資源ニュースを読み解く「ベースメタル経済学」:誰がどう決めている? 金属価格決定のメカニズム
金属価格を発表するのはLMEと呼ばれる取引所
このところの中国景気減速に伴い、資源価格の下落が続いている。それは当然、ベースメタルも例外ではない。しかし、新聞などで取り上げられるベースメタルの価格は、どのように決められているのか、知らない人も多いのではないだろうか? その鍵となるのが、ロンドン金属取引所(LME=London Metal Exchange)だ。
LMEは世界最大規模の金属専門の取引所。18世紀後半の産業革命で製造業が急成長したのに伴い、1877年にロンドンで設立された。扱う金属は主に銅、鉛、亜鉛、ニッケル、錫、アルミニウムで、2010年からはレアメタルの一種であるモリブデンやコバルトも扱っている。
このLMEでは、毎日“リング”と呼ばれる伝統的な立会場でリングメンバー(正式会員)が集まり、金属ごとに、決められた時間に公式取引を行う。午前、午後、それぞれ2回ずつの計4回。それに加えて、リング外で電話を使って行われる「カーブ取引」もある。これらのうち、午前の2回目に行われる公式取引を「前場セカンドリング」と呼び、そのキャッシュセトルメント価格が「その日の公式価格」として発表される。これが、ニュースや新聞で取り上げられるLME価格の正体だ(ただし、最もアクティブにトレードされているのは、その日から3カ月先の引き渡しを期限とした「3カ月物」と呼ばれる取引である)。
しかしながら、世の中の現物取引は、このLME価格がそのまま適用されている訳ではない。基本的に取引を行う者同士の間には、荷揚げする港によってCIF(Cost,Insurance and Freight:海上保険料及び海上運賃を含む価格)プレミアムというものが加算される。これは地域ごとの需給や細かな取引条件などにより相対で決定され、スポット市場や四半期、年間契約で価格が設定される。また、純度や規格の違う準規格商品を扱う場合は、相対取引で加減される。
なお、LMEでは「LME登録ブランド」の認定を行っており、その認定を受けた商品のみを取引対象としている。それ以外の規格外商品は決済や現物の受け渡しの対象外となる。
需給のバランスを反映するLMEの公式価格
このように、マーケットの基準となる金属価格を発表するLMEだが、ここ数年、世界中の銅の約半分が中国で使われるなど、取引の中心がアジア圏に移っている。こうした時代の潮流を反映し、2012年には香港取引所が約1,830億円でLMEを買収、傘下に収めるという大きな変化も起こり始めている。結果、それまで英ポンド、米ドル、ユーロ、日本円だけだった取引通貨に人民元が導入されるなど、アジア色が確実に強まっているのだ。
リングメンバーには2015年11月現在、世界中の商社や金融機関などの9社が名を連ねており、日本の商社の子会社も参加している。
LMEにおける基本的な価格の変動要因は、需要と供給のバランスだ。それに加えて、ファンド資金の流入がさらに価格の変動性を高めている。たとえば、中国経済が急成長を始めた2004年辺りからは、中国における銅の需要が急増し、銅のLME価格は高騰。また2008年に発生した世界金融危機の際には、需要が激減したため価格が暴落するという具合だ。今後は特に、ベースメタルの主要消費国である中国の経済動向が金属価格に大きく影響を与えると予想されている。
【POINT】今後の金属価格を占うには各国の景気動向にも注目
2008年の世界金融危機、2010年のギリシャ財政懸念、そして欧州債務危機と、世界で金融危機が発生するたびに金属価格は下落しています。特に今後は、中国など新興国や途上国の影響が強くなると予想されるため、こうした国々の経済状況もウォッチしていく必要があります。

インフラ整備が続く中国では、銅やニッケルをはじめとするベースメタルが大量に消費されている。
インド、東南アジアを含め、今後も東アジアが世界の需要の中心になっていくだろう。
JOGMEC NEWS Vol.43より
最終更新日:2016年2月19日
