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報告書&レポート

2018年12月21日 ワシントン 事務所 石田滋陽
18-29

DRコンゴにおける紛争鉱物としての金

<ワシントン事務所 石田滋陽 報告>

はじめに

2018年10月、The Sentryが、DRコンゴ(コンゴ民主共和国)における金の紛争鉱物問題を調査したレポート「The Golden Laundromat -The Conflict Gold Trade from Eastern Congo to the United States and Europe-」を発表した。The Sentryは、アフリカ紛争地帯の平和及び残虐行為の終結を支援する非営利組織Enough Projectのイニシアティブである。併せて、同月24日、Atlantic Council(大西洋評議会)が、「Congo’s Conflict Gold Trade: Recent Findings and Recommendations for the Future」と題したパネルディスカッションを開催し、DRコンゴの金を巡る問題を議論した。これらの内容について、報告する。

1.本レポート要旨

(1)調査内容

DRコンゴ東部で違法採掘された金は、ベルギー実力者のAlain Goetz氏が支配する企業ネットワークが、ウガンダのAGR(African Gold Refinery)1から密輸し、複数の企業を介して欧米に流入しており、Amazon、GEなども含まれている可能性がある。国連によれば、紛争鉱物となっている金がDRコンゴ東部の武装勢力の最大の資金源となっており、毎年3~6億US$相当の金がDRコンゴから密輸されている模様。

2017年にはAGRは3.77億US$の金を、ベルギー金精錬会社Tony Goetz NV2のドバイ子会社に輸出した模様。Tony Goetz NVは2017年のResponsible Minerals Initiativeの監査を受けていないが、米国の上場企業283社が、自社サプライチェーンの中に含まれている可能性がある企業として同社を挙げている。AGRについても、GEやハリバートンを含む米国の上場企業103社が、同様に自社サプライチェーンの中に含まれている可能性を言及している。

2017年にウガンダから公式に輸出された金の99%がAGRを経由している。国連の専門家グループによれば、ウガンダはDRコンゴで違法採掘された金の主要中継拠点であり、近年はルワンダを経由するケースも増えている。DRコンゴで密輸に関与している2社は、金をDRコンゴ東部からAGR等へ違法に輸送していることを認めており、また地元の貿易企業4社は、金の不正取引会社であるBuganda Bagalwa社及びMange Namuhanda社が2017年にAGRに金を供給したと述べている。それに対してAGRは、Bagalwa社やNamuhanda社からの金の受入れを否定している。

かかるネットワークは、国際サプライチェーン・デューデリジェンス・ガイドラインにも国際資金洗浄対策セーフガードにも違反しているものと見受けられる。結果として、数百の米国上場企業が紛争鉱物に該当する金を購入するリスクに晒されている。

AGRは、DRコンゴの金を受け入れていると認めており、また認証のない金も受け入れているものの、それは中古の宝飾品や他のスクラップからであると主張している。しかしながら紛争鉱物に該当する金の中継地点と判明している国からのスクラップ受入は、紛争地域からの金と混合されて抜け穴となり得るため、国際デューデリジェンス・ガイドラインにおいて赤旗(red flag)、即ち警告の対象である。

DRコンゴ法において、紛争鉱物ではないとの認証を受けていない旧来鉱山からの金輸出は違法であるが、同国では旧来金鉱山の96%が認証を受けていないと推計される。

またウガンダ輸出統計によれば、2015年にドバイGood Deliveryリストから除外されたKaloti Precious Metals社に対するAGRの輸出が記録されているが、AGRはこれを否定している。

Goetz氏のルワンダにおける新たな金貿易も重要であり、国連の専門家グループによれば、ルワンダ及びウガンダにおける金貿易の多くはDRコンゴや周辺諸国からの密輸である。

DRコンゴにおける100を超える現地インタビューにより、武装勢力は鉱山会社、政府機関及び事業者から違法に税を徴収していること、また同国の金鉱山においては武装勢力とDRコンゴ軍との間で衝突が起きていることの確証を得た。ウガンダではAGRが唯一金精錬を営んでおり、DRコンゴ東部からの金密輸の主要なトランジット・ハブとなっている。

資金洗浄対策も、Goetz氏ネットワークの企業にとって関心事項。ウガンダ金融当局はAGRを資金洗浄対策法違反の疑いありとしたが、その後の進展がない。ウガンダ政府関係者からはGoetz氏がMuseveni同国大統領と親しい関係を保持している結果ではないかとの憶測も聞かれるものの、AGRは同大統領やウガンダ政府高官との関係を否定している。

(2)提言

① 対象ネットワークへの制裁:米国、EU及び国連安保理は、金の精錬・貿易会社及びその所有者を調査し、必要に応じ制裁を科すべきである。

② 資金洗浄対策:米国財務省並びに欧州及び東アフリカの関係金融機関は、中部アフリカからの紛争鉱物の対象でリスクの高い金に関し、全世界の金融機関に警鐘として勧告を発すべきである。

③ 訴追:米国及びEUはウガンダ政府に対し、資金洗浄の可能性でAGRの調査の実行及び、その結果違反が確認ができた場合には法令違反で訴追することを、強力に追求すべきである。

④ 銀行による資金洗浄対策における警告(赤旗):銀行及び金購入者は取引に際し綿密な調査を行い、2015年の資金洗浄に関する金融活動作業部会の警告(赤旗)の有無を確認すべきである。

⑤ デューデリジェンス・レビュー及び加盟の除外:Dubai Multi Commodities Centreは、Tony Goetz NVをGood Deliveryリストから除外するか否かについて直ちにレビューすべきである。

⑥ 資金洗浄対策の改善:米国財務省は警告(赤旗)の付与対象を周知徹底するために、金の精錬・貿易会社、業界団体及び銀行を招集すべきである。

⑦ 航空機による密輸阻止:国際民間航空機関は航空機による金の密輸を防止するための規則を策定すべきである。

2. パネルディスカッションにおける発言要旨

(1)Sasha Lezhnev氏(Enough Project Deputy Director of Policy)

紛争鉱物は地域紛争や汚職、人権侵害を生み出すものであり、国連、OECD、そして米国も、紛争鉱物に携わる者への制裁を行い、紛争鉱物の廃絶に取り組んできた。鉱物を利用するサプライチェーンの下流に位置する企業は原産地を確認し、サプライチェーンに紛争鉱物が入り込まないように目を光らせることが大事である。そのためのサプライチェーンのデューデリジェンスのガイドラインも策定されているので活用してほしい。

紛争鉱物である金の取引に関与する企業や当該企業のネットワーク及びその所有者に対する着実な制裁、紛争鉱物を特定する資金洗浄対策、並びに金精錬・貿易企業との取引時における銀行や金購入者への監視強化が重要である。

留意すべきことは排除の対象はあくまでも紛争鉱物であって、合法的に採掘された鉱物は自由に貿易できるようにし、またその数を増やしていくことが重要である。そのためにも、サプライチェーンの各事業者が原産地を確認できるように情報を集めてウェブサイト等で公開していく。

このように公正かつ責任ある貿易取引が求められる。

DRコンゴ東部で違法採掘された金はウガンダ唯一の精錬所であるAGRで精錬された後に、主にドバイ経由で国際市場に流入する。AGRは大きなリスクである。

DRコンゴにおける金の紛争鉱物化に関する上流側の問題としては、DRコンゴ政府による金の採掘事業への高課税率(最大30%)が挙げられる。上流事業者にしてみれば、違法採掘で脱税し、違法販売にそれなりの費用を要するとはいえ、正当な課税額の支払よりは少額の出費に抑えられる。これを変えていかなければならない。また、DRコンゴ政府が適切に採掘権を付与できていないことも問題である。現在は贈収賄の横行により、政府関係者が違法採掘を黙認している状況である。

(2)Hillary W. Amster氏(Responsible Business Alliance Senior Program Manager)

RBA(Responsible Business Alliance)には電子・機械や自動車から小売りまで、多様な業種から約120社が参加している。RBAは企業が紛争地から金その他の鉱物を調達するにあたってデューデリジェンスを行う際のサポートをしている。

金の問題は複雑である。(他の紛争鉱物が精錬会社から製造業へ流れるのとは異なり)金は、宝飾品会社や銀行が取り扱う商品。金地金が製造されると紛争鉱物由来かどうか見分けがつかなくなることから、選鉱及び精錬の工程が金のサプライチェーンにおけるピンチポイント。RBAはLMEや金融ネットワークと連携して対応している。

消費者からの(紛争鉱物の廃絶を求める)圧力は重要である。企業にとっては、(紛争鉱物の取扱の有無が)レピュテーションの問題となるためである。ただし精錬会社は監査が最も難しく、また、必ずしも宝飾品会社ほどには消費者からの圧力を感じてはいない。

おわりに

今回のパネルディスカッションにはMull Sebujja Katende在米ウガンダ大使も出席しており、同国を含む現地における関心の高さ、また、問題の重大さがうかがわれた。

企業にとってはCSRを果たし、近年関心が高まっているESG投資の理念に適合するために、自社のサプライチェーンに紛争鉱物が流入しないよう対策を施すことの重要性が広く認識されている。今回の報告は紛争鉱物対策の理念や概要が中心であり、企業実務に直結する内容ではないが、DRコンゴ周辺地域、或いは金を巡る問題の理解促進、ひいては紛争鉱物対策を進める上での基礎知識の一部となれば幸甚である。

今回のパネルディスカッションの概要及び本レポート全文はAtlantic Councilのウェブサイトにて公開されているので3、詳細についてはこちらを一読いただきたい。なお、Goetz氏は英国紙のインタビューにおいて、紛争鉱物は存在しないと主張し国連の調査を批判している4

紛争鉱物に関してはカレント・トピックス及びニュース・フラッシュにおいて、米国及び欧州の取組を中心に随時報告しているので、併せて参照されたい。


  1. Goetz氏がCEOを務めている。
  2. Goetz氏が所有。
  3. http://www.atlanticcouncil.org/events/past-events/congo-s-conflict-gold-trade-recent-findings-and-recommendations-for-the-future
  4. https://observer.ug/businessnews/51777-conflict-gold-is-just-normal-gold-says-mineral-expert

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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