報告書&レポート
ロシア鉱業の現状と外国資本
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はじめに
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ロシア鉱業の現状
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投資リスク
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金鉱業への外資参入の背景
ロシアが豊富な天然資源を有することは衆目の一致するところである。石油・天然ガスはロシアの輸出額の半分以上を占めており、銅、ニッケル、白金族等の鉱物資源を含めると実に4分の3に達する。ロシアの2003年の主要非鉄金属生産量と世界順位、シェアは下表のとおりである。
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その一方でロシアへの投資はリスクが高いとされ、鉱物資源分野での外国資本の直接投資は限られている。今般、ロンドンでAMA(鉱業アナリスト協会)主催によるロシア投資セミナーが開催され、鉱業の現状と課題が議論された。AMA講演内容と公表資料に基づき、ロシア鉱業の現状と外国資本の動向について報告する。
1991年のソ連解体後、ロシアの鉱産物生産は大幅に減少した(図参照)。生産が回復しだしたのは1999年頃からであり、21世紀になってようやく金と銅が1992年並みの生産量となり、ニッケルも2003年になって生産量が旧に復した。
特筆すべきは1998年以降の金生産量の着実な増加である。ロシアの金生産量は1992年の149.0tから1998年の113.1tまで減少したが、その後増加に転じ、2003年は176.9tに達した。GFMS社Bruce Always氏の講演によれば、金生産地はロシア東部のYakutia、Irkutsk、Khabarovskの各地域が中心であり、生産の約半分は砂鉱床から生産されている。生産者は600社以上あって上位20社が生産量の56%を占めており、企業統合のきざしがあるという。金生産の着実な伸びの背景として同氏は、政府による鉱業の自由化、ロシアの商業銀行による投資、西側企業の参入の3要素をあげた。
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外国資本によるロシアの金鉱山とその生産量は下表のとおりである。これら4鉱山の2003年の生産量は合計で15~16tで、ロシア産金量の1割弱に相当し、近年の金増産の主要因となった。Julieta鉱山を経営するBema Gold社(加)のClive Johnson社長はAMAセミナーで同社のロシアでの金事業について講演し、順調に進んでいることを強調した。
鉱山名 | 生産量 | 外国企業名(権益シェア) | 参入年 |
Mnogovershinnoe | 6.03t | Highland Gold Mining(英Channel諸島)(55.9%) | 2002 |
Buryazoloto | 4.78t | High River Gold(加)(54.1%) | 1995 |
Julietta | 3.67t | Bema Gold(加)(79%) | 1998 |
Pokrovskkiy | 2.18t | Peter Hambro Mining(英)(97.69%) | 1994 |
上表の4鉱山に加え、2004~2006年の生産開始に向け開発準備中の金鉱山にCeltic Resources社(アイルランド)のNezhdaninskoye鉱山、Bema Gold社のKupol鉱山、Highland Gold Mining社(英Channel諸島)のDarasun金鉱山・Novoshirokinskoye金鉱山・Mayskoye金鉱山があり、外資系鉱山からの生産量は今後も増加が見込まれる。
ロシアは豊富な鉱物資源を有するが、リスクの大きさから、西側大手鉱山会社による探鉱・開発の実績は少ない。不安定な政治やインフラの未整備等、リスク要因は多いが、なかでも法治主義が徹底していないことによる所有権の不確立、即ち鉱業権剥奪の恐れが最大のリスクとされる。
鉱物資源分野で旧ソ連諸国に参入した外国企業が遭遇したトラブルをMining Journal誌は2003年6月に特集したが、それによれば旧ソ連の法制度は不備が多く、依然として政治が法律の上位に位置しており、契約は尊重されない場合がある。トラブルには2種類あって、ひとつは法制度の不備に起因するものであり、国有資産の入札後に手続きの法的正当性に関し訴訟を起こされた例がある。もうひとつは鉱業権所有者との操業契約に関するトラブルであり、鉱業権者側が契約を尊重せず、一方的に契約が破棄された例がある。しかし付与された鉱業権が剥奪されたという例はないという。旧ソ連に参入する外国企業へのアドバイスとして同記事は、契約によらず鉱業権を確保すること、法制度の不備を前提とした十分な訴訟対策をあげている。
Economist Intelligence Unit社(英)のLaza Kekic氏はAMAセミナーで二期目を迎えたプーチン政権の政治と経済の方向について講演し、「ロシアの不安定要因は根深く、容易に解消されないため、ロシアの投資リスクは高いままであろう。天然資源の再国有化は、経済の現代化を目標としているプーチン政権ではありそうにない」と予測した。
金鉱業とベースメタル鉱業への投資を比較すると、金鉱業の有する長所は、初期投資額が小さいこと、資本回収(ペイバック)期間が短いこと、最終製品(金塊)が空輸可能で貧困なインフラに依存しなくて済むことである。ポテンシャルとリスクが共に高いロシアへの外国資本の参入が金鉱業から始まったのはこれらの長所によるものであろう。中小の外国資本による金鉱業への参入と順調な進展に続き、大手鉱山会社による金鉱業への参入の動きがある(下表参照)。
会社名 | 概要 |
Anglo American(英) | 1999年にEurasia Mining社(英)とJVを締結し、Urals地方の白金砂鉱床の初期探査を実施中。 |
Barrick Gold(加) | 2003年10月:Buryazoloto金鉱山を有するHighland Gold社(加)の株式17%を取得。2004年に予定されているSukhoi Log金鉱山(金埋蔵量約1,000t)の入札への参加を表明。 |
Rio Tinto(英) | 2004年3月:Pokrovskkiy金鉱山を有するPeter Hambro Mining(英)とChagoyansk探鉱・採掘複合鉱区の探鉱に関するJV締結。 |
Rio Tinto社のロシア金探鉱への参入についてMining Journal社は「投資に関し地域リスクを避ける傾向の強いRio Tinto社が平均より大きいリスクをとった。ロシアでの金探鉱は、同社のコア事業である石炭、鉄鉱石、ダイヤモンド、非鉄金属への貴重な足場となろう。」と評している。Rio Tinto社が通常以上のリスクをとった背景には、ロシアの鉱物資源ポテンシャルに対する高い評価があるものと思われる。同社がいつどのような形で他鉱種に参入するのか、さらに他の大手鉱山会社も参入するのか、今後の動向が注目される。
