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報告書&レポート

2023年8月17日 金属企画部 調査課 千葉樹
23-17

レアアース供給源多角化の進展状況

<金属企画部調査課 千葉樹 報告>

はじめに

本稿では、世界におけるレアアース(希土類)サプライチェーンの現状とこれまでの軽希土類元素(LREE)供給源の多角化状況や中重希土類元素(MHREE)供給の寡占状況を概説した上で、現在各国において計画、進行中である“ノンチャイナ”のレアアース供給プロジェクトとその進展状況について、2022年10月に米TX州Las Vegasで開催された第18回国際レアアース会議(18th International Rare Earths Conference)での各企業や公共企業体(以下、企業等)による発表内容、および、最新の企業等公表情報、各種報道情報を基に紹介する。

なお、本稿での表記については、レアアース元素はREE、レアアース酸化物はREOとし、各レアアース元素は元素記号での表記とする。また、荒川(1984)1および西村(1985)2に倣い、軽希土類元素(原子番号57~60のランタン(La)~ネオジム(Nd)の4元素)はLREE、中重希土類元素(原子番号62~71のサマリウム(Sm)~ルテチウム(Lu)、および39のイットリウム(Y)の12元素)はMHREEと記載することとする。

1.REEサプライチェーンの現状

2022年の世界におけるREE鉱石の生産シェアは、図1に示すように、中国が2021年比12%増の70%で第1位、続いて、米国が前年同様の14%で第2位、豪州が同比2%減の6%で第3位と続く状況であった3。世界中が鉱石生産の9割以上を中国に依存していた(尖閣事件に端を発する)REEショックの終盤の2012年当時と比較すると、供給源の多角化は進展してきたと言えるものの、未だその7割を占める中国の影響力は大きいと言わざるを得ない。希土産業上流の鉱山採掘のみならず、中~下流の混合希土精製・希土分離工程でより高い寡占率となっているREE中国依存の現状を変えるため、また、“Energy Transition”に伴う大幅な需要増とサプライチェーンの強靭化に対応するため、近年、米国、EU等は重要鉱物資源に関する自国または域内での鉱山開発や処理、二次資源からの供給等への投融資を促進する方針を打ち出し、各国のREE関連企業はこぞって新たな鉱山開発や混合希土精製・希土分離施設の新規建設、拡張計画を発表している。

 図1.REE鉱石生産量の推移と中国の占有率

図1.REE鉱石生産量の推移と中国の占有率

出典:USGS, Mineral Commodity SummariesよりJOGMEC作成

2.LREE供給源の多角化とMHREE供給の寡占

REEについて資源セキュリティが叫ばれるようになったきっかけは、2010年の尖閣諸島問題に端を発した中国政府による事実上のREE全面輸出禁止(中国商務部の公式発表は「通関手続きの遅滞」)、および、それに伴うREE価格の高騰、所謂“REEショック”である。REEショック以降、脱中国依存の高まりから米国や豪州など西側諸国での鉱石生産が徐々に増加、2011年に91%以上であった中国の占有率は、2021年には約60%まで低下している。一方で、ミャンマーでの鉱石生産増に関しては、そのほとんどが中国系企業による開発であるとされ4、生産品の大部分が中国へ輸出されている点から、中国における供給源の多角化の進展と言えるだろう。ここで注目しなければならないのは、米国・豪州などの西側諸国でREE鉱石を生産している鉱山は鉱石中の全希土類元素(以下、TREE)のうちLREEが約9割以上を占めるものが大部分である一方、TREEに占めるMHREE含有率の高い鉱床が複数発見されているイオン吸着型鉱床(以下、イオン吸着鉱)は中国南方およびミャンマーなどの特定地域でのみ生産されているという点である

イオン吸着鉱は、母岩の風化によって移動したREEが圏錯体として粘土帯に吸着濃集することにより形成された鉱床であり、母岩のLREE/MHREE比率やREE含有量が、形成された鉱床のLREE/MHREE比率やREE含有量に反映されることに加え、気候条件によっても鉱床形成が左右されるため、地域特性がより強い鉱床であると言える。また、イオン吸着鉱以外のMHREEの供給源として、ゼノタイムを含む一部のカーボナタイト型鉱床や漂砂鉱床が存在するものの、ゼノタイムはモナザイトよりも希少性の高い鉱物と言われており、これを採掘する鉱山は少ない

以上のREEを巡る状況を加味すると、中国やミャンマー以外の国々で進められている新規鉱山開発や混合希土精製・希土分離プロジェクトが立ち上がることにより、LREE供給源の多角化は今後も比較的活発に進んでいくと期待されるが、一方で、MHREE、特にジスプロシウム(Dy)、テルビウム(Tb)といった磁石向けMHREEの少数国による寡占状況を打破するためには、地域特性や希少性の高さといった困難な状況を踏まえつつ、MHREEに富む鉱床の探査・鉱山開発およびMHREEの単離を含めた分離精製プロジェクトの形成を進める必要がある。

3.REE供給における“ノンチャイナ”プロジェクトとその進展状況

中国やミャンマー以外の国々で進められているREEに関する新規鉱山開発や混合希土精製・希土分離プロジェクトについて、会議での企業各社・公共企業体発表内容および最新の企業等公表情報、各種報道情報を基にまとめ、以下に紹介する

なお、本章におけるMHREEや重希土類元素(HREE)、中希土類元素(MREE)等の記載に関しては、講演者・企業等によりそれぞれが指すREE範囲などの定義が異なる可能性があるため、講演者・企業等による記載方法をそのまま準用し、記載することとする。

(1)Lynas Rare Earths Ltd.(豪州)

Lynas社は、2023年7月現在、豪Mt.Weld鉱山と、創業10年目を迎えたLynas Malaysia(破砕、リーチング、溶媒抽出、製品仕上げ)の2か所・2か国での操業であるが、2025年には豪WA州KalgoorlieのREE処理施設、および、米TX州のHREE・LREE分離工場を加えた、4か所・3か国の操業となる予定である。Mt.Weldは2021年7月時点で、REE鉱石の埋蔵量(推定)18.9百万t、平均品位:TREO(全希土類酸化物中) 8.3%、REE鉱物資源量(推定)55.2百万t、平均品位:TREO 5.3%。今後の拡張計画は、以下表1のとおり。

表1.Lynas社の拡張計画概要
Mt. Weld 2022年現在 Mt. Weld 拡張後
精鉱生産量 NdPr 7,000t/年 NdPr 12,000t/年
処理能力 0.3百万t/年 1.3百万t/年
アパタイト鉱石処理能力 ×
尾鉱水再生収率 50% >90%
電力供給 ディーゼル ガス>再生可能エネルギーのハイブリッド

出典:同社発表資料よりJOGMEC作成

KalgoorlieのREE処理施設は2023年6月に最終段階の試運転を開始したことが報道され、同施設からの混合REE炭酸塩(以下、MREC)の最初の生産は8月に予定されているという5。また、同社は2022年6月14日に米国政府より120mUS$で受注した商業用HREE処理施設について、米TX州Gulf CoastにHREE処理施設とLREE処理施設を併設する予定で、2025年中の操業開始を目指している

Mt. Weld産のHREEについては、双日株式会社とJOGMECが共同で設立した日豪レアアース株式会社から総額200mA$相当の追加出資を行うことを2023年3月に発表しており、同出資に伴い、DyおよびTbの最大65%の日本向け供給契約をLynas社と結んでいる6

(2)MP Materials Corp.(米国)

MP Materials社はMoutain Pass鉱山及びREE処理施設を操業する米国REE生産企業で、米国におけるREEサプライチェーンを回復させることをミッションとして掲げている。2017年の操業再開後、徐々に生産量を伸ばし、2021年に42,400t(TREO、前年比110%)と過去最高の生産量を達成、世界のTREO供給の15%を占めるに至った。2022年10月時点の同社発表では、2022年後半の受注生産へ向けて、焙焼回路の再導入と製品仕上げ工程への投資を行っているとのことである。稼働すれば、6,075tのネオジム・プラセオジム(NdPr)酸化物、様々なLa、Ce製品、混合MHREE(以下、SEG)を含む20,000tの稼働体制となる見込みである。さらに、HREE分離のための技術設計を実施中であり、サードパーティ製のSEG原料についても評価を進めている

REE金属、NdFeB合金、磁石の製造に関しては、2022年4月に製造工場を着工し、磁石生産能力は最大1,000t/年(NdPr生産予定量の10%未満を消費)の予定で、合金生産能力はさらに拡張余地を残している。自動車メーカーのGMとの長期契約(非独占契約)では、2023年後半に合金、2025年には磁石の生産を開始するとしている

また、2023年2月には日本におけるREE供給の強化について、同社が生産するNdPr酸化物およびREE金属に関し、住友商事株式会社と独占販売代理店契約を締結した旨が発表されたが7、具体的な流通量や生産拠点に関する発表はまだない。

(3)Iluka Resources Ltd.(豪州)

Iluka社は2021年、ハイグレードチタン(Ti)の世界供給(2.8百万t)のうちの9%、ジルコン(ZrSiO4)の世界供給(1.2百万t)のうちの28%のシェアを獲得しており、加えて、2024年には磁石向けREO(LREE・HREE)の世界供給(72千t)のうちの8%を占めると見込んでいる。原料であるミネラルサンドの同社加工施設は豪州の南側に鉱山~精鉱精製工場まで揃っており、安全なサプライチェーンを構築していると述べている。Iluka社の1百万tの原料は、平均モナザイト含有量20%とハイグレードなREE精鉱を豊富に含み、地表の貯鉱からの供給であるため採掘インフラは不要、Ti製品の分離・加工後の残渣であるため最小限の処理で精製工場原料とすることが可能であり、HREEとLREEの両方を含むという利点がある。豪州政府から1.25bA$のノンリコースローンを受けたEneabba精製工場は、現在エンジニアリング・詳細設計中で、最大23,000t/年(TREO)の生産能力を予定し、2023年の建設開始、2025年の試運転に向けて順調にプロジェクトが進行中である。精製工場原料は、Eneabba stockpile(Nd+Pr:22%/TREO、Dy+Tb:1%/同)からの給鉱を始めとし、DyやTbといったHREEをより多く含むWimmeraプロジェクト(Nd+Pr:20%/同,Dy+Tb:3%/同)、及び、第3者からの給鉱を予定している。なお、Wimmeraプロジェクトには複数の鉱床が存在する

2023年2月、Iluka社はWimmeraプロジェクトの開発進捗状況を発表、WIM100鉱床の埋蔵量や鉱物資源量についてPFSの結果から、推定鉱石埋蔵量を180百万t(重鉱物(HM)品位:5.4%、HM含有量9.9百万t)、概測鉱物資源量を380百万t(HM品位:4.6%、HM含有量18百万t)、予測鉱物資源量を70百万t(HM品位:4.3%、HM含有量3百万t)と更新した8。また、同月、NSW州Balranaldミネラルサンドプロジェクトの最終投資決定を下したことを発表しており、2022年12月に完了したDFSに基づきCAPEXを480mA$、NPV(割引率7.3%)を400mA$、IRRを23%と試算している。同プロジェクトでは、9.5年間のマインライフ中にルチルやジルコンの他、REE精鉱4千t/年を生産する予定で、建設に18か月間、2025年上半期には初生産を予定している9

(4)NioCorp Developments Ltd.(米国)

NioCorp社のElk Creekプロジェクトは、Nb、Sc、Tiを生産する重要鉱物プロジェクトであるが、会議では、「今後、既存製品群に加えて磁石向けREOを製造する可能性について、技術的・経済的分析を行っており、技術評価により、鉱石から分離した高純度のREOが経済的に製造可能であると判断されれば、最新のFSを通じて、今後数か月のうちに具体的な内容を発表したい。」としていた。2023年2月6日付けプレスリリースによると、加QC州にある実証規模の加工施設で、高純度の混合レアアース精鉱の生産に成功、同社が米NE州で保有するElk Creek Nb・Sc・Tiプロジェクトで採掘された鉱石から高純度の磁性REOを分離し、Pr酸化物、Nd酸化物、Tb酸化物、Dy酸化物等を生成、これら4種の全体回収率は92%となり、磁性REOの商業純度規格を満たすと判断したとのことである10。Elk Creek鉱床に賦存する重要鉱物の概要は、以下表のとおり。

表2.Elk Creek鉱床に賦存する重要鉱物の概要
重要鉱物 磁石向けREE
FeNb Sc酸化物 TiO2 NdPr酸化物 Dy酸化物 Tb酸化物
970,300t 11,337t 4,221,000t 125,800t 9,100t 2,300t
米国内
生産無し×
米国内
生産無し×
米国の
輸入依存高△
米国内
生産無し×
米国内
生産無し×
米国内
生産無し×
北米で開発中の最高グレードのプロジェクト 北米最大の生産計画 副産物としての生産 米国で第2位のNdPr概測鉱物資源量(Indicated) 米国で第2位のDy概測鉱物資源量(Indicated) 米国最大のTb概測鉱物資源量
(Indicated)

出典:同社発表資料よりJOGMEC作成

需要面については、北米と欧州が2035年までに自動車を完全電動化した場合(そのうちの5割がREE永久磁石のトラクションモーターを使用すると仮定すると)、現在の世界のDyとTb酸化物の生産量を100%消費することになり、アジアが完全に電動化した場合も同じ量が必要となると分析、一方で、HREEの世界生産量は微増にとどまり、ミャンマーにおける将来の採掘も不透明であるとした。市場の現実から導き出された結果として、①欧米において出来るだけ早くREEとHREEの生産量を増やす必要があること、②多様な生産者からのより一層の供給により、REE消費者にとってのサプライチェーンリスクの軽減がもたらされること、③カントリーリスクはますます重要な要素となってくること、④環境に配慮した革新的な生産をしなければならないこと、の4点を意識していると述べた。

(5)Defense Metals Corp.(カナダ)

Defense Metals社は、加BC州に位置するWicheeda鉱床を100%保有しており、北米市場にREEを供給すべく、プロジェクトを進めている。Wicheedaプロジェクトは、現在の世界TREO生産量の約10%に当たる25千t/年(TREO)の生産を目標とし、採掘、選鉱、破砕工程の建設を予定、分離精製工程は検討中である。NdPr長期価格を100US$/kgとした場合、投資回収期間は5年、Initial Capexは217mUS$、Operating Marginは60%を想定している。Wicheeda鉱床は、面積4,244haのOpen pitで、表層から深さ50mの範囲にHigh-grade REE帯の大部分が分布している。カットオフ品位0.5%TREOとした場合の概測鉱物資源量は約5.03百万tで、平均品位2.95%TREO、鉱石中の含有量はNd+Pr:0.41%、Dy+Tb:44ppmである。予測鉱物資源量は約2,946万tで、平均品位1.83%TREOである。プロジェクトの2022年10月以降の予定は、2022年第4四半期に湿式処理パイロットプラントを稼働、PFSを開始、2023年第1四半期にはPFSを完了、2024年にはFSを開始し、商業デモプラントを建設し稼働、2025年にはFSを完了予定としている。

(6)Saskatchewan Research Council(SRC、カナダ)

SRC社は、SK州政府の支援により、北米初の完全商業用統合型実証REE処理プラントの建設を同州において進めている。同プラントからの廃液排出はゼロで、世界で最も環境的に持続可能なREE処理プラントとなると見込んでいるとのこと。同プラントはモナザイトを原料としてREE混合塩化物を生成後、製品として、MHREEのMREC、La、CeのMREC、NdPr(Di)の混合酸化物、Di合金等を製造予定である。溶媒抽出工程での製品生産量は、La、CeのMRECが1,900t以下/年(REO換算:CeO2:600t以下/年、La2O3:300t以下/年)、DiのMREC(金属溶融用原料)が725t以下/年(REO換算:Di金属:300t以下/年)、MHREEのMRECが450t以下/年(REO換算:MREE酸化物:75t以下/年、HREE酸化物(Y含む):125t以下/年(うち、Tb:5t/年、Dy:20t/年))である

同プラントは80%の稼働率で3,000t/年のモナザイト精鉱を必要としており、直近では加SK州に拠点を持つ米TAM International Inc.(子会社のTAM International LPの意か。)の手配により、ブラジルから最大900t/年の精鉱を調達した。引き続き、SRC社はモナザイトの追加調達を進めており、3~5年の引取契約を協議中である。処理プラントは2024年第3四半期から稼働開始を予定している。

(7)Solvay S.A.(フランス)

Solvay社はREEバリューチェーンの中で、触媒、ガラスやセラミクス向け添加剤、研磨剤等の重要原材料のサプライヤーであり、現在、磁石市場への参入を目指している。SolvayのLa Rochelleは、1948年から操業を開始している中国外で唯一の商業規模のHREE分離施設であり、硝酸を用いた希土分離工程では、1,500段以上のミキサーセトラー(Mixer-settler)を設置し、溶媒抽出を行っているとのことである

同社の分析では、磁石向けREE酸化物の需給を予測すると、NdPrの需要は電気自動車(EV)向けの駆動モーターと小型モーターが大きく牽引し、最も楽観的なシナリオでも2025年には供給が困難になるとみているという。そこで、保有する分離施設を活用し、2024年下半期までに、現在のCe, La優先かつ“Nd、Pr captive use only”な体制から、Nd、Pr、Dy、Tb生産主導の操業への転換予定であり、原料は多様性と柔軟性を重視し、プライマリー原料や“legacy”原料(これまでの操業で発生したREE残渣の意か。)およびリサイクル原料を使用予定であるとしている。プライマリー原料の供給元について、豪Hastings Technology Metals Ltd.社からのMREC供給に関する契約11は最初の情報開示対象の契約であり、その他にも予定しているとのことである。蛍光ランプからのREEリサイクルについては2012年に15m€を投じて全工程での技術目標を達成したが、白熱球がLEDへ変わったことでリサイクルの流れが途絶え、一次供給源がリサイクル品よりも再び安価になったことでプロジェクトは中止となったとしている。

(8)Pensana Plc.(英国)

Pensana社は、2022年7月に英Humber FreeportのSaltend Chemicals Parkにおいて世界初のREE加工ハブ(以下、Saltend REE加工ハブ)を着工した。Saltend REE加工ハブは、世界需要の最大5%に相当する4,500tのNdPr酸化物を含む12,500tのREOを生産する施設で、ここ10年で最初に設立された主要なREE分離施設の1つであり、自由貿易港に設立される最初の施設でもある。同ハブの原料は、アンゴラのLongonjo NdPrプロジェクト(Pensana社100%保有)の他、南米、欧州から供給予定とのことである。製品のオフテイクに関しては、当初は東アジアの大手磁石メーカーとの戦略的提携に伴うREE酸化物年間生産量の25%オフテイクを予定しているほか、後に英国、米国、欧州の主要風力タービンメーカーや自動車メーカーとのオフテイクを協議中としている

Longonjoは、世界最大級の未開発レアアース鉱床(カーボナタイト型鉱床)で、当初のマインライフは20年(確認埋蔵量13.3百万t@0.67%:NdPrO、推定可採埋蔵量16.8百万t@0.46%:NdPrOの合計30.1百万t)、太陽光発電、水力発電、約70%の試薬リサイクルを特徴とするクリーンな鉱山設計となっている。表層付近での鉱石採掘、1.6百万t/時の溶鉱炉、焼成および沈殿回路により混合REE硫酸塩40千t/時が生産され、Saltendへ向けて輸出される予定である。

(9)Vietnam Rare Earth Company Ltd.(VTRE、ベトナム)

USGSによると12、ベトナムは中国に次ぐレアアース埋蔵量を持つ国であり、大部分の鉱床がベトナム北西部に位置している。軽希土に富む主な鉱床(鉱山)はNam XeやDong Pao、重希土に富む主な鉱床はBen DenやYen Phuがあり、カンファレンスではVTREより以下の各鉱床について紹介がなされた。

  1. LREE鉱山:Dong Pao(主産物:バストネサイト)
     Lau Chau省Tam Duong郡にあるDong Pao鉱山は世界最大級のREE鉱山で、総面積11km2以上、5百万t以上のREO埋蔵量で、露天掘りでの地上採掘、山元での鉱物処理、水力製錬の一連の作業により、将来的には1.088百万tの鉱石を処理する予定である。鉱石中のTREO含有率は15%、TREO中のREE構成比はLa:38%、Ce:46%、Pr:4%、Nd:10%である。
  2. LREE鉱床:Nam Xe(主産物:モナザイト)
     Lau Chau省Phong Tho郡にあるNam Xe鉱床は、東西の断層に分断され、Nam Xe川渓谷の両岸に位置している。総面積は360haで、1.5百万t(REO)の鉱床規模である。鉱石中のTREO含有率は6%、TREO中のREE構成比はLa:34%、Ce:41%、Pr:6%、Nd:16%である。
  3. HREE鉱山:Yen Phu(主産物:ゼノタイム)
     ベトナム北部はHREEに富む鉱床が多く、これらの産物がベトナムでREE採掘と加工に利用される主要鉱石となっている。Yen Bai省に位置するYen Phu鉱山は、鉱床面積は0.7km2以上、埋蔵量は約3千t(REO)で、生産能力はHREE酸化物(以下、HREO)で2千t/年を予定している。鉱石中のTREO含有率は1%、TREO中のREE構成比はLa:9%、Ce:19%、Pr:4.5%、Nd:20%、Tb:0.8%、Dy:4.5%、Y:25%である。
  4. HREE鉱床:Ben Den(鉱床タイプ:イオン吸着粘土)
     Lao Cai省に位置するBen Den鉱床は、鉱床面積約25km2のイオン吸着粘土(イオン吸着鉱)で、約15千t(REO)の埋蔵量である。粘土中のTREO含有率は93%、TREO中のREE構成比はLa:41%、Ce:<1%、Pr:7%、Nd:21%、Tb:0.7%、Dy:3.5%、Y:19%である。

VTREは現在、LREEとHREEの鉱石(硬岩系)からREEシュウ酸塩と炭酸塩を製造しているが、今後の計画では、イオン吸着粘土の採掘を持続的に開発・拡大することを目指しており、複数の原料に対応可能な処理施設をLao Chai県に計画している。承認取得後の開発期間はわずか半年、同業他社に比べ低い資本コストと開発コストでの開発が可能であるとのことである。分離工程について、既存のLREE分離ラインはREO 3,000t/年の能力を持っているが、2018年にHREE分離の新ラインを設置、今後、HREOの生産能力は2,000t/年に達する見込みで、最終製品は、純度4N~5NのLREEおよびHREE酸化物を予定している。また、将来的には、LREE分離ラインは酸化物4,000t/年、HREE分離ラインは3,000t/年まで能力を拡張する予定としている。REE炭酸塩とシュウ酸塩から磁石向けREE酸化物(NdPr酸化物、Dy酸化物、Tb酸化物)を分離する受託プロセスについては、オフテイク契約と投資を呼び込む段階であると述べている

なお、2023年5月1日、豪Australian Strategic Materials Ltd.(ASM)社は同社の韓国金属工場(KMP)の原料として使用するREE酸化物をVTREから購入する拘束力のある契約を締結したことを発表しており、2023年内に100tの製品が納入される予定となっている。

おわりに

令和4年度にJOGMECが一般財団法人 日本エネルギー経済研究所に委託し実施した「令和4年度カーボンニュートラル実現に向けた鉱物資源需給調査」における技術進展シナリオ(ATS)では、“Energy Transition”技術の導入により、2050年の世界のNd需要は2022年と比較して4倍以上、Dy需要は10倍に増加するとした。これは、あくまでも長期予測のひとつであるが、磁石向けREEは長期的には、需要の増大が見込まれている。また、ノンチャイナ原料を追求する動きも顕著であり、各国企業から新規の鉱山開発・分離精製プロジェクトが発表されている訳である。一方で、2023年2月以降の磁石向けREE価格は、足元の磁石需要の低迷とREE原料の安定した供給とのバランスにより下落傾向となり、足元では2020年末以来の安値で推移している。さらに、近年のエネルギー価格の高騰、物価高による設備コスト増も相まって、一部プロジェクトの進捗に影響が出始めている13

各企業が収益性を確保しつつ、将来的な磁石需要の増大に備えるためには、どうするべきか。特に西側諸国の鉱山で希少性の高いMHREEの探鉱、開発を目指すのか、ESG(環境・社会・ガバナンス)や資源セキュリティ―の観点から磁石リサイクルからの二次原料活用を目指すのか、はたまたLa、セリウム(Ce)、Y等の新規用途開発を支援することで磁石向けREEと同時に大量に採掘される磁石用途外のREEの有効利用を進めるのか。まさに今、各企業の今後の戦略と手腕が問われる時期に来ている。


  1. 荒川鐵太郎(1984)希土類について、日本鉱業会誌 特殊金属小特集
  2. 西村新一(1985)希土類 Rare Earth Products、エネルギー・資源Vol.6 No.5
  3. USGS, Mineral Commodity Summaries 2023, p.143
  4. gloval witness (2022) HEAVY RARE EARTHS SUPPLY CHAIN RISKS
  5. Reuters, 2023/06/19, UPDATE 1-Rare-earths producer Lynas’ Kalgoorlie facility faces labour shortages(https://jp.reuters.com/article/lynas-rare-kalgoorlie-idINL4N38B063
  6. JOGMEC, 2023/03/07, レアアース(重希土)の日本向け供給確保~豪州ライナス社への追加出資~(https://www.jogmec.go.jp/news/release/news_10_00093.html
  7. MP Materials, 2023/02/21, MP Materials and Sumitomo Corporation Strengthen Rare Earth Supply in Japan(https://mpmaterials.com/articles/mp-materials-and-sumitomo-corporation-strengthen-rare-earth-supply-in-japan/
  8. Iluka, 2023/02/22, REVISED ANNOUNCEMENT(https://iluka.com/investors-media/asx-releases/
  9. JOGMECニュース・フラッシュ:Iluka社、NSW州Balranaldミネラルサンドプロジェクトに最終投資決定、2025年上半期に初生産の予定
  10. JOGMECニュース・フラッシュ:米NioCorp社、QC州の実証施設で高純度レアアースの回収率を実証
  11. JOGMECニュース・フラッシュ:Solvay社、Hastings Technology Metals社と混合レアアース炭酸塩供給に関するMOUを締結
  12. USGS, Mineral Commodity Summaries 2023, p.143
  13. JOGMECニュース・フラッシュ:豪Vital Metals社、SK州レアアース抽出施設の建設作業を全て一時停止することを発表

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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