報告書&レポート
Mining INDABA 2011(第16回アフリカ鉱山投資会議)(その1)
2011年2月7~10日、南ア・ケープタウンにて、世界規模の鉱業カンファレンスであるMining INDABA 2011が開催され、世界全体から800以上の資源企業、アフリカ40か国以上の政府関係者等、2010年を大きく上回る約6千人が参加した。我が国からは、中山義活経済産業大臣政務官、在南アフリカ共和国日本大使館小澤俊朗特命全権大使、安永裕幸資源エネルギー庁鉱物資源課長、及びJOGMEC藤田文萌副理事長などが参加し、講演を行った。また、展示ブースコーナーでは、出展5年目となるJOGMECに加え、国際協力銀行(JBIC)が初の展示ブースを展開するなど、アフリカ鉱業分野において日本のプレゼンスが高まる有意義な会議となった。 |
1. INDABA 2011展示会場 ~ ニューフェイスが続々登場 ~
写真1. Xstrataの一風変わった巨大展示ブース
Mining INDABA 2011では、現在の金属価格の高騰、そして新興国を中心とした将来の金属需給の逼迫予想を背景に、2010年の4千5百名を大きく上回る史上最高の6千人が参加した。会場では、至る所でビジネスミーティングが行われており、活気溢れる印象を受けた。
参加者については、例年どおり、アフリカ各国の政府関係者、メジャー/中堅鉱山会社、ジュニア探鉱会社、金属需給動向やファイナンスのアナリスト、投資家、証券会社や金融機関、鉱山設備提供会社等のほか、インドや韓国などの関係者が新たに増加したように感じられた。他方、会場では、中国人の姿が前年より比較的少ないように見受けられた。なお、当方が把握しているところでは、日本からの参加は民間企業9社、社団法人1団体、政府関係機関5機関となっている。
展示ブースは全部で299件であった。日本からはJOGMECに加えJBICが初参加し、隣接してブースを出展した。例年どおり、カナダ及び豪州政府は大規模なカフェ・ラウンジを設け、Anglo American等の資源メジャー企業も格別な展示ブースを構えており、なかでも、Xstrataのブースは、一風変わったデザインで注目を集めていた。その他、ジンバブエ鉱業省やアフガニスタン共和国鉱業省から初めての展示ブースが見られる一方、前年に出展していた中国国土資源部からの展示は見られなかった。
2. アフリカ各国の鉱業大臣による講演
写真2. 多くの聴衆が集まった
アフリカ大臣フォーラムの様子
アフリカ開発銀行(AfDB)主催でアフリカ大臣フォーラムが開催され、アフリカ各国の鉱業大臣が自国の鉱業事情及び鉱業政策に関する講演を行い、多くの聴講者が集まった。(※ただし、南アは本カンファレンスのホスト国として、大ホールにて基調講演を行った。)
2-1. 南アShabangu鉱物資源大臣 ~ 投資家の信頼を回復するためにも、改善を急ぐ ~
【南ア鉱業の背景】
南アフリカは、世界の約7~8割のプラチナ生産を始め、金、ダイヤモンド、クロム等多くの鉱物資源を生産するアフリカ最大の鉱業国である。
2010年の南アフリカは、鉱業憲章及びBEE(Black Economic Empowerment)スコアーカードの見直しが発表されるなど、鉱業政策の透明性が向上する動きがあった。しかしその反面、鉱物資源省の管理能力の欠如から鉱業・探鉱権のオーバーラップ(二重付与)問題が表面化するなど、行政管理のマイナス面が露呈した。
特に、プラチナ大手Lonminが、鉱業活動中の鉱区について、鉱業権更新に伴う申請書の不備と言う理由から、不条理にBEE有力者が経営する企業にプラチナ副産物の探鉱権が付与されたとして、法的係争を起こした。また、Kumba Iron Ore社(Anglo American子会社)は、A Mittal社が更新できなかったSishen鉱山の権益21.4%を、同権益無効日に適切な申込書で申請したにも拘らず、鉱物資源省の裁量により不条理にBEE有力実業家に探鉱権として付与されたとして、こちらも法的係争が起こった。
そのことからも、鉱業権付与の状況を急いで確認すべく、2010年8月、Shabangu大臣は新規の探鉱権等の申請等を6か月間凍結する措置をとった*1*2が、同年9月には、南ア与党ANCが鉱業国有化に関する調査を開始すると決議したことから、投資家の間で同省に対する不信感が高まった。
【講演概要】
こうした背景から、本カンファレンスでShabangu大臣は先ず、Lonminとの法的係争等を招いた鉱物保有権(Custodian of minerals)の曖昧さを回避するためにも、現行の鉱物・石油資源開発法(MPRDA:2002年作成、2004年施行)の見直し状況について現状を述べた。その中で、南アの政府、労働、産業の3分野からの利害関係者タスクチーム(MIGDETT)が組織され、同法の不明瞭な点の確認作業が行われており、2011年末に向けて改定案を検討していると発表された。
また、鉱業権・探鉱権の二重付与の実態調査の結果も報告された。それによると、MPRDAが導入されて以来、26,000件のBEE導入による更新及び新規探鉱・鉱業権の申請を確認したところ、二重付与は122件であった。今後の解決法として、鉱業権・探鉱権等に関する新規オンライン地籍管理システムを昨日(2011年2月7日)、開設したとの説明があり、EMMS(Electronic Mineral Management System)を利用して、従来のNational Mining Promotion System(NMPS)を改良する計画が発表された。
本管理システムの導入により、探鉱権の申請受付が一時停止されていたが、2011年3月1日*から環境面の懸念が残るMpumalanga州以外は探鉱権申請の受付を再開すると発表した(*2011年2月28日時点では、再開時期は1か月延期の4月1日の予定)。
基調講演では鉱山国有化に関する発言は無かったが、講演後の会見では、反対の姿勢を示していた模様である。
(※参考:本基調講演の全文は、南ア政府情報(www.info.gov.za)より入手できる。)
2-2. ザンビアMwale鉱山・鉱物開発大臣 ~ 制限緩和で、さらに鉱業投資を促進 ~
【ザンビア鉱業の背景】
ザンビア北部には、DRCコンゴとの国境に跨るカッパーベルトと呼ばれる巨大な銅鉱床地帯が存在する。そのため、同国では銅価格の上昇に伴い鉱業投資が活発化している。
例えば、資源メジャー企業ValeとAfrican Rainbow Minerals社(南ア)は、Konkola North銅開発JVプロジェクトを進めており*3、また、First Quantum社(加)は、Kansanshi鉱山の拡張に注力する姿勢を見せている。特に、ザンビアのChambishi経済特区に進出している中国は、2010年5月にBanda大統領の訪中時に同国の鉱業開発部門に50億US$の債務保証を誓約しており、中国鉱業集団公司(CNMC)が、Luanshya銅鉱山及びChambishi銅製錬所に関して2010/2011年の2年間で600百万US$の鉱業投資計画を発表していた*5。
【講演概要】
本カンファレンスでは、Mwale鉱山・鉱物開発大臣から、2009年4月に施行した鉱山・鉱物資源開発法(Mines and Minerals Development Act, 2008)を改正する案が発表された。そのポイントは以下の4点で、現行法で鉱業促進のために制限のあった休眠状態の鉱区について、利害関係者からの要望に応じて、制限を緩和する試案などが発表された。
● | 探鉱権:(現法) 1ライセンスにつき上限1,000 km2⇒(改案) 2,000 km2 |
● | 大規模な採掘権:(現法) 1ライセンスにつき250 km2 ⇒(改案) 1,500 km2 (※ただし、休眠状態の鉱区を制限するためにも’Use it or lose it’の原則を適用する方針) |
● | 探鉱期間:(現法) 最大7年⇒(改案) 10年(※初期の探鉱ライセンスの申請は4年で、その後は2回更新(3年ずつ)が可能となり、雨季の11月~4月は換算外) |
● | ザンビアの鉱業・探鉱権のタイプ:(現法) 7タイプ⇒(改案) 5タイプ |
なお、2008年に投資家によって警戒されていた超過利潤税(Windfall Tax)は撤廃されたままで、鉱業に係る税制について変更は無いとの発表があった。また、Mwale大臣は、鉱種の多様化を目指すと述べ、ザンビア西部のウラン・レアアース鉱床賦存の可能性、2010年の石油案件入札完了(2件)に言及した。
2-3. DRCコンゴKabwelulu鉱業大臣 ~ 国内の付加価値化を強化、入札案件を紹介 ~
【DRCコンゴ鉱業の背景】
2010年7月、米国金融規制改革法*6が制定されたことが後押しして、反政府武装勢力による鉱物の密輸を阻止するため、Kabila大統領は2010年9月9日~2011年3月10日の間、同国北東部(Kivu州北部・南部及びManiema州)からの金、錫、コルタン等の鉱物の輸送を一時停止するよう命じていた*7。2011年4月1日から、米国の電子業界の間では、自主的な生産管理履歴の監査がさらに推進され、同地区からの紛争鉱物(人権侵害や紛争を起因とする可能性のある、生産履歴管理の証明が無い鉱物)の“事実上の禁輸”が予想されており、それに伴う失業増加や紛争悪化が懸念されている*8。
一方、ザンビアよりカッパーベルトが続く同国南部では、2007年H2以降、同国政府による既存鉱業権の見直しに伴う交渉が行われてきた。しかし、First Quantum社(加)が生産中のLonshi銅鉱山、Frontier銅鉱山、Kolwezi銅・コバルト鉱山開発プロジェクトでは、鉱業権の更新ができず、国際調停や訴訟が起きている*9。2010年10月、Freeport McMoran社(米)は、同社が参画するTenke Fungurume銅プロジェクトで鉱業権の更新に成功したが、国営鉱山企業Gecamineの保有権益は17.5%から20.0%へ増加した*10。
このように、同国については紛争鉱物の行方及び鉱業権の没収が危惧されるが、資源ポテンシャルが高いことから、Kabwelulu鉱業大臣の講演及び同国政府主催の会議(8日朝)には会場に溢れるほどの参加者が集まった。
【講演概要】
本カンファレンスで、Kabwelulu鉱業大臣は先ず、現鉱業法のMining Code(2002)は問題なく適用されていると発言し、改正の兆しは無かった。引き続きKatanga州及び同国東部を中心として、付加価値化を強化する方針で、鉱業省ウェブサイト(http://www.miningcongo.cd)を更新して、2011年2月28日は、銅、ダイヤモンド、亜鉛などの入札案件や、鉱業権取得の手引きを公開すると述べていた。Rio TintoやValeが参画するJV探鉱プロジェクトやFreeport McMoran社のTenke銅プロジェクトはアピールされていたが、係争中のFirst Quantum社に関しては言及が無かった。
2-4. その他 ~ アフリカ諸国の鉱業大臣、及び国際法曹協会(IBA)による講演 ~
その他、モザンビーク、ギニア、マリ、アンゴラ等の鉱業大臣が講演を行った*21。例えば、モザンビークからは、アルミ以外にも鉱種を多様化する方針が示され、生産間近の石炭プロジェクトの紹介や、Rio Tinto探鉱エリア付近の、チタン、レアアースのポテンシャルを有するChibuto周辺のHeavy Mineral Sandsが、2010年10月に探鉱区の入札受付を開始し、2011年3月に入札結果が発表される等の報告があった。マリからは、鉱山知識を高めるためにも西アフリカで中心となるBamako金属鉱山大学の設立に注力しているとの発表がなされた。なお、ナミビア、ボツワナ、マラウィ、ブルキナファソ、及びマダガスカルからの講演は無かった。
加えて、アフリカ大臣フォーラムにおいては、国際法曹協会(IBA)より、ICMM等からも支援を受けているMMDA(Model Mining Development Agreement)の紹介がなされた。2010年、DRCコンゴ、ギニア、南ア等などで事実上の鉱業権の剥奪が見られた。そのことから、IBAは、MMDAという『鉱業権問題などの交渉にあたってテンプレートとなるもの』を作成しており、IBAは2010年10月にドラフトを公表し、2011年4月に最終版が完成される見込みであると発表した。
3. 海外メジャー鉱山会社による基調講演
写真3. 大ホールで行われた
Anglo American CEO Cynthia Carroll女史
による基調講演
本カンファレンスでは、世界資源大手企業のうち、Anglo American、Rio Tinto、Xstrata、そしてNorilsk Nickelからの基調講演があった。アフリカでは世界に賦存する鉱物資源の約30%が存在すると言われている一方*11、世界における探鉱開発投資額(2009年、MEG調べ)ではアフリカは15%しか占めていない*12。『資源の呪い』が残存するアフリカで、資源メジャーがどのような姿勢でどのようなプロジェクトに着眼し、どの程度進行させているのか注目された。以下、講演ポイントを紹介する。
3-1. Anglo American, CEO, Cynthia Carroll女史*11
● | 『Partnership for Success(成功のためのパートナーシップ)』と題して、鉱業部門における全利害関係者間のパートナーシップの重要性を強調したい。南ア政府は2010年11月、『The New Growth Path Framework』の中で、経済開発のための優先項目を設定したが、Anglo Americanは同国の成長、雇用機会の創出、人権平等の推進、貧困撲滅に対して、政府と共に肩を並べて立ち向かう姿勢である。 |
● | 今日、Anglo Americanは南アGDPの2~2.5%に寄与し、南ア全体で11万人の雇用を創出している。今後も国家の良きパートナーとして、鉱山保安イニシアチブ(Tripartite Safety Initiative)、HIV/AIDSプログラム、浄水等の環境問題対策、小規模ビジネス開発部門(Anglo Zimele)を通じた小規模ビジネスの斡旋、南ア電力公社Eskomとの電力対策、BEE政策の遵守等に取り組んでいる。 |
● | 通常、投資している鉱業資産を確保できない限り、鉱山会社は投資しない。鉱山国有化を支持するような誤った提言は、破壊する道へと導きかねない。 |
(※講演外の参考であるが、Anglo Platinum Ltd.は2010年、南アでボーリング調査(319孔、総延長132,842 m)を実施し、Unkiプラチナ鉱山開発のためにも、ジンバブエではGreat Dyke周辺での探鉱を継続している*13。)
3-2. Rio Tinto, Chief Executive, Diamonds & Minerals, Harry Kenyon-Slaney氏*14
『Global Head, Local Heart(グローバルな頭脳とローカルな心)』をテーマにしたい。『グローバルの頭脳』を持つ同社は、アフリカのグリーンフィールド探鉱に対して、過去3年間で7千万US$以上、同社の世界探鉱費の13%を投資している。また、『ローカルな心』を掲げるためにも、同社は、地域社会の雇用増加及び鉱山インフラ設備を整えることなどに注視しており、例えば、マダガスカルのQIT Madagascar Minerals(QMM)では、二酸化チタン等のインフラ設備開発に350百万US$以上を投資し、南アのPalabora銅鉱山では、南アIDC公社と製鉄施設の建設に協力している。
3-3. Xstrata South Africa, Executive Director, Andile Sangqu氏
『Local Approach, Respond Local Demands(地域社会へのアプローチ、地域の要望に応える)』が同社のテーマである。Limpopo周辺の雇用創出、持続可能な地域社会の開発を目指して、同社は南アLimpopo州のフェロクロム製錬所の拡張に50億ZARを投資する計画である。
(※講演外であるが、Xstrataは、保有する既存プロジェクトの開発及び拡張計画に、今後6年間で230億US$の投資計画を発表している*15。アフリカに関しては、DRCコンゴのZanaga鉄鉱石プロジェクトにも注目している*16。)
3-4. Norilsk Nickel, International Production Assets Director, Roman Panov氏
ロシアのニッケル大手Norilsk Nickelは、アフリカでは、ボツワナのTatiニッケル・プロジェクトと、南アのNkomatiニッケル・プロジェクトの生産増強に注力している。Tatiプロジェクトでは、2009年にニッケル精鉱17.4千tを生産したが、2010年12月に同プロジェクト付近でTekwane及びPinagare鉱床の探鉱権を獲得した。Nkomatiプロジェクトは、Norilsk側の投資総額が2億$を超える大規模投資プロジェクトである。2009年にはニッケル精鉱9.7千tを生産したが、2010年11月にNkomati選鉱場の復興を完了し、選鉱場2件の鉱石処理能力は750万tへと増強される予定である。
参考資料(その1):