資源ニュースを読み解く「ベースメタル経済学」:金属資源のスペシャリストに聞く
中長期的な視野に立ち、金属資源の安定供給の確保に努めることが重要
―現在、日本が直面している課題と対応策を聞かせてください。
小嶋 日本はベースメタルをほぼ全量輸入に頼っています。ベースメタルは偏在性が高く、途上国で生産されるものもあります。そのため、資源国の政策や鉱山のストライキなど供給リスクにさらされる可能性が高く、いかに安定供給を確保するかが最大の課題です。加えて、世界全体の金属資源の需要及び供給に占める中国の割合の急増に伴い、中国の政策や景気動向が金属価格を大きく左右しており、安定供給、安定調達を阻害する大きな要因になっていますね。
関本 供給リスクを低減するためには、まずは日本政府が掲げる「自山鉱比率*」の引き上げが重要です。その点で、2014年7月に始まった南米チリでの「カセロネス鉱山プロジェクト」は大きな成果と言えるでしょう。これは日本資本100パーセントによる海外大型銅鉱山開発案件で、資源の安定調達に向けて官民が一体となって取り組んだ悲願のプロジェクトです。
小嶋 一方で、石油価格の下落や中国経済の成長減速懸念に伴い、最近、金属資源価格が軒並み大幅に下落しています。そのため、新規の探鉱・鉱山開発プロジェクトがなかなか進まないという状況にも直面しています。とはいえ、これまでの歴史を見ると、金属資源価格は10~20年周期で変動を繰り返す傾向にあるため、次に需要が拡大し価格が上昇したときに慌てて鉱山開発に着手しても手遅れです。ですから、企業の方々に中長期的な視野に立ち継続的な投資を進めていただけるよう、JOGMECとしても支援していきたいですね。
関本 資源外交も重要です。日本は高い技術力を有しているので、資源国に対して、環境に優しい資源開発を行うための技術提供などを行い、Win-Winの関係を築いていくことです。
―日本の産業の高度化・成熟化が進む中、日本の鉱業の望ましい将来像を聞かせてください。
小嶋 現在、日本の製錬所では、地金を作るための精鉱をすべて海外から輸入しています。そうした中、鉱種によっては、資源国において製錬所を自国内に建設することを条件に権益を与える動きも出ており、国内製錬業にとって、原料の安定調達が課題となっています。さらに近年、国内の電力価格上昇も、国内製錬業に負担を強いています。
関本 製錬所は製錬技術を継承するための拠点であり、日本の製錬所では、ベースメタルの鉱石に含まれているレアメタルなども回収していることから、レアメタルの安定供給確保の上でも、製錬所は非常に重要です。
小嶋 中でも日本の銅地金はクオリティーが高いため、日本の製造業が得意とする高付加価値の製品に使われています。需要家は地金を購買する際に、製錬会社を指定する場合も多く、その点で日本の製錬所は製造業の技術的優位性を素材の面から支えていると言っても過言ではありません。
関本 日本の基幹産業である自動車産業に関しては、将来の自動運転化などに伴い半導体や通信機器の需要が増えると思われます。今後、世界経済において、アジアの存在感が増していくことが考えられる中、日本の鉱業会社は同じアジアの一員として、アジア市場に対して高付加価値の製品を提供していくことも重要でしょう。JOGMECとしても、日本企業に対して、資金面や技術面、情報面で強力に支援していく計画です。私たち調査部では特に情報収集を強化し客観的な現状把握と分析を行い、市場を見渡す精度を少しでも高めていくことで、金属資源の安定供給に貢献していきます。
JOGMEC NEWS Vol.43より
最終更新日:2016年2月19日