報告書&レポート
WTO、欧州委員会及びOECDの取り組みに見る鉱物資源の国際貿易政策―2015年春季国際非鉄3研究会合同セミナー参加報告―

本稿では、2015年4月にリスボンにて開催された国際非鉄研究会の春季定期会合のなかから、22日午後に行われた3研究会(ICSG、INSG、ILZSG)合同セミナーの模様を報告する。今回の合同セミナーは、「国際貿易政策の枠組みと国家のアプローチ」、「鉱業金属関連の貿易問題」という2本柱で構成され、WTO、欧州委員会、OECD、Cochilco、欧州銅協会(European Copper Institute、以下ECIとする)らから7つの発表があった。今回はこのうち「国際貿易政策の枠組みと国家のアプローチ」から3つの講演を紹介する。 |
1. 世界貿易機構の貿易政策形成と金属鉱業関連の政策事例
Mr Cosimo Beverelli
1.1 貿易構造と政策手段
天然資源には比較的短期に再生可能な資源(例:林業・漁業)とそうでない資源(例:化石燃料・鉱物)があり、その枯渇性や遍在性、採掘・消費活動から、後者は貿易や生産の独占につながる場合がある。このため、後者の商品の価格変動への影響は大きい。
天然資源の貿易構造としては、遍在する天然資源を取引するという外的要因に起因する貿易が主であるが、条件的に自国内よりも「採りやすい」外の資源を利用するという内的要因が作用する構造もある。現にOECD加盟国の地下には平均で、1平方メートルあたり11万4,000 US$相当の地下資源が眠っているといわれるのに対し、資源国と言われるアフリカの地下資源は平均で、1平方メートルあたり2万3,000 US$程度である。
天然資源貿易の政策手段には、主に①輸出関税や割当・禁止、②最恵国待遇、③非関税障壁、④国内での消費税や補助金の4つがある。資源貿易政策においては、生産国における国内政策(例:生産抑制策)が輸出に影響するなど、国内政策と貿易政策の境界があいまいとなる傾向がある。また、輸入規制よりも輸出規制の方が適用される傾向にあり、現在確認される輸出規制のうち、35 %が天然資源関連である。
輸入関税による貿易保護は再生可能資源に用いられることが多く、鉱物資源への適用は一般的ではない。ただし鉱物資源の加工度合いによって輸入関税が上昇することがわかっている。例えば原材料にかかる輸入関税は全加盟国平均で5.8 %であるのに対し、半製品には平均11.3 %が課税されている。
一方で天然資源の生産国が輸出税を適用する確率は、世界貿易全体の輸出規制適用率と比べて倍である1。なかでも、鉄鋼や銅にかかる関税はほかの鉱種より高く、より頻繁に関税の上昇が確認されている。輸出税や他の輸出規制が度重なると、その回避策として海外直接投資2が用いられる傾向もある。輸出規制の背景には、国内産業の保護を主眼とした貿易条件の改善による利益確保、下流産業支援、生産移転支援、輸出製品の多様化、環境保護対策、資源保護対策などの目的がある。近年の資源国の動向として、商品の付加価値化を名目に原材料の輸出関税を高くし、半製品の輸出税を低く設定することで国内への加工産業の移転を促進しようとする動きが目立つ。ただし、世界で唯一の商品輸出国でない限り、輸出規制を導入してもその効果が認められないことが統計的にわかっている。
1.2 WTOの関税貿易一般協定に基づく輸出規制への対応
輸出関税の賦課に関しては、『関税及び貿易に関する一般協定(General Agreement on Tariffs and Trade、以下GATTとする)』の第11条、第20条で規定されている。
GATT第11条は、数量制限の一般的廃止を規定したもので、非関税障壁による輸入規制を禁止し、関税、税金およびその他課徴金以外の輸出規制を禁じている。ただしその例外規定も設けており、同条2項(a)3においては、「輸出の禁止又は制限で、食糧その他輸出締約国にとつて不可欠の産品の危機的な不足を防止し、又は緩和するために一時的に課するもの」(下線は筆者)については認められることになっている。この規定がGATTおよびWTO関係の争議で尋問された経緯はこれまでにない。
GATT第20条では貿易規制導入の一般的例外を定めており、加盟諸国間で「任意の若しくは正当と認められない差別待遇の手段となるような方法」又は「国際貿易の偽装された制限となるような方法」で適用しない限り、貿易規制の導入を妨げていない。例外の中でも天然資源関連の貿易規制を規定するものとして主に適用されるのは、以下の3つの項目である(以下、GATT条文より該当箇所を抜粋、下線は筆者)。
(b) 人、動物又は植物の生命又は健康の保護のために必要な措置
(g) 有限天然資源の保存に関する措置。ただし、この措置が国内の生産又は消費に対する制限と関連して実施される場合に限る。
(i) 国内原材料の価格が政府の安定計画の一部として国際価格より低位に保たれている期間中、国内の加工業に対してその原材料の不可欠の数量を確保するために必要な国内原材料の輸出に制限を課する措置。ただし、この制限は、国内産業の産品の輸出を増加するように、又は国内産業に与えられる保護を増大するように運用してはならず、また、無差別待遇に関するこの協定の規定から逸脱してはならない。
天然資源の貿易規制に関しては、導入の際に以上の規定に沿った措置であるかどうかが争議上の焦点となる。まさにこの点が争われた最近の輸出規制争議について、WTO争議の2事例を次に紹介する。
1.3 中国原材料訴訟(WTOケース番号:DS394、Ds395、Ds3984)
本訴訟は、ボーキサイト、コークス、蛍石、マグネシウム、マンガン、炭化ケイ素、金属シリコン、黄リン、亜鉛の9品目を対象に中国が輸出税・割当・輸出最低額の設定・輸出許可取得の条件化といった輸出規制をかけたことに対し、2009年6月に米国・欧州が、続いて8月にはメキシコがWTOに協議を要請したのが発端となった。その後協議は不調に終わり、2010年3月に本件に関するWTO紛争処理委員会(以下、パネルとする)が提出した審査報告書にも中国側が不服を申し立てて上訴となったため、最終的に2012年1月に上級員会部会による最終報告で決着した。
原告側は、同輸出規制が世界市場における原材料価格の高騰を招き、中国国内事業者の安定的かつ安価な原材料確保に有利に働いたと主張したのに対し、中国側はGATT第20条(b)を盾に、市民の健康を守るための輸出規制であると主張したが、上級委員会は輸出規制の導入が短期・長期的に汚染防止につながらず、人民の健康を向上するとはいえないと判断。さらに同条(g)を基に天然資源の保全を主張した中国側に対して、上級委員会は原材料の国内生産状況や消費政策を考慮し、輸出規制を導入しても原材料の資源保護に結びつかないとしてこの主張を退けた。
1.4 中国レアアース訴訟5(WTOケース番号:DS431、DS432、DS4336)
米国、欧州、日本を原告とする2012年3月の協議要請に端を発する本訴訟では、レアアース、モリブデン、タングステンの3品目を対象に、中国側が輸出税・割当・最低資本金及び輸出実績要求等の貿易権の制限といった輸出規制を設けたことにより、中国国内の下流産業による商品製造用の原材料確保に有利となった可能性が争点となった。本件もパネルの審査報告書を不服とする中国側が上訴したことから、最終的に2014年8月の上級委員会の報告で決着している。
中国側は、本件についてもGATT第20条(b)に基づき市民の健康を守るための輸出規制であると主張したが、上級委員会は「中国側が仮に人民の健康保護を目的とした輸出規制を設けることができたとしても、この関税は、同条(b)の求める『人、動物又は植物の生命又は健康の保護のために必要な措置』ではない」と判断し、中国の輸出規制賦課がWTO加盟国の義務と矛盾していると指摘した。また、同条(g)に基づき天然資源の保護を主張する中国側に対して、上級委員会は「同国の輸出割当は、天然資源の保護ではなく国内産業の政策目標である」と判断。さらに同条(g)後半で定める規定との兼ね合いで、国内産業に対するレアアース、タングステン、モリブデンの使用制限対策が同時に実施されていないことから、輸出割当政策には整合性がないとして、中国側の輸出規制は国内採掘活動を促進し、国内製造業者による原材料使用を優遇するための措置であったと結論付けた。
2. 欧州の鉱業・金属に関する貿易政策
2.1 原材料と貿易の世界動向
世界貿易に占める原材料取引は、2013年時点で全体の33 %であった。2003年から2012年の10年間で、世界貿易全体の年間成長率は8 %であったのに対し、原材料の年間輸入成長率は15 %となり、原材料需要の伸びが顕著であった。産業用原材料の最大の輸入国は中国で、全輸入の24 %を占め、続いて欧州が16 %、米国が10 %を占めた。
原材料の貿易を可能とするのは資源の偏在性であるが、新興国の成長に伴う世界的な需要増を背景に、原材料の安定供給確保は各国経済の懸案事項である。グローバル・バリュー・チェーンが機能するためには自由な取引市場が必須であるが、貿易障壁は増加傾向にあり、世界市場にゆがみが生じている。このことから欧州委員会では、リーマンショックのあった2008年から貿易障壁の世界動向を調査した。この結果、世界貿易は2012年以降3 %程度の成長を見せ回復傾向が確認されているが、貿易制限策の導入も増加傾向にあり、2013年と2014年には25 %の制限増加が確認されている。例えば、この年に貿易制限が撤廃された例はたったの12例であるのに対し、毎月新たに12例の規制導入が行われたことがわかっている。貿易制限のうち39 %は輸出制限で、急増傾向にあるといってよい。
資源国における輸出規制は、資源保護や国内産業保護を目的に導入される傾向にあるが、有効だった例は稀に見る程度である。輸出規制導入国が相当な市場競争力を持たない限り、往々にして第三国からの資源確保を促進するか、代替品の台頭を招くことになるからである。ただし、歳入増加や付加価値税制度の構築を目指す場合や、市場構造の機能改善を目的に下流産業の構造的な育成を行う場合、さらに天然資源の保全や生産対策を目指す場合などには、的を絞って導入すれば、排他的な政策に陥らない輸出制限政策もありうる。
2.2 EUの対応
貿易制限の壁を乗り越えて世界市場を機能させ、環境に配慮した開発を継続するためには、世界共通のアプローチが重要となる。
欧州の原材料戦略の中心をなすのは、2008年11月に採択された「原材料イニシアティブ(RMI)」および2011年に策定された「コモディティ市場と原材料に関する課題への対応("TACKLING THE CHALLENGES IN COMMODITY MARKETS AND ON RAW MATERIALS")7」で、確実で歪みのない原材料へのアクセスの確保を目的とする。欧州域内においては効率性とリサイクルの向上を、そして域外に対しては滞りのない貿易の流れを確保することを目標としている。
欧州の貿易原材料施策は欧州限定の権限であるが、欧州政策の統一性を確保し、環境と開発の優先順位を考慮しながら多角的なアプローチで実施している。このアプローチには大きく分けて3つあり、①法規の交渉、②障壁への対応、③対話による働きかけを用いている。
2.2.1 法規の交渉(Negotiation of Disciplines)
EUでは、貿易規制に関する法規の交渉においては、税制・許可制度・割当・禁止といった輸出規制政策の導入がある際、WTOのGATT第11条に基づく8施策であるかどうかを見極め、欧州の戦略に応じて輸出制限の完全あるいは部分的な撤廃を求める交渉を実施している。多国間においてはWTO加盟合意における特定の責務を果たすとともに、二国間においては自由貿易協定やパートナーシップ、協定の締結に努めている。
多国間協議の成果として、これまでに中国・ロシア・タジキスタン・アフガニスタンと輸出関税について合意しており、現在もカザフスタン・アゼルバイジャンとの交渉を継続している。二国間協議の成果としては、メキシコ・チリ・韓国・コロンビア・ペルー・中米統合機構(SICA)・シンガポール・ウクライナ・カナダ・南部アフリカ開発共同体・西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)および東アフリカ共同体との交渉が合意に達した。なお現在も米国・ベトナム・MERCOSUR・インド・マレーシア・タイ・東アフリカ・中央アフリカと交渉を実施中である。アフリカ諸国とは、例外を認めながら輸出規制のかけ方について対話を行っているほか、ベトナムとは輸出関税の減税、撤廃について話し合いを設けている。
2.2.2 障壁への対応(Tackling of barriers)
欧州では、貿易障壁のモニタリングを実施しており、その一環として輸出制限インベントリを作成しているほか、保護貿易主義に関する報告書として「貿易投資障壁報告書」を発行している9。また貿易障壁の排除に向けて、市場アクセス戦略に基づきWTOの貿易政策検討(Trade Policy Review:TPR)を通して「周囲の圧力(Peer Pressure)」を行使している。またWTOや二国間での訴訟を通して、法規の適切な執行を促している。ただし、訴訟はすべての交渉が失敗したときの最終手段である。なお最近の事例は前述1.3及び1.4の通り。また、障壁への対応として近年欧州が行った介入事例として、インドネシアの鉱物資源禁輸、南ア及びトルコにおける金属スクラップの輸出許可に関する対応が挙げられる。
2.2.3 対話と働き掛け(Dialogue and Outreach)
対話については、日本、米国、中国、インドといった主要なパートナーとの対話を重視している。また、世界共通の原材料戦略を確立するために、WTOやOECD、G20との戦略的協力関係を特に重視して活動を行っている。WTOとは多国間対応策の開発に向けたフォーラムを設け、OECDについては、経済政策分析やベストプラクティスの蓄積を通して事実関係の収集を行うフォーラムを設けている。また、G20に関しては、世界的な議題の中に原材料を位置付けるよう働きかけを継続中である。
2.3 欧州の輸出規制対策の効果と今後の課題
上記のとおり、原材料に関する欧州の貿易戦略は確実に機能している。しかし、資源ナショナリズムが高揚する昨今、原材料貿易における透明性の高い予測可能な枠組みを構築するために、第3国との協働が非常に重要になってきた。世界的なプラットフォームの構築が求められていると考える。欧州では今後も貿易政策を通して、既存あるいは新規の輸出規制への対策に取り組む予定である。
3. 産業用原材料貿易における輸出規制:OECD調査報告
Ms Barbara Fliess
OECDでは2009年から世界的な輸出規制動向を調査している。本調査では、導入国が掲げる目的を明らかにしてその効果測定を実施し、代替政策の提案と輸出規制の削減に向けた提言を行って、政策対話に資することを目的としている。対象鉱種は鉱石と半製品、スクラップを含む73種目で、生産国の上位5か国を中心に100ヶ国余りを調査対象とした。
図 1に示す通り、世界の輸出制限は上昇傾向にあり、2012年時点で約2,000件の輸出制限が存在する。このうち半数以上が2009年以降に導入され、このうち466件については2012年に導入されたものである。
輸出規制導入の政策目的として、歳入増加・天然資源の保全・輸出活動(違法を含む)の制限・環境保全及び健康対策保健・国内供給の保護・処理産業の振興が挙げられる。しかし上記の課題は、ほとんどが市場の失敗に起因するものであって貿易由来ではないため、輸出規制の導入が最適な対策とは言い難く、顧客離れを招くなど適用国にもたらすメリットは小さい。逆に輸出規制に頼らない他の政策手段を用いたほうが効率は良い。その事例として、OECDがチリやボツワナ、コロンビア、ペルーを対象に実施した採取産業規制と管理手法の調査結果から、政策課題別に有効な代替政策手段について次に紹介する。
3.1 政府の歳入増加を促す政策手段
歳入増加を目指した輸出関税は、導入こそ比較的容易であるとはいえ、輸出業界に悪影響があり、貿易と生産レベルの低下につながり有効ではない。歳入も予測を下回ることが多く、税収への効果はわずかである。
これに代わる政策として有効なのが、採取産業を対象としたロイヤルティまたは利益税の導入で、ボツワナ、チリ、コロンビア、ペルーで効果が認められている。ただし統治能力が制度導入の成功を左右する。
3.2 天然資源の保全を促す政策手段
環境を保全するために国内生産の抑制を目的として輸出規制を導入した場合、その効果は不明確である。代わりに希少資源の総生産量を管理する政策がより効率的といえる。生産あるいは消費の時点で課税または環境規制を導入するとよい。
例えば、2007年に中国がモリブデンの輸出規制を行った際には、逆に国内でのモリブデン販売量が増えた。一方チリでは、輸出規制の代わりに鉱山操業者に対して営業利益に課税する鉱業特別税(ロイヤルティ)を導入し、効果を上げた例がある。
3.3 高付加価値化と輸出の多角化を促す政策手段
OECDでは、南アのNorth-West大学と共同で、アフリカで自国の加工産業の振興を目指して輸出規制を導入した国を対象に、輸出規制の効果実証調査を実施した。調査対象は、ガボンのマンガン、ギニアのアルミニウム、南アの鉛、ザンビアの銅、ジンバブエのクロム鉱石に関する輸出規制である。
調査の結果、原材料鉱物に対する輸出税やその他の規制によって国内下流産業の世界市場における競争力が高まる効果は認められなかった。豊富な資源と採取産業の競争力が下流産業活動に有利に働くとは言えず、産業の競争力を下支えするインフラや、水資源、電力、そして技術力の有無が不可欠な要素であることが明らかとなった。下流産業の振興を目指すよりも、チリや豪州、ノルウェーのように、サービス業または鉱業の周辺産業に注力するという手段もある。
3.4 輸出規制撤廃の効果
OECDでは、鉄鋼向け原材料(ニッケル及び亜鉛)に関する従価輸出税の完全撤廃がもたらす効果を測定するため、計算可能一般均衡貿易モデル(CGE Trade Model)を用いてモデルシュミレーションを実施した。この結果、鉄鋼系商品を輸出した場合、国内販売と比較して利益増となる予測となった。また、世界市場への供給が促進されて価格低下が起こり、下流産業の原料調達に競争性が働くうえ、新たな調達先という選択肢をもたらすと予測される。輸入国も低価格の恩恵を受け、世界供給の拡張につながる。鉄鋼メーカー、機械製造、消費財メーカーなどの下流産業では、販売利益の向上が見込まれる。
調査の結果、輸出関税を撤廃すると、上流・下流産業に効率改善益をもたらす効果があることが分かった。下流産業においては特に効果が顕著である。鉄鋼原料と鉄鋼に係る輸出関税を導入している国でこの関税を撤廃すると、鉄鋼製造業者にとっても国家にとっても効果があるという結果となった。
4. おわりに
インドネシアのニッケルやボーキサイト、中国のレアアースなど、資源ナショナリズムの高揚で鉱物資源の需給に地政学的な影響が増大しているなか、今回紹介したWTOと欧州による講演は、資源貿易の公平性という観点から輸入国がとりうる姿勢を再考するうえで、管轄機関の担当者から直接報告を受けられる貴重な機会となった。中国のレアアース訴訟については日本も原告であったが、「周囲の圧力」という資源外交手腕を世界的な協力体制のもと恐れずに発揮していくEUの姿勢が非常に明確で印象に残った。資源保有国が資源消費国となって経済成長を目指すうえで、資源ナショナリズムが高揚する傾向は今後も続くと考えられ、資源獲得競争は鉱物資源の世界でも厳しさを増す一方である。このような時世にあるからこそ、透明性の高い資源貿易を促進するために資源輸入国同士の協調を求めるEUの呼びかけが、より切実に響いたように思う。
- 世界貿易全体の輸出関税平均適用率が5%であるのに対し、天然資源取引においては世界貿易の11 %が輸出関税対象。
- WTO(2010) D.Trade policy and natural resources,(p117, Box16)’a case of "Export restriction-jumping" FDI?'(輸出規制回避型海外直接投資の事例)
- 経済産業省ホームページ「関税及び貿易に関する一般協定」より抜粋。
- WTOパネル及び上級委員会部会最終報告書の文書番号、上級員会部会の最終報告書「CHINA – MEASURES RELATED TO THE EXPORTATION OF VARIOUS RAW MATERIALS, AB-2011-5, Reports of the Appellate Body」参照。
- 本件の経緯については、経済産業省ニュースリリース「中国のレアアース等原材料3品目に関する輸出規制がWTO協定違反と確定しました」を参照。
- WTO部会の最終報告書「CHINA – MEASURES RELATED TO THE EXPORTATION OF RARE EARTHS, TUNGSTEN, AND MOLYBDENUM, AB-2014-3, AB-2014-5, AB-2014-6, Reports of the Appellate Body」参照。
- JOGMECカレント・トピックス2011年09号「EU委員会からの新しいコミュニケーション『コモディティ市場と原材料に関する課題への対応』("TACKLING THE CHALLENGES IN COMMODITY MARKETS AND ON RAW MATERIALS")」参照。
- 第11条第2項(a)、第20条を除く。
- 貿易投資障壁報告書 2015「REPORT FROM THE COMMISSION TO THE EUROPEAN COUNCIL Trade and Investment Barriers Report 2015 (3月17日発行)」参照。
- OECD報告書「Export Restrictions in Raw Materials Trade: Facts, Fallacies and Better Practices」p23より。
(注記) 本セミナーは、国際非鉄3研究会(INSG、ICSG、ILZSG)が合同で開催するもので、毎回各研究会共通の関心事をテーマに、講演と議論が進められる。毎年春(概ね4月)と秋(10月)の2回開催される。次回は「南米における鉱山と金属の動向:現状と将来の展望」をテーマに、2015年10月7日にポルトガルのリスボンで開催される予定である。
