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報告書&レポート

2021年5月21日 ヨハネスブルグ 事務所 原田武、Melissa Crowley、ロンドン 事務所 遊佐茂雄
21-07

Mining Indaba Virtual 2021参加報告

―南ア鉱業において注目されるESGと政府・地域社会との連携―

<ヨハネスブルグ事務所 原田武、Melissa Crowley、ロンドン事務所 遊佐茂雄 報告>

はじめに

アフリカ鉱業界における一大イベントMining Indabaは、コロナ禍のため、本年は、2月2日~3日の2日間のWeb開催となった。大会では、南ア、シエラレオネ及びボツワナ大統領のスピーチに加え、パネルディスカッションでは、Anglo American、Rio Tinto等のCEO、著名アナリストや銀行等が参加したパネルディスカッションが行われた。事務局によると登録者数は、6,000人以上にのぼった。本報告では、パネルディスカッションの中でコメントされた内容を、最近の南ア鉱業において注目される話題である鉱業界による政府・地域社会との連携、ESG投資の動向、PGMのマーケットの観点から整理した。

1.Cyril Ramaphosa南ア大統領によるオープニング・スピーチ

冒頭、鉱業の急速な回復に触れ、その過程における政府・業界・地域社会の連携を評価した。南ア鉱業の課題として、鉱山会社は環境・社会・ガバナンス(ESG)を事業の意思決定に導入すること、特に地域社会における雇用やビジネス、訓練の機会を増強し、地域社会が確実に利益を得ることが重要とした。また、鉱物の探鉱や付加価値化の促進、電力問題への対応、ワクチン接種プログラムへの鉱業界の支援といった内容についても言及した。

<南ア大統領スピーチの概要>

  • パンデミックによる混乱の中で、南ア鉱業は驚異的な回復を示した。現在もヨハネスブルグ証券取引所において、南ア鉱山会社の株価は好調に推移している。鉱業は、2020年第3四半期の成長に最も大きく貢献した。前期比288%の成長を示している。主にPGM、鉄鉱石、金、マンガン鉱、ダイヤモンドの復活が貢献した。このパンデミックを上手く乗り切ることができたのは、政府と鉱業界との間の良好な協力関係のおかげである。この関係は、これからも維持し続けていく必要がある。持続可能な鉱業は、工業化、イノベーション、競争を加速し、雇用創出のためのキーである。我々は、投資家が認識している規制上の制約や問題を解決すべく、重要な措置を講じてきた。COVID-19からの回復が、より開放的な経済の実現をもたらすことが我々の願いである。
  • 鉱山会社は、鉱山のオーナーシップから経営への参画、及び資機材調達に至るまで、鉱業のあらゆる側面へのアプローチを開放すべきである。また、鉱山会社は、ESGの基準を事業の意思決定及び業務のあらゆる側面に取り入れるべき。
  • 鉱山コミュニティが採掘活動から確実に利益を得るには、社会・労働計画(Social and Labour Plan:SLP)1が重要である。鉱山会社は、操業する鉱山周辺の地域社会の人々に雇用、ビジネス、訓練の機会を提供する取り組みを強化しなければならない。これらの要素は鉱業憲章(Mining Charter)2にも盛り込まれており、産業界の利害関係者の間で徹底的に議論された経緯がある。
  • 鉱業や石油の上流部門の探鉱や付加価値を促進したい、特に、国内外の天然ガスマーケットの開発に関心がある。
  • 信頼性が高く手頃な価格の電力供給は、鉱業の生命線であり、経済成長と開発の触媒である。我々は、南アの鉱業部門における高コストと不安定な電力供給の悪影響を目の当たりにしてきた。統合資源計画に基づき、エネルギーミックスの拡大、自家発電の可能化、国有電力会社Eskomの改革・強化に取組んでいる。
  • パンデミックの期間中、鉱業部門とエネルギー部門は、明確なガイドラインとプロトコルを策定し、労働者の健康と生命を守ることに成功してきた。
  • ワクチン接種プログラムはこれまでになく大規模な普及事業になり、必要とする労働者が確実に接種を受けられるよう協力しなければならない。ワクチンの導入に向けた鉱業界の前向きな動きに非常に勇気づけられた。

2.パネルディスカション

2.1南ア鉱業界・政府・地域社会の連携

2日間のWebinarの中で、全体として、COVID-19とESG投資がキーワードになっている。最初の議題からして、「ESG investing in a COVID-recovery world」であった。冒頭、Anglo American CEO Mark Cutifani氏は、「鉱業界、政府、地域社会といった関係者との既存の協力関係がCOVID-19に対処するための体制構築に大きく貢献した」また、「COVID-19は、環境、社会、ガバナンスのリスクを語る上で、新しい考え方や工程を管理する方法を教えてくれた。危機に直面したときに、地域社会との繋がりを再認識することができた。業界としては、地域社会との連携はまだ十分ではなく、今回のパンデミックで、地域社会との連携が如何に重要であるかを学んだ。」とも語った。

世界的にESGが注目される中、アフリカをはじめとする新興国では、ESGの中でも社会的な要素、特に地域社会との関係に注目が増すと考えられる。南アStandard銀行 Nigel Beck氏は、議論の中で次のように語った。「先進国では、気候変動に非常に重点が置かれる。一方で、新興国では社会的な要素に重点が置かれる。南アやアフリカ諸国で投資家向けのロードショーにて、金融商品の話しをすると、社会的商品、社会的債権やローンなどへの関心が高い。逆に先進国では気候変動への関心が高い。」

また、前述(1.)したRamaphosa大統領のスピーチの中でも、社会・労働計画(SLP)が重要であることと、鉱山会社による地域社会の人々に雇用、ビジネス、訓練の機会を提供する取り組みの強化を強調したように、COVID-19からの経済復興の最中、地域社会への貢献をより強化するように要請している。

南アでは、従前より、鉱山採掘からの恩恵を国や地域に還元するための具体的な施策が施行されてきた。鉱物・石油資源開発法(MPRDA)2002の中にて、地域社会への貢献を具体化した社会・労働計画(SLP)の策定や評価指標を定める鉱業憲章(Mining Charter)があり、鉱業権保有者は、鉱山開発において遵守することが求められる。世界的にESGが注目される中、今後、ますます地域社会への貢献のあり方が問われる可能性があり、今回のパネルディスカションの中でも、関連するコメントが多く見られた。

日頃から、地域社会の社会的移行(Social Transitioning)の話題はよく聞かれる。地域社会の利益をもたらすことを目的とした社会・労働計画(SLP)や鉱業憲章の要件が厳しくなっている中、より将来への発展を築くべきとする社会的移行の必要性とその難しさの議論がなされている。「社会・労働計画(SLP)」の規定の中にも、貢献の一つとして、地域社会の将来のための未来フォーラムの設置が記載されている。今回の議論の中において、その考え方を述べるコメントがある。例えば、Anglo American CEO Mark Cutifani氏は「鉱山周辺の地域社会に雇用機会や技術習得、ビジネスの機会、道路や水、エネルギーなどのインフラをもたらし、30年間の鉱山操業の代わりに、100年以上の未来創造を彼らにもたらすことができると考えている。」と述べ、南ア石炭生産者であるExxaro Resources社CEO Mxolisi Mgojo氏は、「資源が枯渇したときに、その地域社会の将来がどうなるのかを考える必要がある。未来に向かって長く地域社会が生き残るための触媒が必要。その実例として、Exxaro社は、Anglo American等と共に、Limpopo州にて“Impact Catalyst3”というイニシアティブを立ち上げ、地域の雇用を促進し、新しい産業を創出し、持続可能な未来を創造することを実現しようとしている。」などのコメントがあった。

一方で、雇用や付加価値化などに対する地域社会の期待と現状のギャップを語る鉱山会社のコメントも多くあった。Rio Tinto Energy and Minerals社CEO Bold Bataar氏は、「資源は国が所有しており、政府は国民に仕事を与えることで生活の向上を目指す。しかし、鉱業自体が与えることができる仕事には限界がある。また、政府は付加価値化を進めることを追求するが、それには電力が必要。他方で、石炭火力発電への資金供給は困難になっている。投資家の意図に反して、開発国は多くの雇用を求め、開発を求め、付加価値化を求めており、そこにトレードオフを形成するには隔たりがあるのが現状である。」と語る。

南ア鉱業界では、辛口のコメントで知られるSibanye-Stillwater社CEO Neal Froneman氏は、「政府は、株主や投資家の権利をもっと尊重し、労働者や地域社会の権利とのバランスを取るべく、多くの議論をすべきである。利害関係者が非常に多様な見解を持っており、共通ビジョンの形成を共同で行う必要がある。最大の障害要因のひとつが、お互いの信頼の欠如だと考える。」などと語った。

Exxaro Resources社Executive Head Mzila Mthenjane氏は、「鉱山開発の影響は広範におよび、規制に対処するだけではなく、地域社会の多くの期待やニーズに対応する必要もある。その役割を果たすためには、多くの行政機関への対応を必要とする。鉱物資源エネルギー省(DMRE)は、鉱山開発を促進するために、他の多くの行政機関を調整するワンストップ・ショップの役割を果たしている。」とした。また、「鉱業憲章については、政府と民間とが協力し合い、解決できたとの話しがあったが、残念ながら、それは十分に明確な決着には至っていない。鉱業憲章の最も核心的な部分の規定が曖昧なままの状況で、官僚主義的な確認手続きばかりが横行している。」とも語った。

南アでミネラルサンドを採掘するRichards Bay Minerals社MD Werner Duvenhage氏は、Zulti Southミネラルサンド開発プロジェクト(KwaZulu-Natal州)4での、具体的な地域社会とのトラブルに言及した。「地元との関係悪化のために休止している。2019年前半に着工した事業であるが、休止したまま開発段階に入ることができずにいる。もし生産が行われれば、現在操業しているミネラルサンド鉱山のマインライフを25年間延長でき、100bZAR(南ア・ランド:約7bUS$)の利益を南ア経済にもたらすと見積もっているのだが。」と話した。

南ア業界団体Mineral Council SA(鉱業協議会)CEO Roger Baxter氏は、「鉱物資源エネルギー省(DMRE)のワンストップ・ショップの役割は重要。鉱業協議会にとって、政策レベルでの議論は重要だが、個別プロジェクトが直面している課題を明確にし、障害を除去するための実務的な話しをできるようにすることが重要であると考えている。」とした。また、「(2020年)12月に鉱業協議会が調べたところでは、規制上の障害を課題と回答した会社は100社以上にのぼり、それを理由に20bZAR(約1.3bUS$)以上の投資が停滞している。また、数年前の調査では、根本的な問題が解決されれば、企業は現在の投資水準を80%上回る規模での投資拡大の可能性があるとの調査結果もある。」とも語った。

もちろん、ここで停滞しているとした事業には、地域社会のトラブルが直接関連したものばかりではない。南アの電力不足、鉱山における自家発電の許認可の遅延、ストライキなどの労組問題、鉱業権の許認可の遅延などが南ア国内では顕在化しており、投資の停滞は、それらの個別の問題に端を発するものも多くあると考えられる。しかし、その背景に鉱山開発を行う上で、政府や地域社会との連携の難しさがあることをこれらのコメントの中に垣間見ることができる。「(政府と業界の間で)多くの協力関係の例が挙げられる。現大臣の心が正しい方向にあるためであり、前の大臣と比較すると大きな違いがある。この数年間は投資家に優しい環境の整備において進歩がみられる。しかし、まだ優しくない面もある。」(Sibanye-Stillwater社CEO NEAL FRONEMAN氏)という意見もあるように、改善の余地はあるものの、業界は近年の政府の対応が向上していることをある程度評価している。特に、COVID-19対応の中で培われた連携は官民ともに認めるところである。連携を拡大して、鉱業の課題を乗り越えることができるとする意気込みも議論の随所で見られた。

2.2投資家目線のESG

ESG全般に関する投資家目線のコメントも多くなされた。世界的に急速なESGへの関心の高まり、それに伴う遵守すべき規範の増、説明責任と透明性の強化などが言及されている。他方で、投資決定に困難が増しているとの社内の実情を吐露する鉱山会社も見られた。

投資会社Tavistock社 Charles Vivian氏は、「一般の投資家や市民の中で、道徳的に正しい企業への投資に関心が高まってきた。鉱山会社も新しい投資家を惹きつけようとすると同時に、正しいことをしているとアピールしたいと考えている。グリーンファンドやESGファンドにおいては、4、5年前と比較すると、より多くのチェック項目(規範)が導入され、より真剣に取り組まれるようになってきた。しかし、投資家の要求やリターンという点では、まだ期待値と現実の間にギャップがある。全ての鉱山会社が投資家の要求やリターンを満たしているわけではなく、時間がかかる。鉱山会社は、自分たちが何をすべきかを理解しているが、全てを実現しているわけではない。」

南アStandard銀行 Nigel Beck氏は、「ESGの重要性が増し、投資家にとって、もはや財務実績だけが評価のすべてではなくなった。株主の利益、従業員への投資、環境や地域社会の保護、サプライヤーの倫理観などをどのように調整するかが重要となってきている。コロナ禍は金融機関にとって厳しい年であったが、この18か月あまりの間、持続可能な金融商品には特段の関心が寄せられている。ESG関連のファイナンスは、COVID-19によって指数関数的に成長した。復興する上でのより良い方向への回復を指向した結果と考えられる。社会投資貢献型投資(Social impact bond;SIB)は、強い透明性を備えていることから、2019年と比較して700%の成長を遂げた。」

南アAbsa銀行 Shirley Webber氏は、「金融サービス業界は、国連の責任ある銀行原則5に署名(2019年9月)し、これまで以上にビジネス戦略と社会の目標を一致させることに専念している。環境が全ての中心となり、効果的なガバナンス、透明性、説明責任が益々重要になってくる。アフリカ諸国においては、より厳しいESG政策を課すことになり、企業はその遵守が求められることになるであろう。鉱山会社が守らなければならないことが多くあるのは当然である。鉱山操業自体が気候変動に与える影響があるのだから。水資源の利用とリサイクル、森林破壊、石油やディーゼルの使用、生分解性の材料の使用など、持続可能性に繋がることが多くある。」

Rio Tinto Energy and Minerals社CEO Bold Bataar氏は、「社内的にプロジェクトの承認を得るのが難しくなっている。事業のIRRに加えて、電力の確保、鉱滓や廃棄物の処理、それらに伴うコスト増、現在のコモディティ価格の長期的な見通しからすると、新規の設備投資はますます困難になっている。持続可能性や地域社会を担当するチームが投資の決定に発言権を持ち、彼らの同意を得る必要が出てきた。これは非常に大変な仕事、それなりの判断理由が必要になる。」と語った。

2.2エナジートランジッションとPGM

将来の水素社会や電気自動車(EV)普及に伴うエナジートランジションへの注目が増す中で、関連する鉱物資源の市場が上昇基調にある。ESGや脱炭素化への関心の高まりと相まって、この変化にSBG Securities社 Adrian Hammond氏は「資源アナリストとして述べると、これほどまでの変化は、ここ10年見られなかった。」と語った。

今回のパネルディスカッションでは、特にバスケット価格の上昇がみられるPGMについての話題が多くを占め、そのマーケットの将来及び代替の可能性についてのコメントがなされた。南ア中堅PGM生産者RBPlats社CEO Steve Phiri氏は、PGMのマーケットについて「今後の10年、2030年までの間、EVが急成長しても、内燃機関車やハイブリッド車(HEV)の需要があるため、PGMバスケット価格は現状と同じく強基調であると予想する。水素燃料については、2030年以降の成長が期待され、PGMの中でも特にプラチナには大きな未来があると信じている。」と予測する。

内燃機関の排ガス触媒に伴うPGMの需要について、SBG Securities社 Adrian Hammond氏は、当面の堅調なマーケットが続く状況を次のように語った。「PGMはCO2排出削減に大きな役割を果たし、ESGの観点でも注目される。内燃機関の排ガス規制強化によって、関連するPGMは、今後2~3年はタイトになるでしょう。特にロジウムが構造的に不足になる。短中期的にロジウムの代替が出てくることはない。」また、「先進国ではバッテリーソリューションや水素ソリューションが機能し、急速に進展する一方で、途上国ではその導入の進捗が遅れ、まだまだプラグインハイブリッド車(PHEV)が採用される機会が多くある。PHEVはより長い距離を走行することができ、インフラが不足している場合により適している。関連するPGMの需要は健在であると考えられる。」とした。

Bloomberg NEF社 Kwasi Ampofo氏は、水素燃料電池の将来について「鉱山トラックや重機、長距離バスのような重機産業においては、各国政府によるCO2ゼロ排出やグリーン環境の政策推進の後押しもあり、2040年には75%のシェアを持つと予想されている。ネックは電解槽のコストであるが、将来において低価格化が進むと見ている。」と語った。

その水素燃料電池のPEM電解槽に欠かせないプラチナの需給について、Anglo American Platinum(Amplats)社CEO Natasch Viljoen氏は、「今後、水素燃料やグリーン・エネルギーは、プラチナ産業を確固なものにする。小型車を1%、大型車を10%、燃料電池車に置き換えるだけで、350千oz(約11t:世界の総需要は年間258t(2019年6)であり、その4%程度に相当)の白金を消費することになる。」と予測した。

SBG Securities社 Adrian Hammond氏は、「現状、PGMは余剰の状況にあるが、水素経済の関連で、飛躍的に需要が増え、2025年頃には不足に転じると推測する。これは需要に要因があるのではなく、供給サイドの要因が強い。Amplats社Mogalakwena鉱山や他のメジャープロジェクトからの供給だけでは賄えない。西リムにはまだ多くの埋蔵量が賦存しており、採掘を促進していく必要がある。次の5年間は不足になり、高いバスケット価格30kZAR/oz(2kUS$/oz)位になるかもしれない。All in Costが20kZAR/ozであれば、鉱山会社にとって良好であろう。」とした。

一方で、RBPlat社CEO Steve Phiri氏は、「現段階のプラチナの生産・供給で市場は十分。水素経済の進展はかなり遅れており、市場はまだそこに至っていない。投資を進めるには、もう少し兆候を得たいと考えている。」と今すぐの投資に対する消極的な面も見せた。

司会者からは、PGM代替に関する質問もなされた。「Tesla社 Elon Musk氏がリチウムイオン電池(LIB)におけるコバルトフリーを提唱するように、PGMフリーの燃料電池が出てくるリスクはあるのでは?」、この問いに対して、Amplats社CEO Natasch Viljoen氏は、「代替の話は大変重要である。価格や技術といった観点以外に、責任ある調達や持続可能性という観点が重要になる。Elon Musk氏がコバルトフリーを提唱する背景には価格面というよりも責任ある調達及び持続可能性の観点からであろう。当社が、内燃エンジンの排ガス触媒に使われるパラジウムの代替として白金を考えるのも持続可能性の観点からである。今後、水素燃料やグリーン・エネルギ-の普及によって、白金産業が確固としたものになれば、パラジウムがどれだけ白金の代替になるかも考え、パラジウムのマーケットの状況はそれ次第で変わってくることになる。」とも語った。

おわりに

コロナ禍の中、これまで以上にESGの話題が多く語られ、ESGが注目される時勢を反映している。大統領スピーチにおいても、鉱山業界に対するESGの導入や国や地域社会への貢献の必要性が強調された。パネルディスカッションにおける業界からのコメントには、政府・鉱業界・地域社会等のステークホルダーにおける共通意識の形成の難しさも語られ、南ア鉱業が抱える課題の背景が伺える。一方で、このCOVID-19への対応で見せた連携は官民で共有されており、今後の課題解決に活かされることが期待されている。

南アは、世界を代表するPGM生産者であり、ESGを背景に、今後のPGMのマーケットや需給の伸びについての関心は高い。近年の脱炭素や環境への動きがマーケットに影響を与える一方で、鉱山会社がPGMの代替や戦略を考える上において、PGMの価格よりも、鉱業の持続可能性の観点を重要とする点、ESGの影響が伺える。Mining Indaba Virtual 2021を通じて、ESGが鉱山開発の意思決定や戦略の根幹に深く影響してきていることが伺えるWebinarであった。


  1. 社会労働計画(SLP):MPRDA法Section 23にて、採掘権申請時に社会・労働計画を策定し提出することが規定されている。細則(Regulations)にて計画に盛り込むべく要件が規定されており、地域のプロジェクトや企業発展の支援、スキルトレーニングの提供、閉山時の地域影響の管理が挙げられている。
  2. 鉱業憲章(Mining Charter):MPRDA法Section100に規定され、鉱物資源エネルギー大臣が発出できる政策指針。2018年に第3改訂のMining CharterⅢが施行されている。国内鉱山会社におけるBEE権益(30%以上)のほか、人材育成(年間給与の5%以上相当の拠出)、地域社会経済の発展(税引後利益の1%以上の拠出)、ローカルコンテンツの比率などの指標が規定されている。
  3. Impact Catalyst: www.impactcatalyst.co.za/index.html
  4. 2019年12月6日付 ニュース・フラッシュ:ミネラルサンド生産者RBM、周辺コミュニティの暴力を受けて操業休止
  5. Principles for Responsible Banking – United Nations Environment – Finance Initiative (unepfi.org)
  6. World Platinum Investment Council, 2020年第4四半期WPIC Platinum Quarterlyプレスリリース (platinuminvestment.com)

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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