための大型ダンプトラックをはじめとする重機、また鉱山で生産された銅精鉱を港まで輸送するための大型トラック、そのほか従業員の移動のためのバス等が利用されることに起因する。また、銅鉱石を処理する選鉱場では多くの電力を消費し、その発電源が化石燃料由来であればGHG排出を増加させる要因となる。

大手メジャー企業をはじめとする鉱山会社はGHG排出削減目標を掲げており、その一環として鉱山で利用する電力について再生可能エネルギー事業会社とPPA(Power Purchase Agreement、電力販売契約)を締結し、クリーンなエネルギー利用を進めGHG削減に努めている(2023年3月30日付兵土大輔、岸蒼代香著 金属資源レポート23_01_vol52:チリの電力市場(2023年現在)の表16参照)。また、鉱山会社は重機の電動化、遠隔オペレーションセンターによる操業等によってGHG排出量を削減するような取り組みがなされていることから、将来的にGHG排出は減少していくと推察される。

図1.チリと日本のGHG排出量推移(2013~2022年)

図1.チリと日本のGHG排出量推移(2013~2022年)

出典:JRC(Joint Research Centre)及びIEA(国際エネルギー機関)の情報を基にJOGMECにて作成

図2.チリの産業におけるGHG排出量(2022年)

図2.チリの産業におけるGHG排出量(2022年)

出典:COCHILCOの情報を基にJOGMECにて作成

チリの電力供給システムを図3に示す。チリは2019年以降、北部のSING(Sistema Interconectado del Norte Grande、北部供給システム)とSIC(Sistema Interconectado Central、中央供給システム)が統合されSEN(Sistema Eléctrico Nacional、全国供給システム)という北部から中央部までを統一したシステムが完成した。系統連系別に発電容量を見ると、チリ全体のうちSENが99%を占めている。そのSENの電力需要のうち約40%が鉱業で利用されており、鉱業にとって電力は欠かせないライフラインになっている。昨今、銅鉱山のトレンドとして、海水淡水化の利用、品位低下及び不純物の増加による鉱石処理量の増加が挙げられ、すなわち将来的に電力需要が増加することが予測される。

チリにおける電力構成を図4に示す。2019年は火力発電が半分を占めており、再生可能エネルギーは20%程度であった。一方、5年後の2024年現在は再生可能エネルギーが2倍に増加し、火力発電が20%減少している。これは政府が石炭火力発電を2025年までに65%廃止、2030年までに全て廃止する目標を掲げており、徐々に石炭火力発電が閉鎖していることに依拠している。また、政府は2030年に電力構成のうち80%を再生可能エネルギーにするという目標を立てている。それ故に、将来鉱山操業では再生可能エネルギー由来の電力利用が益々進むであろう。

図3.チリの電力供給システム

図3.チリの電力供給システム

出典:CEN(Coordinador Eléctrico Nacional)の情報を基にJOGMECにて作成

図4.チリの電力構成(2019年及び2024年現在)

図4.チリの電力構成(2019年及び2024年現在)

出典:CENの情報を基にJOGMECにて作成

2.チリ鉱業に関連する排出ガス規制

チリで大型車両の排出ガス規制が始まったのは1994年からであり、基準が公布されて30年となる。1994年から現在までの排出ガス規制の基準の変遷について、代表的な内容を抜粋して取りまとめた。

ここで取り上げる排出ガスは、一酸化炭素(CO)、非メタン炭化水素(HCNM)、窒素酸化物(NOx)、粒子状物質(PM)、炭化水素(HC)、メタン(CH4)、アンモニア(NH3)、粒子状物質(MP)、粒子数(NP)、亜酸化窒素(N2O)とする。

1994年4月重量物車両に適用される排出ガス基準(Decreto 55)

チリでは1994年から、大型車両に適用される排出ガス基準が公布された。

(第1条)

大型車両とは、人が荷物を輸送することを目的とした車両総重量が3,860kg以上の自動車を言い、排出ガス基準について、エンジンまたは排気管または蒸発を通じて排出される排出物質と粒子状物質の基準値を設定する。

  • (a)排出基準:自動車が通常の状態のもと、排気管を通してまたは蒸発により排出されるガス及び粒子状物質の最大値。
  • (b)大型車両:街路及び道路で人や荷物を輸送することに用いられ、車両総重量は3,860kg以上である。
  • (c)車のタイプとモデル:同じブランドのモデル及び/または、同じメーカーが作ったもので、車両総重量、車軸配置、ホイルベース、エンジン排気量とシリンダーの数、少なくとも3つが同じ構造である。

なお、車両総重量、ホイルベース、エンジン排気量については、8%の許容差が認められる。

(第2条)

1994年9月1日以降に登録申請が行われた大型車両は、第4条で示される排出ガス基準に適合しており、自動車検査に合格している場合、首都州、Coquimbo州(第IV州)~Los Lagos州(第X州)でのみ走行することができる。排出基準に適合していない大型車両は、これらの州内での走行が認められなくなる。

(第3条)

法令で定める排出ガス基準に適合している大型車両には、運輸電気通信省の定めるところにより、適合していることを示す緑色のステッカーが貼られなければならない。大型車両の販売会社は、排出基準証明書を自動車の購入者に渡す義務がある。この証明書は、3部発行され、最初の自動車登録申請の際、提示しなければならない。そのうち1つは、通行許可書の申請の際、自治体に提出する必要がある。

チリのエンジン製造者または輸入販売会社は、エンジンが規格に準拠していることを示す証明書を運輸電気通信省に提出する必要がある。トラックまたはトラクターの製造業者、販売会社、輸入業者は、自動車の原産地、国内で車体が組み立てられた場合、全て新品で未使用の部品で組み立てられたことを証明できる書類を備えておく義務がある。

(第4条)

第2条で示されている大型車両は、首都州、Coquimbo州(第IV州)~Los Lagos州(第X州)を走行する際に、表1及び表2のとおり各エンジンについての排出ガス基準に適合していなければならない。

表1.ディーゼルエンジンの排出ガス基準
自動車登録申請 CO HC NOx PM
g/kW-h g/bHP-h g/kW-h g/bHP-h g/kW-h g/bHP-h g/kW-h g/bHP-h
1994年9月1日~ 4.5 15.5 1.1 1.3 8.0 5.0 0.36 0.25
1998年9月1日~ 4.0 15.5 1.1 1.3 7.0 5.0 0.15 0.10


表2.ガソリンエンジンの排出ガス基準
CO(g/bHP-h) HC(g/bHP-h) NOx(g/bHP-h)
37.1 1.9 5.0

※エンジンクランクケースから大気中にガスを排出してはならない。炭化水素蒸発ガス排出量の合計は、排出ガス試験ごとに4.0gを超えてはならない。試験は米国環境保護庁(EPA)が設定した方法で行われる。

(第5条)

第4条で示されている基準値を超えていないか、測定方法は、以下になる。

  • (a)ディーゼルエンジン:欧州共同体の13-mode cycle
  • (b)ガソリンエンジン:アメリカ環境保護庁のTest under transient operating conditions

(第6条)

大型車両が排出ガス基準に適合している場合、緑色のステッカーが発行され、車のフロントガラスに貼り付けなければならない。1994年9月1日以降に登録申請を行った大型車両は、エンジンが第4条で示されている排出ガス基準に適合していない場合、赤色のステッカーが発行され、車のフロントガラスに貼り付けなければならない。

(第7条)

自動車検査工場で実施される、車両から排出される汚染物質の測定では、ディーゼルエンジンの大型車両に対しては、車種及び地理的な条件に応じた方法で、浮遊粒子状物質の測定が行われる。以下で示される数値を超えてはらない。

  • (a)エンジン出力に関わらず、黒煙検査での最大値PM3.5
  • (b)エンジン出力、排気管径に関わらず、不透過率最大値6%(オパシティメータ)
  • (c)バス、小型バスの車種を問わず、加速試験における不透過率が最大値15%

ガソリンエンジンの大型車両について、COとHCの測定検査を行い、合格しなければならない。検査に通るための基準は、COは最大値0.5%、HCは最大値100ppmである。

(第8条)

大気汚染により車両規制の場合、この法令によって定められた排出規制に適応している大型車両は、車両の通行を禁止する措置が適用されない。

表3.ディーゼルエンジン(車体総重量≦3,860kg)
CO(g/bhp-h) HC(g/bhp-h) NOx(g/bhp-h) MP(g/bhp-h)
15.5 1.3 4.0 0.10


表4.ディーゼルエンジン(車体総重量≦3,860kg)
種類 CO(g/kW-h) HC(g/kW-h) NOx(g/kW-h) MP(g/kW-h)
従来のディーゼルエンジン
(電気燃料噴射装置、排気ガス再循環装置、酸化触媒用装置を備えたものを含む)
2.1 0.66 5.0 0.10
先進的な排ガス後処理装置を備えたディーゼルエンジン
(NOxの触媒及び/または粒子トラップを含む)
5.45 0.78 5.0 0.16


表5.ガソリンエンジン(車体総重量≦3,860kg)
CO(g/bhp-h) HC(g/bhp-h) HCNM(g/bhp-h) NOx(g/bhp-h) MP(g/bhp-h)
15.5 1.3 1.2 4.0 0.10


表6.ガソリンエンジン(車体総重量≦3,860kg)
CO(g/kW-h) HCNM(g/kW-h) CH4(g/kW-h) NOx(g/kW-h)
5.45 0.78 1.6 5.0


2004年重量物車両に適用される排出ガス基準の改訂(Decreto 58)

排ガス規制の施行日以降に最初の自動車登録申請を行ったディーゼルエンジンの大型車両は、硫黄分が350ppm以下で、表7もしくは表8の規制に適合している場合、首都州を含むCoquimbo州(第IV州)~Los Lagos州(第X州)を走行することができる。

表7.ディーゼルエンジン(車体総重量≦3,860kg)
CO(g/bhp-h) HC(g/bhp-h) NOx(g/bhp-h) MP(g/bhp-h)
15.5 1.3 4.0 0.10


表8.電子制御燃料噴射装置、排気ガス再循環装置、及び/または酸化触媒が
使用されている従来のディーゼルエンジン(車体総重量≦3,860kg)
CO(g/kW-h) HC(g/kW-h) NOx(g/kW-h) MP(g/kW-h)
2.1 0.66 5.0 0.10

同改訂が公布された日以降に最初の登録手続申請を行った大型車両は、首都州を走行するために表9及び表10に示されている規制値に準拠しなければならない。

表9.ガソリンエンジン(車体総重量≦3,860kg)
CO(g/bhp-h) HC(g/bhp-h) HCNM(g/bhp-h) NOx(g/bhp-h) MP(g/bhp-h)
15.5 1.3 1.2 4.0 0.10


表10.ガソリンエンジン(車体総重量≦3,860kg)
CO(g/kW-h) HCNM(g/kW-h) CH4(g/kW-h) NOx(g/kW-h)
5.45 0.78 1.6 5.0


2012年重量物車両に適用される排出ガス基準の改訂(Decreto 4)

本改訂はDecreto 55の第8条第3項を次のように改める。大型車両で、最初の自動車登録が表11、表12、表13及び表14に示されている日から申請され、基準に適合している場合、首都州、Antofagasta州(第II州)~Los Lagos州(第X州)、Los Ríos州(第XIV州)のみ走行できる。

表11.大型車両(3,860kg≦車体総重量<15,000kg)
施行日 Option CO
(g/bhp-h)
HCNM+NOx
(g/bhp-h)
HCNM
(g/bhp-h)
MP
(g/bhp-h)
2012年5月22日
(バスは2013年9月1日)
1 15.5 2.4 0.01
2 15.5 2.5 0.5 0.01

※エンジンメーカーは、Option 1または2を選択できる。

表12.大型車両(15,000kg≦車体総重量)
施行日 Option CO
(g/bhp-h)
HCNM+NOx
(g/bhp-h)
HCNM
(g/bhp-h)
MP
(g/bhp-h)
2012年5月22日
(バスは2013年9月1日)
1 15.5 2.4 0.01
2 15.5 2.5 0.5 0.01

※エンジンメーカーは、Option1または2を選択できる。バスに関しては、MPが0.05となる。

表13.モデル別による排出ガス基準
施行日 Option CO
(g/bhp-h)
HCNM+NOx
(g/bhp-h)
HCNM
(g/bhp-h)
MP
(g/bhp-h)
2014年10月1日
(新型車)
1 15.5 2.5 0.5 0.01
2 15.5 2.4 0.01
2015年10月1日
(全車)
1 15.5 2.5 0.5 0.01
2 15.5 2.4 0.01

※エンジンメーカーは、Option 1または2を選択できる。また、排出ガス測定は、EPAにより標準化された試験手順に従って行われる。

表14.排気システムからの排出ガス基準
  施行日 測定モード 試験
サイクル
CO
(g/kW-h)
HCT
(g/kW-h)
HCNM
(g/kW-h)
NOx
(g/kW-h)
MP
(g/kW-h)
大型車両
(バスを除く)
2012年5月23日 (1) ESC 1.5 0.46 3.5 0.02
ETC 4.0 0.55 3.5 0.03
2014年10月1日
(新モデル)
(2) ESC 1.5 0.46 2.0 0.02
ETC 4.0 0.55 2.0 0.03
2015年10月1日
(全モデル)
(2) ESC 1.5 0.46 2.0 0.02
ETC 4.0 0.55 2.0 0.03
バス 2013年9月1日 (1) ESC 1.5 0.46 3.5 0.02
ETC 4.0 0.55 3.5 0.03
2015年9月1日 (2) ESC 1.5 0.46 2.0 0.02
ETC 4.0 0.55 2.0 0.03

86.1863-07 Optional chassis Certification for diesel vehiclesの規定に従って、車両総重量が3,860㎏以上、6,350㎏以下の大型車両は、完成車の排出ガス認証の対象となる。排出ガスの最大許容値を表15に示す。

表15.Optional chassis Certification for diesel vehiclesの
規定に従った大型車両の排出ガスの最大許容値
車体総重量(kg) HCNM(g/km) CO(g/km) NOx(g/km) MP(g/km) HCHO(g/km)
3,860~4,536 0.121 4.5 0.1 0.01 0.02
4,537~6,350 0.143 5.0 0.2 0.01 0.02


2020年12月官報に掲載された省令(CVE 2026872)7

(第1条)人の健康保護、環境保護のため、この排出ガス基準は、重機からの排出ガス制御を目的とする。この基準は、全国で適用される。

(第2条)この排出基準の条項において、次のように理解される。

  • (a)重機:旅客、物品の道路輸送を目的としていない機械で、本体の有無に関わらず、地上を移動するのに適しており、正味設置電力が19kw以上560kw以下で、内燃機関、圧力直火によって動くもの。自動車、機関車、鉄道の客車や貨車、船、航空機の駆動に使用されるエンジンは除く。
  • (b)エンジンの形式と種類:型により、メ-カーが製造したエンジンが分類してまとめられたもので、排気ガスについて同様の特徴を持ち、適用される排出ガス制限値に準拠する。

(第3条)この法令の発効から24か月後に輸入される重機は、表16または表17で示される排出ガス基準に準拠しなければならない。トラクターの場合、この法令の発効から36か月後に輸入されるものに適用される。

表16.重機に適用されるガソリンエンジン・ガスエンジンの排出ガス基準
出力 CO HCNM NOx HCNM+NOx MP
g/kW-h g/bhp-h g/kW-h g/bhp-h g/kW-h g/bhp-h g/kW-h g/bhp-h g/kW-h g/bhp-h
130≦P≦560 3.5 2.6 0.19 0.14 0.40 0.30 0.02 0.015
56≦P<130 5.0 3.7 0.19 0.14 0.40 0.30 0.02 0.015
37≦P<56 5.0 3.7 4.7 3.5 0.03 0.015
19≦P<37 5.5 4.1 4.7 3.5 0.03 0.015


表17.重機に適用されるガソリンエンジン・ガスエンジンの排出ガス基準
出力 CO
(g/kW-h)
HC
(g/kW-h)
NOx
(g/kWh-)
HC+NOx
(g/kW-h)
MP
(g/kWh-)
PN
(g/bhp-h)
130≦P≦560 3.5 0.19 0.40 0.015 1×1012
75≦P<130 5.0 0.19 0.40 0.015 1×1012
56≦P<75 5.0 0.19 0.40 0.015 1×1012
37≦P<56 5.0 4.7 0.015 1×1012
19≦P<37 5.0 4.7 0.015 1×1012


2024年7月官報に掲載された省令(CVE 2514285)

大型車両は主にディーゼルを燃料として使用するため、大気汚染物質が排出される。N2O及びMP等は、人口密度が高い都市中心部の住民に直接影響を与え、健康への悪影響を引き起こす。WHO(世界保健機関)は、ディーゼルエンジンによって発生するMPの排出が急性及び慢性疾患の他、肺等の様々な種類の癌と関連性があると結論づけている。このことを踏まえ、環境省は、2020~2021年にかけて環境規制計画で大型車両の排出ガス規制の見直しを計画上の優先課題と定めた。大気の質を改善し、人々の健康に配慮するため、国内に輸入される大型車両の排出ガスを削減する必要性を考慮し、2024年7月5日、大型車両の排出ガス基準改正する省令(CVE2514285)が公布された。

この新基準(Euro VIまたは米国の基準と同等)を満たすため、エンジンには、ディーゼル微粒子捕集フィルター(DPF)やNOxを制御する選択触媒還元(SCR)システム等の最先端技術を組み合わせること、またディーゼル自動車向け酸化触媒(DOC)システム、排出ガス再循環(EGR)システム、エンジンの運転制御(ECU)システム等、既存の全ての技術を導入する必要がある。この法律の施行後、大型車両(新車登録)はCO、HCNM、NOx、PM、HC、CH4、NH3、MP及びNPの排出制限値に準拠できる場合にのみ、国内を走行することができる。大型車両の輸入には、これらの新しい排出制限を満たす必要がある。この新しい排出ガス規制により、2024~2032年の間に、粒子状物質が1,018t、窒素酸化物が127,109t削減されると推定されており、都市の大気の質が改善され、公衆衛生が向上し、死亡率と罹患率が大幅に減少するとされている。同法令はDecreto 55の第8条第4項として新たに追加される。新たな規制は官報に掲載されてから18か月後、2026年1月5日から施行される。

表18.大型車両に適用されるディーゼルエンジンの排出ガス規制値
CO(g/bhp-h) HCNM(g/bhp-h) NOx(g/bhp-h) MP(g/bhp-h)
2026年7月以降 15.5 0.14 0.2 0.01


表19.大型車両に適用されるガソリンエンジン・ガスエンジンの排出ガス規制値
THC(g/bhp-h) HCNM(g/bhp-h) NOx(g/bhp-h) MP(g/bhp-h)
2026年7月以降 1.9 1.7 1.0 37.1

おわりに

1994年に公布された大型車両に関する排出ガス基準は、鉱業が盛んなAntofagasta州及びAtacama州は対象外となっていたところ、2012年の改訂から対象となり、また2012年及び2024年に都市の人的影響の軽減を目的とした取り組みで排出ガス規制はより強化され、少なからず鉱業にも影響が及んでいる。特に既存の操業現場で利用される重機や大型車両の見直し及び最新技術を導入する等、コストが増加する可能性がある。一部の鉱山会社では、重機や大型車両の電動化に加えて水素利用の実証試験を行っているところも出始めている。

チリは2019年に大阪で開催されたG20を皮切りに、幅広い分野でCNの意識が強くなったと感じられる。政府は国内にある石炭火力発電を全て廃止し、再生可能エネルギー利用を推進する方針や国家グリーン水素戦略を発表する等、電力エネルギーの上流ではGHG排出低減に直結するような政策を進めている。鉱業においてもGHG排出量を削減するため、再生可能エネルギーを利用すること、また重機及び大型車両の電力化が大きく貢献するだろう。しかしながら、現状全てをCNにすることは難しいと考えられ、カーボンクレジット及びクリーンな銅精鉱にプレミアムを付けるような鉱山会社にインセンティブを与える制度が必要になるだろう。

今回は鉱業に関連する排出ガス規制について過去から現在までの変遷を追ったところ、昨今CNへの取り組みは一層強化され、また政府は2040年までに鉱業におけるCNを目指していることからさらなる排出ガス基準の強化を進める可能性もあり、鉱山会社、OEM(Original Equipment Manufacturers)を含む鉱山機械を製造・販売する企業等へ影響を与えかねないため、引き続き動向に注視していきたい。

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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