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報告書&レポート

2013年5月30日 ロンドン事務所 北野由佳
2013年29号

国際非鉄研究会参加報告(1)-2013年春季国際鉛亜鉛研究会(ILZSG)参加報告-

 ILZSG(国際鉛亜鉛研究会)は1959年に発足した国際機関で、鉛・亜鉛市場における透明性を確立することを目的とし、需給調査や経済動向など鉛・亜鉛市場に影響を与える分野の情報収集、分析、統計を行っている。

 2013年4月24日、リスボンにて、ILZSGによる春季定期会合が開催された。本会合には、各国代表、EU、産業団体、企業、コンサルタント等から約50名が参加し、鉛・亜鉛に関するプレゼンテーション及び議論が行われた。以下、本稿ではその会合の概要について報告する。なお、本会合での講演資料は、ILZSGの公式HPから入手可能である。

 (http://www.ilzsg.org/generic/pages/list.aspx?table=document&ff_aa_document_type=P&from=3)

1. 第49回 産業諮問委員会 (10:30~12:00)

1-1. 2013年の鉛需給予測 (ILZSG主任予測統計官 Paul White氏による発表)
1-1-1. 鉛:鉱山生産量 ~中国では緩やかな増産~
 2013年の鉱山生産量は、対前年比3.5%増の543万tと予想した。中国では対前年比4.7%増で、国内の鉛一次製練産業の需要が国内生産量及び輸入によって満たされたと考えられており、過去数年間に比べて緩やかな増産となった。また豪州では、環境規制のため2011年に操業を停止していたParoo Station鉱山が生産を再開したことが主因となり、生産量が増大する見込みである。

1-1-2. 鉛:地金生産量 ~中国で6.2%増、他国では休止製錬所が再開~
 製錬での地金生産量に関しては、対前年比4.8%増の1,113万tとなる見通しで、中国の地金生産量が同比6.2%増となることが主な要因である。欧州では、イタリアのKivcet 休止製錬所が再開されたことから、地金生産量が増加する見込みである。一方、ボリビアのKarachipampa休止製錬所でも再開が計画されているが、再開のタイミングは明らかになっていない。豪州、カザフスタン、韓国、メキシコ、米国では増産が予想されている。

1-1-3. 鉛:地金消費量 ~中国で消費増、欧州も増加に転じる~
 2013年の鉛地金消費量は、対前年比4.8%増の1,109万tと予想した。中国では4Gネットワークといった携帯電話のインフラ整備に加えて、自動車及び電動自転車(e-bike)の増産が主な原動力となり、鉛地金消費量が対前年比6.7%増となる見込みである。鉛地金消費量が減少基調にあった欧州では、2013年には例年になく寒い冬の影響で自動車の鉛蓄電池の故障件数が増加することから、対前年比1.9%の増加に転じると予想した。また米国、ブラジル、インド、インドネシア、韓国、メキシコ、タイ、トルコでも消費量の増加が見込まれる。

表1. 鉛の鉱山・地金生産及び地金消費量(単位:千t)

区分 鉛: 鉱山生産量 鉛: 地金生産量 鉛: 地金消費量
2012年
実績
2013年
予想
2012年
実績
2013年
予想
2012年
実績
2013年
予想
欧州 376 379 1,760 1,851 1,574 1,604
アフリカ 105 100 99 90 103 102
南北米 1,030 999 2,248 2,315 2,257 2,319
アジア 3,159 3,307 6,308 6,625 6,625 7,040
※(内、中国) 2,838 2,970 4,646 4,936 4,628 4,940
オセアニア 573 644 203 246 18 20
世界計 5,243 5,429 10,618 11,127 10,577 11,085

1-1-4. 鉛:世界の需給バランス ~供給過剰が継続~
 需給バランスは、2013年も継続して供給過剰となるが、過剰幅は2012年の秋季会合時の予測から下方修正し、4.2万tと予測した(表2)。

表2. 世界の鉛需給バランス(単位:千t)

区分 2010
実績
2011
実績
2012
実績
2013
予想
増減
12/11比
増減
13/12比
鉛供給合計 9,817 10,592 10,618 11,127 0.2% 4.8%
鉛消費合計 9,788 10,433 10,577 11,085 1.4% 4.8%
需給バランス 29 159 41 42

1-1-5. 鉛のLME在庫と価格 ~2013年に入りLME在庫は減少傾向~
 LMEと上海先物取引所(SHFE)の在庫量は対極的な動きを示しており、LME在庫量が2013年の初めから6万t減少しているのに対し、SHFEの在庫は同じ程度の量が増加している。これは一見すると、中国以外の国で鉛地金が不足し、中国国内では鉛地金が余剰していることを意味すると思われるが、LME倉庫にあった在庫がオフワラント(市場に対して利用可能または確認可能ではない状態)で保管されているとも推測されている。

 現在の鉛価格は、2012年の第4四半期と2013年初めに上昇したものの、過去数週間でベースメタル市場のセンチメントが弱気になったことから、価格が下がり、現時点では前年同時期より少し低い2,000US$弱で推移している。

図1. 鉛の在庫及び価格(出典:ILZSG)

図1. 鉛の在庫及び価格(出典:ILZSG)

1-2. 2013年の亜鉛需給予測(ILZSG主任予測統計官 Paul White氏による発表)
1-2-1. 亜鉛:鉱山生産量 ~アフリカ及び南米で増産、カナダは大幅減~
 2013年の鉱山生産量は、対前年比2.3%増の1,392万tと予想した。中国は対前年比4.7%増で過去数年間と比較すると緩やかな増加となる。アフリカではブルキナファソのPerkoa鉱山、インドではKayar鉱山、メキシコではValardena鉱山が生産を開始することから、それぞれの地域で増産が予想される。一方、カナダではXstrataのBrunswick及びPerseverance鉱山が埋蔵量の枯渇により閉山となる影響で同比28%の大幅減となると予測した。

1-2-2. 亜鉛:地金生産量 ~中国で大幅増産~
 2013年の製錬での亜鉛地金生産は対前年比5.2%増の1,325万tと予想し、中国で同比9.7%増となることが主因である。欧州では、イタリアのPorto Vesme製錬所が再開された影響で対前年比1.9%増となる見込みである。ペルーはLa Oroya製錬所が2012年第4四半期に操業を再開したことから増産となり、豪州、ブラジル、インド、日本、韓国、ペルーでも増産が予想される。

1-2-3. 亜鉛:地金消費量 ~中国は5.2%の増加に転じる~
 2013年の亜鉛地金消費量は、対前年比5.2%増の1,298万tと予想した。中国は2012年には消費量が減少したが、2013年は同国の中部及び西部地方におけるインフラ整備と、自動車、機械、家電製品部門での増産によって、消費量が対前年比6.8%増となる見込みである。インド、インドネシア、台湾、タイ、トルコといったアジアの他の国々でも消費量が増加すると予測した。また欧州は継続する財政難の影響で、消費量は同比1.7%増と微増にとどまる。米国は、建設活動の回復や自動車生産量の好調により、同比2.9%増となる見込みである。

表3. 亜鉛の鉱山・地金生産及び地金消費量(単位:千t)

区分 亜鉛: 鉱山生産量 亜鉛: 地金生産量 亜鉛: 地金消費量
2012年
実績
2013年
予想
2012年
実績
2013年
予想
2012年
実績
2013年
予想
欧州 1042 1067 2,414 2,460 2,353 2,393
アフリカ 301 356 165 164 152 164
南北米 3,975 3,872 1,853 1,922 1,690 1,757
アジア 6,779 7,099 7,664 8,190 7,931 8,441
※(内、中国) 4,930 5,160 4,829 5,295 5,291 5,650
オセアニア 1518 1530 501 517 213 225
世界計 13,615 13,924 12,597 13,253 12,339 12,980

1-2-4. 亜鉛:世界の需給バランス ~供給過剰が継続~
 需給バランスは、2013年も供給過剰が続き、過剰幅は27.3万tと予想した(表4)。

表4. 世界の亜鉛需給バランス (単位:千t)

区分 2010
実績
2011
実績
2012
実績
2013
予想
増減
12/11比
増減
13/12比
亜鉛供給合計 12,878 13,129 12,597 13,253 -4.1% 5.2%
亜鉛消費合計 12,638 12,765 12,339 12,980 -3.3% 5.2%
需給バランス 240 364 258 273

1-2-5. 亜鉛のLME在庫と価格 ~LME在庫、70%がニューオリンズ~
 LMEの在庫量は2012年11月から徐々に減少しているものの、現在の110万tという在庫量は歴史的にみると高い数値である。しかし、うち約70%がニューオリンズのLME倉庫に保管されており、在庫へのアクセスに関しては疑問が残る。SHFEの在庫量は2013年の初めからほぼ横ばいで推移している。

 亜鉛価格に関しては、過去6か月間は1,870 US$~2,170 US$で推移していたが、ここ2週間で急な値下がりがあり、現時点の価格は1,845 US$となっている。

図2.亜鉛の在庫及び価格(出典:ILZSG)

図2.亜鉛の在庫及び価格(出典:ILZSG)

1-3. 講演『規制の動向と米国の鉛酸蓄電池産業への影響』

(国際電池評議会、Wiley Rein and Fielding LLP、David Weinberg氏)

 国際電池評議会(BCI: Battery Council International)は、米国にある鉛酸蓄電池産業の業界団体であり、米国の鉛酸蓄電池製造会社の98%、鉛酸蓄電池のリサイクル会社の97%、及び米国でビジネスを行う多くの外国企業が加盟している。

 米国における鉛規制としては、労働安全衛生庁(OSHA:Occupational Safety and Health Administration)の規制があり、血中の鉛濃度の許容値、血液検査の頻度、大気中の鉛濃度の検査等が定められている。過去数年間で、鉛が人体にもたらす影響に関する調査や報告書が多数発表されており、2012年には米国国家毒性プログラム(National Toxicology Program)が血中における鉛濃度が低レベルの場合での成人及び子供の健康に対する悪影響に関する報告書1を発表した。このような調査結果を受けて、カリフォルニア州が2011年に鉛に関する規制を強化したが、血中の鉛濃度の許容値の設定方法や「実行可能性(feasibility)」の定義に関して課題が残っており、今後、規制内容の見直しが行われていく予定である。

 また鉛酸蓄電池のリサイクルに関しては、BCIはリサイクルの義務化に向けた活動を行っており、各州が鉛酸蓄電池のリサイクル法を定める際に見本となるような、リサイクル法のモデル2を作成した。そのモデルは既に多くの州で利用されている。

1-4. 講演『日本の鉱物資源政策とJOGMECの活動』

(JOGMEC、ロンドン事務所次長、森田健太郎氏)

 日本の鉱物資源戦略は、主に供給確保、リサイクル、代替材料の開発、備蓄の4つの分野から成り立っており、JOGMECは供給確保の面で大きな役割を担っている。金属資源開発に関してJOGMECが行っている活動には海外企業や政府機関とのJV探鉱プロジェクトの実施や出融資・債務保証による資金面でのプロジェクト支援等がある。

 日本における鉛・亜鉛の動向に関しては、需要、供給、輸出入に関して過去数年間それほど大きな変動はなく、安定していると言えるが、世界の総量に占める消費量の割合は小さい。また将来の需要の見通しとしては、「次世代自動車戦略2010」で次世代自動車の普及率を2020年には最大50%に引き上げることを目標として掲げており、自動車市場におけるイノベーションが金属の需要に影響を与える可能性がある。

2. 第24回 経済環境委員会 (12:00~13:00)

2-1. 講演『亜鉛に影響を与える規制の動向』

(国際亜鉛協会、Frank van Assche氏)

 国際海事機関(IMO)が2013年1月に海洋汚染防止を目的とする「マルポール条約」を改正し、バラ積み貨物船から「海洋環境に有害な物質」を含む残さの海洋への排出が禁止され、これは亜鉛精鉱の輸送に影響を与える問題である。有害物質を含む残さは特別な施設で処理される必要があるが、多くの港には有害物質の受け入れが可能な適切な施設が整っていないとされている。

 貨物が海洋環境に有害な物質であるかどうかを判断する義務は荷主に課せられているが、亜鉛精鉱は鉛やカドミウムを含んでいるため、通常では有害物質に分類される。そこで国際亜鉛協会(IZA)では、GHS(化学品の危険性に関する国際的な危険誘導性分類基準の1種)に基づいた高度な方法を用いて有害物質の分類システムを構築した。この分類方法を用いた場合、亜鉛精鉱は有害物質に分類されなくて済む。IZAはメンバー企業に対して、改正されたマルポール条約の実施に際し、貨物の分類や事務手続きの面でサポートを行っているほか、情報交換や話し合いの場を提供している。

2-2. 講演:『ポルトガルの旧鉱山の尾鉱に含まれる残留副産物の潜在的役割』

(ポルトガル地質・エネルギー総局、Maria Ondina Figueiredo教授)

 2010年に欧州委員会が欧州経済にとってクリティカルな14鉱種の原材料を選定したが、その中にレニウムが含まれていなかった。レニウムは供給量が大変少なく、技術的な応用の面では重要な金属である。

 ポルトガルの鉱業は歴史があり、同国には今も多くの旧鉱山が残っている。ポルトガルの地質・エネルギー総局 (DGEG:Direccao Geral de Energia e Geologia)では、旧鉱山の尾鉱に注目し、尾鉱に含まれる副産物の分析を行った。São Domingos旧鉱山や、また操業中のPanasqueira鉱山の尾鉱を分析した結果、レニウムやゲルマニウム、インジウムといった副産物に関するデータが明らかになった。鉱山の尾鉱は、残留する副産物が濃縮している部分を特定できれば、希少な原材料を採取することが可能であり、利用価値があると言える。

3. 各委員会のプロジェクト進捗報告

3-1. ILZSG統計予測委員会

  完了したプロジェクト 進行中のプロジェクト 新規プロジェクト
報告書

・ 中国における亜鉛の一次用途の調査
(2012年6月発行)

・ インド鉛市場調査
(2012年2月発行)

・ 中国の鉛酸蓄電池市場調査(2010年6月発行)

・ 中国の亜鉛リサイクル市場調査(2010年6月発行)

・ 月間統計報告書

・ 鉛・亜鉛の一次利用法に関する年次報告書

・ 中国における鉛・亜鉛鉱業の調査

その他

・ 「鉛・亜鉛市場セミナー」の実施
(2012年11月、中国・南京市)

・ 鉛・亜鉛需給調査(年2回発表)

・ リサイクル率計算法の開発(継続)

・ 地方セミナーの計画(継続)

・ ILZSGのウェブサイトの向上

 

3-2. ILZSG鉱山及び製錬所プロジェクト委員会

進行中のプロジェクト 新規のプロジェクト

・ 新規の鉛・亜鉛鉱山及び製錬所プロジェクト報告(2013年1月発行)

 

3-3. ILZSG経済環境委員会

  完了したプロジェクト 進行中のプロジェクト 新規のプロジェクト
報告書

・ ILZSGインサイト報告書
『ハイブリッド及び電気自動車が鉛需要にもたらしうる影響』(2012年7月)
『国連持続可能な開発会議(リオ+20)』 (2012年8月発行)
『鉱石及び精鉱の輸送に影響を与える新IMO規制』(2012年11月発行)
『リサイクルのための鉛酸蓄電池デザイン』
(2013年3月発行)

・ 3研究会合同プロジェクト、鉛・亜鉛の副産物に関する調査(2012年6月発行)

・ ILZSGインサイト報告書(継続)

・ ”Metals Despatch”ニュースレター(継続)

・ 3研究会合同プロジェクト、財政上の優遇政策に関する調査

・ 3研究会合同プロジェクト、鉛・亜鉛の副産物に関する追加調査

・ 鉱業プロジェクトの開発に付随するリスク要因の調査

その他  

・ ILZSGのウェブサイトの向上

・ 製品スチュワードシップGreen Lead Initiativesへの協力

・ CFCプロジェクト
『インドでの亜鉛ダイカストに関するプロジェクト』
『マラウィにおける空気亜鉛電池の利用』(継続)
『マラウィでのIZAによる亜鉛含有肥料促進プロジェクト』(継続)
『インドにおける溶融亜鉛めっきのプロジェクト』(継続)
『セネガルでの使用済み鉛蓄電池の回収プロジェクト』(継続)

 

4. 2013年秋季会合について

 国際非鉄研究会の2013年秋季会合は、2013年9月30日~10月4日にポルトガルのリスボンにて開催される予定である。

 < 2013年秋季の国際非鉄金属3研究会の日程 >
  9月30日: 国際銅研究会(ICSG)、国際ニッケル研究会(INSG)
  10月1日: 国際銅研究会(ICSG)、国際ニッケル研究会(INSG)
  10月2日午前: 国際ニッケル研究会(INSG)

午後: 3研究会合同セミナー、『銅、ニッケル、鉛・亜鉛の副産物』

  10月2~4日: 国際鉛亜鉛研究会(ILZSG)


1 http://ntp.niehs.nih.gov/NTP/ohat/Lead/Final/MonographHealthEffectsLowLevelLead_Final_508.pdf

2 http://c.ymcdn.com/sites/batterycouncil.org/resource/resmgr/Docs/BCIMODEL.pdf

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