報告書&レポート
「第2回欧州原材料会議」参加報告

2012年3月20日、「第2回欧州原材料会議」がブリュッセルで開催された。本会議の目的は、原材料の持続可能な安定供給を確保するために欧州が取るべき実践的な政策に関して議論することで、欧州議会、欧州委員会、各国政府代表、産業団体、民間企業等から約130名が参加した。日本からは欧州連合日本政府代表部の山田淳大使が出席し、レアアース確保に関する日本政府の政策に関する講演を行った。 |
1. 基調講演
パネル・セッションに先立ち、欧州委員会、米国政府及び欧州産業界の代表者3名が、原材料に関する基調講演を行った。
1-1. 講演:「欧州委員会の見解」
Daniel Calleja Crespo企業・産業総局総局長,欧州委員会
原材料は欧州の経済及び社会に不可欠であり、ハイテク技術や環境に優しい技術といった分野で、適切な価格での原材料の供給が行われることは大変重要である。新興国経済の発展に伴い、原材料の需要がますます高まっている中、資源国政府は国内製造業発展のために原材料の輸出制限を行っているという状況があり、原材料の供給が圧迫されている。EU経済の競争性を保つためには戦略が必要であり、EUでは2008年に、①国際市場からの持続可能な供給、②EU域内での持続可能な供給、③資源効率とリサイクル、の3本柱からなる欧州原材料戦略を策定した。2010年には、EUにとって不可欠な14鉱種の鉱物資源(CRM:Critical Raw Material)を選定した。CRMのリストは、現状を反映して定期的に改正することが必要であり、欧州委員会では2013年末までに改正版のリストを公表することを目標に、2012年に技術的作業を開始する予定である。また、国際市場における公平で持続可能な原材料供給を確保するために、欧州委員会では資源外交に取り組んでいる。2011年11月には、欧米間で戦略的パートナーシップを強化し、南米ではチリやウルグアイと原材料に関する対話を行っている。資源が豊富なグリーンランドの政府とのパートナーシップも話し合われており、数週間後に何らかの結論に達する予定である。アフリカとは、原材料に関して戦略的パートナーシップを確立しており、資源国政府による原材料資源に係る統治、地質データの取得や分析といった面でのトレーニングやワークショップの実施が計画されている。さらに、公平な原材料供給を阻害するような環境に対しては、欧州委員会は引き続き対策を行っていく。中国による原材料の輸出制限に関しては協議による解決を望んでいるが、結果が得られない場合は、WTOの紛争処理小委員会(パネル)による解決が必要となる。EU域内での供給を確保するためには、土地利用許可の面での障害や、欧州全体の地質データ等の統合に関して、さらなる取り組みが必要とされている。リサイクルに関しては、廃棄物枠組み指令(Waste Framework Directive)の「廃棄物でなくなる基準(end-of-waste criteria)」において、廃棄物が二次原材料としてのステータスを得るための基準が不明確であり、リサイクル市場が発展するためには、明確な法的枠組みを構築する必要がある。また欧州委員会は、電気・電子機器の廃棄物指令(WEEE:EU Directive on Waste from Electrical and. Electronic Equipment)の改正を提案しており、廃棄物の違法な輸出の取締りを厳格化することを検討している。
以上の様に、欧州委員会では原材料政策を策定し、その実施に取り組んでいるが、現時点で必要なことは、EU加盟国、産業界及びその他の利害関係者からのフィードバックを聞き入れ、原材料に関する課題に共同で取り組んでいくことである。そのため、本会議は貴重な機会であり、原材料政策の進捗状況を監視するためにも、来年以降も会議を継続してもらいたい。
1-2. 講演:「原材料戦略における欧米間協力の範囲」
Beryl Blecher氏, Senior Officer, EU米国政府代表部
米国政府は、長期的な経済成長のための原材料確保の重要性を認識しており、複数の省庁が対策を講じている。米国地質調査所(USGS)は民間企業及び学界の関係者と共同で、原材料の供給リスクの軽減に取り組んでいる。原材料のリサイクルに関しては、廃棄物から原材料を回収しやすいような商品デザイン導入に対する奨励制度を設けている他、ハイテク機器に用いる原材料の代替技術開発の促進も行っている。特にレアアースに関しては、ナノ粒子(nano particle)の利用に注目しており、少量のレアアースで同等の効果が得られるため、原材料使用量の削減につながることが期待されている。
また米国政府とEUは、重要な原材料の供給リスクという共通の課題を抱えており、米・EU大西洋経済委員会(US-EU Transatlantic Economic Council)のイノベーション・アクション・パートナーシップを軸に、問題の解決に向けて協働している。原材料貿易に関しては、国際市場を歪曲させるような貿易障害を除去することで協力しており、中国によるレアアース等の原材料の輸出制限に関しては、日本、EU及び米国が共同でWTOに協議要請を提出した。また原材料のリサイクルや代替技術に関する技術やデータの共有も検討されており、2012年後半には、原材料のデータ共有に関するワークショップをブリュッセルで開催する予定である。加えて、様々なフォーラムの開催も予定されており、2012年3月28日には、欧州委員会、日本政府(経済産業省)及び米国政府(エネルギー省)の共催で、不可欠な原材料の資源利用効率等に関する三極ワークショップが東京で開催される。
米国政府は原材料に関する問題解決のためにEUと共同で取り組むことの重要性を理解しており、今後も本会議に参加し意見交換を行っていきたい。
1-3. 講演:「原材料とグリーンな成長及び欧州産業の競争性とを結びつける」
Adrian Harris氏, Chair, Alliance for a Competitive European Industry
欧州諸国は製造業で必要とされる多くの原材料を輸入に依存しているが、EU域内で完全な供給チェーンを確立することが大変重要である。欧州の産業界としてすべきことは、まず、製造プロセスにおける資源利用効率を向上させることである。過去数十年間で、資源利用効率は大幅に上昇したが、今後も資源利用効率をさらに高めるための技術開発を継続していく必要がある。
産業界からEU政策立案者に対して要請したい内容としては、EU政策における不明瞭さを改善し産業界からの信頼を取り戻すこと、産業界の研究開発を支援すること、EU政策を実行した場合の費用効果や影響を分析すること、商品開発を行うためのインセンティブを市場に与えるような法制度を整えること、欧州原材料政策と他のEU政策との整合性を確認すること、既存の政策を完全に実施すること等が挙げられ、またEU政策が欧州産業の競争性を損なうような事態は避けなければならない。
2. パネル・セッション
以下の3つの異なるテーマに関する基調講演及びパネル・ディスカッションが行われ、パネリストと会場参加者の間で質疑応答が行われた。
2-1. セッション1:グリーンな成長のための原材料-供給リスクの対処と資源利用効率の向上
2-1-1. 基調講演:「資源の生産性」
Ernst Ulrich von Weizsäcker氏, Co-Chair, International Resource Panel, UNEP
景気循環の一種であるコンドラチェフサイクル(Kondratieff cycle)の考え方に基づくと、これまで5つの技術革新の波が存在しており、次にやってくる新しい波は「資源の生産性(resource productivity)」の波であると考えられる。この背景にあるのは、気候変動及び資源供給における制約である。先進国では、経済成長に伴い炭素排出強度(carbon intensity)及び国民一人あたりの金属使用量が増大し、現在はグリーン経済を実現するために、炭素排出量及び金属使用量の削減が計られている。先進国は、途上国の経済成長過程において、GDPに比例して炭素排出量及び金属使用量が増加するという事態を避けるために、途上国を支援する必要がある。
ハイテク機器に使用されるレアアース等の特殊金属(specialty metals)に関しては、リサイクル率が1%未満であるという報告iがある。資源の生産性を向上させるためには廃棄物のリサイクルが必須であり、廃棄物を製品として認識するべきである。
資源の生産性の向上は、市場の機能に任せるだけでは達成できないと思われるが、政府の過度な介入は避け、市場と政府の適切なバランスを保つ必要がある。過去50年間の労働生産性(labour productivity)は、賃金の上昇と並行して起こっている。政策立案者に対しては、(価格の上昇に伴う)資源利用効率の向上を政策上に位置づけた上で、エネルギー及び原材料の価格を人工的に上昇させることを提案したい。
2-1-2. パネル・ディスカッション
基調講演者のWeizsäcker氏に加え、以下の5名がパネリストとして参加した:
– Gwenole Cozigou氏, Director, Metals, Mechanical, Electrical and Construction Industries; Raw Materials, 企業・産業総局, 欧州委員会
– Kevin Bradley氏, President, Nickel Institute
– Reinhard Bütikofer欧州議会議員, Rapporteur, Raw Materials Initiative
– Göran Bäckblom氏, Vice President Public Affairs, LKAB Group
– Volker Steinbach氏, Director, German Mineral Resources Agency
主な質疑応答及びコメントは以下のとおり:
Cozigou氏-欧州委員会では、廃自動車(ELV:end-of-life-vehicle)指令等の既存の政策の施行強化を行うとともに、廃棄物管理体制の向上のため、廃棄物輸出の追跡手段の改善といったことも検討されている。また欧州委員会では、原材料の探鉱、採掘、加工、リサイクル、代替の分野でのイノベーションを促進するために、2012年2月、原材料に関する新しい欧州イノベーション・パートナーシップ(EIP: European Innovation Partnership)の発足を提案した。EIPの下で、EU加盟国とその他の利害関係者(企業、NGO、研究機関等)が、原材料利用効率の向上や、地質データの統計方法のEU域内での規格化等で協働することが予定されている。
Bradley氏-低炭素経済を実現するためには、金属使用強度(metal intensity)を増加させる必要がでてくる。また、風力発電に用いられるタービン等を設置する場合、いつタービンを取り換えるかは検討されていない場合がほとんどであり、将来の金属需要に関して、金属部品の交換も考慮に入れたより現実的な数値を計算する必要がある。
Bütikofer議員-国際市場における原材料へのアクセスを確保するための資源外交に関しては、欧州委員会が成果をあげていることを称賛したい。特に、米国、日本、EU間での協力関係が強化され、3月末に東京で三極ワークショップが開催されることは喜ばしい。しかし、原材料政策に関して、いくつかの課題が残っている。まず一つ目は、EU加盟国の国内政策とEU政策が複雑に入り組んでいるため、加盟国が協調的なEU政策ではなく自国の政策を追求している状況にあることである。二つ目は、資源の依存度に対処するためのEUの取り組みが、米国金融規制改革法(Dodd-Frank 法)といった他国の取り組みと相反することがないように、常に注意を払う必要があるということである。三つ目は、原材料に関して見識に基づいた判断を下すということである。先週、米国、日本、EUが、中国によるレアアース等の輸出制限に関して、WTOに協議を要請したが、この判断が賢明であるかどうかは分からない。一時的な勝利のみに終わる可能性がある。四つ目は資源効率の向上に関することで、欧州委員会は原材料に関するEIPの発足を提案するなど前進は見られるものの、官民共同でレアアース代替技術開発等を行い意欲的な対策を講じている日本と比べて、EUの取り組みは十分ではない。また、エコデザイン指令といった資源利用効率向上のための欧州委員会の政策に、産業界が反対していることは好ましくない現状である。技術やイノベーションの進歩のためには、ビジネスを規制することも必要となり、それによってEU域内における再工業化(reindustrialization)も可能となる。
一般質問「どうすれば、資源利用効率を向上するための動機(モチベーション)を利害関係者に与えることができるか」
Bütikofer議員-異なる利害関係者が有するそれぞれの責任に関して、一般大衆の認識を深めることが基本的な方法である。また資源利用効率向上の障害となっているのは、イノベーションを促進する政策が産業の競争性を損なっているという考え方が存在していることである。
Cozigou氏-一般市民、産業界等の利害関係者の資源利用効率の課題に関する認知度を高めることが重要である。また利害関係者に不均衡な費用負担を強いることは避けつつ、EU政策の施行を強化することも必要である。
一般質問「国際的にはどのような政治手段を講じるべきか」
Weizsäcker氏-先ほどの講演でも述べたとおり、エネルギーや原材料価格を人工的に引き上げることは、結果的には競争性の上昇につながり、先進国にとって利益となる。日米欧が中国の輸出制限に関してWTOに協議要請をしたことには驚いた。途上国である資源国が資源の呪い(resource curse)を打破するためには自国での製造業を発達させる必要がある。そのため、EUは、途上国が原材料の輸出制限をできるよう、WTOの規制枠組みを改正するよう率先して働きかけるべきである。
Cozigou氏-(中国の輸出制限に関して)欧州委員会は中国との対話を行っており、今後も継続する。WTOの規則は規則であり、欧州委員会はそれに従っている。
Bütikofer議員-二次原材料の輸出に関しては、世界的な認証プログラムを発足させ、二次原材料の取引が基準に従って行われるようにするという方法が効果的であると考えられる。
日米欧によるWTO協議要請に関しては、日米欧側が勝利した場合、短期的には良いかもしれないが、長期的には悲惨な結果となり得る。中国がレアアースの輸出制限をしたことで、ライナス社やモリコープ社はレアアースプロジェクトへの投資が可能となったが、中国産の安いレアアースが再び市場に流入されると、これらのプロジェクトは採算がとれなくなってしまう。長期的な目標が何かをよく理解する必要がある。
2-2. セッション2:持続可能な資源利用と低炭素経済
2-2-1. 基調講演「資源利用効率と持続可能な経済成長」
Karl Falkenberg環境総局総局長, 欧州委員会
原材料の需要は今後も高まり続けることが予想されるが、原材料には限りがある。我々は、持続可能な経済成長を達成するために、廃棄物のリサイクルや資源の利用効率の向上により、循環型経済を確立する必要がある。廃棄物のリサイクルを効率よく行うためには、廃棄物の分別回収が必要であり、そのために製品のエコデザインが重要である。資源の循環型経済を実現するためには、ビジネスにとってインセンティブとなるような価格の設定、法による規制、消費者に対する啓発活動を通じた消費者ニーズの変化、といった手段が考えられる。法による規制は有効な手段であるが、その場合は法の施行による成果が効果的に計測できなければならない。価格は、適切に設定された場合、資源利用効率の向上に貢献できる。過去、人件費の上昇に伴い(労働)生産性が上昇した例に比べると、資源利用効率はまだ十分に上昇していない。持続可能な経済成長のためには、資源利用効率を上昇させる必要がある。
2-2-2. パネル・ディスカッション
基調講演者のFalkenberg氏に加え、以下の4名がパネリストとして参加した:
– Réne Kleijn氏, Assistant Professor, Leiden大学
– Gerben-Jan Gerbrandy欧州議会議員, Rapporteur, Roadmap to a Resource Efficient Europe
– Teresa Presas氏, Director General, CEPI
– Guy Thiran氏, Director General, Eurometaux
主な質疑応答及びコメントは以下のとおり:
Kleijn氏-今後数十年間で都市人口が倍増し、原材料需要も増加することに加えて、気候変動に対する懸念から再生可能エネルギーのニーズが高まっているが、再生可能エネルギーのインフラ整備には、火力発電所よりも多くの金属を要する。また鉱石の低品位化は、金属生産により多くの土地、水そしてエネルギーを必要とすることを意味している。原材料不足の問題を軽減するためには、金属の使用量削減やリサイクル率の向上といった対策を取り、持続可能な解決法を模索する必要がある。
Thiran氏-産業では金属の使用度が高いため、資源の利用効率に対する関心はEUレベルで話し合われる以前から高かった。低炭素社会における再生可能エネルギーの利用には、金属が不可欠である。そのため、金属は低炭素社会を構築するための戦略の重要な一部として考えられるべきである。欧州委員会は、低炭素社会に関する戦略と原材料に関する戦略とが相反することがないよう、EU政策における一貫性を確立する必要がある。一方で、単一の方法を適用するのではなく、それぞれの産業分野の特性を考慮し、ある程度の融通性も確保することが重要である。資源利用効率の課題には、政策立案者、学界、競合会社を含めた産業界が横のつながり(horizontally)で連携するとともに、鉱山会社と下流の顧客が縦のつながり(vertically)で連携し、課題の解決に取り組むべきである。
Presas氏-資源利用効率に関する欧州委員会のロードマップiiには原則的に賛同している。しかし、資源利用効率に関するEU政策が他のEU政策との一貫性を欠いている点や、十分に政策の施行がなされていない点が課題である。また資源利用効率向上のためには、欧州委員会が産業分野ごとに特有の対策を講じることが効果的であると考えられる。
Gerbrandy議員-我々はグリーンな産業革命(Green Industrial Revolution)の最中にある。グリーンな産業革命が起こっている主因は環境への配慮ではなく、資源の不足である。そのため、資源利用効率向上のためのロードマップは、環境に関する計画ではなく経済的な計画であるべきである。2012年2月に欧州における資源利用効率に関する欧州議会の報告書案iiiを発表した。その中で以下の5つの優先すべき行動計画を提案した。
1) 資源利用効率に関する官民共同の明確な計画書を作成する
2) EU域内における二次原材料の利用を大幅に向上させる。リサイクル目的での廃棄物の移動を容易にするため、(EU内の人の移動の自由化と同様に)廃棄物に関するシェンゲン・エリア(Schengen area:国境管理廃止地域)の発足を検討する。
3) 資源利用効率向上や代替技術の開発のためのイノベーションをさらに促進する。
4) 資源利用効率や気候変動といった側面も考慮に入れ、経済活動を分析するより実用的な指標を開発及び使用する。
5) エコデザイン指令の適用範囲を拡大させる。
一般質問「Gerbrandy議員が提案する廃棄物に関するシェンゲン・エリアの概念は危険ではないか。シェンゲン・エリア間の移動は書類手続きがないことを意味しており、廃棄物の扱いとしては適切ではないと考えられる。」
一般質問「廃棄物に関するシェンゲン・エリアの提案は大変興味深いと感じている。前年の第1回欧州原材料会議から廃棄物の分野ではどのような進展があったか。」
Thiran氏-Eurometauxでは原材料へのアクセス確保のためのリサイクル向上を支援している。二次原材料の国外への移動を容易にするために、税関申告書のフォーマットを変更し、新品の製品と二次製品との違いを明確に記載できるようにすることを提案したが、欧州委員会の担当当局は、気が進まない様子であった。
Gerbrandy議員-シェンゲン・エリアという言葉を用いた理由は、廃棄物のリサイクルに関する議論を活発化させる意図があったからであり、書類手続きなしでの廃棄物の移動を意味したわけではない。またシェンゲン・エリアには全てのEU加盟国が含まれていないため、廃棄物の輸送体制が整っていない国は除外されるという利点がある。
Falkenberg氏-廃棄物に関するシェンゲン・エリアを発足するという新しい概念は大変興味深いが、反対意見も聞かれている。循環型経済を実現するためにはより多くの廃棄物がリサイクルされる必要がある。現在の政策では、廃棄物を資源として利用するよりも、新しいクリーンな資源を利用することを推進しているため、法的な枠組みを変更する必要がある。また廃棄物のリサイクルに関しては、廃棄物の処理能力が過剰にある国と不足している国とがあり、処理能力が不足している国で新たな廃棄物処理施設を建設するのか、それとも処理能力が過剰にある国に輸送する方がよいのかということを話し合う必要がある。EU域内では製品の単一市場は構築できているが、廃棄物に関しては国家レベルでの取り扱いとなっており、資源利用効率を高めるためにはこの矛盾した状況を解決する必要がある。
一般質問「鉱山での鉱石品位低下の話がほとんどされていないことは残念である。鉱石品位の低下は、エネルギー消費量の増加、環境負荷の増加を意味しているのではないか。」
一般質問「鉱石品位の低下は、技術の進歩により鉱山での生産性が高まっていることを意味している。新しい鉱山を開発するより、古い鉱山から低品位の鉱石を採掘したほうが、地域社会に長く貢献できるなど利点がある。鉱石の低品位化に関する正しい理解を広める必要がある。」
Kleijn氏-鉱石の低品位化は水、エネルギー、土地といった資源の消費が増加するだけではなく、鉱石の処理過程で発生する排出ガスや廃棄物も増加し、経済への負担が大きい。
Presas氏-鉱石の採掘量が増えると、当然ながら鉱石の品位が低下する。基準値(base line)をきちんと定め、品質管理を行うことが重要である。
2-3. セッション3:相互依存的世界-原材料に関する国際的な貿易、協力及び開発
2-3-1. 基調講演:「日本が抱えるレアアースに関する課題」
山田淳次席大使、欧州連合日本政府代表部
日本はレアアースの世界最大の輸入国であり、レアアースの安定供給は大変重要な課題である。レアアースは、世界規模の供給チェーンに組み込まれている原材料であり、供給チェーンの一部で供給障害が発生すれば、供給チェーン全体に影響を及ぼす。日本政府は、レアアース及びその他の不足する金属の安全供給のため、①代替材料・使用量低減技術開発、②レアアース及びその他の不足する金属のリサイクル、③レアアース及びその他の不足する金属の供給源の多様化、の3つを軸とした対策を講じている。またEU、米国、日本といった純消費国間での協力だけではなく、カナダ、豪州といった資源輸出国ともレアアース問題に関する認識を共有することが重要である。

写真1.講演を行う山田大使
2-3-2. 基調講演:
Achille Bassilekin氏, Assistant Secretary General and Head of the Sustainable
Economic Development & Trade Department, ACP Group
世界の人口は2050年までに90億人に達すると予想されており、金属需要の大幅な増加が予想されている。ACP(アフリカ・カリブ海・太平洋)諸国にはまだ未開発の鉱物資源が多く賦存している。先進国、新興国、途上国のいかなる国も、全ての原材料を自給自足している国はなく、原材料に関しては相互依存関係が存在しているのが現状である。EUやその他の開発パートナーが原材料のアクセス確保に尽力している一方、ACP諸国は、貧困等の問題を解決するために、鉱物資源から持続可能な産業を発達させるための最適な方法を模索している。鉱物資源開発に関する行動計画案には、ACP諸国における鉱業の管理能力強化、鉱業における持続可能な開発の達成、鉱業がもたらす経済的及び社会的利益の最大化のための国力強化等が含まれている。ACP諸国は今後EU等のパートナーとの協力関係を強化して、原材料に関する課題に取り組んでいきたい。
2-3-3. パネル・ディスカッション
基調講演者の2名に加え、以下の4名がパネリストとして参加した:
– Richard Morgan氏, International Government Relations Advisor, Anglo American
– Francisco Bataller氏, 開発協力総局, 欧州委員会
– Guillermo Valles氏, Director, Division on International Trade in Goods and Services and Commodities, UNCTAD
– Luciano Mazza de Andrade氏, Head of the Trade and Economic Section, EUブラジル政府代表部
主な質疑応答及びコメントは以下のとおり:
Valles氏-輸出制限に関するWTOの既存の規則では、明確性という点において限界がある。そのため、WTOの紛争解決メカニズムを通して輸出制限の問題を解決しようとする際は注意する必要がある。それよりも、資源を持つ途上国の開発目標やバリューチェーンへの貢献度を考慮に入れたより相対的なアプローチを提案したい。より広範囲な国際フォーラムで、輸出制限に関する話し合いを行う必要があり、UNCTADはそのような対話を行うのに適した場である。
Morgan氏-アングロ・アメリカンは、アフリカや南米といった南側(開発途上国)での資源開発を行っており、欧州原材料戦略による資源外交の活性化には賛同している。輸出制限の問題に関しては、アングロ・アメリカンとしてはそれほど影響があるとは考えていない。重要なことは、原材料の問題に関して、持続可能な解決のモデルを構築し、そのモデルの中にEUが組み込まれるということである。
Bataller氏-天然資源は開発途上国に、開発のための歳入増加、経済成長の促進等の利益を与えることができる一方、途上国においては歳入の管理や行政能力の面での課題も浮上することになり、恩恵(blessing)にも呪い(curse)にもなり得る。EUでは、①欧州原材料政策、②税金と開発に関するコミュニケーションiv、③国別報告書(country by country reporting)、の3つの政策を柱に資源外交を行っている。そのほか、EUは採取産業透明性イニシアティブ(EITI:Extractive Industries Transparency Initiative)及びIMFの天然資源管理に関する対策基金(Topical Trust Fund Managing Natural Resource Wealth)の支援や、アフリカEU共同戦略2011-2013v(Africa EU Joint Strategy 2011-2013)の策定といった資源外交を行っている。
Andrade氏-特に有害な政策であるとして輸出制限だけを非難することは難しい。資源のある途上国は、国内での高付加価値化のために輸出関税の引き上げを行う場合がある。より大局的な視点を持って、本質的な課題に対する持続可能な解決法を模索する必要がある。
一般質問「アフリカ諸国への開発援助を行う際、そのような援助は付帯条件無(untied)で行うべきであると思うが、中国は、インフラ開発という条件付き(tied)の援助を行い、(資源開発等のビジネス面で)好条件を得ているという状況がある。」
Bassilekin氏-インフラ開発は国の発展につながりACP諸国にとって利益がある。重要なことは、インフラ開発と社会的な開発とのバランスを取ることである。現状としては、そのようなバランスを取るのが難しいことがある。
一般質問「Morgan氏が、アングロ・アメリカンは輸出制限の影響をあまり受けていないと発言したが、それは鉱業が影響を受けていないということを意味しているのか。」
Morgan氏-アングロ・アメリカンは鉄鉱石や銅といった主要なコモディティを扱っているため、レアアースといったニッチなコモディティと違って、主要コモディティの(一部の生産国による)輸出制限が市場を歪曲する可能性は低い。また資源ナショナリズムの動きが懸念されているが、資源国政府と十分な対話を行い、鉱山プロジェクトに対する資源国の要望に耳を傾ければ、資源国政府が規制といった手段を検討することが少なくなる。
Valles氏-結論としては、まず分野横断的な対話と協力関係を強化すること、及び政策の施行が国内外の経済にもたらす影響の分析を行うことが重要である。
3. 所感
欧州委員会、欧州議会、各国政府代表、産業団体、民間企業といった異なる立場の利害関係者が一堂に集い、欧州原材料政策に関する進捗状況や課題に関して活発に意見交換が行われた。世界人口の増加、途上国での都市化、グリーン経済の発展を背景に、今後も原材料需要の上昇が継続することが予想され、原材料を安定的に確保するために、各国の原材料政策の重要性がさらに高まると考えられる。本会議のような場で、官民学から多様な代表者が集い意見交換を定期的に行うことは、原材料政策の成功のためには不可欠であると思われる。ロンドン事務所では引き続き欧州原材料会議に参加し、欧州原材料政策の進捗状況を注視していきたい。
i http://www.unep.org/resourcepanel/Portals/24102/PDFs/Metals_Recycling_Rates_Summary.pdf
ii http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=COM:2011:0571:FIN:EN:PDF
iii http://www.europarl.europa.eu/sides/getDoc.do?pubRef=-//EP//NONSGML+COMPARL+PE-480.877+01+DOC+PDF+V0//EN&language=EN
iv http://ec.europa.eu/development/icenter/repository/COMM_COM_2010_0163_TAX_DEVELOPMENT_EN.PDF
v http://www.consilium.europa.eu/uedocs/cms_data/docs/pressdata/en/er/118211.pdf

