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報告書&レポート

2009年7月2日 資源探査部  久保田博志、ロンドン事務所 竹谷正彦、フレンチ香織
2009年33号

白金族資源の新たな供給国として期待されるジンバブエ

 ジンバブエ共和国(以下”ジンバブエ”)の南北を貫く、塩基性-超塩基性貫入岩体”Grate Dyke(グレートダイク)”は、世界の白金族資源の数10%を占める南アフリカ共和国(以下”南ア”)のBushvelt(ブッシュフェルト)地域、ニッケルに伴って白金族金属(以下”PGM”)を産出するカナダのSudbury(サドベリー)地域、ロシアのNorilsk地域と並ぶPGM資源ポテンシャルの高い地域として知られている。操業鉱山は、まだ、2鉱山だけであるが、政治的、経済的混乱が収束し、海外企業等による鉱山投資が進めば、南ア、ロシアに次ぐPGM資源大国になるとの期待がある。

1. はじめに
 ジンバブエの2008年のPGM生産量は、プラチナが180千oz (5.6t)*1で世界第4位、パラジウムが4.3t(140千oz)*1で世界第5位であった。南ア、ロシアが減産する中、生産量は僅かながらではあるが増加して堅調な生産を維持している。政治的、経済的に混乱している同国ではあるが、南ア、ロシアに次ぐPGM資源国との期待がある。

2. 世界のPGM資源
2-1. 鉱山生産量
 2008年の世界のPGM生産量は対前年比7%の減少となった。その主な原因は、世界のPGM生産量の約70%を占める南アが前年から続く電力供給障害、洪水、鉱山事故など*2により対前年比約8%減少の4,671千oz (145.3t)*1となったこと、ロシアの悪天候、生産施設のメンテナンス、品位低下などにより対前年比約9%減少の835千oz (26.0t)*1であったことにある。
 この2か国の減産を補ったのが、ムガベ大統領による選挙の騒動にも拘らず鉱山操業が堅調であったジンバブエの対前年比約6%増加の180千oz (5.6t)*1と、カナダの対前年比約11%増加の227千oz (7.1t)*1の増産、そして2008年上半期のプラチナ価格高騰期におけるリサイクルの増加であった。

図1.世界の白金とパラジウム生産の増減(2008年、対2007年比)  白金増減

図1.世界の白金とパラジウム生産の増減(2008年、対2007年比)  パラジューム増減
図1.世界の白金とパラジウム生産の増減(2008年、対2007年比)

2-2. 資源量
 PGMの産出国は限られており、その60%弱が南アに賦存し、ロシア16%、フィンランド12%、ジンバブエ9%、カナダ6%と続いている。*3
 南アのPGM資源はBushvelt地域に集中している。カナダではSudbury地域、ロシアではNorilsk地域で銅・ニッケルに伴ってPGMを産出している。いずれの地域も生産、開発が進んでいる。
 他方、ジンバブエのGrate Dyke地域では、他地域と同様にPGM資源を伴う塩基性~超塩基性層状岩体が広く分布しているが、操業鉱山が2鉱山のみであり、今後、更なる鉱床開発の可能性がある。

図2.世界のPGM資源の割合(1)〔国別PGM資源量〕
図2.世界のPGM資源の割合(1)〔国別PGM資源量〕

図2.世界のPGM資源の割合(2)〔鉱種別PGM資源の割合〕
図2.世界のPGM資源の割合(2)〔鉱種別PGM資源の割合〕

図3.世界のPGM鉱床の分布
図3.世界のPGM鉱床の分布

3. ジンバブエのPGM資源
3-1. Grate Dyke
 Grate Dykeは、ジンバブエ中央部に幅5~12km、南北約550kmにわたって伸びる塩基性~超塩基性層状貫入岩体である。この岩体は太古代の花崗岩及びグリーンストーン帯を貫いて発達している。同岩体は、最北部のMuvradona、北部(Musengezi, Darwendale, Sebakuwe)、南部(Sulkuwe, Wedza)に区分される。Grate DykeでPGM鉱床が発見されたのは1918年である。*4 Hartley鉱山、Ngezi鉱床はHartely岩体(北部岩体)に、Mimoza鉱山はWedza岩体、Unki鉱床はSulkuwe岩体(南部岩体)に位置している。

3-2. 鉱山
(1)Hartley鉱山

権   益: Zimplats Holdings 100%
(Zimbabwe Platinum Mines 70%、Impala Platinum 30%)
鉱   種: PGM(Pt, Pd, Rh)、金、ニッケル、銅
鉱床タイプ: Bushveld岩体に類似するGreat Dykeに属する正マグマ性鉱床
(鉱床は、地下浅所(~数百m以浅)に胚胎する)
資 源 量: 218百万t*5
品   位: PGE+Au 4.03g/t*5、Pt 2.04g/t、Pd 1.52g/t*6
金 属 量: Pt 14.2百万oz(442t)*5、Pd 10.6百万oz(330t)、
PGE+Au 28.2百万oz(877t)*6
(含有割合:Pt 47.2%, Pd 36.5%, Rh 4.0%, Au 7.0%, Ru 3.6%, Ir 1.7%)*5

(2)Mimosa鉱山

権   益: ZCE Platinum 100%
(Impala Platinum Holdings Ltd. 50%, Aquarius Platinum Ltd. 50%)
鉱   種: PGM(Pt, Pd, Rh)、金
鉱床タイプ: Bushveld岩体に類似するGreat Dykeに属する正マグマ性鉱床
資 源 量: 91.6百万t*5
品   位: 3PGE注)+Au 3.82g/t、5PGE注)+Au 4.07g/t *5
金 属 量: Pt 5.5百万oz(171t)*5
(含有割合:Pt 45.7%, Pd 36.3%, Rh 4.1%, Au 7.4%, Ru 4.0%, Ir 2.5%)*5
生 産 量(2008年): Pt 8.1万oz(2.5t)、Pd 6.2万oz(1.9t)*6

注)3PGE:Pt,Pd,Rh      5PGE:Pt,Pd,Rh,Ru,Ir

3-3. 鉱床
(1)Ngezi鉱床

権   益: Zimplats Holdings 100%
(Zimbabwe Platinum Mines 70%、Impala Platinum 30%)
鉱   種: PGM(Pt, Pd, Rh)、金、ニッケル、銅
鉱床タイプ: Bushveld岩体に類似するGreat Dikeに属する正マグマ性鉱床
(鉱体は南北8 km東西1~1,5 km 鉱床層準は走向方向に南方に16 km、 Hartley鉱床へと続く)
資 源 量: 1,588百万t *5
品   位: 3PGE注)+Au 3.48~3.65g/t、5PGE注)+Au 3.67~3.85g/t *5
金 属 量: Pt 88.3百万oz *5
(含有割合:Pt 47.2%, Pd 36.5%, Rh 4.0%, Au 7.0%, Ru 3.6%, Ir 1.7%)*5
生 産 量(2008年): Pt 94,300oz(2.9t)(180,000oz(5.6t)へ拡大計画)*5

(2)Unki鉱床

権   益: Anglo Platinum(51%)、Anglo American(29%)、
Local Interest & Emplotee(20%)
鉱   種: PGM(Pt, Pd)、ニッケル、銅
鉱床タイプ: Bushveld岩体に類似するGreat Dykeに属する正マグマ性鉱床タイプ
資 源 量: PGE+Au 166.6百万t*6
品   位: PGE+Au 4.13g/t*6
金 属 量: PGE+Au 22.1百万oz(687t) *5

図4.PGM鉱床の分布
図4.PGM鉱床の分布

図5.PGM鉱石のPt-Pd割合
図5.PGM鉱石のPt-Pd割合

図6.PGM鉱床の品位と資源量
図6.PGM鉱床の品位と資源量

4. ジンバブエのPGM資源を取り巻く環境
4-1.ムガベ大統領政権とそれを取り巻く国際社会
(1)経済破綻まで
 ジンバブエでは、ムガベ大統領が1980年の英国からの独立以来、一貫して政権を握り、報道規制、強権統治、白人からの農地の強制収容*などで欧米諸国の批判を受け、英国連邦からの脱退や援助停止など国際的に孤立した。
1990年代末頃から、脆弱なガバナンスと経済政策の失敗により、高インフレ率、高失業、深刻な外貨不足等が顕著となり、2000年以降に開始された強制土地収用*を契機に、農業が大きな打撃を受け、経済の悪化は加速した。国際社会からの孤立も経済情勢悪化に拍車をかけ、2008年7月には公式インフレ率2億%(年率)を記録した。
 2009年1月末、同国政府は、価格統制、中央銀行による準財政活動等一部の経済・財政政策の失敗を認め、ジンバブエ$と併行して複数外貨を法定貨幣として導入することを決定し、それ以降、事実上自国通貨の流通が中止されている。*7

* 2000年8月からの政府によって土地改革が”ファースト・トラック”にて開始され、1,100万haの白人大農場(約5,000農場)が強制収用され、白人農場主は十分な補償もなく土地を追われた。

4-2. 国際社会の対応 -連立政権前-
 ムガベ大統領の非民主的な政治状況下にあっても、南アの民間企業は比較的良好な関係を維持しているといわれる。他方、国際社会は、米国、英国、西欧諸国、豪州が反ムガベ大統領の立場をとり、援助停止・制裁措置を取った。他方、中国、ロシアは友好的とみられ、ジンバブエ側も”Look East”の中国、ロシアよりの姿勢を示していた。
 また、近隣諸国であるSADC (南部アフリカ開発共同体:Southern Africa Development Community)諸国の動向について、ジンバブエに詳しいリスク・アナリストは、「南アは、民間ベースでは最も関係のある国であり、ナミビアも以前はジンバブエとは密接な関係があったが、近年は、ザンビア、ボツワナ、モザンビークなど反ムガベ大統領政権の立場を示すなど、国によってバラつきが見られた」と分析していた。

4-3. 国際社会の対応 -連立政権後-
 2008年3月の総選挙後、欧米諸国の厳しい批判のなか、南アフリカを仲介役として、同年9月15日、旧与党” ZANU-PF (ジンバブエ・アフリカ民族同盟愛国戦線)”と旧野党” MDC (民主変革運動)”が、首都ハラレでSADC各国首脳らが出席して連立政権の合意書への署名が行われ、1980年の独立以来のムガベ氏による独裁体制に事実上の終止符を打たれた。2009年2月中旬には連立政府が樹立して、新設された首相職にMDCのツァンギライ氏が就任した。
 連立政権は、「海外から財政援助を得るための方便に過ぎない」との見方もあるが、「西側を中心とした国際社会は、総じて連立政権(首相職にMDCのツァンギライ氏が就任したこと)を歓迎している」との見るのが適当であろう。
例えば、SADCは、「ジンバブエ連立政府を支持することを、また、欧米諸国に対しては同国への制裁措置の解除と援助の再開を働きかけていくことを明らかにしている」*。 また、ジンバブエ関係者は、「5月19日に発表のあった世界銀行による経済再建への支援やIMF調査団派遣(詳細は後述)は、連立政権への期待の現れである。政治状況の改善を見越して、ジンバブエへの投資が活発化するであろう」とコメントしている。**

* 南部アフリカ・フォーラム(2009年5月28日、東京)において、SADCを代表して南部アフリカの政治状況に関する講演(在京コンゴ民主共和国大使)より
** 南部アフリカ・フォーラム(2009年5月28日、東京)において聴取

4-4.鉱山投資の現状
 具体的な鉱業分野の外資による投資例として次がある。
[1]Hartley鉱山:Zimplats Holdings Ltd.
                      Impala Platinum Holdings Ltd.(南ア)86%(2005年時)
[2]Mimoza鉱山:Impala Platinum Holdings Ltd. (南ア)+Aquarius Platinum Ltd. (豪州)
[3]Unkiプロジェクト:Anglo Platinum+Anglo American)
[4]African Rainbow Minerals Ltd.(南ア)+Vale(ブラジル)が銅プロジェクトを取得(TEAL社(カナダ))
[5]CAMEC(Central African Mining & Exploration Co.:英国)はPGM案件に関心

4-5. 国際機関の支援
 世界銀行は、5月19日、ハイパー・インフレで経済が崩壊状態にある同国に対して22百万US$(約22億円)の支援を実施すると発表した。また、2000年以来、国際金融機関に対する債務12億US$(約1,200億円)を処理した場合、世界銀行の融資の可能性も示唆した。*8, *2, *10
 ドイツ経済協力開発省も同日、10百万€ (約13億円)のコレラ対策のための浄水、農業分野等などのジンバブエ支援を発表している。*10
国際通貨基金(IMF:International Monetary Fund)は、5月18日の週、2週間の予定でジンバブエ経済再建のための同国経済状況の調査団を派遣している。*9

5. おわりに
 パラジウムの需要が今後5年くらいを目処に大きく伸びると予想されていることを考慮すると、ロシアや南アに次ぐPGM資源国としてジンバブエは注目すべき一国であろう。
 ジンバブエは、ムガベ大統領による非民主主義的・強権的政治が続いていたこと、ハイパー・インフレが急激に進行して同国経済システムが破綻したことなどから、外資にとって厳しい投資環境にあった。
 しかし、連立政権は、同国民主化の兆しとして、近隣のSADC諸国、世界銀行など国際機関の協力が再開されるなど、投資環境が改善されて西側諸国の鉱山会社によるPGM資源への投資が活発化する時期も近いと考えられる。
 政情安定、経済再建による投資機会の拡大に伴い、西側鉱山会社の進出に我が国も乗り遅れないよう、同国の動向を注視していく必要がある。

参考文献等
*1 GFMS(2009), Platinum & Palladium Survey 2009, p73, 75, 77, 79
*2 GFMS(2009), Platinum & Palladium Survey 2009, Launch Presentation u0013 23 April 2009
*3 Roskill(2005), The Economics of Platinum Group Metals Seven Edition, p11
*4 鞠子 正(2008), 鉱床地質学, p115-117, 古今書院
*5 データ:Implat web-site, shttp://www.implats.co.za
*6 データ:MINMET, Intierra
*7 外務省 各国・地域情勢 ジンバブエ共和国 http://www.mofa.go.jp/MOFAJ/area/zimbabwe/data.html
*8 Control Risks, 19 May 2009 “World Bank funding pledge belies persistent rifts within unity government”
*9 CNN http://www.cnn.co.jp/business/CNN200905190007.html
*10 VOA com English “World Bank Pledges US$22 Million to Zimbabwe; IMF Technical Team Arrives” By Patience Rusere, Washington 18 May 2009

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