報告書&レポート
アラスカ州Pebble銅・金プロジェクトへの反対運動とアラスカ鉱業への影響

アラスカ州Pebble銅・金プロジェクトは、世界有数の未開発大型銅案件である。同州では雇用の受け皿であった石油産業が先細りしつつあり、雇用情勢の見通しが悪化する中、地元雇用や経済への波及効果が大きい本案件をはじめとする金属鉱業へのアラスカ州政府の期待は大きい。しかしながら、Pebbleプロジェクトに対しては環境保護団体などによる反対意見が多く、地元郡政府も2011年10月には大型開発案件を事実上禁止する条例案の住民投票を実施、僅差で賛成が過半数を占めるなど、本案件の開発可能性は現時点では不透明である。 |
1. Pebbleプロジェクトについて
Pebble銅・金プロジェクトは、世界でも最大級の斑岩型銅・金鉱床で、アラスカ州の南西部、アラスカ半島の付け根に位置している。
1988年にCominco社により発見され、現在はNorthern Dynasty社及びAnglo American社によるJV会社Pebble Partnership LLC.により保有されている。それぞれの権益比率は50%である。
天然資源開発用途として指定されている州有地に所在しており、行政区としてはLake and Peninsula郡の管轄となっている。アラスカ州では、先住民との土地権利関係を整理するため、州全土を12に分け、それぞれの地域内の先住民所有の土地は、先住民による地域会社、またビレッジ会社1により管理されている。本プロジェクトは地域会社Bristol Bay Native Corp.(BBNC)の管轄地域内ではあるが、前述のとおりプロジェクトそのものは州有地であるため、BBNCはステークホルダーとしてプロジェクトに関係している。

図 1. Pebbleプロジェクト位置図
鉱体は、約9千万年前に貫入した花崗閃緑岩に胚胎し、東鉱体と西鉱体に分けられる。西鉱体は地表に露出し、東に向かって潜頭する。東鉱体は鉱化後の断層に境され、西鉱体と比較して深くかつ高品位となっている。
2011年2月15日付予備的評価書(Preliminary Assessment, PA)では、カットオフ銅品位0.3%として概測及び精測資源量が59億4,200万t(平均品位0.42% Cu, 0.35g/t Au, 0.025% Mo)、ベースケースとして西鉱体のみの露天採掘でマインライフ25年の場合、税引後NPV(割引率7%)は5億5,900万US$、税引後IRRは14.6%、ペイバック期間5.6年と算出されている(金属価格として銅2.50 US$/lb、金1,050 US$/oz、モリブデン13.50 US$/lb)。またPAでは、参照モデルとしてマインライフ45年、78年の場合についても検討している。
Pebbleプロジェクトは、現在、資源量確定のための探鉱段階にあるとされ、現時点では正式な採掘計画等は完成していない。環境影響評価を含む各種許認可の申請前の段階であり、2012年後半~2013年を目処に許認可申請を予定しているとのことである。
2. Pebbleプロジェクトに対する現在の反対活動
Pebbleプロジェクトは、世界的なベニザケ(sockeye)の回遊地・産卵地とされるBristol湾に注ぐKvichak川とNushagak川の上流に位置しており、鉱山排水、特に酸性鉱排水によるBristol湾の汚染を懸念する環境保護団体の反対活動が激しい。その数は、明確に開発反対を表明しているものだけでも20以上あるが、本稿では主要な抗議活動団体の主張とその活動内容を記す。
2-1. 環境保護団体
2-1-1. Trout UnLimited
北米のサケ・マス類の漁場と流域の環境保護・改善を目的とし、科学者チームや法規制、環境保護キャンペーンの専門家を常駐スタッフとして擁する会員数14万人に及ぶ環境保護団体。
Pebbleプロジェクトに対しては、5億US$規模のサケ生産性を有するBristol湾の汚染及び漁業に従事する12,000人の雇用を脅かすリスクを有しているとし、Pebbleプロジェクトへの反対及びBristol湾の保護を主張している。
同団体ウェブサイトにおいてオバマ政権や連邦環境保護庁(EPA)に対してBristol湾保護の請願活動を行うとともに、アウトドア雑誌やアラスカ観光ツアーのウェブサイト、テレビ・ラジオ等メディアを利用して、一般市民への啓蒙活動など「Save Bristol Bay」と銘打った反Pebbleキャンペーンを積極的に展開している。また、他団体やステークホルダーと協調して、EPAに対して連邦水質浄化法(Clean Water Act)第404条(c)の適用を求めている。同項は米国陸軍工兵隊や各州が有する湿地帯等への浚渫物などの廃棄許可権限に対して、環境保護を目的にEPAが拒否権を発動できるというものであり、工兵隊等が発行した許可を覆す「Veto Authority」として、その適用可否について注目されているところである。
2-1-2. Renewable Resources Foundation / Renewable Resources Coalition
アラスカにおける狩猟・漁業の伝統と環境保護、再生可能資源に影響を与える問題に対して市民教育を行うことを目的とする非営利団体。
Pebbleプロジェクトに対しては、Bristol湾を始めアラスカ州の水産資源は、地球上で最大のサケ遡上を支え、グランドキャニオン等に匹敵する自然の驚異であるとし、反対活動を一貫して行ってきている。
「No Pebble」ステッカーの無料配布や、アウトドア関連展示会等でのブース展示やパレード開催などを通じてPebbleプロジェクトに関する市民への啓蒙活動を積極的に催す一方で、後述の州法案Bill SB 152に対しては、ウェブサイトにおいて一般市民が簡単に支持表明できるようなシステムを構築し、州議員への働きかけを市民に呼びかけている。
2-2. 地元ステークホルダー
2-2-1. Lake and Peninsula郡政府
郡政府のPebbleプロジェクトに対する基本方針は、経済振興と環境保護は共存可能であるが、手付かずの環境や漁業資源を鉱山のために取引することはないとし、Pebbleプロジェクトの許認可審査の際には地元住民が関与できるよう求めている。
2010年末には300名以上の住民により大規模な鉱山開発を事実上禁止する条例案「Save Our Salmon」イニシアチブが提起された。本条例案では、連邦政府や州政府とともに郡政府も開発許可権を有するとともに、地表かく乱が640エーカー(約259ha)以上となり、サケ等の溯河性魚類に深刻な影響を与える開発プロジェクトに対しては、許可を発行しないとするものであった。2011年10月4日に住民投票を実施した結果、賛成280、反対246で賛成が過半数を占め、条例案は可決された。
本住民投票を受けアラスカ州政府は、Pebbleプロジェクトは州有地に所在し、地方自治体に開発制限の権限はないと主張、Lake and Peninsula郡政府を直ちに提訴した。州政府が地方自治体を提訴した過去の裁判においては、いずれも州政府が勝訴しているため、アラスカ州政府は今回も勝訴するとの見込みである。
2-2-2. Bristol Bay Native Corp.
BBNCは、エスキモー、インディアン、アウレトなどの約9,000人の株主からなる先住民地域会社であり、本地域周辺に約12,000 km2の土地を所有するとともに、油田等への投資、建設業、政府契約や石油流通といった多角経営を営んでいる。
当初、Pebbleプロジェクトは州有地に所在することから中立の立場をとっていたが、2009年12月の理事会において本地域の天然資源への影響は計り知れないとして反対姿勢に転じた。2010年5月には「開発に対する姿勢」を発表し、この中で所有地のみならず非所有地に対しても責任ある資源開発を支持するとの姿勢を明らかにしている。Pebbleプロジェクトに関しては漁業や先住民の生活様式に与えうるリスクがあるとし、人々や土地に許容できない環境リスクを呈するのではなく、雇用や経済的恩恵を提供できる事業が他にもあると信ずるとのコメントを発している。また、許認可プロセスに関わり続ける旨、表明している。
具体的な反対活動としては、EPAに対して水質浄化法第404条(c)の適用要請や、Lake and Peninsula郡でのSave Our Salmonイニシアチブにおいて郡内の800戸以上の世帯に書簡を送付、賛成票を投じるよう呼びかけていた。
2-2-3. Nunamta Aulukestai
9つのビレッジ会社(Aleknagik, Clarks Point, Dillingham, Ekwok, Kolinganek, Levelock, Manokotak, New Stuyahok, Togiak)から構成される非営利組織。Bristol湾の管理を共通目的とし、土地所有者や規制当局、資源利用者間の協力促進、水や天然資源の保護、土地の有効活用を通じ、株主、子孫、コミュニティ及び文化への恩恵を最大化することを活動の目的としている。釣りシーズンのみに滞在するような季節労働者ではなく、先祖代々Bristol湾地域に居住するメンバーを中心としている点に特徴を有する。
Pebbleプロジェクトがベニザケの最大の産卵地に建設されることに懸念を抱いており、何千年もの間、回帰するベニザケを食料として生きてきた先住民にとって、Pebbleプロジェクトはここに生きている住民や動植物の生命を危険にさらすとして、鉱山開発を食い止めることを最前線の業務として掲げている。
具体的には、地元住民を対象に鉱山の潜在的な影響を視察するツアーを開催し、影響を被った先住民に面談を行ったり、「Our Bristol Bay」というホームページにより鉱山の危険性を扇動するような情報を提供したり、Anglo社の過去の有害廃棄物漏洩事故や労働者死亡事故などを取り上げることで同社の信頼性に疑問を呈するなどしている。また、環境保護団体のEarthworksなど他団体と共同してNo Dirty Goldキャンペーンの一環として、宝石・貴金属業者に対してBristol湾保護公約への署名を呼びかける一方で、未署名の業者に対してはニューヨークタイムズ紙といった著名紙の全面広告において名指しで攻撃するなど、その行動はやや急進的である。
2-3. 宗教団体・個人・政治家
2-3-1. アメリカ正教会アラスカ主教区
アラスカ主教区は、2009年の年次総会において、地方の経済を改善し生活の質を向上する開発に賛成する一方で、生態系を汚染または害する恐れのある開発を保留するという議決を全会一致で下した。特定のプロジェクトを名指ししたものではないものの、Pebbleプロジェクトを想定したものであるというのが一般の見解である。
2011年1月にはBenjamin Peterson主教とMichael Oleksa司祭らがBristol湾付近の河川等を訪問し、これら地域の水を「神聖な水」とするBlessing of Waterと呼ばれる儀式を執り行った。また世代から世代への「聖なる信託(sacred trust)」とされている自然を害するPebble開発は実施されるべきではないと訴えている。
一方で、これら儀式の諸費用を後述のBob Gillam氏が負担していたことや、Peterson主教とOleksa司祭との間のメールが流出、その中でGillam氏との関係継続により今後も金銭的な支援が受けられる可能性を示唆していたことが発覚したことなどから、Pebbleプロジェクトへの反対姿勢は純粋な宗教上の理由というよりもビジネス上の理由からではないかとの指摘がなされている。
2-3-2. Bob Gillam氏
アラスカ州出身で投資会社McKinley Capital Management(本社:アンカレッジ市)を創設、現在も同社の社長を務めるアラスカ屈指の富裕者。
鉱業活動そのものには反対していないと宣言した上で、Pebbleプロジェクトについては、外国の鉱山会社に数十億US$の富をもたらす一方で、7,000人の無限に再生可能な漁業資源に携わる雇用を危険にさらすとともに、銅が枯渇すればアラスカは荒廃した河川水系と有害な廃棄場となり、雇用はゼロになると訴えている。アラスカ州法は、同州の天然資源が「州民の最大の利益」のために利用されると定めており、1,000人分の鉱業雇用のために54,000人の漁業・海産物産業を犠牲にすることは理解できないとしている。さらに、ほとんどのコミュニティは鉱山会社と戦う余裕がないが、自分には自らの主張に資金を費やすことができ、今後も活動を継続するとしている。
具体的な活動としては、2008年に実施されたAlaska Clean Waterイニシアチブ2を主導した非営利団体Alaskans for Clean Water(ACW)に対して資金提供を行ったとされている。同氏はバージニア州の雇用安定擁護団体Americans for Job Securityに対してイニシアチブ投票の2か月前に100万US$を献金、この資金がACWに流れてイニシアチブへのキャンペーンに使用されたとされる。アラスカ州内の選挙活動や資金の管理・監査を行うアラスカ公職委員会(Alaska Public Offices Commission)では、一連の資金の流れを本キャンペーンの支援者である同氏の存在を巧妙に隠蔽する工作と断定している。2011年に実施されたSave Our Salmonイニシアチブに対しても同氏は41.5万US$を費やしたとされる。また、アラスカ正教会関係者によるBristol湾地域での儀式の費用提供、Lake and Peninsula郡選挙の際には反対派議員に所有飛行機会社による格安料金での移動手段の提供など反対運動の資金サポーターとして活動している。
なお、同氏はPebbleプロジェクトの西に位置するレイク・クラーク国立公園内に約1,300 m2のロッジを所有しており、このロッジの環境を守りたいだけではないかとの意見も一部にはある。また郡選挙資金提供に関しては、選挙違反を認定され、違約金を課されるなどしている。
2-3-3. Rick Halford元アラスカ州議会上院議員(共和党)
州上院議員を24年間務め、引退時には州上院議長を務めていた。Trout UnLimitedによるSave Bristol Bayキャンペーンのコンサルタント。アラスカは野生サケの最後の拠点であり、手付かずの生態系と生物多様性のすべてを保存できる最後のチャンスであるとし、Bristol湾は硫化物鉱山の開発には地球上で最も不適切な場所であると訴えている。州議会議員であった立場を最大限に利用し、Pebbleプロジェクトに反対している先住民団体や漁業団体とともに陳情団としてワシントンDCを訪問、ロビー活動を行うとともに、EPAとの会合やBristol湾での漁業活動に関係の深い州の議会に訪問するなど反対活動の拡大に取り組んでいる。
2-3-4. Hollis Frenchアラスカ州議会上院議員(民主党)
マサチューセッツ州出身で、1978年からアラスカに居住する弁護士・州上院議員。漁場汚染がアラスカ州内のいずれで起こったとしても、消費者は「アラスカの魚は危険」との認識を抱くとし、アラスカ産サケの評判を守るためにも、Pebbleプロジェクトについては地元コミュニティ選出の議員が熟考すべきと主張している。また州議会がすでに有しているBristol湾漁業保留区内の石油・ガス開発を制限する権限について、この権限を金属鉱山にも拡大適用すべきとの考えから、2012年1月17日にBristol湾漁業保留区内に位置する640エーカー(約259ha)以上の金属硫化物鉱床の開発には州議会の承認を必要とする法案Bill SB 152を上程した。
2-3-5. Maria Cantwell連邦上院議員(民主党、ワシントン州選出)
Bristol湾での大規模開発がサケに悪影響を及ぼすと判断した場合、開発プロジェクトをやめさせるよう要求した最初の連邦議員。2011年9月12日付けニュースにおいて、科学者がPebbleプロジェクトの開発がサケ個体数に悪影響を及ぼすと判断した場合、本プロジェクトの開発に反対すると表明し、本地域の環境影響に関する科学調査を実施するとした2011年2月のEPAの決定を支持している。
3. アラスカ鉱業への影響
環境保護団体等によるPebbleプロジェクトに対する主張を概観すると、総じて鉱業活動そのものを否定するような急進的な主張ではない。アラスカ州漁業狩猟省(Alaska Department of Fish and Game)が発表した2011年のアラスカ各地におけるサケ・マス類漁獲高(図 2)によると、サケの中でも最も価値の高いベニザケは約半数がBristol湾で採れ、Bristol湾地域の経済効果はアラスカ州全体の漁獲経済効果のおよそ23%を占めるとともに、ベニザケについては約46%を占める。また、Bristol湾水系の特徴としては、天然ベニザケの最大級の産卵地となっていることが挙げられる(図 3)。したがって、本地域は、米国本土太平洋側では見られなくなったベニザケ遡上の「最後の砦」的な地域とみなされているがゆえ、より過激な反対運動が展開されているといえよう。アラスカ州は鉱業投資に比較的適した州とされるものの、一般的に米国では鉱業に対する風当たりが強く、アラスカ州に限らずどのような鉱山開発案件に対しても少なからず反対運動は起こるが、Pebbleプロジェクトへの反対活動はBristol湾水系という立地に起因するところが多く、アラスカ州の他地域に直接的に影響を及ぼすものではないと考えられる。
しかし、図2ではBristol湾のみならずアラスカ南東部やPrince William海峡でも(ベニザケは少ないものの)サケ・マス類漁獲量は大きく、本地域においてもサケ・マス類資源の重要性は高いことが示されている。また、図 3で認められるとおりBristol湾水系以外にもベニザケの遡上水系は認められることから、これら地域の水系に影響が懸念される大規模開発案件では同様の反対運動が起こされる可能性があるといえる。事実、Trout UnLimitedは、アラスカ南東部の大半を占めるTongass国有林地域においてもBristol湾と同様のサケ・マス保護活動を積極的に展開しており、酸性鉱排水など生態系や水系に影響が懸念されるようなプロジェクトの場合、同じような反対運動が展開される可能性は高い。
上院議会で審議されているBill SB 152が可決された場合には、Bristol湾水系での大規模な金属硫化物鉱床の許認可権が議会に与えられる。本法案のアラスカ州他地域への直接的な影響はないものの、民間投資に対して科学的データに基づかない政治的な判断が加わるという可能性は、他地域においても投資意欲の減退を招くであろう。
また、Pebbleの事例が、許認可プロセスの一つの指標となり、許認可プロセスに要する期間が長期化する恐れも指摘されている。

図 2. アラスカ州各地域の2011年サケ漁獲高(アラスカ州漁業狩猟省のデータより作成)

図 3. アラスカ州のベニザケ遡上水系(アラスカ州漁業狩猟省のデータより作成)
まとめ
Pebbleプロジェクトは、環境保護の象徴の感のある天然ベニザケの今や貴重な回遊地・産卵地であるBristol湾水系の上流に、地表かく乱の大きな露天掘り鉱山で、生産される金属よりもはるかに多く発生する廃石・尾鉱からの酸性鉱排水等による水質汚染が懸念されることから反対活動が激しくなっているものと思われる。これらはPebbleプロジェクト特有の要因とも言えるが、サケへの影響などはアラスカ州の他地域においても決して無視し得ない要素であり、プロジェクト次第では同様の抗議活動も起こりうる。
現在、アラスカ州政府が郡政府を訴えた裁判が進行中であり、また州法案Bill SB 152の審議やDonlin Creek金プロジェクトの許認可審査によるアラスカ州政府の人的リソースの不足、Pebbleプロジェクトそのものの探鉱・環境調査・エンジニアリング等の実施などから、当面は本プロジェクトの推進者側に大きな動きはないものと予想されるが、プロジェクトの正式な許認可申請及び科学的データに基づいた環境影響評価が実施される前に、感情的・急進的な抗議活動によりプロジェクトが頓挫することがあった場合、アラスカ州への鉱業投資意欲は減退するであろう。
2012年5月18日、EPAはBristol湾における大規模鉱山開発による環境への潜在的影響について実施した科学調査のドラフト報告書を一般公開した。本報告書では、通常操業時における鉱山サイト以外の地域における魚類生息域に対する環境リスクの可能性を指摘するとともに、尾鉱ダムやパイプラインにおける障害・事故発生時には湿原の消失、湿原・河川に依存するサケ等の遡河性魚類やそれらを食料とする野生生物の減少、先住民の伝統的狩猟・採取文化に対する影響を指摘している。本報告書はドラフトであるため、現時点では、EPAによる水質浄化法第404(c)条の適用を始めとする許認可権限発動に関する判断材料とはならないが、科学的データに基づく議論の端緒にはなると思われる。
どちらの結論になろうとも、EPAの科学調査や今後提出されるであろう正式な環境影響評価による科学的データに基づく建設的な議論こそが、アラスカ州鉱業にとって最も重要な点であろう。
参考資料
Preliminary Assessment of the Pebble Project, Southwest Alaska, February 17, 2011.
2011 Alaska Commercial Salmon Harvests – Exvessel Values, Alaska Department of Fish and Game.
Clean Water Act Section 404(c) “Veto Authority”, US Environmental Protection Agency.
An Assessment of Potential Mining Impacts on Salmon Ecosystems of Bristol Bay, Alaska, US Environmental Protection Agancy.
1 1971年に制定されたAlaska Native Claim Settlement Actに基づき連邦政府から先住民族に譲渡された土地と補償金の受け皿として、先住民側が設立した会社。居住コミュニティ単位のビレッジ会社とアラスカ全土を12区分した地域会社に別れ、いずれも非上場で所属住民のみで全株式を持ち合う。
2 640エーカー(約259ha)以上の地表かく乱を引き起こし、環境に深刻な影響を与える金属鉱山に対して許認可を与えないとする州法案。廃案となっている。
