報告書&レポート
ロンドン『プラチナ・ウィーク』概要報告

2011年5月第2~3週にかけて、ロンドンにて毎年恒例のプラチナ・ウィークが開催され、PGMsの生産者、ユーザー企業、商社、コンサルタント会社、産業団体等が集い、需給発表会やセミナー等が行われた。今回は、JOGMECのNF(No. 11-18及びNo. 11-19)でも報告したGFMS社とJohnson Matthey社の白金・パラジウムの需給分析を詳細に報告すると共に、両社の需給分析を比較する。また、プラチナ・ウィークにあわせて英国のオックスフォードで開催された「The Oxford Platinum Lectures 2011」の講演内容の概要も併せて報告する。 |
1. GFMS社の白金・パラジウム需給分析
英国の貴金属調査会社GFMS社は、2011年5月5日、プラチナ・ウィークに先駆け、ロンドン及びヨハネスブルグで『白金・パラジウム統計2011』のプレス発表を行った。
1-1. 白金の供給と需要
表1. GFMS社による白金需給
(単位:千oz)
2009年 | 2010年 | 対前年比(%) | |
白金供給合計 | 7,291 | 7,687 | 5 |
鉱山生産 | 6,048 | 6,186 | 2 |
自動車触媒回収 | 780 | 898 | 15 |
宝飾品回収 | 463 | 603 | 30 |
白金需要合計 | 6,415 | 6,725 | 5 |
自動車触媒 | 2,588 | 3,006 | 16 |
宝飾用 | 2,292 | 1,894 | -17 |
その他 | 1,535 | 1,825 | 19 |
需給バランス | 876 | 962 | 10 |
在庫放出 | 665 | 0 | ― |
ETF(上場信託) | 384 | 550 | 43 |
剰余需給バランス | 1,157 | 412 | -64 |
(出典:GFMS社)
<供給>
2010年の白金供給は、対前年比5%増の768.7万ozとなった。2010年の鉱山生産が対前年比2%増の618.6万ozであり、2007年以降初めて増加に転じた。これは南アでの増産が主な要因となっている。一方、二次生産に関しては、自動車触媒回収は白金族価格の上昇とリサイクル効率の向上により特に欧州で増加したことから、対前年比15%増、宝飾品回収は主に中国及び日本からの中古品回収が増加し、対前年比30%増と大幅な伸びをみせた。
<需要>
2010年の白金需要は、対前年比5%増の672.5万ozであった。内訳は、世界の自動車生産の対前年比23%増を受けて自動車触媒用の白金需要は同16%増となった。しかし、ガソリン車及びディーゼル車でのパラジウムへの代替が要因となり、2007年のピーク時の数値を依然として26%下回っている。一方、宝飾用白金需要は北米を除く主要市場全てで減少となり、対前年比17%減の189.4万ozとなった。特に中国では、白金の価格上昇と国内在庫の余剰により宝飾用白金の需要が対前年比26%減となり、世界全体の宝飾用需要に多大な影響を与えたと分析した。
1-2. 白金の需給バランス
2010年の白金需給バランス(在庫放出及び投資活動を含まない)は、96.2万ozの供給過剰となり、GFMS社の過去12年間の記録の中で最高値となった。世界経済が不況からの回復の兆しを見せ需要が増加したが、白金価格の上昇とともに、白金生産及び中古品回収が増大し、需要拡大をカバーする形となったと同社は分析した。
1-3. 2011年の白金需給見通し
2011年の白金の需給については、供給面では北米での白金増産、南ア及びロシアでの生産の安定化、中古品回収の増加により供給の拡大を予想した。一方、需要面では、日本での大震災の影響やパラジウムへの代替の進展により、白金需要は微増にとどまる見通しであり、2011年も供給過剰の状態が続くと予想した。また、白金価格に関しては、2011年1~4月の平均1,793 US$/ozに対して、2011年末までに1,900 US$/ozを上回ると予測した。
1-4. パラジウムの供給と需要
表2. GFMS社によるパラジウム需給
(単位:千oz)
2009年 | 2010年 | 対前年比(%) | |
パラジウム供給合計 | 7,504 | 8,067 | 8 |
鉱山生産 | 6,320 | 6,613 | 5 |
自動車触媒回収 | 1,067 | 1,291 | 21 |
宝飾品回収 | 116 | 163 | 40 |
パラジウム需要合計 | 7,591 | 8,618 | 14 |
自動車触媒 | 4,028 | 5222 | 30 |
宝飾用 | 1,110 | 809 | -27 |
その他 | 2,453 | 2588 | 5 |
需給バランス | -87 | -551 | 535 |
ロシア在庫放出 | 1,100 | 800 | -27 |
ETF(上場信託) | 507 | 1,033 | 104 |
剰余需給バランス | 507 | -784 | na |
(出典:GFMS社)
<供給>
2010年のパラジウム供給は対前年比8%増の806.7万ozとなった。内訳は、2010年の鉱山生産は南ア、カナダ及びロシアでの増産により対前年比5%増の661.3万oz、二次生産では自動車触媒と宝飾品からの回収がそれぞれ同21%増、同40%増であった。宝飾品の回収に関しては、中国でパラジウム宝飾品に対する消費者の信頼が薄れたことが原因で、小売業者の在庫からの回収が増加したと分析した。
<需要>
2010年のパラジウム需要は、対前年比14%増の861.8万ozとなった。内訳は、自動車触媒需要ではガソリン車の生産の対前年比23%増及び白金からの代替需要増により対前年比30%増の522.2万ozとなった。一方、宝飾用需要は中国での需要激減に加え、欧州を除く主要市場でも需要が落ち込み、対前年比27%減の80.9万ozとなった。
1-5. パラジウムの需給バランス
2010年のパラジウムの需給バランス(在庫放出及び投資活動を含まない)は、55.1万ozの大幅な供給不足となった。これは、自動車触媒用の需要が高まったことが主因であるが、GFMS社としてはロシアからの在庫放出が対前年比27%減の80万ozとなったこと、2010年にはパラジウムのETF(上場投資信託)が米国等で初めて上場されたことから、ETF市場用にパラジウムが大量に確保されたことも供給不足となった原因ではないかと分析した。
1-6. 2011年のパラジウム需給見通し
2011年には、北米の鉱山生産量及び自動車触媒回収の増加により供給量が微増するが、自動車触媒に対する需要の高まりによって供給量の増加が相殺され、引き続き供給不足となると予想した。2011年1~4月の平均は786 US$/ozで、2011年の終わりまでに975 US$/oz近くまで価格が上昇する見通しと予測した。
2. Johnson Matthey社の白金・パラジウム需給分析
英国の貴金属製錬・加工大手Johnson Matthey社(本社:ロンドン、以下、JM社)は2011年5月16日、白金及びパラジウムの需給を分析した『Platinum 2011調査報告書』を発表し、企業及び関係団体を招き説明会を行った。
2-1. 白金の供給と需要
表3. JM社による白金需給
(単位:千oz)
2009年 | 2010年 | 対前年比(%) | |
白金供給合計 | 6,025 | 6,060 | 0.6 |
南ア | 4,635 | 4,635 | 0.0 |
ロシア | 785 | 825 | 5.1 |
北アメリカ | 260 | 210 | -19.2 |
ジンバブエ | 230 | 280 | 21.7 |
その他 | 115 | 110 | -4.3 |
白金総需要合計 | 6,795 | 7,880 | 16.0 |
自動車触媒 | 2,185 | 3,125 | 43.0 |
宝飾用 | 2,810 | 2,415 | -14.1 |
投資 | 660 | 650 | -1.5 |
その他 | 1,140 | 1,690 | 48.2 |
(回収分) | 1,405 | 1,840 | 31.0 |
自動車触媒回収 | 830 | 1,085 | 30.7 |
電気製品回収 | 10 | 10 | 0.0 |
宝飾品回収 | 565 | 745 | 31.9 |
白金純需要 | 5,390 | 6,040 | 12.1 |
需給バランス | 635 | 20 |
(出典:JM社)
<供給>
2010年の白金供給は対前年比0.6%増の606万ozと微増にとどまっている。国別にみると、南アの生産量が前年と同量の463.5万oz、ロシアが対前年比5.1%増の82.5万oz、ジンバブエでは生産能力の拡大が行われ同21.7%増の28万ozとなった。一方、北米の生産量は同19.2%減の21万ozとなり、他地域での増産を相殺する形となった。なお、世界の白金供給量は2008年以降600万oz前後で推移しており、大幅な変動は見られない。
<需要>
2010年の白金需要は対前年比16%増の788.0万ozとなった。内訳は、自動車触媒用白金需要は、世界経済の回復で2010年の自動車生産台数が7,800万台となったことを受けて、対前年比43%増の312.5万ozとなった。特に欧州ではディーゼル車用触媒の需要が対前年比51%増と大幅に増加した。また、工業用白金需要は、LCDパネルや建設用ガラス繊維などのガラス用白金の需要が急増したことから、対前年比48.2%増の169万ozとなった。一方で、宝飾用白金需要は中国の需要減により対前年比14.1%減の241.5万ozとなった。投資用の白金需要は依然として強く、対前年比ほぼ横ばいの65万ozであった。また、ETF(上場投資信託)で取引された白金の累積合計は、2010年12月で120万ozを超えたとされている。二次生産については、白金価格の上昇に伴い、中古品からの白金回収が自動車触媒及び宝飾品の分野で増加し、全体で対前年比31%増であった。
2-2. 白金の需給バランス
2010年の白金需給バランスは2万ozの供給過剰で、ほぼ均衡していたと分析した。供給がほぼ対前年比横ばいであったのに対し、自動車触媒を中心として需要が高まったことから、2009年の供給過剰の幅が大きく狭まった。
2-3. 2011年の白金需給見通し
2011年も白金の需給バランスの均衡状態は継続すると予測した。南ア及び北米での生産を中心として、世界全体の供給量は増加基調となる。特に南アでは、過去に中断した鉱山事業の再開や生産施設の新設及び拡張により、対前年比5%増となることが見込まれる。しかしながら、ストライキ等による操業の一時停止が発生した場合には、増産の障壁となる可能性がある。一方需要面では、世界経済の回復基調に伴い自動車触媒及び工業用白金の需要が増加することが予想される。また、宝飾用需要は2010年並みで安定すると考えられるが、2010年の終わりに北米で販売が開始された軽量白金宝飾品の需要は今後期待ができる分野である。なお、今後6か月間の白金価格に関しては平均1,870 US$/oz(1,750~2,000 US$/oz)と予想した。
2-4. パラジウムの供給と需要
表4. JM社パラジウム需給
(単位:千oz)
2009年 | 2010年 | 対前年比 (%) |
|
パラジウム供給合計 | 7,100 | 7,290 | 2.7 |
南ア | 2,370 | 2,575 | 8.6 |
ロシア(鉱山) | 2,675 | 2,720 | 1.7 |
ロシア(在庫放出) | 960 | 1,000 | 4.2 |
北アメリカ | 755 | 590 | -21.9 |
ジンバブエ | 180 | 220 | 22.2 |
その他 | 160 | 185 | 15.6 |
パラジウム総需要合計 | 7,850 | 9,625 | 22.6 |
自動車触媒 | 4,050 | 5,450 | 34.6 |
宝飾用 | 775 | 620 | -20.0 |
投資 | 625 | 1,085 | 73.6 |
その他 | 2,400 | 2,470 | 2.9 |
(回収分) | 1,430 | 1,845 | 29.0 |
自動車触媒回収 | 965 | 1,325 | 37.3 |
電気製品回収 | 395 | 440 | 11.4 |
宝飾品回収 | 70 | 80 | 14.3 |
パラジウム純需要 | 6,420 | 7,780 | 21.2 |
需給バランス | 680 | -490 |
(出典:JM社)
<供給>
2010年のパラジウム供給は、対前年比2.7%増の729.0万ozとなった。内訳は、南アではパラジウム含有量の高い鉱石の生産が増加したことで同8.6%増、ロシアの鉱山生産量は同1.7%増の微増、在庫放出は前年並みの100万ozであった。他方、北米では対前年比21.9%減となったが、他地域での増産と相殺される形となった。
<需要>
2010年のパラジウム需要は、対前年比22.6%増の962.5万ozとなった。内訳は、自動車触媒用パラジウム需要は、北米における自動車産業の回復、中国における自動車産業の成長、白金からの代替需要が要因となり、対前年比34.6%増の545万ozと大幅に膨らんだ。工業用の需要は全体で対前年比2.9%増の247万ozで、用途別にみると化学用及び電気製品用で需要増、歯科用で需要減となった。一方、宝飾用パラジウムは、欧州及び北米の結婚指輪市場で需要が高まっているものの、中国での需要激減により、対前年比20%減の62万ozとなった。また、投資用の需要は対前年比73.6%増の108.5万ozに急増しており、この主な要因は米国におけるパラジウムETFの投資流入で、パラジウム価格にも影響を及ぼしていると考えられる。中古品からのパラジウムの回収に関しては、自動車触媒で対前年比37.3%増、宝飾品で同14.3%増、電子部品で同11.4%増となり、全体で29%増となっている。
2-5. パラジウムの需給バランス
2010年は世界的な景気回復を反映しパラジウムの需要が記録的な高まりを見せたことから、需給バランスは2009年の68万ozの供給過剰から49万ozの供給不足に転じたと分析した。
2-6. 2011年のパラジウム需給見通し
2011年のパラジウム需給バランスは、2010年に続き供給不足になると予測した。南ア、北米、ジンバブエなどの地域で鉱山生産量が増加する一方で、ロシアの在庫放出量が減少し、他国における増産を相殺して世界全体の供給量は減少する見通しである。一方、2011年のパラジウム需要は2010年レベルの高い成長率は期待できないが、自動車触媒及び工業用パラジウムの需要が新興市場を中心として増加し、全体の需要は依然として強さを保つと考えらえる。また、今後6か月間のパラジウム価格に関しては平均825 US$/oz(715~975 US$/oz)と予想した。
3. GFMS社とJM社の白金・パラジウム需給分析の比較
GFMS社とJM社の需給分析の発表方法では、中古品回収、在庫放出及び投資の分類方法に違いがあるため、供給及び需要の合計値を確認する場合には注意する必要がある。具体的には、GFMS社では中古品回収分は供給の合計に含んでいるが、JM社では供給の合計には含めず、総需要合計から中古品回収分を差し引いて純需要合計を算出している。また、在庫放出及び投資に関しては、JM社はそれぞれを供給の合計及び需要の合計に含んでいるがGFMS社では別扱いにして、最終的な需給バランスを算出するために用いている。
上記の相違点を念頭に置き、2社の2010年需給実績の分析を比較してみると、白金の供給面(中古回収及び在庫放出を含む。)では、GFMS社が対前年比3%減の768.7万oz、JM社が対前年比6 %増の790万ozと分析した。他方、需要面(投資を含む。)では、GFMS社が対前年比7%増の727.5万ozと分析したのに対し、JM社は対前年比16%増の788万ozとしている。これは、自動車触媒用白金需要について、GFMS社が対前年比16%増としたのに対して、JM社は同43%増としたためである。その結果、白金の需給バランスは、両社とも供給過剰と分析したものの、需要を少なく見積もったGFMS社のほうが過剰幅は大きくなっている。
2011年の白金の需給バランスについては、GFMS社が引き続き供給過剰としたのに対し、JM社はほぼ均衡状態としており、2010年と同様の違いが見られる。なお、2011年の白金の価格予想に関しては、両社ともに上昇基調であると予測している。
一方、2010年のパラジウムの需給については、供給面(中古回収及び在庫放出を含む)では、GFMS社が886.7万oz、JM社が913.5万oz、需要(投資を含む)面では、GFMS社が965.1万oz、JM社が962.5万ozとなっており、両社の分析結果は類似している。その結果、2010年のパラジウムの需給バランスは両社ともに供給不足との予測となっている。
2011年のパラジウムの需給バランスについては、両社とも供給不足が続くという予想で一致している。なお、2011年のパラジウムの価格予想に関しては、両社とも上昇基調であると予測している。
4. 「The Oxford Platinum Lectures 2011」の概要
白金族金属を専門とするコンサルタント会社のSFA Oxfordが2011年5月13日、「The Oxford Platinum Lectures 2011」をオックスフォードで開催した。今回のセミナーのテーマ『白金の人間的要素(human elements)』に関して、産業界及び学界の代表者ら6名が講演を行った。
4-1. 講演「人間の行動:南アの白金産業における安全性」
(Impala Platinum、Jon Andrews博士)
南アの白金鉱山で実際に発生した事故のケーススタディを紹介し、事故の原因を分析した。また、Impala Platinum社で行っている総合的な安全管理活動の内容を紹介した。同社では鉱山内の安全だけではなく、道路交通安全や地域社会における安全衛生を促進するプログラムを実施することで、従業員が職場以外の場所においても安全への高い意識を保つように促している。同社の目標は2012年までに「労働時間の損失になるような怪我ゼロ(zero lost-time injuries)」を達成することである。
4-2. 講演「南アJacob Zuma大統領」
(オックスフォード大学、William Beinart教授)
南アのJacob Zuma大統領が大統領職に就くまでの経緯や、大統領を取り巻く政治情勢等に関しての概要が説明された。Zuma大統領は、2007年12月にアフリカ民族会議(ANC)第13代議長に就任後、2009年の選挙でANCが勝利し、同年5月に第11代大統領として就任した。世界有数の白金生産国である南アの大統領の今後の動向は、白金関係者が注目する分野の一つであると言える。
4-3. 講演「白金の新しい医学的応用」
(Heraeus、Jens Trotzschel氏)
白金は、耐久性及び生物学的適合性が高く、高いX線不透過性を有していることから、インプラントなどの医学的な応用に適した金属である。脳卒中の治療には、白金製の動脈瘤コイルが用いられており、この技術により飛躍的に生存率が高まったとされている。また、白金は心不整脈の患者が用いるペースメーカーのコイル部分にも用いられている。こうした医療器具は、途上国において医療制度が整えば、ますます需要が高まることが予想される。また、近年、がん治療における白金の応用が注目されており、白金を化学療法に用いることで生存率を高め、副作用を低下させることができるとされている。
4-4. 講演「世界の経済予測と人口趨勢」
(Oxford Economics、Scott Livermore氏)
2011年の世界経済の見通し及び人口趨勢に関して説明があった。2010年には2008年に発生した経済危機からの回復が見られ、その傾向が2011年も続くと考えられる。特に中国を中心としたアジア新興市場の経済活動が活発であることが予想される。また、金利は依然として低い状態が続いているが、2011年以降、徐々に上昇する可能性がある。他方、欧州はギリシャやポーランド等の財政危機に陥った国を抱えており、不安定な要素がある。概して、世界的な景気回復を支えるのは新興国の経済成長であると言える。新興国ではコモディティ需要が高いため、その旺盛な需要がコモディティ価格に影響を与えることが考えられる。また世界人口に関しては、中国及びインド等の新興国で増加し、日本などの先進国における人口減少を相殺する形となる。人口は増加するものの、労働人口は2040年頃以降横ばいになり、高齢化社会となることが予想される。
4-5. 講演「高級宝飾における文化的及び社会的嗜好」
(TJF Group、Paolo De Luca氏)
近年消費者は、宝飾品などの贅沢品を購入する際、多岐にわたる観点からその商品を評価するようになっている。例えば、宝飾品が倫理的に良い方法で製造されているか、環境に優しいか、リサイクル素材が使われていか、といったことを消費者が留意したり、インターネット上のコミュニティサイトで自分の個性を主張するためのアイテムとして考えたりするというようなトレンドがみられる。プラチナジュエリーもこのような宝飾品の新しい流行を考慮し、贅沢品市場における位置を確立しなければならない。プラチナジュエリーは、結婚指輪という限定的な商品分類から、消費者の新しい価値観を反映した現代的なライフスタイル・ジュエリーへと発展していく必要がある。
4-6. 講演「白金族鉱業における技能不足」
(SFA Oxford、Stephen Forrest氏)
南アの鉱山労働者の33%が白金族鉱業に従事しているとされ、また、同国の年間輸出量の約30%は白金族であり、国の主要産業の一つであると言える。2018年までに12の白金族プロジェクトが生産を開始する予定であるが、現在の鉱山労働者の約40%が今後10年間で退職するとされており、経験を積んだ労働者の不足が予想される。このような状況は米国及び豪州でも同様であり、他国からの人材確保を期待することは難しい。鉱業における管理職レベルの人材の育成には10~15年かかるとされ、早急な対策が必要とされる。
鉱山労働者の不足に加え、同国が抱えている深刻な問題は労働者の技能不足である。南アの鉱業従事者の60%以上は技能不足であると言われている。2011年2月、Jacob Zuma大統領は、同国における失業率を2020年までに15%以下に下げるため、鉱業を含む6つの優先分野での雇用創出に60億ZAR(約702億円)を今後3年間かけて投資すると発表した。雇用創出のためには、専門教育による訓練の普及は有効であると思われるが、1998~2008年に鉱業関連コースに入学した22,000名の学生のうち、6,000名しかコースを終了していないとの統計もあり、投資は明確な目標を設定し、効果的に活用されなくてはならない。奨学金制度に加えて、コース終了者に対する奨励制度といったものを設けて、専門的な資格を有する労働者を増やしていく必要がある。
南アでは基本的な教育を受けていない労働者が数多くいるため、専門教育の促進だけではなく、初等教育をより普及させ、若年の時期に学習の習慣を身に着けさせることが、後々の専門資格の取得につながると考えられる。また、有資格者が企業内においてキャリアアップできる道筋を企業が明確に示すことで、労働者は能力向上の意欲を持つことができる。教育機関においては、専門分野の教育を拡大し、若者が鉱業に興味を持つような教育プログラムを実施するといったことが重要である。産学官が連携し、教育への長期的かつ効果的な投資をすることが、鉱業の発展のためには必要である。
5. 所感
今回のプラチナ・ウィークには、世界中から白金関連企業及び団体が集まり、セミナーや発表会の休憩時間には、盛んに意見交換が行われていた。日本からもプラチナ・ウィークのために多くの企業から出張者が渡英されており、白金市場における日本企業の重要性を感じさせた。白金・パラジウムともに2008年の経済危機からの回復と新興市場の成長により、全体的な需要が増加基調にあり、この傾向は2011年も継続する模様。白金族価格の上昇も期待され、白金鉱山会社にとっては、吉報の多いプラチナ・ウィークであったように感じる。
