閉じる

報告書&レポート

2012年10月11日 金属資源技術部生産技術課 佐藤朋恵
2012年61号

最近のボリビア鉱業を巡る諸問題-「国有化」と今後の行方-

 ボリビア国内で、ここ数か月の間に鉱山を巡って様々な問題や争議が起き、大きなニュースとして報じられている。それらは主に、地域住民や鉱山労働者による鉱山占拠と、プロジェクトの破綻である。鉱山占拠問題に至っては、政府による鉱山の「国有化」といった結末を迎えることが多くなってきた。こうした鉱山国有化の動きが国全体としての「傾向」になっているのだとすると、今後の鉱山開発や投資における懸念材料となりうる。更に、地域住民の動きは、一地方のマイナーな活動ではあるものの、ひとつのプロジェクトの運営や成功を左右するものであり、また鉱山労働者、地域住民間の横の繋がりもあることから、全国に広がる可能性も排除されずあまり看過できない。
 筆者は、ボリビア訪問中の7月上旬頃、ボリビア政府の鉱業関係者からインタビューする機会を得たので、問題の中でも最近動きのあった3つのケースを取り上げ、各鉱山の動向とボリビア国内における報道を整理し、その問題の背景について考察した。これらの問題はボリビア社会の何を反映しているのか、政府はどのように考えているのか、今後ボリビアはどこへ向かうのか等、今後のボリビア鉱業情勢を知る上での一助となれば幸いである。

1.ケース①─Colquiri亜鉛・錫鉱山での鉱山協同組合による鉱山占拠と「国有化」の経緯

(1) Colquiri亜鉛・錫鉱山の概要
 Colquiri亜鉛・錫鉱山は、La Paz県Inquisivi郡にあり、首都La Paz市から南東へ193 km、標高3,500~4,800 mに位置する坑内掘りの鉱山である。鉱石埋蔵量4.2百万tといわれており、錫をはじめ亜鉛や銀を産出する。“Colquiri”とは、現地アイマラ語で「銀の眠る場所」を意味し、植民地時代から鉛と銀の採掘が行われており、後世には主に錫と亜鉛を産出する鉱山となった。
 本鉱山は、1952年に錫三大財閥鉱山の国有化、1986年にPaz Estenssoro政権下の民間主導政策によるボリビア鉱山公社(COMIBOL)解体により閉山した鉱山のひとつであった。しかし、1989年以降、COMIBOLが操業を再開しようと、入札でJV相手を模索し続け、2000年1月、同鉱山の経営権をComsur(Sánchez de Lozada前大統領が設立した当時国内最大の鉱山企業)と英政府開発金融機関CDC(Commonwealth Development Corporation)のコンソーシアムに譲渡した。その後、鉱山労働者によるストライキ等により2004年まで鉱山操業を停止していたが、鉱山協同組合(FENCOMIN:Federación Nacional de Cooperativas Mineras)、鉱業冶金省、COMIBOL、Comsur社の合意により操業を再開した。2005年5月、スイスGlencoreがComsur社を220百万US$で買収し、同社の100%子会社であるSinchi Wayra社を設立、ボリビア国内のColquiri鉱山を含む5つの鉱山で採掘活動を開始した。2008年、ボリビア政府はSinchi Wayra社所有のColquiri鉱山並びにPorco鉱山をCOMIBOLとのリース契約(contrato de arrendamiento)、Bolívar鉱山をJV契約とした。

(2) 「国有化」の経緯



図1 Colquiri鉱山位置図

 Colquiri鉱山では、Sinchi Wayra社が鉱山を操業する一方で鉱山協同組合“Cooperativa 26 de Febrero”が同鉱山の鉱区の一部で採掘活動を行っていたが、数年前から既に鉱床が枯渇しているとして、2012年5月30日、新たな採掘場所を求めて同鉱山を占拠した。同日朝4時半頃、約1,000人の鉱山協同組合員が暴力で鉱山内に侵入し、鉱山へ向かう道路を封鎖したことで、同日勤務予定であった同鉱山の労働者約80名が鉱山内に立ち入れなくなった。その際、占拠した鉱山協同組合員と鉱山労働者の間で衝突が起き、鉱山労働者側の15名が負傷した。
 その後何日間も鉱山協同組合側による鉱山占拠が続いたため、政府は鉱山から搬出される鉱石の流通や電気を止めるといった措置を取った。鉱山労働者側も、鉱山協同組合に対し鉱山の放棄を求めて道路封鎖を行い、警官隊約200名が出動する騒動となった。その後、鉱業冶金省、労働省、COMIBOL、鉱山協同組合、鉱山労働組合(FSTMB: Federación Sindical de Trabajadores Mineros de Bolivia)の間で協議が行われたものの、鉱山協同組合側は新たな採掘場所となる鉱床の譲渡を求め、また、政府は鉱山国有化を提案するなど、協議は合意に至らず紛糾した。6月15日頃、再び鉱山協同組合側と鉱山労働者側の衝突が起き、警官隊約1,000名、軍隊約600名が出動し鎮圧したものの、重傷者を含む負傷者18名を出す惨事となった。
 一連の騒動の解決策としてGarcia Linera副大統領は、6月20日付の大統領令第1264号をもってColquiri鉱山を「国有化(nacionalización)」すると発表した。これによりSinchi Wayra社とのリース契約は解除となり、同鉱山の操業主体はCOMIBOLとなった。政府は今後56百万US$を投資し、現在、1日あたり1,000 tの生産量を2年以内に倍増する、と発表した。また、鉱山協同組合員約1,200人のうち500人超をCOMIBOLの従業員として雇用し、Sinchi Wayra社所有のRosario鉱床の一部を鉱山協同組合側に譲渡すると決めた。
 問題は一旦沈静化し、鉱山協同組合側も鉱山労働者側も納得のいく結論となったかに見えたが、8月30日、今度は鉱山労働者側が再び鉱山占拠を行った。政府が大統領令第1337号に従ってRosario鉱床の一部を鉱山協同組合に譲渡したところ、同鉱床の65%ものエリアを鉱山協同組合に支配されたとして蜂起したものである。現在は、鉱山労働者側がColquiri鉱山全体の国有化を政府に求めている。

(3) 考察
 本件の「国有化」は、これまでMorales大統領が毎年5月1日のメーデーに行ってきた石油会社、電力会社、電話会社等の国有化とは中身の異なるケースである。政府は「国有化」という言葉を用いているものの、実態は、Sinchi Wayra社とのリース契約を解除し、国の所有に戻したのみである。同鉱山内での民間企業Glencoreの活動が、Morales大統領の政敵であるSánchez de Lozada前大統領が設立した企業の流れを汲んでいることにより、政府との間に確執があったとの見方もあり、「あの手この手」でGlencoreを排除しようとした可能性がある。そのため、今回の「国有化」はColquiri鉱山特有のケースであり、ボリビア全体に鉱山国有化の傾向がある、あるいは今軌道に乗っている鉱山を直ちに国有化するような、他鉱山国有化の危険性を示唆する、という訳ではないと考えられる。筆者が7月上旬に実施した政府関係者へのインタビューで、同鉱山の国有化を望んだのは、また仕組んだのは誰なのか尋ねたところ、それぞれの立場によって意見が異なり、憶測が諸説みられた。根拠をもって誰が主要人物かを議論、断定することは難しいが、結果的に政府が「国有化」という判断を下したという事実がある。外国企業による資源の「搾取」という歴史的な苦い経験等を踏まえ、反グローバル化や反外国企業を掲げるMorales大統領の支持層に受けの良い「国有化」という言葉が都合よく用いられていることも確かである。これまでも複数の鉱山で自らの主張を貫くため、日々の不満を表明するために地元鉱山労働者や鉱山協同組合員による占拠が起きているところ、2014年のMorales大統領再選を睨み、政府が支持基盤の主張を呑む判断をすることは今後もありうるのではないかと考える。

2.ケース②─El Mutún鉄鉱山からのインドJindal社撤退

(1) 概要
 El Mutún鉄鉱山は、Santa Cruz県の最東端にあるGermán Busch郡Puerto Suárez市から約27 km、ブラジルとの国境に近いCorumba村付近の標高200~800 mに位置する。面積約65km2、埋蔵量は鉄鉱石が約400億t、マンガン鉱石が約100億tという、世界最大級の鉄鉱石鉱山のひとつである。
 1956年、COMIBOLとボリビア地質サービス局(GEOBOL)が探査し、他国との競争力や鉱石処理に要する追加コスト等から収益性がないと判断された。その後、1993年までにEmpresa Metalurgica del OrienteとCOMIBOLが35万tの少量の鉄鉱石を採掘し、アルゼンチン並びにパラグアイに輸出していたが、道路等のインフラ未整備を理由に操業を停止した。2001~2002年、COMIBOLは同鉱山の再度民営化を目指し入札を行ったところ、外国企業数社が関心を示したものの、鉱山周辺インフラの整備も含まれていたため失敗し、民営化には至らなかった。COMIBOLは2004年、この失敗を踏まえ、政府とのJV契約による同鉱山の採掘・産業化のため入札に再着手した。この際、同鉱山の操業に天然ガスを使用することが条件とされた。この入札の結果、2006年、インド第3位の鉄鋼企業Jindal Steel and Power Ltd.(以下「Jindal社」)が同鉱山の開発権を落札するに至り、2007年、ボリビア政府と同鉱山の探査、採掘、産業化、商業化に関するJV契約を締結し、Mutún鉄鉱山会社(ESEM:Empresa Siderurgia de El Mutún)が設立された。El Mutún鉄鉱山会社へのJindal社と政府の出資比率は50:50である。2009年のJindal社の発表によると、2,100百万US$を投資し、年産170万tの製鉄所、450 MWの発電所、年産6百万tの海綿鉄と10百万tの鉄鉱石ペレットの製造プラントを建設する計画であった。



図2 El Mutun鉄鉱山位置図

(2) 撤退の経緯
 2012年3月8日、Jindal社はEl Mutún鉄鉱山会社に対し、政府とのJV契約の一時中止を伝達した。Jindal社側が問題にしていたのは主に次の2点である。ひとつは、2014年からの鉄鉱石選鉱プラントへの天然ガス供給確保に関し、Jindal社は政府に対し、2014年から一日あたり600万m3のガス供給を保証するよう求めていたが、ボリビア石油公社(YPFB)は250万m3のガスしか提供できず、約束していた供給量が保証されていないことである。もうひとつは、ボリビア政府側(COMIBOL)は本件計画の範囲に含まれる土地の鉱業コンセッションを持っていたが、土地所有権(derecho de tierra)を持っていなかったことである。これらは様々な所有者(地主)がCOMIBOLとは別に存在しており、この土地所有権の買い取りに時間を要していた。Jindal社の主張は、国がこの土地を全て買い取るまでは投資を中止するとした。
 一方で政府は同社に対し、2010年以来2度目の契約保証金の支払いを要求した。Jindal社は、3月末までに実施しなければならない600百万US$の投資は機材の購入等で既に行ったと主張した。しかし、政府は鉱業冶金省側にはこの投資の証拠がないとした。また、政府は土地購入問題について、必要な土地の96%の所有者問題は既に解決済みであり、まもなく100%になるので、投資は継続してほしいとJindal社に伝えたと主張した。
 3か月後の6月9日、Jindal社はMutún鉄鉱山会社に対し、契約解消を通知する書簡を送付した。これについてVirreira鉱業冶金大臣はJindal社の投資を「乏しい(pobre)」と評価し、本件投資計画は資金のある他の企業がすべきだ、と述べた。またJindal社が撤退するとボリビアは損害を受けるものの、(Jindal社のような)投資をしない企業が国内にいることも損害になる、と述べた。しかし、この時点で政府としてのJindal社に対する立場は明確にしなかった。
 6月11日、Jindal社は投資の継続に同意したが、鉄鋼の生産量を約半分の年間100万t未満に減らし、当初のJV契約に記されている投資額を半額にするという条件を提示した。
 その後のJindal社と政府間の協議の中で、Jindal社は、政府が求めている契約保証金支払いの撤回を要求し、また、政府関係者は、Jindal社が仮に留まったとしても、生産した鉄鉱石を輸出するのに必要な鉄道、道路、港、水路といったインフラ整備がなされていないという問題点を指摘した。一方地元住民は、Jindal社が撤退することで地元の約250世帯が職を失うと主張してJindal社の撤退に反対するデモ行進を実施した。また、Morales大統領からは「Jindal社がガス供給を問題にする際同社は嘘をつき、政府を利用している。それは契約を履行していないからであり、謝罪も何もない。契約保証金の支払いは、契約取り消しではなく『罰』である」といった発言まで飛び出した。
 7月上旬頃、Jindal社との契約を継続する方向で協議が進み、一旦は契約継続を決定した。しかし、ボリビアでの活動を継続するための条件として、Jindal社は自社に対する訴訟の取り下げ、2回目の契約保証金支払いの白紙撤回、政府による同鉱山非国有化の宣言を求めたため、政府はこれらの条件を拒否、7月16日、サンタクルスで続けられていた協議においてJindal社のボリビア撤退が決定した。
 現在、Jindal社の「未投資」を巡って訴訟問題になっている。また政府内では、新たなJV相手を求めて改めて国際入札にかけることも検討されている。

(3) 考察
 本件は、Colquiri鉱山のように地元住民の中で明確な反対派がいるわけではなく、むしろ、地域の発展のため地域住民は鉱山活動推進に賛成であったにもかかわらず、このような結果に至ってしまったが、その原因は不明である。Jindal社の主張は「天然ガス供給問題と土地譲渡問題が未解決だったため」であり、筆者が7月上旬に実施した政府関係者へのインタビューでは「ガスをくれと言われても、具体的な投資計画も示さないでガスだけ求められても供給のしようがない」との意見が聞かれ、いわば「鶏が先か、卵が先か」という議論になってしまっている。そのため、双方に問題があっただろうと考えている。いずれにしろ、政府が契約保証金を請求するなど、JV関係を維持していくのに最も重要な双方の信頼関係が失われてしまったままでJindal社がボリビアに留まることは困難である。この件で、Jindal社にも問題はあったが、ボリビアは大規模な開発計画を実施する能力に欠けている、ということを改めて内外に示す結果となった。今後、Jindal社に代わる新たな投資企業を求めて国際入札にかけていくのであろうが、一部のメジャー企業が大きな鉄鉱山を大規模に開発するイメージの強い鉄鉱石業界において、国主導で今後のEl Mutún鉱山開発計画は進むのか。ボリビア政府の手腕が今後問われることとなろう。

3.ケース③─Malku Khota銀・インジウムプロジェクトの探鉱権剥奪

(1) 概要
 Malku Khota銀・インジウムプロジェクトは、首都La Paz市から南南東に383 km、Oruro市から南東に100 km、Potosí県最北部にあるAlonso de Ibáñez郡に位置する。世界最大の銀、インジウムプロジェクトのひとつとも言われている。その他、銅や鉛等のベースメタル、ビスマス、ガリウムも確認されており、露天掘りでの開発が計画されている。埋蔵量は、銀が230.3百万オンス(約6,529 t)、インジウムが1,481 t、ガリウムが1,082 tとなっている。
 本プロジェクトは、2005年頃からカナダのGeneral Minerals社が探査活動を行い、その結果、同プロジェクトには経済性があると評価された。2007年2月、同社がMalku Khotaプロジェクト等を推進することを目的にSouth American Silver(SAS)社を分離・設立し、以降は、同社がMalku Khotaプロジェクトの探鉱(ボーリング・坑道調査、分析)開発事業を実施しており、2014年ないしは2015年から採掘を始める計画であった。

(2)探査権剥奪までの経緯



図3 Malku Khotaプロジェクト位置図

 Potosí県北部の地域住民の一部が、SAS社による探査・鉱山開発活動に反対し、同社が持つ探鉱権の剥奪・地元コミュニティへの返還、同社の同地域からの退去を求めていたところ、2012年5月5日、警官隊が地域コミュニティ内に入り、コミュニティ代表者を逮捕したことから、地域住民が逆に警察官を人質に取る事件が発生した。反対派地域住民の代表者は、SAS社の探査活動は地域コミュニティへの事前協議なく行われていると批判し、また採掘活動が始まれば地域の水源が汚染されるのではないかという懸念を示した。5月18日、SAS社と反対派地域住民の間で行われた協議中、協議の場に押しかけた地域住民約200名が暴動を起こし、約10名の負傷者と12名の行方不明者が出た。Virreira鉱業冶金大臣は、反対派地域住民による主張の根底には金の違法採掘に係る経済的利害関係の対立があると指摘し、反対派住民が国へ利益ももたらすことなく金の違法採掘を続けるのであれば、それこそ受け入れない、と反対派住民を切り捨てた。また、SAS社が現地に設立したMalku Khota鉱山会社は、同地域で許可を得て探査を実施しているので、今後探査活動をやめるような問題はなく、また2013年に探査を終了した後、採掘を始める前には事前協議を行う事で既に合意しているので、新憲法に従って事前協議を行うつもりである、と述べた。更にGonzales・Potosí県知事も、Malku Khota地域住民の大半、並びに同地域の首長もMalku Khota鉱山会社の活動を支持しているので、政府に対し同鉱山の警察や軍による保護を求めた。
 5月28日、数千人の地域住民が首都La Pazに向けたデモ行進を開始した。6月7日、デモ隊がLa Pazに到着、要望書を政府に提出し、本件解決のためMorales大統領との直接対話、SAS社との契約解消、拘留されている指導者の解放、Potosí県北部の先住民の貧困撲滅等を要求した。しかし、La Paz市内で警官隊と揉み合いになり、警察側に負傷者が発生した。6月12日には、鉱山周辺コミュニティにおいて、SAS社の活動の反対派住民と賛成派住民の間で衝突が起き、反対派住民が探査・鉱山開発活動エリアを占拠した。この中には、金の違法採掘を行っている鉱山協同組合員も参加していたと報じられた。その後も、地域住民が賛成派関係者を人質に捕ったり、現地に派遣された警官隊との揉み合いで死者が出たりするなど、現場は混乱が続いた。7月7日、政府は地域住民との対話に就き、翌8日、事前合意と人質の解放を行った。7月10日、両者は正式な合意に至り、SAS社の探鉱権の返還や一連の騒動での犠牲者遺族、負傷者に対する補償などを約束した。8月2日、政府は大統領令第1308号をもって、Malku Khotaプロジェクトのコンセッションをはく奪し、その管理はCOMIBOLの手に渡った。同大統領令の中で、COMIBOL、鉱山技術地質サービス局(SERGEOTECMIN)、Potosí県庁、経済財務省が同鉱区内で探査活動をすることを認めている。これによりボリビア政府は、Explotaciones Mineras Santa Cruz(Emicruz)社名義で登録されている 土地170 ha、またMalku Khota鉱山会社所有の土地219 haを接収した。
 このボリビア政府による措置に対し、カナダ外務・国際貿易省は「大変失望した(muy decepcionado)」と表明し、Ed Fast外務・国際貿易大臣の報道官は、「この行為により、カナダの投資家のみならず世界中の投資家にも否定的なサインを発したことになる」と述べた。一方、Virreira鉱業冶金大臣は、Malku Khota鉱山会社はボリビア企業でありカナダ企業ではなく、また政府はSouth American Silver社との直接契約がないので同社はコンセッションを全く所有しておらず、同社には何の影響もない、と述べた。法令第3787号の規定により、Potosí県庁は今後、鉱山採掘活動で得たロイヤルティのうち10%をMalku Khotaプロジェクトの探査活動に投資する予定である。探査活動は、COMIBOL並びにSERGEOTECMINが実施する。

(3) 考察
 一連の騒動を追って見ると、他の鉱山問題と比べても暴力を伴う「事件」の要素が強い事案である。そのせいか、政府の解決策も、反対派地元住民の要求を呑む形での幕引きとなってしまった。本案件は未だ探査段階であり開発には至っていないため、今回政府側は「国有化」という言葉を自ら使用していないものの、SAS社本社のあるカナダ政府関係者が「国有化」として非難している。Colquiri鉱山の「国有化」とは異なるケースではあるものの、現政権に象徴的な単なる「迎合主義」といえるであろう。Malku KhotaプロジェクトのあるPotosí県は、ボリビア国内でも最貧困地域を抱える県のひとつであり、地域住民に裨益する形での開発や産業化の推進が急務な課題であるのは事実である。しかし、圧力や暴力に訴えれば思い通りになる、と国内外に知らせるような解決は他の鉱山、他のセクターで不満を持つ人々を刺激することにもなりかねず、得策ではなかったのではないかと思われる。

まとめ

 本稿では、今年起きている主な鉱山や探査プロジェクトを巡る騒動の例を挙げたところ、これらの例から考えられる点は以下のとおりである。
 2005年、先住民、農民、住民組織、労働組合等といった中間層以下の多くの支持を得てMorales大統領は当選した。しかし地方において現政権下でも自らの生活が良くならないことへの不満が、こうした「圧力」や「暴力」に訴える社会不安に繋がっているとしたら、地元住民がそれを示した時、支持基盤である先住民や地域住民に迎合する傾向にある。特に、現在支持率が落ちている政府としては、2014年12月に大統領選挙を控え、とりあえず先住民や地域住民の意向を呑む形で火消しに回り、その場を取り繕うしか方策がない、そうした社会不安を取り除くだけの力がない、ともいえる。そうした傾向は大統領選挙まで、今後も続くであろう。
 鉱山を「国有化」したところで、その後の運営においては経験のなさゆえか、政府の運営能力のなさを露呈してしまうことが予想される。Jindal社の撤退は「国有化」とは異なるケースであるものの、その象徴とみることもできる。
 これらの様子を見ると、今のボリビアでは新規投資は勿論のこと、外国企業が活動を続けるにはますます難しい状況になっていくと言えそうである。しかし、7月に筆者がインタビューした某政府高官が、筆者に対し「日本としては、ボリビアの鉱山国有化といった動きが心配なのか?やはり、投資への保証や安全といった懸念はぬぐえないようだ」と語った。政府関係者には、今のボリビアの動きを冷静に捉え、懸念している人がいることも事実である。
 Colquiri鉱山では一旦丸く収まったはずが、譲渡した活動場所を巡る騒動が再び起こり、El Mutún鉄鉱山でもJindal社に対する訴訟問題等、すぐには終わりの見えない論争になってしまっている。今後も、ボリビア国内の特有な事情と、世界の「一般的」な流れや考え方の狭間で、ボリビアは悩み続けるであろう。しかし、Colquiri鉱山の運営、El Mutún鉄鉱山での再入札と開発、Malku Khotaプロジェクトでの探査というこれらの問題を今後どうしていくのかは、今後のボリビア政府の手腕にかかっている。見方によってはボリビアの実力を国内外にアピールするチャンスともいえる。このような問題は、ひいては2014年の大統領選挙がどうなるのか、今後ボリビアがどのような方向に向かっていくのかに関わってくる問題であり、しばし“お手並み拝見”である。

参考文献
 Arce Burgoa Osvaldo R., “Metalliferous Ore Deposits of Bolivia Second Edition.” SPC Impresores S.A., 2009.
 独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構、『ボリビアの鉱業投資環境調査 2009年』、2011年

ページトップへ