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報告書&レポート

2004年8月12日 サンティアゴ事務所 原田 武
2004年29号

チリ鉱業ロイヤルティ法案、議会に提出

 チリ政府は7月5日、鉱業ロイヤルティ適応のための法案を下院に提出した。2004年4月、ロイヤルティの適応とその資金による技術革新基金の創設が発表され、その後の政府内の検討で徴収率などの変更が行われ、今回の下院提出に至った。それを受けて、チリ鉱業審議会(Consejo Minero)やチリ鉱業協会(Sonami)などによる業界団体のロビー活動が展開されている。また、2004年10月全国の市長選挙、来年には大統領選挙が控えている。国民の関心も高く、議論は政治的な様相を見せている。チリ政府は下院及び上院での早期決着をつけようとしている。

  1. 法案

  2.  「従価鉱業ロイヤルティ制定及び競争力向上のための技術革新基金設立法案」としてラゴス大統領の親書を持って下院に提出された。法案は鉱業権に関する法律(第18097号)に、鉱業権から発生する義務として11の条項を追加するもので、この法律の制定には下院(120名)及び上院(48名)の4/7の賛成を必要とする。法案の概要は以下のとおり。

    1) 鉱山経営者(鉱業権者または鉱業権の名義人と何らかの契約を結び、利権を受けた鉱床から鉱石を採掘して販売する者)に従価鉱業ロイヤルティの支払い義務を課す。
    2) 年間総売上高から物資調達費、労務費、保険料や運搬費といった直接経費を差し引いた額(年間純売上高)に掛かる。税率は、金属鉱物の場合は3%、非金属の場合は1%とする。
    3) ロイヤルティの計算において、鉱産物の販売価格または市場価格を参考にした価格のうち高い方の価格に基づいて計算する。
    4) 2005年1月に発効の予定。ただし、2007年までは法人税(第Ⅰカテゴリー税)からの控除ができるため、実質的には2008年からの徴収となる見込み。
    5) 年間総売上高が2,000UTA(約US$1.2百万相当、UTAは年間納税単位)以下の場合は免除。また、年間純売上高が総売上高の15%以下の場合には免除される。
    6) ロイヤルティの徴収による資金は、競争力向上のための技術革新基金に向けられる。(政府の試算では年間100百万US$ほどのロイヤルティ収入)

  3. 基金の設立

  4.  基金設立の根底には、チリが今後も中長期的に、鉱業分野において国際的な競争力を得ていくには、特定分野の技術開発や先進的な知識の獲得に投資を向ける必要があるとする考えがある。外国の知識や技術の誘致、採用、順応だけでなく、技術と知識を理解し利用できる人材の育成が不可欠と認識されている。しかし、現状では、チリにおける研究・開発費用が国内総生産の0.6%程度であり、先進国の平均が2.8%であるのに比較して、大きく遅れているとされている。今回、新基金を創設して、技術革新への国家予算を増やすことは、結果的に、これらの技術革新への民間投資を促進して、補完することを目的としている。
     今回の提出法案において、基金の使途は、地方産業活動へ向けられる趣旨が付け加えられ、少なくとも80%は鉱業地域においてインパクトを与えること、50%は地方に拠点を持つ団体や企業のプロジェクトに向けられること、といった形で盛り込まれている。
     政府がロイヤルティ適応と基金の創設を発表した後も、連立与党の内部では、ロイヤルティの資金は、州や地方、特に鉱業地域への貢献に向けられるべきとする意見があり、その意見と折り合いをつける上で、地方産業への貢献を表す必要があった模様。しかし、基金の運営管理は国の機関となることから、地方への貢献がどれだけ約束されるものなのか疑問を持つ意見も多い。いずれにしても、基金の管理や割当てなどの詳細についての必要法規は、別途、政令にて規定される。

  5. ロイヤルティの鉱業界への影響

  6.  純売上高の3%という税率は、今回の法案で変更された点であり、0~3%で変動率を総売上高に掛けるとしていた当初の案より影響が大きくなっている。また、このロイヤルティは、法人税の率にすれば約6%の増に相当するとの試算もある(Instituto Libertad y Desarrollo:チリ自由開発研究所の発表)。
     メジャー鉱山各社は、Cerro Casale金銅鉱床(Placer Dome社)、Spence銅鉱床(BHP-Billiton)、Esperanza銅鉱床(Antofagasta Minerals社)などのプロジェクトの開発をロイヤルティ問題の解決まで待つ姿勢を示している。また、新規プロジェクトのみでなく、過去にチリ政府と外資法(DL600)に基づく契約を締結しているプロジェクトにも影響する可能性がある。以前から業界団体はゲームのルールの変更になるとして批判してきた。外資法では、契約当初に、一般税率35%と20年間を限度とした固定税率42%を選択することができる。大規模鉱山の例では、Candelaria(1992年)、Cerro Colorado(1992年)、Collahuasi(1996年)、Disputada(2002年)、El Abra(1994年)、Los Pelambres(1997年)、Quebrada Blanca(1990年)、Zaldivar(1992年)が固定税率42%を選択してDL600を締結している(( )内の年は外資契約の締結年、Estrategia 7月7日付より)。しかし、現時点での政府の見解は、ロイヤルティは、国家に帰属する未再生資源の採掘に対して支払うべき補償であり、外資法が固定を保証する法人税とは違うカテゴリーであると主張している。また、外資法にて保障されている減価償却、損失繰越、起業費についての固定とも違うとし、今回の法案が外資法を侵害することはないとの見解を示している。

  7. 法案審議の行方

  8.  法案の成立は議会の4/7(下院の66票、上院の28票)の賛成が必要。ロイヤルティ法案を推進する与党連合の下院議員数は58名、上院議員数は20名であり、法案の議会通過は野党勢力からの得票次第である。野党には勢力を2分する独立民主同盟(UDI)と国民革新党(RN)があるが、ロイヤルティに対する賛否に対してはいずれも慎重な姿勢を示している。一時は、国民革新党の多くが賛成票を入れるとの見方もあったが、チリ鉱業業界のロビー活動もあってか、不賛成に回りつつあるとの報道もあり、実際の投票までは法案通過の可否はわからない。一方、10月には市長選挙も控えている。政府は、国民的な関心事だけに、選挙運動の材料になることを危惧しており、議会での早期決着を目指している。7月13日の政府発表によると、上院・下院の各議会での審議期間を10日に設定するとしており、早い時期に結論が出される可能性が高い。

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