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報告書&レポート

2020年9月28日 金属企画部 調査課 小口朋恵
20_08_vol.50

2019年の亜鉛需給動向

<金属企画部調査課 小口朋恵 報告>

はじめに

2018年、亜鉛の需給バランスは2017年よりも不足幅が拡大し、2017~2018年にかけて価格は3,500US$/tを超え大きく上昇した。2016年に起きた大規模鉱山の閉山・減産や、主要生産国である中国での環境規制の影響等が供給不足の原因とされたが、この価格急騰により2018年は新規プロジェクトが複数立ち上がる等明るい話題がみられる年であった。

本稿は、2019年の亜鉛の需給動向をレビューするものであるが、それを見ていく手法として、まず世界全体の需給概況を把握した上で、各国の需要・供給動向概況を紹介していくこととしたい。2019年末には、中国で新型コロナウイルスの感染者が発見され、その後徐々に世界中に蔓延し、2020年は3月頃から各国での影響が顕在化していくに至り、亜鉛生産もこの影響を受けることとなった。新型コロナウイルスの問題は未だ落ち着いていないことから全体を論じるのは時期尚早であるが、これまでの動きを簡潔にまとめたので併せてご参照いただきたい。

1. 世界の需給動向概況

以下に、国際鉛亜鉛研究会(以下、ILZSG: International Lead and Zinc Study Group)が発表した2019年の亜鉛の需給動向に関する概況をまとめる1

(1)鉱石生産量

2019年の世界の亜鉛鉱石生産量は12,897千tとなり、2018年の12,779千tと比較し0.9%増となった。この増加には、豪州、南ア、カナダ、中国の生産増が貢献した。一方、アルゼンチン、チリ、インド、カザフスタン、ペルー、トルコ、米国の生産量は減少したが、前述の国々の増産分で相殺され、全体としては増加となった。

中国の生産量が4,371千tで全体の34%を占め、世界の鉱石生産において2位のペルー(11%)を離し存在感を誇るが、2016年の40%をピークに年々中国比率は減少している(図1~2)。また、2015年以降その生産量も減少を続けていたが、2019年は4年ぶりに対前年比1%増に転じた。3位の豪州は全体の10%程度であり、近年の鉱石生産量の増減を握るのは豪州の動向次第と見ているが、詳細は「3.豪州」にて後述する。

(2)地金生産量

ILZSGによると、2019年の世界の亜鉛地金生産量は13,537千tで、2018年の13,171千tと比較し2.8%増となった。生産量第1位である中国の生産増(対前年比501千t(8%)増の6,171千t)の貢献によるところが大半だが、その他ペルー・Nexa Resources Peru社のCajamarquilla製錬所における生産増や、メキシコ・Industrial Peñoles社のTorreon製錬所における生産能力拡張により、中南米地域における増産が目立った。一方、豪州、カナダ、インド、カザフスタン、フランス、オランダ、ロシアでは減産したが、そのうちロシアでは、2018年10月にElectrozink社のVladikavkaz製錬所(生産能力100千t/年)が閉鎖したことが大幅な減産(対前年比18.8%減の207千t)に繋がった。

2019年、生産量第1位の中国は全体の46%を占める(図1~2)。2018年は43%台に減少したが、2011年以降ほぼ安定的に40%台を押さえ、近年は45%を超えている。

(3)地金消費量

2019年の世界の亜鉛地金消費量は13,726千tで、2018年の13,693千tと比較し0.2%増となった。中国(対前年比75千t(1.1%)増の6,597千t)および米国(対前年比70千t(8.1%)増の937千t)での消費増が大きく貢献したが、一大消費地であるアジア(日本、韓国)をはじめ、ドイツ、ノルウェー、ロシア、英国等の欧州地域等では軒並み減少した。中国の消費量は、全体の48%を占めており、2013年以降40%台後半という高い占有率を安定的に保っていることから、今後も亜鉛の消費動向を探る上で、引き続き中国の動向は大きな鍵になる(図1~2)。

図1.世界の亜鉛鉱石・地金生産量、地金消費量

図1.世界の亜鉛鉱石・地金生産量、地金消費量

出典:ILZSG

図2.世界の亜鉛鉱石・地金生産量、地金消費量と中国比率の推移

図2.世界の亜鉛鉱石・地金生産量、地金消費量と中国比率の推移

出典:ILZSG

(4)需給バランス

図3のとおり、亜鉛地金の需給バランスは2016年から4年連続で供給不足の状態が続いている。2019年は、消費の増加幅に比べ生産の増加幅が大きかったこと等が貢献し、不足幅は192千tと、2018年に記録した543千tという大幅な不足幅からは縮小した。一方で、2019年中にバランスするとの予測もあったところ、結果的には供給不足となったことで、需給がバランスするタイミングが後年にずれ込んでいるとみられる。2019年10月にILZSGが公表した秋季報告書によれば、2020年は192千tの余剰が見込まれていた。しかしこれは新型コロナウイルスによる世界的な景気の落ち込みが発生する前の予測であり、2020年の動向は想定とは全く異なる可能性を有していることに留意しなければならない。なお、2020年8月にILZSGが公表した2020年1~6月の亜鉛の需給バランスは、205千tの供給過剰である。

図3.地金の需給バランス

図3.地金の需給バランス

出典:ILZSG

(5)市況動向

図4.亜鉛のLME指標価格

図4.亜鉛のLME指標価格

出典:LME

2017年は、中国における環境規制の強化で一部の鉱山および製錬所が稼働停止し、500千t/年近い供給不足になるなどの需給逼迫感から、2018年初頭には一時3,600US$/t台に乗るなど高値が続いていた。しかし、米国、中国双方が互いに追加関税を発動する米中貿易摩擦問題が表面化し、非鉄金属全般の需要減退への懸念が生じたことから下落基調に転じた。9月には2,200US$/t台で下げ止まり、中国での需要拡大、米中関係改善への期待感のほか、2018年は2017年と比較し供給の不足幅が拡大したことから、その後2,700US$/t台にまで回復した。

2,400US$/t台後半からスタートした2019年は、例年発生する2月の中国春節前の在庫積み増しによる買いの増加、また中国の大手亜鉛製錬所のひとつである株洲製錬集団が有する製錬所の移転(一時休止)、また2月には豪・QLD州での豪雨による鉄道運休に伴う供給の減少等によって逼迫感が高まって上昇基調となり、一時2,700US$/t台をつけた。3月も、LME在庫が1990年以来の低水準となるまでに減少し、印・Rampura Agucha鉱山をはじめ、中国における環境規制による鉱山の操業停止の影響により供給逼迫懸念が増し、3,000US$/tとなった。しかし4月にはLME在庫が回復し始め、5月は米国政府が中・華為技術社(Huawei)等との取引の事実上禁止、中国がレアアースを米国への輸出規制対象に加えるのではないかとの報道等から米中関係悪化が懸念され、下落基調に転じた。7~8月は中国大手製錬所で増産となる等、これまでの需給逼迫感が緩和され下落基調を継続した。本下落基調はその後収束して2,200US$/t台で下げ止まったが、墨・Campo Morado鉱山が地域との関係不和等を理由に閉山したほか、直近のLME在庫が減少傾向にあること等から供給懸念が再燃し上昇に転じた。その後も欧州等でのサマーシーズン後の取引活発化で上昇基調で推移し、10月にはナミビア・Skorpion鉱山が鉱石生産量減少を理由に操業を休止したとの報道を受けて足元の供給不安が拡大し、2,500US$/t台にまで上昇した。11月初旬には2,600US$/t近くにまで上昇したが、LME在庫の積み増し等で供給懸念が払拭され下落傾向となり、更に2018年中に新規開山した鉱山が生産段階を迎え、鉱石不足の解消感で12月まで下落基調が続くこととなった。

2.中国

前述のとおり、中国は世界最大の亜鉛生産国であり、また消費国でもある。自国で生産した鉱石を地金に加工し、消費する「地産地消」国であるが、巨大な需要を支えるため、足りない鉱石は図5のとおり、豪州、ペルー、スペイン、ロシア等からの輸入で補っているとみられる2。ILZSGによると、2019年の中国国内の鉱石生産量(純分換算)は4,371千t、地金生産量が6,171千tであることから、この差1,800千t、つまり国内鉱石需要のおよそ3割を海外からの輸入やリサイクル等に頼っている計算になる。

安泰科によると、中国における亜鉛需要は、製造業で30%、建設・不動産で22%、インフラで22%と、この3分野で全体の4分の3を占めている。2019年中国国内総生産(GDP)伸び率は6.1%で依然高いものの、2018年の6.6%から大幅鈍化して1990年以来29年ぶりの低水準となり、2010年までの年率10%超の成長率という以前のような勢いは減退している(図6)。2014年に習近平国家主席が、高度成長期を終え中高速成長期という新たな段階に入っていることを示す「ニューノーマル(新常態)」と表現し、成長の要素が労働力や資本といった生産要素の投入量拡大から、技術革新に転換してきていることを認めたことに追随するように、中国における亜鉛需要は、これまでのような急激な経済成長を支えとした大幅増加は見込まれないものと推察される。ただし、世界需要の約半分を占める主要なマーケットとしての現状を考えるにあたって、以下のとおり鍵となる指標を見ていきたい。

図5.中国の鉱石輸入相手国

図5.中国の鉱石輸入相手国

(出典:ITC3

図6.中国のGDP成長率の推移

図6.中国のGDP成長率の推移

出典:世界銀行HP

(1)固定資産投資

中国国家統計局が発表する固定資産投資(China Fixed Asset Investment y/y)は、工場、道路、電力網といった非農村部の設備投資額の変化を測定するもので、投資額の前年同月と比較した変動を反映するものである。2015年頃には15%近かったが、年々徐々に減少し、2018年は年初の7.9%から5%台に減少、2019年も6.3%~5.2%の間でほぼ横ばいで推移した。なお、新型コロナウイルスの打撃を受けた2020年は1~2月に-24.5%という記録的な数値となったが、3月以降徐々に持ち直し、比較的順調な経済の回復を示唆している(図7)。

図7.中国固定資産投資の推移

図7.中国固定資産投資の推移

出典:中国国家統計局

(2)製造業PMI

企業の購買担当者らの景況感を集計した経済指標で、一般的に50を上回ると景気改善、50を下回ると景気悪化と判断される。この中国製造業PMIは、2019年3月、4月、11月、12月は50を超えたが、通年では50を切る月が多く、中国経済の低迷を裏付けるような結果であった(図8)。

図8.中国製造業PMIの推移

図8.中国製造業PMIの推移

出典:CEIC

(3)自動車生産台数

2019年前半は米中間で貿易摩擦が発生したほか、排ガス規制「国6」4を珠江デルタ地域5、四川・重慶等の大気汚染対策が急がれる地域で2019年7月から前倒しで適用したこと、さらに2019年6月末から地方政府または中央政府による新エネルギー車6への補助金が廃止・半額になったことで、自動車販売価格が3割程度値上がりしたこと等の影響で販売台数が落ち込み、生産台数も低迷した。後半は、インフラ投資が回復したこと、また「国3」排ガス基準で製造された車両の淘汰等といった理由から商用車の生産量が伸びたこと等が功奏し、2019年8月以降は対前月比増を繰り返した。2019年通年の生産台数は、当初予想の2,810万台を下回る2,572.1万台で、対前年比7.5%減、年後半の盛り返しも前年並みの生産量には至らなかった(図9)。

図9.中国新車生産台数の推移

図9.中国新車生産台数の推移

(出典:中国汽車工業協会)

以上のことから、中国の2019年亜鉛消費量は対前年比増と健闘したものの、中国国内の経済状況は徐々に減退傾向にある。さらに2019年末からは新型コロナウイルスの影響で世界的に経済が停滞し、2020年1月および2月の中国の固定資産投資は-24.5%、2020年2月の製造業PMIは35.7と、リーマンショック以来の例外的かつ記録的な数値となった(図7~8)。詳細は「9.新型コロナウイルスによる影響」にて後述するが、中国は新型コロナウイルスの影響以外にも、米中貿易摩擦という大きな問題を抱えている。2018年頃に表面化したこの問題は、2019年中も前年に引き続き、米・トランプ大統領と中・習近平国家主席により、互いの輸入製品に追加関税を掛け合う応酬が繰り広げられた。この追加関税による中国の輸出減少が、図8のとおり2018年以降の「新規輸出向け製造業PMI(new export order)」の数値が2018年6月以降50を切り続けている状況に現れているとみられる。この問題は2020年に入ってもなお継続し、米国政府機関における華為技術社(Huawei)等中国ハイテク企業製品の調達・使用の禁止、中国の香港国家安全法制を巡る米国による香港への貿易優遇措置を取り消しやウイグル人権法を成立、あるいはテキサス州ヒューストンの中国総領事館閉鎖の命令措置等により、米国は中国に圧力をかけている。一方で中国でも米国側に成都の米総領事館の閉鎖を通知するなど、落ち着く気配を見せないどころか、経済にとどまらず政治・外交問題にまで発展してきており、この問題は2020年以降も続くというより、関係改善からは遠ざかり長引く可能性もある。中国にとって米国は最大の輸出相手国であり7>、この影響は世界経済にとっても無視できない状況にある。

3.豪州

2019年の鉱石生産量増加に貢献したのは、豪州の存在が大きい。ILZSGによると2019年の生産量は1,283千tで対前年比171千t増(15.4%増)と、対前年比増の他国の増加量と比較しても圧倒的な伸び率を記録した。豪州で大規模鉱山を保有するGlencoreは、2015年10月、亜鉛の市況低迷を受け年間生産量の3分の1に相当する計500千t/年の減産を発表した。同社子会社のMt. Isa社が豪州に保有する鉱山のひとつであるLady Loretta鉱山は2016年、2017年に減産した鉱山のひとつだが、2018年の拡張以後徐々に生産量を回復しており、2019年(326.4千t)も対前年比増加(278.2千t、17%増)したこと等が、豪州での生産増加に繋がったと思われる8。S&P Global社のデータによると、2018年に開山した中・MMG社のDugald River鉱山も2019年生産量は170.1千tで、対前年比15%増と生産量を順調に伸ばしている。また、2019年は豪州でWoodlawn亜鉛・銅・鉛鉱山が開山したことも伸び率の向上に貢献したトピックのひとつであるほか、2020年7月にはNew Century Resources社によるCentury鉱山の尾鉱再処理事業が商業生産開始を宣言した。

なお、豪州の鉱石輸出先は9、図10が示すとおり、その75%以上を中国・韓国・日本のアジア3か国が占め、中国にとっては豪州が最大の鉱石輸入国であることから、豪州は中国の需要を支える重要な国のひとつである(図5)。2016年、Glencoreの500千t/年減産発表により価格が急騰したのは、市場関係者にとっては記憶に新しい事案と理解しているが、現在でも2016年当時と変わらず、世界の亜鉛鉱石供給および市場の動向を左右する重要な国だと考えている。

最近は、新型コロナウイルスの蔓延を発端とした豪州と中国の関係悪化が報道され、2020年5月には中国が豪州産大麦に反ダンピング関税を課し、翌2020年6月には中国が自国民に豪州への旅行自粛を呼びかけ、また豪州も2020年7月、中国政府による香港国家安全維持法施行を受けて香港との犯罪人引き渡し条約を停止する等している。こうした政治・外交面での関係悪化にも関わらず、経済的には依存関係にあり、豪州のメジャー資源会社の利益は中国のインフラ経済対策によるもの、中豪貿易の中心は鉱物資源だとする指摘もある10。その中で、2020年に入ってから、加政府と豪州政府が中国政府系企業による投資への規制を強める動きに出ている11。この関係悪化が経済面に波及し亜鉛鉱石生産に影響、業界再編にまで発展しなければ良いが、中国が海外からの鉱石輸入を必要とする限り、相互の経済依存関係は恐らく変わらないだろうとみている。

図10.豪州の鉱石輸出国

図10.豪州の鉱石輸出国

出典:ITC

4.インド

インドは、Rampura Agucha鉱山といった大規模亜鉛鉱山12(ILZSGのデータでは世界第2位の生産能力)や製錬所を有し、巨大な亜鉛市場を抱える国のひとつと捉えている。インドの主要亜鉛生産者であるHindustan Zinc社のAnnual Reportを基に、同社の鉱石採掘量を表1に、地金生産量を表2に示す。鉱石採掘量は対前年比9%増、2019年に全ての鉱山を坑内掘りに移行したことから、坑内掘りのみの採掘量は対前年比27%となった13。一方、地金生産量は全ての製錬所で対前年比減となった。これは鉱石中の鉛の含有量が増加したためであると説明しており、鉛の生産量は対前年比増加している。

インドは国家鉱業戦略(National Mineral Policy)において、「今後7年間の目標として、鉱物生産高3倍」を掲げている。またHindustan Zinc社も、今後5年間で亜鉛の生産能力を0.8百万t/年から1.5百万t/年とほぼ倍増させる計画を打ち立てている。この増産計画においてボトルネックとなっているのが製錬所の製錬能力で、Hindustan Zinc社は、各製錬所の処理能力を改善すべく拡張計画を実行中である。

2000年代以降著しい経済発展を遂げると見込まれた「BRICS14」に含まれるインドは、経済成長が減速傾向の中国に取って代わる亜鉛の一大消費地になり得るかと考えたが、インドの経済成長は必ずしも順調とはいえないようである。モディ政権の初年である2014年から2年間、GDP成長率は上昇しているが、2016年をピークに減少に転じている(図11)。このインドの経済成長の足かせとなっているのが、GDPにおける製造業の比率の伸び悩みとされ、政府が2014年9月に提唱した「Make in India」キャンペーンでは、25のセクターで具体的な計画を掲げ、製造業のGDP比率を現状の15%前後から25%に引き上げることを目標としている。しかしそれから数年が経過した現状は16~18%の横ばいで開始当初と変わらず、目標は未達である。なお、自動車生産台数を見ると2019年を除いて2014年以降増加傾向となっている(図12)。しかしインドでは、自動車向け亜鉛めっき鋼板需要が全体の1%にも満たず、インド国内で生産される自動車に亜鉛めっき鋼板が採用される割合は10%に満たないとの指摘15、またさびを防ぐための亜鉛めっき鋼板が温暖なインドで必要なのかとの指摘もあり16、他の自動車生産国とは異なり、この自動車生産が今後の亜鉛需要を牽引する可能性は期待できないと考えられる。亜鉛需要として莫大なのはむしろインフラであるが、今後の経済成長も必ずしも上向きとは言えなそうな現状で、インフラ整備や製造業の伸びに伴う亜鉛需要の伸びには何とか期待を持ちたいところである。

ただし、インドも甚大な新型コロナウイルスの影響を受けた国で、2020年3月25日から全土でロックダウンを実施、2か月後の2020年6月1日以降段階的に解除していたが、解除に至らず延長した都市、再びロックダウンを実施した都市もあり、自動車産業も大打撃を受けた模様である。他国同様新型コロナウイルスによる経済不況の影響から脱するのは、もうしばらく先になりそうである。

表1.インド・Hindustan Zinc社の鉱石採掘量
鉱山名 2019
(千t)
2018
(千t)
2018/2019 拡張計画
(千t)*
拡張計画
備考*
Rampura Agucha 3,330 2,079 160% 100 予定
Sindesar Khurd 5,311 4,500 118% 80 2019年
Rajpura Dariba 1,080 896 121% 20 予定
Zawar 2,865 2,176 132% 30 2019年
Kayad 1,200 1,200 100%
Rampura (露天) 0 1,763
Total 13,786 12,614 109%

出典:Hindustan Zinc Annual Report 2018-19

表2.インド・Hindustan Zinc社の地金生産量
製錬所名 2019(千t) 2018(千t) 2018/2019
Chanderiya 424,803 497,049 85%
Debari 67,968 76,979 88%
Dariba 203,512 217,433 94%
Total 696,283 792,461 88%

出典:Hindustan Zinc Annual Report 2018-19

図11.インドのGDP成長率の推移

図11.インドのGDP成長率の推移

出典:世界銀行

図12.インドの自動車生産台数の推移

図12.インドの自動車生産台数の推移

資料:GLOBAL NOTE 出典:OICA

5.ペルー

ペルーは、国内にILZSGデータで世界第3位の生産規模を誇るAntamina鉱山を擁し、鉱石生産量は世界の第2位を誇る。鉱石はアジア圏をはじめとする亜鉛消費国向けに輸出され、我が国にとっても重要な亜鉛鉱石産出国のひとつである。

ペルー・エネルギー鉱山省の資料(Anuario Minero 2019)によると、2019年のペルーにおける鉱石生産量は1.40百万tと、対前年比4.7%減となった(図13)。この生産減は、2019年第1四半期のVolcan社およびNexa Resources社の減産に起因するものであり17、2019年末にはそれぞれ対前年比3.8%減および2.9%減となったことが全体の生産量減少に影響した、と同資料では述べている。

国際貿易センター(ITC:International Trade Centre)によると、ペルーの鉱石の輸出先は、図14のとおり中国が31%と第1位であり、豪州同様、ペルーも世界最大の亜鉛消費国である中国との関係が深い。また韓国も2位、日本も5位の位置付けにあり、このアジア3か国への輸出割合は計6割を占める。中国からみても、ペルーは鉱石輸入量において豪州に次ぐ第2位の国であり、巨大な中国の亜鉛需要を支える国のひとつである(図5)。

ペルーの鉱業事情については、栗原健一「令和元年度第6回JOGMEC金属資源セミナー:ペルー鉱業の現状と最近の動向」に詳述されているとおり、銅は少数の外資大手企業が牽引するが、亜鉛に関しては多数の地元中小企業がその生産を支えている。2020年の新型コロナウイルス流行による鉱石の大幅減産は、ペルーに起因すると思われるところ、同国の亜鉛鉱山は表3のとおり坑内掘りの鉱山が多く、露天掘りより坑内掘りの方がいわゆる「3密」の環境になりやすく18、飛沫感染・接触感染とされる新型コロナウイルスの蔓延やクラスター発生の可能性が高かったことが、大幅な鉱石減産の要因のひとつではないかと考えている。新型コロナウイルスが、ペルーを含む各主要鉱山にもたらした影響については「9.新型コロナウイルスによる影響」にて後述する。

図13.ペルー・鉱石生産量の推移

図13.ペルー・鉱石生産量の推移

出典:ペルー・エネルギー鉱山省Anuario Minero 2019

図14.ペルーの鉱石輸出相手国

図14.ペルーの鉱石輸出相手国

出典:ITC

表3.鉱山別対前年同期比生産量比率
企業名 鉱山名 採掘形態 対前年同期比生産量比率
2020.4 2020.5
Minera Antamina Antamina 露天 -89.4% -99.9%
Nexa Resources Cerro Lindo 坑内 -87.8% -42.3%
El Porvenir 坑内
Atacocha 坑内・露天
Minera Volcan Yauli(5鉱山) 坑内(4鉱山)
露天(1鉱山)
完全停止 -87.6%
Chungar(2鉱山) 坑内
Cerro de Pasco(3鉱山) 坑内(2鉱山)
露天(1鉱山)
Minera El Brocal El Brocal 露天 完全停止 完全停止
Minera Chinalco Tomorocho 露天 44.4% 31.8%

出典:ペルー・エネルギー鉱山省、JOGMECニュースフラッシュ

6.南ア

2019年2月、南アでGamsberg鉱山(インド・Vedanta社の子会社Vedanta Zinc International(VZI)社が最大株式保有)が開山、開山式にはラマポーザ大統領も出席し、国の発展を成し遂げるパートナーとしてVZI社を歓待した。南アは例年30千t程度の生産量だったが、Gamsberg鉱山の開山によって2019年は125千tと4倍以上に急増した。同鉱山の出荷目標量は250千t/年であり、今後の増産次第では同鉱山が世界の主要亜鉛生産者に名を連ねてくる可能性もある。なお、Gamsberg鉱山は、製錬所の保有も目標としているが、製錬には多大な電力を要するところ、南ア国内でかねてからPGMやクロム、マンガン等他鉱種の鉱石生産においても足枷となっている電力問題がここでも引き金となり、建設実現に向けた方策が模索されている。

7.日本

(1)原料の輸入

財務省貿易統計によると、我が国の2019年亜鉛鉱石輸入量は833.5千tであり、2018年の894.7千tから6.8%(61.3千t)減少した。輸入国は、1位がボリビア(32%)、2位が豪州(20%)、3位がペルー(19%)、4位がメキシコ(15%)、5位が米国(12%)と、中南米諸国が目立つが、97%とほぼ全量をこの5か国から輸入している(図15)。

また、財務省貿易統計によると、我が国の2019年亜鉛地金輸入量は25.2千tで、2018年の28.2千tから10.7%(3.0千t)減少した19。地金は、ペルー、メキシコや、インド、マレーシア等周辺アジア各国、その他豪州や欧州からも輸入している。

図15.日本の亜鉛鉱石・地金輸入

図15.日本の亜鉛鉱石・地金輸入

出典:財務省貿易統計

(2)需給バランス

経済産業省調査統計部、鉄鋼・非鉄金属・金属製品統計年報・月報、日本鉱業協会『鉱山』によると、我が国の2019年の亜鉛地金生産量は634.2千tで、2018年の638.2千tから0.6%(4.1千t)減少した(図16)。2017年は644.4千tだったため、直近3年間はほぼ横ばいだがわずかに減少傾向にある。2019年は蒸留亜鉛の生産量の増加が著しく、2018年の62.6千から2019年は81.1千tと、30%(18.5千t)増加した。

同じく経済産業省調査統計部、鉄鋼・非鉄金属・金属製品統計年報・月報、日本鉱業協会『鉱山』によると、我が国の2019年亜鉛地金需要量は420.3千tで、2018年の430.6千tから2.4%(10.3千t)減少した。2017年は428.2千tで、2018年は盛り返したが、2019年は2017年を下回る結果となった。需要別では、全ての項目において2018年より減少した(図17)。なお、一部の地金は輸出されており、財務省貿易統計によると2019年の地金輸出量は83.7千tで、輸出先はインド、台湾、インドネシア、ベトナム、バングラデシュ、中国等と計10か国で、全てアジア圏諸国であった20

図16.日本の亜鉛地金生産内訳の推移

図16.日本の亜鉛地金生産内訳の推移

出典:経済産業省調査統計部、鉄鋼・非鉄金属・金属製品統計年報・月報、
日本鉱業協会『鉱山』

図17.日本の項目別亜鉛地金需要量の推移

図17.日本の項目別亜鉛地金需要量の推移

出典:経済産業省調査統計部、鉄鋼・非鉄金属・金属製品統計年報・月報、
日本鉱業協会『鉱山』

(3)需要の概況と今後の見通し

一般社団法人日本溶融亜鉛鍍金協会資料によると、我が国の2019年の溶融亜鉛めっき生産量は1,216.4千tで、その内訳は図18のとおりである。このうち割合が大きいのは建築材(37%)、道路(12%)、仮設機材(9%)、電力通信(9%)といった構造物に使用されるものである。最大シェアの建築材について、2016年からの需要量推移を見ると、ここ4年で需要量が伸びており、特に2017年の大幅な伸びは五輪特需の表れとも考えられる(図19)。2020年以降、五輪特需が無くなった後の建築材需要が激減するかについては、国が政令(平成14年政令第257号)で特定都市再生緊急整備地域を13地域指定し、東京都においてもそのうち5地域(東京都心・臨海地域、品川駅・田町駅周辺、新宿駅周辺、渋谷駅周辺、池袋駅周辺)が指定され再開発が進められている21こと、またこうした都市部以外でも、地域が抱える課題解消や地域活性化を目指した再開発事業が計画されていることから、五輪後に需要が激減することはなく、今後しばらくはこのような再開発事業に支えられて需要を維持していくのではないか。

次に、亜鉛めっき鋼板が使用される分野のひとつである自動車の生産台数推移を見てみたい。一般社団法人日本自動車工業会の統計資料によると、我が国の2019年の自動車生産台数は9,684.3千台で、2018年の9,729.6千台から0.5%(45.3千台)減となった(図20)。我が国の自動車生産台数は、2008年まで10百万台を超えていたが、2009年のリーマンショックによる不況を契機に10百万台を割り込み、その後は10百万台を下回る数で推移している。近年では、2015~2016年に9百万台前半と低調だったが、2017年以降は9百万台後半でほぼ横ばいにて推移している。高齢者の運転免許返納や若年層の自動車離れが叫ばれる中、我が国の自動車生産台数が再び10百万台に乗る可能性は低く、それに伴う亜鉛需要の伸びもあまり期待できない。しかし、日本国内での需要が伸びずとも、輸出台数は毎年5,000千台弱で、リーマンショック前の水準には及ばないものの徐々に伸びており、海外での日本車人気に牽引されて輸出台数が伸びていくことも期待して良いのではないか。

需要の伸びで特筆すべき項目のひとつが、亜鉛めっき鉄筋である。これはコンクリートを補強する鉄筋に亜鉛めっきを施すもので、コンクリート中での鉄筋の腐食対策等の効果が期待される22。2019年の亜鉛めっき鉄筋用溶融亜鉛めっきの生産量は1,582tと、溶融亜鉛めっき生産量全体の0.13%でしかないニッチな分野だが、国内での生産量は着実に伸びており、今後もその高い防食性を活かし、多くの建造物への導入が期待される(図18~19)。また、これまでは一次電池用途しかなかった亜鉛の二次電池利用の技術開発が進展している23。世界において定置型エネルギー貯蔵の市場規模が拡大傾向にある中、リチウムと比較し、発火の危険性が低く安価な亜鉛が新たな用途として進展していく可能性もある。

日本の人口は、2004年の12,784万人をピークに減少に転じており、今後も減少していくと推定されている24。これに伴い経済発展も衰退の一途を辿り、あらゆる分野の需要は減退すると言ってしまえばそれまでだが、そのような中でも、新たな用途や、我が国が誇る高い技術力を駆使した付加価値の高い製品を創出するような創意工夫が求められていくように思う。

図18.日本の溶融亜鉛めっき生産内訳(2019年)

図18.日本の溶融亜鉛めっき生産内訳(2019年)

出典:一般社団法人日本溶融亜鉛鍍金協会

図19.建築材、亜鉛めっき鉄筋用溶融亜鉛めっき生産量推移

図19.建築材、亜鉛めっき鉄筋用溶融亜鉛めっき生産量推移

出典:一般社団法人日本溶融亜鉛鍍金協会

図20.日本の自動車生産・輸出台数の推移

図20.日本の自動車生産・輸出台数の推移

出典:一般社団法人日本自動車工業会

8.新規プロジェクト

以下に、ILZSGが公表した、2019年に開山・操業開始・規模拡張を行った鉱山の一覧および閉山もしくは生産規模を縮小した鉱山の一覧を、ぞれぞれ表4および表5に示す。

表4.2019年に開山・操業開始・規模拡張を行った鉱山一覧
Project Name Country Company New Zinc Capacity (mt)
Woodlawn * Australia Heron Resources 35,000
Myra Falls Canada Nyrstar 20,000
Maweishan mine(馬尾山) China Anhui Sierte 5,000
Niukutou China CINF Engineering 40,000
Jiama(賈嗎) China Tibet Huatailong (China Gold Res.) 4,000
Zawar Mines India Hindustan Zinc 30,000
Sindesar Khurd India Hindustan Zinc 80,000
Kundyszdy (Aktobe) Kazakhstan Russian Copper Co (RMK) 25,000
Plomosas * Mexico Consolidated Zinc 27,000
Los Gatos * Mexico DOWA Group, Sunshine Silver Mining & Refining 28,000
Capela (Rey de Plata) * Mexico Industrias Peñoles 40,000
San Martin Mexico Southern Copper (Grupo Mexico) 20,000
Namib Namibia North River Resources 8,000
Iscaycruz Peru Glencore – Empresa Minera Los Quenuales 80,000
Total 442,000

*2019年に新たに開山した鉱山
出典:ILZSG

表5.2019年に閉山・生産規模縮小を行った鉱山一覧
Company Country Project  Name Lost Zinc Capacity (mt)
CBH Resources Australia Endeavor -45,000
Nyrstar Canada Langlois -48,000
Laguna Gold (Newmont Mining) Chile El Toqui -38,000
Telson Mining Mexico Campo Morado -20,000
Glencore – Empresa Minera Los Quenuales Peru Contonga -15,000
Teck Resources Limited United States Pend Oreille -44,000
Total -210,000

出典:ILZSG

全体としては、2019年に追加された亜鉛生産能力が442千t、失われた生産能力が210千tであることから、新たに232千tが生産能力として増強されたことになる。

表6に、ILZSGが公表している、近年中に開始が予定されている新規プロジェクトを示す。価格は(図4)、米中貿易摩擦等の影響で2019年中の価格は下落傾向にあったところ、2020年は年初から新型コロナウイルスの影響で世界的に亜鉛のみならず多くの鉱山が操業休止等の措置を取り、新たなプロジェクトを開始したり、規模を拡張したりできる経済状況に無いとも考えられるが、2020年中にどの程度のプロジェクトが開始に至るのかを見守りたい。

表6.新規プロジェクト
Company Country Project  Name New Zinc Capacity
(mt)
Expected Start-up Year
Venturex Resources Australia Sulphur Springs (Pilbara) 40,000 2022
Corporacion Minera de Bolivia (COMIBOL) Bolivia Colquiri 16,000 2021
Prophecy Development Corp. Bolivia Pulacayo 5,000 2021
Nexa Resources, Karmin Exploration Brazil Aripuana 80,000 2021
Norzinc Canada Prairie Creek 43,000 2022
ScoZinc Mining Canada ScoZinc (Scotia) 20,000 2020
Baiyin Nonferrous Metal China Changba 60,000 2020
Guangxi Zhongjin Mining China Panlong 25,000 2021
Tianyi Mining (Jiangxi Copper) China Lengshuikeng mine 25,000 2021
Hindustan Zinc India Rajpura Dariba 20,000 2020
Hindustan Zinc India Rampura Agucha 100,000 2020
IMIDRO, Mobin Mining Iran Mehdiabad Phase I 100,000 2020
JSC Zhairem GOK (Kazzinc – Glencore) Kazakhstan Zhairem 150,000 2021
Kazzinc (Glencore) Kazakhstan Dolinny (Obrychevskoe deposit) 22,000 2021
Kazzinc (Glencore) Kazakhstan Dolinny (Dolinnoe deposit) 18,000 2020
Fresnillo Mexico Fresnillo 10,000 2020
Fresnillo, MAG Silver Mexico Juanicipio 33,000 2020
Southern Copper (Grupo Mexico) Mexico Buenavista Zinc 80,000 2022
Telson Mining Mexico Tahuehueto 5,000 2020
Telson Mining Mexico Campo Morado 20,000 2020
Trevali Namibia Rosh Pinah 40,000 2022
Great Panther Silver Peru Coricancha 5,000 2020
Korea Zinc Peru Pachapaqui 25,000 2021
Sierra Metals Peru Yauricocha 20,000 2021
Lundin Mining Portugal Neves Corvo – Lombador 80,000 2020
Ural Mining and Metallurgical Co (UMMC) Russian Federation Korbalikhinsky mine 50,000 2021
Orion Minerals South Africa Prieska 70,000 2023
Jubilee Metals Zambia Kabwe Phase I 8,000 2020
Total 1,190,000  

出典:ILZSG

9.新型コロナウイルスによる影響

2019年11月頃、中国・湖北省武漢市が発生源とされた新型コロナウイルスは、2020年1~2月に発生源中国でピークを迎え、その後2020年3月頃から世界各国に影響が出始め、当初は欧州そして欧米で、2020年5月以降は南米でパンデミックとなる事態に発展した。表7に、主要亜鉛鉱山の新型コロナウイルスによる影響を示す。

表7.主要亜鉛鉱山の新型コロナウイルスによる影響
企業 鉱山(国名) 状況
Teck Red Dog(米国)
583kt
【3/31】鉱山からの外出を一時的に禁止。現地点で鉱山にいる従業員の移動を最小限に抑えるため、シフトの延長もしくは休暇を選択できる。
【5/20】AK州の外出自粛解除を受け、COVID-19陰性の従業員に限り帰宅許可。
BHP
Glencore
Teck
Mitsubishi
Antamina
(ペルー)
409kt
【3/19】足元操業に目立った影響は出ていない。原料調達に関しても十分な在庫の確保やサプライヤーの切り替え等により大きな問題は生じていない。15日間、操業縮小
【4/6】従業員の移動制限が余儀なくされているものの、操業中。
【4/14】約2週間の操業停止を発表。
【5/27】80%レベルで操業再開、第3四半期頃フル操業予定。
Newmont Peñasquito
(メキシコ)
144kt
【4/10】連邦政府の3/31-4/30の不要不急な経済活動禁止令を受け、生産縮小
【5/18】政府の鉱業を必要不可欠な経済活動との指定を受け、生産再開
Boliden Tara
(アイルランド)
131kt
【3/28】コロナウイルスの影響により一時操業停止
【4/2】生産を再開
Vedanta Scorpion
(ナミビア)
【3/30】昨年からの度々の斜面崩壊を受けて、4月〜露天掘りピットの採掘及び精錬所の操業を停止し保守管理に移行する(コロナ予防のための期間と重なる)。
Glencore Matagami
(カナダ)
【3/27】QC州政府の不要不急の事業禁止令を受け、3週間休止に。
【4/2】3週間のcare and maintenanceに入ることを発表。
【4/14】5/4までの操業再開を検討中。
Heron Resources Woodlawn
(豪州)
【3/23】一時操業停止
Trevali Mining Santander
(ペルー)
【3/30】亜鉛採掘は継続するも、試薬不足のため製錬を4/12まで休止。
【6/26】19名の陽性者確認で鉱山・ミルの一時操業停止
Nexa Resources Cerro Lindo、Atacocha、
El Porvenir(ペルー)
【3/30】3/15~の非常事態宣言を受け生産停止、必要最低限のメンテナンスのみを実施。Cajamarquilla精錬所は、人員を削減の上50%の稼働率で操業を継続。
【5/11】Cerro Lindo、Atacocha両鉱山の操業再開、6月までランプアップ期間。
【6/9】Atacocha鉱山操業再開、Cajamarquilla精錬所もほぼフル操業に。

出典:JOGMECニュースフラッシュ、ILZSG

ILZSGデータによると、2020年2月の亜鉛需要が対前月比14.2%減の945.0千t(156.5t千減、直近の需要ピークである2019年12月との比較では22.6%(276.5千t)減)と急減したのは、発生源となった中国での需要減退が原因とみられる(図21)。2020年2月の中国の各経済指標を見ても、この月に新型コロナウイルスの影響が最も深刻化したことが読み取れるが、翌3月には回復しており、他国に先駆けいち早く新型コロナウイルスによる経済不況から脱したとみられる(図6~8)。一方、鉱石生産量は2020年1月以降減少し、4月には853.2千tとなった。これは、新型コロナウイルスが南米で猛威を振るった国のひとつ、ペルーでの減産が響いているとみられる(表8)。ペルー・エネルギー鉱山省のデータによると、ペルー国内の鉱石生産量は、2020年4月は86.3%減、翌月の5月は75.7%減と著しく減少した。ペルーでは2020年3月15日に国家非常事態宣言を発令し、その影響で国内最大の鉱石生産量の生産量を誇るAntamina鉱山で操業停止に至るなど、その影響の大きさを物語る。その他、ILZSGによると2020年4月はカナダ、メキシコでも減産しているが、米国、豪州、ロシアでは生産量を比較的維持している。

図21.世界の鉱石・地金生産量、地金消費量の推移(2019年6月~2020年5月)

図21.世界の鉱石・地金生産量、地金消費量の推移(2019年6月~2020年5月)

出典:ILZSG

表8.ペルーの2020年1~5月亜鉛鉱石生産量
年月 2019年(t) 2020年(t) 対前年同期比
2020年1月 101,604 130,060 28.0%
2020年2月 107,769 118,190 9.7%
2020年3月 118,008 103,754 -12.1%
2020年4月 116,613 15,945 -86.3%
2020年5月 118,607 28,815 -75.7%

出典:ペルー・エネルギー鉱山省

価格は、2020年1月下旬の2,400US$/t台後半をピークに、新型コロナウイルスの世界的な蔓延のあおりを受け減少に転じ、2020年3月下旬の1,700US$/t台後半で底を打った(図20)。その後足元は、中国の経済回復が牽引する形で、他国での経済回復への期待感もあり上昇に転じ、新型コロナウイルスによる問題発生直前の水準にまで戻りつつある。

新型コロナウイルスの新規感染者は現在でも世界的に増加し、それに伴う鉱山や企業活動の停滞は現在進行中であることから、未だその被害の全体像を把握する段階にないが、2020年の需給バランスは供給過剰に転じるとの予測もあったところ、新型コロナウイルスによる影響が発生した時点で既に供給過剰になっていたと予想される25。供給面では、ペルーでの緊急事態宣言は一部の地域において2020年9月30日まで継続となったが、生産を再開した鉱山もあり、2020年4月の減少をピークに徐々に回復してくるとみられる。一方、需要面は引き続き、他国に先駆けて新型コロナウイルスによる経済不況から脱した中国の需要が全体を牽引するとみられる。自動車生産台数も、2020年4月以降中国のみが順調に伸ばし、2020年3月31日、中国国務院が発表した新エネルギー車の購入補助金制度の2年延長や、大都市で実施していたナンバープレートの発給制限緩和等といった自動車消費刺激策による販売台数増に連なる販売台数増が、生産台数増に繋がっているとみられる(図7)。しかし、その他の亜鉛主要需要国である米国や欧州、中国以外のアジア各国での経済回復が遅れているため、亜鉛の需要回復への見通しは依然厳しいと予想される。

おわりに

本稿では、亜鉛需給の概況から主要生産国、消費国の動向について簡潔にまとめた。世界最大の亜鉛生産・消費国は中国であり、その経済発展の勢いが以前よりも衰えているとは言われているものの、現在も世界最大の亜鉛市場である点に変わりはない。そして新型コロナウイルスの影響から他国よりいち早く脱し、低迷していた亜鉛需要を牽引しているのも間違いなく中国であることから、今後も世界の亜鉛市場の中心は中国にあると見て良いだろう。一方、供給側に目を向けると、需給バランスや市況動向を握るのは、中国に次ぐ生産国である豪州という以前からの構造に変化は無い点を指摘したが、中豪の二国間関係に暗雲が立ち込める中、今後経済ひいては鉱物資源を巡る需給関係にも影響が及ぶ可能性は否定できない。新型コロナウイルスで生産に甚大な影響が出たペルーは、2020年4月の甚大な落ち込みが心配されたが、現在はほぼコロナ前水準の生産量に戻り、一時的な減産に留まったといえそうである。

亜鉛の全体像を正確に掴むためには、ここでは欠けていた国や視点があり、更に詳細を分析すべき点もあったと自認しているが、それらの点については今後の課題とさせていただきたい。

2020年も8か月が過ぎたところ、新型コロナウイルスの影響は未だ収束せず、これによる経済不況からの回復までには2~3年かかるとの予測もあり、長期化の様相も見えてきた。新型コロナウイルスの影響が無ければ2020年中には需給バランスは供給過剰に転じるとした予想も、そのバランスは2020年早々から大きく乱されてしまった。2020年の概況はこの新型コロナウイルスの影響一色になりそうであるが、まずは一刻も早く「コロナ不況」から脱出し、これまでのような平穏な日常が戻ることを願ってやまない。


  1. ILZSGの2020年2月19日付プレスリリースを参照した。
  2. HSコード260800「亜鉛鉱(精鉱を含む)」を参照した。
  3. International Trade Centre(国際貿易センター)
  4. 中国環境保護部と国家質量監督検験検疫総局が発表した「軽型汽車汚染物法限値及測量方法(中国第6段階)」。「国6a」とそれを更に厳格化した「国6b」に分け、それぞれ2020年と2023年に中国全土で適用開始する計画であった。その後2020年4月、中国国家発展改革委員会等が「国6」適用を当初計画の2020年7月1日から2021年1月1日に延長すると発表した。
  5. 中国・広東省を流れる珠江河口の、香港、マカオ、広州市、深圳市、東莞市を結ぶ三角地帯の総称で、世界最大の都市圏とされる。
  6. NEV、電気自動車・プラグインハイブリッド車・燃料電池車の総称。
  7. 米国にとって中国は、カナダ、メキシコに続く第3位の輸出相手国である。
  8. 鉱石生産量データはS&P Globalを参照した。
  9. HSコード260800「亜鉛鉱(精鉱を含む)」を参照した。
  10. https://jp.reuters.com/article/china-australia-breakingviews-idJPKCN24N0OG
  11. 豪外国投資審査委員会(FIRB)が2020年6月、外国投資法の改定を発表し、「機微な安全保障に関わる事業」に対する外国人投資家からの買収全案件を精査することとした。
  12. ILZSGデータでは世界第2位の生産能力を誇る。
  13. ILZSGのデータでは、インドの鉱石生産量は対前年比減少となっているが、Hindustan Zinc社の発表では採掘量は増産となっている。
  14. 2001年に米国の投資銀行Goldman Sachs社が名付けたとされる。当初、ブラジル、ロシア、インド、中国の4か国であったが、後に南アが追加され、小文字だった「s」が大文字「S」で表現されるようになった。
  15. 折原陽著「No.143 インドの亜鉛産業」日本メタル経済研究所、2007年8月
  16. 2009年12月11日付東洋経済オンライン「JFEの巻き返し戦略、インド市場開拓へ一手」
    https://toyokeizai.net/articles/-/3354)(2020年9月1日ダウンロード)
  17. このほかにもNexa Resources社では2019年5月、1名の死亡事故が発生したことでCerro Lindo鉱山を3日間操業停止し、2019年第2四半期の減産に影響した。
  18. 日本の首相官邸・厚生労働省が提唱した標語で、「密閉空間」「密集場所」「密接場面」の3つの「密」が揃うと新型コロナウイルスのクラスター(集団)発生リスクが高いとされる。
  19. HSコード「7901 亜鉛の塊」のうち、「7901.11 亜鉛の含有量が全重量の99.99%以上のもの」「7901.12 亜鉛の含有量が全重量の99.99%未満のもの」を集計した。
  20. HSコード「7901 亜鉛の塊」のうち、「7901.11 亜鉛の含有量が全重量の99.99%以上のもの」「7901.12 亜鉛の含有量が全重量の99.99%未満のもの」を集計した。
  21. https://www.kentsu.co.jp/feature/kikaku/view.asp?cd=160805000001
  22. http://www.aen-mekki.or.jp/faq/tabid/62/Default.aspx
  23. https://www.sankeibiz.jp/macro/news/200325/mcb2003251400022-n1.htm
    https://www.nikkei.com/article/DGXMZO52356010Z11C19A1L91000/
  24. https://www.soumu.go.jp/main_content/000273900.pdf
  25. ILZSGは、2020年8月20日付プレスリリースにおいて、2020年1~6月の亜鉛地金需給バランスは205千tの供給過剰であると報じた。

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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