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報告書&レポート

2017年5月23日 調査部 金属資源調査課 小嶋吉広
17-09号

アジアのインフラニーズと中国の取り組み(2)―AIIB、中国輸銀等によるインフラ整備の取り組み―

はじめに

前回報告(https://mric.jogmec.go.jp/reports/6419/)では、アジア開発銀行(ADB)によるアジアのインフラニーズに係る分析レポートの内容を紹介し、例えば国別に見た場合、インフラ資金ニーズ(2030年まで)の58%は中国での資金需要であり、またセクター別では電力セクターが56%を占めることを報告した。併せて、中国での都市インフラや「先進国レベル」の質の高いインフラ整備の必要性についても考察を行った。ADBによれば現状のインフラ投資資金のうち、世銀やADB等既存の国際金融機関により賄われている投資額は約2.5%に過ぎず、資金ギャップを埋めるためにはPPP(Public Private Partnership)やLand Value Capture等の新たな資金調達方法の活用をADBは提言している。

今回は、このような資金ギャップの一部を今後補完する可能性があるAIIB(アジアインフラ投資銀行)や新開発銀行(NDB:New Development Bank、BRICS銀行とも呼ばれている)等新たな国際開発金融機関の資金支援動向について報告する。また、これら中国主導で設立された国際開発金融機関に加え、中国の既存の政策金融機関である中国輸出入銀行と国家開発銀行も一帯一路政策の具体化に向け、アジア・アフリカでの資金支援を拡大させていることから、各機関のアニュアルレポート等の公表情報に基づき現状を報告する。図1に各機関の位置づけを示す。

図1.中国の対外経済協力実施体制

図1.中国の対外経済協力実施体制
出典:財務総合政策研究所 中国研究会資料「中国の対外援助」(北野尚宏JICA 研究所長講演)より引用

1.新たな国際金融機関を通じたインフラ整備の取り組み

近年新たに設立されたAIBB、新開発銀行及びシルクロード基金は、既存の国際金融機関(世銀やADB等)を今後補完し、新興国や途上国のニーズにあった資金供与を行う機関として注目されている1。各機関の概要を表1に示す。

表1.中国主導により設立された国際開発金融機関

表1.中国主導により設立された国際開発金融機関

出典:各種資料を基にJOGMEC作成

本稿ではまず、これら3機関の設立以降の供与案件を報告する。

1.1 AIIB

AIIBの承認済み案件と承認予定案件を表2、3に示す。2015年12月の業務開始以降、これまでに9件の案件を承認した(2017年3月現在)。うち6件は世銀等他の国際機関との協調融資案件であった。この背景としてAIIBはADBに比べ人材が極端に不足しており(表4参照)、既存の国際金融機関との協調融資を行うことで融資や案件監理のノウハウを吸収し、キャッチアップを図っていると推察される。2017年3月の報道ではAIIBの加盟国数は70カ国となり、アジア開発銀行(67カ国)を超えた。

 

AIIBのProcurement Policyによれば、コントラクターの選定は国際競争入札を原則とすると規定されているが2、現在のところ表2に掲げる承認済み案件の入札公示は掲載されていない。また米国議会調査局のレポートによれば3、非加盟国企業が入札する場合の手続きに係る規定が現在のAIIBのProcurement Policyでは不明確である点を課題として指摘されている。

セクター別に見ると(図2)、電力セクターが承認額全体の34%を占める最大セクターとなり、運輸、エネルギーが続いている。

地域的には南アジアや中央アジアが多く、これまでの最大承認案件は2016年12月に承認されたアゼルバイジャンでの天然ガスパイプラインプロジェクト(TANAP)で、融資金額は600百万US$であった。

2017年4月、AIIBと世界銀行は協力強化に向け知識共有や人材交流等の枠組みで合意したことを発表した。

表2.AIIBの承認済み案件

表2.AIIBの承認済み案件

出典:AIIBウェブサイト

 

表3.AIIBの承認予定案件

表3.AIIBの承認予定案件

出典:AIIBウェブサイト

 

表4.AIIBとADBの組織概要

表4.AIIBとADBの組織概要

出典:報道情報等を基にJOGMEC作成

図2.AIIB供与案件のセクター別内訳(承認済み・承認予定案件)

図2.AIIB供与案件のセクター別内訳(承認済み・承認予定案件)

1.2 新開発銀行(NDB:New Development Bank)

新開発銀行の供与案件を表5に示す。これまで(2017年3月時点)の供与額は約15億US$であり、水力・太陽光などの再生可能エネルギー案件が多いのが特徴である。太陽光発電と風力発電に関しては、近年、中国政府は国内でのクリーンエネルギー普及を推進しており、資機材の受注において中国が比較的国際競争力を有する分野である。

NDB は2017年4月1日、年次総会をニューデリーで開催し、2017年の供与案件数は15件程度、供与額は約25億~30億US$になる見込みと発表した。また資金調達の方法として、2016年より行っている人民元建て債に加え、2017年はインドルピー建て債券の発行も計画し、成長著しいインド資金の取り込みを検討している模様である。

表5.NDBの承認済み案件

表5.NDBの承認済み案件

出典:NDBウェブサイト

1.3 シルクロード基金

AIIBやNDBが国際機関であるのに対し、シルクロード基金は完全に中国国内の組織(ファンド)である。このため、案件の選定において中国の意向を直接に反映させ、戦略的な運営が可能である。また、コントラクターを選定する際も国際競争入札等を行う必要がなく、中国企業への裨益効果を極大化できる。同基金の供与案件を表6に示す。同基金のこれまでの累計供与額は約50億US$に上り、AIIBやNDBの実績額を凌駕している。また、各案件の規模も10億~20億US$と巨大プロジェクトが多く、AIIBの各案件の平均額(約1.6億US)を一桁上回る規模である。地域としてはロシアや中央アジア向け案件が多い。

表6.シルクロード基金の承認済み案件

表6.シルクロード基金の承認済み案件

出典:シルクロード基金ウェブサイト他報道情報

2.既存の政策金融機関

中国の政策金融機関である中国輸出入銀行と国家開発銀行は、両行とも個別供与案件の詳細情報を開示していないため仔細に把握することは困難であるが、米国輸出入銀行が米国議会に提出した分析レポートによれば、2015事業年度の各国輸出信用機関による供与額は中国が510億US$と最も多い(図3)。中国は2位のドイツ(159億US$)の約3倍、米国(58億US$)の8倍以上の供与規模を誇り、供与額の面で他国を圧倒的している。日本(JBICとNEXI)は44億US$であった。

表6.シルクロード基金の承認済み案件

出典:米国輸出入銀行「2015 Exim Competition Report」

図3.各国の公的輸出信用機関(ECA)による供与額(2015事業年度)

2.1 中国輸出入銀行

アニュアルレポート(2015)によれば、2015 年度の融資額は1.08 兆人民元(約1,733 億US$)、新規融資契約額は10 億US$、2015 年度末融資残高は2.1 兆人民元(約3,450 億US$)であった。各融資事業の年度末融資残高を図4 に示す。融資残高において最も多いのが①対外貿易貸付の輸入貸付であり(約826 億US$)、主に中国企業による資源の輸入に際し適用されていると考えられる。海外投資金貸付のうち資源開発貸付(Loans for the Exploitation of Overseas Resources)は、対前年比2%増の104 億US$であった。国際協力貸付は、外国政府に対する貸付の他、海外で事業を請け負う中国企業にも貸付けられ(Loans for Overseas Contracting)、その規模は2015 年では767 億US$と上述の輸入貸付に次ぐ規模であった。

出典:「Meeting Asia’s Infrastructure Needs」よりJOGMEC 作成<br>図6.2030 年までに必要なインフラ投資額の国別内訳(ベースライン予測)

出典:中国輸出入銀行アニュアルレポート(2015)

図4.2015 年度末の各事業融資残高(単位:億US$)

アニュアルレポート(2015 年)や報道情報に基づく最近の主要案件は以下のとおり。

  • Qasim 港石炭焚き火力発電所建設(パキスタン)
    SPCには中国電力が51%出資。東方電気有限公司がEPC受注。発電能力1,320㎿(660㎿×2機)。総事業費21億US$。2018年に完成予定。
  • Sirajganj コンバインド火力発電所建設(バングラデシュ)
    中国機械輸出入総公司(China National Machinery Import   Export Corporation)がEPC受注。
  • Adama 風力発電所プロジェクト(エチオピア)
    中国企業が元請で参入した初の海外風力発電プロジェクト。中国の重電メーカーSanがEPCを受注。発電能力153㎿。首都アジスアベバの電力需要の20%を賄う。

Sirajganjコンバインド火力発電所

Sirajganjコンバインド火力発電所

Adama風力発電所

Adama風力発電所

2.2 国家開発銀行

アニュアルレポート(2015年)によれば、一帯一路政策に関連する融資額は149億US$であり、海外での高速鉄道や原子力発電所建設に融資を行ったとのこと。アニュアルレポートに掲載されている既往案件を以下紹介する。

  • コロンボ港南コンテナターミナル改良事業(スリランカ)
    スリランカはいわゆる「真珠の首飾り」戦略の要衝に位置し、中国にとって地政学的に重要な意味を持つ。また物流面でもインド洋におけるハブ港であり、インドの港が水深10m前後であるのに対し、本プロジェクトの南コンテナターミナルは水深が18mあるので、大型コンテナ船の接岸が可能である4。工事は中国交通建設集団(中央政府直轄の国有企業)が請け負い、建設資金(14.3億US$)のうち国家開発銀行が3.3億US$を信用供与5

コロンボ港南コンテナターミナル

コロンボ港南コンテナターミナル

  • 電気機関車調達(南ア)
    世界最大の鉄道車両メーカー中国中車有限公司が電気機関車591 台をTransnet(南ア国営運輸公社)へ納入。Transnet による調達費用のうち25 億US$を信用供与。
  • 製油所建設(カザフスタン)
    80万t/年の精製能力を有するZhongdad製油所を建設。陝西煤業化工集団(Shaanxi Coal and Chemical Industry)による建設投資額4.3億US$のうち3億US$の信用供与。

南アTransnet への機関車納入

南アTransnet への機関車納入

Zhongdad 製油所

Zhongdad 製油所

今回のまとめ

これら中国によるインフラ整備等の経済協力は、相手国との友好関係強化だけでなく、中国企業の海外展開支援、中国製資機材の輸出促進等の裨益効果をもたらす。また特に機械やプラント等の輸出案件の場合、中国の工業標準や基準を途上国へ普及させることにも役立ち、運転開始後のメンテナンス需要や運転技術等の研修を通じた技術協力の推進といった効果も期待でき、将来における中国企業の進出基盤整備・環境整備にも役立つ。上述の米国議会調査局のレポートにおいても、中国によるAIIBの融資を通じた、中央アジアや南アジア諸国との経済連携の取り組みは、中国国内の余剰生産能力の問題を緩和する効果が期待され一考に値する(worth considering)と報告されている6

ベースメタル需要の観点では、アジア地域の経済成長が促進され、将来的に都市化に伴うベースメタル需要の開拓・喚起に繋がることも期待できよう。第3回では、インフラ整備とベースメタル需要との関係について、中国の電力インフラと銅消費を例について考察を行う。

1 シルクロード基金は、中国国内に設置されたファンドであるので厳密には国際機関ではないが、一帯一路政策に関連する新たな資金供給機関という整理でAIIB、NDBと同じ分類とした。

2 AIIBのProcurement Policyは以下のサイトからダウンロード可能。
https://www.aiib.org/en/policies-strategies/operational-policies/procurement-policy.html

3 US Congressional Research Service発行の以下レポート参照。
https://fas.org/sgp/crs/row/R44754.pdf

4 https://www.jbic.go.jp/wp-content/uploads/reference_ja/2016/09/50536/20160916_SeriesMacro.pdf

5 Heritage Foundationによるオープンデータベース「China Global Investment Tracker」の情報を参照。

6 US Congressional Research Service発行の以下レポートのP17。
https://fas.org/sgp/crs/row/R44754.pdf

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