報告書&レポート
2021年世界の探鉱動向
―PDAC Special Edition―
2021年3月


本資料は、S&P Global Market Intelligence社が発表した「WORLD EXPLORATION TRENDS」を、同社の許可を得てJOGMECにおいて翻訳したものです。著作権は全てS&P Global Market Intelligence社に属します。
世界の探鉱動向
2020年、新型コロナウイルス(以下、コロナ)のパンデミックにより、これまで当たり前だった慣行が妨げられ、人々や組織の行動が大幅に、場合によっては完全に変わり、世界は未曽有の混乱を経験した。S&P Global Market Intelligence社(以下、「S&P社」という。)の31年次Corporate Exploration Strategies(CES)によると、鉱業界は2020年上半期に混乱に陥ったものの何とか切り抜け、2020年下半期はむしろ価格上昇の恩恵と規制緩和の効果により、当初大きく落ち込むと見られていた世界の非鉄金属探鉱予算は、2019年の9.8bUS$から2020年は11%減の8.7bUS$にとどまった1。
2019年第4四半期から2020年にかけては、明るい兆しがあった。米中貿易摩擦が改善に向かい、第1段階の合意で大半のコモディティの価格が安定感を取り戻したからである。これにより、業界全般で探鉱予算規模と資金調達状況が改善し、パイプライン活動指数(PAI)は2019年12月末100に達し、1年数か月ぶりの高水準を記録した2。
しかし、2019年3月四半期初めにコロナ感染が突然発生、世界的に急拡大し、2020年は改善するとの楽観が阻まれることになった。ロックダウンがあらゆる地域に広がるにつれ、探鉱チームの移動は困難あるいは不可能となり、主要国経済が突然停滞したことにより需要は大きく落ち込んだ。これにより、ベースメタルの価格は2020年3月後半まで下落が続き、世界市場の不透明感により2020年第2四半期に向けた資金調達が妨げられた。
幸いなことに、鉱業界は当初のショックからすぐに立ち直った。ベースメタルの価格は2020年3月を底に上昇基調に転じ、資金調達もパンデミック前の水準に戻った。大半の国が鉱業を「不可欠な産業」と捉え、現場のプロジェクトの休止は比較的短期間で終わった。探鉱計画は再開されたが、州や地域をまたぐ、あるいは先住民保護区に近い大規模な計画の一部は引き続き制限された。この間、金価格は急騰し、1,900US$/oz超で数か月推移したが、年末にかけて若干弱含んだ。これらは全て、2020年の探鉱予算の落ち込みが2020年第1四半期末の予測よりはるかに緩やかとなった要因である。
2021年には複数のコロナワクチン接種が徐々に開始され、先進国の大半が2021年末までに人口の大半に接種を行う見通しである。これにより、経済の回復は進んでいるが、そのペースはまちまちで、回復が早い業種と遅い業種がある。局所的なロックダウンは依然として行われるだろうが、その影響は人々のウイルスの知見や感染状況の改善により小さくなるであろう。すなわち、鉱業界のコロナによるリスクはなくなったわけではないが、極めて小さくなっている。
2021年に入り、多くの鉱物コモディティの価格は2019年末の価格を大幅に上回っている。2021年は需給のファンダメンタルズにより下押し圧力がかかるものもあろうが、大幅に下落するとは考えにくい。この明るい価格見通しに加え、パイプラインへの投資不足により、今後数年間は多くのベースメタルで供給不足が見込まれることから、2021年は探鉱が進むとみられる。
不確実性は依然高いが、2021年の探鉱は少なくとも2020年のパンデミックによる落ち込み分を取り戻すと楽観視している。金属価格が今後半年ほど高止まりすれば、2021年の探鉱予算は回復し、前年比15~20%伸びると見込まれる。

図1.世界の非鉄金属探鉱予算総額の推移
出典:S&P Global Market Intelligence(2021年1月5日時点)
ワクチン接種開始により世界経済の回復見通しが強まる
2020年はコロナのパンデミックが世界の経済成長を大きく下押すなか、マクロ経済に関連する出来事が目立った。2019年後半に中国武漢市でコロナが最初に発生したあと、中国政府はウイルスを封じ込めるため国民と経済主体に厳しいロックダウンを課した。このため、中国の第1四半期のGDPは対前年同期比6.8%減となり、1970年代以来初のマイナス成長を記録した。なお、2019年第4四半期は6%のプラス成長だった。
しかし、残念なことに中国の規制はコロナの世界的拡散を抑えることはできなかった。感染がアジアから欧州、米国に急速に広がりパンデミック状態になり、2020年3~7月にかけて世界各国の都市でロックダウンが相次いだ。多くの企業が臨時休業を余儀なくされ、第2四半期のGDPはEUで対前年同期比14.9%減、米国は同9.5%減少した。
2009年の世界金融危機以来最大の景気後退に直面した各国政府は、経済を直ちに回復させ、苦しむ国民と企業を支援するため、相次いで未曽有の規模の景気刺激策を発動した。中国は2020年2月に最も厳しいロックダウンから最初に脱した国となったが、これには政府がインフラ投資を強化し、刺激策主導の力強い経済回復が続いたことが寄与した。この結果、同国製造業の生産は急回復、不動産価格は急上昇し、続いて自動車販売が好調なレベルにまで回復した。
中国以外の世界経済は、欧州や米国が追加刺激策のもとロックダウン規制を緩和したことにより、2020年第3四半期には回復に向かった。しかし、2020年第4四半期はコロナ第2波により、欧州および米国で再びロックダウンが始まり、世界経済の回復は鈍化した。2021年初は、米国の一部と欧州の主要国でのロックダウン規制が足かせとなって経済回復基調は鈍化し、2021年第1四半期はマイナスの成長が予想された。ただ朗報として、ワクチン接種が進む中、米国と欧州で日々の感染者数が減少し、コロナ感染拡大との闘いが転機を迎えている。

図2.主要鉱物コモディティ価格指数の推移(2020年2月以降)
出典:S&P Global Market Intelligence, S&P Global Platts, LME(2021年3月3日時点)
S&P Global Economicsの予想では、中国のGDPは2020年の対前年比推定2.1%増から2021年は7%増に拡大3する。不動産セクターの需要を抑えるために融資規制が強まると見ているため、この経済成長率は下半期より上半期の方が高くなると予想される。他方、中国以外の経済回復は、集団ワクチン接種率の上昇により2021年下半期に強まるとみられる。
米国政府による1.9tUS$規模の経済対策法案に見られるように、2021年の世界経済の回復は継続的な政府支援がカギとなるだろう。S&P Global Economicsの予想では、世界のGDP成長率は2020年の推定4%のマイナスから5%のプラスに転じる。世界的に再生可能エネルギーや電動自動車への移行が目立ってくる中で、バイデン新政権の下、今後数年間は米国のグリーン戦略が積極的に推進されると予想している。
世界の産業活動がコロナ規制の影響を受け、金属価格は2020年1~3月の3か月間、下落基調を辿った。しかし、2020年4月前半から金属相場は中国需要の回復で上昇し始め、2020年下半期から2021年初にかけて世界的な需給逼迫とドル安により、ここ数年来の高値をつけている。
世界的な景気後退とこれに伴う米国金利の低下やドル安により、金価格は2020年8月6日に史上最高値2,063US$/ozを記録した。これにはコロナに関する不確実性と、コロナによる世界の経済活動への影響が関係している。しかし、中国経済の回復が加速し、ワクチン開発が順調に行われたことで、リスク・オンの機運が大きく高まり、金価格は2021年2月26日には1,728.80US$/ozまで下落し、最近ではさらに米国10年国債の利回り上昇が価格上昇の重石になっている。
2020年に価格が最も上昇したのは鉄鉱石と銅であり、2020年末には2020年初水準からそれぞれ71%、26%上昇、2020年第1四半期の安値からは99%、68%上昇した。鉄鉱石の価格は、中国の輸入急増とブラジルの輸出減により、2020年2月の80US$/tから2020年12月には177US$/tに上昇した。2021年に入っても、ブラジルの海上輸送の不透明感と中国以外の鉄鋼生産が大きく回復するとの見通しにより、高止まりが続いている。
ベースメタルの需要回復は、2021年の市場バランスのタイト化を示唆する。ロンドン金属取引所(LME)の銅の現物価格は、2021年2月25日に2011年8月以来の高値9,614.50US$/tまで急伸した。この背景には強気な市場センチメントと2021年の需給逼迫予想がある。一方、同日の亜鉛のLME現物価格は需給逼迫予想から2,894.50US$/tと、2019年5月以来の高値をつけた。
また、LMEニッケル価格は、コロナワクチンの明るいニュースや中国のステンレス鋼生産の急増によるファンダメンタルズのタイト化、またインドネシアのニッケル鉱石禁輸に伴うニッケル銑鉄の供給減により、2020年は18%上昇した。ただ、ニッケルの在庫は依然高水準であり、市場センチメントがファンダメンタルズを超えて先走っている感がある。とはいえ、2021年は世界経済の回復によりニッケル需要は増加、加えて電気自動車のバッテリー向け需要が加速することが投資家心理の追い風になっている。LMEのニッケル3か月先物価格は、景気回復への楽観とドル安により、2021年2月22日に20,000US$/t強まで急伸し、その後はボラティリティの上昇で同26日には18,653US$/tに後退した。

図3.PMIの推移(2019年9月以降)
出典:Refinitiv(2021年3月3日時点)

図4.世界経済成長率予想
出典:S&P Global Market Economics, Oxford Economics(2020年12月3日時点)
需要減退とロックダウンが探鉱予算の重荷に
2019年の探鉱予算は、2019年前半に大半の金属価格が低迷し、資金調達活動が鈍化したことにより、2018年よりもわずかに減少した。その後、貴金属価格は上昇、ベースメタルの価格は落ち着き、市場の動きも活発になり、2019年末の資金調達は2018年の水準を大きく上回ったものの、2020年の予算が再度増加に向かうとの期待は、2020年初からのコロナ感染急拡大により打ち砕かれた。ロックダウンは探鉱の妨げとなり、大半のベースメタル価格が2020年3月に暴落したことにより、生産者は価格の回復に時間がかかると見て予算を縮小した。このことが探鉱計画を直撃し、S&P社による計2,500社を対象とする調査では、世界の非鉄金属の2020年予算は対前年比10%減の8.3bUS$、全体では2019年の9.8bUS$から8.7bUS$と、11%減少した。
2020年に操業した探鉱業社数は対前年比3%増の1,762社で、2012年以降で前年より増加したのは3回にとどまっている。当然ながら、大半の企業の新たな計画あるいは計画再開は金がターゲットになった。しかし、企業数の増加と予算全体の削減により、1社あたりの探鉱予算の平均と中央値はそれぞれ4.7mUS$、0.9mUS$に減少した。
S&P社によるIndustry Monitor月次レポートのとおり、ジュニア企業および中堅企業の2020年の資金調達は円滑に進み、2012年以降で最高となる11.2bUS$を記録した。注目されるのは、2020年12月の調達総額に占める金の割合が最大ではなかったことで、これは2019年8月以来初めてのことである。年間調達額の過半に相当する5.5bUS$はTSX(トロント証券取引所)で調達された一方、ASX(オーストラリア証券取引所)経由は過去最高の4.3bUS$に上った。
主に探鉱向けに供給される資金は、世界保健機関(WHO)の世界的パンデミック宣言とベースメタルの価格急落により2020年初に減少した。2020年3月四半期の調達額601.4mUS$は、直前2019年12月四半期の862.8mUS$を大きく下回ったものの、前年同期の2倍近くであった。その後、調達額は大きく回復し、2020年の5.8bUS$は2011年の6.3bUS$以来の高水準となり、企業は2020年予算に比べ過度に支出したことが伺われる。

図5.ジュニア/中堅企業による大規模探鉱の資金調達額
出典:S&P Global Market Intelligence(2021年2月5日時点)

図6.メジャー企業による探鉱費用
出典:S&P Global Market Intelligence(2021年1月5日時点)
金向け予算の横這いと価格の急回復が探鉱減少を緩和
CESが対象としているコモディティのうち、2020年に探鉱予算が前年から増えたのは金と銀のみであり、工業用金属は銅、亜鉛、リチウム、コバルトを中心に減少した。パンデミックがなければ、金の予算の伸びは実績のわずか1%ではなく、もっと多くなったに違いない4。金の探鉱には底堅い相場のサポートがあったものの、各企業は上半期、鉱山操業と価格上昇を妨げるロックダウンから免れられなかった。工業用および貴金属用途の銀は価格と探鉱予算で金に次ぐ動きを見せた。
他方、銅の予算は3年連続増加の後、2020年は対前年比24%減の561mUS$となり、世界全体の予算減少の60%近くを占めた5。それでも、この予算減少幅は2009年の46%という急減の半分程度に留まっている。銅価格はパンデミックによる2020年3月の世界的なセルオフで数年ぶりの低水準に落ち込んだが、予想より強い中国の景気回復とドル安、そして中南米を中心とする生産能力低下による供給減により、ここ数年の高値まで回復した。
亜鉛の探鉱予算も落ち込んだが、減少率は21%となり銅よりわずかに縮小した6。この予算の減少には、探鉱で世界トップのペルーの予算削減が大きく響いた。同国のコロナによるロックダウンは世界でも最も長いロックダウンのひとつとなり、2020年6月四半期一杯続いたためである。
ニッケルの予算の減少幅は前年比わずか5%と、主要なベースメタルで最も打撃が小さかった7。ニッケル価格もパンデミックで低下したものの、生産者はマインサイト探鉱に注力し予算を維持した。豪州のニッケル向け予算はマインサイト探鉱が3倍近くに増えたことにより123.2mUS$となり、2019年より15%増加した。

図7.各コモディティの探鉱予算増減額(2020/2019比)
出典:S&P Global Market Intelligence(2021年1月5日時点)
業界は引き続き低リスクの探鉱に注力
S&P社の調査から、業界がここ2~3年、初期段階のアセットにおける探鉱から後期およびマインサイトのアセットに重点を移してきたことが明らかとなっている。この傾向は景気後退期に一層鮮明になる。ジュニア企業がリスクの高い初期探鉱よりも、実績のあるアセットに希少な資金を費やす傾向がある一方、メジャー企業は自社の既存鉱山の価値最大化に注力するためである。この傾向は2020年も続き、マインサイトの探鉱はコロナによる不確実性にも拘わらず147mUS$と、前年からわずか4%減にとどまった8。マインサイトの探鉱が世界予算の41%を占めて2年連続で最大となる一方、グラスルーツとレイトステージの予算は2019年からそれぞれ19%および10%減少した。探鉱業者は引き続きリスクを避け、より有望な後期プロジェクトや既存鉱山の探鉱を優先する一方、2020年はグラスルーツの大規模プログラムの実施も、集中したマインサイトの探鉱に比べはるかに難化した。
ここ数年、このグラスルーツ探鉱離れの動きは、初期段階の探鉱において確認された鉱床報告数の減少に反映されている。2020年の同鉱床数は52件にとどまった。これはグラスルーツが探鉱予算の約3分の1を占めた2012年に10年ぶりの高水準となった175件の新規鉱床数に遠く及ばない。これに加え、2016~2020年の初期段階の探鉱において確認された鉱床数は平均65件/年であり、2011~2015年平均の91件/年の3分の2強にとどまっている。金と銅の新規大規模鉱床発見率も、ここ10年は2001~2010年の10年間に比べ大きく低下している。
業界関係者や政策立案者は、グラスルーツ探鉱の不足が将来の生産にマイナスに働くと警鐘を鳴らしており、一部の国はインセンティブ制度を通じてこの問題に積極的に取り組んでいる。その効果はまだ現在の生産水準に現れていないようだが、プロジェクトのパイプが細り金属価格が上がるにつれ、探鉱業者と生産者は今後数年間、グラスルーツ・プロジェクトで再び新規鉱床発見に注力するよう強いられる可能性がある9 10 11 12。この変化が具現化するまでは、現在の後期およびマインサイトの探鉱への注力が中期的に続くとみられる。

図8.金、銅、亜鉛、ニッケルにおける大規模鉱床の発見数および探鉱予算推移
出典:S&P Global Market Intelligence(2021年1月5日時点)
世界全域で探鉱予算が減少
2020年の探鉱予算は世界全域で減少した。減少額が最も大きかったのは中南米で、21%にあたる556mUS$の減少だったが、米国およびカナダ(豪州、関連国・地域を含む)ではいずれも同程度のわずか1.5%減で、コロナ関連のロックダウン下でもある程度の抵抗力を見せた。金の探鉱は中南米、アフリカ、豪州で減ったが、カナダと米国、そして「その他世界」(本機関の定義で、欧州とアジア大陸部の大半)では大幅増であった。銅の探鉱予算は微増だった「その他世界」を除く全域で減少した。
中南米は世界予算の25%近くを占めたが、このシェアはピークだった2017年のシェア30%から大きく低下13した。チリにおける銅の予算は依然として世界最多だが、対前年比30%減にあたる196mUS$減となった。メキシコはわずか2%減にとどまり中南米で2位に浮上、銅の探鉱減少で予算が3分の1以上減ったペルーを追い抜いた。
「その他世界」は対前年比3%に相当する50mUS$の減少に留まり、2019年に豪州に奪われた2位の地位を回復した。金、銀、白金族(PGM)は予算が増加し、他のコモディティ向けの減少を一部相殺した。ロシアの探鉱予算は銅向けの増加を主体に6%にあたる24mUS$増加、「その他世界」におけるシェアは31%に上昇した。中国は、20%の予算削減でシェアが2019年の27%から22%に低下したものの、2位の座を維持した。
豪州の予算は総計1.37bUS$で、対前年比10.3%にあたる0.158bUS$の減少である14。この減少幅は世界平均に近く、同国の世界予算に占めるシェアは16.5%と安定的に確保した。なお、この率は過去18年で最高値である。同国の金探鉱はわずか1%減と依然底堅かったのに対し、銅の予算は3分の1下げて91mUS$減少した。亜鉛・鉛、リチウム、コバルトなど他のコモディティの予算も減少している。WA州は6%にあたる61mUS$の減少だが、依然として最も探鉱の盛んな州であり、同国の予算全体の3分の2近い897mUS$を占めた。NT準州の予算はより大きな打撃を受け、対前年比38%にあたる72mUS$減の120mUS$であった。
カナダは対前年比19mUS$、1.5%の微減で地域4位の座を守った15。金は55mUS$、銀は13mUS$増加した。全体の足を引っ張ったのはウラン、亜鉛・鉛、コバルト、銅向けの減少である。メジャー企業がカナダの予算でシェアを対前年比11%増やす一方、ジュニアおよび中堅企業はそれぞれ対前年比6%、26%減少した。カナダの3大探鉱州、すなわちON州、QC州、BC州はいずれも予算が増加し前年の順位を確保、SK州は4位だった。トップ3州には著名な金鉱山がある一方、SK州はウランの低迷と炭酸カリウム向けの減少によって州全体の予算が減少した。

図9.世界の上位19か国の探鉱予算の変化(2020年)
出典:S&P Global Market Intelligence(2021年1月15日時点)
アフリカの全体予算は、亜鉛・鉛と銀向けを除くすべてが減少したことによって、2020年に対前年比10%減少した16。メジャー企業の予算は対前年比で金は11%、銅は26%減少した。DRコンゴの予算はアフリカでは依然最多だが、対前年比19%減少した結果、地域シェアはピークだった2018年の21%から14%に低下した。新興の金産地であるコートジボワールの予算は、金探鉱を中心に35%の急増、地域シェアがほぼ11%となり、2019年の6位から2位に躍進した。
米国は引き続き6位だが、世界予算に占めるシェアは4年連続で上昇し、2016年の7%から11%に上昇17している。米国の2020年予算は対前年比で14mUS$、1.5%の減少にとどまったが、内容は銅向けの32%の減少を金の24%増でほぼ相殺した形になる。メジャー企業は3年連続の増加から対前年比で77mUS$、13%の減少に転じた。ジュニア企業および中堅企業は、それぞれ対前年比で11%および85%増加し、メジャー企業の減少分をほぼ相殺した。主要州ではNV州、AK州、ID州が予算を増やす一方、AZ州は対前年比93mUS$減となった。NV州は38mUS$増加した結果、米国の予算シェアは2019年の34%から39%に上昇した。
太平洋・東南アジア地域の予算は2019年に異例の増加となった後、2020年は2013年から続く減少基調に再び戻った。全体の予算は前年比でわずか271mUS$と2005年以来の低さとなり、世界全体に占めるシェアも3%に落ち込んだ。同地域の予算は対前年比50mUS$、16%減少した。メジャー企業が対前年比で36%も減少し、その減少分は中堅企業の16%増では到底相殺しきれなかった。2019年における増加の主体だった銅は、2020年には探鉱業者が予算を52mUS$、44%減らし、2020年の地域全体の減少の主因となった。他方、金の予算は3年連続で増え、日本、インドネシア、PNGが増加に貢献した。
掘削は速やかに回復
探鉱と資金調達は2020年上半期にコロナの流行によって低迷したが、同年下半期にはコロナの不確実性が薄れるとともに回復に向かった18。探鉱の実績は2020年第2四半期に落ち込んだが、その後大きく回復し、年間では1,098件のプロジェクトで41,026件のボーリングが行われ、2019年の実績(プロジェクト:1,093件、ボーリング:38,958件)から、それぞれ0.5%および5.3%増加した。
2020年初はコロナのパンデミックによる計画の遅れもなく、金価格の上昇を追い風にボーリング件数は多かった。潮目が変わったのは、世界各地のロックダウンにより掘削が休止に追い込まれた2020年第2四半期であった。それでも資金調達は、金を中心とする金属価格の上昇で大きく増加した。
ボーリング件数は各社が操業手順にコロナ感染対策を施した後、2020年第3四半期の後半に増え始め、以降は小規模企業と中堅企業の資金調達増とともに高水準で推移した。2020年の資金調達件数は前年から2倍以上増えた一方、ボーリングの件数は微増に留まった。通常、資金調達の完了から実際にそれを支出するまでには時間を要するため、2021年の探鉱件数はさらに増えるとみられるが、パンデミックが引き続きリスク要因になると考えられる。
2020年に探鉱件数が最も多かったのは前年に引き続き金で、世界のボーリング件数に占めるシェアは2019年の69%から78%に上昇した。このシェアは過去最高となり、英国のBREXIT国民投票と米大統領選を巡って金価格が急騰した2016年の76%を上回った。また、金のプロジェクトは2019年の645件から757件に17%増加、ボーリング件数も対前年比19%にあたる5,246件と増加した。
金の探鉱において増加したのは、主にレイトステージとマインサイトのプロジェクトである。プロジェクトが進むにつれ埋蔵量を見極めるためのボーリング件数は増えるが、初期段階のプロジェクトでは鉱脈を発見するため、広範囲にて少数のボーリングを行う。したがってコロナ禍でボーリング件数が増えたことは、企業が大規模で初期段階のプロジェクトよりも、レイトステージやマインサイトを対象とするボーリングに注力したことを意味する。これはまた、探鉱業者が金価格上昇に乗じて後期プロジェクトに集中したことも反映している。金のプロジェクト数は、グラスルーツが前年の299件から340件、レイトステージ/フィージビリティは227件から279件、マインサイトは119件から138件と、いずれも増加している。

図10.世界のボーリング実施動向(2013~20年)
出典:S&P Global Market Intelligence(2021年1月16日時点)
ベースメタル、レアメタル、銀、PGM等その他コモディティのボーリングは2018年から減少が続き、件数で対前年比26%減、プロジェクト数で24%減少したと報告されている。2020年にボーリング件数を報告したプロジェクトは、コバルトおよびモリブデンが対前年比80%減、レアメタルは同46%減、鉛・亜鉛は同37%減、銅は同10%減となった。他方、PGMと銀のプロジェクトはそれぞれ同120%、17%増加した。
ボーリング実績(推定カットオフ品位を満たすもの)のあったプロジェクト数は前年から3%増加した。金が22%増と主導する一方、他のコモディティは26%減少した。全金属の初期段階のボーリング実績は前年から6%減り、レイトステージとマインサイトの探鉱はそれぞれ4%、196%増加した。グラスルーツ・プロジェクトが減少し、レイトステージおよび隣接地のプロジェクトが増加するこの傾向は、先述のCES 2020年予算に見合う動きである。
ボーリング活動は、地域により差がある。報告された世界のプロジェクト数は、豪州が39件増えたことを主因に前年からわずかに増加したが、豪州以外は軒並み減少した。2020年のプロジェクトは、前年と同じく大半を占めた豪州が353件で、292件に終わった2位のカナダとの差を広げた。対前年比では豪州が12%増の一方、カナダは2%減だった。ボーリング総件数では豪州が大きく水をあけ、16,482件と20%増えたのに対し、2位のカナダは16%減の6,562件に留まった。

図11.金、ベースメタル、その他金属のボーリング結果および資金調達額の推移(2010~2020年)
出典:S&P Global Market Intelligence(2021年2月5日時点)
出典
- CES 2020 — Exploration budgets pushed down 11% YOY by COVID-19 restrictions, S&P Global Market Intelligence, Sept. 30, 2020
- IM February 2021 — Lithium and copper keep financings above $1.50B in January, S&P Global Market Intelligence, Feb. 11, 2021
- Global Economic Outlook: Limping Into A Brighter 2021, S&P Global Economics, Dec. 3, 2020
- CES 2020 — Growth-focused intermediates lift gold exploration in 2020, S&P Global Market Intelligence, Oct. 23, 2020
- CES 2020 — Copper exploration budget falls 24% YOY, weighing down global budget, S&P Global Market Intelligence, Oct. 15, 2020
- CES 2020 — COVID-19 complications push zinc budgets down 21% YOY, S&P Global Market Intelligence, Oct. 27, 2020
- CES 2020 — Nickel exploration resilient with 5% budget decline YOY, S&P Global Market Intelligence, Oct. 21, 2020
- CES 2020 — Grassroots share of exploration budget falls to all-time low, S&P Global Market Intelligence, Nov. 23, 2020
- Lack of major nickel discoveries could impact battery-grade nickel supply, S&P Global Market Intelligence, June. 8, 2020
- Gold RRS 2020 — A decade of underperformance for gold discoveries, S&P Global Market Intelligence, May 5, 2020
- Major copper deposit discovery rate remains dismal, S&P Global Market Intelligence, June 15, 2020
- CES 2020 — COVID-19 lowers Latin America budget by 21% YOY, S&P Global Market Intelligence, Oct. 27, 2020
- CES 2020 — Australia budget down 10% YOY, junior share hits record low, S&P Global Market Intelligence, Nov. 9, 2020
- CES 2020 — Higher gold budget fails to sustain Canada budget YOY, S&P Global Market Intelligence, Nov. 5, 2020
- CES 2020 — Africa budgets fall again YOY, by 10%, S&P Global Market Intelligence, Nov. 16, 2020
- CES 2020 — US exploration resilient despite COVID-19, declines just 1.5% YOY, S&P Global Market Intelligence, Nov. 18, 2020
- IM January 2021 — Drilling wraps up 2020 with a strong finish in December, S&P Global Market Intelligence, Jan. 11, 2021
特に明記しない限り、すべてのデータは2021年2月26日現在のものです。
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S&P Global Market Intelligenceは財務データ、業界データ、リサーチ、ニュースをとりまとめ、パフォーマンス・トラッキング、アルファの生成、投資アイデアの発掘、競争・業界ダイナミクスの理解、パフォーマンス評価、リスクの評価に役立つツールを提供します。また、S&P社の金属・採掘ソリューションは、世界探鉱予算、埋蔵量置換分析、世界の採掘用地、プロジェクト、企業、鉱山に関する詳細な資産レベルの測定基準を網羅した情報源を提供します。世界の探鉱、開発、生産から探鉱コスト分析まで、S&P社の中立的な調査は確信を持って行動いただくための洞察力に富んだ視点となります。十分に情報を吟味した上での探鉱投資の意思決定の一助として、買収、コモディティ市場予測、信用リスク評価に欠かせない貴重な洞察を是非ご利用ください。
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