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資源ニュースを読み解く「ベースメタル経済学」:資源の安定供給を阻む 3大リスク

需給バランスを左右する注目すべき3つのリスク

 金属価格は上がりすぎも下がりすぎもよくない。需要家にとって、価格の安定が重要だ。
 金属価格は基本的に、需給バランスによって決まる。今年に入り、中国経済の急成長にかげりが見え始めたことで、金属資源の需要拡大ペースが鈍り、金属価格は軒並み下落。これはシンプルな例だが、多くのプレイヤーが関わるためさまざまな要因が絡み合い、需給バランスを左右する。
 中でも注目すべき安定供給上のリスクは3つ。資源ナショナリズム、資源の偏在性、そして、資源メジャーの寡占化だ。資源ナショナリズムとは、資源保有国が自国資源の管理を強化する動きのことで、資源国によって方法や手段は異なる。かつては鉱山企業の国有化が主であったが、鉱山経営には特殊なノウハウが必要なことから外資開放が進み、近年は外資系企業との利益や生産物の分配方法に重点が置かれるようになった。具体的には外資系企業による鉱山開発の権益制限や輸出税の引き上げ、鉱山税の導入などが増加。それに伴い、生産コストの増加や生産量の減少が起きている。次に、資源の偏在性。鉱種によって生産国が限られ、供給国を多様化できない。加えて、近年の開発費の増加や金属価格の大幅な変動に対処するため資源メジャーのM&Aによる寡占化が進み、特定企業の価格交渉力が高まっている。

【リスク1】資源ナショナリズム:資源国の方針で鉱山の国有化も

資源ナショナリズムは、大きく分けて3つに分類できる。上から順に資源国の関与が強く、資源国に有利な条件だ。また、ひとつだけでなく、複数の施策を組み合わせることも。

 金属資源のほぼ全量を輸入に頼っている日本。2010年に起こった中国の輸出制限によるレアアースの急騰は記憶に新しいが、それはベースメタルにおいても同様だ。たとえば2014年1月、インドネシアが自国産業の育成を目的にニッケル鉱石をはじめとした鉱物の輸出禁止に踏み切った。ニッケルが世界規模で供給不足に陥り、一時、価格の急騰が発生した。
これまで、途上国が保有している資源は、外国資本や国際資本によって開発されるケースが多かった。それに対し、インドネシアのニッケルの例のように、資源国が自国に存在する資源を自国で管理、開発しようという動きが強まっている。これが「資源ナショナリズム」だ。
資源ナショナリズムは自国での資源消費のほか、ロイヤルティや税の引き上げ、資源国内での加工義務化などがあり、時には鉱山の国有化なども起こりうる。それを回避するためには、資源国との良好な関係構築が必要だ。

【POINT】供給量の減少は資源価格の上昇に

 最近はファンド資金の動向も大きな影響を与えますが、基本的には、需要に対する供給量の不足が資源価格上昇の最大の要因です。資源輸出量の制限などがあったら、供給量が減る予兆。価格の高騰が起きる可能性が高くなります。

【リスク2】偏在性:採れる国が限られる金属資源

 ベースメタルの鉱床の形成は、地球の歴史と深く関わっている。そのためどこにでも均一にあるわけではなく、特定の場所に偏在している特徴がある。たとえば、銅鉱床は環太平洋地域に広く分布。特に南米チリには大規模鉱床があり、世界的な供給源でもある。鉛と亜鉛は同じ鉱床から産出されることが多い金属。偏在性は低いが、採算性などから現在はその多くを中国が生産する。ニッケルはインドネシアやフィリピンが主な供給源だが、インドネシアの輸出禁止により、最近はフィリピンからの供給が増加、またマダガスカルでの生産も拡大している。このように、鉱種により生産国が限られるため、供給国の多様化が難しく、常に供給リスクが伴う。

【リスク3】寡占化:価格交渉力を高める少数企業

近年、鉱物資源メジャーのM&Aによる寡占化、多国籍化が進んでいる。世界最大の鉱業会社BHP Billitonや、多国籍の鉱業グループであるRio Tintoがその典型例だ。

 鉱山開発は長年にわたり、資源メジャーと呼ばれる巨大企業が主に担ってきた。資源メジャーの特徴は、鉱石の大規模な採掘から製錬、製品化までの権益を押さえ、世界規模かつ多国籍で事業を展開している点にある。最近は、近年の金属価格の高騰に伴い、M&Aによる寡占化が進行。その結果、さらに少数の資源メジャーが価格交渉力を急速に高める傾向にある。行きすぎた寡占化は市場への影響力が強くなりすぎるため、競争を阻害する恐れがある。


JOGMEC NEWS Vol.43より
最終更新日:2016年2月19日

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